色々なIF集   作:超人類DX

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……地に堕ちたハジメご一行のその後。


色々と閲覧注意。


最悪に災厄

 

 

 

 全てが上手くいかないのも。

 全てが悪い方向へと行くのも。

 

 自分に降り掛かる理不尽のその全ては奴のせいだ。

 

 奴が居なければ、奴さえ居なければ自分がこんな目に逢わずに済んだ。

 

 そう、奴が消えてさえいれば………。

 

 

 

 

 

 

 南雲ハジメは二度目の『最悪』の真っ只中だった。

 

 

 『無能』だった自分から脱却を果たせたと信じた矢先に訪れた理不尽により再び無能へと叩き落とされた。

 憎くて仕方ない兵藤イッセー――その後ろを考え無しに付いていくバカな女のせいで。

 

 

「と、取り敢えずここまで来れば一先ずは安心ですね……」

 

「そうですね。追っ手の気配もありませんし……」

 

 

 全てを壊された。

 プライドも、意思も、尊厳も、なにもかもをあの男とあの男に引っ付くバカな女共踏みにじられた。

 

 何よりも許せないのは、自分以上にユエやシア――子供であるミュウですら奴等は嗤いながら傷付けた。

 

 

「…………」

 

 

 否定するという、意味のわからない谷口鈴の能力と思われるなにかのお陰で外傷だけは無いが、心に刻まれた傷だけは癒えない。

 愛子と香織の手引きによって国外へと抜け出したハジメ達は国境から少し離れた辺鄙な森の中へと潜伏すると、改めて今後について話し合わなければならなくなった。

 

 

「……。すまねぇ、オレのせいでお前達にまで……」

 

 

 火を起こし、そこら辺から手に入れた動植物を調理した簡単な食事を済ませたハジメは、まずユエ、シア、ミュウ、愛子――そして自分の措かれた立場を投げ捨ててまで自分達を助けてくれた香織に深々と頭を下げて謝罪をする。

 

 

「オレが……オレが弱いから……」

 

 

 イッセーという男を前にするだけで冷静では要られなくなる性のようなものを植え付けられたと思い込むハジメは、皮肉なことにイッセーが居ないからこそ冷静になれているらしく、力不足であることを踏まえて巻き込んでしまった事をただひたすらに謝る。

 

 

「ハジメが悪いわけじゃない……」

 

「そ、そうですよ。

私たちだってまともに抵抗もできませんでしたし」

 

「パパだけが悪いんじゃない。ミュウ達も同じ……」

 

「ええ、兵藤君を止められなかったのは私たちも同じですから……」

 

「……。第一、悪いのは兵藤くんだし……」

 

 

 そんなハジメを五人は謝る必要なんてないと返しつつ、そもそもイッセーの人間性が終わっているのが悪いのだと言う。

 

 

「あんなの人間でも亜人でもない……」

 

「子供のミュウちゃんにすらあんな酷い事をする方がどうかしてますよ」

 

「……」

 

 

 ユエ達もやはり子供であるミュウを嗤いながら傷付けたイッセーの人間性が許せないらしく、ミュウ自身は当時を思い出して震えてしまっているのをシアが優しく抱き止める。

 

 

「あの男達は必ず亜人側からも、魔人族側からも――そして人間側からも拒絶される筈。

そうなればこの世界にあの男達の居場所はなくなる」

 

「残念な事ですが、そうなる筈です。

そして元の世界でも……」

 

「だから生きようよハジメ君。

あんな酷い人たちよりも長く生きてこそだよ!」

 

「お前ら……」

 

 

 ユエも、愛子も、香織もあの男達の狂気を前にしても雫のように狂わなかったし、今も狂うことなく自分の傍に居てくれようとしてくれる。

 

 理不尽で腐った現実であろうとも、それだけは希望の光として残っていたと感じたハジメは、この繋がりだけは奴等から守らなければならないと固く誓うも……。

 

 

「だが、依然としてオレは力を失ったままだ。

錬成すら今はまともに使えない……」

 

『………』

 

 

 そう、ハジメの力は恵里によって壊されたまま――戻ることも進むこともできなくなっていた。

 どんなカラクリなのかはわからないままだが、ハジメ自身、現状の自分を考えれば恵里の言葉がハッタリ等ではないというとが嫌でもわかってしまう。

 

 

「だ、大丈夫ですってハジメさん! その為に残りの神代魔法を手に入れれば!」

 

「解放者の残したモノの中にはもしかしたらそういう力を消し去れるものがあるかもしれない」

 

「だから悲観しないでください!」

 

「今度は私もハジメ君を守るから!」

 

 

 そんなハジメをヒロイン達が励ます事で一旦は持ち直すハジメは、今はとにかく逃亡で疲れた身体を休めようと皆に声をかけようとした―――その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……味はそこそこだけどちょっと薄味かなぁ?」

 

 

 

 ユエでも、香織でも、シアでも愛子でもミュウでもない少女のような声がハジメ達の耳に入ったのは。

 

 

『なっ!?』

 

 

 そして全員が一切気付くことなく、まるで最初からそこ居たかのようにハジメ達で作った簡易スープの残りを食べている何者かがそこに居たのだから、ハジメ達は思わず硬直しながら鍋に入っていたスープの残りを全部を一気に飲みする『少女』を見た。

 

 

 

「久々の『ご飯』としては落第だけど、まあまあお腹は膨れたし良しとしようかな? っと……?」

 

『…………』

 

 

 ハジメ達全員が『いつの間にかそこに居た』少女に向けて当たり前の警戒を示し、ユエ達が臨戦態勢に入る中、その少女はわざとらしく今気付いたとばかりに此方を睨むハジメ達を見ると、ニコリと微笑む。

 

 

「あ、ごめんなさい。

ちょっと美味しそうな匂いに釣られてしまったもので……」

 

「だ、誰ですか貴女は? まさか王国からの追っ手では……」

 

 

 気配を悟られずここまでの接近を許すという時点でこの少女がただものではないと理解させられているシアが臨戦態勢を取りながら少女に尋ねる。

 

 

 

「王国? 追っ手? なんの事でしょうか? 私にはサッパリ……というかここが何処なのかすらイマイチわからないというか―――あれ?」

 

 

 そんなシアの質問に対して少女は違和感を感じる台詞を口にしたかと思えば、シア、ユエ、ミュウの三人をまじまじと見つめ始めた。

 

 

「な、なんですか?」

 

「………」

 

「ぱ、パパをいじめないで……!」

 

 

 その心の奥底まで覗かれるような眼に居心地の悪さを感じた三人はソワソワとしていると、少女はふむと独り言のように呟く。

 

 

「おかしいな、そういえば殆どの生物は私か先輩のせいでとっくに絶滅している筈なのに、知らない種族が……」

 

「ぜ、絶滅?」

 

 

 嫌な単語を聞いたハジメが反応をするも、少女はぶつぶつと自分の思考に浸りながら特にユエをじーっと見つめる。

 

 

「うーん……人以外の気配も多いし。

となるとここは全くの別世界? まずったな、私を起こしたやかましいボケ神にイラついてつい『シャクシャク』してしまったけど、拷問してでももう少し話を聞き出しておくべきだったかなぁ?」

 

『…………』

 

 

 この時点でこの少女から『ヤバさ』を感じたハジメ達は、この少女から逃げようとアイコンタクトをするが……。

 

 

「まあ良いかぁ……ちょうど良い情報源が目の前に転がってるし?」

 

『!?』

 

 

 その判断自体が既に遅かったと気付いたのは、少女の金色の瞳の瞳孔が狩人のように縦に開き、『イッセー』と『ヴァーリ』に近い圧力を真正面から受けてしまった瞬間だった。

 

 

「ひっ!?」

 

「な、な……!?」

 

「う、嘘だろ……!? こ、こいつ……!」

 

 

 その放たれた圧力により森の中の生きとし生きる生物達が悲鳴のように泣き叫びながら散り散りに逃げ出す。

 

 

 

「へぇ? クソ不味かったけど神を自称するだけはあるみたい。

どうやら私は肉体的な意味で復活したらしい……ふふふ」

 

『………』

 

 

 ヴァーリよりも、そしてイッセーすら超えると錯覚する絶対の圧力を前に、それまで何があってもイッセーに悪態を付くだけのメンタルを持っていたハジメですら一瞬で目の前の少女との格の差をわからされてしまい、怯えるように震えて動くこともできない。

 

 

(む、無理だ。逃げる? こ、こんな化け物が逃げるオレ達を逃がすのか? あ、ありえない! こ、殺される……み、皆殺される……!)

 

 

 少しでもこの少女の意に沿わぬ真似をしたその瞬間、自分達は間違いなく殺される。

 恐怖も、怒りも、憎悪も――全てはこの少女の前では等しく無価値なのだとハジメは嫌でもわかってしまう。

 

 

「と、いっても今の私は先輩た最後に愛し合った(コロシアッタ)時よりは弱くなってるみたいだけど……それはそれで良いかな。

まずは――」

 

 

 何かを確かめる様に自身の小柄な身体に触れながら圧力を放っていた少女がその圧力を霧散させると、その金色の瞳が震えて動けないハジメ達に向けられる。

 

 

「あ、ごめんなさい。久々だからちょっとテンションが上がっちゃいましてね? 別にアナタ達を怖がらせるつもりなんてありませんから心配しないで良いですよ?」

 

『……』

 

 

 等と人の良さそうな笑みを浮かべる少女だが、ハジメ達からすればなんの説得力も感じられない。

 しかしここで余計な真似をすればこの少女に何をされるかわからない。

 

 

「ちょっとした質問をいくつかするので、答えられるものがあれば教えてほしいのですが……」

 

「わ、わかっ……た……!」

 

『……………!』

 

 

 だからハジメ達はただひたすら、首がちぎれるんじゃなかろうかという勢いで首を縦に振る。

 そんなハジメ達の態度に気を良くしたのか、少女は微笑みながらその場に腰かけるとアナタ達もここに座ってくださいと手を差し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論だけを言えば、謎の少女は質問に答える度に何故か機嫌が良くなった。

 特にハジメが召喚者という立ち位置で異世界からこの世界にやってきたという話を聞いた時や……そのハジメが現在何をしているのか――いや、そうならざるを得なかったという話を聞いた時が。

 

 

「へぇ? その人の取り巻きさんに力を壊されたと…? 確かに今のアナタをよーく見てみるとこの中の誰よりも弱くなっていますが……」

 

「ああ……そいつ曰くオレの持っていた力を根本から壊したらしい。

お陰でオレはこれまでの力の全てを……!」

 

「それはそれは……とんだ災難でしたね?」

 

 

 

 ハジメ自身も、目の前の少女にここまで話している自分に内心驚いてしまっている。

 何故なら話せば話す度、少女の瞳がキラキラと輝き……そして可愛らしく微笑むのだから。

 

 

 

「つまり、アナタと同じ世界からこの世界にやって来た男に何としてでも『返し』をしたいけど、今の自分ではそれも出来ない。

そしてアナタ達は現在逃亡中と……」

 

「ああ……」

 

 

 

 

「な、なんだか段々ムカムカして来るのですが……」

 

「今会った人にハジメ君があんなに素直に話すんだろうね……?」

 

「私たちにはあんな事までは言わなかったのに……」

 

「きっと南雲君は私たちの前では弱音を言わないと頑張ってるんですよ」

 

「パパ……」

 

 

 そんなハジメの素直さを引き出しているように見える、あの謎の少女にモヤモヤとした感覚を感じるユエ達に気付くことなく、ハジメは不思議なことに目の前の少女に対して己の抱えていたコンプレックスを含めた全てをさらけ出す。

 

 

「大体はわかりました。

ありがとうございます、それとスープご馳走さまでした」

 

「あ、ああ……けどお前行く宛なんてあるのか?」

 

「さぁ? 取り敢えず適当に落ち着けそうな場所でも探しにあちこちフラフラしてみようかなと思いますけど……」

 

 

 そんな少女から解放されたハジメは命拾いをしたと喜ぶべきだった筈なのに、何故かこの少女とこのまま別れるのは惜しいと感じてしまう。

 恐らくこの少女は自分や香織とは別の理由でこの世界に来てしまったので当たり前だが行く宛はない。

 

 だからこそハジメはつい思わず言ってしまった。

 

 

「…………オレ達と来るか?」

 

「は?」

 

『なっ!?』

 

 

 ユエ達とは違い、今まで流れで仲間にしてきた時とは違い、ハジメの方から仲間として誘うその言葉に少女は目を丸くし、ヒロイン達は悔しさ混じりの驚愕の声を出すと共に一斉にハジメに詰め寄る。

 

 

「どういうことハジメ?」

 

「そ、そうだよ。今会った子に……」

 

「さ、さっきのあの圧力からして危ないですよ!?」

 

 

 ジト目混じりに詰め寄られたハジメは、現在力を失っていることもあって圧される。

 

 

「だ、だからこそだ。

アイツを仲間にしたら兵藤やあの白龍皇とかいう男にも対抗できる気がするんだ!」

 

「だ、だからってまた女の子を……!」

 

「ハジメは何時から浮気性になったの……?」

 

「う、浮気も何もそもそも――」

 

「あのー……何かお取り込みのようですし、私はこの辺で……」

 

「ま、待て待て待て! 頼む! オレ達の仲間になってくれ! オレはお前が必要なんだ!」

 

『ハジメ!? (さん!!?)』

 

 

 それでもこのままこの少女と別れたら自分自身の未来も終わるかもしれないと判断したハジメは、大騒ぎするヒロイン達を半ば無視する形で少女に仲間になってくれと迫る。

 

 

(こんな連中を今更シャクシャクした所で何にもならないからと思って逃がしてあげようと思ったけど、こんな事を言われるとは……。

しかしこの白髪男の言うことが本当なら、この世界にはヴァーリさんと―――ふふ、居るんだよねイッセー先輩が?)

 

 

 そんなハジメを内心そこら辺の虫以下としか見なしていなかった少女は、先程の話の最中から出てきた名前に対して決して表には出さぬ歓喜を抱いていた。

 

 

「落ち着けお前ら! 冷静になれ! 絶対こいつは強い! それこそオレ達より遥かにな! さっきの圧力でわかるだろう!?」

 

「それとこれとは別ですよ!」

 

「そうだよ! ちょ、ちょっと胸は足りないけどこんな可愛い女の子を……!」

 

(………………。おい、そこのクサレ黒髪女。

テメー……シャクシャクされてーのかボケが)

 

 

 

 少女をナチュラルにディスる香織に一瞬本気で殺したくなった少女だが、一応今は抑える。

 結局そこから二時間は揉めに揉めた後、一旦は行動を共にすることになったわけで……。

 

 

「改めて、南雲ハジメだ」

 

「…………ユエ。

ハジメに変な事したら許さないから」

 

「シアです。

ユエさんに同じくです……」

 

「白崎香織……。

二人に同じく」

 

「えと、畑山愛子です」

 

「ミュウはミュウだよ……! よろしくねお姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「塔城小猫です。 本当の名前は白音ですが、この名前は私が呼ぶことを許した人以外に呼ぶことは許さない―というのが一族の決まりですので、小猫とでも呼んでください(大嘘)」

 

 

 ハジメは知らぬとはいえ、イッセーですら二度と戦いたくないと思う存在を引き込んでしまうのだった。

 

 

 

(………………取り敢えず先輩にはまだ気付かれてないみたいだし、サプライズ登場で驚かせてあげようかな? それまで精々このバカ共を利用させて貰おっと……ふふふ♪ はぁ、その時が待ち遠しいなぁイッセー先輩♪)

 

 

 

 

 

 

「あぁ、一応親睦の証じゃあありませんが、南雲さんでしたっけ? アナタに埋め込まれたスキルをなんとかしてあげますよ」

 

「は? まさかそんな――」

 

 

 

 

 

 

 シャクッ!!

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

「ふむ……なるほど、へぇ? やっぱりスキルでしたねこれ。

それに――ふーん、どうやらこのスキルの持ち主とは『お話』しないといけないかなァ?」

 

 

 

 

 

 

 

「も、戻った……! 戻った! お、オレの力が!」

 

「う、嘘……」

 

「ほ、本当にハジメさんの力が戻ってます……」

 

「す、すごい……」

 

「けど一体今何を……?」

 

 

 

 

 

「あ、ありがとう塔城! いや小猫! ははっ! 本当にありがとう! お前はオレの恩人だ! ははははっ!!」

 

『あーっ!!!?』

 

「……。わかりましたから離れて貰えません? いきなり異性に抱き付くのはどうかと思いますけど……」

 

「へ? あ、わわっ! 悪い! すまん!」

 

「いえ……。(反射的に殺しそうになってしまった。

チッ、私も勘が鈍ってるな――先輩以外には許さなかったのに、こんなカス同然の雄ごときに――まぁ良いさ。精々私の為に踊って貰うとしようか……」

 

 

 

 史上最悪の生物へと到達した白い猫を。

 

 

 

「この世界的に表すのなら、私は所謂猫人族でしょうかね」

 

「わっ!? 猫耳と尻尾が……」

 

「…………………………………」

 

「おっと、触るのはやめてくださいね。

脊髄反射的にその手を切り落としてしまうので……」

 

「!? お、おう……わ、わかった」

 

「ハジメ君?」

 

「な、なんでもねぇ……。(く、さ、さっき思わず小猫に抱き付いた時……信じられないくらい安心しちまった。

それになんかスゲー良い匂いも……)」

 

 

 

 どこまで行ってもイッセーだけしか見えない白い猫を……。

 

 

 




補足。

………はい、三竦みが完成。

これで一気に対等になりましたね!


魔人族側にヴァーリきゅんと黒歌姉さん。

人間側にイッセーチーム。


そしてその他であるハジメ達に白音たん。



…………エヒトは最早どうにもなりません。

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