蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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どうも、F20Cでございます。

ずっと書きたかった蒼穹のファフナーのお話ですが、EXODUSの放送を機に実行に移してみた次第でございます。
更新間隔はのんびりですのですが、ご理解いただければと思います。

時系列としては劇場版からになりますが、お話の開始はそのちょっと前です。
主人公は、芹ちゃんや広登くん世代でございます。

ファフナーの二次とか認めないよ?
という方はご注意くださいませ。




HEAVEN AND EARTH
はじまりは楽園にて -Ⅰ-


昔から、消毒液の匂いは嫌いではなかった。

いや、だからといって好きなのかと問われれば回答には窮してしまうが、物心つく頃から嗅いでいる所為もあって鼻に馴染んでいるというか、親しみのある匂いとでも言えばいいか。

 

滝瀬(たきせ) 修哉(しゅうや)という人間にとっては、遠見医院で嗅ぎ慣れた、このそれ程きつくない程度の消毒液の匂いはそんなものだった。

 

 

「はい、これで定期健診はお終いです。随分安定しているし、学校への継続しての登校も問題ないでしょう」

 

「いつもありがとうございます、遠見先生」

 

「学校の方はどう?生徒会の方に入ったって聞いているけど…」

 

「力仕事以外のところでこき使われてますよ、予算の計算とか…。まぁ、カノン先輩に結構気を使ってもらってるんでそこまで大変じゃないですけど。………でも、楽しいですよ、毎日が」

 

「そう…なら本当に良かったわ……」

 

 

修哉は自身の主治医、遠見千鶴の問いに対して若干表情を和らげながらそう答えた。

目の前のこのお医者様、パッと見ると20代後半から30代でも十分通用するような美女だが、二児の母であり、孫をお持ちという御方である。

修哉達の住むこの竜宮島、その唯一の診療所の院長という肩書を持つ千鶴には、物心付く前から世話になっている。

 

千鶴は、修哉の楽しそうな表情を目にしつつ、遺伝性の肝臓疾患を持つ修哉が充実した、平和な毎日を享受していることに安堵した。

西暦2148年現在、【平和】という言葉の尊さは前時代の比ではなくなってしまったのだから。

 

 

何の前触れもなく地球に現れた謎の敵、地球外知的生命体、【フェストゥム】。

読心能力を用いての人類側のあらゆる攻撃を無力化、ワーム・スフィアーによる空間自体にねじれを発生させる攻撃、他の生命体との同一化を行い、対象のすべてを奪う同化。

このような能力を持つフェストゥムに対し、当初人類は為す術もなく撃滅せしめられ、その生存圏を急速に狭めていった。

追い詰められた人類軍はフェストゥムとの戦争の過程において、日本への核攻撃を実施し、日本という島国は旧・北海道、沖縄を残して世界地図から消え去ることとなった。

 

残された日本人達はアーカディアン・プロジェクト(楽園計画)を始動、その一環として対フェストゥム用兵器、【ファフナー】の開発と人工島、後の竜宮島への入植を進め、平和という文化を残そうとしつつも、敵の襲来に備えていた。

 

そして二年前、この竜宮島にもフェストゥムが襲来した。

修哉の一つ上の先輩、真壁一騎を筆頭とした少年少女パイロットたちがファフナーを駆り、戦いに身を投じていった。

多くの犠牲を払ったフェストゥムとの戦争は、人類軍のヘブンズ・ドア作戦、竜宮島での記録上は蒼穹作戦にて、北極海ミールを破壊したことで一旦の終結を迎え、竜宮島は元の平穏を取り戻しつつある状態だった。

 

 

「さてと…一騎先輩のところで一服してから、学校の方に顔出すことにします」

 

「夏祭りの準備だったわね。張り切るのはいいけれど、くれぐれも無理はしないようにね」

 

「はい。肝に銘じておきます、患ってる病気だけに」

 

 

そう冗談めいた事を言い残し、修哉は千鶴に礼をした後、診察室から退出した。

彼の冗談に一瞬苦笑した千鶴だったが、手元のカルテと情報端末のディスプレイに視線を向けると同時に、苦々しい表情になる。

 

 

「出来れば彼が……いいえ、もう子供たちが戦わずに済めばいいのだけれど…」

 

 

ディスプレイ上には、修哉のカルテとはまた違うデータ、彼のファフナーパイロットとしての適正値についての情報が羅列されていた。

 

 

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「うわ……眩しい……こりゃ太陽光線が本格的に俺を殺しにかかってるな…」

 

 

遠見診療所を出た俺を待っていたのは、太陽からの情け容赦ない洗礼だった。

目を細めつつ、恨みがましい表情のまま空を睨むが、お天道様に文句を垂れてもどうしようもない事は百も承知している。

ジリジリと肌を焼くような陽の光へのささやかな反逆として、持っていたタオルをややくせっ毛気味なところが気になる頭にかけて歩き出す。

 

それを待っていたかのようなタイミングで、前方から声がかかった。

……どうやら、今日はお迎えがあるらしい。いや、別に不吉な意味ではないが。

 

 

「あ、やっと出てきた。シュウ遅いよー」

 

「お出迎えをお願いした覚えはないんだけどな、芹」

 

「別に迎えに来たわけじゃないし。乙姫ちゃんに虫見せにあげに行ったついでに、つ・い・で・に虚弱な幼馴染を引き取りに来ただけだし」

 

「物は言いようだな……」

 

 

待っていたのは、立上(たてかみ) (せり)

自分とは幼馴染兼、同級生兼、生徒会メンバー仲間である少女である。

今日も今日とて、趣味で捕獲した虫を島の守り神、コアたる存在に見せに行っていたらしい。

皆城(みなしろ) 乙姫(つばき)、一時期は俺たちと同じクラスにも在籍していた、大切な存在の生まれ変わりとも言える存在に。

 

慣れた様子でそんな会話を交わしつつ、どちらからでもなく同じ方向に歩みを進める。

目的地は先の戦いにてファフナー部隊のエースパイロットを張っていた真壁一騎、彼の働いている喫茶店だ。

 

 

「体はどんな感じ?」

 

「可もなく不可もなく、安定してるってさ。学校も引き続き通えるって」

 

「そっか……良かったんじゃない? 自宅警備員としての手腕を振るわなくて済むってことだし」

 

「うっせー。っていうか、それ洒落にならんっつーの」

 

 

実際、芹の言うとおり、体調が悪い時は学校に登校など出来るはずもないし、必然的に自宅待機せざるを得ない。

ここ数年は病状が安定している事もあって、外出も学校も割と自由にさせてもらっているが、またいつ急変するやも分からない体だ。

芹の言う、自宅警備員としての経歴にまた輝かしい一歩を記すのが明日なのか、それとも来年なのか。

結局のところ、「今は取り敢えず大丈夫」という状態になっているだけで、肝心なことは誰にも分からないのだから。

 

とは言え、少し歩いただけで倒れそうになったりということは、今はない。

だからこそ、今はこの安定している時間を甘んじて受け入れると同時に、できるだけ長く続けばいいなぁとぼんやりと考えるばかりだ。

 

 

「ここ2年位は安定してるし、ちょっとくらいは体動かしてみたいんだけどなぁ…」

 

「大昔に同じようなこと言って、三ヶ月もベッドの上だったのは誰だったっけ?」

 

「あぁ、そうですよね。分かってますよ、言ってみただけですよこんちくしょう」

 

「あの時、私も絵梨さんもめちゃくちゃ心配したんだからね? また同じようなことしたら鼻にクワガタの刑だから」

 

「……うっす」

 

 

心配させたこと、あと姉ちゃんのことを出されるとぐうの音も出ない。鼻にクワガタの刑というのも謹んで辞退したいが。

俺とはほぼ一回りほど年齢差がある姉、滝瀬(たきせ) 絵梨(えり)は……弟の俺が言うのも何だが、ブラコンの類に該当する。

いや、子供の頃から心配かけまくったことがその一端を担っていることは理解しているが、弟離れ出来ないというかなんというか。

 

平時は学校の教職に付き、アルヴィスのスタッフとしても既に働いている俺の保護者。

俺が生まれた次の年に亡くなったらしい両親の代わりに、俺を育ててくれた偉大なお姉さまなのだが、ブラコンである。

普段は優しい、姉弟補正抜きにレベルの高い女の人なのだが、食事時に『はい、シュウくん。あ~ん♪』とかアニメかよとツッコミを入れたくなるようなことをしてくる姉なのだ。

 

同じく幼馴染の堂馬(どうま) 広登(ひろと)に言わせれば、『あんな美人なお姉さま持ちが何贅沢言ってやがる!!』とのことだが。

 

 

「いやでも、流石に『あ~ん♪』はないわ……」

 

「え、何の話?」

 

「あぁ、いや独り言」

 

 

昨日の頭の痛くなるような出来事を思い出し、つい口から漏れてしまったようだ。

脈絡のない台詞に、隣を歩く芹が不思議そうな顔をしてくるが、姉にスプーン片手にあ~ん攻撃を受けたとでも言おうものなら、またこいつにからかわれるネタを提供するだけなことは明白だった。

 

それに加えて、そうそう広い島でもない竜宮島だ。

芹の口から溢れた話が何処でどう加工されて広まるかなど、恐ろしくて想像すらしたくないレベルだった。

 

 

「さーてと、一騎先輩のとこで何食うかなぁ……」

 

「いつも通り一騎カレー(小サイズ)じゃないの?」

 

「いや、今日なら、今の俺のポテンシャルなら並盛りに挑戦できるような気がするんだよ」

 

「食べきれなくって泣きついても知らないからね」

 

「そん時は……芹、あ~んしてやるから、食べてくれ」

 

「鼻にクワガタの刑」

 

「正直すまんかった」

 

 

そんな風に、気心知れた幼馴染と微妙に中身の無い話に花を咲かせながら歩いていると、徐々に目的地が見えてきた。

俺の歩くペースはそこまで早くない…というか、下手をすれば芹に合わせてもらうレベルだが、それでもここまで歩いても辛くないというのは嬉しいものがある。

どうやら、遠見先生の『安定している』というお墨付きは疑うべくもなかったようだ。

 

たどり着いた先は楽園、いや誤字にあらずだ。

この島随一と言ってもいい料理人の食事にありつける喫茶店、ーー『楽園』だ。

 

 

 




さて、短めでしたが第一話でございます。
病弱主人公書くのは初めてでございますが、彼には頑張ってもらいますよ(ニッコリ)

EXODUS、毎週楽しみに観てますが胃が痛いですね、いろんな意味で。
まぁ、一つ分かっていることといえば、溝口さんは死なないことですね。
2話でヒヤッとしたのは内緒です。

ではでは、また次回


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