蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

18 / 33
ファフナー円盤3巻買ったやで~
もうこれだけが楽しみですわ・・・

今回は芹→シュウ→広登→芹
の視点でお話を進めてまいりますよ。

ここまで長かった。本当に・・・





たとえ私がそこにいなくても -Ⅱ-

昔から私にとって竜宮島の山の中は遊び場所の一つだった。

皆で遊ぶにはやや地形が適していないし、迷ってしまう可能性もあるから、基本的には来るときは一人のことが多い。

昔は趣味の一環、最近は乙姫ちゃんに見せるための昆虫採集。

日もまだ出ていないような朝早くから家を出て、やや冷たい空気を肺に取り込みながら歩く山の中はただただ静かで、その道中も私にとっては楽しみの一つだった。

 

けれど、今日は朝早く来たわけでも、虫捕りに来たわけでも、楽しい気持ちを抱いてここに来ているわけではなかった。

 

山の中にある、海が見える開けた場所。

私の目に広がっていたのは、石と土で作った簡素な墓標、それも一つではなく、数十にも上る数。

それら全て、私が作ったものだった。

 

前回の戦闘で、私はフェストゥムが何を言おうとしていたのか理解してしまった。

『痛い助けて』と苦痛と悲しみに満ちた表情で呟くフェストゥム、それを見て私は何と戦っているのか、今まで敵として滅ぼしてきたフェストゥムと、私達人間がどう違うのか分からなくなってしまった。

 

戦闘が終わって、ファフナーブルグで私の帰りを待っていてくれたシュウの姿を見て、思わず縋り付くようにまた抱き付いてしまった。

戦闘前はもっと明るい気持ちでそうしようと思っていたのに、帰って来たよ、頑張ったよ、大丈夫だったよって……シュウを安心させるつもりだったのに。

安心したがって、縋り付いたのはまた私で。

 

シュウも、私の様子がおかしいことに気がついたのか、黙ってそれを受け入れてくれた。

でも……いつもなら、シュウにそうしてもらっているだけで、ホッとすることが出来て、安心できていたはずだったのに、まだ私の頭の中からフェストゥムの苦痛に歪む表情が消えることはなかった。

 

痛みや苦しみを感じることを、フェストゥムが学習しただけだと、そういう現象なのだと思うべきなのかもしれない。

 

あの苦しんでいたフェストゥムに乙姫ちゃんなら、乙姫ちゃんはどうしていたかと考えもしたが、私自身に出来ることが思いつかない。

そんな時、ふと脳裏に浮かんだのが墓を作ることだった。

私、私達が葬ってきたフェストゥムの墓を。

 

 

「驚いたな…敵との対話を望んだ者は知っているが、敵の墓標を作った者は初めてだ…」

 

 

出来上がったフェストゥムの墓の前で、ボーッとそれを眺めていた私に声が掛かる。

こんな場所に来る人がいるのかと思い、振り返ると……そこには真壁司令が立っていた。

 

真壁司令は私の作った墓標を見つめ、珍しく驚いたような色の声でそう言った。

フェストゥムの墓を作ったこと……こんなことして怒られてしまうだろうか、と一瞬思ったが、私自身不思議と間違ったことはしていないと感じていたからか、変に身構える事はなかった。

加えて、真壁司令は特に私を叱責するわけでもなく、墓標を一つ一つ確認するように辺り一帯を眺めている。

 

 

「乙姫ちゃんは敵にも伝えようとしてました、皆の悲しい気持ちを。……でも、私は何も出来なくて」

 

 

いつに間にか、私は真壁司令相手に自分のどうにも出来ない無力感のようなものを吐露していた。

けど、実際私に出来ることなんて、こうして墓標を立てて弔うことだけ。

 

島の全てを慈しんで、守るような力も、好きな人の心を一瞬で救う魔法も使えない。

なんと無力で、自分が如何にちっぽけな存在なのかということを突き付けられている気分だった。

 

 

「おかしいですよね…こんなの」

 

「……いや、味方の死は背負うことが出来る……だが、敵の死は刻み込むしか無い…永遠に」

 

「真壁司令……人間とも戦ったんですよね…」

 

 

真壁司令の言葉に、墓標を作ることしか出来ないと思っていた自分が少しだけ救われたような気がした。

いや、戦争を…人類同士の戦いを経験したことのある人の言葉だからこその重みを感じたからだろうか。

 

真壁司令は静かに私を見る、それに答えるように、私自身も俯き加減だった顔を上げ、向き直る。

司令がなんの用もなくこんなところに、私にわざわざ会いに来るわけがない。

 

多分、私に用があったから足を運んだのだろう。

 

 

「私に用があったから、ここに来られたんですよね」

 

「…あぁ。恐らく、君にしか出来ないことだ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

陽が沈んでからどれくらいだっただろうか、ふとそう考えて自分の部屋の時計を見ると、21時を少し回ったあたり。

竜宮島の上空に現れたフィールドの影響で、太陽の光が以前に比べて感じにくくなってしまったが、微かな光であっても時間の感覚を思い出すのに不便はない。

 

時計を確認した後、小さくため息を吐いてベッドに横になる。

俺は一体何をしているんだと、こうしてベッドに体を投げ出せている状況を恨めしく感じてしまう。

 

遠見先生に突き付けられた現実、戦っても、戦わなくても死ぬという自分の未来。

今は投薬によって病状は落ち着いているし、歩くことも普通にできる。

だがそれも、やはり一時的に体を誤魔化しているに過ぎない。

 

もうファフナーに乗らせてもらえない、戦わせてもらえない、守らせてもらえない、意味のある死を選ばせてももらえない。

どうせ、どこまで行っても結果は同じだというのに。

自分勝手なことを考えているという自覚はあった……でも、今の自分の置かれた状況がもどかしかった。

 

だからこそ、今日も出撃前にファフナーブルグへ向かい、勝手に乗って勝手に戦ってやろうとさえ思っていた。

が、ブルグの扉が開いたと同時に、ジト目の芹が視界に飛び込んできた瞬間、俺の子供染みた計画は失敗に終わったと確信した。

まるで俺のやることなどお見通しだと言わんばかりに、ジト目から満面の笑みに表情を切り替え、『見送りに来てれくれたんだよね? ね?』と、背後に阿修羅のオーラを具現化させん勢いで凄まれた。

 

思わず何回も頷いてしまった俺の完全な敗北だった。

 

 

「(何だあいつは……エスパーなのか? あと凄く怖かった)」

 

 

いや、まぁそれはいい。

結局、芹を見送るだけになってしまったわけだが、出撃前のあいつは妙にくっ付きたがるというか、積極的というか。

いつかの時とは違って、あんなにはっきりと大胆に抱きしめられて、ビックリしたとかそんなレベルではなかった。

 

そして、抱きついてきたあいつが、離れる間際に俺に言ったこと。

『シュウはここにいていいんだよ』というあの言葉が、あいつが戦っている間もずっと、頭から離れなかった。

 

どうして…あいつは俺なんかのことを、そこまでハッキリと肯定してくれるのかと。

幼馴染だからか? 付き合いが長いからか? 俺の面倒見ることなんか慣れてるからか?

正直、ただただ『いなくなりたい』と思っていたその欲求が、少し揺らいだ。

芹が俺を肯定してくれるなら、それでいいじゃないかと。

 

けれど、それと同時にもう一人の俺が言う、『お前はそうやって自分を芹に押し付けるのか』、『あいつに大変な思いばかりさせるのか』と。

その思考が、更に俺の心に揺らぎを生み出す、俺はどうするべきなのかと、迷いを生み出す。

 

 

「……でも、結局は同じこと」

 

 

芹が俺を肯定してくれても、俺が迷ったとしても……もう何も変わらない。

結果は見えている、既に詰んでいる。

俺は何も出来ず、何も守れず、あいつを残してーーー

 

 

『シュウーーー!!』

 

「え?」

 

 

と、そこで思考が中断される。

俺を呼ぶ声は窓の外から聞こえて来たが、その声の主は今まさに俺の頭の中でその存在を大きくしている奴だった。

 

慌てて窓を開き、二階の窓から家の外を見る。

果たして、そこには声の主が、俺の姿を認めて手を振る立上芹の姿がそこにはあった。

 

 

「お前…こんな時間に何してる?」

 

「ねぇ、ちょっと話できない? 夜のお散歩も兼ねて」

 

「俺は犬かよ……って、もう夜遅いぞ?」

 

「わかってる……けどお願い! 大切な……大切な話なの」

 

 

どこか必死に見える芹の様子に、俺は違和感を感じるが、心当たりならあった。

昨日の戦闘から帰って来た芹は、コクピットブロックから出るなり俺に抱きついて来た。

出撃前のそれとは違う様子に驚きはしたが、落ち着いて話を聞けば、以前話していた『フェストゥムが言おうとしていた言葉』を理解できたらしい。

『痛い助けて』、そう苦しげに話すフェストゥムを見て、どうしていいか分からなくなってしまったのだという。

 

芹のような命への感受性が強い奴なら、仕方のない事かもしれない。

その後、落ち着くまで芹の好きにさせていたが、やはりまだ吹っ切れないのだろうか。

……なんであれ、あいつの気持ちを楽にしてやれるなら、俺にそれを拒む理由もない。

 

 

「……ちょっと待ってろ、すぐ行くから」

 

「うん!」

 

 

俺の答えを聞いて、笑顔でそう返す芹を見て、心臓がやけに大きく鼓動したように感じた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

海岸線を、芹と二人で歩く。

太陽と同様、月明かりも普段と比べるとやや少ないが、人工の光があれば歩く分には全く問題はない。

そう、そんなことは取るに足らない些細な問題だ。

 

俺にとって、芹からこうして呼び出され、真剣な表情で伝えられた話の内容のほうがよっぽど問題だった。

 

 

「コアの……代替者…?」

 

「うん、乙姫ちゃんの成長期が終わるまで、補助するんだ。フェストゥムからの攻撃の負荷から、乙姫ちゃんを守るの」

 

「岩戸に…入るつもりか?」

 

「そう」

 

 

芹は静かにそう答える、明日から自分がコアの代替者となって岩戸に入るのだと。

それは真壁司令からの依頼であること、島の大人たちにとっても苦渋の決断であること、既に承諾の意志を伝えていることも。

 

コアを補助するために、ワルキューレの岩戸に代替カプセルが用意され、芹がそこに入ることで、かつて乙姫がそうしたように島と同期する。

コアの成長を妨げるフェストゥムの攻撃と、島上空の現象から乙姫を守るために。

芹は、なんの迷いもなさそうな表情で、俺にそう告げたのだ。

 

 

「お前、分かってるのか? お前も、乙姫と同じように消えるかもしれないんだぞ!」

 

「それも……真壁司令や遠見先生から聞いた。でも、分かった上で、やるって決めたの」

 

「お前が乙姫を守りたいって気持ちは分かるよ…! でも…!」

 

 

俺は立ち止まり、芹の肩にやや乱暴に手を置いて捲し立てる。

自分でも驚くくらい大きな声が出ているような気がするが、芹は全く動じない。

静かに、真っ直ぐ俺を見つめたまま、視線を外さずに受け止めている。

何故か、芹という人間が、触れれば壊れてしまいそうだと思っていた華奢な女の子が大きく見えた。

 

でも……それでも、俺は芹にそんな危険な事をして欲しくなかった、芹にだけはいなくなって欲しくなかった。

そんな身勝手なことを考えている俺の心を見通しているように、芹は俺の言葉を遮る。

 

 

「違う……確かに乙姫ちゃんを守りたい……その気持ちはあるけど……でも、それだけじゃない」

 

「一体なんだよ…!」

 

「シュウのこと、守りたいから」

 

「っ!?」

 

「乙姫ちゃんの成長が早く終われば、島の力が元に戻れば、シュウは元気になる。だから……」

 

 

俺は絶句していた。

こいつは一体どこまで……なんでそこまでして、俺を救おうとしてくれるのか。

 

そして同時に思い出す、俺がファフナーに乗ることに猛反対した姉ちゃんとのやりとりを。

卑怯な建前と言葉を使って姉ちゃんを黙らせた、無理矢理にでも納得させた。

ちょうど、今の俺の立場はあの時の姉ちゃんと同じではないかと思ってしまった。

 

これが因果応報言うやつか、卑怯な手段で人の意志をへし折った罰なのかと。

そうと分かっていても、俺は身勝手にも芹に反論し続ける。

 

 

「俺なんかのために、お前がそこまですることないだろ……! 俺はもうファフナーにも乗せてもらえない、戦えない、お前を守ることも出来ないんだぞ! それにお前がそこまでしてくれても、俺は…!」

 

「乙姫ちゃんの成長期が終わるまで……保たないかもしれない?」

 

「な、なんでお前が知って……」

 

「……無理言って、遠見先生から全部教えてもらった……シュウが私に隠し事してるって、何となく分かったから」

 

 

あぁ……やっぱりこいつはエスパーか何かなんだと、そう思わされた。

 

俺の体のことを口にした時、ここまで冷静に俺のことを見つめていた芹の表情が曇った。

本当のことを俺が教えなかったことを怒っているのだろうか、俺の死に不安を感じているのだろうか。

 

でも、であれば尚の事分かっているはずだ。

危険を犯してコアを守ってくれたとしても、芹が戻ってきた時には俺はいなくなっている後かもしれないことも。

 

 

「……だったら尚更…どうしてだよ…! お前が頑張っても、俺はダメかもしれないし、島の役にも立てやしない! そんな奴のために、お前がそこまでする理由なんて…!」

 

「理由なら、ちゃんとある」

 

「どんな理由だよ…! お前は俺とは違うだろ……もっと、もっと生きられるんだ。その権利を捨てるだけの理由なんか…あるはずないだろ!」

 

「……言葉じゃ、上手く言えないから……行動で示させて」

 

「行動って…っん!?」

 

 

不意を突かれた、と言い訳をするのであれば、その一言に尽きる。

芹の肩に手を置いて話していたこともあって、俺達の距離はかなり近かった、頭では反応できても体を動かすことは出来なかった。

 

病室で芹が無防備に寝ていた時、やけに目についた芹の唇が、俺のそれに押し当てられている。

芹の唇が、暖かく柔らかいそれが、こいつの存在をいつもとは全く違う形で、より強烈に感じさせる。

 

キスされているのだと、頭がそれを理解するのにどれくらいの時間がかかったのか。

具体的な数字にするなら数秒の事だったろうが、俺にはその何倍もの時間に感じられた。

 

 

「ん…」

 

「お、おまえ…いきなり…」

 

「……その、はじめてだったらゴメン……で、でも私もそうだからその……」

 

 

唇を離した芹の顔は、さっきまでとは打って変わって真っ赤で、相当な勇気を振り絞ったことくらいは俺にも分かった。

された側の俺自身、確実に耳まで赤くなってしまっているだろう。

 

芹の上気した表情に、潤んだ瞳、さっきまで俺とキスしていた唇、その全てから目が離せなくなった。

 

 

「これが……私が頑張れる理由」

 

「……芹」

 

「シュウ……私は…あなたの事が好きです」

 

 

顔を赤くしながらも、芹は静かに、そして迷いなく俺にそう伝えてくる。

これが自分の気持ちだと、だから私は決めたのだと、その気持ちさえあれば何でも出来るとでも言いたげに。

 

そんな言葉を受けて、俺は何も考えられなくなった。

俺にとって、芹はどういう存在なのかという疑問はここ最近ずっと頭にあった、消えることもなかった、だから頭の隅に追いやっていた。

時間が解決してくれると、そのうち答えは出るだろうと思って、考えることすら途中で止めていた。

 

 

「ずっとずっと……もういつからか分からないけど……ずっと好きだった」

 

「………」

 

「シュウのことが好きだから、シュウを守りたい、元気になってもらいたい」

 

「……」

 

「私は、シュウとの未来が欲しい。生きて、シュウと一緒にいたい。だから、その為ならどんなことだって出来る」

 

 

なんで、お前はそこまでハッキリ言えるんだ、なんでそんなに強いんだ…?

俺は、お前が好きだと言ってくれても、どんな答えをお前に返せばいいのかも分からない。

 

答えが出せない、どうすればいいのか分からない。

そんな風にうだうだと迷っている、不甲斐ない自分にイライラして、情けなく思って。

俺の心はどんどんグチャグチャになっていく。

 

 

「芹……俺は」

 

「待って」

 

 

続く言葉は何も考えていなかった、とにかく何か話さなければと思って口が勝手に動いていた。

けれど、芹はそれを見通していたのか、俺の口に指を当てて続きを遮る。

 

それ以上は言わせないと、今は言ってはいけないとでも言いたげに。

 

 

「答えは……私が帰って来た時に聞かせて?」

 

「え…?」

 

「シュウが答えを出せないのは分かってたから……だから、この戦いが終わって、私が帰って来たら教えて欲しい、シュウの気持ち」

 

「でも…俺は」

 

「だから! いなくなったりしたら、ダメだから……!」

 

 

芹は俺に二の句を継げさせないように、そう言葉を切った。

『俺はもういないかもしれない』という言葉を、俺の口から出させまいと。

何が何でも、是が非でも生きろと、芹がそう懇願している。

 

ついこの前までは、芹を安心させるためだけの嘘を吐いて誤魔化していた。

そうすることで芹が一時でも安心してくれるならそれでいいじゃないかと、そんな自己満足と自分への言い訳だけ残して。

けれど、今の芹にはどんな嘘も通用しない、そんな確信があった。

 

きっと、芹だってコアの代替者になることに不安くらいあるだろうに、俺のことばっかり……!

 

 

「芹……!」

 

「わっ…」

 

 

頭で考えるより先に、体が動いていた。

俺から芹を抱きしめたのは初めてだったが、何の躊躇いもなかった。

ただそうしたいという思いが、芹を失いたくないという思いがハッキリとそこにあった。

 

 

「ごめん…俺…お前に何も言ってやれないから……だからごめん、情けなくて…」

 

「初めてだね…シュウの方から抱きしめてくれるの……」

 

「……嫌だったら突き放してくれ…」

 

「嫌なわけない……こうしてもらえるだけで、私は幸せだから…」

 

 

芹もまた、おずおずと、だがしっかりと俺を抱き返してくる。

彼女の心臓の鼓動と体温、ここ最近はずっとそれに安心をもらってばかりだ。

 

俺は芹に何の答えも出せていない…答えを持てていない。

芹にどんな返事をしたいのか、そもそも返事を返せるのかも分からない。

でも、『守らなければと』、『守りたいと』、初めてファフナーに乗った日の海岸線で、弱音を吐きながら、涙を流しながら震えていた芹を抱きしめた時に感じたものより、もっと強烈にそう思った。

今この腕の中にある何よりも暖かくて、俺を想ってくれている芹を失いたくなかった。

 

ただ単に、いなくならなければと思っていた 、ただそれだけだった、それしかなかった。

だけど今は、それだけじゃないと思える自分が、そこにいるような気がした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ワルキューレの岩戸、そこには今、据え置かれている人工子宮とは別に、もう一つのカプセル型の装置が設置されていた。

島のコアを補助する、代替者の入るカプセル、今から、芹が入ることになるカプセルだった。

芹の体が、複数の器具によってカプセル内の機構に接続されていく様は、二年前に乙姫を見送った時のことを嫌でも思い出させた。

 

俺、堂馬広登が『芹がコアの代替者となって岩戸に入る』という事実を知ったのは、今日の朝の事だった。

もちろん、芹には反対もした、危険だ、やめろと。

 

けれど、芹は何も迷うことも怖れる様子もなく、それを拒否した。

 

 

『私がそうしたいって思って、考えて、決めたことだから』

 

 

そう言う芹の表情は、ここ数週間の芹と比べるとまるで別人のようで……俺はそれ以上何かを言うことが、止めることが出来なかった。

 

岩戸には、真壁司令や遠見先生はもちろん、剣司先輩や咲良先輩たち、当然、里奈や暉もいた。

そして……

 

 

「………」

 

 

真っ直ぐ、芹を見つめる修哉の姿。

ここにいる全員がそうであるように、アルヴィスの通常の制服ではなく、儀礼用の特別な服に袖を通し、真剣な表情で芹を見つめている。

 

修哉がファフナーに乗ることが出来なくなってから、会うことが少なくなったが……正直なところ、俺としては助かっていた。

未だに修哉に対する一方的な嫉妬心と黒い感情を消すことが出来ない俺だ、いつまた修哉と衝突して理不尽な言葉を並べてしまうかもしれないと、想像するだけで怖かった。

 

 

「代替者がコアの負荷を軽減できるのは、数週間が限度です」

 

 

遠見先生がここにいる全員、芹も含めた全員にそう告げる。

代替者用のカプセルの準備が整い、苦渋の表情の遠見先生が機材を操作すると、カプセルの中に赤い液体が注ぎ込まれ始める。

島のコアが眠る岩戸の中を満たしているものと同じ液体が、徐々に芹の体を包んでいく。

 

コアの負荷を軽減させる代替者、その役割を担う意味と危険性、そしてその役割を芹に負わせ、見ていることしか出来ない自分に憤りを感じる。

剣司先輩も思わず目を逸らしていた。

 

だが、俺は剣司先輩よりも修哉の姿を見て言葉を失った。

修哉の握った拳から、血が滲み出ていたのだ。

一体どれくらい強い力で握っているのか分からない……自分の、ただ見ていることしか出来ない無力感に、修哉も憤っているのか。

でも、それは憤りというレベルではなく、俺には修哉が自分自身への激しい憤怒を必死に抑えこんでいるようだった。

 

 

そして、赤い液体が芹の顔まで差し掛かった時、芹が微笑みかけたように見えた。

その先にいたのは、やはりと言うか……悔しいことに、修哉だった。

 

 

「芹……」

 

 

小さく、修哉がそう呟いたような気がした。

そして、それと同時に芹の全身が、カプセルの中が、赤い液体に満たされ、コアの代替者としての活動が開始される。

これで、芹は数週間はこのまま……俺達と直接話すことも、自由に動くことも出来ない。

 

 

「……」

 

「シュウくん……」

 

 

芹の体が赤い液体に満たされ、代替者機能のすべてが機能を開始した事を確認したところで、誰よりも早く修哉はその場から踵を返し、岩戸から出て行った。

修哉の隣にいた絵理さんが、心配そうに修哉の後を追う。

 

すれ違いざま、修哉の表情はよく見えなかったが、いつものあいつの雰囲気ではなかったように思う。

もう戦えないはずのあいつから、今から戦地に向かうような…そんな覚悟のような空気を感じた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

島と同期する。

正直なところ、言葉にしても文字に書いても、具体的にどうなるのかという解答欄を埋めることは出来ないと思っていた。

 

代替用カプセルに入って、赤い液体に体が浸かっていく、そして最後の見たのは真っ直ぐに私を見つめるシュウの姿。

『大丈夫、すぐ帰ってくるから』と、小さく微笑んで見せたけど届いただろうか。

そして、私の全てが何かに包まれたという感覚を受け入れると同時に、私の意識はテレビの電源をOFFにしたように一度途切れる。

 

 

『……ここ』

 

 

そして、次の瞬間再度電源を入れられたように、視界がクリアになる。

目の前に広がるのは、青い海、そして見慣れた竜宮島の姿。

 

一瞬、島のどこかに瞬間移動したのかと思ってしまったけど、私の体に感じるいつもと違う何かを認識した瞬間、私はコアの代替者としてあのカプセルに入ったことを思い出した。

体に感じる不思議な感覚、島が私で……いや、私が島の全体を薄い膜を一枚隔てて知覚しているような、妙な感覚だった。

 

でも、次の瞬間、私はそんな感覚など一瞬にして忘れてしまった。

 

 

『芹ちゃん』

 

 

その声は、2年前と全く変わっていなくて。

振り返った私の目に飛び込んできた姿も、何もかもがそのままで。

 

皆城乙姫という存在、私の親友だと理解するのに、時間は欠片ほども必要なかった。

 

 

『また…逢えたね、乙姫ちゃん…!』

 

『うん……』

 

 

二年前に一度サヨナラをした時のように、柔らかい笑みを浮かべながらそこに立つ乙姫ちゃんの姿を見て、思わず涙が出ていた。

 

小さな赤ん坊を抱いた姿は、幼い姿の彼女には不釣り合いにも見えるかもしれないけど、彼女が皆城乙姫という存在であることを思うと、全く違和感がなかった。

島を、島に住むもの全てを見守り、慈しんできた彼女だからこそ、相応しいと思えてしまった。

 

 

『ちょっと背が伸びたね、芹ちゃん……それに、女の子らしくなった』

 

『そ、そうかな…』

 

『やっと、修哉に告白できたんだね。女の子として見違えたのは、その所為かな…?』

 

『うぇ!? なんで知って……って、そっか乙姫ちゃんなら当たり前か』

 

 

多分、乙姫ちゃんはずっと見ていたんだろう。

私を、いや私だけじゃない、この島に住むすべての人達を、ずっと見守り続けてきたんだろう。

 

いやでも、流石に告白シーンまで見られているとは……あ、やばい、急に恥ずかしくなってきた。

 

 

『芹ちゃんの告白シーン、ちゃんと島の記憶領域に保存しておいたから。これで結婚式の披露宴に使う二人の馴れ初め映像には苦労しないよ』

 

『えぇ!? 嘘!?』

 

 

いやいやいや、記録映像として半永久的に残るのは非常に、非常によろしくない。

そういうのは、心の中のファインダーに残しておくからこそ価値が有るものであって……というか、人の目に触れさせるとか考えただけで気を失いそうになる。

 

いや、乙姫ちゃんは私の親友……さ、流石にそんなことしない……しないよね?

 

 

『ふふっ……うそうそ。今の私じゃそんなこと出来ないよ』

 

『な、なんだぁ……ビックリさせないでよぉ…』

 

『あ、でも私が出来ないだけで、この子……島の新しいコアがどうしたかは分からないよ?』

 

『上げて落とされた!?』

 

 

嘘かと分かってホッとしたのもつかの間……悪戯っぽい笑みを浮かべながらそういう乙姫ちゃん。

その表情は、久しぶりにこうしてまともな会話ができたのが嬉しいのか……それとも私とお話出来て嬉しいのか……出来れば後者だと私も嬉しい。

 

と、そんなやり取りを以って、二年ぶりの親友との再会はなされた。

時間制限があることも、これが責任重要な役割だということも分かっている。

けれど、今だけは……この少しの時間だけでもいいから、優しいこの時間に身を委ねていたかった。

 

 

 




エンダァァァァァァァァァ!!


って、流石にこれはまだまだ早いですね。



春アニメ、始まりましたね。
今期の覇権はFateかと思ってましたが……ダンまちがなかなかの好感触です。
ヘスティアちゃん最高や! これは夏の薄い本が厚くなるな(確信)

太もも枠:Fate
おっぱい枠:ハイスクールD×D
松岡くん枠:ダンまち
エロゲ枠:グリザイア

何やこの完璧な布陣……これでファフナーの後半が夏始まってくれればなぁ…

よく考えたら、中の人的にハイスクールDDの中では暉が『おっぱいおっぱい』叫んでるんですよね……うん、考えなかったことにしよう。



さてさて、本編についてです。

一つ目の芹ちゃん視点は劇場版にもあったシーンですね。
あの量の墓を一人で建てる……スピリチュアルやね。


で、シュウ視点……という名の、芹ちゃん告白シーンでございました。
一応予定通りの運びになりましたが、代替コアとなるまでに済ませておきたかったのです。
芹ちゃんにズキュゥゥゥンとされてしまったシュウ(さすが芹!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!)

でもって畳み掛けるように告白する芹ちゃん……絶え間なく行われる絨毯爆撃にシュウが屈するのにそう時間はいらない……

と思ったら、このヘタレ主人公ですよ。。。すみませんねぇ。。。
彼も色々と追い詰められているので平にご容赦を。
芹ちゃんも今は答えをもらえないとわかった上での告白でしたが、シュウがちゃんと返事を返せるのか・・・見守ってやってください。


で、広登視点。
ここでは芹の岩戸入りを見送るところになっています。
劇場版見てる時は、一期思い出すなぁとか思ってましたが、あれってセルフオマージュなんですね。


そして、芹ちゃんと乙姫ちゃんの再会でございます。
さてさて、島のコア(後の織姫ちゃん)は映像記録をとっているのかどうか、それを披露宴に使えと芹にドヤ顔しながら迫ってくるのか・・・


今回、お話が大きく進みましたが、劇場版の中では連続したシーンなんですよね。
分割してもいいかと思いましたが、キリの良い所まで進ませていただきました。

次回は第4回目のフェストゥム襲来でございます。
お話も後半戦ですね、シュウがどうなるのか、広登の暗黒卿の仲間入りは食い止められるのかなど、楽しんでいただければと思います。


ではでは・・・






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。