色々なIF集   作:超人類DX

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大分話がすっ飛びます………色々な意味で。


アブノーマル

 

 

 別に無敵だとか、最強だとかを目指していたつもりなんて無かった。

 別に望んで力を持った訳じゃあない………というのはただの言い訳かな?

 

 

 でも確かに俺は強さを求めていた訳じゃなかった。

 ただ俺は自由という当たり前が欲しかっただけだ。

 

 でも、求めれば求める程、欲すれば欲するほど自由というものはそっぽを向いてしまうばかりだった。

 

 二天龍の片割れと、無限に進化し続ける精神性(アブノーマル)を恐れた両親に見捨てられ。

 

 自力で生きるために力を磨くしかなかった俺に寄生してきた悪魔達。

 

 自由であろうと思えば思うほどやって来る邪魔な壁共。

 

 次から次へと俺の力を恐れるか、寄生しようとする畜生共。

 

 

 そんな壁共を破壊して、蹴散らして、乗り越えながら自由を掴もうと遮二無二に走り続けた俺は――いや、俺達はいつの頃からか立っていた。

 

 

 頂点に。

 

 

 目指すべきものが何もない場所だった。

 踏み出せる道なんて何一つないつまらない場所だった。

 

 

 けれど、歩かないって訳にはいかなかった。

 探しに行ったさ……俺達の道を探しにさ。

 

 

『結局……最期まで先輩は私を見てはくれません……でしたね』

 

 

 探して、探して……最後に立ちはだかったのは、当時の俺と同等以上の領域に到達した白い猫のチビ女。

 俺に寄生し、俺の意思を閉じ込めようとした悪魔の女の下僕の一人でしかなった白い髪の小さな女。

 

『部長や副部長達を出し抜いて、私だけが先輩に追い付いたのになぁ……』

 

 

 俺そのものを欲する為だけに、他を踏み台に到達して来たバカな猫ガキ。

 理解ができなかった。

 意味がわからなかった。

 

 何度も何度も俺に殺されかけてる癖に、それでも尚俺の前に立ったイカれた奴。

 

 

『先輩はこれで独りです。

もう誰も先輩を縛るなんてこの世界には存在しません。

……でもイッセー先輩、私は思うんですよ』

 

 

 そんな奴が、死の寸前、それでも笑いながら言ったんだ。

 

 

『障害がない世界なんて、先輩を愛してくれる人が居ない世界なんて、絶対につまらないですよ……?』

 

 

 自由の代償は途方もなき退屈だと。

 

 

『ふふ、先輩に負けた私が今更こんな事を言う資格なんてないですよね? あはは、でもこれだけは言わせてください―――――――――私はどこまで行こうと、イッセー先輩……アナタが大好きです』

 

 

 最後の最期まで思いどおりにならないまま、そして笑いながら逝った白音という女。

 ああ、一々テメーに言われなくたってわかってたよ。

 

 お前を完全に殺したその瞬間から理解しちまったよ。

 

 もう俺は手こずることなんて出来なくなった。

 

 壁を乗り越えられるだけのピンチがなくなっちまった。

 

 進化する事が出来なくなっちまったってな。

 

 

 自分を終わらせて、なんの因果か同じ名前、同じ顔のガキに生まれ変わった敵の居ない世界を生きていても、くだらねぇ理由で異世界に飛ばされた今も変わらない。

 

 

 理解(わか)んないだろうな、お前達には。

 苦労する、命を脅かされる心配をする必要がない、手こずるってことすら出来ない苦痛を。

 

 

 理解(わか)んないだろうよお前達には。

 進化も、度を越すと生きる意味を奪われるんだ。

 

 

 度を越えすぎると、人生って道から光が消え失せるんだ。

 

 

 富だの名声だの地位だの。

 多分その気になれば力でどうにか出来てしまう。

 

 

 だがそんな事をした所で俺は満たされない。

 

 

 異世界とやらに呼び出され、久しく感じなかった畜生共の気配に俺は一度は喜んださ。

 恵里や谷口が生きるあの世界には存在しなかった敵を再びぶちのめせるって。

 

 でも、どうやら昔のようにはいかなかったな。

 

 撫でれば消し飛ぶ手応えのなさ……。

 

 結局、どいつもこいつも――人間ですら俺の力を見た途端寄生しようとする。

 

 

 理解(わか)らないだろうお前等?

 

 

 自由と不自由は所詮表裏一体なんだってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度は文字通り地の底へと落ちた南雲ハジメは、生きるために……そして帰る為に形振りかまわず力を付けた。

 そしてユエを名付けた吸血鬼の少女との出会いを切っ掛けに、そしてオルクスの迷宮の到達地点で知ってしまったこの世界の成り立ちを知った。

 

 その後、生還したハジメはユエと共に世界各地に存在する7大迷宮の残りを制覇する為に旅を始めた。

 その旅の途中、様々な出会いや経験を経てハジメは更に心身共に成長をしていく事で自信を付けていく。

 

 そしてハジメは新たにシアという未来視を持つ兎人族の少女を仲間に加え、とある商業都市へと辿り着いたのだが……。

 

 

「な、南雲君……?」

 

 

 ある交渉の為に、その商業都市にあるギルドの支配人的な立場の男から受けることになったひとつの依頼の為に向かった小さな町にて、ハジメは不意の再会をするのだ。

 

 

「せ、先生……?」

 

 

 

 

 

 

 

 死んでしまったと思っていた生徒の一人が――いや、なんか見た目とか口調とかが大分変化していたものの、生きていてくれていたという事実は、教師である畑山愛子にとってすればこれ程安堵し、そして嬉しかったことはない。

 

 見知らぬ亜人の少女二人と不純異性交遊でもしてそうな雰囲気があったので、勢い任せに連行してしまったものの、ちゃんとお話が出来そうだという点では結果オーライ――――

 

 

「お、お前……!? ひょ、兵藤……!」

 

 

 ――――でもないかもしれないと、町にある食事処で勝手に食事をしていた『最大の問題児』を前に、これでもかと殺気立つハジメを見れば、嫌な予感しかしないと愛子は思うのだった。

 

 

「愛ちゃん先生、その人達は?」

 

 

 そもそも何故ここにイッセー達が居るのかというと、元々作農師としてのスキルを持つ愛子が、ウルの町の農地改革の為にやって来た事から始まり、当初は違う生徒達が護衛としてついていく予定だった。

 

 

「信じられないのかもしれませんが、この方はなんと南雲君です! 生きていたんですよ!」

 

 

 しかし、元の世界でもこの世界でも兵藤一誠という生徒の問題性を憂いていた愛子は、少しは何かが変わってくれるかもしれないという考えの下、イッセーに護衛の仕事を頼んだのだ。

 

 

「へー? なんか色々と見た目が変わってるね」

 

「うーん、鈴的にはそちらの美少女の方が気になるねー」

 

 

 当然、その話をされたイッセーの当初の返答は『No』だった。

 だが愛子はこれでもかと食い下がった事で、傍で聞いていた恵里と鈴がイッセーを『お金が発生するみたいだし、気分転換のつもりで行ってあげたら?』と言った事で渋々了承したのだ。

 

 恵里と鈴を同行させる事を条件に。

 

 そうして愛子はイッセー、恵里、鈴の他に清水という男子生徒を加えてイザ出発となったのだが……。

 

 

「このニルシッシルって料理、カレーに似てると思わない?」

 

「……」

 

 

 何故か勝手に途中から雫が追いかけてきて無理矢理同行を申し出て来たのだ。

 結局、何を言っても帰ろうとしないので仕方なく愛子は雫も一緒に連れてきたのだが、数日前から清水が行方不明になったのだ。

 

 もっとも、心配をする愛子を他所にイッセー、恵里、鈴は清水の安否なんてどうでも良さげなのだが……。

 

 

「それにしても無事に生きていてくれて良かったわ南雲君。

香織に良いお土産話が出来そうだもの……」

 

「あ、あぁ……」

 

「…………」

 

 

 そんな事情を愛子から聞いたハジメは理解はしつつも、その雫も何やら様子が可笑しい気がした。

 暫く会うことがなかったハジメだからこそ、雫に対して違和感を覚えつつ、黙々と食べているイッセーを油断なく睨む。

 

 

「………」

 

 

 相も変わらず自分にはなんの関心も無い態度だった。

 というか、恵里や鈴や雫の三人は自分が南雲ハジメであり、生還していたのだという事実に多少なりとも驚いていたのに、このイッセーだけは全く以ての無関心面だ。

 

 

(こ、こいつ、今のオレを見ても何とも思わないのかよ……!)

 

 

 見た目もそうだが、あの時とは違って強さを増したというのに、それでもイッセーは無反応だという現実に、暫く鳴りを潜めていたコンプレックスが再び刺激されてしまうハジメ。

 ついつい殺気を籠った目でメンチを切るも、それすらイッセーはガン無視で、テーブルの真ん中に置かれた大皿に乗った肉に手を伸ばす。

 

 

「あ……」

 

「…………」

 

 

 しかし同時にシアも取ろうとしてしたらしく、同じ肉を取ろうとしている事に気がついたシアが遠慮して伸ばしていた手を引っ込めると、イッセーはシアに一瞥すらくれることもなくさっさと取って食べてしまう。

 

 

「………」

 

「えと、ごめんなさいね。

この人、こういう性格だから……」

 

「あ、は、はい……」

 

 

 そんなやり取りに気がついた雫が、代わりにシアに謝るも、張本人であるイッセーはマイペースに食べている。

 

 

「ほら、お肉ばっかり食べてないでちゃんと野菜も食べなさい」

 

「あのさ、八重樫さん。

別に八重樫さんはイッセーの母親でもなんでもないんだからそういうお節介な要らないんだけど?」

 

「中村さんはそうやってこの人のやること為すことを否定しないで受け入れてきたのでしょう? それなら注意くらいする人間が一人くらい居ても良いんじゃない?」

 

「だとしてもそれは八重樫さんのやることじゃないね」

 

「そうかしら? 他の人達には不可能だと思っているから私がやっているつもりなのだけどねぇ?」

 

「………………そういうのがウザいんだよ。

急にイッセーに媚びりやがって……」

 

「ま、まあまあ二人とも……。

いっちーも喧嘩して欲しくないだろうしさ?」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、アイツ等から感じる独特の空気は?」

 

「えと……特に中村さんと八重樫さんがああして言い合いをすることが多くて……」

 

 

 イッセーを挟んで左右の席から、表情こそお互いに笑っているものの不穏なオーラをぶつけ合う恵里と雫に、ハジメ達は微妙に気まずい。

 

 

「恵里の言うとおりだ。

あんまり調子くれてんじゃねーぞ? もう一度全身複雑骨折にしてから谷底に叩き落とされてーのか?」

 

 

 

 そんな二人のぶつけ合う不穏なオーラのど真ん中に鎮座していたイッセーが漸く口を開くと、若干低い声で雫を罵倒する。

 

 

「……ふっ、だってさ? 残念だったねー? このままさっさと帰ってくれても良いよー?」

 

「帰らないわよ? それにそこまでしてくれるというのなら喜んでやられるわよ? これでも何度も殺されかけてる身ですもの?」

 

「シズシズがここまで飛んじゃうなんて……」

 

 

 イッセーの殺気すらニコニコしながら流した挙げ句、両手を広げながら好きにしろアピールまでする雫に、外様のハジメ達は完全にドン引きしている。

 

 

「先生、八重樫の奴、兵藤になにをされたんだよ……?」

 

「兵藤君達は基本的に他の子達とは別行動をするんです。

それで八重樫さんが兵藤君達の行動についていくようになってからちょっと変な方向に……」

 

 

 

 愛子もイッセー達の気色悪いやり取りに引いているような様子で話していると、イッセーがいきなりニコニコ顔の雫の額目掛けてフォークを突き刺した。

 

 

 

「いっ!? あの男の人が笑っている方の女の人の額にフォークを突き刺してますけど!?」

 

「それでも寧ろ嬉しそうに笑っているのがちょっと怖い……」

 

「お、おい兵藤お前!? な、なにしてんだよ!?」

 

 

 これには流石のハジメも雫を心配してイッセーに詰め寄ろうとするが、そんなハジメを手で制したのは他でもない雫であり、思いきり額にフォークを突き刺されたというのに引き続きニコニコとしながら、そのフォークを引っこ抜く。

 

 

「良いのよ南雲くん。

これは私と兵藤くん――いえ、イッセーくんのコミュニケーションみたいなものなのよ」

「んなコミュニケーションがあって堪るか!?」

 

「そ、そうですよ! それよりその額の血を止めないと……!」

 

 

 ニコニコしながらコミュニケーションの一環だと宣う雫の頭の中が心配になってしまうハジメとシアだが、直後に息を呑まされた。

 何故なら額から吹き出ていた血が急に止まったかと思えば、刺された傷をも瞬時に塞がったのだから。

 

 

「や、八重樫……お前……」

 

「きゅ、吸血鬼みたいに再生した……」

 

 

 取り出したハンカチで額の血を拭けば、傷跡すら残らず元通りになっている。

 そんな現象を前にユエまでもが驚いた顔をする中、雫は何故か、どういう訳か頬を染め、うっとりと目を潤ませながらデザートを食べているイッセーを見つめて言うのだ。

 

 

「またひとつ痛みを貰っちゃったわ。

ふ、ふふふ……この痛みが、また私をアナタの領域に近づかせるのよ」

 

「「「「…………」」」」

 

「チッ、ドMのビッチが……」

 

「あら、妬いてるの? ふふ、そうよね……でも私と中村さんのそれは『近い』から解るんじゃないかしら?」

 

「………。わかるから余計にムカつくんだよ。

ぼくだけが解ればそれで良かったのに……」

 

「ちぇ、鈴はタイプが違うからなぁ」

 

 

 

 ハジメ達には理解できない――普通(ノーマル)では決して理解できぬ異常者(アブノーマル)の世界。

 この世界の生物には掴めない領域(バショ)にハジメ達は言い知れぬ嫌悪感を抱くのだった。

 

「ふふふ。

ああ、ごめんなさいね皆? 私は大丈夫だから心配せず食事を続けてちょうだい?」

「こんな状況で食う気になれるかよ……お前、兵藤となにがあったんだよ……?」

 

「色々よ……ええ、色々ね♪」

 

「ハジメ、この女……ちょっと異常」

 

「しょ、正直精神に異常をきたしているとしか思えないといいますか……」

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、絶対にあんな女に優しくしないでよ?」

 

「したことがあったか? まあ、お前達を引き込んだ時にあの女が踏み込んできたのは流石に驚いたがな……」

 

「でもさ、シズシズの場合いっちーの鬼畜行動にすら喜んでぶち当たってくるんだよなぁ……」

 

 

 終わり




補足

イッセーの特性である『他者をひきあげる』が完全にマッチしてしまったせいか、急激な成長をする少女達。


おかげで精神性も変な方向に各々飛んでるわけで……。


ちなみに、もうネタバレすると、八重樫さんの特性は、某ブラックとメタルな冷凍庫一族の長兄的な特性だったり。


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