色々なIF集   作:超人類DX

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話飛びます。

大体前回のラスト後の話から始まります。


スイッチ

 

 

 

 オレとは違うプロセスでこの世界に来た男。

 

 明らかにオレが生きてきた世界とは似て非なる世界から来た男。

 

 何故この世界に来てしまったかについては本人にもわかっていないらしく、割りと死にそうな喧嘩の真似事をしていて意識がぶっ飛んでいたらこの世界でシア達に介抱されていたとか。

 

 そんな縁から、別に元の世界に帰りたいという意欲も特に無かったのでシアの一族に混ざって一族全体のボディガードをしていたり、亜人の国を追放された後は生きる術を教えたり、時にはナンパをしたりと――まあ割りと普通に好き勝手やって来ていたらしい。

 

 

 そんな男と兎人族のシアとは縁があって旅をすることに―――というよりは殆どイッセーがとある約束を交わしたからついてきたという話だった訳だが、オレもまさかこんなに早く色々と『バレて』しまうとは思わんかったわけで……。

 

 

 

「ガツガツガツガツガツ!! ムシャムシャムシャムシャ!!」

 

「ヤケ食いするのは良いけど、ちゃんと噛んでくださいよ?」

 

「食わんとやってられんのだよ……!」

 

 

 イッセーは現在、まさに偶然にも再会してしまった元の世界の連中達の引いてる顔をものともせず、町の料理屋の料理を片っ端からドカ食いをしていた。

 

 

「よく食べますねー……」

 

「食べすぎというか、見てるこっちが胃もたれしてきそうなんだが……」

 

 

 出会いから今に至るまでの期間はまだそれほど経っては居ないが、イッセーはかなりの悪食家だ。

 それこそ腹が減ったらそこら辺の猛毒キノコやら腐ったモノですら手当たり次第食おうとするのだが、何を食べてもイッセーの体調は変化しないし、平気な顔なので、一体どんな身体をしてるのかと常々疑問だ。

 

 

「半分以上はオレのせいだから、今はソッとしておいてやってくれ……」

 

 

 そんなイッセーの好物は食うこと以外にもう一つ――女だ。

 それも同世代や年下には一切の興味を持たず、年上の――しかも体型が出てるところが出ていて引っ込んでいるところが引っ込んでいるそれだ。

 

 

「それって先程私に大分失礼としか思えない台詞を散々言った事に関係ありますよね……?」

 

「まあ……」

 

 

 そうでなければ年上でもハッキリと興味を持たなくなるくらい好みにうるさいイッセーが何故こうして不機嫌の極みのようにドカ食いをしているのかといえば―――この件に関しては殆どオレのせいだったりする。

 

 オレが当時樹海の奥地の大樹への案内を、イッセーの性癖ほぼ利用する形の交換条件でさせた事に始まり、オレがついイッセーの言う『年上のお色気ムンムンなお姉さん』を紹介してやると……ほぼ存在しない人材を勝手に出してしまったのだ。

 

 いや、完全に居ない訳ではなく、その年上のお姉さんは確かに実在はしていたんだ。

 

 ……ヤケ食いしまくるイッセーを今さっきの騒ぎにより、実に複雑きわまりない顔をしながら見ている、小柄な女――元の世界において一応社会科の教師だった人……畑山愛子のプロフィールをちょっとだけ捏造しただけだったんだ。

 

 そしたら案の定、実物の先生を見たイッセーは『チェンジで』と言い出し、約束が違うと当然怒り、その勢いで先生をめちゃくちゃに詰ったり……。

 

 

「ちょっと色々と衝撃的ではありましたが、とにかく南雲君が生きていてくれて本当に良かったです」

 

 

 そう見た目からなにから色々と変わっても尚、オレを生徒と言い切る先生の言葉に嘘は感じられず、先生に同行しているクラスメート達も……まあ、元の世界ではあまり関わりが薄かった側の奴等だったこともあり、同じような顔をしている。

 

 

「……そういえば先生達はなんでここに?」

 

 

 その顔に妙なむず痒さを感じたオレは、真横でドカ食いを継続中のイッセーを放置しつつ先生達が何故ここに居るのかを聞いてみると、先生は『長い話になりますが良いですか?』と聞いてきたので、とりあえず飯が冷めるのが嫌だったので食べながら聞くことになったのだが……。

 

 

「おい、真面目な話なんだ、ちゃんと聞け!」

 

「あ?」

 

 

 間違いなく元の世界から来た奴ではない、格好から見て恐らく教会側かなにかの組織に属してるであろう男が、こちらを見下すような目をしながら口を挟んでくる。

 

 

「先生、そいつは誰なんだ?」

 

「あ、こちらは私達の護衛隊長をしてくださっています、デビッドさんです。

聖教教会の神殿騎士の方で……」

 

 

 どうやら予想通りだったらしいのだが、先生が紹介している横でその男が先生を口説き始めていた。

 多分前までのオレなら鬱陶しい台詞を吐けるものだと思ってたし、正味今でも思うが、イッセーのあのデリカシーの欠片も無いナンパ口上を聞いてきたせいか、デビッドとやらのクサイ台詞ですらまともに聞こえてしまう。

 

 

 

「そういうのは話し終わってからやっててくれよ。

ほら、それより早く話を聞かせてくれるか?」

 

「あ、は、はい……!」

 

 

 だが、そんな光景を見聞きするほどオレ達も暇ではないので、さっさと話してくれと先生に促すと、そのデビッドとやらに思いきりメンチを切られてしまうが、別に気にすることもなく先生の話に耳を傾ける。

 

 

「ほら、ハジメさんのお知り合いの方が何やらお話されるみたいだからちゃんと聞いておかないと……」

 

「あー? ………………はぁ」

 

「い、今明らかに私の方を見て深々とため息を吐きましたよねぇ……!?」

 

「いや別に……はぁ、見れば見るほど俺はまんまとはっつぁんに騙されていたんだなぁって…………はぁぁぁぁ~」

 

「んがっ……! い、言わせておけば――」

 

「貴様ぁ! 愛子に向かって――」

 

「話が逸れるから今はやめろ! イッセーも、オレが全面的に悪いし、後で詫びもするから今は煽るのをやめろ!」

 

「へーへー……わかっりましたよはっつぁん」

 

 

 一瞬またしても一触即発な空気となりかけた所をなんとか抑えさせ、改めて話を聞いてみる。

 その間ずっとイッセーだけはシアとユエとは違って興味無さそうに明後日の方を向きながらチビチビとお茶を飲んでいて、その態度に先生とデビッドとやらが何か言いたそうな顔をしながらも先生達がここにいる理由を聞き出すことに成功する。

 

 まあ、結果だけ聞けば特に此方に有益になりそうな話ではなく、凄まじく簡潔にまとめると、任務でこの町にやって来た先生達の中に護衛の役として同行していた清水という、オレも正直あまり印象がないクラスメートが行方不明になったらしい。

 

 この時点でオレは殆ど興味が無くなっていたので、一応聞きながらも話しかけてくるユエと会話していたら、そんなオレ等の態度が気に入らなかっただろう礼のデビッドとやらがテーブルに拳を叩きつけながらテーブルから立ち上がる。

 

 

「貴様等! 愛子の話を聞いているのか!?」

 

 

 あー、まあ正直言えばオレ達の態度が癪に触るのはわからないでもないので、コイツの怒りは同じくわからなくもないんだが……。

 

 

「あーすまん、一応ちゃんと聞いてるよ。

わりーわりー、お詫びに後で50ルタあげるから……そんなに怒るなよおっさん?」

 

 

 取り敢えず穏便に済ませようと、可能な限り下手に出たつもりだったのだが、何故かデビッドの顔が青筋だらけになってしまった。……解せぬ。

 

 

「ガ、ガキがァ……! 愛子の知り合いだと聞いたから多少大目に見てやったが、ここまで礼儀もまともになってないガキ共だとはな!!」

 

 

 おかしいな、キレてこられた相手と穏便に事を済ませるにはワンコインくらい握らせれば一発だってこの前イッセーに教えて貰ったんだが、言い方がダメだったのか? とデビッドが怒りを寧ろ増幅させているのを不思議に思うオレを横からユエが若干呆れた様子で耳打ちしてくる。

 

 

「イッセーも大概だけど、ハジメも結構本気にし過ぎ。

イッセーが教えたそのやり方は普通に煽ってるだけにしかならない」

 

「え、そうなのか……?」

 

 

 なんと、この方法はただの煽りにしかならなかったのか。

 イッセーめ……オレを騙したな? なんて思いながらユエとシアの二つ挟んだ席で『あー……お色気お姉さんにイケない個人授業されてぇ……』とぼやいてるイッセーを見ていたら、怒りすぎたせいかデビッドが言ってしまったのだ。

 

 

「礼儀がないに加えて薄汚い亜人を人間と同じテーブルに着かせるのもそうだ!

大体なんだそのふざけた格好は! 汚らわしい! 礼儀以前の問題だ!」

 

「…………………」

 

 

 この言葉にシアは『あー、とうとう突っ込まれちゃいましたかー』と、笑ってごまかしつつ割りと傷ついた顔をするのだが、多分その瞬間に気づいたのはシアを含めてオレ達だけだろう。

 

 

「今の私ってふざけた格好でしょうかユエさん?」

 

「大丈夫、イッセーが街で見つけてシアの為に大道芸で稼いで買ってくれた服は変じゃない」

 

 

 それまで天井を見上げてド変態な台詞を呟くまくる姿を、対面側に座るクラスメートの女子の園部と宮崎に聞かれてドン引きされていたイッセーがその独り言をぴたりとやめたのだ。

 

 

「デビッドさん! なんてことを……!!」

 

「愛子も教会から教わっただろう? 魔法とは神より授けられし力。

それを使えぬ亜人は神に見放された下等な種族だ!」

 

「…………………………………」

 

「「「「………!?」」」」

 

 

 一応忠告――しなくて良いな。

 正味オレもこの時点でコイツ殴りたくなったし………おおっと、ヒートアップしているデビッドとそれを止めようとしている先生を除いた園部達も気づいたらしい。

 

 

「そうだ、いっそあの醜い耳を切り落としてやろう。

そうすれば少しは人間らしく――」

 

「……………ふー」

 

 

 あ、もうダメだ。

 オレ、しーらね……。

 

 

 

 

 

 初めて出会った頃から、そして今までの旅の中でハジメが懸念していた通り、イッセーという男の性格は一見すると気安くてアホの子のようなそれに感じるだろうが、一度スイッチが切り替わると一気に豹変する。

 

 

「なぁ」

 

「なんだ貴様、確か貴様はそこの薄汚い亜人と汚らわしい真似をしていた男だな? ちょうど良い、その亜人もろとも貴様も――」

 

 

 テーブルから立ち上がったイッセーがデビッドの前まで近づくのだが、その目が完全に据わっている事にまだ本人は気付いてない中、イッセーは言う。

 

 

「金、貸してくんね?」

 

「あ?」

 

「はっつぁんにしてやられちゃったのもあるし、女抱きてーんだよ。

だからアンタの財布寄越せ」

 

 

 

 そのシンプル過ぎるカツアゲ的な台詞に当初言葉が飲み込めなかったデビッドは一瞬だけ唖然となるが、すぐさまその表情を怒りの形相へと変化させる。

 

 

「き、貴様……私を舐めているのか!? もう許さん! 神殿騎士を侮辱する異教徒め!! そこの獣風情もろとも地獄へ送ってくれる!!」

 

「なんだ、貸してくれないのか……」

 

 

 剣を抜いたデビッドを止めようとする先生だが、デビッドは止まらないだろうし、同じようにスイッチが切り替わったイッセーはオレとユエだけではもう止まらない。

 

 その証拠にイッセーは剣を持つ方のデビッドの腕を掴むと……。

 

 

「ぐがァァァァっ!?」

 

 

 簡単に、それこそマッチ棒のように握力だけでへし折ったのだ。

 

 

「デ、デビッドさん!?」

 

「い、今物凄い音が……」

 

「お、折れたような音が……」

 

 

 一気に苦痛で顔を歪ませながら剣を落とし、その場に膝を付いて悶絶するデビッド。

 だが、一応神殿騎士であるだけあってそれなりの精神力は持っていたらしく、へし折られてあらぬ方向に曲がっている腕を押さえながら、据わった目をして見下ろすイッセーを睨みながら吠える。

 

 

「き、貴様! 貴様ァ!! 神殿騎士である私と事を構えてタダで済むと思うな!! 貴様は今この時を以て教会を敵に――」

 

 

 そう吠えるデビッドにイッセーはニタリと嗤うと、吠えるデビッドの鼻を摘まむ。

 

 

「ふがっ!?」

 

「よく喋るなぁオマエ? その神殿騎士様とやらはどこまで痛め付けたら喋れなくなるのか、興味沸いてきたぜ?」

 

 

 鼻を摘ままれて声が詰まるデビッドにそう嗤うイッセーは、摘まんでいた指に力を込め――

 

 

「ウギャァァァァッ!?!?」

 

 

 それこそHBの鉛筆のように『ベキっ!』とデビッドの鼻を明後日の方向にへし折るのだ。

 

 

「ひぃ!?」

 

 

 ハジメの仲間らしき、ただのドスケベな男だと思っていた愛子やクラスメート達は、簡単に人の身体を破壊するイッセーと鼻をへし折られてその場でのたうち回りながら悶絶するデビッドの悲惨な姿に悲鳴をあげる。

 

 

「んーっ!!? んぐーっ!!?」

 

「おら、ツラ見せろや」

 

 

 しかしイッセーはそんなデビッドに馬乗りになると、鼻を抑えて悶絶する彼の顔を見て呟く。

 

 

「おっと、よく見たらそこそこの男前面だな? 神殿騎士様とやらはこの手の男前しかなれないのかな? だとするなら――」

 

「うがっ!?」

 

 

 デビッドの左右の口の端に親指を突っ込み、そのまま真横に思い切り……それこそ口が裂けて血渋きが出ようがお構いなしに引っ張り続けた。

 

 

「がぁぁぁっ……!?!?」

 

「あははは、どんどん不細工になる騎士さんだなぁ? あはははは」

 

 

 ハジメは何度か見ていたので知っていたとはいえ、一度スイッチが切り替わったイッセーの敵へ向ける残虐性をこうして改めて見ると、心底敵にならなくて良かったと安堵すらしてしまう……それだけ今のイッセーは普段のイッセーとはかけ離れた残虐性を向けていたのだ。

 

 

「はっはっはっ……!」

 

(な、なんだコイツ……! ま、まともじゃ……ない! なんでそんなに笑っていられる!? 何故平気でこんなことができるんだ……! こ、殺され……る!)

 

 

 そんな残虐性を一身に向けられたデビッドからすれば恐怖そのものであり、このままでは本当に殺されると思ったのもあるし、何より助かりたいという生存本能により彼は必死に言葉をひねり出した。

 

 

「は、払いまず! おがね、ばらいますがら……!

ご、ごろざないで……! お願いじまず……!」

 

「あ? もう金だけじゃ済まねーよ……。

俺が興味あるのは、顔面がぐちゃぐちゃになった奴でも神殿騎士が出きるのかだからなぁ……!」

 

「も、もじろん、さ、さっぎ亜人に向かって言っだ言葉もどりげじまずがら……!!」

 

 

 最早生きたいが為に騎士としての吟じもプライドも全部捨てての命乞いをするデビッドを前に、愛子やクラスメート達は胃の中のモノを吐き出しそうになりながらも、このままで本当に殺されると思って同じく必死にイッセーを止めようとする。

 

 

「や、やめてください! お願いします……!」

 

「あ、アンタの仲間に対する侮辱の言葉はちゃんと訂正させるから……!」

 

「このままじゃ本当に死んでしまうぞ!」

 

 

 誰も好き好んで、特に好きでもなんでもないものの、一応任務の仲間ではあるデビッドが目の前で殺されたくはないので命乞いとように懇願していると、ハジメとユエ――そしてシアが漸く声を掛ける。

 

 

「さすがにここで殺っちまったら後々面倒なことになる。

その辺にしておけ、多分そいつはもう二度とシアにあんな事は言わないさ」

 

「わざわざイッセーが直接手をかけるまでもない」

 

「えーと……今止めてくれたら後でまたおっぱい触らせてあげますから、今回はその辺に……」

 

 

 正直ハジメやユエ的にはデビッドがどうなろうがどうでも良いのだが、止めないと止めないで厄介になりそうだったので取り敢えず止めると、シアの言葉もあってかようやくイッセーが攻撃の手を緩め、馬乗りにしていたデビッドから離れる。

 

 

「なんだ、結局神殿騎士なんぞ名乗っておいてすぐ命乞いか? 早ェよ根性無し」

 

「う……えげ……ぇ……!」

 

「じゃーよ、俺のツレに舐めた真似した慰謝料100万。俺に手間掛けさせた罰で200万。合計500万ルタ寄越せ」

 

(け、計算合ってないんだけど……)

 

(む、無茶苦茶だ……)

 

「今更文句は無いよなぁ?」

 

「は、はい゛……」

 

 

 こうして騎士としての貯蓄もあってギリギリ払えたデビッドだが、その後彼がどうなったかは不明である。

 

 

 




補足

スイッチが切り替わるとバッドエンドルートに近いそれになります。というか肉蝮化します。
それでも普段はスケベな青年なんですがね……。


その2
悲しいかな、そんな状態となった彼を止められるのは兎さんのおっぱいという。



その3
元ネタは肉蝮伝説の主人公―――ですけど、あっこまでヤバくはない(笑)

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