ゼロの『運び屋』-最強最悪の使い魔-   作:世紀末ドクター

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 ――学院の料理長であるマルトーは後にこう語っている。


「ドクターのことかい? まあ、確かに貴族の連中は随分恐れてたみたいだが、こっちから何かしない限り俺たち平民にとっては基本的に無害だったな。
 誰が相手でも丁寧に対応するし、医者としての腕は確かだったよ。俺の腰痛もドクターに治して貰ったんだぜ? けど、どんな治療を受けたのか何故か全く記憶に残ってないんだよなぁ…」


 マルトーのこの言葉から分かるように、平民の間での赤屍の評判は実はそれほど悪くなかったと言われている。
 平民に対するメイジの優位性を根本から覆す存在として、赤屍のことを『ダークヒーロー』として憧れる平民も幾らか居たらしい。
 それに加えて現代医学の知識に基づく赤屍の診療は極めて的確だったらしく、赤屍の医者としての評判もそれなりだったと記録には伝えられている。
 しかし、赤屍が診療を行う時、何故か必ず断末魔のような悲鳴が聞こえていたという証言もあり、彼が一体どんな医術を駆使していたのかは今をもって完全に謎に包まれている。




第八話『トリスタニアにて』

 ルイズが生涯において最悪の悪酔いから回復してから翌日。

 その日は虚無の曜日と呼ばれる休日であり、赤屍とルイズはトリステインの王都トリスタニアに出掛けていた。

 彼ら二人がトリスタニアにまで出掛けることになった発端は赤屍が持ち掛けてきた相談である。

 

 

「街の様子を見てみたいですって?」

 

「ええ。折角異世界にまで来たわけですし、少し観光でもしてみようかと」

 

 

 このハルケギニアの社会事情や文明レベルについては、この学院での話を聞いて大体のことは把握している。

 だが、百聞は一見に如かずという言葉もあるように、見ると聞くとではやはり大きな差がある。その辺りのことを確認するためにも、実際に人々が生活する様子を確認しておきたかった。

 それに加えて、赤屍の替えの服を調達する必要もあったため、彼らはこの休日を利用して街まで出掛けていたのだった。

 二時間ほど馬に揺られた後、二人はトリスタニアの街に到着した。

 

 

「…ふむ。思ったよりもこじんまりとした印象ですね」

 

「何よ、トリステインが田舎だって言いたいの?」

 

「いいえ? 風情があって中々良い街だと思いますよ」

 

 

 お世辞でも何でもなく本心から赤屍は言った。

 赤屍が暮らしていた裏新宿のコンクリートの街並みと違って、トリスタニアの街並みは白い石造りの建物が目立っている。

 赤屍の見立てでは、このトリステインの文明のレベルは地球での中世~近世ヨーロッパと同じくらいだろう。もちろん赤屍の出身地である日本の東京と比べれば規模の違いは歴然だ。

 しかし、魔法が生活の中に息づくファンタジーの世界としては、こういった街並みの方が風情がある気がする。

 

 

「私が住んでいた街は規模こそ桁違いですが、少し無機質過ぎますからね。個人的には、こういった歴史情緒のある街は好きですよ」

 

「ふふん。何せ始祖に連なる由緒ある国の王都だもの。ゲルマニアみたいな野蛮な国とは伝統が違うわ」

 

 

 自分の祖国の街を褒められて悪い気はしないのか、えっへんと胸を張るルイズ。

 気位とプライドが非常に高い上、短気で癇癪持ちで気難し屋。赤屍に対してビクビク脅えている時の彼女の様子は銀次を彷彿とさせるが、普段の彼女の素の性格で言えば美堂蛮の方に近いかもしれない。

 自分のお気に入りの好敵手二人のことを思い出して、赤屍はクスリと笑った。しかし、赤屍の笑った理由が分からずにルイズは赤屍の方へ怪訝そうな視線を向ける。

 ルイズに視線で問いかけられた赤屍は、軽く苦笑してから言った。

 

 

「クス…、いえ、少し知り合いの好敵手のことを思い出しましてね」

 

「好敵手って……そいつもアンタ並みに強いってこと?」

 

「ええ。私が知る中で一番の好敵手です。私ですら勝てるかどうか分からない程のね。実際、彼ら二人には一度も勝てたことがありませんから」

 

 

 ルイズは赤屍の言葉に酷く驚いた顔をした。

 赤屍ですら勝てるかどうか分からない人間。それどころか赤屍を負かした人間がいるという事実がルイズには信じられなかった。

 ルイズは恐る恐るといった様子で赤屍に訊ねる。

 

 

「ひょっとして、アンタの世界ってアンタ以上の化け物がゴロゴロ居るの?」

 

「まさか。私と同等のレベルとなると世界中を探し巡ったとしても、せいぜい片手で数えられる程度しか居ませんよ」

 

「そ、そりゃそうよね」

 

 

 赤屍の返答を聞いた彼女の口調に、どこかほっとしたものがあるのは咎められまい。

 ハルケギニアとは別の世界のことだと分かっているのに、思わずルイズは胸を撫で下ろしてしまっていた。

 実際、赤屍のような狂った強さの化け物が何人も何人も居たら堪ったものではない。一体どれだけ殺伐とした世界なのだ。

 もっとも赤屍の発言の裏を返せば、赤屍と同レベルの実力者が少なくとも数人程度は居るということであり、それはそれで既に十分過ぎるほど殺伐としている気がする。

 

 

「それより早く行きましょうか。道案内はお任せしますよ」

 

「え、ええ。分かってるわ」

 

 

 そう言って、ルイズと赤屍は街の通りを歩き出した。

 二人はブルドンネ街の大通りから脇道の路地に入って目的の店に向かったのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 それから数時間後、いくつかの店を回り必要な物を揃えた二人は、街のあちこちを見学していた。

 現在、彼らが散策している裏通りのチクトンネ街は、多数の酒場や賭博場などが軒を連ねており、まるでオモチャ箱を引っ繰り返したような雑多な印象を受ける。

 流石に無限城エリアほどの危険地帯ではない様だが、赤屍はルイズが意外にも治安の悪そうな界隈まで足を伸ばしているのを知って少し驚いた。

 

 

「少し治安が悪そうな場所ですが、よく来るんですか?」

 

「私も滅多に来ないんだけどね。秘薬の材料とかを売っている店がこの近くなのよ。私は水の秘薬ぐらいしか買ったこと無いけど」

 

 

 その答えに赤屍はなるほどと納得する。

 一般に表の世界よりも、裏の世界の方がお金も人も多く集まる。

 表立っては流通が禁止されているような秘薬などは、こういった裏路地にあるようなちょっと危ない店で手に入れるのだそうだ。

 特にルイズの同期であるモンモランシーなどは比較的そういう店を利用することも多いらしい。

 

 

「ふむ…。そういった裏社会の事情というのは、どこの世界でも余り変わらないですねえ」

 

 

 ルイズから話を聞いた赤屍は呟くように言った。

 赤屍の知る裏新宿も治安の悪さでは大概だが、逆に一般には絶対に手に入れられない物が手に入ることも多い。

 無限城の特産品である『無重力合金』や、呪術師が精製して販売している『ブードゥードラッグ』などはその一例だろうか。

 

 

「ここがその秘薬屋よ。見学してく?」

 

 

 そういってルイズが足を止めた。

 しかし、赤屍は何故かその隣の店の方に注視していた。

 

 

「? 武器屋に何か用事あるの?」

 

 

 そのとき、赤屍は何か異質な気配をその武器屋から感知していた。

 思わず赤屍は、ルイズの存在も忘れてその店へと足を踏み入れていた。

 入った店の中は薄暗く、壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられている。

 二人が店内に入ると、厳つい風貌をした五十くらいの店主が顔を出した。

 

 

「ん? 貴族様が何の用ですかい?」

 

「一応、客……だと思うわ、たぶん。アイツがだけど」

 

 

 そう言って赤屍の方を指差すルイズ。

 店主は意外そうに思いながらも、ルイズに訊ねた。

 

 

「貴族様が武器とはどういう風の吹き回しかと思いましたが……、従者に持たせる剣をお探しで?」

 

 

 だが、赤屍は店主の言葉を無視して、最初からただ一点にだけ集中していた。

 そこにあったのは雑多に積み上げられた剣の山である。長さも種類もばらばらの剣が、ろくに手入れもされていない状態で積み上がっている。

 赤屍がその積み上げられた剣の山を見つめていると、それに答えるような声が店内に響いた。

 

 

「ん? 誰だ、俺のこと見てる奴は」

 

 

 その声はどう考えても剣の山の中から聞こえた。先程、赤屍が感じた異質な気配もそこから感じる。

 赤屍は剣の山を少し崩して整理すると、全く迷うことなくその中の一振りを手に取った。

 

 

「クス…貴方ですか。喋っていたのは」

 

「…!? おう。お前さん、桁外れに強えな。しかも『使い手』と来てやがる。こりゃおでれーたぜ」

 

 

 錆びだらけの喋る片刃の長剣。

 全体的に錆付いているが、造り自体はしっかりしている。錆びさえ落とせばそれなりに使える剣だろう。

 

 

「それって、インテリジェンスソード?」

 

「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。一体、どこの魔術師が始めたんでしょうねえ。剣を喋らせるなんて……『デルフリンガー』って言うんですがね。とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで困ってまして……」

 

 

 店主は恐縮して言った。

 それにしても、意思を持った喋る剣とは中々に珍しい。

 しかも、デルフリンガーという名前の付いたこの錆びた剣は、何者かの魔法によって知能を持つに至ったと言う。

 

 

「ルイズさん。こういった無機物に意思を吹き込む魔法などというモノはあるんですか?」

 

「いいえ。今の系統魔法じゃ再現出来ないわ。先住魔法っていう別の種類の魔法で動いてるって言われてるんだけど……」

 

「先住魔法とは?」

 

「えっと…始祖ブリミルが降臨する前のハルケギニアで用いられてた魔法の体系の総称よ。今じゃエルフとかの人間以外の種族の使う魔法の代名詞になってるけど」

 

 

 赤屍に訊かれ、ルイズは自分の知っていることを説明した。

 始祖ブリミルが降臨する以前のハルケギニアでは、先住魔法と呼ばれる別の体系の魔法が広く使われていたのだという。

 しかし、始祖ブリミルがハルケギニアに四系統魔法を伝え広めてからは徐々に駆逐され、今ではエルフなどの人間以外の一部種族が使える程度で、人間の世界では先住の魔法によって作られたマジックアイテムや秘薬の原料などがわずかに残っているのみである。

 先住魔法は基本的にエルフなどの亜人たちが使う魔法で、自然界に存在する精霊の力を借りることで効果を発揮する魔法であると言われている。自然の力を借りる魔法であるため、人の意志によって発動される四系統魔法より強力な威力を持つのが特徴だ。

 だが、そこまで聞いて、赤屍にはいくつかの疑問が浮かんでいた。

 

 

「何故、人間社会の中では先住魔法は廃れてしまったんですか? 今の話を聞く限り、先住魔法の方が系統魔法よりもずっと強力なようですが」

 

「え?」

 

 

 赤屍としては至極当然な疑問だったが、ルイズにとっては余り深く考えたことが無い疑問だったらしい。

 答えに詰まってしまったルイズの代わりに錆びた剣が赤屍の疑問に答える。

 

 

「人間が扱う魔法としちゃ四系統魔法の方が汎用性が高かったんだよ。エルフの使う精霊魔法は周囲の精霊と契約する必要があるからな。自然と対立してきた人間と、自然と共生してきたエルフとじゃ、どっちが精霊と仲良くできるかは自明だろ? 根本的に人間には不向きな魔法なんだよ」

 

「なるほど。物知りですね、デルフリンガー君」

 

「まあな! なんつっても、俺っち6000年は生きてるからな!」

 

 

 鍔元をカチカチと鳴らしてデルフリンガーは上機嫌そうに答えた。

 もしもこの剣が擬人化されていたなら、エッヘンという感じに胸を張っていそうだ。

 

 

「ほう…、6000年とは凄い」

 

 

 赤屍は本心で感心していた。

 本当にそれだけの年月を経ているとしたら、武器としての価値は怪しいとしても、歴史的な価値は十分ありそうだ。

 何故ならこの剣は、歴史上の事件を見て、歴史上の人物に会い、全てを知識としてではなく体験として知っている可能性があるのだ。

 

 

「そういえば始祖とやらがこの世界に現れたのも6000年前と聞いていますが、貴方はその時代の剣ということですか?」

 

「始祖? ああ、ブリミルか。会った事もあるぜ」

 

 

 とんでもない爆弾発言をさらりとかますデルフリンガー。

 始祖ブリミルと言えば、ハルケギニアの人間社会においては神と同等の存在として崇拝される存在である。そんな存在に会ったことがあるなどと言われても、俄かには信じられないだろう。

 実際、ルイズなどは「どうせ騙りなんじゃないの?」と疑いの目を向けているくらいだ。

 

 

「お願いだ!この俺、デルフリンガー様を買ってくれ!おめえが買わなきゃ、このしがない武器屋で一生を終えることになっちまう!」

 

 

 ルイズの疑惑の視線を無視し、ここぞとばかりに赤屍に自分を売り込むデルフリンガー。

 しかし、当の赤屍はデルフリンガーに対して武器としての価値は全く見出してはいなかった。

 何せこの男は、自分が扱うための武器なら自分の血液からいくらでも作り出せるのだ。

 

 

「…ふむ」

 

 

 赤屍は少し考える素振りを見せる。別に彼自身には新しい武器は必要ない。

 だが、本当にこの剣が始祖の時代に作られた剣で、始祖に近しいところにあった剣であったのなら、既に失われたという『虚無』の魔法への手掛かりになるかもしれない。

 ルイズの魔法の系統が虚無と推測される以上は、買っておいて損はないだろう。

 赤屍は少し考えた後、ルイズに言った。

 

 

「ルイズさん、出来たらこの剣を買って欲しいのですが」

 

「え~っ、こんな錆びた剣を? 第一、アンタ、剣なんて必要ないくらいに強いじゃない」

 

「ええ。まあ、確かに武器としての価値は微妙だと思いますが、本当に始祖の時代の剣なら歴史的には非常に貴重ですし」

 

 

 どうせ買うならもっと見栄えのいい剣がいいと考えルイズは難色を示したが、結局、赤屍に押し切られる形で買うことになった。 

 デルフリンガーは買われるのがよほど嬉しいのか鍔元をカチカチと鳴らしてはしゃいでいる。

 

 

「おおっ、そうかい! よろしくな、相棒!」

 

 

 性格的には問題が有っても、使い手としては歴代の中でも間違いなく最強。

 そんな最強の使い手に買ってもらえることになってデルフリンガーは喜色満面な様子である。

 どうやら剣であるデルフリンガーにとっては、赤屍の強さこそが重要であって、赤屍の性格については余り問題ではないらしい。

 一方、赤屍の性格の悪さに頭を悩ませているルイズは「剣は気楽でいいわね…」などと溜め息を吐くと店主に値段を訊いた。

 

 

「で、いくら?」

 

「へぇ、こいつなら新金貨で100で結構でさぁ」

 

「安いじゃない」

 

「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさあ。こいつがいると商売の邪魔ばっかりさせられますから」

 

 

 ルイズから財布を取り出すと、言ったとおりの金額を取り出す。

 代金を受け取った店主はカウンターの下から取り出した鞘にデルフリンガーを納めると赤屍に手渡した。

 

 

「毎度。こいつがどうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れて下せえ。そうすれば大人しくなりまさあ」

 

「さ、行くわよ」

 

 

 こうして、デルフリンガーを受け取った二人は武器屋を後にした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 そして、店を出てしばらくするとルイズが話しかけてきた。

 

 

「ねえ、何でこんなボロ剣にしたの? どうせ買うんだったらもっと別の剣にすれば良かったのに…」

 

「ボロ剣とはなんでい、娘っ子! 俺はデルフリンガー様だ!」

 

 

 ボロ剣と言われたことに、カタカタと文句を言うデルフリンガー。

 しかし、一方の赤屍は武器としての価値よりも、歴史的な証拠・証人としての価値の方を重視しているのだから、ルイズの言葉はある意味、的外れである。

 

 

「クス…、私にとってこの剣の武器としての価値が低いことは特に問題ありませんよ。私がこの剣を手に入れたいと思った理由は、この剣の歴史的な価値を見込んでのことです。いずれにしろこの剣が相当に古いものであることは事実ですし、実際、この剣はエルフなどの人間以外の種族が使うという先住魔法について、ルイズさんよりも詳しく知っていた。ひょっとしたら、既に失われたという『虚無』の魔法についても知っているかもしれませんよ?」

 

「『虚無』って…伝説の系統じゃない。そんなのに興味があるの?」

 

 

 どうして赤屍がそんな物に興味を持つのか分からずに、ルイズは訝しげに赤屍を見つめる。

 その視線を受けた赤屍は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。

 

 

「ふむ…。学院長には他言無用と言われてはいましたが、本人にならば話しても良いでしょう」

 

「何をよ?」

 

「貴女の魔法の系統が『虚無』だという事です」

 

「はぁ?」

 

 

 赤屍の発言に思わず唖然とするルイズ。

 ルイズは「何ふざけたこと言ってるのよ、アンタ」とでも言いたげに目を細めている。

 

 

「クス…信じる信じないは、貴女の自由ですよ。ですが、私と学院長はその可能性が高いと考えています。この剣を買うと決めた理由も『虚無』の魔法の手掛かりを得る為です」

 

 

 赤屍は本気で言っていたが、ルイズにとっては余りにも突拍子も無い話だった。

 いきなり自分の魔法の系統が『虚無』だと言われても「はいそうですか」と信じられる方がどうかしている。

 ルイズは呆れたような溜め息を吐いて赤屍に言った。

 

 

「アンタねえ…、『虚無』ってのは伝説の系統なのよ? 仮に百歩譲って私がそうだったとしても、どうしてアンタがそこまでするのよ?」

 

 

 ルイズは赤屍に訊いた。

 はっきり言って、この男は純粋な善意で他の誰かを助けるというようなことはしない。

 そんな男が、どうしてルイズの使い魔などという立場に甘んじ、ルイズが自分の系統に目覚める為の手助けみたいなことをしているのか。

 ルイズがそのことを訊ねると、赤屍は愉快そうに答えた。

 

 

「クス…そんなの決まってますよ。いつか虚無のメイジとして成長した貴女と戦うためです」

 

「はぁッ!?」

 

 

 ま る で 意 味 が 分 か ら な い 。

 余りにも理解不能な赤屍の発言にルイズは驚愕と脅えの入り混じった表情を浮かべている。

 そして、思考停止する寸前の状態のルイズをさらにどん底に突き落とすような言葉を続けた。

 

 

「貴女は強くなる。強くなれる可能性を秘めている。私の見立てでは、あの無限城の『雷帝』に匹敵出来るくらいにね。ですから――」

 

 

 そこで赤屍は一度言葉を切った。

 

 

「だ、だから?」

 

 

 猛烈に嫌な予感がするが、聞かない訳にはいかない。ルイズは引き攣った顔で続きを促した。

 そして、赤屍は一呼吸置いた後、にっこりと極上の笑顔を浮かべて続きの言葉を口にする。

 

 

「もしも貴女がそこまで強くなれたら、その時は是非、私と戦ってください。そのときを私は楽しみに待ってますから♪」

 

 

 赤屍からそう言い渡されたルイズの雰囲気は、まさしく「どう足掻いても絶望」な状態である。

 ルイズは自分が虚無のメイジとして大成した場合に、自分の身に降りかかる最悪の災いを知ってしまったせいで顔色が青くなっている。

 

 

(…や、やばいわ。ひょっとして私、詰んでる?)

 

 

 どうやら赤屍にとって、自分という存在は彼がいつか戦いたい標的の一人という認識らしい。

 もしもここに某奪還屋の金髪の少年の方が居たら、おそらくルイズと心からの友人になれるだろう。赤屍さんの標的に認定された仲間的な意味で。

 はっきり言って、メイジとして大成しようが大成しまいが、赤屍を使い魔にした時点で自分の運命は状況的に詰んでいるような気がする。その日、ルイズは自分が間違いなく『最悪』の使い魔を召喚してしまったのだと改めて思い知ったのだった。

 

 




あとがき:

 以前、Arcadiaにこの回を載せてたときに「ルイズに強烈な生存フラグと死亡フラグが同時に立っている」という感想コメントをいただいたことがありますが、まさにズバリですね。
 赤屍に対して、敵なんだか味方なんだかよく分からないという評価もよく見かけますが、どう考えても最初から最後まで敵だと考えてた方が良いと自分は思いますw

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