ひたすらふざけてる
誰よりも強くて、誰よりも身勝手で、どこまでも自由だったイッセーがその強さを私を生かす為に棄てたあの瞬間から、私は悟った。
『俺がどこの世界でもおたくら『神様』とやらにとって害悪で、消したくて仕方がないってのはわかったよ。
だがな、お前らなんぞに怯えながら生きるなんて不自由にも程があるし、そんな生き方なんて真っ平ごめんだ!!』
世界から追い出された怪物に。
神に生きることを拒否された怪物に。
『そもそも追い出しておきながら、そのエヒトとかいう別の神だかに文句垂れられたからって俺を殺しに来るなんざ今更過ぎるだろうが。
しかも俺と関わったからという理由で兎人族まで消すだぁ? ……それを聞いて俺が『はいそうですか』なんて言うと思ってるんだとしたら大間違いだ……!』
神の意思に真っ向から逆らう怪物に。
『俺はこの子に――この子の一族の皆に助けられたから今を生きることが出来た。
その皆が、俺という害悪を消す為だけに巻き込まれるというのなら、俺はそんな神をぶっ殺してでもこの人たちを生かしてやる……!!』
生きる為だけに進化をし続けた事で到達してしまった怪物に。
『っしゃあー!! 俺はドラゴンと
私を――一族の為だけに全てを捨て抗うことを選んだ、他者から見ればどうしようもない悪人に見えるであろう英雄に。
『どうした! 俺の速度について来られないのか神様よぉ!
だったらそのまま―――くたばりやがれぇぇぇっ!!!』
お荷物にしかなれなかった私達の為に戦い、そして神によってその存在そのものを消し去られる運命を与えられる筈だった私達を彼が壊してくれたその時から私は悟った
『俺の力の全てを注ぎ込み、運命そのものをぶち壊す。
そうすれば少なくともアンタ達もシアも消えることは無い。
なぁに、力こそ消えるかもしれないが、消えたら消えたでまた鍛え直せば良い。
そんなことよりも、俺はアンタ達とお別れになる方が嫌なんでね!』
私はきっとそんな英雄でもあった怪物から人へと戻ってしまった彼を支える為に生まれてきたのだと。
『うっしゃあ! ザマァ見さらせボケ神め! 俺達の勝ちだぁぁぁっ!! だーっはっはっは!』
エヒトとは違う神によって存在そものを消されかけた私を、その力を全て投げ出してでも繋ぎ止めてくれたイッセーの為に。
「ひぃ! ひぃ……!! も、もう限界なのじゃ……!」
「ど……どうだイッセー?」
「ああ……二年くらい前までの全盛期の25%って所だが充分だぜ」
それが私の生きる意味。
ドライグと、ドライグが強制的に協力させたティオによるドラゴンとしての力をその身に取り込んだイッセーは、己の両手に視線を落としながら全身に力が張っている感覚を久々に感じる。
「そ、それで? この後妾はどうすれば良いのじゃ?」
「もう貴様に用は無い。
邪魔にならなければ勝手にしていろ」
「え……? い、一緒に戦うとかは――」
「オレにも言えるが、イッセーにパワーを注ぎ込んで空っぽの状態である貴様が居ても小僧共の邪魔にならん。
そんなに貴様の誇りとやらを大切にしたいのなら、大人しくしていろ」
ほぼ全てのパワーをイッセーに注いだ事でまともに立てなくすらなっていたティオにドライグがつっけんどに言うと、自身は全身を淡く輝かせながらイッセーに触れ、神器としてその左腕の籠手となる、
「それがドライグ様の言う、宿主の武器としてのお姿……」
人に宿る純粋なドラゴンという話を先に聞いていたティオは、イッセーの左腕の全体に纏われる赤き籠手に息を切らせながらも感嘆するような声を出す。
『すまんがイッセー、暫くはお前の力になることができぬ……』
「わかってる。後は俺に任せてドライグは昼寝でもしていてくれ」
そんなティオを背に籠手となっていたドライグがすまそうな声を出すとイッセーの意識の奥へと引っ込み、左腕に纏われた籠手も消え去る。
「ドライグ様の気配が消えた……?」
「キミもだが、二人には相当の無茶をさせたからな。
ドライグはあんな調子でキミに言ったが、俺としてもキミは休んだ方が良い。
休めばまた力は戻るからな」
ドライグの言い方では誤解されてしまうだろうと、代わりにイッセーがお礼を言いつつ休んでくれと言うと、既に準備を終えて突貫工事で作成した塀の上に居るハジメ達と合流しようと跳躍する。
「よっす待たせたな」
「いや、大丈夫だ」
合流すると同時に謝るイッセーにハジメは問題ないと返しつつ、イッセーをじっと見る。
「ライセン大迷宮の時と同じ方法でリミッターを外したみたいだが、その時より力を感じるな」
「あのティオってドラゴン娘さんの力も取り込んだからな。
ドライグは雑魚呼ばわりしてたけど、割りと強いぞあのドラゴンさん」
二つのドラゴンの力を取り込んだ影響か、その瞳がティオや人化したドライグのように金色に輝くイッセーは割りとティオの実力を評価している。
それは決してティオがメロンを搭載しているからだとか、実年齢だけなら自分より上だからという訳ではない筈だ。
「随分とティオさんに対して優しい態度なんですね?」
だがシア的には少々不満らしく、イッセーが用意した新たな衣装(不思議の国のアリスをモチーフにしたエプロンドレス)に着替えていたシアに言われてしまったイッセーは、珍しく真面目な意味で苦笑いしていた。
「優しいっつーかさ、ああもドライグにボロクソ言われてるの見ちゃってると不憫ってか、ガキの頃の俺思い出してついな……」
生きる為に強さを持たなければならないと、幼少の頃のイッセーはかなりのスパルタ教育をドライグに施されていた経験があるせいか、ドライグの辛辣な言葉は自分が言われてるような気がしてならないのもある。
故に――この時空軸のイッセーはリアス・グレモリーとはギャスパー関連で関わりこそあったものの、因縁は無いし声も覚えていない――ということもあり、それなりにティオに対して同情的なのだ。
「へー? おっぱいが大きいから優遇でもしてるのかと思ったけど?」
「それを否定する気はないけど……ドライグに言われてあんな落ち込んでんの見てると……な」
そう過去の自分と重ね合わせるように塀の下から此方を不安げに見上げているティオと目が合ったのでなんとなく手を振るイッセーにシアはやがてはぁとため息を吐く。
「言われてみれば、最初の頃の私もドライグのお義父さんにはかなり厳しい事を言われてましたし、今回はそういうことにしておいてあげましょう」
「おう、なんかよくわからんがサンキュー。
それとやっぱし似合ってんぞその服」
一応の許しの言葉を貰ったイッセーは軽く笑いながらシアの衣装を褒めていると、遠くを見ていたハジメが口を開く。
「来たぞ……どうやら三万どころじゃなくて六万に増えてる」
「は? 倍じゃんか……」
「一日でそんなに増えるものなんですか?」
「わからん。そもそもこの軍勢を操っている奴が本当に一人で操れる数なのかも怪しくなってきた」
「どっちしろやらなきゃなんねーんだろ? はぁ、とんだサービス残業だぜ」
近づいてくる六万もの軍勢を前にぼやいたイッセーが先手必勝とばかりに全身から赤い闘気を解放する。
「!」
「よーし、今の俺なら半分くらい減らせりゃあ御の字ってところか?」
その迸る闘気の大きさに驚くハジメとユエを横にイッセーの必殺技であるドラゴン波の構えをしながらパワーを溜める。
「喰らえ! 10倍ッッ!!」
バカ正直に6万もの大群と戦っていたらこっちがバテると踏んだからこその先手必勝のドラゴン波は、ドライグとティオから分け与えられた力により全体の25%まで力を一時的に取り戻しているだけあって今までの比ではない力がその両手に集束されていく。
「ド・ラ・ゴ・ン―――「南雲!!!」――ばっ!?」
集束させたエネルギーを今まさに掛け声と共に放とうとしたその瞬間、塀の下からハジメを呼ぶ声によって集中力が切れてしまい、あえなく不発となってしまう。
「ご、ごめん。私達は止めたんだけどさ……」
なんじゃいと振り返るハジメ達と共にイッセーも振り返ると、そこには申し訳なさそうな顔をしているハジメのクラスメートの女子と、武器を手に持った町の男達が……。
「そ、それなりにキメてやろうとしたのに……」
「何故か町の人たちが武器を片手にやってきてますけど……」
「どう言うことだよ?」
何やら俺達も戦うと言い出している男達を前に困った顔をしているハジメの後ろで、水を刺されて軽く萎えた顔をしていたイッセーにシアが横から説明をする。
「どうやら町の人達が私達と戦うと言ってるみたいですね……」
「はぁ? …………流石に無理っつーか余裕で邪魔なんですけど」
「自分の故郷は自分達の手で守りたいんですよきっと」
「それが無理だからわざわざはっつぁんを頼ったんじゃねーのかい……」
仮にこのまま町の連中まで戦いに参加したら、ドラゴン波といった広域殲滅技が使いにくくなると、正直に鬱陶しそうな顔をするイッセーは、ハジメとその傍で『どうする?』と聞くユエを見ていると……。
「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ!!」
突然ハジメが町の人々に向かって、仰々しい口調で声を張り上げた。
「この戦いは既に勝利も同然だ! 何故なら我々には女神の加護のもとにあるのだ!!!」
急に変な事を言い出すハジメに、町の住人のみならず後ろで聞いていたイッセー達も首を傾げる。
「急にどうしたんだはっつぁんは?」
「何か考えがあるんじゃないですか?」
「じゃあ女神ってなんだ??」
一応近づいてくる魔物達を意識しながら様子を伺うイッセーとシア。
すると突然ハジメが壁から飛び降りると、同じくポカンとしていた畑山愛子を指し……。
「その女神の名は! 豊穣の女神こと愛子様である!!」
「んぇ!?」
突然名指しで呼ばれた愛子からしたら訳がわからずに混乱するのだが、それをガン無視するハジメは再び壁の上へと飛び乗り、今度は町の人達には見えない角度からユエの肩に手を置き、無言で合図する。
「我等の傍に愛子様がおられる限り、我等に敗北はありえない!! 我等は愛子様の剣であり盾!!」
「あ……うん」
その意図に気付いたユエが小さな声で詠唱を開始し、ハジメは天に向かって指を指せば、若干ながら竜の形をした魔力が天から降り注ぎ……。
「これこそ、愛子様より教え導かれた女神の剣の力である!!!」
大地を軽く焼き焦がした。
一見すればあまり大したものには見えないかもしれない。
しかしあくまでも
「愛子様……万歳!!」
その瞬間、町の住人達は雄叫びを上げながら女神に祭り上げられた愛子のもとへと走り出す。
「ちょ!? ちょっと南雲君!?」
当然勝手に祭り上げられた愛子は抗議しようとするが、ハジメはニヤリと笑いながら言う。
「豊穣の女神だなんて呼ばれてるんだ、いっそ本当の女神になったら良いだろう?」
「い、良いわけ無いですよっ!? こんなの――」
「じゃあ先生もイッセーと戦うか?」
「う……そ、それは」
要するにお前が足手まといになる住人達を抑えるための偶像になれと言われてるも同義であり、勿論そんなものになるつもりもない愛子だったが、ハジメのその一言で声が詰まってしまう。
「一応聞いてやろうか? おいイッセー!」
「んぇ? なんだ?」
「先生がもし戦闘に参加した場合、危なくなったらどうする?」
「は? いやー……まな板先生はチェンジで―――あがっ!?」
挙げ句の果てにもし自分が戦闘に参加し、危なくなってもイッセーは初対面の際に言った台詞と同じことを言う。
その瞬間、ぷっつんした愛子による見事過ぎる投てきにより、イッセーの顔面に石がクリーンヒットする。
「なにから何まで最低ですねアナタって人は!!?」
うがーと怒る愛子に、暫く鼻を押さえて悶絶していたイッセーも中指を立てながら応戦し始める。
「うるせー!! この色気指数マイナス1200%スーパード貧乳教師が! 目の保養にもなれないし戦えねーなら大人しくそこに居る連中を纏めて余計な真似させねぇように見張ってろバーカバーカ!」
「ばっ!? ば、バカって言った方がバカなんですー!!」
「そりゃあ悪かったな! このハイパーまな板教師様よー!! つーか豊穣の女神だぁ? どこか『豊』なんだ! 寧ろ貧相のまな板女だろうが!」
「スーパーとかハイパーとか一々つけないでくれませんか!? さっきも言った通り少しはありますよ!! ふにってしますー!!」
「それは無いと同じなんだっつーの! このアルティメット・ナイチチ貧穣合法ロリ教師めが!!」
『………………………………』
軽い冗談でイッセーに振ったつもりが、気づけば塀の上と下からの罵倒合戦に発展しまい、町の住人どころかハジメ達ですら引いている。
「ぜぇ! ぜぇ……! ま、まったく……! あんな失礼な人初めてですよ!」
「え、えーと、だからアレだ。適材適所って奴だよ先生。
取り敢えず先生には町の連中のことを頼んだ」
「わ、わかりました。
一応聞きますけど、南雲君もまさか私を寸胴だとかまな板だとか思ってませんよね?」
「え゛……? モ、モチロンオレハオモッテナイヨ?」
「……………。そうですよね!? 彼の目が節穴なだけですよね!? こんなに大人らしい大人の女性だというのに――いっそ本当に見せつけてしまいましょうか……」
言われ過ぎて思考が割りと極端化し始める愛子を何とも言えない顔で見るハジメは、鼻を擦りながらぶつくさとシアに愚痴るイッセーを見ながら盛大にため息を吐くのだった。
「あの無乳女が……! いっぺんマジで泣かせてやろうか……」
「わかりましたから、取り合えず私のおっぱいでも触って落ち着いてくださいよイッセー?」
「あ、ああ……。
ふー……何故か知らないが今のシアの格好で揉むと妙な背徳感があるけど落ち着くぜ」
「やん♪ もぉ……こんなに揉まれたらまた大きくなっちゃいそうですよぅ……♪」
「大丈夫だあんな絶壁無乳より絶対良い―――ごばっ!?」
「ひゃ!? イッセー!?」
「へへーんだ! そんな脂肪の塊に鼻の下なんて伸ばすからそうなるんですよーだ! あははは!!」
「なにするんですか!? 今度は石がイッセーの後頭部に……!?」
「ぐぉぉ……!? こ、このガキァ!!! 趣味じゃねーけど全裸にひんむいてヒーコラ言わせんぞボケゴラァ!!!」
「ほら! ほ~ら! 今本音言いましたね!? 絶対私の事が好きなんでしょう!? 残念でしたー! 私はアナタのようなスケベな野蛮人は趣味じゃございまっせーん♪」
「ぶち殺すぞこのアマァァァァッ!!!」
「きゃー♪ やっぱり私が気になって仕方ないんじゃないですかー? お子様ですねー?」
「い、イッセー落ち着いてください! ほら私のおっぱいで落ち着いて……」
「残念ですが、今の彼の意識は私にしか向いて無いですよ? あーらら、その無駄な脂肪の塊も無意味ですねぇ?」
「っ!? こ、こんのお子様体型がぁぁぁぁっ!!」
「ハジメ、収集つくの?」
「あんな愛ちゃん先生見たことないわ…」
「町の人たちもどうしたら良いかわからなくなってる顔してるわ……」
「なんだか楽しそうじゃのぅ……妾もドライグ様にああして追い回されたいの。
そして捕まったら凄いこととかされたり……」
「もう嫌だ……お家帰りたい」
もうすぐそこに魔物の群れが迫っているのにも関わらず始まってしまったカオスなおいかけっこを前に、流石のハジメも以前の素の性格が出てしまうのだった。
終わり
補足
遂に爆発した愛ちゃん先生。
……まあ、ああも言われてりゃあキレても仕方ないね。
その2
そのキレ方がどこかの世界のソーたんに近いのは多分気のせい。
その3
こんな事ばっかしてるからアホカップルとはっつぁんに言われる事に本人はあんまり気づいてない