蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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前回に引き続き、戦闘後の一幕になります。。。
今回は芹視点のみ。
シュウと芹のお話ですね。

今回は前回とかに比べると短めです。
というか、今まで少し詰め込みすぎました。

お互いを助け会う姿が伝われば嬉しいです。。。





摩耗していく命 -Ⅱ-

あの時確かに、フェストゥムは何か言葉を発しようとしていた。

苦痛に歪む人間のような顔の上で、確かに口元が動いていたのを私はこの目で見ていた。

 

最初は里奈の言っていた通り、自分達を傷つけた人間、私達への恨み辛みを口にしようとしていたのかとも思った。

人間の怒りや憎しみを理解した北極海ミール、あれが影響しているのであれば、あり得ない話ではないと思う。

 

けれど、あのフェストゥムの苦しそうで、何より悲しさを伺わせるような表情を見て、それはないと一瞬で確信してしまった。

憎しみを言葉にしようとするのであれば、表情はより険しいというか、憎しみに歪んだ表情とでも言えばいいのか、そんな風になるものなんじゃないだろうか?

そう考えると、あのフェストゥムは今際の際、一体この世界になんという言葉を残したかったのか、気になって仕方がなかった。

 

けれど、その事が気になるあまり戦闘中に隙を見せ、危うく同化を許す事態になりかけ、フェストゥムに惑わされている私に対して里奈を憤らせてしまった。

里奈が怒るのも……分かる、それにもしもシュウが助けてくれなければ、私は……いなくなってしまっていたかもしれない。

 

 

「……あれ…?」

 

 

里奈がそそくさと出て行ってしまったため、一人になってしまった医務室のベッドに腰掛け、その事実を改めて自覚をする。

自然と、体が震え始めていた。

 

腕が、脚が、肩が、カタカタと小刻みに震えてしまっていた。

同時に、私は命のやり取りをしたということを、そしてその過程で命を落としそうになったのだということを理解した。

 

死への恐怖、誰かがいなくなることへの恐怖、戦闘中は変性意識によって抑えこまれていたそれが、一気に心の隙間から吹き出し、私に襲いかかってきた。

怖い、怖い、怖い……と心の中で自分の声が反芻する。

気が付けば、自分で自分の体を抱き締め、体を小さくしていたが、尚も震えは止まらない。

 

 

「止まれ……止まってよ……お願いだから……!」

 

 

そうやって必死に考えても、願っても、体の震えが消えることはなく、寧ろ酷くなっていく。

まるで自分の体なのに、自分以外の誰かに支配されているようで、私の中の臆病な、弱い部分を司る私自身が表に出てきているような感覚。

 

自分ではなんともしようのない、人間の本能的な感情に、恐怖に支配されそうになっていた。

 

 

「芹……?」

 

「…え?」

 

 

そんな時だった、私の恐怖を振り払ってくれる存在、私を守ると言ってくれた存在の声が聞こえたのは。

 

顔を上げると、そこにはいつの間にかシュウの姿があった。

いや、私が必死に震えを抑えようとしている間に、ここに来たんだろう。

 

今の、一人でガタガタ震えている私の姿を見て、驚いた表情をしている。

いけない……シュウにこんな姿を見せてちゃ……この前の演習の後みたいな情けない格好は、もう二度と見せられない。

………ダメなのに、それでも、シュウが来てくれたという事実に、私の心は一気に安堵していった。

 

 

「お前……そんな震えて…」

 

「ご、ごめん……大丈夫、大丈夫だから……ちょっと、戦闘が終わって、ファフナーから降りたら気が抜けちゃって…」

 

 

少しだけ震えが収まってきた私は、なんとかシュウを安心させようと笑ってみせる。

いや、ちゃんと笑えているかはわからない……もしかすると、結構ひどい顔になっているかもしれない。

 

あぁもう、みっともない……多分、パイロットの中でこんな風に恐怖に押し潰されそうになっているのは私くらいだ。

里奈も暉も、広登だってこんな風にはなっていないだろう。

心の弱い私が、嫌になる。

 

けれど、シュウはそんな私を見て何を思ったのか、未だに小さく震える私の手をゆっくりと握った。

最初は片手だけ、そして両手へと範囲を広げ、シュウの両手が私の両手を包む。

 

 

「我慢しなくてもいい。怖いなら怖い、それでいいんだ」

 

「でも……」

 

「俺の前でくらい、意地張るなよ」

 

 

シュウの手は、とても暖かくて……私の恐怖を少しずつ溶かしてくれる。

そして、握られている手から、徐々に震えが収まっていく。

別に我慢したわけでもなく、全身を覆っていた冷たい膜のようなものが自然と消えていったような、そんな感覚だった。

 

 

「……ありがと、そうする」

 

「おう」

 

 

それから暫くの間、私はシュウに手を握ってもらったままでいた。

5分ほどで体の震えは収まったけれど、それで手を離してもらうのはどうしてか名残惜しくて…

シュウも自分から手を離すことはなく、私の我侭、甘えを拒むこともなく、全部を受け入れようとしてくれる。

 

最近、私はもしかすると甘え癖が付きつつあるのかもしれない。

これではダメだと、私だってシュウのために何かしたいと思う一方で、自分の中のそんな一面を垣間見て少し情けなくなった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「フェストゥムが何か言おうとしてた?」

 

「うん。何を言おうとしてたのかはわからないけど……苦しそうな顔で……」

 

 

私の震えが収まって少ししてから、いつまでもシュウに手を握ってもらったままというのも心苦しい。

繋いでいた手はゆっくりと離し、今は医務室のベッドの上で並んで腰掛けている形だ。

 

お互いの距離はかなり近い……というか、ベッドに置いているシュウと私の手が触れるか触れないかくらいの距離。

あれ、今までの私達ってどのくらいの距離感で接してきたんだっけ?

少し前ならこんなこと気にしたこともなかったのに……でも、今は無性にこの距離感が心地良かった。

 

距離感の話はともかくとして、私は戦闘中に目撃したフェストゥムの行動について、シュウにも話してみることにした。

里奈にはフェストゥム、敵の言うことだから私達への怨みや憎しみをぶつけたかったんだと断じられてしまったけど……やっぱりそれでは納得出来ないというか、違和感が拭えなかった。

 

 

「里奈には、敵の言うことなんだから、『憎い』とか『嫌い』だとかに決まってるって言われて」

 

「ま、普通に考えればそうだろな……でも、お前はそうじゃないって思ったわけだ」

 

「うん……それが気になって……まぁ、信じられないかもしれないけど」

 

「信じるよ。芹が見たものなら」

 

 

里奈と同じように、シュウにも敵のことなんか気にするなと言われるかと思ったけど……信じてくれた。

気を遣ってくれた……いや、多分本当にそう思ってくれているんだろう。

シュウが私のことを信じてくれたように、私もシュウのことを疑うこともなく信じることが出来る。

 

本当なら、戦う相手の今際の際の言葉に引き摺られるべきじゃないのかもしれない……けれど、乙姫ちゃんだってフェストゥムにも選ばせて、選択する道を示した。

フェストゥムを戦う相手、敵のままにしておくのではなく、その他の道を探すために。

 

もしかすると、今回のフェストゥムの変化は、その何かに関連する兆候なのかもしれない。

今回の戦いを通して、フェストゥムと人の関係に何かしらの一石が投じられるような、そんな予感がした。

 

 

「あぁ…そうか、里奈が言ってた芹への八つ当たりってこれ関連か……あいつ、お前に悪い事したって気にしてたぞ」

 

「あはは…里奈ってば気にし過ぎ……って、あれ? 里奈に会ったの?」

 

「まー……里奈も暉も……それに広登も、ちょっと変だったからな。ちょっとそれぞれの様子を見に…な」

 

「……そっか」

 

 

私だけじゃ……なかったんだ…と、自分自身の妙な独占欲のようなものに少し戸惑うと同時に、いつもの様に周りの人間の機微に聡いシュウらしいとも思う。

こんな風にわざわざ様子を見に、会いに来てくれるのは私だけに限った話じゃない、相手が誰であれ、シュウは皆に同様に、平等に気を遣っている。

 

だから、こんな風に心の中に独占欲、嫉妬心を感じてしまうのは、私の人としての器が小さいだけの話であって、シュウは悪くない。

悪くはないけど、やっぱりちょっと面白くはなかった。

 

私はシュウに、一体何を求めているんだろう……

私だけの何か…特別な何かを求めているんだろうか。

 

 

「もしかして、俺が助けた時にちょっとボーっとしてたのは、フェストゥムが何か話そうとしてたとこを見たからか」

 

「あ……うん……ごめん、戦闘中に余所見なんて……シュウが助けてくれなかったら、今頃私どうなってたか」

 

「いや……別に怒ってるわけじゃない……でも……」

 

「でも…?」

 

 

戦闘中に私を助けてくれた時のことを思い出したようで、シュウがそう尋ねてくる。

実際、フェストゥムのあの行動が目に入らなければ、私はシュウに助けられることもなかったのかもしれない。

 

シュウは私の不注意を責めるわけではないけれど、そこで表情が硬くなっていることに私は気が付いた。

 

 

「……あの時、フェストゥムが芹に突っ込んでく所を見た時……冗談抜きでさ、心臓を握られたような感覚になった」

 

「シュウ……」

 

「あのまま助けに入れなかったら、助けに入るのが遅くなってて芹が同化されたら…そう考えると、正直今でも怖い」

 

 

そう話すシュウは、手を膝の上で組み、かなり力が入っているようにみえる。

まるで、さっきの私のように恐怖に耐えるようなその姿に、シュウがどんな気持ちで私を助けようとしてくれたのかが見えた気すらした。

 

私と違って、自分自身のことじゃなく、自分以外の誰かいなくなりそうになったことに、シュウは殊更恐怖していた。

その姿も、シュウらしいと形容することは簡単だった。

けれど、命の懸かった場面で、自分自身がいなくなるかもしれない場面で、それが正しいことだとは思えなかった。

 

どこか、シュウのズレている……いや、人として壊れてしまっている部分を垣間見たような……そんな風に思った。

 

 

「……悪い、お前も怖い目に遭ったのに、こんなこと蒸し返すべきじゃ無いな……忘れてくれ」

 

「………」

 

 

きっと、シュウは里奈や暉、広登の様子を見に、不安定になっている皆をフォローして回っていたんだろう。

私のことも含めて、不安になっていないかとか、初めての戦闘で精神的に参っていないかとか……皆を安心させようと支えようと奔走したのだろう。

 

ーーでも、それならシュウ自身のことは、誰が安心させてあげるんだろう。

 

自分の事なんかそっちのけで、誰かの為になろうとする自己犠牲的な姿勢。

それを美徳と取ることは、誰にだってできるし、最も楽で、誰にとってもベターな選択肢なんだと思う。

 

でも、私はそれを良しとは出来なかった。

……自分を大切にしないシュウを、私は認めてあげることなんて出来なかった。

 

気が付けば、私の体は考えるよりも先に動いていた。

硬い表情のままのシュウ、隙だらけの彼の肩に両手をやり、思い切り私の方に引っ張ってやる。

 

 

「お、おい!? いきなり何を…!」

 

「……約束したし……ちゃんと帰って来たら…またこれ、してあげるって…」

 

 

上体を崩したシュウ、その頭を私の膝の上に持ってくるのはそう難しい話ではなかった。

シュウは予想外の出来事に若干わたわたしてしまっているけれど、私だって思い切ったことをしてしまっている自覚はある。

そこはまぁ、女は度胸とでも言ってしまおう。

 

ただ、度胸だ何だと言葉を並べてみても、頬が熱を持つことを御せるかといえば、そうでもない。

人間の体と感情なんて、そんな単純な作りにはなっていない。

 

 

「シュウは約束を守った……だったら、私も約束を守る」

 

「芹……」

 

「私は……ちゃんとここにいるよ。シュウが、守ってくれたからここにいる」

 

「俺が……」

 

「何度でも言うよ、シュウ。私のこと、助けてくれて……守ってくれてありがとう」

 

 

シュウだって……救われなければダメだ。

あんなに頑張って戦って、戦った後も頑張って……そんな自分を擦り減らしてばかりの役ばかりさせたくない。

 

そしてそれは、シュウに助けてもらった私がやらなければ……いや、やりたかった。

シュウが守ったものが、失うかもしれないと恐れているものが、まだちゃんとここに居るということを分からせるために。

 

 

「こうすれば、もっとよくそれが分かるでしょ?シュウが守ってくれた私が、ここにいること」

 

「……」

 

「いいんだよ、シュウ。今はもう、安心しても、頑張らなくてもいいんだよ」

 

 

シュウの手を、私の頬に持ってくる。

私がシュウの暖かさに安堵したように、シュウが守ってくれた私を感じてくれれば、それでやっとシュウも安心してくれると、緊張を解いてくれると思った。

 

シュウの手は、少しビックリするくらい冷たかった。

 

 

「……俺……ちゃんと守れたのか…」

 

「うん」

 

「……別に、見下すとか……ファフナーに乗れるからって…特別な何かになったつもりもなかった……ただ、芹が…皆がいなくなるのが嫌だったんだ」

 

「うん…」

 

「だから……必死だったんだ…」

 

 

空いている方の手で顔を覆い、静かにそう呟くシュウ。

泣いているわけじゃない、多分、少し情けない顔をしている自分を私に見せたくないんだろう。

 

別に私は気にしないのに……こういうところを見ると、シュウも男の子なんだなぁと思ってしまう。

さっき私に意地を張るなとか言ったくせに、シュウだって十分過ぎるくらい意地っ張りだ。

 

 

「シュウだって……立派な意地っ張り」

 

「……うるせー」

 

「私の前でくらい意地張らなくていいんだよー」

 

「……ふんっ、もうちょっと色気を身に付けてから言ってこい」

 

「へ~、そんな色気の足りない私の膝枕に甘えている人の台詞とは思えないなぁー」

 

「うぐっ…」

 

 

今日くらい、今くらいは私がイニシアチブを握っていてもいいだろう。

たまには、シュウにはされるがままという状態になって、素直さというか可愛げを見せてもらってもバチは当たらない。

 

そうして、そのまま……私達は特に何か中身のある話をするでもなく、心地よさを含んだ雰囲気に身を任せていた。

気が付けば、初めてのファフナーでの出撃、フェストゥムとの戦闘で浮足立った心は完全に落ち着きを取り戻している。

 

戦うことも、自分が、誰かがいなくなるのはやっぱり今でも怖い。

けど、それを怖いと思える心は残しておこうと思う。

多分、そう感じる心を無くしてしまえば……私は私でなくなってしまうと、そう思ったから。

 

 

「……私さ、こうしてるのって……割と好きかも」

 

「……ふーん」

 

「あ、今ちょっと嬉しいとか思った?」

 

「少なくとも、家の枕よりかは寝やすいとは思ってるよ」

 

「それって喜んでいいのかな……」

 

 

けれど、そんな優しい、甘いだけの時間の終わりは、すぐそこにまでやって来ていた。

 

 

 





芹ちゃんの服が同化現象で結晶化パリーンしないのはおかしい!
という、私の欲望丸出しな主張に対して、感想で色々と意見いただき勉強になりました。

逆に考えましょう、服なんて結晶化させなくても脱がせられるんだと。
それに、一瞬で消し飛んでしまうより、徐々に脱げていく方がいいに決まってますからね。
日本人であれば『侘び寂び』、これを大事にしないといけません。

というわけで、脱がせるのはうちの主人公に任せるとして……


ファフナーエグゾダスの放送、1クール目がもうすぐ終わってしまいますね。。。
前回の更新時は触れませんでしたが、11話でのレオとミカミカの二人の姿が微笑ましかったですね・・・
ミカミカのマッマもレオのこと公認っぽいですし、早くくっつけばいいのにとか思いながら、『でも、これってファフナーなんだよな』という怖い一文が頭を過りました。
特にレオ、虚化してるやん……あれ絶対穴が大きくなるパターンや…


本編についてです。

今回は芹視点のみになりました。
前半はシュウ→芹へのフォローというか、心のケアというか・・・
初戦闘を終え、自分が危険にさらされたことへの恐怖、フェストゥムが発しようとした言葉に戸惑う芹。
様々なものがこんがらがり、不安定になってしまいました。
そこを里奈や暉にそうしたようにフォローするシュウ。

そして、後半は芹→シュウの心のケアでございます。
他人のフォローをするだけして、自分の事は基本放置な主人公なので、芹のような存在がいなければ早々にポッキリ折れてしまいます。
広登に言われてことも、大分堪えているようですので…
感想でも頂いていましたが、シュウは新人メンバーの中で最も危険な位置にいます。

一番安定しているようで、その実最もデリケートというか、脆い精神力をしています。
此処から先は、その精神力をガリガリと削り、ボロボロになってもらいます。



最近の悩み
 テキストエディタで書いた話のtxtファイルを保存するのですが、『Ctrl + s』とすればいいところを、『Escキー押下』→『:wq』としてしまいます。
多分、分かる人には分かります。
分かった人は恐らく私と同業者です。







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