蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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先週は更新できずに申し訳ありませんでした。。。
案の定、仕事にてアザゼル型並の危機が襲来いたしまして。。。

次週の更新についても、状況が確定し次第ご連絡致します。


今回はシュウ→芹→シュウ視点でございます。




そして君だけの英雄に -Ⅲ-

この部屋に入るのはこれで何度目になるのか。

少なくとも、一人でここに来るのは今回を含めて2回、それ以外は乙姫に会いに行く芹に付き合ってでしか来たことはない。

アルヴィスの中でも特に特殊な作り、無論デザインも含めて特別な岩戸の扉が開けば、そこには小さな命……しかして島の生命線とも言える重要な存在が眠っている人工子宮が訪問者を出迎える。

 

そう、今まではこの部屋にあるのはただそれだけだったのだ。

しかし、今のワルキューレの岩戸にはもう一つ、別のカプセルが据え置かれており、その中には島と接続するための器具を身に付けた芹が、赤い液体に満たされた状態で眠っている。

ついさっき広登から任された、そして俺が守ると約束した、俺を救おうと命を懸けている芹が、そこにはいた。

 

話すことも、触れることも、視線を交わすことさえ出来はしない。

けれど、今からする話を考えれば、ある意味ではそれでもいいのかもしれないと、俺はそんなことを思っていた。

芹と島のコアしか居ないその岩戸に足を踏み入れた俺は、芹の前に立つ。

 

 

「とは言え……あんまりまじまじ見てたら後で引っ叩かれそうだしな…」

 

 

コアの代替者として眠っている芹の姿は、まぁ『多少』肌の露出面積が多いわけで。

流石に凝視でもしていようものなら、後でパーが飛んでくるか、ヘタすればグーが飛んでくる可能性だってある。

 

あと、俺の目のやり場に困るという理由付けもあり、俺は芹に背中を向けた状態でその場に腰を下ろすことにした。

我ながら紳士的……と言うつもりは毛頭ないが、一先ずこれで俺は精神的余裕を持ったまま話すことが出来る。

少しばかり長い話、独り言になるかもしれないのだ、少しばかりお邪魔させてもらうが、そこは勘弁してもらうしか無い。

 

 

「あ~……まずは…そうだな、ちょっと久しぶりになったけど会いに来た。多分、次の作戦が終わったら戦いは一段落するだろうからさ、願掛けのつもりでお前の顔が見たくなったんだ」

 

「……多分、普段からずっと顔合わせてたからかもしれないけどさ、ここんとこお前と話もできないし……その、なんだ……寂しかったのかもな」

 

「そう思うと、俺はお前に随分安心させてもらってたっていうか……安定させてもらってたんだなって…今更だけどそれに気がついた」

 

「やっぱり俺、お前がいてくれないとダメっぽい」

 

 

自分で言っておいてなんだが、なんと情けない話をしてしまっているのかと思える。

けれど、事実そうなのだから、寂しさを感じている自分がここに居るのだから仕方ない。

どうしようもなく、いつも傍にいる、ある意味で俺を俺たらしめている要素が欠けているような気がして、いつも何気なく目にしていた笑顔が恋しくなって。

本当にもう、自分でもどうにもできないくらいに会いたくて、話したくて仕方がなかった。

 

もちろん、姉ちゃんのことも……それを加速させる要因にはなっているが、この寂しさは多分姉ちゃんがいてくれたとしても感じていたものだろう。

知らない間に、無意識の間に……俺は芹に依存していたのだろうか。

 

 

「…広登とも元通りっていうか……ギクシャクしてたのもなんとかなったよ」

 

「姉ちゃんがいなくなった時も里奈と暉と一緒に俺を助けてくれてさ……」

 

「俺のダメだったところ……ていうか、ずっとお前が俺に言ってたことなんだろうけどさ、いなくなろうとしてたこと、滅茶苦茶怒られた」

 

「悪かったな。お前の気も知らないで、一人で気負っててさ」

 

 

少し前の俺の姿を見て、芹がどんな思いでいたのか。

俺が自分からファフナーに乗ると決めた時、初めての戦闘の時、俺が倒れた時。

一体どれだけの心配と、言うことを聞いてくれない俺へにもどかしい思いをさせてしまったのか。

 

申し訳無さでいっぱいになりつつも、同時に今からまたファフナーに乗って前回よりも苛烈極まる作戦に参加しようとしている俺を許して欲しいと思うばかりだった。

 

 

「……多分、お前は怒るかもしれないけどさ……ごめんな、俺、まだファフナーから降りるつもりはないよ」

 

「島を守るために、自分にできる事……したいんだ」

 

 

その為に、遠見先生に無理を承知で同化促進剤を貰いもしたし、次の作戦への参加も希望した。

マークツヴァイも次の作戦に向けて整備を進めてもらっている。

 

多分、次が今回の戦いの区切りになる……いや、そうでなければ竜宮島は滅びるしか無い。

だからこそ、次を最後にするために、島を明日も明後日も存続させるためにも、自分のできる事をしたいと思った。

 

俺にしか出来ないこと、やっと見つけることが出来たそれを、俺は芹に伝えておきたかった。

 

 

「俺が倒れた時、それでもファフナーに乗ろうとしてた時……芹、『シュウが英雄(ヒーロー)になる必要ない』って言っただろ?」

 

「確かに、俺は一騎先輩みたいに島のヒーローにはなれないだろうし、そのつもりもないよ。それに、島は皆で守ろうって、広登たちとも約束したしな」

 

「……でも、俺は…」

 

 

島は守る、けれど、それは皆でやればいい……いや、皆でしか出来ないことだ。

俺にしか出来ない、俺のしたいこと。

ずっと、始める前から全て諦めて、取り敢えず周りに迷惑にならないように立ち回って自分を表に出さなかった俺の心に一番に浮かび上がってきたのは、やはりと言うか当然というべきか、一つだけだった。

俺は、一呼吸置いた後、出来れば芹に聞いていて欲しいという思いを込めた上で、それを言葉にする。

 

口に出せば、言葉にしてみればなんとも気恥ずかしくなりもする。

願望としては、子供染みたものとさえ見えてしまうかもしれないが、迷うことなく俺が望んだことだった。

 

 

「俺は、お前の、芹だけの英雄(ヒーロー)になりたい」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

あれはいつの事だっただろうか。

そう、子供の頃、まだ島がただの楽園で、平和な時間、平和な世界しか知らなかった頃。

シュウと一緒に遊んでいた私は、カブトムシを取ろうと木に登って、足を滑らせて落ちたことがる。

 

足を挫いた事と腕の切り傷による痛み、そして木から落ちたという事自体への恐怖によって私はただ泣くことしか出来なくて。

そんな私を、シュウは虚弱な体に鞭を打っておんぶして遠見先生のところまで連れて行ってくれた。

 

私をおぶってくれるシュウの背中は、いつもの弱々しいあの背中が、あの時だけは妙に大きく見えて。

その日の夜、ベッドに入った私の頭の中はシュウのことで一杯で、シュウのことしか考えられなくて、心臓もドキドキしっぱなしで……中々寝れなかったことを覚えている。

少し前、剣司先輩たちにシュウへの気持ちを気付かせてもらった時に、『いつから好きなのかもわからない』と言っていたけれど、もしかするとあの時がその起点になったのかもしれない。

 

あの時のシュウは、私にとっては紛れもない英雄(ヒーロー)だった。

 

 

「俺は、お前の、芹だけの英雄(ヒーロー)になりたい」

 

 

だから、シュウの独白……いや、多分私に向けての言葉だろう、それを聞いた瞬間、私の心臓はいつかの夜と同じようにドキドキと心拍数を上昇させていった。

もちろん、現実の体ではないし、意識的な感情の高ぶりがそう感じさせているだけなのかもしれないが、それは瑣末なことだった。

『芹だけの』という言葉がシュウの口から出てきたことが、どうしようもなく私の心を沸き立たせていく。

 

 

「もちろん、今回の戦いだけじゃない……この先ずっと、俺はそうでありたい」

 

「あと…お前としたいこととか、見たいものとか、行ってみたいところとか、沢山、沢山あるんだ」

 

「まぁ…なんだ……お前が許してくれるなら…暇な時にそれに付き合ってくれると嬉しい」

 

『シュウ……!』

 

 

嬉しかった。

シュウが、私だけの何か特別な存在になってくれると、そうなりたいと言ってくれたことが。

『この先もずっと』と、シュウが未来を欲しがってくれているんだと、そこに私にもいて欲しいと言ってくれたことが。

 

ちょっと恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言うシュウを見て、気が付けば私は泣きそうになっていた。

もちろん、悲しいとか悔しくてとかそういう感情は全くなく、ただただ嬉しくて。

 

 

「お前に好きだって言われて……色々考えたりしたんだよ、『俺は芹とどうなりたいのか』、『芹のことをどう思っているのか』とかさ」

 

「正直、最初は全然分からなかった。好きかどうかと聞かれれば、もちろん俺も好きだって答えられるけど、それが芹の言う『好き』と同じものなのかってところが分からなかった」

 

「それで、姉ちゃんに言われたようにお前に好きだって言われた時に、どう感じたかを素直に考えてみることにした。その過程でお前の告白シーンを脳内で延々とリピートしてみたわけだが……」

 

『なっ……!』

 

『クスクス……芹ちゃん、また顔真っ赤』

 

 

いや、それは出来ればやめて欲しいかも……恥ずかしくて消えちゃいそうだから!

シュウに聞こえるはずもないので、心の中でそうツッコミを入れてはみるけれど、側でくすくす笑っている乙姫ちゃんの言う通り、私の顔は一気に紅潮してしまう。

 

ま、全く……いろいろ前向きに考えてくれるのはいいけど、そ、そんな人の告白シーンを何度も思い起こさなくても……。

いやまぁ、忘れられでもすれば、それはそれで悲しいという二律背反的な思いもあるのだけれど。

出来ることなら……シュウの中の思い出の中に置いておいて欲しいと思ってしまうのは我儘なことだろうか。

 

 

「お前に告白された時は……そうだな、やっぱりビックリした。芹が、俺の知らないような……女の子の顔して、俺に気持ちをぶつけてきたってことが驚きだった」

 

「そう思うとさ、俺ってお前のこと理解してるつもりでいたのに、実際はまだまだ知らないことのほうが多いんだって思い知らされたような気がして」

 

「それと同時に、俺の知らない芹をもっと見てみたいとか、俺だけに見せて欲しいとか……気が付いたらそんなこと考えてた」

 

 

シュウはそこで一旦言葉を切る。

果たして、一旦瞼を閉じたシュウは数秒経った後、再度目を見開いて口を開く。

 

 

「俺にとって、芹は……多分、空気みたいな存在だと思う。居るのが当たり前で、居てくれないと困るんだ」

 

「そんな女の子の、まだ知らない所を、俺しか知らないところをもっと教えてもらいたいって、知りたいと思う」

 

「だからこそ、芹を失いたくない」

 

「だから……お前を守る…芹だけの英雄(ヒーロー)になりたい、この先ずっと」

 

 

シュウは立ち上がり、代替カプセルの中の私を見る。

その視線は真剣で、真っ直ぐで、もう迷いも何もないような力強い色を灯している。

 

さっき、シュウは私の事を理解しているつもりで、まだまだ知らないことが沢山あるって言ったけど、その逆も然りだった。

こんなシュウは私だって見たことがなくて、まだまだシュウが私に見せてないところがあるんだって、私はそれを私だけに見せて欲しいんだって、そう思う。

 

 

「……俺がこんな風にお前を想えるってことは……この気持ちは多分……」

 

『………っ!』

 

 

その言葉の先を、その先の未来を何通りも、良い結果と悪い結果が頭の中を駆け巡る。

幼馴染だから? 友達だから? ただ単にいつも一緒に近くに居たから? それとも……それとも…!

瞬間的に息を飲み込み、そのいずれかの未来をもたらす言葉を待つ。

 

 

「……いや、これはお前に直接言うよ。続きは帰って来てからってな」

 

『はふぅ…』

 

『ふふっ…芹ちゃんってば、『おあずけ』って言われたワンちゃんみたいだね』

 

『わ、わたし犬じゃないよ、乙姫ちゃん!』

 

 

その言葉を聞いた瞬間、気が抜けたと言うか、何と言うか、妙な声が出てしまった。

そもそも私のことは見えていないのだから、シュウが私を焦らして楽しんでいるわけではないことは分かっている。

 

いやでも、確かにシュウは変なところで私に意地悪なところある気がするし……

……仮にそんなサディスティックな性格でも、う、受け入れる自信と用意はあるもん。

 

と、そんな事はともかくとして、結局のところ私からの告白の返事はお預けということだ。

いや、だから私は犬じゃないし……あぁもう、乙姫ちゃんが変なコト言うから。

 

と、ともあれ私としても、シュウの言うように『私自身』の体でシュウの前に立って、その答えを教えてもらいたい。

その答えが、結果が、その先がどんな形であれ、シュウの気持ちを今のように間接的に知ってしまうのは何となく躊躇いがあった。

 

 

「じゃあ……行ってくるよ」

 

 

そうして、シュウは小さく私に微笑みかけると岩戸を後にしようとする。

ゆっくりと出口へと歩みを進めるその足取りには、不安定さも感じることはなく、いつかの日のようにシュウの背中が大きく見えた。

 

私の、私だけの英雄(ヒーロー)になりたいと言ってくれた、いつかの日の私の願望を現実にしたいと言ってくれたシュウ。

 

そんな彼に、今の私ができるのは、無事に帰って来てくれるように祈ること、シュウの帰る場所を守ること……。

そして、ちょっと危なっかしくて意地っ張りで、意外に寂しがり屋で優しくて、いつも私を安心させてくれるヒーローを送り出すことだけだった。

 

 

『いってらっしゃい……私の…英雄(ヒーロー)…』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

作戦内容については、事前に説明があった通り、ファフナー部隊を防衛部隊、遊撃部隊に分割。

遊撃部隊は美羽ちゃんと弓子先生、真壁司令をRボートを伴って敵の母艦である空母ボレアリオスへ接近し、美羽ちゃんと敵側のミールを対話させる。

そして防衛部隊は遊撃部隊の帰って来る島をフェストゥムから守るため、迎撃作戦を展開する。

 

敵の数は前回と同様……もしくはそれ以上。

しかしながら、戦力を分割しているため防衛部隊へ掛かる負担については、前回の比ではないことは誰の目から見ても明らか。

遊撃部隊の進行が遅れれば、対話が上手く行かなかければ、時間とともに防衛ラインの維持は困難になっていくだろう。

 

しかし、いつも大人たちが使用している会議室に集められた俺達ファフナーパイロットの表情には、その事実に対する恐れなどは見られなかった。

 

 

「本作戦の選抜を確認する」

 

 

俺達全員の顔を確認するように見渡した後、真壁司令は力強い声でそう続けた。

未だに一騎先輩の安否も確認することが出来ない中、子を心配する父親の姿を見せることなく、司令としての立場を全うするその姿には敬意を払うべきだろう。

 

今回、俺の作戦への参加もかなり無理を聞いてもらった身の上だ。

その大恩には、何としてでも報いたいと思う。

 

 

「遊撃部隊、近藤剣司、要咲良、西尾里奈、西尾暉」

 

 

遊撃部隊は剣司先輩のマークアハト、咲良先輩のマークドライが参画。

先の戦闘でファフナーを大破に追い込まれた里奈と、フェンリルの使用によって機体ごと失ってしまった暉については、ゼロファフナーに搭乗することになっている。

エーギル・モデルと呼ばれるフェストゥムのコアを組み込んだ機体としては、最初期のものであり、二人の祖母である西尾のおばあちゃんが開発に携わり、同時に里奈達の両親を暴走という形で消し去ってしまった機体でもある。

 

両親の遺した、そしてその両親を失う原因となったファフナーに子供が乗るというのも、因果な話ではある。

しかしながら、願わくば両親の遺した機体が二人を守ってくれればと思う。

 

 

「防衛部隊、遠見真矢、羽佐間カノン、堂馬広登、滝瀬修哉」

 

「及び、春日井甲洋」

 

 

搭乗機であったマークフィアーのコアとなって、島を守るために帰って来た甲洋先輩の名が明確に選抜メンバーの中に刻まれたことに、胸にじわりと熱いものを感じるのは恐らくここに居る全員がそうだろう。

フェストゥムに同化されたにも関わらず、同化行動を放棄したスレイブ型となり、2年前も島を守るために戦った。

その在り方は変われど、春日井甲洋という存在の本質は、全く変わっていないということを感じることが出来る。

 

そして俺は、遠見先輩、カノン先輩、広登、そして甲洋先輩と共に島の防衛の役目を与えられた。

芹を、島を守ると決めた俺にとっては、防衛部隊への編成は渡りに船と言うと少しおかしいが、望むところではあった。

里奈や暉達が帰って来るまで皆で島を守って、竜宮島が明日以降もここに在るという未来を選択できるように。

ついさっき、芹と一方的に結んだ約束と、もう一つの方の約束を守るためにもだ。

 

 

「敵襲来と同時に遊撃部隊は島を離れ、敵本陣に奇襲をかける。機会は一度限りだ」

 

 

真壁司令はそう言うと同時に、部屋に集まったパイロットたちを見渡す。

司令の言う通り、機会は一回だけ、『次』などというものは負けてしまえば、屈服してしまえば得られはしない。

勝利する……いや、敵と対話することでしか、竜宮島が『次』を得ることは出来ないのだ。

 

そして、司令は少し間を開けた後、力強い声で続けた。

 

 

「総員の生存と再会を祈ろう」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ブリーフィング終了後、作戦開始まであと僅かという状態に差し掛かっていた。

里奈や暉達、遊撃部隊のメンバーはファフナーに搭乗してRボートへ移動し、防衛部隊もまたファフナーでの待機準備に掛かっている。

 

俺は、シナジェティックスーツに着替え、機体を、マークツヴァイを見上げながら驚愕していた。

濃紺色の巨人が、先の戦闘で受けた損傷など見受けられないような完璧な状態にまで補修され、ファフナーブルグに鎮座している。

いや、『完璧な状態にまで補修され』というと少し語弊があるだろうか。

 

 

「なんか……変わってる」

 

 

俺がそう言葉を零した通り、マークツヴァイは補修の枠を超えてやや強化されていた。

今まで背部に8基搭載されていたリディルは10基にまで増えており、腰の部分にも4基マウントされ、計14基に拡張されていたのだ。

無論、機体コンセプトが根底から覆るような強化・補修では無いのだが、直すだけではなくてパワーアップまでしてもらえるとは思っていなかった。

 

 

「どうだい、驚いたかな?」

 

「広臣さん…これ…」

 

「はは……僕達にはこのくらいしか、してあげられることがないからね」

 

 

強化されたマークツヴァイの前で呆けていた俺の背中に、広臣さんの声が飛んでくる。

かなり汚れが付いた作業服と、少し見ただけでも分かる目元の隈を見れば、広臣さんを始めとした大人たちが如何に疲れた体に鞭を打って作業に従事していたのかは理解できる。

 

しかし、広臣さんは疲れた様子を見せることもなく、頭を掻きながら『これくらいしか』などと言うのだ。

俺から言わせれば、これ以上にありがたい援護などありはしないのに。

しかも……広臣さんも姉ちゃんがいなくなって辛いはずなのにもかかわらず……だ。

 

 

「本当なら、スラスターの強化とかもやっておきたかったところなんだけどね。使える時間の中で出来るのはリディルの拡張だけだったんだ」

 

「いえ、寧ろこれだけでも十分すぎるというか……」

 

「あ、機体の強化はこれだけなんだけど、修哉くんのルガーランスは二刀流でも取り回しがいいように、刀身の長さとか重心とか調整したもの用意してるからね」

 

「は、はぁ……」

 

 

脳内のアドレナリンがそうさせているのか、広臣さんが少しハイになっているようにも見える。

それに加えて、ここまで言葉が達者というか、よく喋る広臣さんは初めて見るような気もした。

 

姉ちゃんがいなくなった事を、作業に没頭することで考えないようにしていたのか……それとも……

と、俺が余計なことを考えそうになったところで、それまで熱く強化した部分について語っていた広臣さんの表情が落ち着きを取り戻し、優しげな表情を浮かべながら俺の頭に手を置く。

その手は、どこか姉ちゃんのそれに似ているような気がして、俺はまた数瞬呆けてしまった。

 

 

「これなら……無事に帰って来れるかい?」

 

「………広臣さんは…やっぱり広臣さんですね」

 

「あはは…それって褒められてるのかな?」

 

「いえ……好きな人を亡くす原因になったものに復讐したいとか……そのために戦うための力を強化したんだとか……すみません、かなり失礼なこと考えてました」

 

 

俺は直前まで考えていた『余計なこと』を敢えて言葉にして広臣さんに伝えることにした。

姉ちゃんがいなくなったのは、間接的とはいえフェストゥムの攻撃、マークニヒトの出現によるものだ。

 

そこに対して、何か思うところがあるのではないかと……俺は勝手にそう思っていた。

……いや、これは俺の感情を広臣さんに押し付けているだけかもしれない。

 

果たして、俺の言葉を受けた広臣さんはバツの悪そうな表情を浮かべながらも、まっすぐ俺を見て答えてくれた。

 

 

「勿論……フェストゥムに対して…思うところはあるよ。僕だって人間だからね……」

 

「……」

 

「でも……それは君達子供をただの復讐のための道具にしてしまうのと同じことだ。多分……絵梨さんはそんな僕のことを好きになってはくれなかったと思うから」

 

「広臣さん……」

 

「僕達が本当にしないといけないことは、君達の無事を祈ること、君達を守ってくれるファフナーを作ることだ。少し変な形ではあるけれど、大人は子供を守らないとね」

 

「絵梨さんは……もういない……けれど、僕はまだここに居る。生きている限り、僕は絵梨さんに恥ずかしくないように……絵梨さんが好きになってくれた僕でいたいんだ」

 

 

あぁ……こういう人だから、姉ちゃんは広臣さんのことを好きになったんだろうと、心の底からそう思うことが出来た。

もし姉ちゃんと広臣さんの立場が逆だったとしても、姉ちゃんもきっと同じことを言っただろう、同じように目の下に隈を作って自分の仕事をしていただろう。

本当に…二人は似たもの同士でお似合いだったんだ。

 

広臣さんの言うとおり、姉ちゃんは……もういない。

今は目の前にある問題を何とかしようと必死で、気が紛れているだけなのだ。

多分、俺も広臣さんも今回の戦いが終わった後、それを改めて受け止めて、生きていかないといけないんだろう。

苦しくても、悲しくても、どうしようもなく寂しくても、俺達はまだここに居るのだから。

 

けれどそれも、生きて明日を迎えなければ出来ないことだ。

だからこそ俺は、広臣さんの最初の問いにこう返す。

 

 

「……帰って来ます、必ず」

 

「そうか……それなら、安心だ。気をつけて行っておいで」

 

「はい…!」

 

 

約束がまた増えた……が、それは決してプレッシャーになるようなものでもなくて、俺の体を支えてくれている感覚すらあった。

今の俺の体は、遠見先生や、広登達、広臣さん、姉ちゃん……そして芹、皆の力で支えられて、立つことが出来ているんだとハッキリ分かる。

 

こんな素晴らしい人達がいるこの島を、絶対に失いたくない。

明日も明後日も、来週も、来月も、来年も、ずっとずっと、この島で生きていたい、この島にいたいと思う。

もう、俺の心には迷いも何もありはしなかった。

 

そうして、第二次蒼穹作戦開始までの時間はただ真っ直ぐに流れる。

ただただ戦うだけだった存在との、明確な、言葉を介しての対話、会話を行い、共存の道の第一歩になるかもしれない作戦が始まった。

 

 

 




ファフナーの第2クールは10月からの放送らしいですね。
まぁ、夏からはないと分かっていたので、全然問題無いです。
あぁ楽しみだ・・・そして胃痛の襲来に備えなければ・・・


???「アニメの制作を行う……5ヶ月待て」

あ、それと神回と言われた9話で流れてた挿入歌、「その時、蒼穹へ」が収録されたangelaさんのアルバム発売されましたね。
買いましたよ、もちろん。
聞く度にマークザインがシャイニー✩してるシーンを思い出せます。


さて、本編でございます。
今回はシュウと芹のお話をメインに持ってきました。
直接話すことも、触れることも出来ませんが、シュウの思いは芹に届いています。

シュウとしては、島は皆で守る。
でも芹は自分の手で守りたいと言う思いが、最も強い願望となっています。
今まではいなくならなければならないという気持ちに支配されていたリソースが開放されたおかげです。
そして、それを明確なものにするために、芹だけの英雄、ヒーローになりたいを宣言したわけです。

英雄・ヒーローというと子供っぽく聞こえるかもしれませんが、彼が心の底からしたい事なんですね。


で、地味にパワーアップしたマークツヴァイですが、ファンネルの数が増えました。
これでコミケも怖くない!(違う)

リディルが増えたよ!やったねシュウくん!



とまぁ、冗談はさておき、武装が強化されはしましたが次回からの戦闘は苛烈でございます。
マークニヒトとかの相手もしないとダメですし・・・
乗っているのが操とは言え、マークニヒトはマジでチート機体ですからね。
皆城ドーナツとか皆城パスタとか皆城ミートボールとか、この時にあれやられてたら確実に島滅んでたんじゃなかろうか。
まぁ、ドーナツとパスタはディアブロ型とかがいて初めて出来るようになったことかもですが。


次回からは第二次蒼穹作戦でございます。
更新については、また何かしら連絡しますね。
出来るだけ来週の月曜に更新できるように頑張りますです。


ではでは・・・










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