猫神 イリヤです。
すみません、風邪を引いてしまい投稿が遅れました。
第四話『“新生”《ナイト・ロザリオ》』をどうぞ。
※タブレットで見る方は横画面でご覧ください。
嫌な方は、縦画面でも構いません。
プロローグ・ミニ
加速、加速、加速、加速ーー
鼓動、鼓動、鼓動、鼓動ーー
興奮、興奮、興奮、興奮ーー
俺の意識は、それらで埋まる。そして、もう一度。さらに、もう一度。呼吸を整える暇もなく、ひたすらに黒と赤の影を眼で追い続ける。
加速、加速、加速、加速ーー
鼓動、鼓動、鼓動、鼓動ーー
興奮、興奮、興奮、興奮ーー
加速ーー鼓動ーー興奮ーー
加速。
鼓動。
興奮。
…………………………………………………。
視界が途絶え、真っ黒に染まる。
ーー意識が………世界が………暗転した。
Ⅳ.新生《ナイト・ロザリオ》
「あぁぁ、うぐぅぅぅ………」
こんなにも情けない声を出したのは、他ならぬ俺である。
その声を出した俺は、ゆっくりと眼を開いた。真っ暗な俺の視界が、微かに色付き始めた。
ーー眩しい。
こんなにも、明るい光を眼に含んだのは生まれて初めてだ。
続いて、爽やかな風が耳の鼓膜を振動させる。正しくは、爽やかな風に木琴の鮮やかな音色が流れるような声が、耳の鼓膜を振動させる。
「………⁉︎よ、良かった………。薫くん、具合はどう……?もぐもぐ、ゴックン」
俺は、まだ完全に開き切っていない眼をなんとか動かし、自分の身体を見た。
俺の身体には、無数の管が繋がれていてーーという事は全くなく、白い布がかけてあるだけだった。
俺は、俺自身の身体を確認して、すぐに爽やかな風の吹く方向ーー俺の名前を呼ぶ声の持ち主の方を向き、言った。
「そっか……俺、頭をフル回転し過ぎて倒れたのか………。あーあ、まだまだだなぁ………。すみません、鏡音さん。俺なんかに付き添ってもらっちゃって…………」
「当たり前だよ…………薫くんの教師役だからね………。もぐもぐもぐもぐ」
ーーですよねぇ………。
そう、心のなかで優しくツッコミ、微笑んだ。
俺が倒れたのは、鏡音さんと冬姉が《第四フェーズ》に突入してから、たったの一分後だったと言う。
冬姉は焦りまくり、鏡音さんは冷静に龍ヶ崎さんに報告し、龍ヶ崎さんは部屋の手配をしてくれたらしい。
すごく迷惑をかけてしまった。
「あの、鏡音さん……」
「ん、なに?もぐもぐ、ゴックン」
「鏡音さんは、俺の見舞いに来たんですよね……?」
「ん、うん。半分、命令だけど……。もぐもぐもぐもぐ、ゴックン。それが、どうしたの?」
俺は眉間にシワを寄せ、半ギレで言った。
「いや…………その……。なんでパンを食ってるんですか⁉︎人の見舞いですよ……?強制するつもりはないですけど、せめて患者の前で食べ物をつまむのは…………」
「あ、ごめんね。もぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ゴックン」
「………分かってない。全っ然分かってない………」
俺は深くため息を吐いて、ベッドから降りた。長い間寝込んでいたらしく、体調はすっかり回復していた。
「ふあぁぁぁ……」
と、あくびをした俺に、鏡音さんが未だにパンを食べながら言った。
「そうそう薫くん、もぐもぐ。今から、君に《ナイト・ロザリオ》の……ゴックン。メンバー達を紹介したいんだけど、良いかな?」
「俺は別に構いませんけど……」
「そっか、じゃあ付いてきてね……。あっ、後、ウチの班のリーダーの妹には、気を付けてね……」
「え、あ、はい……。ってか、鏡音さんがリーダーじゃないんですか…………?龍ヶ崎さんが、鏡音さんの事を“地球最強の龍刃師”だって…………」
俺は、イヤなところを突いてしまったらしく、ズーーンと、効果音が付きそうなほどに鏡音さんのテンションが下がってしまった。
「そうなのよね……。あたしは、確かに強いけどーー」
ーーあ。自分で言っちゃうんだ……。
「組織長が、『お前には、隊員を引っ張っていく才能がない‼︎』っとかなんとかで、リーダー格から落とされちゃったの…………」
ーーだろうな。龍ヶ崎さんの決断は、ものものものものすごく正しい。この人の性格だと、みんなダメ人間になりかねないからな………。
と、言いそうになったのを直前で踏み止まり、心の中で呟いた。
「ま、まぁとにかく、鏡音さんは強いって事だけで。それだけで、いんですよね…………?」
「そうそう。導く力がなくても、強ければ良いのよ…………‼︎」
鏡音さんは、腕を組んでそう言った。俺はそれを見てーー
ーーそこ、威張って言う事じゃないだろ……。俺的には、「強いだけじゃあ、ダメなの……」って言うのを期待してたんだけど………。
と、思った。
鏡音さんは組んだ腕を解くと、こちらを向いて言った。
「さぁ、雑談はここまでにして、早速行こっか。《ナイト・ロザリオ》のみんなのところに……‼︎」
「あ、はい……ってぇ、待ってよーーじゃなくて、待って下さいよ…………‼︎」
スッタスッタ歩いて行く鏡音さんの後を、俺はおいかけるように付いて行った。
〜☆〜★〜☆〜
「あのーー。鏡音さん?」
「なに?」
「《ナイト・ロザリオ》って、どんな人達がいるんですか?」
「………。そうね………、まぁ、簡単に言っちゃえば、“危ない人達”かな……」
「え。な、なんか怖いんですけど……」
「大丈夫だよ……。危ない人達って言っても、みんな優しいから………。変な事しない限り………」
最後の方を上手く聞き取れなかったが、気にしないでおこう。
俺は今、鏡音さんと《ナイト・ロザリオ》について話しながら、地下十九階の廊下を歩いている。男性龍刃師とすれ違う度に睨まれるのが俺の役目なのが気にくわないが、その辺はなるべく無視してやり過ごした。
俺はため息を吐きながら、手に持つ薄めで濃い赤色の本ーー《龍刃師最高組織本部・ヴァンドラ》という本に、眼を落とした。
・《ヴァンドラ》とは、地下一階から地下四十階。さらに一つの階ごとが、縦七百m横一千mという規模で造られた、地下都市型の龍刃師組織本部です。
・《ヴァンドラ》の十九ある龍刃班は、地下一階から地下十九階の内、どれか一つに専用のフロアが設けられていて、どれも自由にカスタマイズ可能です。
・地下二十階から地下二九階までは、どれも超高剛金で造られたDG使用可能の訓練室が設けられています。
・地下三十階から地下三九階には、組織長室や研究室が設けられています。
・地下四十階は極秘の為、選ばれた者しか入室許可が許可が下りません。情報は、ここで遮断させていただきます。
本には、そう書いてあった。極秘の四十階は気になるが、今は眼前の事に集中すべきだろう。
俺は、本を閉じると鏡音さんに言った。
「鏡音さん……後どのくらいで着きますか?」
「もう着いてるわよ」
「え?」
顔を上げると、そこには黒色の扉があった。
「ここは…………」
「ここは、いつも《ナイト・ロザリオ》のメンバーが集まってる、まぁ、大広間みたいなところね」
俺は扉を軽くノックし、「し、失礼しまーす」っと言い、扉を開けた。
「失礼な事するんなら、入っちゃだめだーー‼︎」
ーーえ?
それが、俺の「し、失礼しまーす」に対する、最初の言葉だった。
「いや、そ、その…………」
俺がオドオドしていると、大広間の真ん中にある大きな白いソファに座った男性が、笑いながら俺に言った。
「あははは……‼︎冗談冗談、そういう反応を待ってたんだよ。いいよ、入って来て」
「あはは………それじゃあ………」
俺は反応に困りながらも、なんとか笑って部屋に入って行った。
部屋の中は白と黒と赤を基調とした明るい部屋で、部屋をデザインした人のセンスを漂わせていた。
俺は視線を前に向けた。そこには鏡音さんを含め、五人の男女がいた。と言っても、男と女の比率は、一対四である。
「えっと、紹介するね。あたしは君の知っての通り、雫=ヴェル=鏡音。一応薫くんの一歳年上の、十七歳。そして、右から、《リリィ》さん、《澪》ちゃん、《悠大》さん《カノン》さん。そんな感じかな?」
ーー鏡音さん、年上だったの⁉︎
ポカン、とした俺の顔を見た男性ーー鏡音さんの言う《悠大》さんが、言った。
「説明が雑だよ、雫ちゃん。彼が困ってるじゃないか……。そうだ、君が今回うちの班に来た、暁月 薫くん………だったよね?」
「あ、はい。俺、暁月 薫って言います。宜しくお願いします……」
「そんなに硬くならないでいいよ。僕の名前は《神崎 悠大》、十九歳だよ。《ナイト・ロザリオ》のリーダーやってるんだ。僕の事は、悠大でいいから」
この人がリーダーか。っと思いながら、俺は言った。
「はい。お願いします悠大さん」
「『さん』じゃなくて、ゆ・う・だ・い……‼︎」
「………分かりました。ゆ、悠……大……」
「そうそう。後、敬語じゃなくて良いから」
悠大はそう言うとニコニコしながら俺を見た。
悠大は、艶のある薄めの金髪を左に流したウルフカットの下で、金色の瞳を輝かせている。悠大の肌は俺以上に白く艶やかである。イケメンのせいか、黒色の制服が気持ち悪いほどに似合っている。
「な、なぁ悠大……。メンバーはこれで全員なの?」
「そうだよ……‼︎」
俺はなんとか敬語にならないように悠大に話しかけた………。なのにーー。
「グハァ‼︎」
ーー顔面を蹴られた………。悠大似の金髪少女に………。
「痛ってぇ‼︎」
俺はそう言いながら、仁王立ちをした金髪少女ーー鏡音さんの言う《澪》ちゃんを見た。
俺と眼が合ってすぐ、彼女は、言った。
「あんた………殺す‼︎」
「………え……⁉︎はぁ……⁉︎こここ、“コロス”って、あの“殺す”⁉︎」
「そう。その殺す‼︎」
真顔でそう言うので、恐れが増しに増す。ただ、単純に怖い。
俺の表情を見た悠大が言った。
「こら、澪……‼︎お前、なにやってんだ……‼︎彼は新メンバーだぞ‼︎」
「でも、悠兄様にタメ口を聞くから……」
「僕がそう言えって、彼に言ったんだよ………‼︎澪だって隣にいたんだから聞こえただろ⁉︎」
「………ご、ごめんなさい………」
「僕に謝ってどうするんだ?」
悠大がそう言うと彼女は、俺の方を向き手を伸ばして来た。俺がその細い手を握ると、意外と強い力で引っ張られた。
近くで見ると、やはり悠大と顔が似ていた。
悠大と同じ、艶のある薄く長い金髪の後ろ側と、前髪の中央を頭上で纏めて団子にし、纏まり切らなかった黒い毛先を遊ばせている。小さな顔には大きな金色の瞳。それが………俺を睨んでいる。そして、悠大同様に黒い制服が似合っている。
ものすごい美兄妹である。
俺を引っ張った後、彼女は言った。
「スミマセ〜ン、でした………。ウチ、悠兄様の妹の《神崎 澪》って言います。十五歳です………」
ーーと、年下かーーーーい‼︎っていうか、謝り方、雑‼︎
「澪“サン”って呼んでくださいね………!か・お・る……‼︎」
「あっ、はい。み、み、み、澪さん………」
そう言った俺の頭の中で、悪魔と天使が囁いた。
ーーふざけんなよ‼︎お前、リーダーの妹だからって調子に乗りすぎだ‼︎‼︎‼︎クソがーー‼︎
ーーイヤイヤ、やっぱりリーダーの妹だから仕方ないよ。年下なんだし、優しくしてあげないとな………。
ーーいーや。ここは、怒るべきだ‼︎
ーーいーや。ここは、優しくするべきだ‼︎
ーーいーや‼︎
ーーいーや‼︎
悪魔と天使が頭の中で喧嘩し出し、混乱しかけたとき、悠大が言った。
「澪………もう、調子に乗るのはやめろ。そろそろ、僕も怒るぞ………」
「………ごめんなさい、悠兄様……………。あの、薫さん、ウチの事は澪で良いですよ………」
あまりの豹変ぶりに驚きながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「う、うん。分かったよ、澪………。俺の呼び方は薫のままで良いから」
「………。薫、薫、薫、薫、薫、薫、薫、薫、よし‼︎宜しく、薫‼︎」
澪の豹変ぶりには、驚くばかりである。鏡音さんが「リーダーの妹には気を付けてね」と言ったのも、頷ける。
ーー龍ヶ崎さん、鏡音さん、澪………。いろいろ大変そうだな。
「よ、宜しく…………」
俺は、顔を引き攣りそう言った。
先ほどから俺と澪、悠大の三人で会話をしているが、そんな中、明らかに三人の声ではない声がした。綺麗なアルトボイスだった。
「そこの御三方……?私の紹介がまだ………なのですが………」
「あぁ、ごめん。忘れてたよ、カノン………」
悠大が、アルトボイスの持ち主にそう言った。
悠大の言う《カノン》は、キラキラと輝かせた銀髪を肩辺りまで伸ばし、毛先を内側に巻いている。じっと見ると、鏡音さんとは違う薄紅色の瞳が少しだけ怒っていた。見た感じからのんびりな性格で、身体は細く、身長は俺より少し低かった。女性にしては、高めだろう。怒って少し膨らんだ、薄ピンクの頬が愛くるしい。
さらに、彼女自身がオーダーメイドしたのだろう。《ナイト・ロザリオ》の黒い制服がコート型になっていて、中には白い服を着ている。さらに、その黒コートの裾には、金色の線が二つ輝いていた。ほとんどの人間がこう言うだろう。
ーーかっけぇーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
見た目はまるで、美女魔法使いーー魔女である。
その魔女、《カノン》さんは言った。
「悠大君は、ダメですね。すぐに私の事を忘れてしまいます……… 。ハァ」
そう言う《カノン》さんを悠大さんは「本当にゴメンな。マジで、ごめん………」と宥めつつ、話を変えようとしたのだろう。「そうだ、そんな事より彼に自己紹介しないと……‼︎」と言い、俺になすりつけてきた。
《カノン》さんも、「『そんな事』とは失礼な!」と言いつつ、「まぁ、そうですね」と承諾していた。
「えーっと、初めまして。私、《ティナクラウド=カノン》と申します。カノンと呼んで下さい。一応、《ナイト・ロザリオ》最年長の二二歳です……。宜しくお願いします」
「いえいえいえ、こちらこそーーいや、こちらがお世話になります。宜しくお願いします、カノンさん」
吊られて、俺まで頭を深々と下げた。
俺は深々と下げた頭をゆっくりと起こし、カノンさんに言った。
「俺の事は、薫って呼んでください」
「はい………!」
カノンさんはそう言うと、すらりと伸びたコートの裾を揺らしながら後ろを振り向き少し進んだ後、また俺の前に戻って来た。俺の眼前には、カノンさんだけでなく、もう一人の女性がいた。カノンさんはその女性の肩を押すと、「自己紹介‼︎」と言った。制服を見るに、この女性も《ナイト・ロザリオ》のメンバーだろう。
「え、えっと……。そ、その。アタシ………る、《ルクスエンド=リリィ》、ニ一歳。は、初めまして………です。リリィ………で、良いです」
漆黒の黒髪ロングストレート、左眼は前髪に隠れ、右眼は青い。濃い黒髪のせいで、より目立つ白い顔には小さな鼻が付き、明るい唇が全体の雰囲気をなんとか抑える。ただ黒く、オーラも暗い。恐怖を覚えてしまいそうだ。
しかし、そんなオーラとは真逆に綺麗なソプラノ声を出したリリィさんを前に、俺は驚いている。口をポカンっと開けている。
「あ、あの………」
リリィさんは、俺の静止が長すぎるせいか、心配そうに声をかけてきた。それに対して俺は、焦って返す。
「あ、はい‼︎ごごご、ごめんなさい………‼︎そ、その……リリィさんの声が綺麗だったので……」
「そ、それはどうも。あの………薫くん、アタシには悠大くんと同じように『さん』は、付けなくてもいいから。敬語も……」
「え、あ……じゃあ。分かったよ、リリィ。宜しく」
俺はそう言った後、くるりと大広間を見渡した。とにかく、落ち着く空間だった。何度見ても綺麗である。 ここが、俺のーー。
「さあ‼︎これで、全員揃ったね‼︎」
悠大はそう言うと、ニィっと笑い、さらに言葉を続ける。明るい声で。
「やっと出来上がったな、“新生”《ナイト・ロザリオ》が……‼︎薫くん、ここは今日から君の帰る場所だ……………。おかえり」
…………………………………………………。
『帰る場所』。その言葉だけで、涙が出そうになった。一昨日までの俺は、世界に絶望し、さらにはまともに生活をしていなかった。ただアルバイトで、金を稼ぎ続け、その金で、母さんの医療費を払い。そんな生活を、八年間続けてきた俺には、『帰る場所』という言葉は、愛おしいものだったのだ。
俺は、“涙が出そうになった”と称したが、実際に出てしまっていたらしい。
俺は、涙混じりに言う。
「はい…………。ただいま……」
俺の心に、少しだけ花が咲いた。
「………準備は………………?」
「完了しています。《ディバル》様」
「そうか。では、終わりの始まりを開幕しよう。これが終われば、次は………………《第二次龍人大戦》だ……………。くくく、カァ、カカカカ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
俺の知らないどこかで、深く低い、錆びた声が響いた。
力を出し切れず、すみませんでした。
まだ、治っていないので、ここまで………。
ドンドン、コメントお願いします。
最後に、遅れて本当にすみませんでした。
※毎週土曜日、遅くても最終投稿から二週間後の土曜日のペースで投稿します。