蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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新年度ですね、新社会人の皆様、ようこそ地獄へ(ニッコリ)

今回は芹→シュウの視点です。
芹がようやく、自身の気持ちに。。。というお話です。


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摩耗していく命 -Ⅳ-

睡眠の質というものを向上させる要素の一つに、就寝前にリラックスした状態になることが挙げられる。

副交感神経を交感神経よりも優位に立たせることで云々~と、小難しい話は置いておくとして、半身浴をしたり、クラシックなどα波を出す音楽を聞いたり、ゆっくりストレッチをしたりするとリラックスした状態になり良質な睡眠が取れるそうだ。

 

シュウが倒れて、丸一日眠った後に目を覚ましたのは今日のお昼。

絵梨さんと一緒にシュウに付き添って夜を明かした所為か、寝不足だったのは事実。

シュウが目を覚ましたことに安堵して、緊張の糸が切れてしまったのか……それともシュウの近くだったから安心したのか、私は今の今まで、夕方に差し掛かったこの時間まで爆睡してしまっていた。

それも、かなりの熟睡っぷり……気持ちのいいくらい深く眠れてしまったようで……いつの間にかシュウのベッドを私が占領してしまっていたという…

 

私が目を覚ますと、病室の椅子に腰掛けながら漫画読んでたシュウと目が合って、一分くらいフリーズ。

シュウは困ったような笑みを浮かべながらも、『おはようさん』と言ってくれたが……私は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。

シュウは病人のくせにベッドを私に明け渡して、布団まで掛けてくれていたようで……その紳士っぷりが逆に辛いレベルだった。

 

その後すぐ、意識を強制的に覚醒させた私は、何か飲み物買ってくるからと病室を飛び出し、今に至るわけなのだが……

 

 

「どうしよう……恥ずかし過ぎて戻るに戻れないよ……」

 

 

シュウに抱きつき、そのまま眠りこけてしまった挙句、ベッドを占領して数時間に渡って爆睡、勿論シュウに寝顔も見られてしまったわけで。

やばい、どんな顔してシュウのとこに戻ればいいか分からない……

 

だ、大体! シュウだってベッド占領された時点で引っ叩くなり、ほっぺ抓るなりして起こしてくれればいいのに!!

というか……シュウは幼馴染とはいえ男の子だ……そんな彼の前で寝顔を晒していたということは、当然ながら完全に無防備。

 

も、もしシュウが私に何か……………って、シュウに限ってそれはないか……

シナジェティック・スーツ姿を初めて、かなり勇気を出してシュウの目に晒した時も普通にスルーされたし。

いや、あれはあれでちょっと腹立つけど……

 

って、何もされなかったんだから普通にホッとしてればいいじゃん!

何でちょっと残念に感じたりしてるのかな私ってば!

 

 

「何一人で百面相してんのよあんたは」

 

「うひゃあっ!?」

 

 

突然掛けられた声に、私は素っ頓狂な声を上げてしまっていた。

どうやら私はかなりテンパっていたようで……周囲に気が回っていなかったらしい。

いつの間にか背後にいた咲良先輩と剣司先輩の存在に気が付けなかった。

 

車椅子に乗った咲良先輩と、それを押す剣司先輩。

いつも通り、もはや島の定番にもなりつつある2人の姿が、そこにはあった。

 

 

「咲良先輩、剣司先輩……どうして…」

 

「…母さんが倒れちゃったしね……着替えとか色々…ね……でも私もこんなだし剣司に連れて来てもらったってわけ」

 

「俺も要先生には色々と世話になりっぱなしだからな……羽佐間先生のことも心配だったし」

 

「あ……」

 

 

そうか、咲良先輩のお母さんも島のコアが成長期に入った影響で……意識はハッキリしてるって聞いてるけど、やはり良くはないみたいだ。

 

島のコア…乙姫ちゃんの成長期がいつ終わるかもわからないし、フェストゥムの攻撃と空を覆う奇妙なオーロラによって消耗してしまっている今。

島の大人たちは……シュウも、危険な状態にあるんだと改めて思い知らされたような気がした。

 

 

「で? あんたは修哉に付きっきりだったはずだけど……こんなとこで面白い顔しながら何したわけ?」

 

「お、面白い顔って……」

 

「もしかして……修哉と何かあったか?」

 

「~~~~っ!」

 

 

咲良先輩、剣司先輩にそう言われ、私は数分前の病室での出来事を再度思い出し、引き始めていた頬の紅潮は一瞬で復活していた。

だ、ダメダメだ、こんな分かりやすいリアクション……!

自分から何かありましたって、自白しているようなものじゃない……!

 

 

「おやおや……まさか二人きりの病室で……?」

 

「ななな、何もないですから!! シュウのベッドで寝ちゃってただけですから!」

 

「「べ、ベッドで寝たぁ!?」」

 

「……あ!? いや、そうじゃなくって! いや寝てたのはそうなんですけど、決していやらしい事はなくて!!」

 

 

一旦開いてしまった穴は、なかなかどうして閉じてはくれない。

私の口から漏れてしまった、病室での一幕の内容が先輩二人にとって衝撃的だったのか、二人の声がシンクロして響く。

 

私は何を口走ってるの!?

いけない……これじゃあ完全に先輩たちに誤解される……!

と、兎に角…!まずは落ち着いて……病室での出来事を一から説明するところから始めよう……

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

説明すると言っても、実際話す内容は大したものじゃない。

単純に寝不足だった私が、シュウの目が醒めたことにホッとして、シュウのベッドを強奪して寝てしまった……ただそれだけだ。

シュウに抱きついた事とか、シュウに寝顔を数時間ずっと見られ続けた事は、私の胸に仕舞ったままにして話はしたけれど。

 

私の話を聞いて、咲良先輩も剣司先輩も誤解は解いてくれたようで。

その……何かしらの過ちがなかったことにホッとしたのか『なんだそういうことか…』と二人して胸を撫で下ろしていた。

 

分かってもらえた…と私自身も安堵したのもつかの間、二人共顔を見合すと、『やれやれ…』というような表情を私に向ける。

 

 

「分かっちゃいたけど……ねぇ…あー、熱い熱い…」

 

「ほんと……芹って無自覚に尽くすタイプだよなぁ……」

 

「え?え?」

 

 

ちゃんと理由を説明したのに、何故こんなにも呆れられるというか、生暖かい視線を向けられているのか。

手をうちわのようにして仰ぐ咲良先輩に、やれやれと頭を振る剣司先輩。

 

どこか既視感を覚えたというか、よく里奈が私……いや、私とシュウに見せる姿に若干通じるものがあった。

あれも良く理由は分からないし、意図を里奈に聞いても『これだから無自覚系コンビは…』と更に呆れられてしまっていた。

もしかすると、先輩達も里奈と同じものを感じているんだろうか……?

 

 

「あ、あの……私って何かおかしいことしてました…?」

 

「いや、おかしくはないんだけどね……ただ、傍目から見てるとね、まるで二人共お互いにわざと気が付かないふりでもしてるんじゃないかって、そう思うことがあるってだけ」

 

「え?それって……どういう…?」

 

「………はぁ…」

 

 

二人の視線が、『本当にわざと気が付かない振りでもしている?』という種類のものに変化する。

咲良先輩の言っていることの意味が、私には分からなかった……いや、もしかすると理解することを無意識下で分かろうとしていなかったのかもしれない。

咲良先輩の言おうとしていることを、里奈がいつも私達に対して感じていたものを、理解するのが、理解して変わってしまうのが怖かったのかもしれない。

 

答えはいつもそこにあったのに、目を向けていなかっただけなのかもしれない。

 

 

「お、おい咲良……」

 

「あんたもいずれは話をするつもりだったんでしょう?それに、いい加減に色々ハッキリさせて、あのバカ後輩(修哉)に活入れてやりたいの」

 

「………はぁ、分かったっての…てか、お前も人のことお節介とか言えねーだろ」

 

「誰かさんの影響かもね」

 

 

頭を振って、仕方ないとでも言いたげな咲良先輩を見て、彼女が何をするつもりなのか悟ったような剣司先輩。

そんな2人の通じ合ったような姿を見ていると……どこか羨ましいという感情が沸き上がってくる。

言葉に出さなくてもお互いのこと理解している、分かり合えている二人のことが羨ましいと。

 

そして、咲良先輩の意図を汲んで、続きは引き取ったと言わんばかりに真面目な表情になって、私に向き直る剣司先輩。

こんなの誰がここに立っていたとしても理解できる、真面目で大切な話だということくらいは。

 

 

「なぁ、芹。お前から見て、ファフナーに乗った時の修哉は、どんな感じだ?」

 

「……どうって、いつも通りに周りをよく見てて、皆を支えようとしてて…普段のシュウとあまり変わらないと思いますけど」

 

「あぁ、そうだ。いつもと変わりがないんだよ」

 

 

最初、剣司先輩が何を私に言いたいのかよく分からなかった。

どうして今、シュウの、しかもファフナーに乗っている時のシュウの話が出てくるのか。

 

シュウがファフナーに乗った時……確かにいつものシュウと比べても特に変わりがない。

私や里奈たちの様に、変性意識によって性格が変わったりすることもなく、冷静で、周りをよく見て、いつもにように自分以外の誰かを優先する。

確かに、シュウのそういった一面を見るとハラハラするし、私自身何とかしたいとは思っている。

 

けれど、剣司先輩が言いたいことはそれとは少し違っていた……いや、私の考えていたよりもずっと悪い話だった。

 

 

「ファフナーに乗っても普段と変わらない……変性意識の影響を受けない。良いことに思えるかもしれねぇけど、実際はそうじゃない」

 

「え?」

 

「ファフナーとの一体化はパイロットのシナジェティック・コード形成値の高さによって決まる。で、シナジェティック・コードをより高く形成するために必要なのが、積極的な自己否定だ」

 

「コード形成がパイロットの変性意識に影響して、大抵は攻撃的な性格になる……けどね、日常的に強い自己否定を自身に感じていると、変性意識の影響を受けない事がある」

 

 

剣司先輩に続いて、咲良先輩がそう言った時点で、二人がシュウに、私に対して何を言いたいのか少し分かった。

 

強い自己否定を感じている人間であれば、ファフナーに乗って変性意識の影響を受けず、性格が変わらない。

そして、シュウは高いシナジェティック・コード形成値を示し、ファフナーに乗っても性格が変わらない。

 

ここまで説明されれば、もう誰にだって分かってしまう。

シュウは……常に、自分の事を否定し続けて生きているんだということが。

 

 

「アイツを見てると、昔の一騎を思い出すのよ……ううん、もしかすると一騎よりも酷いかもしれない」

 

「初めてファフナーに乗った、あの演習の時からもしかしたらとは考えてた……でも、あいつの無茶な戦い方を見ている内に確信に変わった。お前も見てるだろ、あいつの基本戦術は『捨て身』が前提なんだ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい…! シュウは、確かにあんまり自分の事を大事にしてくれないですけど…そんな……自己否定なんて風には。今までだって…」

 

「あいつ自身、今まで無意識の内にそれを悟られないようにしてたんだろう……それが、滝瀬修哉って人間の処世術なのかもな…」

 

 

認めたくはなかった……と、それと同時にここ最近のシュウの言動に説明がついてしまうことに気が付いていた。

強烈な自己否定、その破滅的な感情を現実にする機会をシュウは得ようとしているのではないか。

 

シュウは、いなくなろうとしているんじゃないのかと。

それこそ、私自身が否定してやりたい考えだったけど……絵梨さんへのあの態度も、自分からファフナーに乗ろうとしたことも、理に適っているのだ。

そして、夏祭りの時に見せていたあのシュウの尋常ではない様子、そして『ここに居ること自体が間違いだった』というあの自身の存在を否定する言葉にも繋がってしまう。

 

 

「あいつが何を以って、そこまで強烈な自己否定を感じてるのか、本当のところは本人にしか分からない……あいつ自身の体のことかもしれねぇし、もっと別の何かかもしれねぇ」

 

「………」

 

「でも、このままアイツを放っておくと……そう遠くない内に、本当にいなくなっちまう」

 

 

剣司先輩の言葉が、冗談には聞こえなかった。

そして私自身、それを否定することが出来なかった。

 

シュウのことは、私が一番分かっている、理解しているつもりでいたのに……今、私はシュウの事が分からなくなってしまっていた。

シュウが何を考えて、何を思って、ファフナーに乗っているのか、絵梨さんに冷たい態度を取ったのか、私を守ろうとしてくれるのか。

本当に島のためという使命に燃えているのか、いなくなるための口実なのかが、分からない。

 

そう考えてしまった私は、呆然としてしまっていた。

 

なんなのそれ……

私に『俺は死なない、どこにも行かない』って言ってくれた時も、私がちゃんと帰って来てってお願いした時も……

あれ全部、私を安心させる……ううん、私を誤魔化すための嘘だってこと……?

そう思うと同時に、私の心の中に沸々と、小さな炎が灯り始めたような気がした。

 

 

「なぁ、芹……ここまでの話を聞いた上で考えて、答えてみてくれ」

 

「なにを……ですか?」

 

「お前は、修哉にどうして欲しい、どうなって欲しい?」

 

 

そんな私に、少し声のトーンをさっきまでとは違って柔らかくした剣司先輩が続けて問いを投げかけてくる。

 

私がどうして欲しいか……そんなこと決まっている。

そんなこと、今も昔も、子供の頃から何一つ変わってなんかいない。

 

 

「そんなの、決まってるじゃないですか……いなくなって欲しいわけないじゃないですか……! ずっと……ずっと…一緒にいて欲しいに決まってるじゃないですか……!」

 

「それは……幼馴染だからか? 友達だから、そう思えるのか?」

 

 

重ねて、剣司先輩は問うてくる。

咲良先輩も、私をまっすぐ見据えたまま、私の答えを待っているかのようだった。

 

さっきの心の中の炎が、一気に燃え上がったように感じた。

そして私は、気が付けばこう答えていた。

 

 

「好きだからに決まってるじゃないですか! シュウのこと、男の子として好きだから、一緒にいて欲しいって!」

 

「………」

 

 

カチッと、私の中で何かが噛み合ったような気がした。

今まで何度考えても分からなかったことが、里奈達の態度の理由が、どうして私がシュウに拘るのか、今ではそれがひどくクリアに、ハッキリと見えるような気がした。

 

感情の高ぶりから、タガが外れたというか、今まで理性のようなもので押し留めていた気持ちが、一気に放たれたような感じがする。

 

 

「子供の頃からずっと好きだったんです……好きだから色々構いたくなるんです、目が離せなくなるんです、他の女の子と話してるところ見るだけでムカムカするんです!」

 

「そうか……」

 

「シュウと結婚して、子供出来て、一緒に年取っていくような夢なんかも見ちゃいましたよ! 起きた後も、それ思い出してニヤニヤしてたことも、夢だって分かって滅茶苦茶落ち込んだりもして! 『うわ、私って結構重い女だな』って若干自己嫌悪してましたよ! でも、そんな状態でもずっと自分の気持ちに目を向ける勇気がなくて…!」

 

「お、おう……せ、芹? ちょっと落ち着くか、な?」

 

「今までの関係が壊れるのが怖くて、ずっと無意識に見て見ぬ振りしてたんです…! でも、ホントは……好きで好きで堪んなくて、もう自分でもどうしていいか分かんなかったんです! えぇそうですよ、私はわけ分かんないくらいシュウが好きなんですよ!文句ありますか!!」

 

「あ、いえ、無いです……はい、なんかすんません」

 

「剣司……圧倒されてどうすんのよ…」

 

 

いつの間にか、私は肩で息をしながら、声を張り上げて剣司先輩に捲し立てていた。

悩んで悩んで、それでも分からなかった答えが不思議なほどアッサリ私の奥から出てきたことに、戸惑いはなかった。

一緒にいろいろととんでもない事実を二人に暴露してしまっているような気がするけど、今の私にそれをどうにかする余裕はない。

際限なく溢れ出す気持ちを言葉にして、ぶち撒けるのに必死だった。

 

いつからそうだったのか、切っ掛けは何だったのかも分からない……けれど、私の好きという気持ちは確かにここにある。

シュウを好きな私がここに居る、それだけは紛れもない事実。

 

今の私には、それだけ分かれば、認められれば、声に出せれば、それで十分だった。

 

 

「さてと……漸く自分の気持を思う存分吐き出せたところで……」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「芹、修哉の事は、あんたが繋ぎ止めな」

 

「繋ぎ…止める?」

 

「そう……修哉に、生きることの尊さを感じさせてやりなさい。いなくなりたいと思うこと自体、馬鹿馬鹿しく思えるくらいに」

 

 

そう話す咲良先輩は、ちらっと剣司先輩に視線を向けて……剣司先輩もその視線を受け止めて小さく頷く。

 

咲良先輩の言いたいことは理解できる、それに私自身シュウのために何かしたいとずっと考えてはいた。

そうしたいと思う理由に目を背け続けてきたけど、今はそれをハッキリ自覚している。

 

シュウにしてあげたいこと、してあげられること、沢山あるけど……それがシュウの壊れてしまったものを癒してくれるのなら……全部してあげたい。

 

 

「あんたがアイツを幸せにして、あんたはアイツに幸せにしてもらうの。私達じゃ出来ない、あんたにしか、あんた達にしか出来ない事」

 

「私にしか……」

 

「尻に敷いてやればいいのよ、あぁいうのは頼りになるように見えて、単純に無理してカッコつけてるだけなんだから。どっかの誰かさんみたいにね」

 

「おい…そこで俺を見んなっての…」

 

 

二人の先輩、そのやり取りを見て思わずクスッと吹き出してしまいそうになる。

本当に……この2人はお似合いだと思う……そして同時に、私もシュウとこんな風になりたいと、今なら素直にそう思える。

 

 

「……兎も角だ。芹、お前が修哉の帰る場所になってやれ」

 

「……はい!」

 

 

それはシュウにも約束したことだった。

シュウがどんな気持ちで、思惑があって、あの時答えを返したのかは分からない。

 

けれど、あの時の私と、今の私は全く違う。

もう、自分の気持を誤魔化したまま、理由も分からずにシュウのために在りたいとは思わない。

 

私は、シュウのことが好きだからだと、自信を持って言えるようになったんだから。

 

 

「私……シュウのこと……好きなんだ……」

 

 

改めて、小さくそう口にしてみる。

こそばゆい感じはするが、決して嫌な感じはしないし、寧ろそれが当然のように感じれる。

 

けど、同時に一つ困ったことがある……

ただでさえベッドでの一件のことで、シュウと顔を合わせづらいのに、どんな顔をして戻ればいいのかもっと分からなくなってしまった…

 

そんな私の姿を見て、剣司先輩たちが『初々しいねぇ』とどこかホッとしたような表情で呟いていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

芹が病室を飛び出して行ってからどれ位経っただろうか。

どこまで飲み物を買いに行ったかは定かではないが、爆睡していた直後にあそこまでダッシュする程だ。

余程のどが渇いていたのかと、俺は一人で納得していた。

 

病室の戸が開いた時は、やっと帰って来たかと思い顔を上げたが、そこに居たのは芹ではなかった。

 

戸口に立っていたのは、遠見先生と、姉ちゃんだった。

俺の着替えを届けてくれた後、姉ちゃんとはぎこちなくではあるが少し話すことは出来た。

広臣さんの前ということもあったのだが、多分俺達のぎこちなさには気が付いていただろう。

そこに何も追求してこなかったのは……正直ありがたいことだったが。

 

 

話を戻す。

部屋にやってきた遠見先生と姉ちゃんは、やや思いつめた表情で病室に入ると、二人してベッド横の椅子に腰掛ける。

その様子を見るだけでも、重要な話をするであろうこと、話の内容は俺の体についてであることは確信できた。

 

 

「修哉くん、島のコアの消耗による影響で、島民の中に体調を崩している人がいることは聞いている?」

 

「羽佐間先生と、要先生ですよね。広臣さんから聞きましたが……」

 

「そう……そして修哉くんが今回倒れたのも、同様の原因です」

 

 

遠見先生は、そこから俺に丁寧に説明してくれた。

核攻撃の汚染を浴びた、戦争経験者の大人たちが発症するはずだった病、その発病を島のコアが抑制していたこと。

そして俺自身、肝疾患の進行を抑制されていたこと、それによってここ最近までの安定した状態が保たれていたこと。

 

夏祭りあたりから感じていた不調の影は、どうやらその前兆だったのだと、遠見先生の話を聞いて確信した。

数年前まで不安定だったのに…という疑問もあったが、『皆城乙姫との交流、彼女自身の成長によって、島のミールに何らかの影響が生まれたのでは』というのが遠見先生の見解だった。

確かに、時期的には合致しないでもない……俺の、乙姫に守られていたのかという予想も、あながち間違っていなかったらしい。

 

だが、今のコアは彼女ではなく、新しく生まれ変わり、成長途中の存在。

敵の攻撃と、コアが成長に集中したことによって、島の加護が消え、俺や大人たちが病を再度発症してしまったということだ。

 

遠見先生の説明を聞いて、それはまぁ予想してもいたし、納得も理解も出来た。

そして、姉ちゃんと遠見先生の重い表情を見るだけで、その次の話の内容も予想はできていた。

 

 

「単刀直入に言います……修哉くん、あなたの肝疾患の進行具合を考えると……このままだと島のコアが成長期を終える迄に、あなたの体が保たない可能性があります」

 

「……」

 

 

姉ちゃんが、息を呑む。

その目には、薄っすらと涙が浮かんでいるようにも見えた。

 

病の進行具合、そしていつ終わるかわからない島の成長期、それを妨害するフェストゥムの攻撃。

遠見先生が、『保たないかもしれない』と判断するのにも納得はできた。

けれど、俺にはもっと気になることがあった。

 

 

「……もう、ファフナーには乗れないんですか?」

 

「シュウくん……!?」

 

「……遠見先生、どうなんですか」

 

「……修哉くんの同化耐久率からすれば、同化現象の心配はまだ大丈夫よ……けれど、戦闘による物理的な負荷にあなたの体が耐えられない」

 

 

それは、俺にとっては余命告知よりも聞きたくなかった現実だった。

また俺は、役立たずになってしまうのかと、芹達と一緒に戦えなくなるのかと、あいつらだけを戦わせて見ているだけの側になるのかと。

 

芹を守れないと。

 

認めたくなかった、確かにいなくなろうとしていた、その為にファフナーに乗って戦おうと、誰かの為に命を使おうと思った。

けれど、ここに来て、ここまで来て、病によってそれを迎えることになるなど、到底認められなかったのだ。

 

自分の病で、自分の都合だけで、何も守れず、何も出来ず、何も成し遂げられずに死んでいく。

無意味で無価値な、最低の死だ。

 

 

「恐らく、次回の作戦から修哉くんは外されることになります」

 

「……俺は大丈夫です、まだやれます」

 

「シュウくん、いい加減にして…! お願いだから……」

 

 

遠見先生の言葉に、俺は拒否を意味を含めてそう返す。

姉ちゃんが身を乗り出しながらも、俺に訴えてくるが、今の俺に応じるだけの余裕はなかった。

 

 

「修哉くん、今のあなたの体はファフナーでの戦闘には耐えられないの、このまま戦い続ければ……確実に命を落とします」

 

 

しかし、遠見先生は厳しい表情で首を横に振りながら、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように、静かに、けれど力強く繰り返した。

 

 

 




まず言っておきますと、私は上げて落とすの大好きです。

この小説の芹は、竜宮島の学校であるかは分かりませんが、席替えでシュウの隣の席になった時とか、決まった時は『え~またシュウの隣なの?』とかやれやれ、また面倒を見ないと…という態度を取りつつ、家に帰るとベッドの上で枕を抱きつつ、ニヤニヤしながらゴロゴロとかしちゃいます。

広登たちとシュウが『髪の長い女子と短い女子、どっちが好みだ?』という話をしていて、『長い方』とシュウが答えるのを聞くと、『髪、伸ばそうかな…』とか内心で考えたりします。

さてさて、そんな芹ですが、漸く自分の気持ちを自覚しました。
きっかけは剣司と咲良から聞かされた、シュウの変性意識についてと、その本当の意味。
発破をかけられたような形ですが、彼女たちの場合誰かがここまでしないと、自分の気持ちに向き合おうとするまでに時間がかかりすぎてしまうので・・・
ちょっと先輩たちに世話を焼いてもらいました。

本編中にもあったように、基本彼女はシュウのことを好き過ぎるというか、ROLの祐未じゃないですが、好きとか通り越してる状態にあります。
ただ、それを認めないというか、その気持ちを自覚しようとしていなかったわけです。

自分の気持ちに素直に、そして自覚した彼女ですが、シュウへの働きかけ方が次回から少し変わってきます。
シュウを尻に敷くスタンス・・・(我々の業界ではご褒美です)


で、そんな裏山な展開を間近に迎えているシュウですが……
ここで一時リタイア、レギュラーパイロットから一時離脱します。

島の加護が一時的に消えてしまい、彼自身もそれに守られていたこともあり、ファフナーで戦うことはおろか、島の成長期を超えるまで持つかどうかも分からない。

それでもなお、ファフナーで戦おうとするシュウ。
折角見つけた、意味のある死に場所、皆の役に立てる場所、芹を守れる力を失うことに非常に恐怖しています。
まぁ、恐怖を覚えるべきはそこじゃないんですけどね、本来は・・・

そこは、ハイパーモードに覚醒した芹ちゃんにお任せするとしましょう・・・
シュウは芹に、芹はシュウに幸せにしてもらいましょう。


ではでは、また次回~






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