蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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一週間ぶりの更新になります。
先週は申し訳ないです・・・

で、重ねてになってしまいますが、今週も木曜更新がやや怪しいです。
この度、正式に東京に引っ越ししたのはいいんですが、まだ荷物とかの整理が全く出来てねぇ!
ついでに仕事も忙しいというドラまでついてしまっています・・・

木曜更新の分については、できれば更新ということでお願いします。
またTwitterとかにも呟きますかね・・・

さて、本編ですが今回は大人視点→芹→暉→シュウ視点になります。

ではでは~







たとえ私がそこにいなくても -Ⅳ-

俺達はただ見ていることしか出来ないのか。

小楯保はもう何度目か分からないその歯痒い思いを飲み込みつつ、モニター上に表示されている外での戦闘状況を、ブルグに詰めている大人たちと固唾を呑んで見守っていた。

自分たち大人の不甲斐なさを恥じると同時に、せめて自分たちの作ったファフナーが子供たちを守ってくれるように祈りながら。

 

しかし、無常にも戦況はファフナー部隊にとっては圧倒的な劣勢。

先ほど飛び入りというか、緊急発進となった修哉のマークツヴァイも目を見張る活躍を見せてくれてはいるが、敵の数が減る気配は一向にない。

エウロス型が如何に大量の非戦闘要員であるフェストゥムを強制的に徴兵してきたのか、ここに来て本当の意味で理解することが出来た。

 

 

「しかし、絵理ちゃん……本当に良かったのか? 修哉くんを送り出して……」

 

「……ちゃんと約束してくれましたから…帰ってくると。だから私は、それを信じて待ってあげていたいんです」

 

「そうか…」

 

 

保は一つ隣のモニターで、恋人である五島広臣と共に同じように戦況を見守っている滝瀬絵理にそう尋ねる。

保もまた、千鶴から修哉の体のこと、ファフナーでの戦闘に体が耐えられないことなどは聞いていた。

 

それ故、ついさっきも絵理がCDCに修哉の、マークツヴァイの出撃要請を出した時は、自分の耳を疑ったほどだ。

あれほど溺愛している弟を、自ら死へ追い込むような事をするはずがないとは思ったが、保は絵理の言葉を聞くことでそれが杞憂であったと理解する。

姉弟の間で、いい意味で何かが起こった末の結果なのだと。

 

その修哉の駆るマークツヴァイは、今なお次々と襲い掛かってくるフェストゥムを撃墜しているが、ツヴァイの動きから島に根を張り始めたスカラベ型を叩き、カノンのマークドライツェンを救おうとしているようにみえる。

恐らく、隣でそれを見ている容子からすれば、カノンを救って欲しいという気持ちも相まって、修哉をより強く心の中で応援していることだろう。

 

しかし、修哉のスカラベ型への攻撃を妨害するかのように、絶えず護衛部隊のようなフェストゥムの群れが修哉を取り囲み、それを許すことはない。

このままではジリ貧……それに加えて、あのスカラベ型の張り始めた根の意図も気になるところだった。

 

果たして、保達はその意図を数秒後に理解することになる。

 

 

「保さん!! あれを……!!」

 

「なに!?」

 

 

僅かな振動が体を襲ったかと思ったその瞬間、広臣の声と彼が見ているであろうもの同じ光景を目にした保は言葉を失う。

ファフナーブルグ、現在は乗り手の居ないマークザイン一機のみを格納しているこの場所。

そのマークザインが鎮座している直上、その天井が破れ、金色の触手が次々と這い出してきているではないか。

その触手が迷うことなく沈黙したままのマークザインの方向へ向かった瞬間、敵の、スカラベ型の触手の意図がマークザインにあった事を理解した保だったが、全ては遅かった。

 

触手はマークザインの体に取り付き、同化をしようとしているのか機体から結晶がいくつも出現する。

 

 

「何をするつもりだ……?」

 

 

フェストゥムがマークザインに何をしているのかは分からない、が、保達にとって有益でないものでないことだけは確実。

だが、この場にいる自分たちに出来ることなどなにもない……歯痒さを覚えはするが、とどの詰まりただ行く末を見ているしかなかった。

 

加えて、保の目にまたしても信じられないものが映り込んでくる。

触手に取り憑かれているマークザイン、その前方の空中に突如人が姿を現したのだ。

いや、それは正確には人と呼んでいいのか分からない、来主操という人間らしい名前を持ちはすれど、その実、彼の本質は今島を脅かしているフェストゥムなのだから。

 

そして来栖が姿を現したのとほぼ同じタイミングで、マークザインから黒を凝縮したような深い闇色の泥のようなものが溢れてくる。

その泥は空中に力なく浮かぶ来栖を取り込むと、一気に大きさを増していく。

 

 

「きゃあ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

巨大化していく『ナニカ』によって、ブルグの天井、壁、あらゆるものが崩壊し、施設内に悲鳴が響く。

崩れた瓦礫によって塵が舞い、僅かな時間、視界が全く効かなくなる。

 

そんな中で、保は目撃した。

ブルグを崩壊させた『ナニカ』が、その変化を完了した状態でそこに在ることを。

 

やや紫がかった配色に、禍々しく変化した外観、背部には羽のような機構がマウントされており、さながら悪魔の様な姿。

姿は大きく異なってはいたが、保にはこの悪魔に心当たりがあった。

 

それは、人の創りだしたフェストゥムに対抗するための力であるはずのファフナーだった。

マークザインと同じ、ザルヴァートルモデル。

方向性は違えど、人類を救済するためにかつて竜宮島の同胞だった者が島を飛び出し、人類軍の元で開発を行った機体。

 

二年前、島を強襲し、多くの命を奪っていった悪魔……いや、魔王と形容するほうが妥当であろうか。

 

 

「マーク…ニヒトだと!?」

 

 

『否定』の名を冠するその機体は、姿を大きく変え、そこに在った。

二年間ずっとそうであったのかは不明だが、マークザインの中に封じ込められていたとでも言うのか、スカラベ型の触手はこいつを呼び覚ますためのものだったのか。

 

頭の中の疑問符は尽きることはない……しかし、それと同時に保はこの時こそ死を覚悟した。

目の前にはファフナー、それも恐らくは味方ではなく、敵側の存在となっているマークニヒトだ。

今、ニヒトが腕を一振りするだけでも、このブルグに要る大人全員の命を奪うのに十分事足りる。

 

体が強張り、ギリッと歯を食いしばる。

ついに、妻のもとに、息子のもとに行くときが来たのかと覚悟する。

 

しかし、保の覚悟を知ってか知らずか、マークニヒトは保達を攻撃することもなく、一瞬で姿を消してしまう。

 

 

「消えた……? 一体どこに…!」

 

「ゴホッゴホッ! いったい何が…」

 

「羽佐間先生…無事だったか……よかった」

 

 

突然現れたかと思えば、またその姿をくらませてしまったニヒト。

いっそ今の出来事全ては幻であって欲しいとさえ思うが、ボロボロに崩壊したブルグを見ればこれが現実であることを嫌でも認識できてしまう。

 

そこに至って、他のスタッフたちの無事を確認しなければという思考が戻ってくる。

側に居た容子は発生した塵によって咳き込んではいるものの、大きな怪我一つしていないことを確認し、保はまずは一つほっと胸を撫で下ろす。

 

しかし、それも数瞬の事だった。

次の瞬間、保の耳に入ってきた悲鳴めいた声を聞くまで、ファフナーブルグにはあってはならない鮮血が視界に入ってくるまでの刹那のことであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

乙姫ちゃんと守るために、シュウを守るために、島のコアの代替者になることに恐怖はなかった。

けれど、今目の前で繰り広げられている戦闘を目にした私の心には、小さな後悔があった。

 

もちろん自分の役割を全うすることで、私は私なりの方法で皆を守れるのかもしれない。

けれど、ただ見ているだけというのがここまで歯痒く、そして恐ろしいことなのだと、ファフナーに乗って戦っているときは思いもしていなかった。

 

 

『シュウ……』

 

 

マークツヴァイが、シュウが戦っている姿を見て、私は小さく呟く

もう乗るなって、乗ったらどうなるか分からないって言われてたはずなのに……居なくなったら許さないって言ったのに、それでもやはりと言うか、シュウはジッとはしていてくれなかった。

 

ブルグでの絵理さんとのやり取りは見ていた、島と同期している今なら、見たいと思うところにすぐに『視点』を持つことが出来たから。

そのやり取りを見て、シュウがただいなくなろうとしてファフナーに乗っているわけじゃないことは理解していた。

 

……嫁とか俺の子産んでくれとかの件は流石に恥ずかしかったけど……

 

けれど、シュウにその気はなかったとしても、フェストゥムは容赦なく襲い掛かってくる。

いつシュウがフェストゥムに同化され、いなくなってしまわないかとハラハラしながら見ていることしか出来ない。

それこそ、私の小さな後悔、ファフナーに乗って、一緒に戦えないという後悔だった。

 

 

『芹ちゃんは、修哉をちゃんと守ってるよ』

 

『乙姫ちゃん……』

 

『芹ちゃんがこの島にいるから、修哉は守りたがってる……そして、生きることに迷っていたばかりの彼が、それ以外の道を選んでもいいかもしれないと思い始めている。そして、そういう風に修哉を変えたのも、芹ちゃんなんだよ』

 

『………』

 

『二人は本当に、お互いに守り合ってるんだね…』

 

 

隣に立つ乙姫ちゃんにそう言われ、思わず体が熱くなりそうになる。

けれど、乙姫ちゃんの言葉だからなのか、それとも自分たち以外の誰かにそう見えているからなのか、より強く嬉しさを感じる。

 

 

『……それに大丈夫…もうすぐ、来てくれるはずだから…』

 

『来てくれるって……誰が?』

 

『この島を、皆を守ってくれる人達だよ』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ファフナーに乗れば、父さんと母さんを同化したのと同じものに乗れば、声が取り戻せる。

島がただの楽園でなくなった二年前、フェストゥムとファフナーという存在を知ったあの時から、そう考えていた。

 

果たして、その希望は現実のものとなって、僕はファフナーのパイロットになり、声も取り戻すことが出来た。

話せるようになった、これで里奈をイライラさせることもない、遠見先輩とも話ができる、悪いことなんて何もない。

フェストゥムとの戦いだって、皆で戦えばなんとかなると……そんな何の根拠もない楽観が、心のどこかにあった。

 

でも、現実は全くと言っていいほど、楽観視していたそれとは違っていた。

僕は海中で今まさにフェストゥムに同化されようとしていた。

搭乗機のマークツェンの腹部を貫く、鋭い刃に変化したフェストゥムの腕。

そこを起点として、フェストゥムは僕を同化しようと結晶体を発生させる。

 

 

『暉くんっ!!』

 

「先輩……来ちゃダメだ……うあああぁぁぁあ!!」

 

 

見れば僕を助けに来てくれたのか、遠見先輩のマークジーベンの姿が見える。

 

ダメだ……このままじゃ、先輩のことまで危険な目にさらしてしまう。

そう思った僕は来ないで欲しいという意図を伝える為に口を開くが、それは途中で叶わなくなってしまう。

 

 

「これが…フェストゥムの同化……心が…消えていく……父さん…母さん……里奈…」

 

 

あぁ成る程と、これが同化されるということなのだと理解する、機械的に、何の感慨もなく。

自分たちの全てを奪われるとはこういうことか、肉体的な意味だけでなく、心まで持っていかれるのかと。

 

話には聞いていた、同化されることがこういうことなのだと。

しかし、話に聞くのと体験するのでは、やはり全くの別物だった。

 

けれど、それでも……恐怖も何も、感じることはない。

体、ファフナーを動かすことも出来ないのに、このままだといなくなるのに、何も怖いと感じることが出来ない。

そして、遠見先輩が危険を犯して僕を助けようとしているのに、心が揺れ動かなくなっていた。

 

 

「(……で、も……このまま僕を追って遠見先輩まで危ない目に合わせるのは……嫌…だ)」

 

『フェンリル起動認証』

 

 

僕の思考がそうさせたのか、それともファフナーとしての機能がそうさせたのかは分からなかった。

けれど、コクピットのモニターに表示されるフェンリル起動の文字を僕は何の感慨もなく見つめていた。

 

いや、消えていく心の何処かで少しホッとしていたのかもしれない。

これで、敵を一体倒せると、遠見先輩を守れたのかもしれないのだと。

 

 

『よしなさい!』

 

 

遠見先輩の大きな声が、多分叫び声が聞こえてくる。

どうして……そんなに必死になっているんだろうか……分からない、理解できない。

もう、何も感じない。

 

果たして、フェンリルのカウントダウン、その数字がゼロに近づいていく……そんな時だった。

そのカウントダウン表示の隣……クロッシング中のファフナーの機体コードの中に、見知らぬ機体のものが追加されていた。

 

 

「マーク……フィアー……?」

 

 

そして、フェンリル起動の数秒前、僕が意識を手放す数瞬前、僕と遠見先輩しか居ないはずの海中に、一機のファフナーの姿が見えたような気がした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

数の暴力、その言葉の本当の意味を、今俺は身を以て体感している。

倒しても倒しても、いくら討ち倒しても、滅ぼしても、敵は、フェストゥムは数を減らすことなく襲い掛かってくる。

海の水をコップで必死で掬っているような、そんな徒労感と体を襲う倦怠感、視界のぼやけ。

 

その全てが、一度に俺へと襲いかかり、今にも意識を手放しそうになる。

 

 

「どけぇぇえ!!!!」

 

 

そんな吹き飛びそうな意識を、らしくないほど大きな声を腹からひねり出すことで、クリアなものに引き戻す。

目の前には相変わらずスカラベ型を守るフェストゥムの群れ、その向こうにはスカラベ型の触手に埋もれながらも必死に抵抗を続けているカノン先輩のドライツェンの姿。

 

目の前に現れたフェストゥムをルガーランスで突き刺し、プラズマエネルギーの塊を流しこむことで内部から焼き尽くし、背後から迫る敵を格闘モードにしたリディルで串刺しにする。

 

前進、前進、ただ前へ。

障害物はその全てをことごとく排除、撃滅し、ただ前進あるのみ。

 

しかしながら、中々どうしてままならない。

距離を数字で表せば数百メートル、ファフナーに乗っていれば大した数字にはならないにも関わらず、その数字を縮めることが出来ない。

前進しようとする意志を挫くように、マークツヴァイの進路をフェストゥムが阻む。

 

戦闘の最中、既にルガーランスを片方失い、リディルも3機を消失。

そのくらいの対価を支払ったにも関わらず、いや、まだそれでも足りないのか、俺は未だに護衛部隊の壁を突破できずにいた。

 

 

「くそ……!この欠陥品め…!!」

 

 

霞み掛かる視界、継続して襲いかかる体の倦怠感に、俺は自身の体をそんな風に罵ることしか出来ない。

そんなことをしたところで、病状が回復するわけもなければ、敵が進路を譲ってくれることもないことは理解している。

 

いくら敵を倒しても倒しても、島を、仲間を、先輩たちを……姉ちゃん、そして芹を守れなければ何の意味もない。

過程などどうでもいい、ただ結果が欲しい。

しかし、今の俺では過程ばかりを積み重ねるだけで、結果に結びつけることが出来ない。

 

 

『う、うああぁぁ!!』

 

「カノン先輩!?」

 

 

フェストゥムによる同化によるものか、クロッシング越しにカノン先輩の悲痛な叫びが耳を劈く。

 

ヤバイ…!このまま俺がまごついてたら、先にカノン先輩がいなくなる……!

こうなったら……一発か二発は攻撃をもらう覚悟で、また高高度から一点突破を……!

 

と、俺が以前使った手段を再度取ろうとした瞬間だった。

 

 

「ぐぅ…あっ……!?」

 

 

常時続いていた、病による体の不調。

視界は既にほぼ見えず、半分感覚に頼って戦っていたレベルだったが、ここに来てその不調の波の大きさが跳ね上がった。

 

意識こそ手放さなかったものの、俺は一瞬で『体を動かす』ということを放棄してしまい、マークツヴァイは空中で一気に失速。

必死に高度を維持しようとするが、体が全く言うことを聞いてくれず、俺はあっという間に地面に叩きつけられる。

 

ファフナーに伝わる衝撃がフィードバックされ、強烈な痛みとなって俺を襲う。

衝撃、激痛、気が狂いそうになるが、その痛みがなければ俺はとっくに意識を手放していただろう。

しかし、問題はそれだけでは終わらない、霞む視界の中にある、僅かな可視領域、そこに金色が映る。

 

 

「くそ……こんな…時に…!!」

 

 

それが俺に止めを刺しに来たフェストゥムだと理解するのに、時間は必要ではなかったし、朦朧とした意識下でも容易い事だった。

意識をファフナーを動かすことに集中、自分に今ある全てをそれのみに注ぎ込む。

 

腕を動かす、ルガーランスを構える、照準を俺に向かって一直線に疾走してくるスフィンクス型に向ける。

リディルを制御するだけの余裕は、もう既に無い。

満身創痍、だがそれがどうした、今は…今だけは……まだいなくなる訳にはいかない、姉ちゃんと約束した、芹とだって。

 

 

「消えろぉぉお!!」

 

 

俺の咆哮、そしてそれに呼応するようにルガーランスが吠える。

割れた刀身にプラズマエネルギーが収束し、フェストゥムに向かって解き放つ。

プラズマエネルギーの砲弾はフェストゥムの胴を焼き、コアを消滅させ、同時にフェストゥムをも葬り去る。

 

しかし、ついさっきまでと同様、フェストゥムを一体倒したからといって、状況が好転するわけも、安全を確保できるわけもない。

既に別の個体が、消滅したスフィンクス型の背後から二の矢を自負するかのように突進してきていた。

 

ランスのチャージは間に合わない、リディルは既に制御できる自信もない、体も上手く動かせない、為す術がない、どうすることも出来ない。

終了、詰み、敗北、言い方は何通りもあるだろうが、今の俺の状態はそのいずれでも形容が可能だった。

 

 

「……はぁ、はぁ……姉…ちゃん……芹……」

 

 

思わず二人を呼ぶ……約束を守れなさそうなことを詫びるつもりなのか、苦し紛れに救いを求めたのか自分でも分からない。

ただ、気がつけば口からするりと出ていた言葉だった。

いや、詫びるとか救いを求めるとかではない……ただ、どうしようもなく会いたかっただけなのかもしれない。

 

しかしながら、数瞬後、俺の目にはこちらに突進してくるフェストゥムが青い閃光に包み込まれるのと同時に、世界から消失するという光景が飛び込んでくることになる。

 

 

「何が……いや、誰が…?」

 

 

俺を窮地から救ってくれたのは誰かと、どこに居るのかと周囲を見渡す。

そして俺の目が空に向かった時、俺はそれが誰なのかを瞬時に理解する。

 

白銀色の機体、ある種シンプル、言い方を変えれば無駄を削ぎ落したスリムなデザインのファフナー。

マークザイン、ザルヴァートルモデルと呼ばれる、ノートゥングモデルよりも更に特殊かつ絶大なスペックを誇る機体。

前回の戦争にて、島のエース、今では楽園の看板調理師、真壁一騎先輩の搭乗機が、そこには在った。

 

 

「一騎……先輩……」

 

 

そして、救われたのはどうやら俺だけではないらしい。

マークザインは俺の安全を確認すると同時に、続けて手に持ったルガーランスをカノン先輩を同化しつつあるスカラベ型へ向けて、俺の放ったものよりもはるかに強大なエネルギーの奔流を掃射する。

 

大量の根を地面に張っていたスカラベ型は、当然のごとく、そのエネルギーの束から逃れることなど出来るはずもなく、コアを一撃のもとに破壊される。

本体、そして根が連鎖爆発するように次々とワームスフィアを発生させ、スカラベ型がその姿を消した。

 

 

『う、あああああぁあぁ!!!』

 

『いくなカノン!!』

 

 

しかし、スカラベ型を倒しただけではカノン先輩を救った事にはならなかった。

コクピットに表示されるカノン先輩のバイタル情報を見れば、同化現象の進行が危険域にまで達している。

スカラベ型に同化されかかっていたカノン先輩は既に限界を超えていたのか、助けを求めるように悲鳴を上げる。

 

一騎先輩はカノン先輩のドライツェンのそばに降り立つと、ザインの手をドライツェンに当てる。

数秒の後、ザインの手からルガーランスと同化するときと同じように結晶体が発生し、瞬時に砕け散る。

そして再度見れば、カノン先輩のバイタルは安全域にまで回復しており、同化現象が軽減されていたのだ。

 

まさか……同化現象を一騎先輩、マークザインが肩代わりした…?

これが、ザルヴァートルモデルの……いや、一騎先輩の力の本質だとでも言うのか。

 

 

「一騎先輩……どうして……ファフナーに」

 

『それはお互い様だろう? でも……よく頑張ったな』

 

 

マークザインの存在に怯えているのか、フェストゥムが不思議と俺たちへの攻撃をしてこない。

一時的な膠着状態なのかは分からないが、俺は自分のことを棚に上げて一騎先輩にそんなことを聞いていた。

 

一騎先輩も俺と同じ……理由の方向性はやや異なるが、ファフナーへの搭乗を禁じられていたはずだ。

そんな状態にも関わらず、俺と同じようにファフナーに搭乗してここに居る……いや、今にも意識が吹き飛びそうになっている時点で、俺より何百倍も戦力になる人かも知れないが。

 

でも、だからこそだろうか、そんな戦場にいてもらえるだけで安堵感を与えられるレベルのエースに『頑張ったな』と言われたことが素直に嬉しかった。

 

 

『修哉、まだ動けるか?』

 

「はい……まだ、行けます…!」

 

『なら、カノンのことを頼む』

 

 

一騎先輩の問いに、俺はツヴァイの体を起こし、ルガーランスを握り直しながらそう答える。

正直、今すぐにでも意識を手放し、気を失うことが出来ればどんなに楽かとも思える。

 

けれど、俺が一人倒れるだけでも更に戦力が低下する、そうなればカノン先輩が戦闘不能になった今、島は確実にフェストゥムに食い尽くされてしまう。

芹が、姉ちゃんがいる島を失ってしまう。

そんなこと、無理矢理にでも意識を覚醒させてでも阻止しなければと、その一心だった。

 

 

「一騎先輩は、どうするんですか…?」

 

『俺は……あいつの相手をしないとな……』

 

「あいつ……っ!?」

 

 

ここを任せてもらえるのなら、その期待には全力で応えるつもりだ。

だが、だとすれば一騎先輩はこれからどう戦うつもりなのかが気になった俺はそれを尋ねてみるが、一騎先輩の言葉を耳にしながらザインのメインカメラが向いている方向に視線を向けることで、その疑問は解消された。

 

そこには、一機の……恐らくはファフナーが居た。

紫色の体に、腕や肩、腰辺りに同化結晶を思い出させる緑の鉱物のようなものが付いており、ツヴァイと少し似た翼も合わさって、まるで悪魔の様な姿。

存在するだけで飲み込まれそうになる圧迫感、そして凶悪な力の片鱗が、ただ空中に静止しているだけだというのに溢れ出ている。

 

あいつはヤバイと、俺の人間……いや生き物としての本能がそう告げていた。

 

 

『じゃあ…頼んだぞっ!!』

 

「一騎先輩!!」

 

 

言うやいなや、マークザインは背部のスラスター……俺や遠見先輩のようなエンジン然としたそれではないが、推進力を得るための機構を発光させたかと思えば、凄まじい加速とともに紫色の悪魔の様なファフナーに突っ込んでいく。

 

紫色のファフナーも、マークザインの突進を真正面から受け止める。

そして、二機はそのままの勢いを保ったまま、空高く飛翔していく。

 

ツヴァイやジーベンの飛行能力と同等……いや、それ以上にも見えるそれにより、二機の姿はあっという間に見えなくなる。

そして、二機のその動きに追従するように、フェストゥムが動き始めた。

 

 

「なんだ……? あの二機を……追いかけてるのか?」

 

 

ついさっきまで島を攻撃していたフェストゥムの群れが、突如その全てがマークザインと紫色のファフナーを追いかけるように空に舞い上がっていく。

逃げる? いや絶対に違う、あり得ない。

 

島を襲っているフェストゥム全てが、二機のスラスターが描く軌跡を目指すように、飛んで行くのだ。

どういう理屈なのか、何の目的、意味があるのかは分からない……だが、島への攻撃は確かに止んだ。

一騎先輩からは、カノン先輩の事を頼まれはしたが、今の俺は次々と空へ上がっていくフェストゥムが急に方向転換してこっちに襲いかかってこないか警戒するくらいのことしか出来なかった。

 

 

果たして、島を襲ったフェストゥムの大群は、そのままその姿を空の彼方へと消してしまった。

島が助かったという事実、自分が生き残ったという事実のみをそこに残し。

 

ーーーしかし、一騎先輩の乗るマークザインが戻ってくることはなかった。

 

 




???「戦場でなぁ! 恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはな、瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞なんだよぉ!」


シュウが絵梨と芹の事を呼んでる所を書いた時、ふと思い出しました。
なお、まだ恋人でも女房でもない模様。



さてさて、大人視点では何やら不穏な動きが・・・
どうでもいい事かもしれませんが、劇中で復活したニヒトを一目見て、一発で理解する保さん半端ないですよね。
待て待て、無印で出てきたのとほぼ完全に別もんじゃねぇかと・・・
さっすが竜宮島のエンジニアやで。。。


で、短いですが芹ちゃん視点。
前回の嫁とか、俺の子産んでくれの件はバッチリ見てました。
そりゃあもう真っ赤っ赤ですよ。

まぁ、それ以前に内の主人公の寿命がファフナーとか関係なくマッハなんですけど。


そして、これまた短いですが暉視点。
マークフィアーをちょこっとだけだしてます。
本当ならフラグクラッシャー甲洋さんには修哉を助けてもらおうと思ってましたが、咲良も助けに行かないとダメですし、位置的にあれかなと思いまして。

劇中でフィアーが出てきた時、目頭が熱くなったのは私だけではないはず。。


そして最後、戦闘終了までを修哉視点で。
なんかもう、本当に今にもいなくなりそうな、電池切れかけの状態です。
でも、まだ第二次蒼穹作戦も残ってるわけで。。。

一騎に助けてもらう形になり、久しぶりの主人公同士の絡みですが。。。
この2人揃いも揃ってホントならファフナーに乗っちゃダメなんですよね。


さてさて、次回でこの章もお終いです。
このままラストまで頑張っていきますよ~







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