蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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今回の視点は、里奈→暉→広登になります。

戦闘回でもないのに結構長い。。。
一話に詰め込む量が多い。
次回から元の文字数ペースに戻ると思います。。。





摩耗していく命 -Ⅰ-

西尾里奈は基本的には、物事をハッキリと言う、快活な人間だと自負している。

弟である暉が全く喋らない、喋れない、暗い性格をしている所為か、それを補うかのような明るさと物事をハッキリとさせる性質が前に出ることが多い。

 

そんな私が、今現在進行形で落ち込んでいた。

水中展望室の椅子に座り、強化ガラス越しに見える海の中をボーッと眺めながら、頭の中では色々なものがこんがらがったような状態になっていた。

原因は色々とある……いや、ここ数時間で自分自身の処理キャパシティを超えてしまう量の悩みというか、問題が溢れてきてしまったというべきか。

 

一つは、フェストゥムとの戦闘後、竜宮島全体に公開された映像、人の形をしたフェストゥム、来主操と真壁司令の対話の一部始終についてだった。

彼の存在は前もって聞かされていたけど、眠ったままカプセルの中にいるという話だったはずだ。

その彼が目覚めた上、何故かアルヴィスの制服を身に纏い、真壁司令と人間の言葉で会話をしてみせたのだ。

 

人の形をしているけど、フェストゥムはフェストゥム、しかもデータ上はスフィンクス型。

スフィンクス型の発する言葉といえば、常套句の『あなたはそこにいますか』くらいしか無いと思っていただけに、まずそこに驚いてしまった。

例外的な存在として、乙姫ちゃんや一騎先輩のお母さん、甲洋先輩のようなパターンはあるらしいけど、あれは特殊過ぎるケースだろう。

 

そんな来主操の、竜宮島への訪問の目的は、和平の申し出だという。

けれど、その和平交渉の内容は……正直に言って、到底受け入れることの出来るものではなかった。

 

来主操は、島のコアと同化させて欲しいと言ってきた。

竜宮島のミールと、来主操側のミールを同化させることでお互いに争うことを避け、戦いを止めたいと提案してきたのだ。

正直、その話を聞いた時は、やっぱりフェストゥム、戦いを止める手段として敵対する私達ごと同化することで戦いそのものを無くそうと、それが可能だと考えているのかと思ってしまった。

 

けれど、来主操はこうも言った、『君達を消したくない』と。

そして、『一緒に戦って欲しい』と。

来主操サイドのフェストゥムの群れと一緒に、人類と、他のフェストゥムの群れと戦い、戦う力を根こそぎ奪い平和を作りたいと。

 

正直、途方も無い話というか、スケールが一気に大きくなって思考が追いついてこないけど……とんでもない茨の道だと思ってしまった。

来栖操は、私達がそういった重要な事について、決して単独で決定を下さないことを理解しているのか、返事は後でいいと言った。

 

けれど、時間はあまりないから急げとも言った。

また来栖操側のフェストゥムがこの島に襲来することはもちろん、今現在竜宮島を覆っているオーロラの様な現象。

向こうのミールが竜宮島の空を奪ったとのことだが、あれが島を……島のコアを殺すのだという。

和平交渉っていうか……銃口を頭に突きつけられた状態で、笑顔で選択を迫られているようにも聞こえる。

 

そんな話を聞かされ、スケールの大きすぎる難題が島を襲っているのだと認識し、少し悩んでいるのがまず一つだった。

 

 

そして、もう一つは……数時間前に経験した、初めてのフェストゥムとの戦闘のことーー

 

 

「里奈」

 

「うわぁっ!? って……なんだ、修哉かぁ……脅かさないでよ…」

 

「すまん、考え事してたのか…」

 

 

と、私が悩み事について整理している最中、いきなり後ろから声をかけられたからか、割りとオーバーリアクション気味な声が出てしまった。

声をかけた側、いつに間にかそこにいた幼馴染、滝瀬修哉も私の驚いた声にビックリしたようで、半歩後ろに下がってしまっていた。

修哉が近くに来ていたことにも気が付かなかったなんて……ちょっと本格的に考え過ぎていたのかもしれない。

 

修哉もバツの悪そうな顔をしながらも、展望室と海中を隔てる強化ガラスに背を預け、一息ついたような様子になる。

 

 

「フェストゥムに腕掴まれて引っ張り回されたって聞いたけど、大丈夫か?」

 

「あ~……まぁ、うん。それは大丈夫……我ながら情けないけどね……滅茶苦茶頼りない悲鳴あげちゃったりしてさ」

 

 

私の悩みというか、落ち込んでいた原因のもう一つ。

スケールが大きすぎてイマイチまだ実感の湧くことのない事よりも、私はさっきのフェストゥムとの戦闘での醜態を悔やんでいた。

別に敵にやられっぱなしで撃退できなかったわけではない、サラマンダーを振り回しながら3体ほど屠ることは出来はしたのだ。

 

けれど、暉は4体、芹は5~6体、広登は8体、で、目の前に居るこの修哉に至っては、12体と私達の中で唯一の二桁スコア。

別に、数を競いたいわけでもないし、生き残ったんだから、生きていれば勝ちじゃないかと思ってさえ居る。

 

でも、それでも……島を守る戦力として、私が一番力になれていないんじゃないかと、数字だけを見ると考えてしまう。

フェストゥムに腕を掴まれた時、いいように引き摺り回された時は心底怖かった、あんな情けない声を出すほどに。

剣司先輩に助けてもらわなければ、今頃どうなっていたのかと、背筋に嫌な汗が流れているような気がする。

 

 

「暉にさ……この前の演習の後、パイロット降りろって、ケチつけちゃったんだよね、『あんたなんかに務まらない』って。……でも、その私がこの体たらくでさ……情けなくなっちゃって」

 

「………」

 

「芹も広登も、頑張ってて……修哉なんか一騎先輩みたいな活躍じゃん? 私がここにいて、戦う意味なんかあるのかとか……そんなこと考えてさ」

 

 

別に、逃げる理由が欲しかったわけじゃない。

ファフナーに乗るのだって、今の島のことを考えるのなら仕方のない事だとも思う。

……けど、やっぱり怖いものは怖かった……お父さんとお母さんを『連れて行ってしまった』ファフナーに乗ることも、フェストゥムと命を懸けて戦うことも。

 

そして、失語症だった暉が、そのファフナーに乗ることで声を取り戻した。

私がどれだけ何とかしようとしても快方の兆しもなかったのに、ファフナーに乗ったら都合よく治って……

暉には怒鳴ってしまったけど、暉のことは私がしっかりしないとという自負を失ってしまったような気もして……やるせなくなったようにも感じた。

 

 

「そんな無力感とか、怖いのもあってかな……変に気が立っちゃってさ……芹に八つ当たりっていうか、酷いことも言っちゃって……諸々の事含めて、すっごい自己嫌悪してたってわけ」

 

「そうか……」

 

「あははっ…私ってば何を語ってるんだって話だよね。ごめん、でもってありがとね、黙って聞いてくれて。ちょっとだけ楽になった気がする」

 

 

悩みは人に話すだけでも色々楽になるというらしいけど、なかなかどうして馬鹿にできないと実感した。

修哉ってば、ほんとに黙って聞いてくれて、私もらしくないくらい話しちゃったかな。

 

普段の私とちょっとというか、全然違うように見えちゃったかもしれない。

あ~……私ってばまだまだダメだなぁ……いつまた敵が襲ってくるかも分かんないってのに、こんな情けない弱音吐いちゃうなんてさ。

 

駄目だ駄目だ、これじゃあ皆に頼りないやつみたいに思われてーーー

 

 

「俺は、里奈が一緒に戦ってくれて心強いと思ってる」

 

「え?」

 

 

その修哉の言葉に、私は一瞬耳を疑った。

心強いって……私、今日の私ってば全然役に立ってなくてさ……怖がって、勝手にやる気なくして、芹に八つ当りしたんだよ?

そんな私を、何で……どうして心強いなんて言ってくれるんだろうと。

 

 

「敵を一体でも、二体でも倒せたなら、それだけでも、その分だけ誰かを守ってるんだよ。里奈の倒してくれた敵が、もしかしたら剣司先輩や芹を危ない目に合わせてたかもしれないだろ?」

 

「で、でもそんなの……仮定の話じゃん……」

 

「でも、守り合う戦いって、そういうもんじゃないか? 誰か頑張った分、その分だけまた別の誰かが助かってるんだって思えば、やる気出てこないか?」

 

 

昔から、変なものの考え方をするやつだとは思ってた。

物は言い様、考え様、受け取り方一つで変わるけど、修哉の言っていることには変な説得力があった。

 

そしてその言葉で、私は自分の心が少し軽くなったような気がした。

単純な奴って思われるかもしれないけど、簡単に慰められちゃってとか思われるかもしれないけど……正直、ちょっとだけ救われた。

 

 

「前にも言ったろ? 島を守るなら、皆で守ろうぜ。でもって、皆で生き残ってくれ」

 

「………うん」

 

「……芹のことは、俺が後で様子見てくるよ。その後、また二人で話してみればいいさ」

 

「うん……ごめん……ありがと。………そうしてみる」

 

「おう。それじゃ、俺は行くよ。また明日な、今日はさっさと飯食って寝ろよー」

 

 

ポンポンと子供をあやすような感じで、私の頭を撫でた修哉は、そのまま水中展望室から伸びる下りのエレベーターに乗って行ってしまった。

 

早く帰って、ご飯食べて寝ろ……か……全く、女の子に対してデリカシーの欠片もない言い方……だけど、その気安さがとてもあいつらしくて助かってしまう。

同時に、いろいろと修哉に引き取ってもらってしまったのだと、そう思った。

 

 

「あ~あ……いいなぁ、芹は。ちょっと……羨ましいかも」

 

 

別に、この一回のやり取りだけで、一回慰められただけでコロッと落ちてしまうような、惚れっぽい性格はしていないつもりだ。

修哉はただの幼馴染で、芹とは無自覚に両想いな、朴念仁。

頭を撫でられた時は……悪い気はしなかったけど……

 

けど……あんなに優しいというか、自分のことを理解してくれた上で、欲しい言葉をくれるような相手がいる芹のことが、素直に羨ましいと思ってしまった。

 

 

「さ~~~てと……! 家帰ってご飯の用意でもしますかね~っと!」

 

 

そんなことを漠然と考えつつ、私は伸びをしながらそう決めた。

私がどこまで皆を守る力になれるかなんて、まだ分からないけど……一人で戦っているわけじゃないと思うだけで、そう思えるだけで、さっきのような悩みは浮かんでこなくなっていた。

 

戦う、守る、生き残るんだ、皆で。

そしていつか、今のこの時間の出来事を思い出にして話せるような、そんな平和な時間を作りたいと、そう思った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

良かれと思ってやったことが、裏目に出たり、ある人からは良くないことに映ってしまうのは、よくあることだと思っていた。

僕、西尾暉としては、初めてのフェストゥムとの戦闘で敵を4体倒して、島を守って……敵をもっとたくさん倒せば、遠見先輩に褒めてもらえると思っていた。

 

もっと敵を倒すためには、敵の数が多くなければならない。

だからこそ、次はもっとたくさん来ればいいと……そう口にしてしまった。

 

でも、いや……ファフナーから降りて興奮気味だった頭が冷えてきたところで、僕自身とんでもないことを言ってしまったような気がしてきた。

遠見先輩に掛けられた、冷たさを含んだ言葉が、ズクズクと僕の心に突き刺さっていくような、そんな感覚を覚えながら、家に帰るためにアルヴィスの通路を歩いていた。

 

里奈は……先に帰ってしまったんだろう。

ここ最近、あんまり口聞いてくれないけど……これもやっぱり、僕が悪いんだってそう考えてしまえば、納得できてしまった。

 

 

「お、暉」

 

「修哉……? あれ、もう帰ったんじゃなかったの?」

 

「まぁー……その、なんだ。野暮用」

 

 

暗い気分で通路を歩いていると、逆方向から修哉が姿を見せる。

僕が喋ることが出来るようになる以前から、答えのない僕にもよく話しかけてくれていたけど、それは今も変わらないらしい。

 

でも、修哉はもう検査も終わってたはずだし……こっちには医務室しか無い。

一体何をと少し考えてみたけど、思い当たる節はすぐに出てきた。

 

修哉の何処かバツの悪そうな表情と、医務室に残っている2人の存在を考えれば、想像することくらいは出来た。

 

 

「広登と芹に……何か話?」

 

「まぁ……な、戦闘中は広登のやつどっか変だったし気になってさ。芹も芹で、なんか考え込んでそうな顔してたし」

 

「そっか……修哉は凄いな……戦った後なのに、皆のこと……よく見ててさ」

 

「細かいことが気になる、悪い癖だ。ただのお節介だよ」

 

 

多分、僕のところに来る前は里奈のところに行っていたんだろう。

里奈もファフナーから降りたあと、どこか表情が暗かったし……弟の僕くらいしか気が付いてないと思ってたけど、やっぱり修哉は周りをよく見てる。

主に僕のせいで、里奈が大声出した時も、いつも止めに入ってそれとなく里奈を宥めてくれるのは修哉だった。

 

思えば、僕は昔から修哉に助けてもらってばっかりかもしれない。

 

 

「で、お前は何でそんなに辛気臭い顔してんだ? 遠見先輩に怒られたのか?」

 

「な、なんで知ってるの?」

 

「いや、適当に言ってみただけなんだが……なんだ、当たりだったか」

 

「うぐ……」

 

 

一瞬、心を読まれたのかと思ってしまった。

と同時に、あまりに分かりやすい自分自身のリアクションに、顔が赤くなっていっているのが分かる程だった。

もちろん、実際に遠見先輩に怒られた……と言うか、僕が余計なことを言ってしまったのがそもそもの原因で、ちょっと冷たくされただけ。

 

……いや、やっぱりこれだけでも結構キツイものがあるかも……

普段は優しい遠見先輩が、変性意識下でもあそこまで静かに怒ってたんだ……今顔を合わせたら、もっと冷たくされる…?

 

 

「実は……さ…」

 

 

と、思考がかなりネガティブな方向になっていたからか、僕は気がつけば修哉に戦闘中の遠見先輩とのやり取りを話してしまっていた。

敵を倒す事を楽しんでしまっていたこと、次はもっとたくさん来ればいいと言ったこと、それが原因で遠見先輩の気分を悪くしてしまったかもしれないこと。

 

また次に顔を合わせた時にどうすればいいのか分からないなど……かなり情けない相談をしてしまった。

全部を聞いてくれた修哉は、『ふーむ…』と一息つくと、ハッキリ言った。

 

 

「うん、そりゃお前が全面的に悪い」

 

「だ……だよね……やっぱり……」

 

 

あんまりにもハッキリと、キッパリとそう断じられ、正直なところぐうの音も出ない。

実際、修哉の言う通り、今回の一件は僕の無神経で身勝手な一言が原因なんだから、反論のしようも無かった。

 

けど、修哉が遠慮なしにそう言ってくれたお陰か、自分の落ち度をしっかりと受け止められたようにも思う。

ずっと自分の頭の中だけで考えていたからかもしれないけど、第三者にハッキリ言われると不思議と納得できてしまった。

 

 

「でも、暉も自分が悪いことしたってのは理解してるんだろ?」

 

「それは……もちろん…。人の命がかかってるのに、敵がいっぱい来ればいいなんて……」

 

「この島も、遠見先輩だってフェストゥムに色々なものを奪われたからな」

 

「うん……」

 

「だったら、さっさと謝って許してもらって、元通りになればいい。悪い事したって思ってるなら、まず自分から謝んないとな」

 

「え……」

 

 

修哉の言っていることは、ひどく正論で、当たり前のことで、これ以上遠見先輩に嫌われたくないという逃げの心理から、僕が目を向けなかった選択だった。

悪いことしたなら謝る、小学生でも知っていることだけど、なかなかどうしていざという時に選択肢に出てこなくなってしまう。

 

でも、確かに今僕がやるべきことはここでこうやってウジウジと悩むことでは無いはずだ。

 

 

「暉としても、愛しの遠見先輩に口聞いてもらえないと、息苦しいだろ?」

 

「い、愛しのって……! べ、別にそんなんじゃ……」

 

「流石に気が付くさ。 一騎先輩並の朴念仁なら兎も角」

 

「えー……修哉がそれを言うの…?」

 

 

愛しの遠見先輩の下りで、僕の赤面のレベルがもうワンランク上に上がってしまった。

 

というか、一騎先輩なら兎も角って、修哉は絶対に言えないと思うんだけどなぁ……

二人共、朴念仁度合いで言えば、かなりいい勝負すると思うし。

 

正直、喋れない時から修哉と芹の関係を見ていたけれど……精神衛生上よろしくないと思ったこともあるほど。

二人共傍目から見ればあんなにハッキリ分かるくらいに…その、好き合ってるんだから、さっさとくっ付けばいいのに…とか。

いや、喋れても口には出さないけど…

 

 

「なんにせよ…だ…。早めに解決したいなら、早めに謝ってこい。なに、遠見先輩は基本的には優しいお姉さんだろ、お前が真剣に謝れば分かってくれるさ」

 

「そう……だよね……うん…分かった、そうしてみるよ」

 

「おう、なんか困ったことになったら、また言って来い」

 

「うん………あ、その…ありがとう、修哉」

 

「どういたしまして……って、大した事はしてないさ。じゃな」

 

 

そう言って、修哉は医務室のある方向へ、僕が歩いてきた通路を歩いて行く。

修哉からのアドバイスは、とてもシンプルで、それこそ当たり前のようなことだったけど、僕が目を逸らしてしまっていたものを目の前に持ってきてくれたように思う。

大した事はしていないと、修哉は言うけれど……僕としては、また修哉に助けてもらってしまったと、そう思う。

 

ーーーありがとう、修哉。

今までの分も含めて、僕も修哉を……いや、修哉だけじゃない、皆を守れるように強くなる、なってみせるよ。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「くそっ!!」

 

ガァンッ!と、みっともなく、壁を殴り付ける。

八つ当たり以外の何物でもないと分かっていても、今の俺、堂馬広登にこの荒れた心を御する余裕は欠片も残ってはいなかった。

 

医務室から出た瞬間、さっきの戦闘の内容、自分の戦い、修哉の戦いが頭の中をちらつき、まるで俺を煽ってくるように繰り返し再生される。

フェストゥムとの初戦闘、俺はより多くの敵を倒すため、島を守るためという気持ちが先行して、どんどん前に出て行った、

 

それなりに敵を倒すことも出来た、最初は一人でも戦線を保つことが出来るとも思っていた。

でも、倒しても倒しても次々島に上がろうとしてくるフェストゥムに対し、時間経過と共に集中力と精神的な余裕が擦り減っていった。

そして、気が付けば敵に包囲される寸前にまで追い込まれていたのだ。

 

そこを、俺は修哉に助けられてしまった。

 

 

「(修哉に助けられた……情けねぇ……!!)」

 

 

助けられたという事実に、感謝という感情よりも先に、沸々と怒りと苛立ちが沸き上がってくるのを感じる。

それは修哉に対してなのか、不甲斐ない俺への怒りなのか、色々な気持ちが交じり合って、もう俺自身にも分からない。

 

ただ、この前目の当たりにした修哉と芹の、抱き合う二人の姿がフラッシュバックし、そんな相手に助けられてしまったということが合わさり、俺の劣等感が膨れ上がっていく。

また俺は、無様に修哉に負けたのだと、その上助けられたのだと。

 

少し前なら、島を守ることは競争でも勝ち負けでもないと思えた。

けど、今は違う……何か一つでも、修哉に勝ちたい…いや、勝たなければ俺はどうにかなってしまいそうだったのだ。

 

しかし、肝心の現実はどうだ?

修哉に危機的状況下から救われただけでなく、敵の撃墜数でも完全に負けている。

何一つ……何をとっても勝ち目すら見えてこないではないか。

 

 

「くそ……くそっ!!」

 

 

再度廊下の壁に拳を打ち付けるが、痛みを持ってしても頭に上った血は収まることはない。

寧ろ、逆効果のようにイライラとした感情と、劣等感が大きくなるようにさえ感じる。

 

そんな時だった、誰かの気配を目の前に感じたのは。

こんな無様な姿を見られたとあっては、かなりバツが悪い。

さっさと立ち去ってしまおうと顔を上げたのだが、俺の目に飛び込んできたのは、今一番会いたくない相手だった。

 

 

「広登」

 

「……修哉……」

 

 

自然と、自分でも理由も分からずに修哉を睨み付けていた。

修哉は、そんな俺の視線を受け止めた上で、目を逸らすこともなくそこに立っている。

 

なんてタイミングで、お前は俺の前に現れるんだ……何なんだよ、お前は……俺を笑いにでも来たのか、馬鹿にでもしに来たのか?

お前じゃ戦力にならない、島を守れない、お荷物だと、そうやって俺を馬鹿にでもしに来たのか?

芹は、俺が守るからお前はいらないとでも……言いに来たのか。

芹は俺のだと……言いに来たのか。

 

そんなこと、こいつが考えているはずもないと分かっているのに。

 

 

「何の用だよ……」

 

「今日の戦闘……お前、やけに無茶してただろ。それになんか様子もおかしかった……何か悩んでるんじゃないかと思ってさ」

 

「……仮にそうだったとしても、お前には関係ねーだろ……」

 

 

果たして、やはり修哉は修哉だった。

馬鹿にするでもなく、切り捨てるでもなく、見下すでもなく、笑うでもない。

俺の様子がおかしいことを心配して、声を掛けに来ただけだ。

 

その悩みの原因が、修哉自身にあるなどとは、恐らく欠片も考えていないだろう。

当たり前だ、これは俺が、一方的にお前に劣等感を感じて、勝手に敵意のようなものを感じているだけなのだから。

そんないつも通りのお前の気遣いが、心の余裕を持っているようにみえるお前の存在が、芹を夢中にさせているお前が。俺の苛立ちをより大きくする。

 

 

「関係ないわけ無いだろ? ヘタすれば、お前が……仲間が死ぬかもしれない。何か悩みがあって、原因があるなら力になりたいって思うだろ」

 

「………」

 

「なぁ、広登……一体どうしたんだよ? なんか、いつものお前らしくないぞ?」

 

「……るせぇよ…」

 

 

んなこと……お前に言われなくなって分かってんだよ……!!

でも、自分でもどうすればいいのか……分からねぇんだよ……!!

力になりたいって言うなら……お前は俺のためにファフナーのパイロットを降りて、守られる側の存在になって、芹を俺に守らせてくれんのかよ……!

 

いつもの俺らしくない……あぁ、そうさ!!

こんな俺は……今の俺は堂馬広登らしくないさ!

 

でも、そうさせているのは……その原因は……!

 

そして、俺は友人に、俺を心配してくれている奴に対して、決して言ってはいけないような事を口にする事になる。

 

 

「うるせぇっつってんだよ!! 余計なお世話なんだよ!」

 

「広登…?」

 

「はっ! 流石エースパイロット様は俺みたいな凡人とは違うよな! あんな戦闘の後に人の心配かよ……!」

 

 

一旦口火を切ってしまえば、後は油に炎が広がるような勢いで捲くし立てるだけだった。

 

違う……違う……俺はこんなこと、こんな嫌な事を言いたいわけじゃない……!

心の中ではそう思っても、既に俺の口はもう一人の俺に支配され、修哉に次々と罵声を浴びせていく。

 

 

「広登、俺は別にそんなつもりで…」

 

「お前一人だけ、新人の中じゃ二桁撃墜だもんなぁ? 出来の良くない俺を守ってくれたもんなぁ? 悪かったな、お前みたいな才能がなくってよ」

 

「………」

 

「さぞいい気分だよなぁ? いつもは満足に動けもしないお前が、こうやって誰よりファフナーを上手く動かして、能なしの俺を見下せるんだからよ……」

 

 

俺の罵声を、修哉はただ受け止めるだけだった。

反論も、異議も唱えることはなく、俺に殴りかかって来るような素振りすら見せない。

ただただ、俺の声を真正面に受け続けるサンドバッグにでもなったように、ただそこにいた。

 

何で何も言い返してこねぇんだよ……いつものお前なら、言い返す言葉くらいいくらでも見つけてくるだろうが…!

なんて、勝手な考えが頭を過る。

 

 

「……ま、エースパイロット様の邪魔しないように気を付けっからよ。じゃーな」

 

「…………」

 

 

そう言って、俺は修哉の横をすり抜け、その場を後にした。

俺は……最低なことを、言ってはいけない罵詈雑言を修哉に浴びせてしまったのだ。

 

喚きたいだけ喚き散らしたにも関わらず、俺の心はより深くイライラを募らせていた。

自分を心配してくれた友人への最低の仕打ち、身勝手過ぎる自分自身への際限のない怒りが、俺の中で広がっていた。

 

背後から、修哉の声が飛んでくることは……無かった。

 

 

悪い修哉……

もし、俺が元に戻れたなら……元の俺達に戻れたら……その時は、俺のことをぶん殴ってくれ……




ファフナー11話

ぱ、パイロットが人間やめてるンゴ……

ま、まぁ芹ちゃんと織姫ちゃんが出てきて、またしてもお風呂シーンが合ったので、その時点で私から言うことはありません。
というか、織姫ちゃんなに着ても似合いますなぁ…
虫捕り探検時の衣装、芹ちゃんも律儀に着替えてて笑いましたがww

彗の食事シーンはちょっと切ないというか、やり切れんですね。
娘を失った喪失感からいろいろとおかしくなっているんでしょうが、それでも、だからこそ彗に対してしてやるべき事があるだろうと…

はい、そんな感じで真面目なことを考えてましたよ。
里奈をお風呂から異次元デリバリーしてくるまではな!!
彗てめぇ!! ベッドの上に素っ裸のお姉さん召喚するとか、一歩間違えたら薄い本が厚くなるだろうが!!(やったぜ)

里奈と彗、ただでさえおねショタ本要素が成立してんですから……(期待の眼差し)

そして、パイロット合宿と迎撃戦。
風呂場での『今敵が来たら負ける』は1期にもありましたね。
で、ここでまたしても芹ちゃんがお風呂シーンをお披露目してくれるわけですよ。
あかん、芹ちゃんがお色気担当になってまう!(いいぞもっとやれ)

で、新しい力の代償……怖い…
特に芹、触るものをどうかして結晶化パリーンとかかなり実生活に影響あるでしょ。

あと、これだけは言わせていただきたい。
なんで牛乳瓶と床は結晶化パリーンして、服がパリーンしないんだよ!!
服空気読めよ!!


とまぁ、そんなどこかのToLOVE○な展開はないでしょうが、ファフナーのアニメは色々と不穏な匂いがプンプンしてますが、ほんとに面白い。
毎週、胃を痛くしながら見る価値があるってもんです。


さて、本編についてです。

里奈視点で語られた、新人たちの撃墜スコアについては、このお話のオリジナル設定です。
実際、劇中ではその手の話が出てこなかったので、里奈の悩みの一端を表現するために設定しました。

里奈の悩みは、実戦での自分の不甲斐なさ、そこからくる無力感です。
変性意識下では、里奈はどこか不安定というか、感情の揺れ幅が大きいように思います。
暉にも後れを取っている自分に、少し失望してしまっていました。

なお、シュウに慰められた里奈ですが……別にこれで里奈がシュウに惚れて4角関係になったりとかはないです。
これ以上ややこしくしたくないのですよ…


次に暉、劇中でもありましたが、『次はもっとたくさん来るといいですね』の発言についてです。
そりゃあ暉さん、遠見先輩も激おこですよ。

シュウのアドバイス…になるかは分かりませんが、助言は当たり前のことですね。

最後に広登
彼もかなり苦しんでおりますです。
演習だけでなく、実践でも差を見せつけられてしまい、この前のこともありシュウに対する嫉妬心を隠せなくなっています。

それが原因で、一方的に罵声を浴びせてしまうことに。。。
やってはいけないと分かっていても、どうしようもないんですね。
彼がここからどう持ち直し、シュウ、芹との関係に折り合いをつけて成長するのか。
ここも重要なポイントです。



次回は芹視点のみになります。
シュウと芹のお話になります…つまりはそう……はい、そういう事なのでお楽しみに(お覚悟を)



シュウ「細かいことが気になってしまう、俺の悪い癖」

???「おやおや」

↑ 今日のお話を推敲してる時に思ったことです










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