蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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二週間ぶりの更新になります、先週は申し訳ないです…!!
仕事と、PCの画面の向こう側で可愛い妹達が待っているんです!(おいこら)
漸く劇場版編、最終章でございます。

第二次蒼穹作戦の戦闘開始ですね。

今回はシュウ→カノン→広登視点でございます。

あれ、考えてみるとカノン視点って初めてじゃなかろうか。。。





穹の蒼 -Ⅰ-

『私たちは平和の中に暮らすためとして戦争をする。』

アリストテレスか誰かの言葉だったような気がする。

 

時には平和を勝ち取るために、時には既存の平和を守るために、人は矛盾を孕みながらも武器を取って戦争を続けてきた。

特定のコミュニティを存続させるための資源、領土、思想や主義主張、時には一人の人間を守り、あるいは奪い、破壊することで平和を獲得してきた。

 

人の歴史は戦いの歴史でもある。

それは、敵が同じ人間ではなくなったとしても変わらない。

宇宙から来た侵略者が舞台上に上がってきたのなら、平和を享受させるコミュニティの範囲を地球という惑星単位に広げ、切り替えて対応する。

それまで殺し合っていた相手とも、表面上では手を取り合って結束することもやってのける。

自分達の生存圏を再び獲得するまで、敵を全て滅ぼし尽くすまで、平和の獲得という大義を背にして戦争を続ける。

 

最終的な目的、アプローチは違えど、戦う、戦争をしているという意味では、俺達のやっていることもその例に漏れることはないのかもしれない。

奪われたくないから、失いたくないから、その原因となるものと戦っているのだから。

ただ願わくば、この俺達の戦いが今を生きる……いや、未だこの世界に生まれもしていない人達にとって必要だったと思って貰えればとは思う

 

だからーーー

 

 

『修哉ぁ!!』

 

「あぁ!」

 

『うおぉぉぉぉお!! ゴウ…バイィィィィン!!』

 

 

海上から真っ直ぐ島の内陸部に侵攻せんと直進してくるスフィンクス型の群れ、その一角に対してマークツヴァイを駆る俺と、マークフュンフに搭乗する広登はツインドッグを組んで相対。

先頭を進んでいたスフィンクス型をイージス装備で受け止めた広登は、そのままフェストゥムを押しとどめ、その場に釘付けにする。

進行を遮られたフェストゥムはフュンフを押し退けようと尚も抵抗を続けるが、動きを止められた時点で詰んでいる。

フェストゥムの直上から、コア目掛けて放ったマークツヴァイのルガーランスによる一撃を受け、フェストゥムはあっけなくワームスフィアの球体を発生させて消滅する。

 

しかしながら、それも氷山の一角。

目の前に広がっているのは、前回の戦闘とは異なる朱色の侵略者の群れ。

前回俺達が滅した数など痛くも痒くもないとでも言いたげに、またしても数を揃えて来たのだ。

それも、普通のフェストゥムよりもはるかに高い戦闘能力と人間の兵器を模倣して攻撃してくるエウロス型がぞろぞろと群れを成している。

フェストゥムに『普通』も何もないかもしれないが、空を覆う朱色が嫌になるほど色濃く目に映ったのだ。

 

 

「数を減らす…!」

 

 

敵の数に圧倒されている暇はないし、数に臆して精神的に屈するつもりも毛頭ない。

俺はマークツヴァイのリディルを、拡張された14基を射撃・格闘モードを半数ずつに分けて展開する。

 

自身の位置、敵の位置、方向、間隔など、周囲の物体の三次元空間における状態、関係性は頭の中に明確なイメージとして一瞬で出来上がる。

そのイメージに対して、リディルの存在を割りこませ、攻撃を行う。

 

赤色の閃光、エネルギーフィールドを伴う刺突によって、一体一体確実にコアを狙い撃ち、フェストゥムを無へ帰す。

リディルの拡張による操作のもたつきや違和感は全くない。

広臣さん達の完璧過ぎる仕事に感謝の念を覚えつつ、今回の強化の恩恵に最大限にあやかることにする。

 

ちょうど、『8基では足りない』と感じていたところだったのだ。

 

 

「くらえぇぇぇ!!」

 

 

周囲の敵を粗方片付けた後、リディル14基全てを射撃モードへ移行させ、両手のルガーランスも刀身を解放し、機体からの電力供給を経てプラズマエネルギーを射出する準備を整える。

そして、全てのリディルの砲塔とルガーランス2門を以て、尚も飛来するフェストゥムをマルチロックし、一斉に砲門を解放する。

 

赤と青の閃光が空を駆け、フェストゥムを次々と撃ち抜き、空を覆う金と朱色の壁には、大きな穴を開けることに成功する。

そう、確かに穴は開いたのだ、『ほんの数秒程度』という、非常に短い時間であるところにケチを付けなければ、十分なほど大きなものが。

 

 

『くっそ……減らねぇなぁ…おい…』

 

「俺が敢えて口にしなかった事を言ってくれてありがとう」

 

『言いたくもなるだろうが……お前があそこまでやってあれだぞ?』

 

「ボヤいてても敵は減らない……それに、今回は最初から分かってたことだ!」

 

 

広登のボヤキにそんな返答を返しつつ、リディルをエネルギーを4割ほど残したまま背部のバインダーに格納、充電させる。

それと同時に、左右からマークツヴァイを挟みこむように襲い掛かってくるエウロス型を、片方はルガーランスを突き刺し、もう片方はランスの射撃で屠っていく。

 

戦闘が始まって10分程度が経過してはいるものの、広登の言う通り数は減っていない。

既に里奈や暉たちを乗せたRボートは島を離れ、海中から敵の母艦に接近しつつあるだろう。

事が動くのはもうすぐだと確信はしてはいるものの、やはりゲームの敵キャラのように無限湧きする存在の相手ほど精神的に疲れることはないだろう。

 

けれど、弱音を吐いている暇はない。

防衛ラインを維持して、遊撃部隊が事を最後まで運び、戻ってくるまで島を食わせる訳にはいかないのだ。

敵がどれだけ多かろうと、どれだけ強い敵だろうが、そんなことは瑣末なこと。

 

今は体も動く、仲間もいる、守るものも、人もハッキリしている。

そう考えるだけで、頭の中はクリアになりつつも、戦う意志は沸々と湧き出し、諦観などは心の片隅からも弾き出すことが出来た。

 

 

『俺も…負けてらんねぇ…!!二代目ゴウバインとして、恥ずかしい姿見せられないだろうがよ!!』

 

 

広登も気合を入れ直したように雄々しく吠え、マークフュンフのガルム44から銃弾を景気良く、しかし確実に敵を屠るために狙いと的を絞って放っていく。

加えて攻撃だけではなく、捌き切れない敵はイージス装備で受け止め、俺が支援攻撃を行いやすい状況を作り出してくれる。

勿論、俺もリディルの攻撃、そしてシールドを用いて広登がカバーしきれないポイントを抑えて援護する。

ついこの間までは叶わなかった広登との連携、本当の意味でのツインドッグがここにこうして、漸く実現したことに、俺は少なからず喜びを覚えていた。

 

 

「広登……ありがとう」

 

『あぁ? なんだよこんな時にいきなり?』

 

「気にするな、急にそう言いたくなったんだ」

 

『……変な奴……ま、貰える礼は素直に受け取っとくぜ』

 

 

なんとも不器用な会話だが、まぁこれも今の俺達らしいとでも言っておこう。

どんな形であれ、自分の素直な感情を受け取ってもらい、こちらもそれを受け取ることが出来る関係性というものは貴重で、尊いものだ。

一度は切れかけた繋がりも、何度でも手繰り寄せて結び直せばいい。

生きている限りは、そのための時間もチャンスも、作り出す意志さえあれば十分に用意できる。

これもまた、この数週間で俺の学んだことの一つでもあった。

 

 

『…っておい…! 修哉、あれ見ろ!』

 

「っ!」

 

 

と、やや青臭い会話を広げていた時、俺が丁度ルガーランスの一突きでまた一体エウロス型を消滅させたのとほぼ同時。

広登がややこわばった声で俺に注意を促してくる。

 

広登の示したい方向は、言われなくても理解できた。

いや、『あの存在感』に気が付かないほうがどうかしているだろう。

朱色の空の中に、まるで太陽の黒点のように一点だけ毛色の違う色が混じっていた。

 

朱色に統一された空において、濃い紫色のその機体は一際目立つと同時に、周囲との明確な差異、絶対的な隔絶を表現しているようでもあった。

 

 

「マーク……ニヒト…!」

 

『おい…あっちは遠見先輩とカノン先輩が…!』

 

「あぁ…分かってる…」

 

 

それを言葉にすると同時に、脳が焼ききれんばかりの激情が溢れ出しそうになるが、既のところでそれを抑えこむ。

ここで冷静さを失って飛び出していったところで、アイツにたどり着けるかもわからない上に、折角組んだ広登とのツインドッグを全く生かせない。

 

マークニヒトが進む方向を静かに確認しつつ、落ち着けと、頭を強制的に冷やす。

確かに、アイツが原因で姉ちゃんがいなくなった。

けれど、俺達の最大目標は仇討ちではない、島を守ることなのだ。

 

 

「あんなのに取り付かれたら島が保たない」

 

『じゃあどうすんだよ。カノン先輩たちに任せるのか?』

 

「……いや、こっちの防衛ラインが少し下がるのを覚悟の上で、援護に向かう。記録でしか見たこと無いけど、あの機体は二年前も複数機のファフナーを圧倒していた、足りるかは分からないけど…数が要る」

 

『よし…!そうと決まりゃあ、さっさと行こうぜ!』

 

「あぁ…!」

 

 

言った通り、マークニヒトの戦闘力は映像、しかも二年前のモノでしか俺達は知らない。

今のマークニヒトは姿形もかなり変わって……いや、全くの別物になっており、潜在的なスペックもどうなっているのかも正直なところ全く分からない。

 

それを考えると、先輩たちに投げっぱなしにするのは選択肢としては取りたくはない。

もちろん、俺達二人が援護したからといって、確実になんとかなる保証などありはしないが。

 

こんな時、戦況を全て把握しつつ戦術・戦略という論理性を以て、的確な指示をしてくれる人が欲しいと思う。

今は少し、島を留守にしている『もう一人の先輩』のような人が。

そんな無い物ねだりをしながらも、広登の駆るマークフュンフの直上を飛行しつつ、道中に襲いかかってっくるフェストゥムを撃ち落としながら先輩たちの元に向かう。

 

ーー頭の片隅に、姉ちゃんの姿が映った……そんな気がした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

悪魔のような、魔王のような風体、風格、雰囲気を纏ったファフナー……いや、あれを私達の乗っているファフナーと同じものと認識していいのか悩むところではあるが、マークニヒトの存在は脅威以外の何物でもなかった。

 

無論、侍らせているエウロス型もまた脅威だが、ニヒトに比べればまだまだ可愛く見えてしまうのは、私、羽佐間カノンの感覚が麻痺し始めているのだろうか。

しかしながら、そんな異常性を撒き散らすマークニヒトに、明らかな変化が現れ始めていた。

 

 

「っく……これは…!」

 

 

何かに苦しむように、その苦しみをどんな形でも構わない、自分の内から追い出したい。

そんな搭乗者の心象を表現するかのように、広範囲にワームスフィアを発生させるマークニヒト。

 

その攻撃は狙いも何もなく、敵味方の区別もなく、まるで天災のように無差別に地表を抉り、削り取っていく。

その攻撃によって、地上付近にいたエウロス型、マークニヒトにとっては味方であるはずの存在が次々と葬り去られていく。

苦しげに、しかし無差別に攻撃をまき散らすマークニヒトの姿は、さながら狂乱する暴君のようでもあった。

 

マークニヒトに何が起こったのか……もしかすると、剣司や咲良達、遊撃部隊の奇襲が何かしらの影響を与えているというのか。

 

そのワームスフィアの嵐の中を、紙一重で躱しながら前進するマークドライツェン、母さんが私のために開発してくれた私だけのファフナー。

修哉のマークツヴァイが使っている、二刀流でも取り回しが利きやすいタイプのルガーランスよりも一回り刀身の長いものを得物に、マークニヒトに肉薄する。

正に電光石火…と自分で言うつもりはないが、私は間合いに入れたマークニヒトの胴体にルガーランスの切っ先を突き立てる。

 

 

「くらえ…!!」

 

 

突き刺さったルガーランスの刀身が開き、ファフナーのコアから供給されるエネルギーがプラズマとなってランス内に蓄積されていく。

蓄積された強烈な光を流し込まれれば、マークニヒトと言えどもただでは済まないだろう。

 

変性意識による変化も相乗し、やや低く、しかし力強い声と共にランスから光の奔流を解き放とうとする。

しかし、ルガーランスのエネルギーがマークニヒトに届くことはなかった。

 

マークニヒトの胸部に確かに突き刺さったルガーランス、その刀身そのものを、その凶悪なまでのエネルギーゲインから生み出される膂力によってへし折られたのだ。

刀身が割れ、プラズマエネルギーが駆け抜けるはずだった理想的なラインは、この僅か数秒の内に突き崩されてしまう。

明後日の方向に放たれた光の奔流はに人を傷つけることもなく、無情にも竜宮島の大地を削るばかりだった。

 

 

「っく…!?」

 

 

ルガーランスを使用してのゼロ距離攻撃を行うため、間合いを極端に詰めることが必要だったとはいえ、近付き過ぎた。

その上、ランスをへし折られドライツェンの上体は完全にそのバランスを崩されている。

 

まずい、完全な死に体、と頭が理解するよりも早く、体が動いていた。

バランスを崩したドライツェンを屠らんと、マークニヒトが繰り出した拳を、左腕を犠牲にしてガードする。

長年兵士として生きてきた、鍛えられたからこその条件反射というものなのかは分からないが、体の記憶に助けられた形だった。

 

しかしながら、マークニヒトの一撃はただの拳だけでもあまりに重く、ガードに使ったドライツェンの左腕を安々と、枯れ木を折るかのようにへし折った。

加えて、間髪入れずに、今度は頭部をターゲットにした一撃を放つニヒト。

 

その一撃ばかりは、左腕のダメージも相まってか、目で見えていても、体も反応すら出来なかった。

 

 

「ぐあぁっ……!!」

 

 

左腕、そして頭部に響く痛み。

フィードバックされたドライツェンのダメージが、明確な痛みとなって押し寄せてくる。

自身の腕がへし折れ、頭蓋が揺れるかと思うほどの痛みに意識が飛びかける……が、辛うじてその一歩手前で踏み留まる。

 

ダメだ、ここで、こんなところで戦う力を放棄など出来ない。

故郷が焼かれるのは、無くなってしまうところなど、もう二度と見たくない。

漸く手に入れた『ここにいたい』と思える場所、思わせてくれる人を守りたい。

もう二度と、後悔などしたくない。

 

ダブリンをフェストゥムに焼かれ、それを見ているしか出来なかった時、目の前で道夫がいなくなった時。

そしてマークザインに搭乗することで同化現象が進行していく一騎を、ただ見ていることしか出来ない自分に絶望しそうになった時。

 

いつもいつも、もっとこうしていれば、ああしていればと、『たられば』の可能性ばかりを見ようとして、後悔してばかりだった。

だから、これからの竜宮島での生活では、後悔しないために自分に出来ることを最大限にやろうと決めたのだ。

 

 

「ぐ…っ!」

 

 

起き上がって、目を開け!。

ファフナー(自分の体)に鞭を打つ。

 

辛うじて上体が動き、視界がクリアになる……と同時に、私の目に自身に突き刺さったルガーランスの刀身を同化し、それをベースにランスを作り出しているマークニヒトの姿が飛び込んでくる。

果たして、ニヒトの腕部から生えだしてきた濃い紫色をしたルガーランスの刀身が開き、さっき私がそうしたように、プラズマエネルギーを蓄積し、掃射する。

同じ攻撃だというのに、その威力はドライツェンの放ったものよりも数段上だと見ただけで分かる。

動け、避けろ、逃げろと頭が命じるが、ドライツェンのダメージが思った以上に深いためか、それすら叶わない。

 

光が迫ってくる、私の死を決定づける光が。

 

しかし、その極大の光の前に一体のファフナーが割り込んでくる。

イージス装備を展開し、マークニヒトのエネルギーの奔流を受け止める。

その威力の高さを受け止めきれないのか、僅かに脚部を後退させながらも、確実に受け止めてやり過ごす。

 

マークフュンフ、かつて衛が乗っていた、そして今は彼の意思を継いだ後輩、広登の搭乗機がそこにあった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

結論、結果だけを言えば、俺と修哉の判断は正しいものだったと言えるのか。

今にもマークニヒトの攻撃にさらされようとしているカノン先輩を守るべく、気が付けば体が勝手に動いていた。

 

幸いにも、ルガーランスから放たれたエネルギーがカノン先輩のマークドライツェンを飲み込む前に、前に割り込んでイージス装備で受け止めることは出来た。

が、その攻撃に重さ、威力の高さから一撃を受け止める度に、マークフュンフのイージス装備が悲鳴を上げてしまいそうになる。

 

このまま攻撃を防ぎ続けることは無理だと、数発を受けたところで判断した俺は、ランスによる攻撃を連射するマークニヒトを睨みつけつつ、相棒の名前を叫ぶ。

 

 

「修哉ぁぁ!! 今だ、やれ!!」

 

 

俺の叫びと同時に、空から二筋の閃光がマークニヒトに向かって降り注ぐ。

その閃光に気が付いたマークニヒトは空中に逃れようとしたが、それでも僅かに遅かった。

 

真っ直ぐに伸びた閃光、上空から修哉のマークツヴァイが放った二振りのルガーランスから放たれたエネルギーは、マークニヒトの左腕を肩の付け根当たりを直撃し、腕をもぎ取った。

 

 

『がっ…!?』

 

 

腕をもがれた痛みを感じたのか、ニヒトに搭乗していると思われる来栖操の苦痛に歪む声が響いてくる。

腕をもがれつつも空中に退避したマークニヒト、それを逃がすまいと相対するように修哉のマークツヴァイが滞空しながら二振りのルガーランスの片方をニヒトに突き付ける。

指一本でも動かせば胴体を吹き飛ばすとでも言いたげに、ルガーランスの切っ先はニヒトに触れるか触れないかほどの距離しか開いていない。

 

 

『よう、来栖操。こうして話すのは初めてだな』

 

『っ……!なに?…君は誰?』

 

 

ルガーランスの切っ先を尚も突きつけながら、俺でも今までに聞いたことのないような低い声で来主操に話しかける修哉。

その低い声の奥底に、静かな怒気が含まれている事は誰が聞いても分かる。

 

当たり前だ。

修哉にとって、マークニヒトは家族を死なせる原因を作った、言わば仇なのだから。

こうして追い詰めている状況で、今すぐランスとリディルをすべて使ってニヒトを串刺しにしていない所を見ると、怒りの感情を抑えこみつつ冷静になろうとしている修哉の心がハッキリ分かる。

 

 

『お前が連れて行った、一騎先輩の後輩だよ』

 

『一騎の……?』

 

『あぁ、あと……お前が今乗ってるクソッタレなファフナーに姉を殺された弟だ』

 

『…っ!?』

 

 

絶好の攻撃のチャンス、敢えてそれを来主操との会話に費やす修哉。

らしくない……というか、こんな修哉は本当に見たことがない。

自分の感情よりも実利を取る修哉の性格を考えれば、とっくの昔に攻撃して戦闘を続けていることだろう。

 

来主操に恨み事の一つでも叩きつけたいのかとも思ったが、修哉は『ファフナー(マークニヒト)に姉を殺された』と言った。

来主操ではなく、あくまで姉を奪ったのはニヒトなのだと。

 

 

『どうした?随分と苦しそうじゃないか』

 

『……君達が、俺達の船を攻撃したから……その仲間の痛みや憎しみが俺に押し寄せて……!』

 

『成る程……ということは、遊撃部隊の作戦は上手く運んでいるってことか……ありがとう、これで心配事が一つ減ったよ』

 

 

淡々と来主操にそう返す修哉。

苦しげに答える来主操の言葉を信じるのであれば、確かに里奈や暉達は作戦を無事に進めているということになる。

仲間の痛みや憎しみが来主操一人に押し寄せるというのは、どういった事情なのかは想像することくらいしか出来ないが、恐らく敵側のミールがそうさせているのだろう。

和平を求めて竜宮島に来た来主操、妙に人間らしい感性を持った個体のフェストゥムと聞いているが、それ故に怒りや憎しみの感情を受け止めるのは苦痛そのものだろう。

 

 

『俺は……君達に消えて欲しくなかったから……!! だから降伏してって、一緒に戦ってって言ったのに!』

 

『なら、どうしてお前はそこにいるんだ? 何でマークニヒトに乗って俺達を攻撃している?』

 

『俺だってこんなことしたくない……! でも、ミールには逆らえない!……君達だって、神様には逆らえないだろう?』

 

『………』

 

『だから……仕方ないんだ…俺にはどうすることも……!』

 

 

修哉の静かな問いに、来栖操は対照的に感情を吐露するかのように声を荒げる。

その声の大きさと反比例して、その内容は酷く後ろ向きで、諦観に満ち溢れていて、俺は妙な既視感を覚えていた。

 

 

『そうか……神様の言うことには逆らえないか。だから、こんな事はしたくないと思っていてもどうにもできない、仕方ないと』

 

『………っ!』

 

『姉ちゃんがいなくなったのも……芹がお前たちの攻撃から島を守るために命を懸けることになってるのも……仕方のない事か、お前はミールに逆らうことが出来ないから』

 

『…………俺達にとって、ミールは絶対なんだ…!』

 

 

そして、その既視感の正体は数瞬の内に理解することが出来た。

今まさに、来主操の前にいる修哉のマークツヴァイを目にしたことで、理解できた。

 

今の来主操は、少し前の修哉に似ているのだ。

自身の体、命の限界に絶望して、何もかもやる前から諦めていた修哉。

ミールに逆らえない、命令に従うことしか出来ないことに、既に全てを諦めている来主操。

その根本にあるものは違えど、二人の姿が俺にはダブって見えた。

 

 

『そうか……成る程、それがお前の言い分ってわけか……理解はした』

 

『……分かって…くれるの?』

 

『あぁ、よく分かったよ……そしてありがとう、最低の気分だ』

 

 

瞬間、マークツヴァイの持つルガーランスが光を放ち、マークニヒトを吹き飛ばす。

ランスの中で限界にまでチャージされていたエネルギーによって、左腕を失った濃い紫色の機体が地上に向かって落下していく。

 

 

『ぐあああぁっ!?』

 

 

光りに包まれて地上に叩きつけられるマークニヒトだが、流石の化け物と言ったところか、致命的なダメージには至っていない。

マークニヒトはのっそりと立ち上がり、攻撃を加えたマークツヴァイを敵として認識し直すように、地上から睨み上げている。

 

しかし、その視線を受けつつも、修哉ののマークツヴァイは悠然とそこに在った。

後退することも、怖気づくこともなく、ニヒト(否定)の存在を否定するかのように。

 

 

『逆らえないから仕方ない? 俺達も一緒だろうって?』

 

『っく……この…!』

 

『お前らと一緒にしないでくれよ、気分が悪い』

 

『……っ!』

 

『あまり人間を舐めるな、来主操』

 

 

さっきよりも低い、ドスの利いた、修哉の声と攻撃的な、侮蔑を含んでいるようにも聞こえる言葉。

まるで、必死に我慢していたものが切れてしまったような、そう感じてしまうほどの変化を修哉から感じる。

 

そして、修哉は更に続ける。

全てミールの意志なのだと、仕方ないと諦める来主操に対して宣戦布告するために。

そして少し前の自分を否定するために、決別するために。

 

 

『少なくとも、今の俺はあいつ()の為ならどんなことでもやる。自分の大切なモノが掛かっている時に、『仕方ないから諦める』なんて選択肢は取らない』

 

『なにを……!』

 

『俺の大切なものをどうにかしようって言うなら……フェストゥムだろうが人間だろうが、ミールだろうが神様だろうが……どんな手段を使ってでも殺してやる』

 

『俺には君が何を言いたいのか、分からないよ!!』

 

 

ただひたすらに冷たく、冷徹な声で言葉を紡いでいく修哉。

それとは対照的に声と感情を高ぶらせ、来主操の乗るマークニヒトがワームスフィアを発生させ、修哉のマークツヴァイを襲う。

しかし、そんなことは織り込み済みだと言わんばかりに、黒い球体を躱しながら再びルガーランスによる射撃でニヒトを襲う。

 

距離もある上、ツヴァイの姿がハッキリ見えていたこともあり、今度はその攻撃を完全に回避して、マークニヒトは再度空に飛び上がる。

再び相対する形の両機の間には、得も言われぬ緊張感が感じられる。

 

 

『分からないなら、何もかも諦めながら、仕方ないと言い訳しながら、ここで消えて行け』

 

『………くっ!』

 

『掛かって来い、来主操。俺は一騎先輩ほど優しくも甘くもないぞ』

 

『このおぉぉ!!』

 

 

果たして、その修哉の言葉を口火にして、マークニヒトとマークツヴァイが蒼を忘れた穹で衝突した。

 

 

 

 




芹ちゃんの出番が……ない…。
許してヒヤシンス。


さて、ついに第二次蒼穹作戦開始でございます。
戦闘は漸く成立した広登とのツインドッグで、押し寄せるエウロス型を千切っては投げ、千切っては投げ。。。

初めて書いたカノン視点でございましたが如何でしょうか。
『たられば』の件については、エグゾダスでのカノンのSDPを意識してます。
なお、見えた未来は絶望的なものである模様・・・ヒエッ


そして、ついに相対したシュウとマークニヒトでございます。
文面からも分かる通り、シュウは怒ってます。
激おこスティックファイナリアリティプンプンドリームってやつです(古い)

救援に駆けつける前、そして操と会話する前までは抑えていたのですが、操の『ミールには逆らえないから全て仕方ない』というスタンスに怒っているわけですね。
広登の洞察した通り、少し前の自分を見ているようで、同族嫌悪と言う面も確かにありますが。

シュウのようなタイプは激情に任せて怒るのではなく、激情を制御しつつ、静かに怒りを表します。
ある意味爆発して怒りを撒き散らすより怖いです。

普段怒らないやつが切れると~ってやつですね。
冷静な分、やることがえげつないのです。


まぁ、操の言い分も分からないでもないんですけどね。
絶対に逆らってはいけないと本能的に刷り込まれている相手に、自分の意志を押し通すなんて中々出来ることではないですし。
ただ、シュウにとっては、姉が死んだことを、大切な幼馴染が命を駆けざるを得ない状況になっていることを『仕方ない』という言葉で片付けられては堪ったもんではないのです。


次回は、来栖のマークニヒトと修哉のツヴァイの戦闘がメインです。
というか、遊撃部隊の戦闘は基本そのままなので書かない予定です・・・
エーギルモデルファンの方、ごめんね。





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