片方は――
これまで無理矢理封じ込めてきたからなのか、それとも元々そうだったのを忘れていただけなのか。
最初で最後のドライグとの喧嘩の果てにその楔を噛みきってしまった俺の
「壁だ……! もっと壁を乗り越えて進化を……!」
それは、常に壁を超えて進化し続けたいという――なんというか、欲求にも近いアレであり、ソレである。
ガキの頃は殺す相手が相手であったのもあってそんな欲求に対してもすんなり受け入れられてきたし制御するつもりも一切無かったのだけど、こうして精神を取り戻してもイマイチ目標が無い今となっては実に煩わしいものなのだと齢1500のジジイになってから漸く気づいたよ。
「ここに来て無神臓にこんな厄介な副作用があるとは思わなかった。
くっそー……壁を超えて進化してぇ……! 気持ち良くなりてぇ……!」
「言動が一々危ない奴なのじゃが……」
「目が血走ってる……」
あー……超えたい。
もっと先の領域まで進化したくて仕方ない。
これぞまさに進化に対する
何かしらの約束を交わしていたらしく、シアとハジメが街の観光へと繰り出しているその頃、お留守番中であるイッセー、ユエ、ティオの三人はそこそこに暇をもて余していた。
「デートかー
俺も若い頃しょっちゅうリアスちゃんとお忍びデートしてたっけか」
年頃の若者らしいと、自分の年齢が発覚してから余計にジジイ臭い台詞を言うようになっていたイッセーがテーブルの上に置いてあったフルーツの入ったバスケットからリンゴ的な果物を手に取ると、それを豪快に丸かじりしながら染々とした顔で言っている。
「羨ましいのか? それなら妾達も負けじとでーとを……」
「嫌だよ。主にお前が昨日の夜鬱陶しかったせいで精神的に疲れてるんだよ俺は」
「……。直接見てはないけど、何があったのかだけはなんとなく察する」
そんなイッセーの言葉にティオはここぞとばかりに反応するも、イッセーの態度は塩そのものだった。
どうやら昨晩に部屋をひとつにさせられた事で、ティオに色々とされて精神的に疲れているらしい。
その証拠にイッセーの腕やら首筋やらのあちこちに謎の赤い虫刺されのような跡がある。
「俺はガキの頃からプラトニックな恋愛をモットーに生きているんの」
「何がプラトニックじゃ。
妾は知っておるぞイッセー? お前様とリアス・グレモリーがどの様な眠り方をしておったのかも、どういうことをしておったのかとかの」
「……………。違いに合意なんだからセーフだい」
ジト目になるティオの視線から逃げるように目を逸らすイッセー。
ここ最近少々ティオに対して無警戒になっているし、ここら辺で少し縄を締め直すべきかもしれない――――と、座っている自分の隣に近寄って頭を肩に乗せてくるティオを一瞥しながら思っていれば、そんな二人を見ていたユエが感心するような目をしてこっちを見ている。
「二人の関係は色々と参考になる……」
「最も参考にしてはダメな奴だからな?」
「でも、頑固な男の子を振り向かせる為に必要な心意気は何なのかは見ていて参考になる」
「そうじゃろう? ふふ、その内ハジメ達の恋愛の師匠になってしまうのイッセー?」
「…………………。そろそろ買い出しに行こうか」
「むー……話を逸らすのは狡いのじゃ」
こうして、ハジメとシアが街にある水族館でデートをしている最中、地下から気配を感じ取ったので確認に行くと、海人族の少女が下水道に流されているのを発見して保護しているとは知らないイッセー、ティオ、ユエの三人は街に繰り出して買い出しをしていた。
【イッセー、ティオ、ユエ。
今すぐオレ達が居る所に来れるか?】
その道中、何やら街中が騒がしくなっていたので調べてみれば、聞き覚えしかない特徴の男性と亜人族が大暴れをしているとの事で、念話的な魔法を使ってハジメに連絡を取ってみると、案の定本人達だったらしく、しかも応援を要請している。
「派手にやってんなぁ」
直ぐ様三人は騒ぎと気配を頼りに探してみると、そこには大きな屋敷をハンマーで破壊しているシアと、上空から見下ろすハジメと――そのハジメに抱えられている見知らぬ少女だった。
念話のような魔法で事情を聞いてみれば、どうやら今現在解体作業をしている屋敷とその主は奴隷商の元締め的な犯罪組織だったらしい。
「ハジメ君が花火を見せたいんだとよ」
「わかった……」
なので取り敢えずユエはその屋敷の上空から巨大魔法を撃ち殺して破壊してやることに。
こうしてハジメとシアと合流した三人は、二人が保護したミュウという名の海人族と顔を合わせるのだった。
「お兄ちゃん、この人達誰……?」
「彼女はユエ、オレの恋人だ」
「へ? じゃあシアお姉ちゃんは……?」
「仲間だ」
一目でミュウを気に入ったユエがスキンシップをするのを目に紹介をするハジメ。
「この人は……?」
「イッセーとティオ。
同じく仲間であり、友達だ」
「え、友達って――おご!?」
「イッセー共々よろしく頼むぞ~」
その際、友達だなどと思われてすらないと思っていたイッセーが驚いた顔をして、余計な事を言いそうになるのを察知したティオが鋭めな肘をイッセーの脇腹に突き刺し、軽く咳き込むせいでミュウが微妙に引いている。
「よ、よろじぐ、お嬢ちゃん……げほげほ……」
「お、お兄ちゃん……この人怖い」
引くどころか完全に怯えられてしまったらしく、びくびくとハジメの背中に隠れてしまったミュウ。
こうして街の裏を暗躍していた犯罪組織はコンビニ感覚で壊滅となり、その尻拭いをさせられる羽目になるイルワの胃が大変な事になったとかならなかったとか。
終わり
オマケ・別の世界
勝利と自由を代償に、愛する者達を失った世界もあれば自由と勝利の為に肩を並べた者達が生きた世界もある。
枯れても居ないし、諦めてもいない。
今尚、生きるという情熱の炎を燃やす若き二人の青年の冒険が……。
とある世界に神そのものに抗った者達がおったそうな。
その抗う者達の中には赤と白の龍を其々宿す若者がおったそうな。
その二人の若者は本来ならば宿敵の関係だったのだけど、割りと気が合うのと共通の敵が居たお陰で宿命を越え、肩を並べて戦う親友同士となったそうな。
そんな運命を変えた二天龍を宿す二人の若者は、仲間と共に神への反逆を果たした直後、世界を意図せず飛び越えてしまい、全く別の世界へと迷い込んだ。
若者達はその世界から元の世界へと戻る為に色々と調査をした結果、封じられていた吸血鬼の少女と出会し、ある程度世界について知ることになる。
そして自分達とはまた別の世界から召喚という形でやって来た学生達の中のとある少年と少女を助け、共に元の世界へと帰る為に手を組む――つまりチームを発足することになる。
神への反逆を目的としたチームD×Gではなく、互いに異世界から迷い込んだ異世界人&現地人チームを発足した彼等だったが、困った事にそのチームの一人であり二天龍の片割れこと赤き龍を宿す赤龍帝の青年が、ひょんな理由から近づいてきた兎的な少女のやらかしにより―――――ちょっとグレ始めてしまうことになった。
主な理由としては、青年にとって元の世界で待っている真に愛する悪魔の少女の姿が収められた携帯を踏み潰されて壊された……というそんな理由で。
お陰で普段は気さくなそこら辺の青年である筈の彼は、その兎的な少女にだけは塩対応となり続けることになるし、ある理由があって彼等に近づいた少女の願いもなにも青年だけは嫌がるのだったそうな。
これはそんな話のちょっとした続きである。
現役バリバリのリアス馬鹿であるイッセーと、その親友であるヴァーリの二人がひょんな事から別世界へと流れ着いてそこそこの月日が流れている。
相も変わらず元の世界に戻る方法が見つからないまま、取り敢えずそれっぽい手がかりがありそうな場所を探索したりしているのだが……。
「じゃあ多数決で決めるぞ? そこにいるカオリの友人であるシズクをハイリヒに戻すのに賛成な者は?」
「はい! はいはーい! はいっ!」
「「「「………」」」」
その旅は中々に儘ならない状況ばかりであった。
主に勝手に国から抜け出してイッセーに着いてきてしまった南雲ハジメと白崎香織のクラスメートこと八重樫雫のせいで。
「……イッセー一人だけか?」
「ぐっ!? お……おいゴラ兎女、テメーも黙って手ェ挙げろや? そしたら携帯ぶっ壊してくれた件をちったぁ許してやんぞ?」
「え!? ほ、本当ですか!? じゃ、じゃあ………」
「……。脅迫はやめろイッセー。
どちらにせよお前とシアを入れても二人しかいないし、彼女はこのまま同行して貰う方向になるだけだぞ」
「えぇっ!?」
帰れといくら言っても帰ろうとせず、頑なにイッセーの近くから離れようとしない雫はこうしてごり押し気味に二天龍コンビのパーティに加入することになるのだった。
「ふふ、よろしくね?」
「こちらこそよろしく八重樫さん」
「雫ちゃんと旅が出来るなんて、私も嬉しいよっ!」
「あ、あのアマ、こっち見てしてやったり顔をしてきやがる」
「な、なんかごめんなさい……」
「チッ、別にキミに八つ当たりするつもりはねーよ……はぁ……面倒なのがまた増えた」
携帯の写真でしか見たことは無いものの、イッセーという男性はリアスという赤髪の女性が心底大好きだというのはわかった。
そのリアスの写真が収められた携帯をうっかりシアが踏み壊したせいで、イッセーからの対応が塩を通り越してハバネロであることも理解した。
が、だからといって八重樫雫は一々イッセーの顔色をうかがったりはしない。
「……………」
「写真を眺めるのを止めたということは、ひょっとして修行でもするの?」
「見張りはヴァーリと日替わりでして、見張りがない時はそうしてるんでね」
「なるほど。
では私も付き合わせて貰えないかしら? あの時の感覚を何時でも引き出せるようになりたいし」
「チッ、ハジメか香織ちゃんに聞けや。
何で一々俺が……」
「まあまあ、これから先は同じチームの仲間じゃない。ね?」
「その『ね?』ってのは止めろ。全然可愛くねーわ図々しい」
「むー手厳しいわね。
一応こんな仕種を異性にするのはアナタが初めてなのに」
「じゃあ俺はレアな姿を見た訳だ? かー……なんのお得感も感じねー」
「うーん、やっぱり雫ちゃんってイッセーさんと話すと大分違う……」
「八重樫さんってああいう事をする人だったんだね。
元の世界じゃどちらかと言うと……」
「うぅ……多分私が同じ事をしたら蹴り飛ばされてしまうのに……」
「ヴァーリ……。お願い……ね?」
「は? なにがだ?」
「むぅ……ヴァーリは鈍い」
「????」
若者達の旅は続く。
あくまでも元の時代へと戻る為の旅は、若者達に様々な経験を与える。
しかしながらその代償として要らぬ恨みを買う事も多かった。
「俺はキミを拐った誘拐犯だとよ。
彼等から言えばな」
「寧ろ助けて貰ったばかりか、ここまで面倒を見て貰ったと何度も説明はしたのだけど……」
「そんな説明で『はいそうですか』って納得する訳もねーだろ」
ハジメ達のクラスメート達からは誘拐犯扱いされ。
「で? 俺は何時キミに手を出したんだ? あ?」
「私に言われても……」
「ふざけんなよあのガキ共……! 頼まれたってんな真似なんぞするか……!」
「………………。リアスさんの事を知ってるとはいえ、そこまで否定されると傷つくわね」
相も変わらずハジメに関する現実を受け入れずに、香織と仲良くしているからと絡んだり、イッセーを誘拐犯呼ばわりか、雫に粗相を働いた最低男呼ばわりする事に、そろそろぷっつんしそうになったり……。
「雫も香織もそしてキミも南雲とその兵藤という男に騙されているんだ! 正気に戻――」
「馬鹿にするなァ!!!!」
「ほげぇ!!?」
と、思ってたら寧ろシアが急にガチギレして勇者少年を殴り飛ばしたり……。
「騙されている? そんなものは百も承知です! イッセーさんは私のしたことを許してはくれたものの、基本的に対応が塩ですし! その癖シズクさんには微妙に対応が甘いですし!! 名前すら呼ばずにウサ公呼ばわりですし!!! というか言動からなにから全てか極端過ぎて怖いですよっ!!!! 怖いと思うし意地悪な人だと思ってるますよ!!!! でも気になって仕方ないんです!!!! どうしようもなく気になってしまうんですよぉぉぉっ!!!!」
『…………』
それまでの鬱憤が大爆発するシアに全員圧されてしまう。
「寝るときはヴァーリさんにアリスさんがひっついて仲良さそうだし、ハジメさんはカオリさんと毎晩胸焼けでもしそうなやり取りをするし! そんな状況の中私とシズクさんは特になーんにもございませんよ!! だってイッセーさんは私達よりも違う女性しか見えてないんですからね!! えっ!? これのどこが騙されてるって!!? 寧ろ騙されてても良いから優しくされてみたいですよーーー!!!!」
等と叫びながら既に意識が消しとんでる勇者をゲシゲシと蹴る辺りは、イッセーのやり方を学んでるといえるシアに、勇者の仲間達は呆然する。
「…………。まあ、そういう事。
何故彼が私を誘拐したとか、手を出したとかそんな話になっているのかは敢えて聞かないけど、彼はとことん頑固だし、彼には心に決めている女性が居るのよ。
まあ? そういう意味では確かに私達はこのイッセーに『騙されている』と言えなくもないかしら?」
「ぜぇぜぇ……!
こ、こっちの日々の苦労も知らずに外野がベラベラと……!」
「その女性に一筋過ぎて他の面は割と隙だらけな癖に、全く揺さぶれない悔しさなんてわからないでしょうに」
リアス馬鹿を拗らせてしまってるが故の弊害なのかもしれなかった。
「その内後ろから刺されやしないか? 妾は微妙に心配じゃぞ」
「最初から知ってた事だろうが。
それなのに何を言われようが俺は知らん。クソが、早くリアスちゃんの所に帰りてぇわ。
帰って死ぬほどイチャイチャしたい……」
「……………………。あ、今妾も後ろから刺してやりたくなったぞ」
なまじ一筋過ぎて浮気の気配が無さすぎるタイプに進化しまくったせいで、変なタイプの異性を惹き付けるようになってしまったのは果たして皮肉なのか……。
「ねぇハジメくん? 私って騙されてるのかな?」
「う、うーん……しょっちゅうイッセーからリアスさんとどんな過ごし方をしていたのかって聞いてたせいであまり違和感とか感じなかったけど、改めて客観的に考えると……どうなんだろ?」
「でも私は好きなんだけどな? ハジメくんとこうするの」
「ははは! 当然僕もさ……!」
『』
ナチュラルにクラスメートの男子に絶望を与えまくる二代目イッセー&リアスだったり。
「鈍いヴァーリはきっと師のコカビエルって人に似たせい。
だからイッセーから色々と聞いた。コカビエルって人に対してガブリエルって人がどんなことをやってたのかとか」
「俺はああまで鈍くはないぞ……って、さっきからなんだ?」
「むむ、やっぱり鈍い。
それでも良いけど……ふふっ♪」
終わり
ベリーハード二天龍編の簡易人物紹介。
ユエ(アリス)
ハジメではなくてヴァーリによって名前を付けられたのでアリスになった。
基本ヴァーリにめちゃんこ懐いてるのだが、元々の性格と師が師なので中々うまくはいかないらしい。
南雲ハジメ
変わる前に二天龍コンビに助けられたお陰で性格が初期のままの黒髪な少年。
二人によって徹底的に鍛えられたお陰で性格こそそのままだけど実力は原作ハジメと謙遜なし。
白崎香織
ハジメが落下した直後に本能的に後を追った事で、メインヒロイン化した美少女。
イッセーの入れ知恵のせいでリアスのようなアプローチをしまくるのはご愛敬
シア・ハウリア
イッセーの携帯を壊した事で可愛そうな兎さんにさせられている可哀想な子。
狂犬のようなイッセーにびくびくしつつも逆に気になるお年頃。
八重樫 雫
イッセーの異次元パワーに運悪くド嵌まりしてしまいし哀れな少女。
狂犬みたいなイッセーをある程度コントロールできる現状唯一の少女なのかは不明。
ヴァーリ
歴代最強最悪の白龍皇。
師にも親にも恵まれているので実はリア充
イッセー
アルティメットリアス馬鹿な赤龍帝
リアス以外の女なぞ眼中ゼロ! と、まるで一昔前の硬派な番長のような精神をしている。