やったぁ。倍率がほんの少し下がった!!
まぁ、でもほんの少しなんですけどね。
とくにここに書くこともないので、
では、どうぞ
「木更さん、こいつは・・・」
「ウチだけが呼ばれたわけではないだろうと思っていたけど、さすがにこんなに同業の人間が招かれているとは思わなかったわ」
「・・・へぇ」
里見君と木更さんの話を聞き流し、私は部屋に入る。
すると、殺気のこもった視線が私に向く。・・・まだまだじゃん。
「おいおい、最近の民警の質はどうなってんよ。ガキまで民警ごっこかよ。部屋ぁ間違ってんじゃないか?社会科見学なら黙って回れ右しろや」
「あはは、あなた、おもしろいこと言うね。黙って回れ右するのはあなただと思うな~」
「あぁ?」
「え?聞こえなかった?いい加減黙れうるさいんだよって言ったんだけど」
「これはこれは。最近のガキは大人に対する礼儀もなってないのか?それとも―――喧嘩売ってんのか?」
「あはは、いいね、それ。やろうよ。喧嘩」
「ちょ、おい神流。今ここでやりあうなって」
「そうよ神流さん。こんなのに構っちゃだめよ」
「おいクソアマ、今なんつったよ!」
「やめたまえ将監!」
横槍を入れてきたのは里見君と木更さんだけでなかった。
卓の一つに腰掛けていた彼の雇い主と思われる人物だ。
「おい、そりゃねぇだろ三ヶ島さん!」
「いい加減にしろ。この建物で流血沙汰なんて起こされたら困るのは我々だ。この私に従えないなら、いますぐここから出て行け!」
将監と呼ばれた男は、キロリと私と一瞥すると「へいへい」と言って引き下がった。
と思ったら、今度は彼の雇い主が両手を広げながらこちらにやってきた。
「そこの君、すまないね。あいつは短期でいけない」
「いえいえ。別に私は気にしてませんけど。むしろ少しやりたかったです」
そう適当に流し、席に座るべく足を進める。
が、そこでまた、将監がつっかかってくる。
「おい待てよ。お前の席はあっちだろ」
「え?そっちって、木更さんたちの方かな?」
「そこ以外にどこがあるってんだよ」
「あはは、残念ながら、私はそこなんだよね」
私は一番上の席の空席を指差しながら言う。
・・・聖天子様、別にそこじゃなくてよかったんだけど・・・・
ということはさておき、椅子に座る。
「おいテメェ。ふざけてんのか?」
「私はなにもふざけてないよ?ここが私の席だし」
事実、置いてあるプレートには「神流海晴様」と書いてある。他は会社名なのに、私だけ名前で。
「んだとこの―――」
さらになにか言おうとしたとき、部屋の扉が開き、制服を着た禿頭の人が部屋に入ってきた。
その瞬間、私や木更さんを含む社長クラスの全員が立ち上がり――かけたところで、それをその男が手を振って着席を促す。
遠くて階級章がが見えないけど、たぶん幕僚クラスの自衛官だろう。
「本日集まってもらったのは他でもない、諸君ら民警に依頼がある。依頼は政府からのものと思ってもらって構わない・・・ふむ。空席一、か」
見れば、確かに里見君たちの六つ隣、『大瀬フューチャーコーポレーション様』という三角プレートの席だけが空だ。
「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち、退席していただきたい。依頼を聞いた場合もう断ることができないことを先に言っておく」
その言葉に席を立つものはいない。
まぁ、そもそも席を立つ人なんていないと思うけどね。
「よろしい、では辞退はなしということでよろしいか?」
その男が念を押すように全員を順番に見渡すと、「説明はこの方に行ってもらう」と言って身を引いた。
この方って誰?と思っていると突然正面の奥の特大パネルに1人の少女が大写しになる。
『ごきげんよう。みなさん』
木更さんや社長さんが一斉に立ち上がる。もちろん、私も例外じゃない。
なにせ相手は国家元首。この東京エリアを統べる超偉人なのだ。
後ろについているのはおそらく天童菊之丞だろう。・・・あれ?木更さんと苗字一緒だね。
ま、そんなことはさておき、いつもは友達みたいに聖天子様に接してる私だけど、今は依頼する側とされる側。それなりの態度をしないと。
『どうぞ皆様、楽にしてください』
その声を聞いて、座る、という人はいない。いや、いたら私、友達になるよ。
だけど残念ながら、私の友達は増えないようだ。
『神流さん、急な呼びかけにも関わらず、ありがとうございます。皆様方も、急なお呼び出しに応じてくださり、ありがとうございます』
その、聖天子様の言葉に、全員が「は?」という顔で私のほうを向く。
えっと・・・いま驚くところあった?
『では、私から説明します。といっても、依頼自体はシンプルです。民警のみなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を1人出した感染源ガストレアの排除です。もう一つは、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』
・・・?ケース?
パネルに別ウィンドウが開かれると、ジュラルミンシルバーのスーツケースのフォトがポップアップする。
横に現れた数字は成功報酬だろう。
その値段を見て今度こそ周囲の空気に困惑が混じるのがわかった。
そこに、先ほどの社長さん、三ヶ島さんがすっと手を上げる。
「質問よろしいでしょうか。ケースはガストレアが飲み込んでいる、もしくは巻き込まれていると見ていいわけですか?」
『その通りです』
巻き込まれる、っていうのは、ガストレアになるときに所持していた物質がガストレアの皮膚などに巻き込まれ癒着してしまう現象のことだ。
こうなったら、そのガストレアを倒さなければ、取り出せない。
「感染源ガストレアの形状と種類、いまどこに潜伏しているかについて政府はなにか情報をつかんでいるのでしょうか?」
『残念ながらそれについては不明です』
「回収するケースの中には何が入っているか聞いてもよろしいでしょうか?」
今度は木更さんが挙手をした。
ざわりと周囲の社長がざわめき立つのがわかる。
それは、私も聞きたいことだった。
『おや、あなたは?』
「天童木更と申します」
聖天子様は少し驚いた表情になった。
後ろにいる人と苗字が一緒だったからかな。
『―――お噂は聞いております。それにしても、妙な質問をなさいますね天童社長。それは依頼人のプライバシーにあたるので当然お答えできません』
「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝型を持っているという常識に照らすなら、感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。その程度の敵ならウチのプロモーター1人でも倒せます
と言い切ってから不安げな瞳で里見君を見て「多分ですけど・・・」と付け加えた。
多分って、確証ないんだ・・・。
木更さんは続ける。
「問題はなぜそんな簡単な依頼を破格の依頼料で―――しかも民警のトップクラスの人間たちに依頼するのか腑に落ちません。ならば、値段に見合った危険がそのケースの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」
『それは知る必要のないことでは?』
「かもしれません。しかし、あくまでそちらが手札を伏せたままならば、ウチはこの件から手を引かせていただきます」
『―――ここで席を立つと、ペナルティがありますよ』
「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員を危険に晒すわけにはいきませんので」
肌がぴりぴりするほどの沈黙が降りる中、正直、私は驚いていた。
さっき、政府絡みの依頼は断れないと言っていたはずなのに。
なにか言おうかなと思って口を開きかけたその瞬間、私はその存在に気づいた。
そいつは部屋中に響き渡るほどのけたたましい笑い声で笑っていた。
「『誰です(誰?)』」
「私だ」
たぶん、私の「誰?」という発言の意味と、聖天子様の「誰です」という発言の意味は違うのだろう。
私は笑い声を上げたのは誰か?ではなく、あなたは誰ですか?という意味を込めて言ったけど。
そしてその声の主に全員の視線が集まる。
視線が向いている先は、先ほどまで空席だった大瀬社長の席。
そこには、仮面、シルクハット、燕尾服の怪人が、卓に両足を投げ出して座っていた。
中でも、里見君が一番驚いていた。
「お前は・・・そんな馬鹿なッ」
「里見君、知り合いなの?」
「・・・あぁ、前の一緒にやったガストレアの時に、ちょっとな」
『名乗りなさい』
「これは失礼」
いや、失礼もなにも土足で卓に上がってる時点でどうかと思うけど。
・・・いやいや、土足じゃなかったらいいとかそういうことじゃないからね?
その男はシルクハットを取って体を二つに折り畳んで礼をする。
「私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。端的に言うと私は君達の敵だ」
「うそ・・・?蛭子・・・影胤?」
「お、お前ッ―――」
「フフフ、元気だったかい里見くん。我が新しき友よ」
「どっから入って来やがった!」
「フフフ、その答えに関しては、正面から、堂々と―――と答えるのが正しいだろうね。もっとも、小うるさいハエみたいなのが突っかかってきたので何匹か殺させたけどね。おおそうだ、ちょうどいいタイミングなので私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」
「はい、パパ」
俺が振り向くよりも速く、俺と木更さんの脇を少女が歩き去っていった。
それにぞっとする・・・いつからそこにいた?
ウェーブ状の短髪、フリル付きの黒いワンピース。腰の後ろに交差して差している二本の鞘は、長さからいっておそらく小太刀。
「うんしょっと」と言って手をつき足を上げ、難儀しながら卓の上にのぼると、少女は影胤の横に来てスカートをつまんで辞儀をする。
「蛭子小比奈、十歳」
「私のイニシエーターにして娘だ」
・・・イニシエーター?この男・・・民警なのか?
ガキィイイイイイイ!!
俺の思考を斬ったのは、刀と刀の打ち合う音だった。
「・・・は?」
その場にいた全員・・・いや、正確には神流と影胤と小比奈を除く全員が驚いた。
打ち合った刀の持ち主は、神流と小比奈だった。
「・・・残念。やっぱイニシエーターいたら無理、か」
「パパァ、こいつ、強い」
その小比奈の言葉に、影胤は言った。
「そうだな。少し力を出してもいいぞ」
「やったぁ!パパ、ありがと!!」
「おい神―――」
再びガキィイイ!と刀と刀が打ち合わされる音。周りにいた人は手出しできなかった。俺も、木更さんも、IP序列1584位の将監さえも、介入できなかった。
その打ち合いは続く。やがて、影胤が口を開いた。
「・・・君、名前は?」
そう影胤が問うと、小比奈が止まる。小比奈が止まると、神流も止ま・・・りはしなかった。
「神流式抜刀術一の型四番 獅子閃光」
・・・速い。速すぎる。俺なら、絶対に捌けない。
それほどの速さだ。
「・・・なるほど。君は神流の生き残りだったか」
「っく・・・きゃあ!」
「大丈夫か神流!?」
神流は、なにかの力によって、弾き飛ばされ、壁にぶつかって止まる。
壁にはひびが入っていた。
「くはっ・・・大丈夫」
「そう、なのか?しかしさっきの神流を弾き飛ばしたあれは―――」
「斥力フィールドだよ里見くん。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいるがね」
「バリア・・・だと!?」
「で、君の名前は?小比奈の二刀を一本の刀で捌ききり、さらにカウンターまでかけるとは、なかなかやるね。神流くん、名前を教えてくれないか?」
「神流海夜、だよ。それはどうも。で、なんで人の命散らしてまでここに来たの?」
神流は、かはっと咳き込みながらも、影胤に問う。
「なに、今日は挨拶だよ。私もこのレースに参加することを伝えておきたくてね」
「エントリー?なんのこと?」
「『七星の遺産』は我々らが頂くと言っているんだ」
「七星の遺産?・・・七星村の・・・?」
「おやおや、君たちはそんなことも知らされずに依頼を受けさせられようとしていたんだね、可哀想に。君らがいうジュラルミンケースの中身だよ」
一瞬、影胤が神流の方を見て、言った。
「昨日、お前があの部屋にいたのは―――」
「うんその通り。私も感染源ガストレアを追ってあの部屋に入ったんだが、肝心の奴はどこかに消えてるしぐずぐずしてたら窓を割って警官隊が突入してくるしね。ビックリしちゃったから殺しちゃった。ヒヒ、ヒヒヒヒヒ」
仮面を押さえながら喉の奥で笑う影胤に、憎悪を覚えた。
「貴様・・・」
影胤は両手を大きく広げ、卓の上で回転した。
「諸君ッ、ルールの確認をしようじゃないか!私と君たち、どちらが先に感染源ガストレアを見つけ出して七星の遺産を手に入れられるかの勝負といこう。七星の遺産はガストレアの体内に取り込まれているだろうから、手に入れるには感染源ガストレアを殺せばいい。掛け金は君たちの命でいかが?
「影胤・・・!」
「そうだ。ついでだから名乗っておこう里見くん、私は元陸上自衛隊第七八七―――」
「機械化特殊部隊『新人類創造計画』の、蛭子影胤。あってるでしょ?」
神流が影胤の言葉を遮って、言う。
その言葉に、三ヶ島が驚く。
「・・・ガストレア戦争が生み出した対ガストレア用特殊部隊?実在するわけが・・・」
「信じる信じないは君の勝手だよ。まあなにかね里見くん?つまり私はあの時まったく本気じゃなかったのだよ。悪いね。それにしても、神流くん。よく知っているね」
「そりゃ、ね。私のレベルのアクセスキーがあったら、それくらいの危険人物、把握できるよ」
影胤はそう言って俺の前まで音もなくやってくると、マジックショーさながらに白い布を自分の掌にかぶせ、三つ数えて取り去る。
するとそこには赤いリボンがあしらわれた箱が現れた。卓の上に置くと、俺の肩に手を置く。
「君にプレゼントだ。ではこの辺でおいとまさせてもらうよ。絶望したまえ民警諸君。滅亡の日は近い。いくよ小比奈」
「はい、パパ」
2人は悠然と窓まで歩いていくと、窓を割り、ごくごく自然な動作で窓から飛び降りた。
なぜ影胤が神流という名前を知っていたのかは後ほど書くとして・・・
影胤がいいたかったことは大体言えていると思います。
やっぱり月夜の出番今ないね。
月夜「はぁ・・・私、小比奈とやりたかったです」
そ、それはごめんね。
いつか今度やらせるから、今は少し待っていてください。
読んでくれてありがとうございました。
問題とかありましたら感想までお願いします。
感想書いてくれたら嬉しいです。