色々なIF集   作:超人類DX

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一応続きというか……


コンプレックス

 

 

 

 尊厳を踏みにじられたから。

 人の精神を土足で入り込んだから。

 自分(テメー)が自由でありたいが為に、関係のない誰かの力に寄生したから。

 

 

 始まりはそんな理由だった。

 

 

 好き好んで持った訳ではなかった力と異常さのせいで、実の親に捨てられた俺は、生きるのに必死だった。

 

 生きるためにはなんでもしたし、生きる為には力が必要だということも学習した。

 

 だから俺は力を持とうとした。

 

 生まれた時から俺の中に宿っていたドラゴンの声に導かれるように、俺はひたすら力を付けた。

 

 皮肉なもので、生まれたと同時に宿していたドラゴンの力とは別に、俺には他の力――というよりは精神を持っていた。

 

 故に俺は鍛えれば鍛えるだけその力を増幅させることができたし、人としての限界の壁を乗り越えることができた。

 

 

 力を持てば喰うことに困らない。

 力を持てば自由でいることができる。

 

 そう信じて生きてきた俺だったが、俺の力はどうにも特殊だったみたいで、それまで存在すら知らなかった連中に突然囲まれ、そして縛り付けられた。

 

 

 悪魔と呼ばれた連中は、俺の力に目を付け、テメーのものにするために俺の意思を無視して見えない『首輪』をつけたのだ。

 

 そこからの人生は最早思い出すのも忌々しいものだった。

 

 己の限界を常に乗り越え続けられる俺の異常は、他人にすら作用させることが出来る事を突き止めた悪魔共に無理矢理飼われ続ける日々。

 

 自由もなければ、自分の意思も無い――ただ寄生虫のように吸い付くされる日々。

 

 その時からだったな……俺は必ず自力でこの檻と首輪をぶち壊し、必ずこいつらを皆殺しにしてやると決意したのは。

 

 

 ………もっとも、そんな理由も所詮は建前でしかなかったと気付いたのは、檻と首輪を壊して全てを取り戻した俺に、俺を縛り付けていた虫けら共が命乞いをした時だった訳なのだが。

 

 結局の所、俺はただソイツ等が気に食わなかっただけなんだ。

 

 気に食わなかったからぶん殴る。

 気に食わないからひねり潰す。

 気に食わないから殺す。

 

 

 そうさ、気に食わなかったから――全員殺してやったんだ。

 

 

 大義名分? 復讐?

 そんなものはただの言い訳であり、殺すも殴るも全ての理由は単純―――ただそいつが気に食わないからというシンプルな理由だ。

 

 

 だから俺は殺してやったのさ。

 俺を縛り付けていた悪魔共、その肉親、種族そのものを皆殺した。

 奴等の同盟だとほざいていた堕天使も天使も、神もなにもかも――人間以外の種族は一匹残らず皆殺しにした。

 

 そこに理由なんてない――――ただ、そいつらの事が死ぬほど気に食わなかったからだ。

 

 

 そんな生き方をしてれば誰しもが俺を化け物だと呼び、そして怯える。

 だが俺はそれでも自分の生き方を変えたりはしなかった。

 

 何の因果か、カス共が空想でしかない世界で生まれ変わっても、敵が存在しない世界でも――俺は気に食わない奴は誰彼構わずぶちのめすという生き方を決して変えない。

 

 そうさ。

 あのクサレ悪魔共を最初にぶち殺した時から、俺はとっくにイカれちまったのよ。

 相棒であるドラゴンだけが、そんな俺を否定しなかった――それだけで十分なんだ。

 

 

 

 

 もっとも、ひょんな事から知り合った――どこか危うい精神性である女の子もそんな俺を見ても怯えないのだけど……。

 俺となんぞと知り合わなければまともに生きていけた―――かは微妙にせよ、まだマシな生活くらいは出来たというのに、それでも俺に懐いてくる、イカれた女の子がな。

 

 

 

 

 

 

 

 異世界であるトータスに召喚という形でやって来てから約二週間が経過する。

 この二週間もの間、この世界の戦争に参加する事になってしまった学生達は王国騎士団長を名乗る者の指導の下、基本的な戦い方を学んでいった。

 

 トータスからすれば上位の世界から召喚をされた彼等の力はこの世界の一般人よりも数十倍は高いとの事だが、そんな中でも一般人と変わらぬ初期値を持つ者が居る。

 

 それが南雲ハジメという、ゲームオタクであり、クラスにおいてもどういう訳か疎んじられる側の男子生徒だ。

 

 

「はぁ………」

 

 

 ハジメはこの世界にきてからというもの、ため息ばかりだ。

 何故なら自身のステータスはクラスの誰よりも貧弱であり、天職も非戦闘職と言われた錬成師。

 そのせいでクラスの中でも特に自分に対して当たりの強い檜山という男子生徒に馬鹿にされるわ、訓練と称して散々隠れて痛め付けられるわで最悪な気持ちなのだ。

 

 

「……あの時、兵藤君のステータスプレートの中身が見えたけど」

 

 

 だがそれ以上にハジメを憂鬱な気持ちにさせるのは、貧弱な苛められっ子である自分とは正反対だが、ある意味疎んじられているクラスメートの事だった。

 

 

「天之河のステータスがオール100で騒がれていたけど……」

 

 

 一件すればあまり目立たないクラスメート。

 殆どのクラスメートと喋ることすらせず、喋る相手といえば昔馴染みらしい中村恵里と、谷口鈴くらい。

 どことなく自分と同じ――と思えて実際は真逆の男子の事をハジメは誰よりも気になっていたからこそ、見てしまった。

 

 

「チートみたいな数値だったな……」

 

 

 そのステータスが0である魔力以外、全て1000000という規格外の数値であるのをハジメは見てしまったのだ。

 どうやらあのステータスプレートの中身を知るのは本人と常に一緒に居る中村恵里と谷口鈴……そして自分だけのようだし、本人も知らせるつもりは無いような生活を身勝手にしている。

 

 

「…………」

 

 

 初めて見た時からそうだったが、南雲ハジメは兵藤イッセーという天之河達ですら関わるのを極力避けようとする男子に対して言い知れないコンプレックスを持っていた。

 

 クラスの誰からも疎んじられているかと思えば、自分とは違って親しげな友人が二人――それも女子がいる。

 

 自分が檜山達に殴られた際、『通り道の邪魔』という理由で檜山達を半殺しにした際、何もできずに殴られ続けていた自分を見た、あの『そこら辺に落ちていた消ゴムのカス』でも見るような、天之河達や他のクラスメートですらしない、徹底的に見下した目。

 

 あらゆる面において異常な結果を出してしまう兵藤イッセーは天之河達といったカースト上位陣ですら下を向くしかできない。

 

 そう、自分に近いようでもっとも自分に遠い位置に君臨する男――それがハジメから見たイッセーという不気味な男子生徒像であり、自分にはないものを全て持つイッセーがコンプレックスだった。

 

 それはこのトータスに来て、彼のステータスを見てしまってからも余計に刺激されてしまい、なにもかも自分の上を行き、どこまでも見下した目をするイッセーにハジメは黒いモヤモヤとしたものを感じてしまうのだ。

 

 その証拠に、この前檜山達から『訓練』と称され、火の魔法でなぶられていた時、檜山の魔法の余波が中村恵里の服の一部を焦がしてしまった事で、イッセーは無言で――それこそ養豚場の豚でも見るような顔をしながら、檜山達を八つ裂きにしたのだ。

 

 

『なにをしているんだ兵藤!?』

 

『なにって、そこの半チクコゾー共がそこのチビ僧相手にくだんねー真似をしてた――ってのはまぁ正直どうでも良いんだが、このカス共のせいでエリの服が焦げたんだよ』

 

『だ、だからといってここまでする必要は――』

 

『周りに蚊が飛んでたらうざったくて殺虫剤撒くだろう? それと同じだよ』

 

 

 騒ぎを聞き付けたメルドや天之河達――なにより中村恵里と谷口鈴が止めた事で、檜山達は前歯の殆どと鼻をへし折られた程度で済んだものの、決してハジメを助けるための行動ではない事だけは誰しもが理解したし、お礼を言おうとしたハジメの言葉をガン無視したばかりか、『檜山達に向けていた目』と同じ目を向けてきたのだ。

 

 自分とは違って、全てを力で黙らせる事が出来る。

 自分とは違って、周りからの悪意に対して対抗できる意思がある。

 

 自分とは違って、全てを手に出来るだけのものを持っている。

 

 

 

「羨ましいのか、それとも妬ましいのか……」

 

 

 南雲ハジメのコンプレックスはより刺激されていくのだ。

 オルクスの迷宮に入るのを明日に控え、眠ろうとしていたハジメのもとへ、クラスどころか学校一の美少女と呼ばれる白崎香織が訪ねて色々と話をしている中でも、ハジメのもやもやは取り払えずに……。

 

 

 

 

 

天之河光輝にとって、兵藤イッセーというクラスメートは『関わるべきではない人種』である。

 なまじ才能にある程度恵まれているからこそ強制的に理解させられてしまう、彼の異常さはこれまで一度も相対こそしたことはないが、彼の脳髄に刻まれてしまったのだ。

 

 この男にはどう足掻いても勝てないと。

 

 そんな男と共にこのトータスという異世界に召喚された際、奴は早速とばかりに――されど今まで見たこともない殺気だった形相で自分達を出迎えたイシュタル達を八つ裂きにした時は、明確に恐怖をした。

 

 それと同時にこの男を野放しにするわけにはいかないとも感じた。

 

 気になるのは彼のステータスプレートの数値だが、残念ながら見ることは叶わない。

 オール100である自分がこの世界にとってかなり凄いという辺り、もしかしたら自分よりは下なのかもしれない。

 

 だが平気な顔をして、小さな理由だけで檜山達を半殺しにしたのを見てしまった以上、なにかあったら直ぐ様自分が押さえ込めるようにならなければならない―――そんな誰に対するのかもわからない妙な使命感を勝手に燃やす光輝は、クラスの輪から少し離れた場所で、唯一まともに会話が成立する女子二人と何やら話をしている姿を見て警戒しながら、オルクスの迷宮へと入るのだった。

 

 

 

 八重樫雫が初めてその存在を知った時に抱いた感情は『恐怖』であった。

 何故初対面の、それもよく知りもしない男子にそんな感情を抱いたのかはその時まで理解もできなかったのだが、このトータスという異世界で初めて迷宮に入り、魔物を相手に訓練をした時に理解した。

 

 

「……」

 

【グギャ!?】

【ギャウッ!?】

 

【げばっ!?】

 

 

 彼は他を殺めるという行為に一切の躊躇いがないのだ。

 親友の密かな想い人である南雲ハジメを暴力的な行為で苛めていた檜山達をどんな理由があったにせよ以前とこの前に半殺しにした時もそうだったが、彼は誰かが止めなかったら確実に檜山達を殺していた――そう思えてしまう程に、彼が魔物を右手の手刀だけで肉片にして殺していく姿に躊躇いが無さすぎるのだ。

 

 

「ふむ、多少の問題を起こすだけあって、少しは腕に覚えがあるようだな兵藤?」

 

「………………」

 

「出来ればお前のステータスプレートを確認してみたいのだが………今はそれより訓練だな。

さぁ、次は中村と谷口の番だ!」

 

 

 

 一体どんな人生を歩んだからあんな目をすることができるのか。

 一体何があったから他を殺すことを躊躇わなくなってしまったのか。

 返り血の一滴すら浴びずに低級とはいえ魔物の群れを、光輝よりも素早く殺したというのに、顔色ひとつ変えずに持ち込んでいたと思われる干し肉を齧っている不気味で不可思議なクラスメートの行動を、元の世界と変わらず自然と目で追ってしまう八重樫雫なのだった。

 

 

 

 

 

 中村恵里と谷口鈴は普通に知っている。

 イッセーが普通ではないことを。

 

 

「暗き炎渦巻いて――」

 

「敵の尽くを焼き払わん――」

 

「灰となりて大地に還れ――」

 

「「螺炎!!」」

 

 

 腕に変な籠手とか出せるし、手からビームとか出せるし、鋼鉄の柵とかも腕力でアメ細工のように曲げられるし、忍者みたいに素早く跳べるし――というか空を走れるし。

 

 つまり、普通に異常な事をそれが当たり前であるとばかりにやってのけられる事を二人は、これまで何度か直に見たことがあるので知っていた。

 

 故に、こんな基礎魔法なんて手からビームを出せちゃうイッセーを見てきた自分達にしてみれば児戯にも等しい。

 

 

「なるほど、お前達のグループも1階層じゃあ計れんか。

だが魔物の中にある魔石の回収のこともあるし、今お前達が放った魔法はやりすぎだ。

それと魔力は無限ではない。今のような魔法を撃ちまくるとあっという間に魔力が空になるから注意しろ」

 

「はーい」

 

「気を付けまーす」

 

「…………」

 

 

 先導役のメルドに注意された恵里と鈴は返事こそするものの、二人の視線は干し肉を齧りながらこっちを見ていたイッセーに向けられている。

 

 

「ねーねー、どうだった? 私達の魔法?」

 

「鈴と一緒に驚かせてみようかなって思ったけど、その顔からしてあんまりって感じ?」

 

「専門外だし、なんとも言えんだけだよ。

強いていうなら、その長ったらしい詠唱ってのか? それは省略できないのか?」

 

 

 そう質問しつつ、寄ってきた恵里と鈴の背後に向かって飛び掛かってきた犬型の魔物をデコピンだけで塵にするイッセーに、この世界の人間であるメルドが目を見開いている。

 

 どうやらこの魔法やら人外やらが蔓延るこの世界においてもイッセーの示す結果は異常に見えるらしい。

 

 

「兵藤、一度確認の為にお前のステータスプレートを見せてくれるか?」

 

「………見ても騒がないし誰にも言わないってのなら良いですが」

 

 

 その異常さが気になったメルドの言葉に条件を出せば、メルドは無言で頷くのでイッセーは持っていたステータスプレートを手渡す。

 

 

「!?!? こ、これはっ……!」

 

「「「…………」」」

 

 

 手渡されたイッセーのステータスプレートを見たその瞬間、メルドの顔色が真っ青になり、そのあまりにも出鱈目な中身に困惑する。

 しかしイッセーのみならず、先程までほんわかとした顔をしていた恵里と鈴までもがイッセーと同じ『冷酷な顔』をしながら無言の圧力を向けている事に気付いたメルドは、取り繕うように咳払いをしながらイッセーにステータスプレートを返却する。

 

 

「本当なら今すぐにでもお前の事を王に報告したいのだが……」

 

「俺達をこの世界に勝手に引っ張り込んだのは神のエヒトだとか説明していたカス共がどうなったかくらい、アンタも聞いている筈ですがね……?」

 

「……。わかっている、約束は守る」

 

「話がわかるようでなによりですよ、団長様?」

 

 

 ニヒルな笑みを浮かべるイッセーにメルドは閉口することしかできない。

 向こうで他の連中に賛美されている天之河では話にすらならたい怪物が実は潜んでいるだなんて誰かに話した所で信じて貰えそうもないし、下手をすればこの異次元のステータスを持つ男が王国そのものに牙を剥く可能性だってある。

 

 

(とんでもない男を召喚したのだな……)

 

 

 持ち込んだ水筒の水を二人の少女と回し飲みしながら雑談している青年に、メルドは恐怖をするのだった。

 

 

「この世界の基準でもイッセーは規格外だというのがわかったね」

 

「どうする? もう少しだけ『大人しく』しておくの?」

 

「まだ奴等に情報源としての価値がある内はな……」

 

 

 そして理解もした。何故召喚者の間でこの男だけが他の者達から避けられているのか。

 そしてそんな異常者に対して平然としているこの二人の少女もまた、よくよく見てみればどこかがおかしいことに。

 

 

「あ、魔力が切れて疲れちゃった。

だから抱っこしてよイッセー?」

 

「あ゛ー! ずるいよ! 鈴もー!」

 

「……………言いながら飛び付くなよ。犬かお前らは……」

 

『はっはっはっ、やはり面白い小娘達だなイッセー?』

 

 

 男の内に宿す龍の意思に気付くことなく。

 

 

 

 

 

 20階層まで降りれば、流石に現れる魔物達の強さも上がっていると実感する光輝は、向かってくる少々大型の魔物に向かって天翔閃なる剣技で仕留め、クラスメート達から賛美の声を受けている訳だが、本人の意識は魔物ではなく自分達とは少し離れた箇所で黙々と他の魔物を狩っている三人組の一人に向けられていた。

 

 

「螺炎………って、やっぱ出ないか」

 

「魔力のステータスが0だからねー……?」

 

「イッセーにも出来ないことがあるんだと思うと、可愛げのポイントが爆上がりね」

 

「アホが考えそうなポイント制度だなオイ」

 

 

 どんな会話なのかは聞こえないが、談笑をしながら飛び掛かってくる魔物を片手だけで粉砕しているイッセーに、光輝は言い知れぬ何かを感じてしまう。

 

 

「アイツ……」

 

 

 

 そして光輝は気付いていないが、同じように他の箇所から見ていたハジメが、自分は1階層の魔物ですらお膳立てをして貰ってやっと倒したというのに、イッセーは息をするように――そして自分達の苦労や努力を嘲笑うかのようにあっさりと殺して見せるその姿に、羨望と嫉妬が入り交じった複雑な表情を浮かべている。

 

 

 

「僕は1階層の魔物ですらやっとだったのに……」

 

 

 

 そして、光輝の近くに居た雫もまたクラスの誰しもがイッセーは『存在していない』かのように目を逸らす中をずっと観察しており、それこそ片手間で魔物を次々と殺していく姿を、ひたすら見つめている。

 

 

(もう少し強力な魔物が現れたらもっと見ることが出来るのかしら……)

 

 

 その様子からして準備運動にすらなってなさそうなイッセーに対して、どれくらい強いのかを知りたくなってしまっていて、訓練であることを忘れて彼がその気になりそうな魔物が現れないかと、地味に物騒な事を考えてしまっている雫。

 

 だが皮肉な事に、そんな雫の考えを叶えるかのように――それは起こってしまったのだ。

 

 

「いかん! よせ! それはトラップだ!!」

 

「へ?」

 

 

 数日前、イッセーに前歯と鼻をへし折られたことで完全にイッセーに怯えて近寄ろうともしなくなった檜山のやらかしによって……。

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと先の嘘予告

 

 

 

 その男は誰よりも他を殺すことで進化をしてきた。

 人ではない存在への果てしなき殺戮を繰り返したことで、男は怪物へと成り果てた。

 

 

 最強にて最後―――そして最悪の赤龍帝。

 

 それが男の正体であることを知るものは誰も居ない。

 

 

 

 

 コンプレックスを抱き続けた南雲ハジメはオルクスの下層地点に堕ちた事で、生き残る為に形振り構わず魔物を喰らう事で力を得た。

 そしてユエと名付けた吸血鬼の少女との出会いから始まった旅により、心身共に成長をした。

 

 ユエを始めにした仲間達との出会いもまたハジメに自信を付けさせた。

 

 そんなハジメは見た目も言動も変わり果てた状態で、自身が死んだと思ったクラスメート達と再会し、一悶着あったりもしたのだが、そんな自分に対してあの男だけは変わらず『道端に落ちているタバコの吸い殻』でも見るような目をしたままだった。

 

 

「南雲って生きてたんだってさ」

 

「見た目とか雰囲気とか大分変わってるけどねー」

 

「………そんな奴居たっけか?」

 

 

 それどころか、自分の存在すら認識していなかった。

 あまりにも傲慢過ぎるその態度に、再びコンプレックスを刺激されかけたハジメだが、その前に借りがあった白崎香織が自分達についてくると言い出し、それを光輝達が止めようとするという小競り合いが始まる。

 

 

「なんか騒がしいな」

 

「なんでもカオリンが南雲の事が好きだったんだってさ。

流石にちょっとだけびっくり」

 

「カオリン? ……ごめん、誰?」

 

「白崎さん」

 

「白崎ィ……? あぁ、アレね。なるほどだから揉めてるのか。くだんねーな」

 

「………。一応聞いておくけど、イッセーは白崎さんの事どう思ってるの?」

 

「あ? どう?」

 

「や、ほら……カオリンって美少女じゃない? だからいっちーはどう思うのかなーって……。

いっちーって異性に対してなんの興味もなさそうだからさぁ?」

 

「お前らは俺をなんだと思ってんだよ。一応人並み以上にはあるつもりだわ」

 

『寧ろガキの頃は人並み以上にドスケベだったぞコイツは?』

 

「「嘘ぉ!?」」

 

 

 そんな修羅場な状況を事実他人事のように眺めながら談笑している三人。

 

 

「じゃあさ、イッセー的にはどうなの? 白崎さんとかは……?」

 

「あー、単に見てくれだけは良いんじゃねーの?」

 

「見てくれだけって……? じゃあ中身は?」

 

「余裕で無理。俺なああいうタイプ苦手だ」

 

「苦手? ボクが知ってる限り、白崎さんは誰にでも分け隔てなく優しくできるタイプだと思うけど?」

 

「分け隔てなくだぁ……?

あの……えーと南雲だったかが好きだからって、ついていくと言い出して人間関係を普通に拗らせてるのが分け隔てないのか?

見ろよ、あんな事言い出すから、あそこに居る誰だか知らん男子共が南雲ってのを殺す勢いの目で見てんぜ?」

 

「あ、いや……。

白崎さんって南雲君が好きみたいだし……」

 

 

 珍しく恵里の方が若干常識人みたいな状況になる。

 どうやらイッセー的に白崎香織はかなり苦手らしい。

 

 

「本人に悪気が無いにせよ、あんな地雷をそこかしこにばら蒔くようなタイプなんぞには近づきたくもねーよ。

だったら自分の欲に普段から忠実なエリ方がよほど良いわ」

 

「ぇ……あ、う、うん……!」

 

「うー、普通に言ってるし。

ねー! 鈴の事は!?」

 

「うるせーけど、それも最近悪くねぇって思えるな。少なくとも向こうで揉めてる連中なんぞより1000倍気楽だ」

 

「……………そ、そっか! そ、それなら許しちゃうかなー! あ、あはは……!」

 

「大体、見てくれの優劣で言えばお前等とアレに違いなんて俺には感じねーぞ」

 

「「………」」

 

「そら背丈だとか体型でいえば違いはあるが、こうして顔の作りで言えばお前らの方がむしろ―――」

 

「わ、わかったわかった! わかったから!」

 

「そ、そんなにまじまじと見ないで! は、恥かしいから!」

 

「……? ああ、わかった」

 

 

 加えてイッセーに無自覚に口説かれてるも同然な真似をされて、イケイケな二人も流石に恥ずかしくなってしまうという、遅れた青い春の予感を醸し出す中、親友に対する評価を聞いていたらしい八重樫雫がムッとした顔をしながら近寄ってくる。

 

 

 

「…………さっきから聞いてれば、ずいぶんと香織に対して言ってくれるわね」

 

「は? …………すいません、どちら様ですか?」

 

「……………なっ!? ど、どちら様……?」

 

 

 本気の本気で雫の事を今の今まで記憶すらしていなかったイッセーの無慈悲な言葉に、今の今までイッセーの異質さが気になっていて常に目で追っていた八重樫雫は本気で傷ついた。

 

 

「八重樫さんだよ、白崎さんのお友だちの……」

 

「へー……そんなの居たっけ?」

 

「うっそでしょいっちー? シズシズみたいなクール系美少女を記憶してないって……」

 

「美少女? ……谷口の飼ってるおっさんレーダー的にはこれが美少女なのか?

なんだろな、やっぱり改めて見るとエリと谷口の方が寧ろ――もがっ!?」

 

「おーけおーけー! それ以上は言わなくて良いからねいっちー!? ………えへへ♪」

 

「う、うちのイッセーがごめんなさい――――ふふふ♪」

 

「…………。(揃って満更でもない顔しながら言われても腹立つわ)」

 

 

 またしても平気な顔をして言おうとするイッセーの口を背後から飛び付きながら塞ぐ鈴と、ペコペコとイッセーの代わりに頭を下げる恵里なのだが、雫から見れば二人してニヘラニヘラと頬が緩みまくってるのもあってか、逆に煽られてるようにしか思えない。

 

 

「ぶは……。

えーと、なんかよく知らんけどすいませんね。

君のお友達の事を悪く言ったつもりもなかったし、まさか聞かれてるとも思わなかったよ」

 

「……」

 

「全然謝ってる感じじゃないんだってば……」

 

「だから敵を作るというのに……まったくもう」

 

 

 ヘラヘラと反省の色ゼロにしか見えぬ態度で煙に巻こうとする態度に八重樫雫の眉がつり上がる。

 

 

「元の世界の時から私達全員を『道端に落ちたゴミ』でも見てるような目をしていたアナタにはわからない事でしょうけど、香織は南雲君がまだいじめられていた頃から好きだったのよ」

 

「そうなんだ、へー?」

 

「……。だから二人の事を知らない癖に勝手な事ばかり言わないで」

 

「あーはいはい、わかったから早くあちらさんを止めろよ? あの……えーっと天なんとか君だっけ? 彼が南雲ってのに剣抜いて決闘だとか言い出してるぜ?」

 

「………」

 

 

 イッセーが指を差した方向を見てみると、確かに香織がどうしてもハジメについていくと聞かず、そんな香織の姿を見てどんな解釈をしたのか、光輝がハジメに決闘しろと言い出している。

 それを本来は雫も止めに入るべきなのだろうが、この元の世界から『理解ができないが何故か気になる存在』であるイッセーから目が離せない。

 

 

「あーらら、天なんとかが南雲ってのになんかされて地面に埋まっちまってんじゃん」

 

「収拾つくのかなぁ……」

 

「良いのシズシズ? 止めにいかなくて?」

 

「………」

 

 

 そんな雫と同じように、ハジメもまたイッセーの姿を見て密かに下唇を噛む。

 なにをしようとも興味のない玩具を見るその目も態度も変わらない。

 どこまでも自分を見下すあの目。

 

 それがハジメのコンプレックスを刺激し続けるのだ。

 

 それに加えて一誠は説明不能の強大な力を持っている。

 召喚されたその時点で、召喚人達を嗤いながら破壊していた姿から察するに、もしかしたら元々一誠はそういった力を持っていたのかもしれないと考えられるし、なによりあのふざけたステータス表記が信憑性を強める。

 

 だからこそ、今後ユエ達に牙を剥くかもしれない事がハジメの警戒心を更に強める。

 

 クラスメート達に受けた過去の事はほぼ割りきって乗り越えた。

 だが、彼だけは――一誠だけはハジメにとって拭いきれないのだ。

 

 

「おいおい、大丈夫かー? そこのえーっと、八重歯さんだっけ? それに言われて仕方なく埋もれたキミを掘り起こしてやったんだけど――って、ダメだこりゃ、気絶してるわ」

 

「八重樫よ……!」

 

「ったく、しょうもねー痴情のもつれなんか他所でやれよ、関係ない奴等からしたら良い迷惑だろうに? なぁ?」

 

「え、あ、な、なんともいえない……かな?」

 

 

 光輝が埋まっていた箇所を掘り起こし、物でも扱うかのように引きずり出す一誠は、どうやら雫に言われて渋々手伝っていたらしい。

 元の世界では恵里や鈴としか殆ど話さなかったイッセーから突然ラフに話しかけられてびっくりする女子生徒を尻目に、気絶している光輝を適当に放り捨ててしまう一誠は、何故か香織に話しかける。

 

 

「それでどうなった訳? 君はこの南雲ってのについて行くの行かないの?」

 

「あ、あのその……」

 

「あ? もっとハッキリ言えや? ったく、好きだかなんだか知らねーけど、わざわざ地雷設置していくような行動すんなよな? 聞けばあの南雲ってのはクラスでいじめられてたんだろ? そんな相手にいきなりそんな事言ったら、彼にヘイトが集まるとかわかんないの?」

 

「そ、そんなつもりじゃ……」

 

「ああ、自覚無しか。えーっと南雲だっけ? キミもとんだ災難だったね? 初めてキミに同情したわ」

 

「………………」

 

 

 

 腹の立つことに、その顔が本気で同情しているそれであり、ハジメは反射的に殴りかかりそうな自分を必死で押さえ込む。

 

 

「あ、アナタ! 誰が香織にそんな事を言えって――」

 

「クラスメートとして協力しろとほざいたのはキミだろ? 協力しつつ思った事を言っただけだぜ?」

 

 

 雫にそう吐き捨てる一誠は怠そうに首を鳴らす。

 

 

「で、結局どうなのよ? コレに好きです言われたんだべ? どーすんだよ?」

 

「な、何でお前にそんな事を聞かれなきゃ……」

 

「話が全く進まないから協力しろってこの八ツ橋ってのが俺に言うからだよ」

 

「八重樫よっ!!」

 

「だから早く言えよ? 受けるなら受ける、断るなら断る! ほら、速く! ハーリーアップ!!」

 

「う、受けねーよ! お、俺の恋人はユエなんだよ!!」

 

「なっ!?」

 

「…………………。ふーん、キミの後ろに居る畜生仲間二匹がショック受けたツラしてるのはさておき、キミの気持ちとやらはそうなんだな?

あいわかった。だってよ白樺さん? キミの恋はこれにて終了でーす、お疲れしたー」

 

「ふざけんじゃないわよ!? こんなやり方をしろなんて私は言ってないでしょう!?」

 

「…………。うるせぇボケ!! しかたねーだろうが! 本人にその気がねーんだからな!

それを無理矢理聞いてやっただけでもありがたく思えこのブスが!!」

 

「ぶすっ……!? こ、このっ!!」

 

 

 生まれてはじめて真正面から異性にブスと呼ばれて完全に頭に来たのか、相手が生粋の異常者である事も忘れて飛び掛かる雫とそれを呆気なく避けながら罵倒で返すイッセー

 それは先程までの空気が完全に消し飛ぶ程の大騒ぎであり、やけくそ気味にいってしまったハジメのせいで完全に玉砕してしまって放心していた香織や、恵里や鈴ですら慌ててとめに入る程の盛大な喧嘩に発展してしまうのだった。

 

 

 

 




補足

異常過ぎてなるべく触れようとはしない。

しかし中にはそんない異常さに嫉妬するものも……。

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