第二話です。
しばらくは日常会が続きますね。
劇場版本編に入るのは後4~5話くらいですね。
本編の方も、完全に辿る形にはならない予定です。
夏の煉獄地獄から一転して、喫茶店『楽園』の店内は適度に空調が効いていることもあり、快適そのものだった。
さて、海岸を目の前にしたこの喫茶店、ここ一年ほどでかなりの人気店になっている。
いや、別に以前は閑古鳥が鳴いていたとか、そういう事ではないのだが、とある理由から老若男女問わず様々な層に利用される人気店に格上げされた。
人気の理由の最たるところは、やはりと言うか食事処としては最も肝心な部分、料理の味だ。
この点が、以前とは比べられないほどにレベルアップしたことにより、客層は勿論だが、客の絶対数が増加したというわけだ。
今ではアルヴィス内への出前をすることもあったりなかったりするほどだそうだ。
「いらっしゃーい」
「いらっしゃいませー♪」
扉を開いたことで鳴り響く鈴の音とともに、店内からは全く種別の異なる声で来客を持て成す挨拶が飛んできた。
一人は男性の、野太いが頼れる大人らしい安心感がある声。
そしてもう一人は明るく、耳にする者に安心を与えてくれるような女性の声。
野太い男性の声は、この喫茶店のマスターである
いつも飄々としつつ、おちゃらけた掴みどころのないおっちゃんだが、非常時は戦闘機を飛ばしたり、どデカいライフルを担いで戦ったりと、聞いただけの話ではあるが頼りになる人だ。
アルヴィスの責任者、真壁司令とは古い友人でもあり、司令にとっては懐刀のような存在でもあるらしい。
で、明るい女性の声は、アルバイトの
パイロットとしての力は映像越しでしか見たことがないが、長距離射撃の腕は素人の目から見ても怪物クラス。
可憐な女性だが、その実は凄腕スナイパーというギャップもあってなのか、男女問わず……そう男女問わず人気のある人だ。
そして、苗字からも分かるかもしれないが、さっき俺を診察してくれた遠見先生の娘さんでもある。
「って、修哉に芹のお嬢ちゃんじゃねぇか。なんだなんだ、またデートか? んん?」
「またってなんですか溝口さん。俺達、デートなんてしたことないっすよ」
「そうですよ、溝口さん。私は乙姫ちゃんに会いに行くついでにシュウを拾ってきただけなんですから」
「知らぬは本人ばかりなりってなぁ……お前ら、島の住人から生暖かい視線を……あぁ、やっぱやめだ。こいうのは大抵言っても通らねぇのが定番だしな」
「なぁ芹、これってひょっとしなくても馬鹿にされてるのか?」
「シュウが、でしょ?」
何故か俺だけが馬鹿にされていることになった。
まったく、溝口さんも会うたびに同じようにからかって来るんだからなぁ……若いものをからかう、これも大人の楽しみの一つってことか。
というか、島の人たちからの生暖かい視線ってなんだよ……
「も~、溝口さんはまたそうやって人をからかう。若い子を弄って楽しんでると老けちゃいますよ」
「うへぇ…嬢ちゃん、最近言うことに容赦がないんだから……」
「はいはい、溝口さんはほっといて、修哉くんと芹ちゃんはこっちの席ね」
「どうもです、遠見先輩」
どうも遠見先輩には弱いらしい溝口さんは、先輩にそう言われるとそそくさと退散してしまう。
まるで父と娘の様な形にも見えてしまい、このやり取りを見るのが、俺は好きだった。
この島には平和を感じさせるものが数多く残っているが、人間同士のこういったのんびりしたやり取りの中にこそ、それを強く感じる気がする。
と、なんとも爺臭い言い方になってしまった。
こういう所が、里奈や広登に『おじいちゃんみたい』って言われてしまう原因なんだろうか。
「あれ……お客さんか?」
「あ、一騎くん。うん、修哉くんと芹ちゃんだよ」
そんなことを考えながら用意されたカウンター席に座ったところで、店の奥からもう一人の従業員、この店の株を上げた立役者が姿を見せた。
やや頼りなさ気な足取りで調理場に入るのは、
遠見先輩とは幼馴染、同級生であり、この喫茶店『楽園』の調理のアルバイトをしている。
この先輩の作る料理のレベルの高さにより、『楽園』は集客率を一気に上げたと言っても過言ではないだろう。
そして、遠見先輩同様、前の戦いではファフナーパイロットとして、特番機マークザインを愛機に竜宮島のファフナー部隊のエースパイロットを務めた英雄でもある。
2年前の竜宮島へのフェストゥム襲来の際も、一番初めにファフナーに搭乗して敵を退けた。
それ以降からパイロットとして活躍されていたが、ファフナーに乗ることで進行する同化現象が度重なる戦闘で悪化し、蒼穹作戦終了後、1年間も昏睡状態となっていた。
意識を取り戻してそろそろ1年経つが、現在も学校は休学し、リハビリも兼ねてこの喫茶店でアルバイトをしているそうだ。
同化現象の進行は遠見先生の治療により軽減されているらしいが、視力の方はほぼ失われている状態らしい。
ファフナーに乗る前の一騎先輩を知っているだけに、現在の先輩は別人のようにも見えてしまうが……なんとなく、昔の一匹狼っぽさが薄くなったような、親しみやすくなった気もする。
「ども、お邪魔してます一騎先輩」
「今日も一騎カレー食べに来ちゃいました」
「いつもありがとな。すぐ用意するから、ちょっと待っててくれ」
以前より柔らかくなった物腰で俺達に対応すると、一騎先輩はすぐに料理の準備を始める。
視力があまりない状態で料理ができるものなのかと疑問に思ったこともあるが、先輩に実際に聞くと『目の代わりに手が教えてくれる』との事らしい。
事実、これまで何度もこの喫茶店で先輩の料理にお世話になっているわけだが、その全てがレベルの高いものであることから、疑う余地もないことだった。
「一騎カレー、二人前っと。修哉くんは…」
「あ、今日は並…」
「シュウのは小サイズでお願いします、遠見先輩」
「ふふ…はーい、修哉くんの分は小サイズ…っと。承りました。少々お待ちくださいねー」
芹さん、なんぞ俺に恨みでもあるんでしょうかねぇ……。
今も、『何よ?文句ある?』みたいな顔してるし。
いや、まぁ別にいいんだけどさ、こう……これじゃあ俺がこいつに負けてるというか、尻に敷かれてるみたいじゃん。
溝口さんも隅のほうで必死に笑い堪えてるしさ。
「そう言えば、修哉くん今日はお母さんのところ行ってたの?」
「えぇ、定期検診で。それが終わったんで、ここでお昼食べてから生徒会の方に顔出そうかと」
「あー、そっかぁ。夏祭りの準備とかで忙しくなる時期だもんね」
「また会議の時は此処にお邪魔することになると思いますよ」
「う~ん……会議室になっちゃうのはアレなんだけどね……沢山注文してくれると嬉しいかな♪」
そんな俺の様子に気が付いてなのか、遠見先輩が会話の方向を転換してくれた。
遠見先輩は人のことをよく見てるというか、何でもお見通しって感じなんだよな。
それでいて色々気を使ってくれたりして……。
あぁ~…里奈と暉が遠見先輩にお熱な理由がちょっと分かった気がするわ……やっぱ、優しいお姉さんって最高だ。
だからと言って、実の姉から食事を食べさせてもらうことを許可するつもりは全くないが。
「二人は夏祭りはどうするの? 一緒に回ったり?」
「私は神社のお手伝いがありますから……特に考えてなかったんですよね…」
話の流れから、今年の夏祭りの話になったが、芹は今年も神社の方を手伝う予定らしい。
去年も同じようにしてたし何となく予想はしていたが、祭りの準備も合わせると何気にこいつ生徒会の中で一番忙しいのか?
俺も祭りの準備は手伝うが、力仕事じゃなくて情報端末弄りながらあれこれ口出すだけだしなぁ……。
……よし。
「手伝いって言っても最初だけだろ? なら、出店とか回ろうぜ。灯篭流しとかもあることだし」
「え、いいの? ちょっと待たせちゃうけど……で、でもそれって二人で…」
「俺はどの道、祭りの準備終わったらちょっと家で休憩するからな。時間経ってからお前迎えに行って、広登たちと合流すれば丁度いい。もちろん、芹がそれでいいならなんだけど」
「あー……ううん、全然それでいい! みんなで行こうよ!」
「オッケー。なら決まりだ、後でみんなにも相談しとこう」
遊びに誘ってやることくらいしか出来ないが、これでちょっとは芹も夏祭りを楽しむ時間が出来るだろう。
と、俺が一人で納得していると、何故か遠見先輩と溝口さんが呆れたような表情を浮かべてこっちを見ている。
え?あれ? 今俺結構いい感じにフォローしたつもりだったんだけど……え、なんか間違ったてた?
芹も喜んでくれてたっぽいんですけど、何故そんな『あぁこいつ、やっぱ分かってないわ…』みたいな視線を俺は向けられてるんですかね?
頭の上に疑問符を並べていると、溝口さんと遠見先輩が近付いてきて小声でそっと呟いてくる。
「お前なぁ、なんでさっきのタイミングで『俺と二人で回らないか?』みたいな台詞が出てこねぇんだよ~」
「そうだよー、折角私もアシストしたのに…」
「いやいやいや、だって夏祭りっすよ? 大人数で回ったほうが楽しいじゃないですか」
「いやいやいや、じゃねぇの。あーもう、お前さんたちを見てるとこう、背中が痒くなるというか、もどかしいというか……」
なぜか、二人にそう捲し立てられる俺。
いや、俺に一体どうしろと……と、不思議がってる俺を見るや、溝口さんは天を仰いでしまう。
何故だろう、特に悪い事してるわけじゃないのに罪悪感に襲われるのは。
「? さっきから三人で何こそこそ話ししてるんですか?」
「あ、あはは……た、大したことじゃないから。ね、ねぇ溝口さん?」
「そうそう、修哉の坊主はヘタレ以前に朴念仁って話をしてただけだよ」
「あ~、確かにシュウは朴念仁ですね」
「何で俺はメシ食いに来て精神的ダメージを負っているんだ……」
こそこそ話をしていた俺達三人に対して、怪訝そうな表情を浮かべる芹だが、遠見先輩と溝口さんの言葉にひどく同感との様子。
うんうんと頷き、滝瀬修哉をdisり隊に入隊されてしまった。
そして、芹は俺の朴念仁(らしい?)エピソードをあれやこれや、というかよくそんなに覚えてるなというレベルで次々と並べてくれる。
これだから幼馴染はと、若干苦々しい気にもされたが……何となく、芹が楽しそうに話しているっぽいので止める気にはならなかった。
……代わりに、遠見先輩と溝口さんの滝瀬修哉株の値は最安値を更新してしまったが。
この中々にユーモラスな空間、あぁ、嬉しすぎて目からしょっぱいものが流れてきそうだ。
「お待ちどう様、修哉の一騎カレー小サイズ……って、何で修哉の居る方からドンヨリとした空気が流れてるんだ?」
「あぁ、一騎先輩……いえ、ちょっと自分のダメさ加減を突き付けられて凹んでるだけですよ…」
「そ、そうなのか…? 途中までしか聞いてなかったけど、夏祭りの話をしているだけかと……その、なんだ…元気だせよ?」
芹のトークに花が咲いている中、ゆっくり料理をカウンターに出してくれる一騎先輩。
今は一騎先輩の優しさが身に染みます……。
そう言えば、一騎先輩たちも夏祭り行くんだよな……もう予定とか決まってるんだろうか。
「夏祭りですけど、一騎先輩はどうされるんです? もう予定決まってるんですか?」
「いや、特にこれといって……あ、そうだ。遠見、よかったら一緒に夏祭り回らないか?」
「ふぇ!? か、一騎くん?」
「もちろん、遠見の都合が合えばだけど……」
「つ、都合なら大丈夫だから! 私もその……一騎くんと行けたら嬉しいって…」
「そっか、だったら良かった」
お、一騎先輩から遠見先輩を誘うのか……てっきり逆になるかと思ってたんだけど。
一騎先輩からのお誘い、遠見先輩テンパってるけど満更でもなさそうだなぁ……いつも一騎先輩を支えようと一生懸命みたいだけど、やっぱりそういう事なんだろうな。
いやはや青春だねぇと、また爺臭い事を考えていると、溝口さんから『お前も一騎を見習え』みたいなアイコンタクトが飛んできた。
いやいや、これは一騎先輩と遠見先輩の関係性的に当然の帰結であって、俺と芹には当てはまらないと思うんですけど……。
ともあれ、日頃から頑張っている遠見先輩が報われるのは非常にめでたい事で--
「実はカノンから誘われてたんだけどな、どうせなら遠見もどうかと思って誘ってみたんだけど良かったよ」
「え」
「やっぱり、祭りは皆で楽しむものだしな」
「……あはは、うんそうだよね。何となく分かってた」
………何となくだけど、さっき俺が責められてた理由がちょっと分かったような気がした。
そんなことを考えながら、俺は今日も相変わらず絶品の一騎カレーを口に放り込んだ。
今回のお話は夏祭りのシーンに合わせてみました。
まぁ、あくまでこんな感じで皆一緒のところにいたんだろうなぁという妄想でございます。
一騎達は燈籠流ししている時は神社の境内にいましたしね。
話は変わりまして、EXODUSに入って人類軍側のファフナーが随分様変わりしましたね。
デザインが一新され、1期で出てきたグノーシスモデルとはなんだったのか……
今のところ、メガセリオン・モデルの後継機であるトローンズ・モデルの隊長機が1番でございます。
ではでは、また次回…