本当にありがとうございます。コメントも頂きまして。僕、少し感動してしまいました。(T ^ T)
言いたい事はたくさんありますが、それは後書きで……。
それでは、第二話『夜の薔薇“ナイト・ロザリオ”』をどうぞ。
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Ⅱ.夜の薔薇“ナイト・ロザリオ”
《暁月》ーーそれは、龍刃師の血族だという。もちろん、他にも龍刃師の血族はいるが、その中でも《暁月》はトップクラスらしい。“月”ーーこの文字がトップクラスの証であり、誇りなのだ。
これは全て、一分間のフリーズが解けた後、冬姉に教えてもらった事である。
そして、それを教えてもらった直後に俺は、冬姉が一年前に家を出て行った理由を悟ったのだ。
今から遡る事、二十分前ーー。
「ふ、冬姉………。俺、本当に龍刃師の血族なのか⁉︎」
「うそを言ってどうするのよ………。で、なりたいの、なりたくないの?」
ーーもちろん、答えは決まってる。
「絶対なってやる。冬姉を越してやる………‼︎」
すると冬姉は、ニヤッと笑いながら、
「OK‼︎」
と、言った。
「母さん………。夢を叶えてくるね。行ってきます………」
少し小さめの声でそう言って俺は立ち上がり、冬姉の方へとゆっくり足を進めた。一歩一歩にいろんな想いを込めて歩いた。窓から吹き込む風が、俺の背中を押してくれた。
「行ってらしゃい………。風邪、引かないようにね……」
母さんの声だ。温かい声だ。俺はこれを、母さんの心を守るんだ。
そう心の中で言って母さんの方を向き、母さんに二度目の「行ってきます」を言った。
俺は母さんに再び背を向け歩き出した、病室の扉をくぐると同時に、人生の大きな一歩を踏み出した。
それから冬姉に連れられ、なにやら大きな黒いリムジンに乗り、現在に至る。
俺は、車窓越しに蒼い空を眺めながら冬姉に言った。
「なぁ、冬姉……。今どこに向かってんの……?」
「どこでしょ〜‼︎」
「分かんないから聞いてんの‼︎ふん‼︎」
ーー三歳下だからって、馬鹿にし過ぎだ。なにが「どこでしょ〜?」だよ……。
そんな事を思いながら、俺は深くため息をついた。
「ごめんごめん……。ちょっとからかっただけだから、ね?」
俺はそう謝る冬姉の姿を見て、(ガキかよ。それでも十九か⁉︎)っと、思いながら呆れて
「もう、良いよ……」
と言った。
「もう良いから、どこに向かってるか教えてって………」
俺がさらにそう言葉を続けると、ようやく冬姉は答えてくれた。
「今向かってる場所は、訓練生の試験会場だよ。あたしが試験日を明日にして下さいって、上の人に頭を下げたんだからね……。感謝してよ〜?」
冬姉はそう言いながら俺の頭をゴシゴシ撫でた。しかし、悪い気分ではなかった。むしろ良い気分だ。こんな俺の為に頭を下げてくれた事、それ以上に、俺の考えている事を理解していてくれた事が嬉しかったのだ。
「ありがと………」
「ん……?声が小さいなぁ〜」
「あ・り・が・と・う‼︎‼︎」
「どういたしまして………」
ここで我慢の限界がきたのか、
「ぷっ、ダハハハハハハハハァ‼︎ウフフフ………」
笑い出した。
さすがに堪忍袋の尾が切れた。が、切れすぎたらしく怒る気になれなかった。
ーーもう良いや………。好きなだけ笑えよ………。
〜☆〜★〜☆〜
眼前のそれは、真っ白で巨大な建物である。
ここが訓練生龍刃師の試験会場なのだ。冬姉の話によれば、試験と言っても筆記テストではなく、龍刃師の血ーー龍刃血“りゅうじんけつ”に適合するか、検査するだけだという。つまり、龍刃師の血族である俺は百%受かるというわけだ。
しかし、試験は試験であり、半端なく緊張している。もしかしたら、という事もあるかもしれない。
おどおどしている俺に冬姉は、
「薫……。男ならシャキっとしなさいよ、シャキっと……‼︎今さら焦ったって、それに……… 。あたしを越すんでしょ?こんなところでコケたら、始まりすらしないじゃない……」
そう言った。おそらく、冬姉なりに励ましてくれたのだろう。
「そうだよね………。ありがとう、冬姉………。それと、冬姉が男勝りなだけで………」
そこで不自然に言葉を切ると、俺は冬姉に背を向け試験会場に入ろうとした。正確には、逃げようとしたのだ。
しかし俺はあっさり捕まってしまい、
「誰か男勝りだってぇ………?」
と言う冬姉に、ゲンコツを食らった。
面白いほど良い音が、試験会場の中にまで響き渡った。
「ハイ………。ごめんなさい、反省してます。本当にすみません………」
俺はヒリヒリとする頭を撫でながら、冬姉に謝り続けた。
【五分後試験を開始しますので、受験者の方々は会場内にお集まりくださいーー】
タイミング良くアナウンスが流れ、なんとか鬼姉から逃げる事ができた。本当アナウンス様様である。
試験会場の中に入ると、すぐに広い空間へと出た。眼に入る数だけで、ザッと五百人はいるだろう。
「ザワザワザワ………」
急に雰囲気が、空気が変わった。そして、受験者(俺を除いて)全員の視線が一点に集中している事に気付いた。
俺は視線が集中しているそこへ顔を向けた。すると少し高い位置にあるそこには、二人の人影があった。一人が男性で、もう一人は女性である。
男性の方は、黒く伸びた前髪を垂らし、あとは短く切り立てている。黒髪の間からは黒縁の眼鏡、その奥にはさらに黒い瞳が見える。そして、がっちりとしたその身体を黒のスーツに包み、赤いネクタイを締めている。おそらく、四十前後だろう。
正直言って、かなり怖い。
女性の方は、紺色の長いストレートヘアを両側に垂らした顔が小さな卵型で、大きな赤色の瞳が受験者を見下ろしている。小ぶりだがスッと通った鼻筋の下で、桜色の唇が華やかな彩りを添える。スラリとした身体を、黒メインと白を基調とした龍刃師の制服に包み、首にかけられた白い宝石ネックレスは眩いほどに輝いている。
俺と同じくらいの歳であろう彼女は、この世のものとは思えないほど美人だった。対人スキルが極度に低く、女に興味のない俺がそう思うのだから、彼女は本物の美人である。
おそらく、他の受験者には彼女しか眼に入っていないだろう。
「今から試験を開始する………。受験番号一から順にこちらへ来るように………」
「うそ………だろ……⁉︎」
俺は、黒縁眼鏡の男の言葉に絶句した。理由は簡単、冬姉にゲンコツを食らって謝っているとき、受験者はみんな受付を済ませていたわけで、俺が一番最後に受付をしたのだ。そのとき貰ったカードーー今手の中にあるカードには、“二〇六九”と書いてある。つまり、もしもこれが受験番号なら、待ち時間は想像を絶する。
「アガァァァァ………」
と、奇声を上げる俺を無視して試験は開始された。
〜☆〜★〜☆〜
現在、午後一時三十分。試験開始が午前八時三十分なので、五時間待たされている事になる。途轍もなく広い空間に、俺一人がポツンと番号を呼ばれるのを待っている。
「なんだよ、この状況…………‼︎」
もちろん、返答など来ない。
「あぁ……。腹減った………」
別に寂しいわけではないが、俺は永遠と独り言を続けている。
不意に上を見上げると、不思議な絵が描いてあった。
「こんな絵あったんだ………」
俺が見たのは、三体の龍が一体の黒い龍と戦っている絵だった。三体の龍はそれぞれ、白、緑、青色の身体で、みんな身体と同じ色の炎を纏っている。そこで、俺はあることに気付いた。黒い龍の眼から涙が溢れていたのだ。そして微かだか、黒龍が纏う漆黒の炎の一部が真っ赤に染まっていたのだ。全く見た事のない絵だったが、なぜか懐かしく魅入っていた。
「………さん……二〇六九番さん‼︎」
「は、ハイ‼︎すみません……‼︎」
絵に集中し過ぎて俺を呼ぶ声に全く気付かず、焦って奥の扉の方へ走って行った。ハァハァ言いながら、俺を呼ぶ人のところまで着くと、
「こちらを真っ直ぐ進みまして、突き当りを左に曲がってください。そうすれば、検査室に着きますので………」
と、丁寧な口調で指示をしてくれた。
俺はその男性に礼を言うと、真っ直ぐ進んだ。指示通り進むと、こじんまりとした空間に出た。そこには、五時間前に見た怖い顔の男性がいた。
「まぁ、座ってくれ………」
「あっ、し、失礼します………」
そう言って椅子に座ると、眼前の男性は話しかけてきた。
「私は龍刃師最高組織本部《ヴァンドラ》の組織長を務めている、《龍ヶ崎 仁》だ……。よろしく。君の名前は………?」
「え、あ、ハイ。暁月 薫十六歳、世界立凛花高等学校一年です……。よろしくお願いします……」
慌ててしまい、聞かれていない情報まで話してしまった。
とほほ………。となる俺に、龍ヶ崎さんはニッコリ笑って(笑ったときは、なぜかカッコイイ)言った。
「そうか………。君だったか………あいつの息子は……。薫君、合格だ……」
「あなたは…………」
「八年前……。私は、君のお父さん……仁とコンビを組んでたんだよ………。確か、“ダブル仁”なんて呼ばれてたな………」
「父さんを知ってるんですか………?」
突然の出来事だったが、父さんの事を知っている人で嬉しくなり。上気分で質問した。
「知ってるとも、仁の事ならなんでもね………。君は、本当にお父さんにそっくりだな……なんだか、また仁に逢えたみたいで嬉しいよ…………。私はね、仁に頼まれてたんだよ。『いつか俺の息子が来たときは、頼んだぞ』ってね…………」
「そうだったんですか……。あの……龍ヶ崎さん……。父さんって強かったんですか?」
「うん……。君のお父さんは最強だった。強くてカッコ良くて、私の憧れだったよ……仁は……」
それを聞いた俺は、自分の事のように嬉しかった。だから、父さんを越したいという思いが、さらに強くなった。
龍ヶ崎さんは確かに言った。「合格だ」と「仁に頼まれてた」と、俺は最強になれるチャンスを、父さんに貰ったのだ。嬉しい思いと、ありがとうを伝えられない苦しさが、同時に募った。
「薫君、合格は合格なんだが……少し試したい事がある。この石を持ってみてくれ……」
差し出されたのは、まるで深海の水のように青い石だった。俺は手を伸ばし石を受け取ったーー瞬間、パっと光り輝き、だんだん強くなるそれは室内を青く染めると、一瞬で収縮し石の中にとどまった。よく見ると、石の中心で《龍印》と同じ形の紋章が輝いている。
「やはりな…………。ありがとう、石を返してくれ……」
龍ヶ崎さんは、何かを確信しながらそう言った。
「どうぞ…………」
青い石の光は、俺の手から龍ヶ崎さんの手に渡った瞬間消え失せた。
「なんなんですか……?今の石は………」
俺がそう言うと、よく聞いてくれたと言わんばかりのテンションで、龍ヶ崎さんは答えた。
「《三神石》の一つだよ…………‼︎今説明しても分からないと思うから、また今度説明してあげるよ‼︎」
「“さんじんせき”……楽しみに待ってます…………。それじゃ、俺はこれで失礼しますね」
「ちょっと待った‼︎」
龍ヶ崎さんは大声で俺を呼び止めるや否や、俺の肩をガシッと掴み、
「うちの本部にーー《ヴァンドラ》に来ないか………?いや、来い………。薫君のお姉さんも《ヴァンドラ》の龍刃班の一つに入ってる………。君には、うちの《ナイト・ロザリオ》という龍刃班所属の訓練生になってもらいたいんだ‼︎」
見た目とテンションのギャップに驚きながら、俺は
「…………ハイ……。分かりました…………」
気が抜けたままそう言った。
俺が了解して落ち着いたのか、龍ヶ崎さんは一息つき俺に言った。
「そうか、ありがとう………。明日の朝九時にこの建物の前で待っている。もし良ければ来てくれ………」
「はい。必ず行きます……‼︎待っててください……。それでは、失礼します」
俺は龍ヶ崎さんと別れた後、待ちくたびれているであろう冬姉の元へ、全力で走った。
ようやく試験会場の外に出ると、すぐ左側の太い柱に冬姉は背中を預けていた。
俺は、ボーッと空を眺める冬姉方へテクテク歩いて行き、大きめな声で言った。
「冬姉、試験終わったよ………‼︎あと、待たせてごめん‼︎」
「わ、わ⁉︎」
冬姉は俺の存在に気付いていなかったらしく、両腕を上げて驚いていた。冬姉のこういう素直なところは、嫌いではない。
「ビックリした……!っていうか、試験どうだった⁉︎」
「百%受かるから大丈夫」って言ってたのは誰だよ………⁉︎と思いながらも、心配してくれている冬姉を見ると、やはり弟としては嬉しいものだ。
俺はニコッと笑うと、
「もちろん、合格に決まってるだろーー‼︎」
と言い、その続きからテンションがガクッと下がり、
「それにしても、あの龍ヶ崎さんっていう人……。見た目とテンションのギャップがすごくて………」
と言った。
すると冬姉は「あははは‼︎」と大笑いし、その後「……だろうね」と付け加えた。
直後、冬姉は「そうだった」と手を叩き、
「薫、あんたどこの訓練生になったの?」
と聞いてきた。
俺は龍ヶ崎さんの言葉を思い出しながら答えた。
「確か、《ヴァンドラ》ってとこのーー」
ここで冬姉は意外そうな顔をして、
「へぇ、薫が《ヴァンドラ》にねぇ、すごいじゃん……‼︎っでも、あたしはそこのNo.2龍刃班のリーダーだから、もっとすごいけどね………‼︎で、《ヴァンドラ》のなに班なの?」
と、上から目線で長ったらしい言葉を言ってきた。
クソ……。と思い、イライラしながら俺は冬姉に強めに言った。
「えっと、確か《ナイト・ロザリオ》ってとこらしいよ‼︎」
「なんの冗談よ……」
そう冬姉が言うので、さらにイライラしながら言った。
「冗談じゃないよ……‼︎龍ヶ崎さんが『君には、そこの訓練生になってもらいたい‼︎』って言ってたし……」
冬姉は、眼を丸くして言ったーーいや、叫んだ。
「………えぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎⁉︎」
〜☆〜★〜☆〜
後から聞いた話だ。
《ナイト・ロザリオ》ーーそれは、この世界に存在する全ての龍刃師組織のトップに君臨している《ヴァンドラ》の、最強最新鋭龍刃班なのだという。つまり、この世界に数千万とある龍刃班の中で、最も強い龍刃班だという事だ。隊員全員が《S級ドラグーン》であり、全龍刃師の憧れ、同時に目指す先なのだ。
まさかこの俺が、その龍刃班の訓練生になってしまうなんてーー。
「龍ヶ崎さん‼︎おはようございます……‼︎」
「おはよう、薫君……。おや、冬華君も一緒か………‼︎」
「ハイ」
俺はチラッと腕時計を見る。
時刻、午前八時五十分。天気は快晴。そして、微かに漂う血の匂い。いつもの朝…………と、少し違うのは気分的なものだ。なぜだろう、俺の中にすごくワクワクしている自分がいるのだーー。
俺と冬姉、龍ヶ崎さんは、白く大きな建物の前にいる……。昨日、試験会場となっていた場所だ。
気が付けば、冬姉と龍ヶ崎さんが会話をしていた。内容はさすがに聞こえなかったものの、冬姉が横目で俺を見て、
「あの薫が、最後の後継者ねぇ………」
などと言ってくるので、おそらく俺についての話なのだろう。
「なんだよ。俺、何も知らないんだからな……‼︎」
「まだ薫は知らなくて良いの、子供だから……」
「なんだよそれ⁉︎」
そんな低レベルの口喧嘩を、龍ヶ崎さんはオーラで揉み消した。一瞬殺気のようなものを感じたが、おそらく勘違いだ。勘違いであってほしい。
「さぁ、そろそろ行こうか……‼︎」
そう言って歩き出す龍ヶ崎さんに、俺と冬姉はビクビクしながら付いて行った。
五分ほど歩き龍ヶ崎さんは止まった。
「そろそろかな?」
龍ヶ崎さんがそう言うと、昨日冬姉と乗った黒いリムジンがものすごい勢いでやって来て、キュィィィイ‼︎と音を立てながら止まった。
「さぁ、乗りな……」
俺は龍ヶ崎さんに従い、リムジンに乗った。
それから約二十分間、俺は一言も話さずに車窓越しの蒼穹を眺めながら、これまでの出来事を思い出していた。
ーー突然現れた自分の姉
ーー温かい母の声
ーー父を知る人との出会い
俺は心の中で、密かに微笑んだ。そして、自分の心に語りかけた。
ーーこれが俺の進むべき道の方向だ。覚悟を決めろ。勇気を奮い立たせろ。母さんを守れ。絶対に《ナイト・ロザリオ》のーーいや、宇宙最強の龍刃師になる。
車窓に映る俺の眼は覚悟に満ち、碧く光っていた。
〜☆〜★〜☆〜
「ここだよ‼︎」
龍ヶ崎さんはそう言ったーー誰もいない公園で。
「ここだよ‼︎」っと、言われてもなにもないではないか。
俺の眼前には文字通り、なにもない。あるとすれば、青いゴミ箱と少し大きな電話ボックスだけで建物らしいものはどこにもない。というか、もはや公園ですらない。
ーー今の時代電話ボックスなんて誰も使わないし、眼にも入らないだろうな。
無意識にそんな事を考えたーー直後、ビビビッ!と頭に電気が走った。
ーーまさか、な……?
「薫君、コッチだよ……‼︎」
俺の視線の先、龍ヶ崎さんの左側には“ソレ”があった。
「じゃあ、中に入って……」
俺と冬姉と龍ヶ崎さんの三人で“ソレ”に入ると、龍ヶ崎さんが0809と番号を入力した。すると、ガゴン‼︎っという音と同時に“ソレ”が下がっていく。ものすごい速さで、ドンドン下へと降りていく。
“ソレ”ーー“電話ボックス”に乗った俺達は、おそらく地下深くに潜っている。実際、これは電話ボックスではなくエレベーターなのだろう。視界上の【地下18F】という文字が、それを証明している。
電話ボックス型エレベーターは、地下三十階で止まると、ビィ〜‼︎と音を立て扉が開いた。
眼に入り込んできたのは、青白い金属でできた壁や床だった。長く伸びる廊下には、様々な色や形をした制服を着た龍刃師達や、白衣を着た研究者が歩いている。
「なんだ……ここ…………」
そんな事を言う俺に、龍ヶ崎さんは言った。
「そう、ここが私達の組織本部……《ヴァンドラ》だ。ようこそ、薫君……」
「スゲェー………」
無意識に溢れたその言葉に、冬姉は優しく笑った。
その光景に未だ圧巻される中、龍ヶ崎さんは俺に、
「まず、私について来なさい………」
と言った。さすが組織長。《ヴァンドラ》内では、冷静かつ低音ボイスである。
タッタタッタ歩いて行く龍ヶ崎さんの後ろを俺は付いて歩く。一歩歩く度に挨拶をされる龍ヶ崎さんだが、その一つ一つに返事を返す姿は、とてもカッコ良く見える。
父さんもこんな感じだったのかなと、つい考えてしまう。
気付くと俺達は、黒曜石のように暗いドアの前にいた。ドアの上部に【ヴァンドラ:組織長室】と書かれたプレートがあるので、このドアはそれのドアだという事はすぐに分かった。
「入りなさい………」
龍ヶ崎さんにそう言われた俺と冬姉は、軽く頭を下げ「失礼します」と言った後、ゆっくりとそのドアをくぐった。
廊下とは打って変わって、全体が白を基調としたデザインで落ち着いた雰囲気である。
龍ヶ崎さんは少し歩くと黒い椅子に腰をかけ、二つの植え木に挟まれた横長で大きな木製の机に肘を立てた。そして、組んだ手を顔の前に持っていくと、黒縁眼鏡の下で口が動き出した。
「薫君、改めて《ヴァンドラ》へようこそ………。君はこれから《ナイト・ロザリオ》の訓練生龍刃師としてここで働くわけだが、いろいろ不安はあるだろう……。そこでだ、君には教師役として誰かを付けようと思う………」
「それは、冬姉……が、俺のーー」
俺が言葉を言い終わる前に、龍ヶ崎さんが言った。
「いや、冬華君は《クイック・ディード》という龍刃班のリーダーを務めているのでね、教師役になる事はない。その代わり、君には《ナイト・ロザリオ》のーー《地球最強の龍刃師》を付ける事にするよ……。おそらく、君とは良いコンビになるだろう………」
龍ヶ崎さんは一度呼吸を整え再び話し始めた。
「早速で悪いが、これに着替えてくれ」
手渡されたのは龍刃師の制服だった。訓練生なので背中に龍印はないものの、立派なものだ。黒メインと白を基調にしたその制服は、どこかで見た気がするは気のせいだろうか。そんな事を思いながらも、俺は組織長室の右隣の部屋で着替えを済ませ、すぐに戻って来た。
「中々、様になってるじゃない………‼︎」
「うむ、似合っているな……‼︎」
冬姉と龍ヶ崎さんの言葉に照れつつも、冷静さを保ちながら元の位置に戻った。すると、またまた龍ヶ崎さんは話しを再開した。
「話を戻すが……。まぁ、会った方が早いな…………。鏡音君、入って来なさい‼︎」
「はい……」
爽やかな風のような声色がした。
左のドアから入ってきたのは、黒い制服に身を包むロングヘアの女性だった。
ーーこの人が地球最強の龍刃師………。
よく見るとこの人は昨日、龍ヶ崎さんの隣に立ち、受験者を見下ろしていた女性だと思われるーーいや、彼女は確実にあのときの女性だ。
と、そこまで考えて俺は口を開いたのだが。
「あ、えっと………」
俺が口籠る中、眼前の彼女はお淑やかな表情のまま、口を開いた。
爽やかな風に木琴の鮮やかな音が流れたような、そんな声が再び響く。
「初めまして、あたしがあなたの教師役を務める、《雫=ヴェル=鏡音》です。あなたの事はなんと呼べば良いですか?」
「は、初めまして、俺の名前は暁月 薫……。呼び方は………『薫』で良いですよ……」
「よろしく、薫くん……。それじゃあ早速なんだけど、あたしについて来て……」
そう言うと“鏡音さん”はスタスタと歩き出した。俺は、龍ヶ崎さんと冬姉(なぜか不機嫌そう)に頭を下げ、鏡音さんに付いて行った。
〜☆〜★〜☆〜
再び電話ボックス型エレベーターに乗ると、そのまま二五階まで上がった。その廊下を今現在俺達は歩いているのだ。
不意に聞かれた。
「薫くん、地下空間は初めてですか?」
「え、あ、うん」
「そりゃそうよね。あと薫くん、この《ヴァンドラ》ではなるべく敬語の方が良いよ……。なんでか分からないけど、あたしにタメ口聞いた人……たまに、すごい怪我をしてるから」
その話を聞いた瞬間、意味が分かった。そして心の中で鏡音さんに言った。
ーーそれは鏡音さんのせいでしょ⁉︎あんたのファンが、あんたにタメ口を聞いた人をボコボコにしてるんでしょ⁉︎
と。しかし、実際は
「ハイ………」
と、控えめに言った。今も鏡音さんのファンが、見ている可能性があるからだ。
俺のその返事に、鏡音さんは未だお淑やかな表情のままである。
ーー彼女は、龍ヶ崎さんとは違うタイプで苦労しそうだな。
「着いたよ」
立ち止まったのは白い扉の前だった。上のプレートには【DG使用可能】とある。“DG”の意味は分からないが、まぁ、特殊な部屋なのだろう。
またまたスタスタの歩いて行ってしまう鏡音さんの後を、俺は慌てて追いかけた。俺は唖然とした。昨日の試験会場に迫ろうかというほど、その部屋は広かったのだ。
部屋の中央辺りまで行くと、俺は聞いた。
「あの、ここ……。なんの部屋なんですか?」
「ここは、訓練室……。ここも廊下と同じ超高剛金を使ってるから、どれだけ暴れても平気なの………。じゃあ早速過ぎるけど、始めよっか!」
「なにを………ですか?」
このときの彼女の発言は将来、“問題発言ベスト5”に入るだろう。と思わせるほど、ものすごいインパクトがあったのだ………。
「なにをって、もちろん戦うんですよ………。薫くんが………このあたしと……」
鏡音さんは、自分に向けて指を指し………そう言ったーー。
えー以上、第二話『夜の薔薇“ナイト・ロザリオ”』でした。
今回最後に、この物語のヒロインとなる、地球最強の女龍刃師《雫=ヴェル=鏡音》が出てきましたが、見ての通りお淑やかながら厳しい一面もあります。
そんな雫と薫のこれからが、僕も楽しみです。
ここで一つ。今回、薔薇のルビをロザリオにしたのには、理由がありまして。
元々ロザリオというのは、聖母マリアに対する祈り、またそれに用いる数珠らしいのですが、僕は視点を変えてみました。ある視点から見ると、聖母マリアへの祈りを一輪の薔薇に込めてーー。というのがありました。
その時、その瞬間に「これだーー‼︎」と思ったのです。
えっと、その………それだけです。
そ、そうだ。そろそろ終わらないと。
次回話の題名は、『力の解放“フェーズ”』となる予定です。第三話もよろしくお願いします。
それではまたーー。
※『蒼ドラ』は、毎週土曜日、遅くても最終投稿から二週間後の土曜日のペースで投稿していきます。いければ、一週間に二、三度投稿もしていきます。