赤屍がルイズの使い魔となって一夜明けて翌朝。
「……ん」
窓から差し込む光で、ルイズは目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすりつつ彼女が部屋の中を見回すと、そこはいつもと変わらない自室だ。
とりあえず赤屍の姿がその場に無いことをひとまずは安心するルイズ。
「はぁ~…」
ルイズは思わず大きな溜め息をついた。
今になって思い返しても、昨日は本当に大変だった。
呼び出した使い魔に、出会って早々いきなり胸を刺されて殺されかけた主人など、おそらく始祖が降臨して以降のハルケギニア6000年の歴史でも初であろう。
いきなりあんな事を仕出かしてくれた人間が、いつまでも大人しく自分に従ってくれるとはとても思えない。果たして自分にあの男を『使い魔』として使いこなせるのだろうか。
そんなことを考えていると、何だか不安で泣きそうになってきた。
(わかってる…。こんな所でへこたれるわけにはいかないわ)
決まってしまった事はもう変えられない。ルイズはペシペシと両手で自分の頬を叩く。
弱気になるな。弱気になったら駄目だ。とにかく今は自分に出来ることをやればいい。それすら出来ない人間に赤屍蔵人を使いこなせる器量などあるはずが無い。
ルイズは改めて気合を入れなおすとベッドから起き上がったのだった。
着替えを済まし、身支度を整えたルイズ。そして、彼女が部屋の外に出ると、今現在二番目くらいに見たくない顔と鉢合わせになった。
「おっはよ~、昨日は大変だったわね」
話し掛けてきたのは赤い髪が特徴的な、胸元の大きく開いた服を着た美女。
ルイズの同級生であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだ。
彼女のツェルプストー家と、ルイズのヴァリエール家は、国境を挟んで隣り合った伝統的に対抗しあう家柄同士であり、彼女達もその例に漏れず犬猿の仲である。
ルイズは朝一番から嫌な物を見たという具合に返事をする。
「あんたに心配されるほど落ちぶれてないわよ。キュルケ」
「そ、とりあえず大丈夫そうね。ところで貴女の『使い魔』は何処にいるのかしら?」
「アイツなら医務室で寝泊りすることになったからここには居ないわ。何でもアイツ、医者らしいわよ」
「え? お医者様だったの? あの外見で?」
ルイズの言葉が余程信じられなかったのが、キュルケは「マジで?」と唖然としたような顔をしている。
もっともルイズにもキュルケの気持ちは良く分かる。実際、ルイズも赤屍が医者だと聞かされた時は、キュルケと同じような感想を抱いたのは確かだ。
正直言って、あれが医者だと言われてもとても信じられない。そもそもそれ以前に、本当に自分達と同じ人間であるかすら疑わしいとルイズは感じていた。
実際に赤屍の刃を受けたルイズだからこそ、否が応にもあの男の強さと危険さを肌で感じ取れてしまう。
「キュルケ、一応は忠告しておくわよ。アイツにだけはちょっかい出すのは止めときなさい。アイツはあなたの手に負えるような男じゃないわよ」
「へぇ? 手に負えないっていうのはどういう意味かしら?」
「色んな意味でよ。アイツ、どう考えても普通じゃないわ」
「そりゃ普通じゃないのは何となく分かるわよ。けど、だからこそ気になるんじゃない」
そもそも人間が『使い魔』として召喚されたこと自体が前例の無いことだ。
そういう意味ではキュルケでなくとも、ルイズの使い魔として召喚された人物に興味を持つのも仕方ないことだろう。しかし、たかが興味本位で下手にあの男と関わったら命に関わる。
だが、それをどうやって上手く伝えたら良いのだろうか。ルイズが赤屍の危険さを理解出来ていると言っても、あくまでもそれは直感的な理解であって、順序立てて説明できるような論理的な理解ではない。
一体どうやってキュルケに説明したらいいのかルイズが悩んでいると、ふとその渦中の人物がその場に現れた。
「クス、おはようございます。ルイズさん」
「アイエエエエエエエエエエエ!?」
愉快すぎるルイズの叫び声が学院の寮を揺らした。
突然に後ろから声を掛けられ、文字通り飛び上がりそうなほどに驚くルイズ。
いくら突然だったとはいえ声を掛けられただけでここまで驚いてしまうとは、どうやらルイズの心には赤屍に対する恐怖がしっかりと刻みこまれているらしい。
ビクビクと怯えるルイズの反応はどことなく某奪還屋の金髪の少年の方を連想させる。彼女の反応が面白いのか赤屍はクスクスと笑っている。
「クスクス…別に驚かすつもりは無かったんですがねぇ」
「赤屍、いきなり後ろから声を掛けるのはやめて。ホントにやめて。心臓に悪いわ」
ルイズは必死に赤屍に頼み込む。
その様子を傍から見ると、この場で主導権を握っているのはどう考えても赤屍である。これではどちらが主人なのか分かったものではない。
そんな二人の様子を見ていたキュルケは朝から大きな声で笑い出した。
「あっはっは! ほんとに人間なのね! 凄いじゃない! しかも完全に主導権握られてるし!」
明らかに馬鹿にしたキュルケの口調。
ルイズは如何にも不機嫌そうな表情でこめかみをピクピク動かしている。
「『サモン・サーヴァント』で、人間を召喚しちゃうなんて、貴女らしいわ。流石は『ゼロ』のルイズ」
「う、うるさいわね」
「やっぱり使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。来なさい、フレイム」
キュルケに呼ばれ彼女の部屋からのっそりと現れたのは虎ほどの大きさもある真紅の大トカゲ。
尾の先端部は炎で出来ており、存在するだけでその場に熱を放っている。
そして、その異形の生物に赤屍が興味深そうに反応した。
「ほう…。これは火蜥蜴(サラマンダー)ですかね」
「あら、分かる? ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「…そりゃ良かったわね。『火』属性のあんたにはお似合いじゃない」
ルイズは苦々しげに言った。
彼女がそう言うのを横で聞いて、赤屍は「なるほど」と納得する。
確かにキュルケの容姿を喩えるなら、まさに火が相応しいと感じた。
「ええ。『微熱』が私の二つ名ですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。貴女と違ってね?」
ふふん、と胸を張るキュルケ。そのせいで彼女の豊満な胸が、更に強調される。
ルイズも負けじと胸を張り返すが、残念ながら両者の胸の差は大きかった。
それでも負けず嫌いの性格のルイズは、ぎっとキュルケを睨み付けた。
「私は、あなたみたいにいちいち色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」
しかし、悲しいかな、そこで言っても負け惜しみにしか聞こえない。
キュルケは余裕ありげに笑うと赤屍の顔を見つめる。
「貴方、お名前は?」
「赤屍蔵人。運び屋をしていますが、親しい人からは『Dr.ジャッカル』とも呼ばれていますね」
「アカバネ・クロウド? 変わった名前ね」
「クス、そうかもしれませんね」
「じゃあ、お先に失礼」
彼女は大袈裟に髪を掻き上げ、颯爽と去って行った。サラマンダーがその後を付いて行く。
キュルケがその場を立ち去ると、溜まっていたルイズの怒りが爆発した。
「悔しー!何なのあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!ああもう!」
「ルイズさん、少し落ち着いて下さい」
冷静にルイズを宥める赤屍。
しかし、ルイズは収まらなかった。
「これが落ち着いていられるもんですか! メイジの実力を計るには使い魔を見ろって言われるぐらいなのよ! なんであの馬鹿女がサラマンダーで、私があんたなのよ!」
「悔しがる必要はありませんよ。メイジの実力が使い魔の実力に比例するなら、貴女は間違いなく最高のメイジです」
そう言って、赤屍は試すような口調でルイズに訊ねる。
「貴女なら私の強さを感じ取れているはずですが?」
「………」
赤屍の問いにルイズは沈黙で返した。
だが、その沈黙が何より雄弁に語っていた。
「クス…やはり貴女は見込みがありますよ。実は相手の力量を見抜くのにも、それなりの実力が求められることですからね」
強い者ほど相手の強さにも敏感だ。
赤屍の強さは、圧倒的という言葉すら生温い異次元のレベルに達している。
おそらく赤屍の本当のヤバさをルイズ以外で理解できているのは、今のこの学院ではオスマンとコルベールのみだ。
他の生徒達も、赤屍が普通でないことは何となく理解出来てはいるだろうが、おそらくその認識はせいぜい腕の立つ『メイジ殺し』というくらいの認識でしかないだろう。
「……アンタ、本当に人間なの?」
思わずルイズはそう訊いてしまった。
たとえ国家レベルの武力ですら赤屍を殺せるか疑わしいことはルイズは直感的に理解している。
まさに歩く戦略兵器。そんな異次元の強さを持つ化け物が、自分と同じ人間だとはルイズには信じられなかったからだ。
そんなルイズの問いに赤屍は少しからかうような笑みを浮かべながら答える。
「一応、私は人間ですよ? 少しばかり人間離れしているだけのね」
どこが少しばかりだ、とルイズはジト目で赤屍を睨み付ける。
しかし、赤屍はルイズの視線にも全く動じない。それどころか彼女の反応を愉しんでいるようだ。
赤屍は愉快そうにクスリと笑うと話題を切り替える。
「さて、それより準備が出来ているなら食堂の方に行った方がいいですよ? 朝食の時間が終わってしまいます」
「……アンタに言われるまでも無いわよ」
ルイズは不機嫌そうに素っ気無く返すと、赤屍と共に食堂へと向かった。
なお食堂に向かう途中、彼女は決して自分の背中を赤屍に晒そうとしなかったことを付記しておく。
◆
ルイズと赤屍が向かった先の食堂。
アルヴィーズの食堂と呼ばれるその食堂は学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中に存在している。壁際に飾ってある小人の像『アルヴィー』がその名の由来である。
しかし、その場所に到着するなり、何故か赤屍はルイズを置いて厨房へと足を向けた。
「アンタどこ行くのよ?」
「いえ、私個人の食事はすでに別に用意されていますので」
怪訝な顔で訊ねるルイズに赤屍はそう返した。
実は、赤屍にとってここの朝食の量は多過ぎるとのことで、すでに厨房の方で別の食事を用意してもらっていたのだ。
ここが異世界だろうと何処だろうと、全く関係なく、いつもと変わらないマイペースっぷりを発揮する赤屍である。
「それでは私は厨房の方に居ますので、ルイズさんの食事が終わったら声を掛けて下さい」
「あ、うん」
そうして、赤屍はルイズを置いて厨房へと向かう。
別々の場所で離れて食事をすることになった赤屍とルイズだが、ルイズの方は赤屍と相席でないことに内心でほっとしていたようだ。
さすがに睡眠や食事くらいは、落ち着ける時間でなければ彼女の精神が保たないだろう。
(もっとも、それはそれで面白そうですが)
赤屍は内心でそう思う。
どこぞの武士の心得書には『正気にては大業ならず』という言葉もある。
実際、赤屍自身も含めて最上位の強さを誇る連中は、どこかしら頭のオカシイ連中が多い。
それを考えると、逆に発狂寸前まで追い詰めてみるというのも、ルイズを成長させる方法論としては有りかもしれない。
もっとも、その果てに彼女がどんな境地に至るかまでは責任は持てないし、今の時点ではそういう方法を取るつもりはなかったが。
「ふむ…やはり食事も洋風ですね」
食事というのはその地域の特色を非常に強く反映する。
朝食を摂りながら文化の差異を分析していた赤屍だったが、ふと彼はハルケギニアの世界では珍しい髪色のメイドを見かけた。
ルイズやキュルケのような明るい髪色をした者が多い中にあって、昔ながらの日本人を思わせる落ち着いた黒色の髪。
(おや…)
磨けば光りそうな印象を受けるが、容姿自体は飛びぬけた美人という訳ではない。
しかし、何故か赤屍は彼女のことが気になった。給仕の仕事をこなしている彼女を観察していると、ふと彼女と目が合う。
そして、その瞬間に赤屍は感じた違和感の正体を理解する。
(右眼…ですかね)
見た目は全くの普通に見える彼女の右眼。
だが、赤屍はその右眼に封じられているモノを一発で見抜いた。
無限城世界において同じ瞳を持つ者達を知っている赤屍だからこそ見抜くことが出来た。
目が合ったメイドは社交辞令的にニッコリと微笑んでくれる。赤屍もそれに微笑み返したが、その笑みに込められた感情はそれぞれで全く違う。
赤屍がここで浮かべた笑みは、肉食獣が獲物を前にしてする笑みと同じ種類のものである。当然、メイドの方には赤屍の内心の感情は伝わらない。世間には『知らぬが仏』という言葉もあるが、この状況にズバリ当て嵌まる言葉かもしれない。
(これはある意味、ルイズさんより面白い素材かもしれませんね)
赤屍の脳裏に浮かぶのは、呪術王、黒鳥院夜半、来栖柾など、そうそうたる実力者たちの顔ぶれだ。
誰も彼もが常軌を逸した化け物じみた強さの持ち主だったが、彼らの瞳には共通する特徴が一つある。それこそが『聖痕』と呼ばれる刻印だ。
何故、このメイドの右眼に彼らと同じものが封印されているのか、一体誰が彼女の右眼を封印したのかは分からない。分からないが、確かなことが一つある。
それはつまり、赤屍にとっての愉しみがまた一つ増えた、ということである。そして、この場合の赤屍にとっての「面白い」とは、「自分の強敵と成り得る可能性を持っている」という意味に他ならない。
本人の知らない内に赤屍に興味を持たれてしまったシエスタ。全く以ってご愁傷様としか言いようがない。
もっとも、それは現在、離れて食事を摂っているルイズにとっても全く同じことが言える。
(はぁ~…、何だって『ゼロ』の私があんなのを召喚しちゃったんだろう…)
(いやはや、なかなか面白そうな人材が揃ってますよ、ここは)
一方は、ゲンナリとした将来への不安。もう一方は、ワクワクした将来への期待。
少し離れて食事を摂っているルイズと赤屍は、お互いに全く正反対の感情を胸に抱いていたのだった。
◆
そうして食事を終えた後、ルイズと赤屍は授業を受けるべく合流して教室へ向かった。
教室に着いたルイズは適当な席に座り、赤屍は彼女から少し離れた席に控えている。
教室には他の生徒の使い魔たちがたくさんおり、フクロウや猫などといった一般的な動物から巨大モグラまで、赤屍が見たことも無い生き物も多かった。
そして、そんな中にあって赤屍の存在は一際異彩を放っている。今も生徒達は赤屍の方を見て、ヒソヒソと噂話をしているくらいだ。
殆どは物珍しさから来る好奇の視線だったが、ふと赤屍は自分に向けられるいくつかの視線の中でかなり強い警戒感を含んだものを見つける。
その視線の元を探ると今朝出会ったキュルケの隣りの席に小柄な青髪の少女が居た。
その少女だけは、赤屍に対して特別強い警戒の眼差しを送ってきている。
(…この子もそれなりに見込みがありそうですね)
赤屍は内心でそう評価を下す。
そのうち、扉が開き教壇の上に紫のローブを着た中年の女性が現れた。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。この『赤土』のシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
満足そうに生徒と使い魔を眺めるシュヴルーズ。
しかし、その視線が赤屍と合うと、その笑みが明らかに引きつった。
すでに彼女含めた教員には「出来るだけ赤屍を刺激しないよう細心の注意を払うように」という旨がオスマンから伝えられている。
普段の彼女なら「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね?」などと惚けた声で言っている所だったろうが、オスマンから言われていたこともあり、今回の彼女の口からはそのような言葉は出なかった。
「ごほんっ! えー、では皆さん。授業を始めます」
わざとらしい誤魔化すような咳払いをした後、シュブルーズは授業を開始する。
まず『火』『水』『土』『風』の魔法の四大系統。失われた系統である『虚無』。そして、それら魔法と生活との密接な繋がりなどが説明される。
それらの魔法の系統は組み合わせる事が可能であり、組み合すことが出来る数によって『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』というランクに分けられている事も話される。
魔法や魔術については専門外である赤屍であったが、むしろ専門外であるからこそ興味深くこの講義を聞いていた。
「さて、では一通り説明が終わったところで――ミス・ヴァリエール、この石を錬金してみてください」
この指名に、教室の生徒達の間でどよめきが起こった。
何事だろうと訝しげに見たところに、キュルケが真っ青な顔をしながら手をあげた。
「ミセス・シュヴルーズ。それはやめたほうがいいと思います。あの…危険です」
その言葉を聞いて、今度はルイズがムッとした顔で、負けまいといった感じで立ち上がった。
「私、やります」
「ルイズ、やめて」
キュルケの制止も聞かず、ルイズは大股で歩み寄ると、石の前に立ちサッと杖を取り出した。
それと同時に生徒たちは机の下に潜り込むなどして何らかの防御態勢を取っている。そんな光景を見た赤屍は、ふとルイズが言っていたことを思い出した。
(そう言えば、どんな魔法でも『爆発』が起こると言ってましたね)
ちょうどいい、と赤屍は思った。彼女の持つ素質を見極める為にも、手っ取り早く『爆発』とやらを見せて貰おう。
そう考えた赤屍は、ルイズが錬金の魔法を唱えるのを黙って見ていた。ルイズが呪文を唱え始めると杖の先にある石に力の流れが集まっていく。
その力の流れを認識した瞬間、赤屍の表情が変わる。
(まさか、ここまでとは…)
かつての無限城の『雷帝』を思い出させる程に桁外れのエネルギー。
そのエネルギーは雷帝が操るプラズマのように目に見える分かりやすい形をしていなかったが、恐らく総量的には全く引けをとっていない。
―――瞬間、収束されていた力が爆発となって解放された。
教壇が爆発を起こし、爆風をもろに受けたシュヴルーズが黒板に叩きつけられる。
その爆風は赤屍の方にも及ぶが、机や椅子が軽く吹き飛ぶ程度でそれほどでもなかった。
しかし、使い魔の生物達それぞれがギャーギャーと悲鳴らしき声を上げ、教室は地獄絵図と化している。
やがて煙が晴れるとそこには、服装は少し傷ついてはいるものの、無事なルイズが立っていた。
「ちょ、ちょっと失敗したみたいね」
その言葉を皮切りに罵声が飛ぶ。
「なにがちょっとだ!」
「いつだって魔法の成功率、ゼロじゃないか!」
「だから言ったんだ!ゼロのルイズにやらせるといつもこうだ!」
それらの罵声から赤屍は、なるほどと理解する。
彼らにとっての〝ゼロ〟とはそういうことか。しかし、赤屍からしてみれば彼女の素質はゼロどころではない。
あくまで単純に考えての話だが、彼女は無限城の『雷帝』に匹敵できる可能性を秘めているのだから。
(やはり、私を召喚できただけのことはありますよ。貴女は)
強敵と戦うことを何よりの愉しみにしている赤屍にとって、自分にとっての強敵となり得る存在の出現はむしろ望むところでしかない。
赤屍を召喚してのけたルイズ。今朝、食堂で出会った黒髪のメイド。そして、青髪の少女。これから彼女達がどんな成長をするかはまだ分からないが、どうやら中々面白いことになりそうだと、赤屍は思った。
赤屍は煤と埃塗れになっているルイズの方を見ながら、嬉しそうに小さく笑ったのだった。
シエスタ強化フラグ。
しかし、ゼロ魔の二次SSでのシエスタの隔世遺伝率はホント異常ですな。