【完結】京‐kyo‐ ~咲の剣~   作:でらべっぴ

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長いので鶴賀編も二話に分けます。
続けて投稿しますが、ストックが切れたので更新速度が落ちます。


「憧憬」

「はじめまして……ではないんですけど、初めてお話しますね。須賀京太郎です」

「ああ、知っているだろうが加治木ゆみだ。よろしく、須賀君」

 

時刻は夕方の四時過ぎ。

京太郎は鶴賀学園の正門前で、目じりを凛々しくするゆみと合流した。

 

「加治木さんがすぐ来てくれてホッとしました」

「ん? なぜだ?」

 

と言うように、ゆみの登場で京太郎は心底安心している。

別にすっぽかされる事を心配したわけではなく、女子高の前で立っている事に居心地が悪かったのだ。

 

「下校中の女子がジロジロ見てくるんですけど、俺の格好変ですかね?」

 

もし校内に入れるなら学生服の方がいいだろうと考えた京太郎は、逃亡時と同じくそのままの姿。

おかしくない筈なのにやたらと好奇の視線に晒され、冷や汗を垂らしながらずっと引きつった笑いを浮かべていた。

ゆみの登場はまさに地獄に仏だった。

 

「鶴賀は女子高だからな。男子の君が珍しかったんだろう」

 

ゆみが薄く笑って答える。

 

「そうなんですか? ずっと共学なんでいまいち想像できないんすけど……」

「女子高とはそういうものさ。君も女子高に通えば分かる」

「そこは男子高でしょ!?」

 

京太郎はツッコんだ。

珍しい自身の冗談が素早く返され、ご満悦になったゆみがハハハと笑う。

ファーストコミュニケーションとしては上々だろう。

 

「お前が須賀っすか。今日は相手してやるから感謝するっす」

「こら、モモ!」

 

上々すぎて、そこにいたもう一人の機嫌を損ねてしまったようではあるが。

 

「あ、そっちもはじめまして。須賀京太郎です。東横さんですよね? 今日はよろしく」

 

いきなり失礼な口を叩いたのは鶴賀麻雀部一年、東横桃子。

ゆみが後輩を叱るが、京太郎は気にした風もなく挨拶した。

この程度で腹を立てるようなら、優希の相手は務まるまい。

 

「鶴賀の一年、東横桃子っす。相手してやるけど、先輩に近づくんじゃないっすよ」

「ア、アハハ……」

 

だが、恐ろしく無礼だった。

初対面相手にこんな口を利くとは、桃子のゆみへの愛は果てしない。

ある程度経緯は聞いたが、男が大好きな先輩に近づいたのだから、桃子の警戒は当然と言えた。

 

「すまないな、須賀君。モモにはあとできつく言っておく」

「いえいえ、気にしてないですよ」

「――しかし驚いたな」

「へ?」

 

ゆみは京太郎に頭を下げつつ、続けて自身の驚きを言葉にする。

 

「君はモモの姿が見えているんだな」

「あ!」

 

と、気付いた桃子も驚きの声を上げる。

 

「はい? そこにいるんですから見えるの当たり前なんじゃないっすか?」

 

分からないのは京太郎だ。

桃子の能力、『ステルス』については咲から聞いていた。

予選決勝卓副将戦での猛威も確認している。

牌譜や映像ではいまいちよく分からなかったが、数字上は凄い事になっていたのできっとスゴイ能力なのだろう。

 

「もしかして『ステルス』ってのと関係あります?」

 

きちんと予習してきたものの、京太郎には桃子の私生活など知るわけもなかった。

 

「ああ。能力的に、モモの姿を認識できない人間もいてな」

「大半がそうっすね」

「そうなんすか!?」

 

能力が実生活に影響を与えている事に驚かざるをえないが、どちらの顔にも悲壮感が見られないので安堵する。

 

「よく一緒にいるせいか、私にはかなり認識できるようになった。しかし、能力を高められると私でもモモの姿を見失ってしまう」

「なんつー因果な能力なんですか……」

 

それでも周りから認識されないのはかわいそうだなと、京太郎は顔をしかめてしまった。

 

「もう慣れたっすよ。それに、加治木先輩なら見えなくても私を見つけてくれるっすから」

「モモ……」

 

しかし直後展開される百合空間。

モモがゆみの手をとり、じっと目を見つめ続ける。

 

「……………………」

 

手を取りあう二人を見た京太郎は、

 

『え!? そういう事なの!? 女子高にはよくあるって聞くけどそういう事!? でもなんかドキドキするのはなぜだ!?』

 

と新しい世界を開こうとしていた。

桃子は結構なおもち持ちなのだが、こんなおもちを見るのも悪くないと胸が暖かい。

 

「んんっ。それでは案内しよう。一度受付の事務室で外来許可証をもらってから部室へ行く。ついてきてくれ、須賀君」

「う、うっす。よろしくおねがいします」

 

じーっと眺める京太郎の視線に気付き、ゆみは取りつくろうように歩き出した。

どうやら男子でも鶴賀学園の敷地に入るのは可能らしく、京太郎は慌ててゆみの後を追う。

 

「おい、お前。先輩から二メートルは離れるっす。不用意に近づいたら噛みつくっすよ?」

「あーもう、分かったって……」

 

しかし、ゆみの腕に抱きつきながら後ろを振り返る桃子には溜息を吐くしかない。

素の口調が出てしまった。

 

「いい加減にしろ、モモ! 初対面の須賀君に失礼だろう」

「うぅ……、だって……」

 

ゆみの厳しい叱責に、留飲が下がってしまう。

 

「だってじゃない。須賀君に謝るんだ」

「うぅぅぅ……」

「モモ?」

「……分かったっす。須賀……君、悪かったっす」

 

だいぶ言い難そうではあったが、桃子は謝った。

 

「気にしないでくれ、東横さん。ウチのタコス娘に比べたら全然だから」

 

もっとも、『大きなおもちに謝ってもらえるなんて、今からの対局は期待できるな』と意味不明な事を思っていたので謝り損だった。

 

「私からも後輩の無礼を詫びる。すまないな、須賀君」

「いえいえいえいえ! 加治木さんに謝られたらどうしていいか分からないです! 無理なお願い聞いてもらったんですから!」

 

ゆみに頭を下げられて慌てるも、ゆみはゆみで泣かした負い目を多分に含んでいるので、こちらも同じく慌て損だった。

三者の内心が外面と一致するには、まだもうしばらくの時間が必要らしい。

遠慮なく心からの言葉を出せるよう祈るばかりである。

 

 

 

    ※

 

 

 

「お、きたなー」

 

三人が部室へ辿り着くと、中にいたのは一人だけだった。

 

「ああ。こちらが清澄の須賀君だ」

「どうも、須賀京太郎です。今日は無理言ってすみません」

「別にいいよー。こんにちわ、須賀少年。元部長の蒲原智美だ。今日は私達三人がお相手するよ」

 

智美はニコニコと笑顔で京太郎を歓迎する。

いつも無駄にニコニコしているのは置いといて、残りの部員、二年の妹尾佳織と津山睦月はいなかった。

京太郎が知る必要のない情報だが、女の子の日である睦月が辛そうだったので、心配した佳織が付き添って帰ったという次第。

鶴賀学園麻雀部もまた、みな仲良しなのだ。

 

「はい、よろしくおねがいします」

 

京太郎は智美へ深々とお辞儀をする。

予選決勝卓で中堅を務めた『蒲原智美』。

久の悪待ちが場を支配してはいたが、彼女もかなり打てる事を牌譜で確認済みだ。

 

(ついてる。鶴賀の上位三人ならまぎれも起きにくい)

 

頭を下げながら、京太郎は最高のメンバーだった事に喜ぶしかない。

本命は加治木ゆみだったが、残りの二人は能力者の東横桃子と部長の蒲原智美だったらいいなと思っていたのだ。

自身の望みがとても迷惑になる事を考えると、他メンバーまで指定する勇気はなかった。

加治木ゆみと打てるだけで僥倖だっただけに、京太郎は『昼と明日の分の運をここに集めたのかぁ……』と納得してしまう。

きっと明日は久にボコボコにされるに違いないのだから。

 

「ワハハ。あの清澄で麻雀打ってるんだもんなー。きっと須賀少年も強いんだろー?」

 

幸運なんだろうけど不運なんだよなぁ、と考えていると、智美が尋ねてきた。

 

「あの久に逆らってまで出稽古の真似事だからな。しかし、この行動力は見習いたい」

「……フンっす」

 

ゆみまで勘違いしている事に、京太郎は慌てて手を振る。

 

「い、いえ違います! 強いかどうかはまだ分かりません!」

「「「は?」」」

 

そうだ。まだ分からない。

師匠には清澄のみんなと打てるくらいにはなったと言われた。

けど、あれからまだ一度も対局していない。

強くなれたかを試すのはこれからなのだ。

 

「まだ分からんとはどういう意味だ?」

 

当然、ゆみ達には意味不明だろう。

京太郎は正直に話した。

 

「俺高校から麻雀始めて、五日前まで初心者だったんです。インターハイの個人戦も、予選前の振るい分けすら突破できませんでした」

 

しかしこれは、なにも京太郎が正直者だったからというわけではない。

 

「五日前までというのもよく分からんが、そうか、まだ麻雀に触れて日が浅いのか」

「そっかー。いやごめんごめん。清澄の名前で勘違いしちゃったよ」

「なにが『五日前まで』っすか……。麻雀歴半年じゃまだまだ初心者っすよ」

 

このメンバーに本気になってもらう為だ。

それも全力の全力。

こちらを叩きのめそうと思うくらいの、超本気で打ってもらう。

 

「麻雀の師匠に十日前出会って特訓してもらいました。だから試さないと強いかどうかは分かりません」

「「「…………」」」

 

丁寧語ではあるが、とても不遜な言い方だった。

初心者がたった十日練習した、だからその成果を試しに来た、と言ったに等しい。

三人が絶句する。

 

「あと、加治木さんも勘違いです」

「……勘違い?」

 

もう後戻りはできない。

無礼千万迷惑千万は百も承知。

 

「出稽古にきたんじゃありません。鶴賀を倒しにきました」

「「「ッ!?」」」

 

心臓バクバク、喉カラカラの京太郎は、鶴賀来訪の目的を告げた。

あんなによくしてくれたゆみにこんな事を言うのはとんでもなく心苦しい。

 

「……練習試合でもしたいのかと思ったが、道場破りだったのか」

「そうです」

 

それでも突っ走ると決めたのだ。

顔をしかめるゆみへ、京太郎は真っ直ぐ目を見て答える。

 

「……まだ対局は始まっていない。ここで断ると言ったらどうする?」

 

ゆみは憮然として言った。

泣かせてしまった借りがあるから取りやめるつもりはないが、智美と桃子に不快な麻雀を打たせる事になる。

正直、恩を仇で返された気分だ。

その時、京太郎はごく自然な動作で跪くと、額を床に擦りつけた。

 

「「「ちょっ!?」」」

 

あまりの失礼さにポカンとしていた智美と桃子も、これには驚くしかない。

 

「とても失礼な事も、恩知らずな事も承知しています。それでも、打ってください。おねがいします」

 

土下座するくらいなら最初から言わなければいいだろう、と思うも、なにか事情でもあるのかと勘ぐってしまう。

 

「おいおい、須賀少年。男が簡単に土下座とかしないでくれよー」

「分かったから頭を上げてくれ。というか下げないでくれ。こちらが悪者になった気分だ」

「なに考えてんすかね、コイツは」

 

そう言われ、京太郎は頭を上げる。

そして正座したまま聞いた。

 

「練習ではなく、本番の時と同じように打ってくれるでしょうか?」

 

そんな京太郎に、ゆみは溜息を吐くしかない。

 

「君は注文が多い。だがまあ、手を緩めたりはしないと誓おう」

「いやあ、なんか面倒事に首突っ込んだみたいだなー」

「自分からボコボコにしてほしいとか、マゾっすか?」

 

智美はニコニコ顔を崩さず(もしかしたら崩せないのかもしれないが)、なにやら事情があるならがんばるかと気合を入れた。

桃子は『所詮は雀歴半年の初心者』と、少々侮っている。

しかし最初からボコボコにつもりだったので全く問題なし。

 

「皆さん、ありがとうございます」

 

京太郎は満面の笑みで立ち上がった。

 

「ではさっそく打とう。全員場決めの牌を引いてくれ」

 

旅打ちの最初の相手、鶴賀学園麻雀部との対局開始。

 

 

 

    ※

 

 

 

サイコロを振り、決まった席は東家京太郎、南家ゆみ、西家智美、北家桃子となった。

起家が京太郎でスタートする。

 

 

東一局0本場 親京太郎 ドラ{4}

 

 

京太郎配牌。

 

{一三五六②赤⑤⑥⑨247南中白}

 

無理をすれば三色も見えてきそうな四シャンテンをもらう。

 

(悪くない。ツモが乗れば十順以内には張れそうだ……)

 

と思いつつ、打{南}。

 

(やっぱ対局はいいな。楽しーわ)

 

京太郎はニコニコしながら旅打ち最初の牌を切った。

そして八順目。

 

「リーチ」

 

対面の智美からリーチがかかる。

 

「ワハハー。東一局で先制リーチなんてツイてるなー」

(こっちも結構いい手だったんすよー。でも{中}切り遅れたっすー)

 

リーチ棒を場に置く智美に心の中で会話しつつ、京太郎は早々にオリる事を決意。

 

{一一三五六七赤⑤⑥4567中}

 

配牌からあった{中}を延々切らず、切り遅れた手格好だ。

三色になれば親跳も軽いだろう手だったが、京太郎は無理をするつもりはなかった。

その四順後、十二順目。

 

「ツモ」

 

智美がツモアガリ。

 

{六七八①②③③④⑤88中中} ツモ{中}

 

リーヅモ{中}。{8中}待ちの高い方を引いた。

 

「1000・2000だなー。開局早々ツモアガリとは、今日は勝てそうだ」

 

アガられた手牌にチラリと視線を飛ばし、親の京太郎は2000点を支払う。

自身の読みと相手の待ちに満足しつつ、東一局が終了した。

 

(ふむ。きちんとオリたのにツモられた、にしてはずいぶんと嬉しそうだが?)

 

なにやら訳ありらしい事もあり、とりあえず東一局は『見』に回ったゆみ。

妙にニヨニヨしている京太郎に疑問を持つ。

 

(麻雀を始めて半年か……。私も対局できるだけで楽しかったな……)

 

無理する事なくオリた事に感心しつつも、京太郎の心情が理解できてなんかホッコリしていた。

そんなゆみが親の東二局。ドラ{⑧}。

 

「ロン」

 

ゆみの凛々しい声が飛ぶ。

 

「あちゃ、もう張ってたすか」

「ああ、今テンだ。5800」

 

九順目に桃子からロンアガリ。

 

{五六六七七①②③④⑤⑥⑧⑧} ロン{八}

 

親だし安目でも5800点なら十分、{④⑦}引きでマンガンが確定すれば尚よしと黙テンに受けたのだ。

即打ち込んでしまった桃子は不運だったが、後半『ステルス』になれば無双しかねないのでデバサイだろう。(※デバサイ=出場所最高)

京太郎がじっとゆみのアガリ手牌を見詰めつつ、東二局0本場終了。

次は東二局1本場。

 

「ツモ。一本場は1400・2700だな」

 

と、智美がリーヅモピンフドラ1をツモアガった。

 

「ワッハハー。今日はツモ運がいいからこのままトップで終わらせるぞー」

「そうやって調子に乗るとすぐラスだぞ」

 

上級生二人のやりとりを聞きつつ迎えた東三局。

 

「ツモったっす。2000・4000」

 

{一二三四五六⑨⑨11白白白} ツモ{1}

 

十一順目に桃子が、ドラの{白}が手の内暗刻のインスタントマンガンをツモアガる。

 

「痛たた。隠れドラ3で親被りは心にくるなー」

「振らなかっただけマシだな。{1}は掴めば切っただろうから、私的にはありがたい」

 

『ステルス』に向けて徐々に存在感が薄くなり始めている桃子はともかく、京太郎も黙って和了者のアガリ形を見続けていた。

今回は特訓後の初対局。

自身の読みがどこまで当たっているのかを確認し、また三人の打ち筋でのズレを修正していく。

元々東場は丸々捨て、自身の特訓の成果を確かめる為に費やすつもりだった。

そして東四局。

 

 

東四局0本場 親桃子 ドラ{9}

 

 

十二順目、ゆみの手牌。

 

{二三三四四②②②45678} ツモ{五}

 

安目ではあるが、{②}を切って{369}の三面待ちテンパイ。

しかし、

 

(私からは{58}が三枚ずつ見えている……、にも拘らずドラの{9}も{3}も一枚も見えん)

 

どちらも他家が二枚以上抱え込んでいると予測した。

 

(配牌からあった三面張がここまで引けなかった。なら死に面子の可能性が高いな)

 

故に、ドラ受けとピンフの三面待ちを拒否する打{8}。

 

{二三三四四五②②②4567} 打{8}

 

ノベタンの{47}に受けると次順の十三順目。

 

{二三三四四五②②②4567} ツモ{7}

 

即座に{7}をツモった。

 

「ツモ500・1000」

「その手で{8}切るのかー。なんかゆみちんらしいな」

 

点数は2000点と安いが、自身でも満足できるアガリだ。

こういうのがあるからやめられない。

ゆみはちょっとドヤ顔で言う。

 

「まあ、配牌から動かん形だったからな。ツモれたのは運がよかった」

「それでもまだ私の方が2900差でトップ。大きな顔はまくってからの方がいいぞー。ワハハー」

「ではそうさせてもらおう」

 

二人がそんな会話をする中、京太郎はやはりゆみの倒された手牌に目を向けていた。

 

(という事は、俺の手牌を読んだんじゃなくて状況に対応したのか……。やっぱこの人の対応力はズバ抜けてんな)

 

と感心する京太郎の手牌。

 

{①③④⑤⑥33999発発発}

 

なんと{3}対子と{9}暗刻の形でテンパイ。

しかも待ちは{②}だ。

役牌ドラ3をシレッと張っていたあたり、もはや一週間前の京太郎とは別人だろう。

 

(コイツ、アガれもしなければ鳴きもしないっす。初心者ならしょうがないっすけど、恐ろしい程存在感ないっすね)

 

どこぞのステルスさんの感想には苦笑するしかない。

 

 

東四局終了時の点棒状況

 

京太郎 18600

ゆみ  27100

智美  30000

モモ  24300

 

 

アガリもせず、振り込みもせず、鳴きもせずで迎えた親。京太郎の南一局。

 

(須賀少年、東場はまったくいいとこなかったなー)

(振り込む事こそなかったが、いきなり無スジを切ったり赤ドラを切ったり少々危なっかしい。きちんとオリはできるようなんだが……)

(私らを倒しに来たとか、ビッグマウスもいいとこっすね)

 

ラスの京太郎にチラリと視線を向け、三人がそれぞれ好き勝手な事を思う。

しかし当の本人は、

 

(久しぶりに東場でトばなかった……。スッゲーうれしいけど、やっぱ咲達よりは弱いんだろうなぁ。まあ、あいつら全国優勝だしなぁ)

 

と、こちらも好き勝手だったのでお互い様だ。

そして南一局0本場の六順目。ドラは{①}。

南家のゆみは高速テンパイを入れていた。

 

{七七九九②②⑧⑧東東南南中}

 

チートイツの{中}単騎。

子なので1600である。

 

(即リーでもいいだろうが、{中}は生牌。止められやすいし誰かに暗刻られていても面倒だ。役牌以外の字牌かドラの{①}を待とう)

 

そして下家の智美がこんな手牌。

 

{二三五六⑤⑥⑦5678西西} ツモ{8}

 

{8}を引いてくる。

 

(ワッハハー。いいとこ引いた。{西}は一枚でてるし、鳴けたところでノミ手くさいしなー。夢はでっかくタンピン三色だ)

 

まだ六順目という事もあり、ピンフもタンヤオもつかない自風の西を外した。

 

{二三五六⑤⑥⑦56788西} 打{西}

 

これでタンピン三色のイーシャンテンだ。

しかしこれが罠。

七順目のゆみのツモがこれ。

 

{七七九九②②⑧⑧東東南南中} ツモ{西}

 

既に二枚切れだが、ゆみの思考は冴えていた。

 

(ふふふ、蒲原。場に一枚切れた自風など安牌としては優秀だろう? タンピンくさいその捨て牌、もう張ったのか?)

 

というより黒かった。

 

(いいや、六順目ならお前は迷わず即リーするはずだ。つまりそれは対子落とし。そうだろ、蒲原?)

 

まさに外道。

何度も打ったチームメイトの打ち筋を読み切り、ベロリと舌なめずりする。

 

「リーチ」

 

{七七九九②②⑧⑧東東南南西} 打{中}

 

もちろん顔には出さない。微塵も出さない。

それどころか若干ポケーっとした表情で何気なく発声する。

 

「うわー。こっちが早いと思ったのになー」

 

と残念がりつつ、智美のツモ。

 

{二三五六⑤⑥⑦56788西} ツモ{四}

 

もはや喜劇のようなツモ{四}。

 

「よーし絶好だぞ。ワハハー。悪いなゆみちん、追っかけリーチだ」

 

三面待ちに勝利を確信し、いつものニコニコ顔がさらにニコニコ。

打{西}。

 

「ロン」

「うええええええ!?」

 

智美は跳び上がって驚いた。

 

「う、裏はなしで、6400……ぶふっ」

「あー! ゆみちん狙ったなー!」

「な、なんの事だ? チ、チートイの字牌地獄待ちは、い、いたって普通の戦術だろ? ぶふふっ」

「嘘だ! むぎー! 悔しすぎるー!」

 

リーチ一発チートイのロンアガリ。

ゆみが顔を背けて笑いを堪え、智美がギリギリと悔しがる。

 

(はー。今回は状況と相手の嗜好から対子落としを読んだのか。あいかわらず油断も隙もない打ち方すんなぁ)

 

ゆみの手牌を眺めながら、京太郎は予選決勝大将戦を思い出していた。

たった二局でいきなり『宮永咲』の嶺上開花に対応し、怪物『天江衣』へ11600を直撃するという離れ業を披露した『加治木ゆみ』。

牌譜やDVDを見るたび、『あーこれ俺もやってみてー。その嶺上とる必要無し! とか咲に言ってみてー』と何度も思ったものだ。

 

「加治木さんって……」

「うん?」

「凄いっていうか、おもしろい読み方しますよね?」

 

ついポロッと、感嘆が零れ出た。言い方はちょっと失礼だが、まぎれもなく感嘆である。

 

「これを読みと言っていいのかは疑問だがな」

 

そんな京太郎に、ゆみは怒るでもなく苦笑で返す。

 

「手牌読みにそれほど自信があるわけではないから、あるものを必死にやりくりしていたらこうなった」

「そうなんですか?」

 

それは謙遜だろう。

読みに自信のないものが決勝へ進めるわけもない。それもチームの大将でだ。

 

「私も君と同じく高校から麻雀を始めたんだ」

「ッ!?」

 

それには驚かされる。

 

「そんな者の読みなど、他の経験者と比べれば甘いに決まっているだろう?」

「いやー、そんな事ないと思うけどなー」

『そうっすよ、先輩はすごく麻雀強いっす』

 

愚直と言っていい心構えに、京太郎は『これが初心を忘れない中級者かぁ、俺もこうできてりゃなぁ』と感心しきり。

どうでもいい事だが、一人が消え始めたようである。

 

「だが、もちろんそのままにするつもりはない。甘いのなら辛くなるまで鍛えればいいだけの話だ」

 

眉をキリリとさせながら、とてもいい事を言った。

 

「私は麻雀が好きだからな。好きでいるうちはとことんまでやるつもりだ」

『はぁ……、やっぱ先輩素敵っすねぇ……』

「勝手な言い分だが、私は君にもそうなってほしいと思う。こんな事をするくらいなんだから、須賀君だって麻雀が好きなんだろう?」

「もちろんです。俺、麻雀大好きっすよ」

 

この場にいる一年二人の内、一人をメロメロ、一人を笑顔に変える。

加治木ゆみとはとても素晴らしい先輩なのだ。

 

「私は全国へ行けなかったが、君にはあと二年ある。初心者だとかそうじゃないとかは気にするな。努力すればいいだけだからな」

 

何度でも言おう。加治木ゆみは本当に素晴らしい先輩なのである。

だから、京太郎は満面の笑みで言った。

 

「分かりました。俺の九日間の努力を見てください。がんばって鍛えた読みで、加治木さんを倒しますから」

「……………………」

「……………………」

『……………………しね』

 

とりあえず、三人を絶句させる事には成功。

一人毒を吐いた者もいたが、ゆみは苦笑いするしかない。

 

「なんというか、君は少し足りないな……。配慮とかデリカシーとか、なんかそういうものが」

「うぐっ……、それよく言われるんですけど、そんなに俺って無神経なんすかね?」

「ああ。背も高いし顔の作りも悪くないのに、君はモテなさそうだ」

「イケメンかもしれない金髪君じゃなくて、イケメンになれない金髪君だったなー。ワハハ」

「ひどい!」

 

互いに互いを傷付けつつ、南二局が始まった。

 

 

南一局終了時の点棒状況

 

京太郎 18600

ゆみ  33500

智美  23600

モモ  24300

 

 

南二局0本場 親ゆみ ドラ{2}

 

 

(読みのズレもだいたい修正できた。この局からいくぞ)

 

南一局は速攻で終わってしまった為に親を無駄にしてしまったが、それでもあと三局もあればいけると確信する京太郎。すぐさま攻撃態勢に入る。

両目に碧の火を灯し、師に叩き込まれた構えをとった。

ここからはずっと京太郎のターンだ。

 

{八①③⑤⑤⑦23344南北} ツモ{白}

 

北家の京太郎の第一打。

 

{八①③⑤⑤⑦23344南白} 打{北}

 

打{北}でスタートする。

配牌ドラ1で、イーペーコーが見える手。

ツモが噛み合えばあっさりマンガンをアガれておかしくない三シャンテンだ。

 

(配牌いいし、最低でもマンガンを狙う)

 

次順は{一}をツモ切り、三順目にシャンテン数の上がる{⑥}を引く。

 

{八①③⑤⑤⑦23344南白} ツモ{⑥}

 

そして上家が切ったのに合わせ、打{南}。

四順目は{9}ツモ切り。

五順目も{二}引きでツモ切り。

五回中四回もツモが空ぶり、京太郎は『ヤッバ……』と少し焦った。

 

(ツモ悪ぃ……誰か鳴いてくれー)

 

そんな他力本願な事を考えていると、願いが届いたのか親のゆみが{1}をポンする。

京太郎の目に宿る碧火が火力を上げた。

 

({1}ポン? {6}と{8}切ってるし染め手じゃない。役牌かトイトイ……どっちにしてもドラの{2}持ってるな。{白}は簡単に切れない)

 

次順、{3}ツモ。

 

{八①③⑤⑤⑥⑦23344白} ツモ{3}

 

(二シャンテン変わらず。少しでも内に寄せて、と……)

 

{①③⑤⑤⑥⑦233344白} 打{八}

 

孤立した{八}を切り飛ばす。

さらに次順、ツモ{⑤}。

 

{①③⑤⑤⑥⑦233344白} ツモ{⑤}

 

(うん、ナイス鳴き。けど{1}ポンする前の{④}打ちとポンした直後の{①}打ち、おそらく筒子の下がない。ここは二シャンテンに戻す)

 

{③⑤⑤⑤⑥⑦233344白} 打{①}

 

両眼に宿った碧火を揺らめかせ、京太郎は冷静に読みを展開。

次のツモは四枚目の{3}だった。

 

{③⑤⑤⑤⑥⑦233344白} ツモ{3}

 

(今{白}を鳴かれたら不利すぎるからな。イーシャンテンでドラ抱えてる奴と勝負はできないし、{白}はギリギリまでしぼる)

 

{⑤⑤⑤⑥⑦2333344白} 打{③}

 

ゆみが{白}を鳴くと確信している京太郎は、{③④}の受けを捨ててまで防御を意識した。

師に何度も何度も叩きこまれた防御。

 

”攻防は分ける事に意味がない。躱して打つ、打ったら躱す、それだけだ”

 

たとえ攻撃態勢であろうとも、それを忘れる事はない。

九順目は{六}をツモ切り。

十順目も{8}ツモ切り。

そして十一順目、うれしいドラの{2}を引いた。

 

{⑤⑤⑤⑥⑦2333344白} ツモ{2}

 

(よし絶好。{⑤⑧}待ち。この形なら戦える。ここで{白})

 

{⑤⑤⑤⑥⑦22333344} 打{白}

 

{⑤⑧}待ちでテンパイし、ここで絞りに絞っていた{白}を切る。

筒子が変化すれば倍満まで見える手だ。

 

「ポン」

 

そして案の定ゆみがポンし、{⑨}を捨ててきた。

 

(おそらくポンテン。トイトイなら待ちは{⑧}か{⑦}、十中八九{⑧}の方。それと、ドラだ)

 

両目に碧の火を揺らめかせる京太郎。

次順、引いてきた牌にニヤリと口をゆがめると、

 

「リーチ」

 

{3}を切り飛ばしてリーチした。

ゆみの手牌は、

 

{②②②⑧⑧22} {横白白白} {11横1}

 

こんな形の{⑧2}待ち。

親で12000確定の勝負手である。

 

{②②②⑧⑧22} ツモ{5} {横白白白} {11横1}

 

しかし、引いてきたのは{5}。

 

(チッ、一発でドラスジとは……キツイところを引かされる)

 

京太郎のリーチに一発で無スジの{5}を引かされてしまった。

 

(しかも{①③}の切り順が逆だ。{④⑦}はもちろん、{⑤}スジも切れない)

 

読みを展開したら手の内が危険牌だらけ。正直勘弁してほしいと言いたい。

 

(六順目に鳴いてイーシャンテンだったんだが……。親番な事と、ドラと役牌の対子に目がくらんで焦りすぎたな)

 

しかしアガっていない以上は何かを切らなければいけない。

 

(どうする? 勝負なら{5}ツモ切り、回るなら{⑧}対子落とし。しかしどちらも危険度は変わらない)

 

ゆみ、迷いつつ打{5}。

高目をツモれば親の跳満手、しかも危険度が変わらないなら強気で勝負するしかないだろう。

 

「ロン」

 

しかしそれが裏目。

一発で振り込んでしまった。

 

「くっ、{⑧}切りで回るのが正解か……。やはり私はまだまだだな」

 

親で攻めたのが仇となり、ゆみは自身の甘さを痛感する。

 

「いえ、どっちでも同じでした」

「なに?」

 

だが倒された京太郎の手牌はこれだ。

 

{⑤⑤⑤⑥⑦22333444}

 

リーチ前に引いたのは{4}。{⑤⑧25}の変則四面張。

 

「メンタンピン一発イーペーコードラドラ」

「な!?」

「裏はなしで12000です」

「お、同テン……ッ」

 

ゆみの手牌の内、半分以上がアタリ牌だった。

打ち込まないのは暗刻の{②}のみ。

しかも{⑧}打ち込みでもメンタン三暗刻ドラドラで点数変わらず。

これで京太郎はラスから一気にトップ。逆にゆみはトップから一転、ラスへと叩き落とされた。

 

「加治木さんとは違うやり方で直撃を狙ってみました」

 

そんなニッと笑う表情に、ゆみは瞬時に理解する。

 

「それが、君が鍛えた読み……」

 

これが偶然ではない事をだ。

 

「はい。師匠に嫌という程叩き込まれた、俺の努力の結晶です」

「……………………」

「……………………」

『……………………』

 

ゆみだけでなく、智美と桃子も目を見開いて呆然となる。

五日前まで初心者という話はどうした。たった四日でここまで化けたとでもいうのか。

 

「……まいったな」

 

ゆみは肩を落として溜息を吐くしかない。

 

「まいりましたか?」

 

京太郎はうれしそうに聞き返す。

 

「ああ、まいった。不用意に鳴いたとはいえ、まさか手牌を読み切られてしまうとは」

 

その通り。

京太郎はゆみの手牌を完全に読み切っていた。

危険牌を掴めば、{⑧}切りと迷うだろうと考えたのだ。

最悪でも同テンな以上は打ち込む心配がない。

とても失礼なのは分かっているのだが、読みが完全に当たった京太郎は笑みが零れてしまう。

 

「いやあ、加治木さんみたいな強い人に褒められると自信つきますね」

「よく言う。そういえばこの半荘、君は一度も振り込んでいなかった。読みには相当自信があったんだな?」

 

胡散臭そうなゆみの視線に苦笑しながら返してしまうのだが、許してほしい。

京太郎は本当にうれしいのだ。四日前よりも確実に強くなっている事に。

 

「そんな事ないです。特訓後の最初の対局ですから、本当に強くなれてるのか半信半疑でしたよ」

 

普通は数日の特訓なんかで強くなったりしない、と大声で叫びたいゆみは、それでもグッと堪える素晴らしい先輩だ。

 

「過去系か? 今は自信たっぷりと言いたげだな」

 

それでも皮肉の一つくらいはいい筈。

生意気な一年だと思い口にするが、しかしデリカシーの足りない京太郎は皮肉に気付かず素直に受け止めてしまう。

 

「はい。県予選決勝卓、大将戦を戦った人に通用するんです。なら、俺の力は県予選決勝程度はあるって事じゃないですか」

「……いや、私を基準にしても意味はないぞ? 所詮は力及ばなかった側の人間だからな、私は」

 

ゆみが苦い顔で否定するも、無駄だ。

なぜなら京太郎は、鶴賀学園大将『加治木ゆみ』の力を信用している。

化物二体が暴れ回る中、常に冷静に突破口を探していた姿を見ていたからだ。

 

「いいえ、あの決勝大将戦での加治木さんの読みと対応力は誰よりも凄かった。魔物が二人もいたなんて、正直不運ってだけですね」

「それを君が言うのか? 片方は清澄産の魔物だという事を忘れないでくれ」

「その魔物へ槍槓するわ、イーシャンテン地獄で跳満アガるわ、しまいにゃ11600食らわすわ、やりたい放題だったじゃないですか」

「……だ、だがやはり負けた事に変わりはない。天江衣や宮永咲もそうだが、風越の池田華菜のような火力も私にはないからな」

 

妙に褒めてくる京太郎に、ゆみは居心地が悪くなってしまった。

 

「ワハハ。なにやらゆみちんの事ベタ褒めだなー」

『当然の事っすけどね。まあ、先輩の凄さが分かるだけでも大したもんっす』

 

だが、京太郎の褒め言葉はとどまる事を知らない。

 

「他の三人も確かに凄かったです。けど、最近見た牌譜と映像で、俺にはあなたの姿が一番強く印象に残りました」

「なっ!?」

「おー、言うなあ、須賀少年」

『あ? いきなり何言い出してんっすか? 先輩が一番なんて言われるまでもなく知ってるっすよ? バカなんすか?』

 

頬が染まったゆみと、ワハハーと驚いてるんだか笑ってるんだか判別不能の智美。

一人ギリギリと歯ぎしりしながら京太郎を睨む少女もいるのだが、その子は既にステルスモードへ突入している。

 

「『加治木ゆみ』の麻雀は俺が進む方向と同一です。だから会いにきました。どうしても最初にあなたと打ちたかったんです」

 

それが理由。

久を怒らせるのが分かっていても、それでも対局したかった。

 

「……そ、そうか。それはなんというか、その、光栄だ……」

 

旅の最初の一歩は、『加治木ゆみ』と一緒に踏みたかった。ただそれだけなのだ。

 

「いやー、女子校だからかな? 知り合いが男子に口説かれてるとこうドキドキするなー」

『こういうハレンチな男は絶滅すればいいんすよ。間違いなく下半身でしか考えられない生き物なんすから』

 

しかし女子達はそんな事情なんか知らないし知ったこっちゃない。

 

「だーもう! さっきから茶化さないでくださいよ! 別に口説いてませんからね!? 素直な気持ちを言っただけですから!」

 

女子高の潔癖さに辟易した京太郎は、対局を再開する。

 

「とりあえず始めましょう! 次は南三、蒲原さんの親です! というかほんとに口説いてませんから!」

「あ、ああ、すまない。蒲原、サイコロを振れ」

「ワッハハー。ごめんなー須賀少年。私もゆみちんもあんま男子に耐性がなくってなー」

「いやもうほんとその話題いいですから……」

『私は騙されないっすよ。先輩はこの身を挺してでも守ってみせるっす』

 

次は南三局、智美の親。

確認を終えた京太郎は力を抑える筈もなく、師との時間を信じて益々加速する。

全国の頂点たる仲間達と同等の力を得た以上、そうやすやすと流れを断ち切られるなどありえない。

止められるとすれば、凡人とは異なる理を操る『能力者』。

『東横桃子』は、既に消えていた。

 

 

鶴賀を選んだ理由編 カン

 

 

 

 

「うぅぅ……、京ちゃんケータイの電源切っちゃってるよぉ」

「なんじゃ咲、知らんのか? 京太郎は今週いっぱい部活休むらしいぞ?」

「いえ、それは知ってるんですけど……」

「? なんぞ用でもあるんか?」

「その、部長が……」

「わしが?」

「あ、いえ、竹井先輩がすごく怒ってて、京ちゃんを丸坊主にするって……」

「坊主ぅ!? 久がそう言ったのか!?」

「はい……」

「あの犬なにやらかしたんだ?」

「私も知らない。京ちゃんお昼に早退しちゃったし」

「逃げたっちゅう事か?」

「きっとそうです。そのあと竹井先輩が怒鳴りこんできましたから」

「あの竹井先輩が怒鳴りこんだんですか? それはよっぽどですね」

「すごく恐かったよ。『あのアホはどこ』って凄い目してた。しかも京ちゃんを名前で叫んでたもん」

「久をキレさせるとは……、馬鹿な事したのう」

「竹井先輩を激怒させるなんて、須賀君いったい何をしたんでしょう?」

「きっとエロい事だじぇ! あいつはエロ犬だからな!」

「ん~、京ちゃんにそんな度胸ないと思うけど……」

「そうですね、というかそうでなければ困ります。私の胸を見てホッコリするのは実害がないから許せていただけですので」

「ご、ごめんね和ちゃん。京ちゃんにはきつく言っとくから」

「まあ何したか知らないけど、あのアホ死んだじぇ」

「そうじゃな。死んだわ」

「や、やっぱりそうかなぁ?」

「いい友人でした。胸さえ見なければ」

 

 

もいっこ カン

 


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