蒼き炎の龍刃師“ドラグーン”   作:猫神 イリヤ

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どうも、猫神 イリヤです。

前回、コメント下さり、ありがとうございます。
今回で第三話となりますが、「蒼ドラ」を見てくださる人が増えてきて、大変喜んでおります。

待たせてしまうのもあれなので、早速。
第三話「力の解放“フェーズ”」をどうぞ。

※タブレットで見る方は横画面でご覧ください。
嫌な方は、縦画面でも、構いません。


Ⅲ力の解放“フェーズ”

 

Ⅲ. 力の解放“フェーズ”

 

「もちろん、戦うんですよ………。薫くんがあたしと………」

「え……?俺が……⁉︎」

「ハイ………」

バカなのかこの女は。なぜ右も左も分からない俺が、この地球最強の女龍刃師《雫=ヴェル=鏡音》と戦わなければならないのだ。あり得ない、この女の思考回路が全く読めない。

「薫くんはこれを使って下さいね……」

そんな俺を無視してさらに言葉を続ける鏡音さんは、俺に黒い筒状のものを渡してきた。俺の記憶が正しければ、冬姉が俺を助けてくれたとき、色は違うものの冬姉も赤い筒状のものを持っていた。しかし、冬姉が持っていたそれの先からは“緑光の刃”が伸びていたはずだ。

「あの、これは………」

「それは、《ナイト・ロザリオ》の訓練生用に作られた最新型の《RDG》………。使い易い分、戦いも効率よく進められるはずよ」

「……本当に戦うんですか⁉︎」

俺が慌ててそう言うと、鏡音さんは笑いながら、

「大丈夫、本気で戦うわけじゃないし。訓練生龍刃師は基本的に実践の中で学習するのが一番効果があるから、《ナイト・ロザリオ》でもその方針で進めてるの………。まぁ、実際この学習方針が使われるのは、薫くんが初めてだけどね……」

と、言った。

俺はとりあえず安心したのだが、彼女の思考回路が全く読めないのではなく、俺の想像したものが大袈裟だったことに気付き、恥じた。ものすごく恥ずかしい。

俺はその恥ずかしさを誤魔化す為に話題を変えた。

「えっと、あ、あの……。さっきこれの事を《RDG》って言ってましたけど、それってなんなんですか……?」

「えっとRDGは、“Rosario Drago Gear”(ロザリオ・ドラゴギア)の略称で、あたし達の武装になるものよ……。元々《ヴァンドラ》の博士が開発した《DG》“ドラゴギア”ってものがあったんだけど、それを《ナイト・ロザリオ》用に改造したのが、RDGなの……。うちの班みんながS級だから、一人一人の専用RDGを造るのに時間がかかり過ぎたって言ってたわ、博士………」

「へ、へぇ〜………。あ‼︎もしかして、このボタンを押すと光の刃が出てくるんですか⁉︎」

俺はRDGの少し窪んだ場所を指で指しながらそう言った。

しかし、鏡音さんは首を左右に振った。間違っていたようだ……。

「間違いじゃないし、正解は正解なんだけど……。それだけじゃ、光の刃は輝いてくれないの……。実際にあたしがやって見せるから、少し離れてて………」

俺は軽く頷くと、鏡音さんから二mほどの離れた。

それを確認すると鏡音さんは、腰にかけてある、鏡音さん専用RDGを右手に取った。そして、そのまま右手を左肩の上辺りまで持っていき、右手親指でボタンを押した。さらに、鏡音さんは少しタメを入れてから、勢いに任せて右手で斜めに空を割いた。すると、手に持つRDGの先から“白光の刃”が、グヴゥン!と音を立て伸びた。

ここで、俺の中に一つ疑問か浮かんできた。

「あれ………?緑色の光じゃないんですか?」

俺のそんな素朴な疑問。しばらくの間、鏡音さんの頭上には“?マーク”が浮んでいたが、それが“⁉︎マーク”に変わるのは、そう遅くなかった。

「そっか⁉︎」と手を叩いた鏡音さんは、俺の眼をジッと見て答えた。

「薫くん、もしかして冬華さんの《QDG》を見たんでしょ……。あっQDGは、“Quick Drago Gear”(クイック・ドラゴギア)の略称ね……」

「はい……。龍刃班で光の色が異なってるんですか?」

俺がそう言うと、鏡音さんが指をパチンと鳴らし、

「惜しい……‼︎」

と言った。そして、さらに言葉を続ける。

「龍刃班によって異なるんじゃなくて、龍刃師によってーー正確には、《属性》よって異なってるの……」

「はぁ……。《属性》……ですか」

「そう。説明は長くなるけどーー」

本当に長かったので、話の内容を俺なりにまとめると、こうなった。

《属性》ーーそれは、その龍刃師の持つ《力》。専門用語で《フォース》と呼ばれるものである。属性にはそれぞれ《RF》“レッドフォース”、《GF》“グリーンフォース”、《WF》“ホワイトフォース”、《BF》“ブルーフォース”、火・地・風・水の四種類があり、龍刃師はその内のどれかに特化するのだ。そう、自分で選ぶのではなく、元々持った心の色がフォースとなるのだ。

簡潔に言えば、フォースによって刃の色が異なるという事だ。つまり、鏡音さんの《属性》は《WF》“ホワイトフォース”、《風属性》である。

「なるほど……。じゃあ、俺の属性ってなんなんですか?」

「まだ分からないわよ…………。そんなに気になるなら、RDGを発動してみたら……?」

「え、いや、だって……。俺、まだなにも………」

「じ〜〜〜〜……」

「…………」

ーー鏡音さん……今、口で「じ〜〜〜〜」って言ったよな。

「だから、まだなにも教えてもらって……」

「じ〜〜〜〜……」

ーーうん、言ってたな……。

「か、鏡音さん……?『じ〜〜〜〜』ってなんですか……?『じ〜〜〜〜』って……」

「あたし、雫=ヴェル=鏡音は、現在薫くんがRDGを発動させるのを全力で待っています……」

鏡音さんは、謎の言葉を言った。なぜ、自分の行動を口で説明しているのか……。

「だから、ずっと言ってますけどーー」

「じ〜〜〜〜……」

ーー子供かよ、この人は‼︎

「…………。ダァ、分かりました。分かりましたよ……」

俺は、なぜか承諾してしまった。

どうしよう……。そう思いながらも、承諾してしまったので仕方がない。俺は、ゆっくりと時間を稼ぎながら数m離れて止まり、「ハァ〜〜……」と深くため息をつき、言った。

「せめて、ヒントぐらいーー」

「じ〜〜〜〜……」

ーーなんなんだよ、もう……‼︎だったら、“完コピ”してやる。あのときの鏡音さんの動きを完璧に再現すれば……。そうすれば、まぁ怒られはしないだろう………。

「んじゃ、やりますよ…………」

俺はそう言うと、完コピを成功させる為に、一呼吸して心を落ち着かせた。そして、鏡音さんの動きを、頭の中ーー俺の身体と、完全にリンクさせた。

すでに“右手”に持ったRDGを左肩の上辺りまで持っていき、“右手”の親指でボタンを押す。“右手”に力を込めて少しタメを入れてから、勢いに任せて“右手”を右下に振り下ろした。

「…………」

ーーやっぱ、ダメだっーー

 

 

 

グヴゥン!

 

 

俺は恐る恐る“そこ”に眼を向ける…………。

「ほら、やっぱりできた…………。って、できたーーーーーー⁉︎」

我ながらナイスなノリツッコミであったが、正直言うと、まさかできるとは思わなかった。

ーーあっ、ちなみに俺のRDGの先からは、青光の刃がで 伸びている。《BF》“ブルーフォース”、《水》が俺の、属性らしい。

「うんうん、できたできた……!」

そんな冷静な反応をしているのは、もちろん鏡音さんである。

そんな事より、なにも習ってない俺がまさか、一発目で成功するなんて思いもしなかった。なぜ、発動できたのだろう。

「どう、薫くん……。“右手に集中できた”?」

その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。そして俺は、ハッ‼︎っと気付く、その言葉の意味に。同時に、鏡音さんが“本物”だという事にも。

つまりだ。鏡音さんの「右手に集中できた?」という質問は、俺が右手に集中する事を予想していなければ、出てこない言葉であり、そう考えると、鏡音さんは俺の行動を誘導した事になる。

鏡音さんは、俺に手本を見せる段階で“種”を蒔き、俺が俺自身で考えて行動したとき、“花”ーー“薔薇”を咲かせたのだ。

この人の、《雫=ヴェル=鏡音》という人間の天才ぶりを見せ付けられた。鏡音さんは、人にものを教えるのは初めてだろうし、深く考えた上での教え方ではないだろう。だからこそ、天性の才能が眼に見えて分かるのだ。“本物”の龍刃師、最強の天才龍刃師だと分かるのだ。

「…………あ、ありがとうございます……。鏡音さんが、俺を誘導してくれたんですよね?」

「………え、別にあたしは………。あ、当たり前ですよ。あたしを誰だと………」

途中、言葉を変えたのは、ツッコまないであげよう。

慌てた鏡音さんは、「そそ、そうだ!」と言って、話の内容をコロリと変えた。その内容は、“アレ”だった。

「か、薫くん‼︎あたしと戦うんでしょ……‼︎わ、忘れてないわよね⁉︎」

ーー………。なんで思い出しちまうんだよ⁉︎良い感じに、その話をなかった事にしようと思ってたのに……‼︎

と、心の中で叫んだものの、やはり口には出せない。だから俺は、こう言った。

「もちろん、忘れてるわけがないじゃないですか………‼︎それじゃ、や、やりましょう。戦いましょう!」

〜☆〜★〜☆〜

 

ーーふっ、弱いな………‼︎お、俺………弱いな…………。

龍刃師同士の戦いーー専門用語で、《DD》“ドラグーン・デュエル”と言はれるそれを俺は、地球最強の女龍刃師とした。

もちろん、それは訓練で、鏡音さんは本気をまったく出していなかったが、俺は呆気なく負けてしまった。負けるのは当たり前なものの、やはり女性に負けるのは、少しばかり恥ずかしい。

「アァーーーー。疲れたぁーー」

俺はそう言いながら、壁沿いのベンチに座った。

「薫くん……逃げてばっかりだから、正直《DD》になってなかったよ………。あたしは、『戦おう』って言ったんだよ……?薫くんのRDGが私に当たったの、たったの三回だし……。まぁ、それでも十分にすごいけど………」

そう言って鏡音さんが怒るのは、初めて見るが、なんか………少し怖いオーラが出ている。

「薫くんにとって初めての戦いだったから、怖いのは仕方ないけど………それでも、龍刃師は相手に背を向けちゃダメなの。龍人から逃げちゃいけないの………」

「はい……す、すみません」

「もう終わった事だから別に良いわよ。あと、アレね………薫くんのバトルセンスが普通過ぎて、笑いが出そうになっちゃった」

「そこまで言わなくても………」

「だって……本当に中の中なんだもん…………君の実力が……。フフッ」

「ちょっと、鏡音さん……」

そんな会話をしている俺たちは、まだ横の存在に気付いていなかった。

「ゴホン‼︎」

横の存在は、思いっ切り咳払いをした。俺はようやく横に誰かが立っている事に気が付き、視線をずらした。そこには、鬼姉ーー冬姉がいた。

「薫、調子はどう………?」

「ふ、冬姉⁉︎どどど、どうしたの⁉︎」

「なによ……そんなに慌てて‼︎あんたが心配で見に来てあげたんでしょ………⁉︎そんなにイヤそうにしなくても良いじゃない⁉︎」

そろそろ姉弟ケンカが始まりそうな雰囲気まで会話がすすんだところで、鏡音さんが、

「丁度良かった。冬華さん、あたしと《DD》して下さい‼︎」

と、とんでもない事を言い出した。

「鏡音さん‼︎なんて事を………⁉︎」

なんて口で言える訳がない。

ーー冬姉が爆発する‼︎

そう思い、恐る恐る冬姉の方を向いた………。しかし、冬姉は全くキレることなく、

「良いわよ……」

と、答えた。

俺は脱力した。今までにないほど身体の力が抜けて、ヒョロヒョロと効果音が付きそうなほど、柔らかに上半身が前に倒れた。

冬姉は、そんな俺を見て眉間に軽くシワを寄せたものの、すぐに戻し、鏡音さんに言った。

「あたしとあなたが戦うのって、薫に《フェーズ》の事を教えるためなんでしょ……?」

「はい……」

「だったら、お互いに手加減はなしよ?」

「もちろんです………。そうだ、薫くん、《フェーズ》がなんなのかを説明するね……!」

これまたフォース同様に説明が長かった為、俺なりにまとめてみた。

龍刃師には、力の段階があるのだと言う。それを解放する事。《力の解放》ーーそれを、専門用語で《フェーズ》と言うのだ。力の解放には、一から五までの段階があり、それぞれ《第一フェーズ》、《第二フェーズ》、《第三フェーズ》、《第四フェーズ》、《第五フェーズ》と言う。

《第一フェーズ》で訓練生、《第二フェーズ》で隊員龍刃師、《第三フェーズ》でA・B・Cランクが付く下級龍刃師、《第四フェーズ》でSランクが付く上級龍刃師。この流れで、龍刃師は出世していく訳だ。

そう考えると、眼前にいる二人は揃って《第四フェーズ》解放者の《S級ドラグーン》であり、そんな光景を見ている俺はある意味、幸運と言える。

「あの、鏡音さん……《第五フェーズ》の解放者は、《S級ドラグーン》の二人よりも、すごい実力者なんですか?」

「あぁ、《第五フェーズ》は解放者がいないから、まだ詳細不明なの………」

「そ、そうなんですか……」

そう言って頷く俺に、冬姉は両手を叩いて言った。

「聞くより、見た方が早いと思うわよ………。そろそろ始めないと、あたしも時間がないから、良いわよね……雫ちゃん……」

「もちろんです。冬華さん……」

視線の間で火花が散るのを、俺はビクビクしながら見た。

ーー女の人って………怖えぇよ…………

 

〜☆〜★〜☆〜

 

「二人とも、準備は良いですか?」

「OK‼︎」

「はい……」

俺は一呼吸して叫ぶ。

「それでは、《DD》……始め‼︎」

刹那、鏡音さんと冬姉は黒と赤の風となって、互いの《DG》を振り下ろした。白と緑の光の刃が、交差して火花を散らす。

一方俺は、あっけに取られ腰を抜かしていた。なんとも情けない。

ブウォン‼︎ ヴゥン‼︎と音を立てながら、鏡音さんと冬姉はしばらくの間DGを振り続けたが、それでもお互い攻撃を当てられないまま、すでに………すでに………。

時の流れを忘れてしまうほどに激しく、それでいてなぜか優しい戦いは中々終わらない。俺は、眼で追い続けるので精一杯になっていた。

どのくらい経ってからだろうか、ピタリと時の流れが止まったーーいや、《S級ドラグーン》の二人がかなりの間隔を取って停止したせいで、そう感じたのだ。

流れる静寂の中で、鏡音さんと冬姉はニヤリと笑った……。なにかを予感させる笑みだった。そして、その予感は現実となった。

時空の流れが変わったと表現するべきか………。鏡音さんの身体の周りを白い光が漂い、冬姉の身体の周りを緑の光が漂う。二つの光は、音なく弾け飛び、それぞれのDGに吸収された。吸収したその刃は、さらに強く輝き、細く伸びた。

よく見ると、元々赤かった鏡音さんの瞳はさらに赤く染まり、碧眼で青かったはずの冬姉の瞳は、鏡音さん同様に赤く染まっていた。

「赤い……………眼……」

見た事もない現象だったが、なぜかすぐに分かった。

これが《第四フェーズ》だと。

鏡音さんと冬姉は、互いの眼を見ると、

「「ハァァァ‼︎」」

そう言って、同時に床を蹴った。

ブヴォォォォォォン‼︎‼︎‼︎‼︎

 

強烈な爆発音が訓練室に響き渡る。この音はおそらく、一生耳に残っているだろう。それほどに激しく大きな爆発音だったのだ。

しかも、その音が“ただ走っているだけ、風を切っているだけの音”だというのだから、尚更記憶に残る。

ーーこれが、最強の世界。俺が目指している場所……。

俺はこのとき、初めて強さに恐怖を覚えた。自分の覚悟や未来に、不安を覚えた。

なのになぜか、ワクワクする自分がいた。戦いたい強くなりたい、そう思う自分がいた。

俺の心の奥で、蒼い光が一瞬輝いた気がした。

眼前で繰り広げられる《DD》に、俺は瞬き一つせず魅入っていた。

世界は加速し、同時に俺の意識も加速したーー。





以上、第三話「力の解放“フェーズ”」でした。

今回、盛り上がるシーンが少なかったのですみません。
次回話は、盛り上がるように努力したいと思います。

次回話の題名は「新生“ナイト・ロザリオ”」の予定ですので、ぜひご覧ください。

それではまた………。

※毎週土曜日、遅くても最終投稿日から二週間後の土曜日のペースで、投稿していきます。できれば、一週間にニ、三度投稿していきます。

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