蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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一週間で書き上がった……だと?
とは言ってもまぁ終盤も終盤なので、勢いが乗ってるってこともありますが。。。

今回は広登→芹視点です。
というか、今回の主役はほぼ広登です。





穹の蒼 -Ⅲ-

修哉の身に何が起こったのか、止めを刺す好機を前に、いきなり動きを止めてしまったマークツヴァイの姿を見て、それはすぐに理解できた。

元々、アイツはもうファフナーに乗れるような体じゃなかったはずだ。

それを同化促進剤を飲んで、体を騙し、病気を騙すことで無理やり乗っているにも等しい状態だった。

 

寧ろ、よく今まで保っていたと言うべきなんだろう。

マークニヒトに奇襲を始めとしたトリッキーな戦法で挑み、大きなダメージを負わせ、追い詰めるところまですら行った。

正直な話、出来過ぎもいいところなのだ。

 

アイツの何処にそんな力が残っていたのか、最早、精神力が肉体を凌駕していると言ってもいい。

修哉の体を動かし、支えているのは、紛れも無くただ一つの、『芹を守る』というシンプルな、そして強固な意志だったのだ。

 

しかして、どんなものにも限度、限界はあった。

無理やり動かしていた体が、悲鳴を上げ、修哉の意志とは関係なく崩れた。

 

果たして、左腕をもがれ、腹部には重大なダメージとなっているであろう損傷を負ったマークツヴァイが山肌に投げ出され、マークニヒトの凶手に落ちようとしていた。

 

 

「修哉ぁぁ!!」

 

 

いくら声を張って叫んだところで、時間は止まりはしないし、あのマークニヒト(怪物)が消えてなくなることもありえない。

ルガーランスの一撃によって、間違いなく修哉はとどめを刺され、いなくなってしまう。

 

ただ見ているだけしか出来ないのか。

マークフュンフにのしかかるこの柱の重みに耐え、島を守ることで精一杯な俺には何も出来ないのか。

言い様もない自身への情けなさ、そしてむざむざ修哉を失ってしまう未来とその先にあるであろう芹の涙に、心がどうにかなってしまいそうになった。

 

だからこそ、ニヒトの手にあるルガーランスが光を放つ寸前で、それを阻むために放たれた一筋の閃光が見えた時。

俺は危うくイージス装備を支える事を忘れてしまいそうになった。

 

 

「あれは……マークフィアー……甲洋先輩か!」

 

 

機体コンセプトとしては剣司先輩のマークアハトと同じ、中距離支援仕様のファフナー。

肩のマウントポイントには大型の火器、時にはシールドが装備可能であり、フィアーには大口径ビームキャノン『メデューサ』が装着されており、見るものにより一層強い重厚感を感じさせる。

 

しかし、修哉の窮地を救ったのもまたその武器だった。

メデューサの一撃を空中に逃げることによって回避したマークニヒトは、砲撃があった方向へ視線を変え、マークフィアーを視認する。

 

対して、対空火器としては申し分ない火力となるメデューサを備えているマークフィアーは、エネルギーの使いどころはここだと言わんばかりに、一直線にニヒトに向かいながら、地上からビームキャノンの砲塔を連続で吠えさせる。

一見するとビームを散発しているようにも見えてしまうが、その一発一発をマークニヒトが回避する度、ニヒトの高度が下がっていく。

あのビームキャノンによる攻撃は、空に逃げたニヒトを地上に出来るだけ近づけるための布石だったということか。

 

果たして、助走というには十分過ぎる距離を走ることで運動エネルギーを得たマークフィアーは飛行高度を下げたニヒトに向かって何の躊躇いもなく跳躍。

マークフィアーの両腕がニヒトの腰辺りを捉え、掴み取った。

 

一体何をするつもりだと、俺がそう考えると同時にマークフィアーの両手から同化結晶が発生し、ニヒトの腰を覆う。

見れば、腰だけではなくニヒトの胴、コア付近にも同様の同化結晶が生じつつあり、その大きさは秒単位で肥大していく。

 

マークニヒトを同化しようとしている?

いや、同化の詳細な定義を理解していない俺が言っても信じられないかもしれないが、同化とは少し違うような……まるでニヒトから何かを引きずり出そうとしているような。

少なくとも、俺の目には甲洋先輩の行動がそう映ったのだ。

 

 

「っ! ダメだっ!」

 

 

しかし、自身に悪影響が及ぶ行動を放置しておくほど、マークニヒトは寛大ではなかった。

加えて、両手を謎の同化現象に使っている、尚且つほぼゼロ距離にまで接近している状況では肩に装備したメデューサは役に立つはずもない。

完全な無防備、いやそうなることを覚悟した上での捨て身の行動だったということなのだろう。

 

マークニヒトのルガーランスが、フィアーを呆気無く貫く。

ランスで貫いたフィアーの機体を、マークニヒトは無造作に宙に放り投げ、ワームスフィアを連続して発生させ細切れにしていった。

ものの数秒の内にマークフィアーの機体は原型が分からないほどに破壊されてしまう。

 

が、コアが…いや甲洋先輩がワームスフィアに飲まれるほんの一瞬前。

今となっては甲洋先輩自身とも言える金色に輝く結晶体が瞬間移動したのをディスプレイ越しで目にして、俺は胸を撫で下ろした。

 

 

「野郎……!」

 

 

しかし、カノン先輩、修哉に続いて甲洋先輩までもがやられてしまったことに変わりはない。

この巨大な柱の結晶さえなければ、今すぐにでもガルム44をフルオートで、何の躊躇いもなくニヒトにばら撒いてやりたいところだった。

 

そんな俺の心の猛りを聞いてくれた……というわけでは決して無いだろうが。

甲洋先輩の捨て身を伴った、謎の同化現象によって発生した結晶体を胸に生やしたままのニヒトに、一機のファフナーが同じ空から強襲をかけた。

 

修哉のマークツヴァイの背部にマウントされているものとよく似た飛行ユニットを持つ機体。

左手の損傷がやや痛々しいが、それでも高速で飛行するその姿には、得も言われぬ執念のようなものを感じた。

 

 

『一騎くんを返して…!!』

 

 

マークジーベン。

遠見先輩の駆る、空の戦いの要となる空戦仕様のファフナーが、マインブレード片手にマークニヒトに電光石火の接近を仕掛ける。

果たして、ジーベンの右手に握られた短刀が、結晶体の発生したマークニヒトの胸部に深々と突き刺さる。

 

マークニヒト相手に接近戦、それもマインブレードというお世辞にも頼りになるとは言えない得物だが、そこにこそ遠見先輩の懸命な、一騎先輩を取り戻したいという思いが見えてくるようだった。

 

 

『っく! このっ!』

 

 

立て続けに自身を襲う苦痛から逃れるように、来主操の苦しげな声が響く。

同時に、マークニヒトが手にするルガーランスがマインブレードを突き刺し続けていたマークジーベンの右手を切り落とす。

加えて、マークニヒトの凶刃は右手だけではなく、マークジーベンの上半身を袈裟斬りにしてしまう。

 

その傷は当然、ジーベンの背部にマウントされている飛行ユニットにも致命的な損傷を与えることになり、マークジーベンは重力に従い、地に向かって落下していく。

そんなジーベンに、マークニヒトが決定的な終わりを与えるようにルガーランスを向け、刀身を開放してエネルギーを放とうとする。

 

今度こそ、もうこの島にマークニヒトの凶行を止めてくれるものはいない。

遠見先輩がやられると、俺がそう思った瞬間、マークニヒトに異変が起こる。

 

 

『ぐああああぁぁぁ!!』

 

 

来主操の叫び声と同時に、マークニヒトが光りに包まれる。

いや、光りに包まれると言うよりも、ニヒト自身こそが光源だった。

 

甲洋先輩の発生させた同化結晶と、遠見先輩の突き刺したマインブレードが刺さったニヒトの胸部。

そこを起点として、眩いばかりの光が発生し、元々発生していた同化結晶が一瞬の内に何十倍にも肥大している。

まるで、マークニヒトの中から何かが、ニヒト以外の何か別のモノが出てこようとしているように。

 

そして一際その輝きが大きくなると同時に、それは現れた。

 

 

「あれは……」

 

 

マークニヒトの中から飛び出した光、それは俺が今も受け止め続けているフェストゥムの柱の周囲を高速で旋回しつつ降下。

果たして、その光は、『マークザイン』は俺の背後に降り立った。

 

ザインはフェストゥムの柱を受け止め続け、すでにボロボロの状態になっているイージス装備にその手を置き、イージス装備に同化する。

その瞬間、今まで体を襲っていた強烈な重量感が消え失せ、それどころか押し返せる気すらした。

 

 

『うおおぉぉぉぉぉお!!』

 

 

マークザインの、戻ってきた一騎先輩の力強い声と同時に、イージス装備はフェストゥムの柱を押し返す。

瞬間的に急上昇したイージス装備の抵抗力が、柱の強度を超える。

イージス装備と接触している部分から、柱に次々とヒビが生じ、生き物のように上へ上へとそれは伸びていく。

 

果たして、空高くから島を喰らおうと伸びたフェストゥムの領域は、そのヒビの連鎖が柱の耐久値の限界を迎え、崩壊する。

 

 

「はぁ…!はぁ…っ!」

 

 

巨大な氷塊が崩れるように、フェストゥムの柱が崩壊すると同時に俺は思い出したかのように荒く呼吸を繰り返した。

助かった、そんな情けないながらも、心の底にある疑いようもない感情と共に、俺は再度目を見開く。

やはり、俺の傍に立っているファフナー、それは何処からどう見てもマークザイン。

一騎先輩の最強と言っても差し支えないザルヴァートルモデル、そしてマークニヒトの兄弟機でもあるファフナーの姿だった。

 

 

『よく頑張ったな。まだやれるか?』

 

「はい…!」

 

『よし、だったら…こっちは任せたぞ』

 

 

クロッシングを通して一騎先輩の声が聞こえ、仮想的ではあるが姿も見えた。

それだけで、自分が驚くほどに安堵していることに気が付く。

 

一騎先輩は優しげな、それでいて普段の姿では想像もつかないほど頼りになる力強い声でそう告げると、マークザインと再び空に舞う。

そして、推進ユニットを輝かせたと思えば、爆発的な加速を以て、マークニヒトに掴みかかる。

その速度に反応しきれなかったのか、マークニヒトは回避も迎撃も出来ず、ザインに胴を捕まれ、そのまま空を駆け登っていく。

二機の姿が見えなくなるまで、モノの数秒の出来事ではあった。

 

その光景をただ見上げるだけの俺、助かったという安心感に足から力が抜けそうになる。

 

 

「って、それどころじゃねぇって! 修哉!!」

 

 

ホッとしたまま呆けかけてしまっていた自分を殴り付けるように声を張り、マークフュンフのスラスターを稼働させ、真っ直ぐに修哉の、ボロボロになったマークツヴァイのもとに駆けつける。

 

近づくにつれて、モニター越しでは確認しきれなかったが、ツヴァイの損傷が激しいものだということをまじまじと見せ付けられる。

左腕をもがれ、腹部にはニヒトの蹴りによって生じたダメージが痛々しく残っている。

コクピットも無事ではないかもしれないと考えると、それだけで不安になる。

 

 

「おい、修哉! 返事しろって、おい!」

 

 

ボロボロのまま横たえたツヴァイの側まで近づくと、モニター越しにコクピット内の状態が映し出される。

やはり、コクピット内にまで損傷が及んでいるようで、鮮明な映像ではなかったが、修哉の姿も確認できた。

 

コクピット内は修哉のものであろう鮮血がそこかしこに散らばっており、修哉がまた吐血したことと右目の負傷が深いものであることを物語っている。

それに加え、俺の声に全く返事がないことが更に不安を上乗せしてくる。

まさかと、嫌な想像が嫌でも頭の中を過っていく。

 

 

「おい!修哉…! お前、変な冗談は……!」

 

『………っぐ……聞こえ…てるよ……少し……気絶してただけだ……』

 

「っ!……良かった……生きてたか……」

 

『……モーニング…コールが……野郎の声とはな……どうせなら、芹に……起こして…欲しかったよ……』

 

「っへ…言ってろ馬鹿野郎…」

 

 

だから、途切れ途切れではあるものの、修哉の声が帰って来た時は心底ホッとした。

しかしながら、やはりその声は苦しそうな色が滲み出ているようにしか聞こえなかった。

 

クロッシングもコクピットの損傷が原因なのかほぼ機能しておらず、こうして音声のやり取りをするのがやっとというところ。

まだこうして会話が出来たことが、生きていてくれた事を確認できたことで、一騎先輩に救われたことも相まって、俺はこれまで生きてきた中で最も大きな安堵感を覚えていた。

 

 

『あれから……なにが…どうなった?』

 

「一騎先輩が……助けてくれたんだ。マークニヒトと、今は空の上で戦ってる」

 

『そう……か……また…一騎先輩に……助けて…もらっちまったか……』

 

「お前や……甲洋先輩に遠見先輩が頑張ったから、一騎先輩は帰って来れたんだ」

 

 

俺がそう言ったのと時を同じくして、空が太陽の光とは全く異なる、エメラルドグリーンに近い色で包まれる。

マークザインとマークニヒト、二機の戦闘の余波、いやそれとも決着を表すものなのか、それは地上から伺い知ることは出来ない。

しかし、先程まで竜宮島に上陸しようとしていた大量のエウロス型フェストゥム、その尽くが進撃をやめ、空を見上げていた。

その姿は、まるで人間のように、ただ空を見上げているようにも、ザインとニヒトの戦いを見守っているようにも見えた。

 

 

「なんだ?上で……何が起きてんだよ……」

 

 

ただ何にしても、先程まであれほど激しく響いていた戦いの音が、竜宮島から消えたことだけは確かなことだった。

これを歓迎するべきなのか、まだ何か更に悪いことが起こるのではと警戒すべきなのか……。

 

ーーしかし、その答えはフェストゥムではなく、修哉の口から齎されることになる。

 

 

『なぁ……なんで……こんなに…暗いんだ? なにも……見えない……』

 

「え?」

 

『不思議……なんだけどさ……さっきまで…体中……痛かったのに……今は……全然痛くなくて……』

 

「修哉……お前……」

 

 

視界が利かないのは、右目の負傷が原因だと思った……が、少なくとも左目に異常はないはず、少なくともさっきの空からの謎の光くらいは見えていたはずだ。

それに加えて、痛みが消えたというのが、本来は歓迎すべき事のはずなのに、俺には嫌に不吉なものを連想させた。

 

まさか……五感が機能を止め始めているのではないかと、修哉の体が、生きるための機能のスイッチを、『やむを得ない事情』から次々とOFFにしているのではないかと。

 

 

『あぁ……そうだ……なぁ、広登……夏祭りの準備……どこまで……進んでだっけ…灯籠の数……確認しないとな』

 

「何言ってんだ、そんなもんとっくに終わっただろうが! お前、しっかりしろよ!」

 

『それから……姉ちゃんに……酷いこと言って……ごめんって……謝らないと……』

 

「………くそっ!! 修哉、ちょっと揺れるけど我慢しろよ!」

 

 

まるで夢でも見ているように、修哉は時系列もグチャグチャな事を言い始める。

意識は酩酊して、記憶の混濁が始まっているようだった。

 

このままでは不味い、早く島に連れて帰られなければと、俺はボロボロになったマークツヴァイの機体を起こし、修哉のコクピットブロックを強制イジェクトする。

ツヴァイの腹部とコクピットブロックが損傷していて、スムーズに排出することは出来なかったが、ややひび割れが生じた小さなコクピットをフュンフの手になんとか収める。

 

一旦アルヴィスに戻って、修哉を休ませ……いやいや、一刻も早く治療を受けさせないとヤバイ。

こんな判断に知識なんて要らない、誰の目から見てもハッキリ分かりきっていることだった。

俺は修哉の乗ったコクピットブロックを左手に、ガルム44を右手に装備し、背中のスラスターを全開にしてアルヴィスに向かう。

 

 

『芹……大丈夫かな……会いたいな……』

 

「会わせてやる! お前がヘバッたら担いででも島に連れて帰るって約束しただろ! だからお前も、もうちょっとだけでいいから根性見せろ!」

 

 

コクピットを手に持ったことで自動的に接触回線に切り替わり、修哉の声がさっきより幾分かクリアに聞こえてくる。

が、やはりその声は、その言葉が弱々しく、聞いているだけでこいつのコンディションの悪さが伝わってくる。

 

速く、速く!もっと速くだ!

スラスターが壊れてもいい、アルヴィスに着いた後なら脚が千切れてもいい。

それでもいいから、一秒でも速く、こいつを島に、芹のところに連れていけるように走れと、マークフュンフに命令する。

 

こいつは理不尽な俺の怒りを受けてなお、俺を許してくれた、俺を助けてくれた。

だからこそ、今度は俺が助けなければ、こいつを芹に会わせて、これからも生きていけるように命を繋がせなければ。

修哉はもう借りは返してもらったといったが、俺は全く以てそうは思っていない、修哉からすれば気にし過ぎだと思われるかもしれない。

 

だが……修哉に嫉妬し、怒りをぶつけたのが俺のエゴだというのなら、今の俺の行動もまたエゴだ。

だがそれでも、エゴでも何でも構わない、俺はこいつを助けたい、そして修哉の事を一途に想う芹を、俺は想っていられればそれでいい。

 

たとえ自分にその想いが向けられないと分かっていても、損な役回りだと笑われても、それが俺だ、俺の堂馬広登の確かな気持ちだ。

 

 

「(お姫様(ヒロイン)を救う英雄(ヒーロー)に、頼りになる脇役(相棒)がいたっていいだろ!)」

 

 

心の中でそう叫ぶ、嘘偽りのない自分の気持ちを。

そして、そんな自分の思いを嘘にしないためにも、修哉にも芹にも、俺にも明日が、蒼い穹の下で過ごせる明日を欲した。

その為に、そうである為に戦ってきた。

 

しかし、マークフュンフのディスプレイにポップアップした一つの通知、警告表示を目にした瞬間、俺は愕然としてスラスターを動かすことを忘れそうになった。

 

 

「…人類軍の……爆撃機……?」

 

 

その警告表示の内容は、至ってシンプルだった。

人類軍が放った核兵器、それが竜宮島と接近しつつあるフェストゥムの母船を標的として近づいてきているというものだった。

 

シンプルな内容ではある……が、それが意味するところは地獄だった。

今の竜宮島は完全な無防備、コアも成長期を乗り越えるのに必死で、核攻撃から島全体を守るだけの力はない。

爆風、いやそれだけではなく核が齎す汚染物質の影響を考えれば、着弾すれば間違いなく島は終りを迎えるだろう。

 

最後の最後で、俺達は最悪の境地に立たされた。

宇宙からの侵略者、フェストゥムではなく、同じ地球に住んでいる、同じ人間の手によって。

 

人類軍の目標も、信念も、大義も、それはそれは崇高で素晴らしい物なんだろう。

きっと、人類軍にとっては俺達を島ごと消し炭にすることだって、その崇高(クソッタレ)なナニかからすれば正しいことなんだろう。

それによって何かが救われる、何かが前に進むと思っているんだろう。

 

そう考えたが最後、叫ばずにはいられなかった。

 

 

「ふざけ……やがって……! 人間が……俺達が……ここにいるんだぞ!!」

 

 

俺がそう叫ぶと同時に、空が光る。

さっきのエメラルドグリーンの綺麗な光ではなく、赤い、夕焼けというには余りにも禍々しい光が。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

その光は多分、人の恐怖から生まれたものだったのだろう。

自分以外の、認められない異物を焼き尽くすために、それによってもう二度とその異物を見ないで済むように、自分たちに危害を加えられないように。

それは、その異物によって自分たちが傷つくのが怖いからという恐怖心からの防衛本能だ。

 

それは獣が怖いから火を着け、炎を生み出す原始的なそれと似ているのかもしれない。

だとするのならば、やはりそれは人間に遺伝子レベルに刻まれている業というものなのだろう。

 

その業が生み出した光が、どんどん大きくなろうとしている。

竜宮島とフェストゥムたちの島を滅ぼそうと。

 

 

『これで……本当のお別れだね、芹ちゃん』

 

『乙姫ちゃん…!』

 

 

その光の下で、私に赤ん坊、島のコアを手渡すのは、私の親友であり、島の元神様……のような存在。

島に生きる人達、動物、いや島全体をいつも慈しんで、守ってくれていた存在。

 

乙姫ちゃんは私に赤ん坊を渡すと同時に、2歩、3歩と後ずさる。

意識だけの存在となっていた乙姫ちゃんの姿は、もうすでに消えかかっている。

それにも関わらず、なおも乙姫ちゃんは深い慈愛を含んだ暖かな笑みを浮かべていて、私は思わず息を呑んだ。

 

 

『新しい島のコアを……その子を守ってあげて、修哉と……ううん、島の人達皆で。その子もきっと応えてくれるから』

 

『……うん!』

 

『目が醒めたら、すぐに修哉に会いに行ってあげて』

 

『う…ん…!』

 

『二人の未来を一緒に見れないのは残念だけど……その子が、そしてその次の子が私の代わりに見守ってくれる』

 

 

だから私は、それで十分だと、乙姫ちゃんはまた微笑む。

その表情を見て、私は我慢出来ずに泣き出してしまう、二年前よりも大きな声を上げて。

 

泣き虫だと言われても、笑われたって構わない。

そんなことでは、止めどなく溢れ出る涙を抑えることも、抑えようとする気持ちすら湧いてこない。

 

 

『私は島に還って祈ることにするね』

 

 

消えていく、乙姫ちゃんの体が、消えていく。

陽炎のように、霧が晴れるように、その存在を消して、還って行く。

 

 

『二人の……この島に住む人達の明日が、明後日が、その次の日もずっと、少しでも幸せと楽しいことで溢れているように…』

 

 

そうして、乙姫ちゃんは還った。

 

肉体を島に還し、残っていた意識を島に還して、最後の最後まで笑ったままで。

また、見送ることしか出来なかった……けれど、あの乙姫の笑顔を思い出すと、不思議と後悔の感情は浮かんでこなかった。

 

 

『乙姫ちゃん……ありがとう……』

 

 

別離の悲しみはもちろんある、けれど何より、今は乙姫ちゃんへの感謝の思いが上回っていた。

赤ん坊、島の新しいコアを抱きながら、私は小さく、けれど最大限の思いを込めて呟いた。

 

それと時を同じくして、島を覆うように広がろうとしていた、人類軍の放った光が小さくなっていくのを目の端で捉えた。

見れば赤いフェストゥム、エウロス型が竜宮島ではなく、その光に向かって進んでいく。

その光にフェストゥムが何を見出したのかは分からない……けれど、何故だろうか、その光景を美しいと感じてしまったのは。

 

 

「シュウ……」

 

 

目を閉じ、そんな思いを抱きながら、乙姫ちゃんの言葉を思い出し、私は想い人の名前を小さく呟く。

会いに行こう、そしてそこからまた新しく始めよう。

新しく始まるそれが、どんな形になるかは分からないけれど……乙姫ちゃんがそう祈ってくれているように、幸せと楽しいことで溢れているようになればいいと願いつつ。

 

そう心に願いを込めたのを最後に、私の意識は一度途切れた。

 

 

 

 





マークニヒト対フィアーの戦闘ですが、いろいろ考えましたが本編通りにしました。
フィアーのあの行動、やっぱりニヒトからザインを引きずり出そうとしてたんですかね。
少なくとも、私はそう思ってます。

お前は何度一騎を救えば気が済むんだよ、この英雄め・・・


そして復活したザインですが……
そこから先の戦闘については、特に触れるつもりはありません。
あの戦闘シーンや操とのやり取りに割り込みを掛ける内容なんて無いので。。。
あと、やっぱりザルヴァートルモデル対ザルヴァートルモデルという内容が燃えるわけですよ。
あの肉弾戦シーンは、ホント好きです。。。

さてさて、上空での戦闘は特に描写せずに進めさせて頂いて、広登にはシュウの救出をお願いしました。
が、すでに虫の息と言ってもいい状態のシュウでございます。

五感機能はほぼ死んでおり、意識も混濁状態です。
さてさて、助かるのかどうか・・・

というか……自分で書いててなんですが、私の中での広登株が高騰しています。
お前のような脇役がいてたまるか!ぶっちゃけ主人公でも通用しますわ。


広登の視点もそこそこに、芹視点。
乙姫とのお別れシーンですね。
ここ、劇場版本編では結構あっさりしてたので、少し私なりに付け加えてみました。

エグゾダスでの織姫と芹のやり取りも好きなんですが、
やっぱり乙姫がナンバーワン!



さて、次回は・・・はい、まぁあれです。
あぁ、胃が痛い。



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