色々なIF集   作:超人類DX

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続き。
なんかぶっ飛びます


伝説

 

 

 この世を生きる全ての生物達にとって異常と思える事こそ、私達にとっては正常。

 

 うーん、我ながら随分と斜に構えた言い方をしてしまっているというか、客観的に見ると価値観が変わってしまっているというか。

 

 でもそう例える他が無いのもまた事実なのよね……。

 今でもつい昨日の事のように思い出せるわ。

 

 何も知らなかった頃――所謂まだ普通だったあの時に初めて彼から見せてもらった――――――彼だけが見えている世界を。

 

 

『この世界に召喚だったっけか? 人間だが、どうにも怪しくて殴り殺してやりたくなる連中によってこの世界に勝手に呼びつけられた際に、お前達は各々――あー、天職だっけ? 適正となる力を持っただろう? あれ等の力に関しては一度全部忘れろ。

今からお前達に叩き込むのは―――それとは別のモノだからな』

 

 

 私達がこの世界に召喚された事で獲た力とは別のナニか。

 うまく説明は未だにできないけど、イッセー君曰く、『大雑把に言ってしまえば各々の人格に関係するスキル』。

 

 中村さんと谷口さんにそう説明しながら、その力の引き出し方を教えている。

 

 

『まずは自分を知るというのはわかったけどさ……』

 

『この前からずーっとシズシズが後を尾けてくるんだけど……』

 

『放っておけ。

俺に殴られた事にムカついて殺してやりたいとか、大体そんな所だろうからな』

 

『えぇ……? そうだったとしたら余計危ないんじゃあ……』

 

『なあ恵里……。

お前とはなんだかんだガキの頃からの付き合いだろう? 俺が今更あんな女一人程度に殺される奴に見えるか?』

 

『……。思えないかな。

イッセーってお義父さんのお仕事の手伝いとかで、反社会的な組織を単独で襲撃して無傷で壊滅させてたし……。

なんなら拳銃で撃たれても平気だった』

 

『だろ? 俺も色々あった結果俺という『癌』というか『害悪』が出来上がっちまったんだ。

……寧ろ殺れるもんなら殺ってみろってな』

 

 

 実を言うと、私が直接彼から戦闘技術を叩き込まれたのは中村さんと谷口さんより後の事だ。

 それは、彼自身が私になんの興味も持たなかったからというのもあるのでしょう。

 

 だから私は彼が二人に彼流の戦いかたを教えている場面を常に見張り、彼の言葉をそのまま自分なりに実践し、自分なりに鍛えていたの。

 

 先ずは自分を知り、そして自分を受け入れる。

 

 正直、全てにおいてのスタートラインとなるこの鍛練に私は一番苦労したわ。

 

 中村さんや谷口さんは元々、彼に近しく、そして長年彼を見てきた事である程度彼の生き方や手段を受け入れたからすんなりそのスタートラインに立てたけど、私は違う。

 

 思えば私は彼とは偶々学校のクラスメートになったというだけでしかない。

 だから私は彼のことを、なんとなく不気味で怖いという事以外は何も知らなかった。 

 

 なにより、本当の自分自身を知った当初の私は、とてもではないけど受け入れる事が出来なかった。

 そんな自分を永久に封じ込め、今まで通りの『八重樫雫』として、香織の恋を応援するだけの女として生きる方が、この先のことを考えたらひょっとしなくても幸せなのかもしれないと悩んだ。

 

 けれど、私が悩んでいる間も中村さんと谷口さんは本当の自分自身をあっさりと受け入れ、誰にも理解されない彼の立つ領域へと進み、そして追い付こうと同じ道を歩んでいく。

 ただの八重樫雫である私を、虫けら以下としか見なさず、その他全ての存在と平等に同じと見下ろすあの領域に。

 

 元々あの二人は常に彼の傍に居て、学校でも、どこでもずっと一緒に居た。

 正確には彼が行こうとするところに二人が子犬のようについて行こうとしているというのが正しいか。

 

 今ここで引き返せば、私は確かにこれまで通りの八重樫雫として生きていけるだろう。

 もしこの世界から無事に生還できたら、それなりの幸福の人生を歩めるのかもしれない。

 

 でも、それは果たして私が本当に望んでいる事なのだろうか?

 オルクスの大迷宮で邪魔だから退けと言って、私の目の前で魔物達を一瞬で消し飛ばしたあの強さを見なかった事にして忘れられるのか?

 

 

 答えは無理だった。

 知ってしまった。中村さんと谷口さんでも踏み込む事が可能だと知ってしまった。

 

 何より、その他全てではなく、私を――八重樫雫を見て貰いたかった。

 

 だから私は受け入れた。

 

 誰よりも生き汚く。

 誰よりも強欲で。

 誰よりも我が儘で。

 

 自分で思っていたよりも単純な私自身を。

 

 こうして私は中村さんと谷口さんに少し遅れる形となったものの、彼の――兵藤一誠の君臨する領域へと続く『扉』を開け放ち…………踏み込んだ。

 

 

「私は相手の力を『痛み』として受ける事で学習して強くなる。

そして受けたダメージは私自身の『弱点』としてすぐに適応し、再生するわ。

アナタ達が死に物狂いで私を倒した所で、私は何度でも蘇るのよ―――更に、強くなってね」

 

 

 痛みを力にする。

 痛みを糧とする。

 そして、痛みと共に進化をする。

 

 それが私が知った『本当の私』。

 

 

「つまり、アナタは永久に私を殺せない……」

 

 

 ふふ、我ながら狂ってるわ。

 自殺にも等しい真似をすれば強くなれる。

 

 中村さんの言うとおり、確かにドMだわ。

 

 けれど勘違いはしないで貰いたいわ。

 強くなるために相手の力をわざと受けるなんて、基本的にしないし、痛いものは痛いのよ。

 

 

「ほら、私がこの竜の相手になって時間を稼ぐわ。

南雲君達はそこの捜索人を安全な場所まで連れていってあげなさい」

 

 

 第一、並の痛み程度では強くなれるのもたかが知れているもの。

 

 

【ガァァァァッ!!】

 

「彼から受けた『痛み』が私を更に強くさせ、そして怒りとなる」

 

 

 彼から与えられる痛みでなければ……。

 唯一、中村さんでも谷口さんでもない――一瞬だけでも私だけに意識を向けた彼からの痛みこそが、私を強くしてくれる。

 

 

「今の私の怒りの力がどれ程のものなのか―――

 

 

 

 

 

 

―――――――――その身に刻み込みこみなさい!

 

 

 何が『まとも』だの、どれが『狂ってる』かだなんてどうでも良いのよ。

 誰かの決めた『正しさ』にも興味はないわ。

 

 私の生き方は、私自身が決める……!

 

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折の後、ハジメ達は当初の依頼内容である捜索人を発見することが出来た。

 しかしその捜索人を狙った竜との戦闘を余儀なくされ、ユエ、シアの二人と共に苦戦を強いられた。

 

 どうやら何かが原因で暴走し、凶暴化していると思われる竜にどうすべきかとダメージを受けながら考えるハジメだが、そこに来て参戦したのは、愛子の護衛として同行をしていた雫だった。

 

『自分が相手をしている間に、そこの捜索人を安全な場所に連れていきなさい』

 

 そう言い、まるで一人で竜と戦おうとする雫に当たり前だが危険だと難色を示すハジメだが、クスクスとそんなハジメ達に向かって笑う雫は――

 

 

「大丈夫よ。

中村さんや谷口さんとの修行の方がよっぽど死を覚悟させられるけど、この竜を見てもそれを全く感じないわ」

 

 

 問題ない。

 毎日死にかけてばかりな修行に比べたら、こんなものはジョギングでしかないと、右手に魔力を纏わせ、刃のような形に生成すると、竜の口から高密度のブレス弾を両断する。

 

 

「さぁ早く!」

 

「……くっ!」

 

 

 

 鋭い爪、岩を砕く鞭のようにしなる尾の一撃の悉くを、舞うように避けながら魔力の刃で切り刻んでいく雫に言われるがままに、ハジメはどこか悔しそうに歯を食い縛りながら、驚き、戸惑う捜索人とついでに愛子を安全な場所へと連れていこうと走る。

 

 

【グ……! グォォォッ!!!】

 

「遅い。遅すぎるわ。

そんな力任せに暴れたところで、私には届かないわ。

さてと、南雲くんがイッセーくんに対してあんな感情を持っている以上、少しばかりお手伝いはしておかないとね……。

だからもう少し付き合って頂戴――アナタを倒す役目は私ではなくて南雲くん達に譲りたいしね……!」

 

 

 残った雫は、多少ダメージを与える程度に留めながら、ハジメ達が戻ってくるまでの時間を稼ぐ。

 ハジメがイッセーに対してコンプレックスを肥大化させ続けている以上、どこかでガス抜きをさせなければ自壊してしまう。

 

 それに加えてハジメ達にはもう少し強くなって貰った方がこちらとしても色々と都合が良い。

 

 

「私がもっとイッセーくんに近づける為に……ね」

 

 

 一人ほくそ笑みながら、竜の全身を優しく斬り刻んでいく雫の顔は恐ろしいほど美しく、それでいて狂っていた。

 

 

「それに、強くなって貰わないと香織の事を託せないもの……

ふふふ」

 

 

 こうして暴れる竜を利用する形で暫く時間を稼いでいた雫は、戻ってきたハジメ達にバトンタッチをすると、意外な方法で竜を黙らせていくその姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 明らかに遊んでいた雫に再び押し付けられる形で、暴走していた竜との戦いを再開させられたハジメ達だったが、なんとか竜を正気に戻す事に成功する。

 

 ユエ曰く、竜人族とのことらしい竜は確かに人の姿へと変わる事が――いや、戻る事が出来るらしく、ちょっと古風な喋り方をする竜人族の名はティオ・クラルスというらしい。

 

 

「言い訳にしかならぬだろうが、お主達を襲ったのは本意ではない。

黒いフードを被った男に強制的に操られてしまったじゃ……。

奴の計画の邪魔をするものを抹殺するように……と」

 

 

 本人曰く、意識を強制的に操られてしまっていたとの事らしく、今は正気に戻ったと膝を付きながら戦意はもうないアピールをしながら、操られた経緯を話している。

 

 

「その男は闇魔法を扱っていての。

どうやら天才的な才能の持ち主だったらしくて、抗うことが出来なかった……」

 

「闇魔法……?」

 

「…………」

 

 

 何故か避難させた筈の捜索人と共に勝手に戻ってきていた愛子が、ティオの話す闇魔法の使い手という言葉に覚えがあるようなのか、顔色を青くしながら黙って聞いていた雫を見る。

 それに対して雫は表情を変える事は無かったが、愛子と同じことを思っていると、ユエが何故滅多に人前にでない筈の竜人族であるティオが人里近くに居たのかを問う。

 

 

「数ヵ月前、何者かがこの世界にやって来たと感知した者がおってな。

何も知らずに放置するという訳にはいかぬので、調査の為にやって来たのじゃ―――もっとも、それはもののついでなのじゃが」

 

「ついで……?」

 

 

 理由を語るティオ。

 しかし彼女はあくまで今語った話は本当ではあるが、彼女自身にも目的があると言う。

 

 

「我等――竜の種族にとって救世主(エイユウ)がこの世界に現れたのじゃ。

妾はその救世主―――赤き龍の帝王を探しておるのじゃ」

 

「赤き龍の帝王……?」

 

「聞いたことがない……」

 

「………………………………………………」

 

 

 竜の種族にとっては英雄と崇めている存在がこの世界に現れた………と聞いたハジメ達だが、当たり前だがユエを含めてそんな存在の事なんて聞いたことすら無い。

 

 

「お主達が知らなくて当然じゃ。

何せ妾も直接会った事は無いのだからな。

我等一族の間でも伝説として語られているのじゃ」

 

「会ったことがないだと? それなのにこの世界にその龍のなんたらってのが現れたって何故確信できる?」

 

「うむ、それがここ数ヵ月、これまで感じた事が無い強大な力の波動を感じるようになったのじゃ。

しかも、その力の波動は我等竜族に近いものじゃった」

 

「……………………」

 

 

 胡散臭そうなものでも見るような顔をするハジメ達に、ティオは間違いなくこの世界に居ると力説しているのを、雫だけが少々険しい顔をしながら見ている。

 と言うのも、物凄く覚えがあるからなのだ。

 

 

(赤い龍――ウェルシュドラゴンの事だとしたら、まさか赤き龍の帝王というのは……)

 

 

 そう、イッセーとイッセーに宿るドラゴンの意識の事かもしれないと。

 

 

「ティオさん……だったかしら? その赤き龍の帝王って者に会ったらどうするつもりなのかしら?」

 

 

 だからこそ聞かなければならなかった。

 あの人外嫌いの男の事をここで話しても良いが、話した途端この竜人族は間違いなく会いに行こうとする。

 

 ……そして確実にイッセーはこの女性に対してこう言うだろう。

 

 

『消えてろ虫けらが』

 

 

 バラバラの解体ショーが始まるのは目に見えている。

 何故ならこれまで修行相手と言って何処からか半殺しの状態で拉致して来た人外達は漏れなくイッセーに用無しになれば処理されてきたのだから。

 

 

 

「……。お主、もしや知っておるのか? 赤き龍の帝王を?」

 

「………………」

 

「え、そうなのか八重樫?」

 

 

 さて、どうしたものか。

 どうやら聞き方を間違えたせいで、変に感付かれてしまったらしく、目をキラキラさせながら聞いてくるティオとか言う女性と、興味深そうに此方を見ているハジメ達に困る雫。

 

 

 

「知っていることがあるのならどうか教えて欲しいのじゃ!

妾は絶対に会いたいのじゃ!」

 

「おい、本当に何か知ってるのか?」

 

「…………」

 

 

 いや、多分名前言ったら間違いなく顔色とか変わると思うのだけど……と、特にハジメに対してそう思いつつ雫は取り敢えず答え合わせのつもりでティオに質問をいくつかしてみる。

 

 

「確かに、私はそれらしき人を知っているわ」

 

「な、なんと!? それは真か!? 頼む! どうか妾に――」

 

「その前に! こっちの質問に答えて貰うわ。

もしかしたら違う人なのかもしれないから」

 

「うむ! 妾が知っている範囲でならなんでも答えてやろう!」

 

 

 実に希望に満ち溢れた顔をしているが、もし本人と会ったら間違いなく絶望だろうと思いつつ、雫はティオに質問を開始する。

 

 

 

「その赤き龍の帝王とやらは、どんな姿をしていたかってわかる? もしくは戦い方とか……」

 

「姿はわからぬ。

じゃが、宿主となる人間を器とし、武器として共に戦ったと伝えられていた。

その力は神を越え、あらゆる種族を超越し、龍の神すら屠り、全ての生物の頂点に君臨していたとも聞いておる」

 

「……………………………」

 

「武器? 人間に宿っている……?」

 

 

 とてもキラキラと、まるで憧れてますと言わんばかりの笑顔でペラペラと話すティオに、雫は内心頭を抱えた。

 

 

(宿主=イッセーくんで、多分彼女はドライグの事を言っているわね……。

そう言えば彼はイッセーくんの神器として共生しているって……うわー、ほぼほぼ当たりじゃないの……)

 

 

 少し前、ちょっとだけ機嫌が良かったイッセーが話していた神器という概念と、イッセーに宿る龍の存在。

 当たり前だが、当時の雫はかなり驚いたのだが、そんなリアクションをしていた自分を見て恵里が『ま、ぼくは子供の頃の時点で知ってたし、教えて貰ってたけどね?』と勝ち誇られてイラッとなった記憶しかなかった……。

 

 

 

「本当にそんなヤバそうな奴がこの世界に居るのかよ?」

 

「第一、本当に居たとして、その人をどうするつもりなの?」

 

「うむ、まずは語り合いたい。

そして仲良くなって妾の故郷に招待したい。

あわよくば、故郷に住んで貰えたら最高じゃな!」

 

「……………」

 

「そ、それと妾個人としては独身かどうかはどうしても聞いておきたいのじゃ……」

 

「「「「「「………………」」」」」

 

 

 一瞬、脊髄反射的に魔力の刃で首を撥ね飛ばしたくなる衝動を我慢する雫に気づくことなく、赤い龍への想いをペラペラと語るティオ。

 

 

「ち、ちなみに、その龍の宿主の事はどう思ってるのかしら?」

 

「? 勿論その者も我等にとっては英雄じゃ。

伝説の赤き龍と共に神をも粉砕したのじゃから当然じゃろう?」

 

「ふーん……? つまり、アナタの言い方から察するに、宿主よりも龍の方に憧憬の比率が多いと……?」

 

「う……ま、まあ……。

じゃが、英雄殿からしたら妾なんてそこら辺の木っ端小娘でしかないじゃろうし……」

 

 

 どうやら宿主は確かに尊敬するが、ドライグと比較すれば憧憬的な感情は薄いらしい。

 聞いてもないのに勝手にもじもじし始めるティオを放置しつつ、雫はこの分なら恵里も大丈夫だろうと一先ずなっとくする。

 

 

 

(もし逆だったら中村さんがぷっつんしていたでしょうねー……)

 

 

 何せ、あの恵里という女は、少しでもイッセーに他所の女が近寄ろうものなら裏で消すような女なのだ。

 狂ってる度合いで言えば自分よりも上だと思ってしまうくらい、彼女はイッセーしか見えていない。

 

 もっとも、それ以前にイッセーが人外嫌いである以上、顔を見て話を聞く前に殺しに掛かりそうなものだが……。

 

「さぁ、妾の知っていることは全て話したぞ! 次はお主の番じゃ! さぁ! 教えて貰おうか! さぁ! さぁ!!」

 

「………………………」

 

 

 わくわくした顔で詰め寄ってくるティオに、雫は赤龍帝の存在について――取り敢えず話してしまう事にした。

 

 

「先に言っておくけど、アナタが思っているような人では無いわよ?

確かに私が知っているその人は自分の中に龍を宿していて、その力を扱う事ができるわ。

私も何度か凄く渋くて――何故かダメなおじさんをイメージしてしまう声をしたドラゴンの意識と話をしたことがあるけど、そのドラゴンは自分達のことを赤龍帝と呼んでいるの」

 

「赤……龍帝?」

 

「やっぱり聞いたことない……」

 

「というか、何故シズクさんが知っているのでしょうか?」

 

 

 考えてみたら実物に会って幻滅しようが、そのままバラバラの塵になって湖の魚の餌にされようが、割りとどうでも良いと思った雫は、知り合いの超絶鬼畜男ことイッセーについて話す。

 

 

「なんと! 赤い龍殿のお声は渋いのか!? お、おぉ……妾が子供の頃からイメージした通りじゃ……!」

 

「……………。続けるわよ?

アナタ――というよりはアナタ達の種族は彼等を英雄視しているようだけど、まず彼等はそういう類いの性格ではないわ。

あ、いやドライグは寧ろ龍なのに彼より余程人間らしい―――」

 

「ドライグ!? 赤い龍殿はドライグとお主達は呼んでおるのか!?」

 

「え? え、ええ……」

 

「そ、そうか。

うむ、ドライグ殿かぁ……。いやドライグ様と呼んだ方が……? く、くふふふ♪」

 

「……………」

 

 

 一人でドライグに敬称を付けて呼びながらくねくねし始めるティオに、ハジメ達も若干引いている。

 

 

「……これが私の知っている情報よ。

一応親切心で言ってあげるけど、会うのはお勧めしないわ。

特に宿主とされる者は――かなり癖が強い人だから」

 

「…………おい、まさかとは思うが、八重樫が言ってるその赤龍帝とかいう奴はまさか兵藤の事じゃねーだろうな?」

 

「……。流石にわかるわよね? ええ……正解よ」

 

「む、宿主の名はイッセーというのか。

むー、是非宿主殿にもご挨拶がしたいのぅ……」

 

「おい、ティオとかいったな? オレからも言ってやるが、そいつと会うのはマジでやめておけ。

あの野郎と会ったら最後、お前の中の幻想が一撃で砕けるどころか、下手したら殺されるぞ」

 

「む、なんじゃ二人して。敵意等無い相手をいきなり襲うわけ――」

 

「平気で襲うわよ。そして平気な顔をして簡単に殺すわよ。

宿主――イッセーくんの非人間族を毛嫌いしているし」

 

「そ、そんな……。

それならどうしてドライグ殿はなにもされないのじゃ?」

 

「…………。イッセーくん曰く、ドライグだけは別らしいわ。

生まれた時からの相棒を憎める訳がないってね」

 

「………」

 

「おい待て八重樫。

今生まれた時とか言ったな? それじゃあおかしいだろ。

まるでこの世界に召喚される前からそのドライグとかいうのがあの野郎に宿ってたってなるぞ?」

 

「そう言ってるのよ。

この際だから言うけど、イッセーくんの持っている力の全てはこの世界に召喚される前からの自前よ?」

 

「……………………は?」

 

 

 雫からもたらされた思わぬ事実に、ハジメは若干折れかけたと同時に、元の世界からのあの性格の悪さにもなっとくしてしまう。

 

 

「イッセーくんだけ、この世界に召喚された際の恩恵が一切無いの。

私を含めた他の者達は、この世界の一般人の数十倍の力を持っているけど、イッセーくんは元の世界から一般人の数万倍の力があったって訳」

 

「じゃ、じゃああの魔力以外のステータスが100万というのも……」

 

「自前ね。

というか、南雲君も見たことがあったのね、イッセー君のステータスプレートを」

 

「あ、ああ……偶々な」

 

「……。じゃあ先に言っておくわ。

100万という数値はあくまであの状態での――基本状態での数値よ」

 

「な、なんだと?」

 

「ちょっと本人がギアを上げたら数値は一気に跳ね上がる。

この前確認してみたら、ギアを上げた状態で魔力以外の数値が1000万を越えていたわ。

それでも本人からしたらフルパワーの5%未満らしいけど―――って、あら?」

 

「」

 

「は、ハジメが白くなってる!?」

 

「く、口から魂みたいなものが!?」

 

 

 最悪の事実に、流石のハジメも本気で心が折れそうになってしまったらしく、真っ白な灰になっている。

 

 

「み、貢ぎ物を献上するのはダメかの?」

 

「無理ね。寧ろスイッチが入るわ」

 

「で、では妾が赤龍帝様の奴隷になることを懇願するのは!? 妾的には寧ろそっちの方が――」

 

「開口一番に『じゃあ死ね』でしょうね……」

 

「な、なんとかならぬのか!? お、お主の口ぶりからしてドライグ様と宿主殿とは見知った仲なのじゃろう!?」

 

「私自身、彼からそこら辺に落ちてる石ころ以下としか思われてないもの……」

 

「そ、そんなぁ……! や、やっと赤い龍様に会えると思ったのに……」

 

「もう一度確認するけど、アナタが会いたいのはどちらかと言えばドライグの方なのよね?」

 

「う、うむ。

勿論宿主殿にも敬意は持っているつもりじゃ。

しかし妾はやはり宿敵の白き龍を倒し、数多の龍の頂点へと君臨したとされるドライグ様に幼い頃から……」

 

「……………………。死んでも構わないという覚悟があるのなら、会わせてあげるけど?」

 

「…………………………。それでも良い。

一目でも良い、一瞬だけでも構わない――それでも妾は会いたいのじゃ」

 

 

 そうまででも会いたいと言うティオに、雫はなんとなく自分に似てると思ったのか、会わせてあげることにした。

 

 ちなみに、現在ウルの町に居るイッセーはといえば、町を襲ってきた魔物の大群を恵里と鈴と共に、元気良く皆殺しにしており、そのあまりの残虐性に恐れをなして逃げようとした魔物達をけしかけた清水を半殺しにして捕まえていた。

 

 つまり、大量の魔物の全滅させたばかりで多少イッセー自身の機嫌が良いので、タイミング的にはもしかしたら良いのかもしれない。

 

 

「ど、どう挨拶をした方が良いのかの?」

 

「とにかく敵意は御座いませんというアピールを全力でしなさい。

それでも殺そうと襲いかかってきたら、一応フォローはするわ」

 

「お、おおっ! お主は頼もしいのぅ! そういえばお主の名は?」

 

「雫よ。

よろしくねティオさん?」

 

「うむ、では参ろうかシズクよ! 赤龍帝様のもとへ!!」

 

「……その前に心が絶賛へし折れている南雲君をなんとかしないとね……」

 

 

 まさか、そのティオの声が特大地雷なことを誰も知らずに……。

 

 

 

「ひょ、兵藤! 待て! な、中村を止め――おごぇあ!?」

 

「待つわけないだろ? よくもまあ知りもしないでイッセーの事を散々言ってくれたね清水? え? イッセーが何時あのメス犬を手込めにしたって?」

 

「だ、だってそう見え―――ごぼぇぁっ!?」

 

「おい恵里、それ以上はそいつが死ぬぞ……?」

 

「そうだよエリリン―――と、言いたいけど、実は鈴もムカついてるんだよねー?」

 

「た、谷口まで――ひぃっ!?」

 

「大丈夫だよイッセー。

要はこいつを殺さなければ良いんでしょう? ふふ、ぼくはちゃんとイッセーの言うことを聞く良い子だよ?」

 

 

 恵里と鈴の地雷を踏んでしまったらしい清水少年が、一応殺すのだけは止めているイッセーの言うとおり、殺さない程度にいたぶられているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い龍は戸惑った。

 こちら側の領域に踏み込んできた骨のある小娘が連れてきた、竜人族の少女に。

 

 というか声に。

 

 

 

「は、は、はははは、初めましてでおじゃる! 妾は竜人族のティオ・クラルスでございまする! アナタ様が赤い龍の帝王ことドライグ様でお間違いないでござりましゅるですますか!?」

 

 

 イッセーが根から変質した元凶の雌の悪魔にあまりにも似た声をした竜族の小娘が、滅茶苦茶な喋り方で、自分に対してこれでもかと平伏している。

 

 

「…………」

 

「て、敵意なんてこれっぽっちもござりませぬ! 妾は――いいえ私はアナタ様に幼き頃から憧れを持っておりました! 異界の伝説にて英雄であらせられるアナタ様を!」

 

「…………………………………おい、八重樫」

 

「はぅ!?!? い、イッセーくん? い、いい、今私の事はじめて名前で……!?」

 

「…………そんな事はどうでも良いだろう。

それよりこれはなんだ? この今すぐにでも喉を潰してやりたくなる声してるバカそうなメスの竜は? どこから持ってきた?」

 

 

 

 そのあまりの変態的な態度のせいか、本来なら自分の人生のある意味岐路となった赤髪の悪魔の声にそっくりすぎて即殺しているであろうイッセーですら、恵里や鈴と共に引き気味に雫に説明を求めている。

 ちなみに、何故か真っ白な灰になっているハジメやこっちを見て怯えているユエやシアの事は視界にすら入っていないし、そもそもこのティオの態度が色々と濃すぎてしまって意識がそれに向けられてしまう。

 

 

「はぁはぁ……! ひ、卑怯よ!? きゅ、急に名字とはいえ名前で呼ぶなんて! くぅ……! か、身体が熱いわ! どうしてくれるのよ!?」

 

「……………」

 

「自分の変態さを一々カミングアウトしなくて良いから、さっさとこの竜人族の女について説明しろっての。

イッセーですら引いてるんだから」

 

「そうそう。

なんでドラちゃんの事を知ってるのさ? このおっぱいさんは?」

 

 

 説明を求めれば、雫まで薄気味悪くはぁはぁするというカオスっぷりはさておき、雫は初な中学生みたいな態度でティオの事を説明する。

 

 

『つまり、オレとイッセーの所業が他所の――というかこの世界では伝説として語られているのか』

 

「しかも随分と脚色されまくってな……」

 

「そうみたいなのよ……。

そ、それでこのティオさんはどうしても赤い龍――つまりドライグと会ってお話がしたいと……」

 

「そ、そうなのですじゃ!!!」

 

『……。何故オレ?』

 

「…………」

 

 

 何だか段々めんどくさくなってしまったイッセーは、実はとっくの昔からドライグの神器としての枷から抜け出させていたので、割りとコンタクトレンズ感覚で分離できるようになっていたりするので、殺すかどうかを後にして、相手をさせることにした。

 

 

「腹減ったから飯食ってくるわ。

後は頼むわドライグ」

 

【おい!?】

 

「こ、これがドライグ様のお姿……! な、なんと雄々しく、なんて美しいのじゃ……」

 

【なっ!? おい小娘! まとわり付くんじゃあない!】

 

【はぁはぁ……! これがドライグ様の匂い……!】

 

 

 赤い龍の姿であるドライグに、自分も竜化してまとわりつくティオ。

 

 

「チッ、おい小娘。

何のつもりかは知らんが……」

 

「あぁ……人型のドライグ様も妾が思っていた通りの渋さと男前さなのじゃ……」

 

「だからオレの質問に答えろ!! 貴様の目的はなん――」

 

「妾をドライグ様のお側に置いてくだされ! 妾をドライグ様のものにしてくだされ! というか結婚してくだされ!!」

 

「はぁ!?」

 

 

 永いこと生きたが、まさか小娘同然のメスの竜に求婚されるとは思わなかった赤髪の30半ばの青年姿となっているドライグはますます困惑した。

 

 

「い、イッセー! 早くオレをお前の中の戻せ! この小娘、頭がおかしいぞ!?」

 

「あぁ! 行かないでくだされ旦那様! 妾は離れとうございません!」

 

「ええぃ鬱陶しい! 脚にしがみつくんじゃあない! ほらイッセー! 早く!」

 

「………………………………………」

 

「流石に困ってるわね……?」

 

「ドラちゃんも困ってるし……」

 

「なんだろ、小さいときのぼくみたいな人だね、あの人…」

 

 

 

 赤い龍、大分年下の竜の少女に求婚されてしまうの巻―――始まらない。




補足

なーんでか、どのシリーズも基本立ち位置が優遇気味なティオさんなのだった。


その声でデストロイしようとしたけど、ドライグに求婚しまくってるせいで微妙に躊躇うイッセー。

理由は、自分もまたドライグが大好きすぎるので、ドライグ本人に好意を持つ者とは初めて出会った事で、微妙に迷っている。


壁がデカすぎて若干心がまた折れかけたハジメきゅんなのだった。

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