色々なIF集   作:超人類DX

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続きです。

……うん。


傲慢とコンプレックス

 

 

 イッセーは基本的に人の名前と顔を殆ど記憶しようとしない。

 

 ああいう性格だからとか、まあ色々理由はあるのだろうけどもイッセーはとにかく覚えようとはしない。

 

 

「南雲君が生きていたのは朗報ですが、やはり清水君の事も気がかりです」

 

 

 そんなイッセーだから、何でか知らないけど見た目とかしゃべり方とかがガラリと変わってしまっていた南雲が生きていたとしても、多分元の南雲のことすら忘れているイッセーにしてみれば、生きてようが死んでいようがどうでも良いだろうし、更に言えばこの先生の仕事の護衛の為に同行する者の一人である、清水とかいう暗そうな男子の事すらもどうでも良い。

 

 

「今日も可能な限り町で聞き込みとかをしてみましたが、やはり清水君の目撃情報はありませんでした。

その事から推測するに、もしかしたら町の外に出た可能性があるのかと――その理由はわかりませんけど」

 

「そうですか……。ありがとうございます八重樫さん」

 

 

 イッセーが凄い強いと解った途端、急にすりより始めてきたウザい女こと八重樫雫と、見た目が完全に子供な畑山愛子先生の二人が、結局最後までイッセーにメンチを切ってた南雲達が別の宿屋へと行くのを見送ってから、清水についての話し合いをしているのを、ぼくとイッセーと鈴は事実に他人事のような気分で座って聞いている。

 

 正直、イッセーじゃないけど、ぼくからしても清水がどこかに消えた事に関してはかなりどうでも良いと思ってるんだよね。

 だってアイツ、さっきの南雲みたいに常にイッセーに向かってメンチ切ってたのが丸解りだったし。

 

 そんなのがどこで野垂れ死んでしまおうが……ねぇ?

 

 

「あのー……兵藤君は何か意見とかありますか? やはり同じ男子ですし、清水君がどうしているのかという予想等あれば………」

 

「……」

 

「え、あの、兵藤君……?」

 

 

 

 それにしてもこの先生も懲りないね。

 元々担任ではないにせよ、ある程度イッセーが元の世界の頃からどんな性格しているのかぐらいは知ってると思ってたけど、更正だかなんだか狙ってるのか知らないけど、イッセーが清水の行動の予測なんてするわけないじゃん。

 

 もっとも、多分それは建前で、誰からも浮いてばかりなイッセーを何とか人の輪に加えてやりたいとかいう余計なお節介でそうしてるのだろうけどさぁ……。

 

 

 

「……………………zzz」

 

「イッセーなら寝ちゃってますけど?」

 

「………」

 

 

 他人でしかない貴女程度じゃあイッセーをどうこう出来る訳が無いんだよねぇ?

 先生が無反応なイッセーに首を傾げているので、隣に居たぼくが寝ている事を教えると、悲しげに肩を落とす訳だけど……まだわからないのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予期せぬ再会だったにしても、南雲ハジメはつい最近までは鳴りを潜めていたモヤモヤとした感情に苛立ちながら、夜の町を歩いていた。

 

 

「…………」

 

 

 結局イッセーは自分には一瞥もくれなかった。

 なんのリアクションもしていなかった。

 それはつまり、あの男にとって自分の生死なんてどちらでも良くて、また強くなって生還していたのだとしても無価値で無意味なのだろう。

 

 

「………クソっ」

 

 

 オルクスの下層へと堕ち、生き残った自分はもう以前までの自分とは違うのだ。

 

 理不尽に抗える力を得た。

 

 悪意をはね除けられる意思を持った。

 

 しかしそれでも、イッセーという男から見た自分は数多く地を這い回る一匹の蟻でしかないのだ。

 

 

「オレの限界ステータスは現状1万を越えた……」

 

 

 ここまで死ぬ思いで到達した自身の力を数値として示す自身のプレートを見ながらハジメは歯噛みする。

 全ステータスが1万を越えた所で、あの時盗み見たイッセーのステータスは0である魔力以外は基本で100万。

 

 つまり最低でも今のハジメでも百倍の開きがあるのだ。

 

 

「あの100万という数値の横に、何か細かい文字で書かれていた……」

 

 

 それに加えて、ステータス数値の横に小さく刻まれていた文字。

 そこまでは当時のハジメでは見えなかったにせよ、まだ隠し球のようなものがあると考えても良い。

 

 

「……見下しやがって」

 

 

 考えれば考えてしまうほど、負の感情がふつふつと涌き出てしまうハジメは、このままイッセーの事を考えるだけでイライラして仕方ないと頭を振って考えるのをやめようとすると、気を取り直してとある目的の為に、気配を事前に探って探し当てていたとある人物を訪ね事にした。

 

 その訪ね人は教師であった畑山愛子であり、気配を探ったことで愛子がいるであろうと建物の2階部屋の窓を見つけたハジメは壁を簡単によじ登り、椅子に座って何やら物思いに耽っていた愛子を発見する。

 

 

「な、南雲く――むぐっ!?」

 

 

 当然窓から現れたハジメに驚く愛子だが、咄嗟にハジメはその口を指で塞ぐ。

 

 

「大声は出すな。

他の連中――特に兵藤に気付かれたくはない」

 

 

 その言葉に愛子は一先ずこくこくとうなずく。

 

 

「兵藤君に気づかれても、多分無視すると思いますし、恐らく今は中村さん達と外に出ている筈ですから大丈夫ですよ」

 

「? そうなのか? いったいどこに……」

 

「修行のようものだと言っていましたが……それよりこんな所までどうやって……」

 

「……オレは錬成師だぞ。壁を登るくらいはわけない」

 

 言われてみればイッセーに気づかれた処で、イッセーはガン無視するだろう。

 例え自分が愛子を暗殺する刺客だったとしても、イッセーは助けようともしない。

 

 

「先生には言っておく事がある」

 

「え?」

 

 

 それはそれとして、今は先ず先生だった愛子にだけはオルクスの迷宮やライセン大迷宮を制覇することで得られたこの世界についての知識を教えようと、ハジメは語り始めるのだった。

 

 ちなみに、本来なら教会側から護衛として、とある男性が派遣される筈であり、その男は愛子をしょっちゅう口説こうとする困った男なのだが、そんな男は存在しない。

 

 何故なら派遣されたその日の内に、案の定イッセーの性格の問題性と衝突し………そして行方不明になったのだから。

 

 とにかくそれを知らないハジメは愛子にこの世界が神のゲームの盤のような世界であることを教える。

 

 当然話を聞いた愛子は驚くも、疑問を口にする。

 

 

「そ、それが本当ならせめて兵藤君達には教えておいた方が良いのでは……?」

 

「………」

 

「その、彼は少し気難しい所は多いですけど、間違いなく南雲くんの力になれる――」

 

「アイツに……あの常に誰かを見下してなきゃ気が済まなそうな奴に頭を下げろとアンタは言うのか………?」

 

「な、南雲くん?」

 

 

 事実がどうであろうとも、元の世界に帰る方法がかなり複雑だったとするなら、性格云々はさておきこの事実をイッセー達にも教えておくべきではないかという愛子の提案に、これまで冷静な態度だったハジメの表情に僅かな怒気が見え始める。

 

 

「そ、そこまでしろとはいいませんよ!? た、ただ今南雲くんがお話しした事を兵藤君達にも教えておいた方が良いのではって……」

 

「仮に奴が知ったとしたら、奴は先生や他の連中の事なんてまるで気にも止めず、中村と谷口だけを連れてさっさとテメー等だけで帰ろうとするかもしれない」

 

「そ、それは……」

 

 

 ハジメの嫌に感情的な言葉を否定したかった愛子だが、途中で言葉を詰まらせてしまう。

 何故なら、完全に否定できないどころか、あのイッセーの態度を見ていればその可能性しかないのだから。

 

 

「奴は自分にとって『都合の良い人間』にしか手を貸さない。

中村と谷口が良い例だろう? あの二人は元の世界から兵藤のやることを否定すらしないからな」

 

「……………」

 

「だからこそオレは驚いてる。

あの八重樫が何故兵藤とあんな真似をしているのか。

……先生は何か知らないのか? 八重樫になにがあったのかを」

 

「……。わかりません。

兵藤君、中村さん、谷口さんは基本的に他の方々とは完全に別行動をしていましたし、当初八重樫さんは天之河君達といった、所謂勇者組の子達と行動を共にしていた筈ですが……」

 

「ある日突然そうなったと……」

 

「は、はい。

私達がこの町に派遣される事になった時には既に八重樫さんは兵藤くん達に対して親しげに話しかけていましたから……」

 

「……………」

 

 

 自分が堕ちて這い戻る間に変質していた八重樫雫がどのようにしてああなってしまったのか、愛子にもわからないと聞いたハジメは思案する。

 

 イッセーには例の天之河のような周りを良くも悪くも引き込めるだけのカリスマ性は感じられない。

 寧ろそういった連中を蚤のように見下して、自分勝手にするようなタイプだ。

 

 そんな男に、元の世界の頃は自分を苛めたり悪意を向けなかったあの八重樫雫が、根が変質したと感じてしまうだけの変貌を遂げた。

 

 

「……………まさか洗脳のような類か?」

 

 

 ある程度雫の人格を知っていたからこそ、辿り着いたひとつの結論を小さく呟くハジメに、愛子はまさかと否定しようとするも、愛子も愛子であそこまで急激に雫が変わったように見えているのか、やはり強くは否定できない。

 

 

「か、仮に南雲君の言う通りだったとしても、何故八重樫さんを?」

 

「……。手駒にするつもりだったとか、いや、これはあくまでも仮定の話だ。

まだそうだと決まった訳じゃあ無いが、八重樫は今どこに―――」

 

 

 一度気になってしまった事もあり、こうなれば雫と直接話をして判断してみようと彼女の居場所を聞き出そうとしたその瞬間、窓の外から強力な気配を複数感じ取る。

 

 

「!?」

 

 

 今の今まで気づかなかった強い気配をしかも複数……町の外から感じ取ったハジメは窓から身を乗り出して気配のする場所を探り……そして嫌な汗が全身から吹き出る。

 

 

「な、なんだよこの気配……?」

 

「あぁ、これは――って南雲君!?」

 

「くっ……!!」

 

 

 

 様々な地や迷宮で出会した魔物を遥かに凌駕する異次元のパワーに、ハジメは恐怖にも近いものを抱くも、無視は出来なかったので急いで窓の外へと飛び降りると、気配を辿って町の外へと走る。

 

 

「ハジメさん……!」

 

「どこに行ってたの? ……いや、それよもこの気配……」

 

「外からだ……! 急ぐぞ!」

 

 

 その道中、同じく強いパワーを察知して飛び起きたシアとユエの二人と合流しながら、町の外へと出るハジメ。

 

 

「どこだ……!」

 

「多分ここで間違いない……」

 

「でも、姿が見えません……」

 

 

 町を出て程無くした簡素な平地まで辿り着いたハジメ達だが、不気味な程冷たい風の音だけが聞こえるだけで、気配の主の姿が見つからない。

 そのことが三人に不気味さを感じさせるも、冷静になって周辺を捜索しようと一歩踏み出そうとしたその瞬間、ゴチンと三人は見えない壁のようなものに阻まれ、仲良く盛大に頭をぶつけた。

 

 

 

「な、なに? 今見えないなにかが……」

 

「これは……結界だな」

 

 

 その壁の正体は結界の一部であり、恐る恐る目に見えない結界に触れながら分析をするハジメに、同じく調べていたユエがぽつりと口を開く。

 

 

「この結界……かなり強力」

 

 

 相当な強度だと言うユエにハジメは無言で頷きながら、この結界を張っている主がいる筈だと目を凝らしながら改めて探る。

 

 

「…………居たぞ!」

 

 

 そして発見する。

 夜の荒野に佇む小柄な少女と、茶髪の青年――鈴とイッセーを。

 

 

「チッ……!」

 

 

 二人揃って夜空を無言で見上げている姿を発見したハジメは、取り敢えずこの結界をなんとかしなければ近寄れもしないと、試しに自身の武器である銃を取り出し、引き金を引くも、結界の壁には傷一つ付けられない。

 

 

「ぐっ! なんて強度してやがる……!」

 

「で、では今度は私が……でりゃぁぁぁっ!!」

 

「私も……!」

 

 

 悔しげに顔を歪めるハジメに続き、シアとユエも各々手を出してみるが、そんな三人を嘲笑うように結界は破れない。

 

 

「クソ! どうすれば……」

 

「? あの人、確かスズと呼ばれていた女の人が私達に気付いたみたいです」

 

「……あのヒョウドウって男の人に私達の事を指をさしながら教えてるみたい」

 

 

 足踏みをしているハジメ達だったが、どうやら鈴に気づかれたらしく、空を見上げていたイッセーの服の袖をくいくいとひっぱりながら引っ張りながら自分達に向かって指を指しているのが見える。

 だがイッセーはハジメ、ユエ、シアの三人を一瞬だけ見ると、すぐに興味が無いとばかりに空へと視線を戻してしまう。

 

 

「あ、あの野郎……!」

 

「一瞬だけこっちを見てからすぐに視線を戻しましたね……」

 

「多分、興味がないんだと思う……」

 

 

 

 相変わらずそこら辺に落ちていたシャーペンのキャップでも見たかのような態度にカッとなるハジメだが、直後にあれだけ攻撃をくわえても破れなかった結界が消える。

 

 

「結界が……」

 

「入っても良いという意味でしょうか……?」

 

「……くっ!」

 

 

 どこまでも見下された気がしてならないハジメは、消えた結界を通り抜け、若干大股気味に鈴とイッセーに近づいていく。

 

 

「………………」

 

「えーと、どうしたの南雲君? なんか三人が結界の外からこっちを見てたから、一旦解いたつもりなんだけど……」

 

「! この結界はお前が張ったのか谷口?」

 

「え、うん。鈴の天職は結界師だから。

もっとも、主な使い方は敵の逃げ道を封じたり、こうして周りに影響を与えずに修行をする為だけなんだけど」

 

 

 

 結界の正体は鈴だったと聞いたハジメは素直に驚いた。

 てっきりイッセーが張ったものだと思っていたのだから。

 そしてイッセーはイッセーでハジメ達が近寄ってきても尚、関心が無さそうに空を―――よく見れば星とは違うチカチカとした輝きがあちこち点滅している箇所を目で追っている。

 

 

 

「あれは、なんだ?」

 

「星……じゃないですよね? あちこちで点滅しているようですけど……」

 

「んー、あれはシズシズとエリリンだよ。

今実戦式で戦ってるんだよー」

 

「………!?」

 

 

 

 ハジメ達には、何かしらの光が不規則に点滅しているようにしか見えないが、イッセーと同じように目で追い始めた鈴曰く、あの点滅は恵里と雫が互いにぶつかり合っている際に生じている光らしい。

 

 

「速すぎて見えない……」

 

「……」

 

 

 ユエの声にハジメは必死になって、気配を辿り、目を凝らそうとするも、二人の姿が視認できない。

 それはつまり、少なくとも雫と恵里の二人は今のハジメの認識能力を越えた速度で動き回れるということになるのだ。

 

 

(た、谷口まで目で追えているのか……!?)

 

 

 そして、そんな二人の攻防を目でしっかりと追っているように目を動かしている鈴もまた……。

 

 

(兵藤が三人をここまで引き上げたのか……?)

 

 

 ともなれば自動的に三人をそこまでの領域にレベルアップさせたのがイッセーだという事になる訳で、ハジメは恐る恐る……そして劣等感を必死に隠しながら無表情で空を見上げているイッセーに問いかけた。

 

 

「兵藤、お前が谷口や中村……そして八重樫を鍛えたのか?」

 

「…………………………」

 

 

 まるで自分がシアを鍛えたように……。

 そんな思いを抱きながら問うハジメだが、イッセーは空へと向けていた視線を一瞬だけハジメに―――そしてその後ろに居たユエとシアに向かって冷めた目を向ける。

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

 相変わらず自分以外は全てカスとでも言いたげな傲慢な目だと、ハジメは思う中、イッセーは冷めたその目を再び空を縦横無尽に飛び交いながら殺り合いにも近い鍛練をしている恵里と雫に向け直すと、静かに口を開く。

 

 

「切っ掛けを与えただけで、ここまで成長できたのはこの子等自身の積み重ねだ――――――と、言ってやるから、さっさとその後ろの生物二匹を連れて消えな」

 

「は……?」

 

「「…………」」

 

 

 明らかにユエとシアへの嫌悪感のようなニュアンスを含めたその言葉にハジメ達は何故だと思うと、気まずそうに頬を指で掻きながら鈴が補足するように説明をする。

 

 

「えーと、そちらの美少女さんお二人がどうだって意味じゃなくて、いっちーは人間以外の種族全般が基本的に嫌いなんだよ。

だからあんまり近づかれたくはないみたいで……あー、フォローにならないよね?」

 

「………」

 

「「………」」

 

 

 そう、イッセーの好き嫌いのひとつを語る鈴に、シアは普通に傷付いて俯き、ユエは目付きを鋭くイッセーを見据える。

 

 

「もー! また変な空気になっちゃったじゃん!」

 

「知るかよそんなの。

そもそもそこの奴等が何故か勝手に寄ってきたんだろうが、だからさっさと消えろって言ったんだよ。『だから俺は悪くない。』」

 

 

 亜人が人から差別されているこの世界において、イッセーのスタンスは全ての非人間族を敵に回す事になる。

 しかし本人は、ある程度過去の出来事を割りきっているとはいえ、それでも嫌いなものは嫌いなのだ。

 

 

 

「あぐぅ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 そんな気まずい空気が流れる中、空を縦横無尽に飛び交いながら戦っていた恵里と雫の勝負に決着がついたらしく、強烈な打撃音と共に超高速で何かがハジメ達とイッセーと鈴と間へと落下する。

 

 

「ぐっ……く……!」

 

「や、八重樫……」

 

 

 どうやら敗北をしたのは雫だったらしく、落下の衝撃と共に立ち上る砂煙が晴れた事で見えた少々大きめのクレーターの真ん中に、青アザだらけで切り傷だらけの雫が片ひざをつきながら踞っていた。

 

 

 

「ぼくの勝ちだねメス犬?」

 

 

 そしてそんな雫とは正反対に、同じように顔や全身に痣や切り傷を作りながらも悠然と降り立つのは眼鏡を外し、雰囲気が色々と変わっている恵里。

 

 

「…………くっ、そのようね」

 

 

 唖然となるハジメ達に気づいているのかいないのか、勝ち誇る顔の恵里と、悔しそうによろよろと立ち上がろうとする雫を見ていたイッセーが、パンパンと両手を叩く。

 

 

「そこまでだ。

恵里はもう少しダメージを受けないようにしろ」

 

「あ、うん。でもこうは言ったものの、この雌犬――じゃなくて、八重樫さんも中々強くなっててさ……。

まさかこんなに苦戦するとは思わなかったというか……」

 

「それでイッセー君? 私にはなにかないの?」

 

「恵里と谷口のサンドバッグ風情に言うことなんて別にねーよ―――と、言いたいがお前の場合、特性に頼りすぎて無駄に要らないダメージを受けすぎだ」

 

「……! え、ええ……肝に銘じるわ―――ふふふ♪」

 

 

 

 

 

 

「「「………………………」」」

 

 

 

 

 最早ハジメ達の存在なんて居ないかのように振る舞う状況に、ハジメ、ユエ、シアの三人は、先程イッセーに言われた事もあってかどことなく負のオーラを放つ。

 

 

 

「谷口、二人に回復液を渡せ」

 

「うん」

 

「確かに思ってたよりダメージを受けすぎたよ……」

 

「いやー、中村さん達とこうしてやり合うと凄い強くなれる気がするわ!」

 

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

 しかしそんな三人の殺気めいたなにかにすら四人は気づいていないのか、ほんわかとした空気すら放ち始める始末。

 そんな中、恐らくまだ四人の中では一番まともな雫がハジメ達の存在に気がつく。

 

 

「あら、南雲君達じゃない? 何時から居たのよ?」

 

「さ、さっきからずっと居たぞ……お前等は随分と楽しそうだったから気づかなかったみてーだがな」

 

「「………」」

 

「それはごめんなさいね。

修行となるとついつい嬉しくなって周りが見えなくなるもので。

それにしても珍しいわね、イッセー君の近くにそちらのお二人がここまで近づけてるなんて?」

 

「? あ、確かに。

下手したら直ぐ様バラバラにするイッセーにしては珍しいかも」

 

「「!?」」

 

「ば、バラバラだと?」

 

「ええそうよ。

彼って非人間族に対しては余計に攻撃性が強いし……」

 

 

 鈴と同じく恵里と雫もイッセーについてそう話す事で、反射的にユエとシアを自分の背中に庇うように隠そうとするハジメに、イッセーは詰まらなそうな顔で口を開く。

 

 

「昼間に20匹ほどぶち殺した後だし、今さらそんな虫けら二匹殺すなんて怠いだけさ」

 

「……こ、こいつ!」

 

 

 既に殺した後なので、今更ユエとシアを追加で殺す気はないと、虫けら呼ばわりしながら話すイッセーに、当然のようにカッとなるハジメ。

 

 

「何様だテメェ! そうやって他人を見下しやがって……!」

 

「あ? いや、別に見下してないが、なんだ……そう思わせてたのなら謝るぞ? すまんな――――――すまん、君って誰だっけ?」

 

「っ!?!?」

 

 

 この言葉の瞬間、完全にハジメはスイッチを切り替え、即座にその手に得物を取り、即座に銃口をイッセーの顔面に向けて何発も発射する。

 

 

「は、ハジメさん!?」

 

「ハジメ……」

 

 

 これには共に旅をしているシアやユエも、常に冷静な筈のハジメらしくないと驚くと同時に――ぎょっとする。

 

 

「なんで急にキレてんだよこれは?」

 

「!?」

 

 

 何故ならハジメの放った魔力を込めた弾丸の全てはイッセーに傷一つ付けること叶わず、何ならその弾丸を口でキャッチした挙げ句、地面に吐き捨てているのだから。

 

 

「ふーん、割りと器用な事をするんだね南雲は? ほら、鉱石を弾丸に加工しているみたい」

 

「ほんとだわ……確か南雲君は錬成師だったわね」

 

「あー、びっくりしたぁ。いきなりなんだもん」

 

 

 その吐き捨てた、鉱石を錬成で加工した弾丸を冷静に拾い集めて解析する恵里と雫と鈴は、最初からイッセーを心配していないようだ。

 それはつまり、ハジメの攻撃ではイッセーは確実に死なないという、一種の信頼の一つだろう。

 

 

「く……!」

 

「は、ハジメさん!」

 

「やめてハジメ……!」

 

 

 この時点で確実に差があると悟ったシアとユエが、銃を捨てて構えようとするハジメを止めようと必死になる。

 

 

「だから、そんな怖がらなくても何もしないっての」

 

「だ、誰がお前なんか……! て、テメーなんざ怖かねぇ!!」

 

「震えてるじゃねーか」

 

「……や、野郎! ぶっ殺してやらぁぁぁっ!!!」

 

 

 まるでどこぞのコマンドーの悪役みたいな形相で飛びかかろうするハジメをユエとシアが必死に止める。

 

 

「お、お願いします! あ、アナタの事はまだよくわかりませんが、少なくとも私達のような他種族に対して良い感情が無いのだけはわかりました!」

 

「ハジメは連れて帰るし、私達も消える。だから見逃してほしい……」

 

「放せぇぇぇ!! コイツだけは! コイツだけはやっぱり許さねぇ!!」

 

 

 

 

 

「……………」

 

「ほんとに敵を作る事にかけては天才的ね?」

 

「は? ちょっと待て、俺がなんかしたからなのかよ?」

 

「うーん、客観的に見て思うことは普段の行い……かな?」

 

「普通の人達からしたらいっちーの態度って凄い傲慢に見えるからさぁ?」

 

 

 

 

 別に返り討ちにしてやっても良いが、それ以前に何故自分はこの白髪の少年に殺意を向けられているのか? と、最低な事にまったく自覚がないせいで逆に困惑するイッセーは、ユエとシアに引きずられる形で逃げ去るハジメを首を傾げながら見送るのだった。




補足

急にキレられたとしか思ってなかったのでちょっと困惑する。

もっとも、流れによってはそのままデストロイしてたので、多分運が良かった。

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