色々なIF集   作:超人類DX

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……。あれ、主人公やんけみたいな?

これでおしまいです。

続きなんて需要も無さそうなんで考えてません。
※整理してたら消しちゃったので貼り直します



お人好しなライザーくん

 対義互とは即ち、ひっくり返すスキルだ。

 使い方としては真水をお湯へとひっくり返したり、炎を氷にひっくり返して攻撃したり、受けたダメージをひっくり返して相手に返したり。

 

 簡単にいえば、後出しジャンケンというべきかな。

 

 

「菓子折りはやはり人間界のモノに限るぜ」

 

 

 さて、そんな俺……ライザー・フェニックスは今人間界の街にやって来ている。

 理由としては、まず親父のせいでご迷惑を掛けたグレモリー家の娘さんに近々謝罪と共に渡す菓子折りの選定と、一誠とレイヴェルに顔見せしつつフラフラと人間界をふらつく事だ。

 

 勿論これは俺個人の用事なので、全員して大袈裟に付いてくると言ってたアイツ等――一応眷属達にはお留守番をして貰っている。

 いやな、別に連れても良いんだけど、大の男が女の子ばっか引き連れて歩くなんて、何か見せつけてるみたいでみっとも無いし、変な誤解をされたらアイツ等が可哀想だからな。

 お土産の約束をしてお留守番をして貰うに限るのだ……めっちゃ何故か大袈裟に泣かれたけど。

 

 

「お兄さーん、良い女の子いるよ~?」

 

「あ、すいません……美女とか美少女はもう間に合ってるんで」

 

 

 しかし何でだろうな……。

 俺は絡まれやすい顔でもしてるのか、ガタイの良い呼子に声を掛けられやすい。

 如何にも人間で云うところの西洋の顔立ちなもんだから、癖も無い流暢な日本語で返すと凄い驚かれるし。

 

 

「洋菓子か、それとも和菓子か……裏をかいて煎餅……うーん」

 

 

 そんな訳で何時来ても飽きない人間界の日本で菓子屋を梯子しつつ、呼子を交わしていた時だったかな。

 

 

「あ、あの……道を――」

 

「の、ノーノー! スピークイングリッシュ!」

 

「あ――」

 

 

 ふとこんな歓楽街に似つかわしくない格好をした女の子が、そこ行く人間に話し掛けてはスルーされているという光景に出くわした。

 教会のシスターなのか……しかも西洋の顔立ちからして日本人でなく、更には日本言語を話せずにオロオロと困った様子で辺りをキョロキョロしているじゃないか。

 それを見てしまった俺は一瞬声を掛けてしまおうかと思った。

 

 思ったが……。

 

 

『ライザーの兄貴って、誤解されてるけどドの付くお人好しというか、アンタ分かってるのか? 正直その内刺されんぜ?』

 

 

 と、前に一誠とレイヴェルから案内されたファミレスで、あんまり美味しくはなかったハンバーグステーキを食べてる最中に言われた時の事を思い出し、半開きになった口をそのまま閉じた。

 

 

「うー……あ、あのっ!」

 

「あ、アムソーリーヒゲソーリーオブチソーリー!」

 

「うぅ……ぁ、あのっ!」

 

「アイアムレジェンド! フーテンノトラ!」

 

 

 そう……そうだ。

 助ける義理なんて無いし、ましてや服装からシスターだぜ? 滅されたら怖いし……うん……うん。

 

 

「あ! あ、あの……! そこの金髪の……」

 

「ノーセンキュー!!」

 

 

 俺はもう余計な真似はしない!

 第一アイツ等にしても助けたなんて聞こえは良いけど、突き詰めたら所詮俺の自己満足だもの。

 ああ、俺はライザー・フェニックス……人間を利用する悪魔さ……だから知らん!

 

 

「あ……ぅ……」

 

「……………」

 

 

 知らん! 知らん! 知らぬ!

 

 

「あれー? キミ、こんな所でなにやってんのー?」

 

「え? 貴方は……?」

 

「あらら? 日本語無理系? じゃあおじさんが良いところに連れてって――」

 

 

 ……………。だぁぁもう!!!

 

 

「な、なんだよアンタ……」

 

「あ、さ、さっきの……」

 

「……。すいません、この子俺の連れなんですよ……ははははー……行くぞ」

 

「え!? あ……」

 

 

 くそ、如何にもなゲス顔の男に声を掛けられたら流石に見過ごすのは無理だわ……くそぉ。

 

 

 

 

 ライザー・フェニックスは美男子だ。

 親譲りの金髪と少し目付きの悪い、ワイルド系の所謂イケメンだ。

 しかしその容姿と好んで着る服装が服装故に、出で立ちが人間で云う所のホストみたいなそれであり、その風貌故と自信が擁する眷属達が全員女性のみで構成されているという事もあって、色々と誤解をされやすい男である。

 

 此度勃発したリアス・グレモリーとの縁談の件にしても、リアスから全力で嫌がられてるというのもまた『遊んでる』という噂が一人歩きした結果と、ちょくちょく会合で顔を合わせた時のリアスの抱いたイメージが招いた結果だった。

 

 

「ちゃんと噛めよ? ったく、どうして日本語も儘ならないのにこの国に来たんだよ」

 

 

 人間界の街中にあるなんの変哲もないファミレス。

 学校帰りの学生集団の喧しいノリやら、家族連れの一家だとか、一人飯を楽しんでる者とかとかとか……様々なタイプの人間達でそれなりに繁盛しているこのお店は、以前義弟の一誠と実妹によって連れてこられた、ライザーの隠れお気に入りスポットの一つだ。

 

 一つ一つの料理はバイトが作るような簡単なモノで、大半が冷凍物を解答して出すだけの安物だで、フェニックス家の料理悪魔に常日頃混ざって作るエシルの料理に比べたらどうしようもなく劣るものだが、ライザーとしては未来の弟・妹夫婦と駄弁れる場所としては気に入っており、そんな場所に今日は悪魔としては普段ほぼ関わり皆無の人間――しかも聞けば見習いシスターらしい少女にご飯を奢りながら、自分は以前一誠から教えられたドリンクバー混ぜ混ぜジュースに口を付けてた。

 

 

「あ、やべ……失敗だなこのブレンド」

 

 

 エシルが見れば激怒するような、コーラやらメロンソーダやらオレンジジュースやらジンジャーエールやらを混ぜ混ぜした謎味で謎色の飲み物に顔をしかめるライザーは、聞けば朝から今の今まで……ちょうど日没前の今までご飯も食べられずに道に迷っていた見習いシスターの少女がペコペコしながらご飯を食べまくる姿をジーッと見つめる。

 

 端から見れば、遊んでそうなチャラ男がナンパして連れ込んだ様にしか見えない絵面だが、二人の容姿はまさに西洋人だった故に誰も突っ込む事は無く、ただただ自分を助けてくれてありがとうございますと何度も何度もしつこいくらいに礼を言ってくる少女に、ライザーは『あーぁ、なーにやってんだろ俺』と苦笑いの表情になる。

 

 

「教会ねー……」

 

「はい、この街にあると派遣されまして……」

 

「ふーん」

 

 

 グレモリー管轄の領土に教会ね……と、内心思いつつも、ストローで氷を突っつきながらボーッと教会ねとだけ呟くライザーにフードを外して露になった、自分と少々明るさの違う金髪緑眼の少女は、すっかり警戒心も無く自分の経緯をペラペラと語る。

 

 

「確か外れの方に一件あったのを、前に見たっけな」

 

「ほ、本当ですか!? それは何処の外れでしょうか?」

 

「………」

 

 

 教会に行きたい。

 ならば別に道案内くらいはしても良い。

 良いのだが、教えて欲しそうに――多分無自覚に上目遣いになる少女に特に何も思うこともなくライザーは、その教会について考えていた。

 

 

(……。あの教会、どう見ても『まとも』な連中がやってる様には見えなかったな……。

グレモリー家管轄内だし、無関係だから俺もレイヴェルも一誠も知らんぷりしたけど……)

 

 

 思い返すは、弟と妹と三人で街中を練り歩き、その最中外れの方で目にした寂れまくりな教会。

 この街に教会といえばあそこ位しか無く、恐らく少女の目的地もそこであってるだろう。

 だが、さっきから少女の口から語られるこの街に派遣される経緯がどうにも胡散臭く、天使や天使の管理する教会人間達の構図は詳しくは知らないが、たった一人の少女を、たった一人で、碌なサポートも無いのに行けとだけ告げるとは何と無くライザーの勘としては無いと感じた。

 

 

「あの……教えてはくれませんか?」

 

「え? あ……あー……別に教えるのは構わないよ、オーケオーケー多少の縁だし、それ食べ終えたら案内くらいはしてあげるよ」

 

 

 道を教えてくれと懇願したら、急に沈黙してしまう親切な方と見た目で判断しないタイプのシスター少女が不安そうな表情となるのを、ライザーはヘラヘラと笑いながら誤魔化す。

 

 

(ま、良いか。俺は単に道案内をしただけ……うん、それ以上は関係ない)

 

 

 何かの陰謀があってこの少女を呼び寄せた者が居たとしても、それは最早ライザーの干渉する所でないと、言い聞かせながらさっさと終わらせる事にした。

 

 

「見習いシスター頑張れよ……幸運を祈るぜお嬢さん」

 

「え? は、はい……ありがとうございます!」

 

 

 悪魔に幸運を祈られても逆効果かもしれねーけど……と失敗ブレンドのジュースに口をつけながら……。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳なんだ。どう思う?」

 

「どうって……どうも思わないが、アンタってやっぱお人好しだな」

 

「ライザーお兄様らしいといえばらしいですが……その内変な詐欺に引っ掛からないかと心配になりますわ」

 

 

 結局全部知らんぷりのまま、望み通り見習いシスターを教会に案内した後、弟と妹が人間界の学校に通うために借りた安いマンションの自宅へと足を向けたライザーは、さっきまであった事を説明し、何と無く意見を求めてみた。

 案の定、弟の一誠と妹のレイヴェルは、呆れてるものの何処か微笑ましそうな表情をしており、ライザーは何と無く二人から目をそらした。

 

 

「いや……何か見てて痛々しかったというか、変な奴に連れてかれそうなのを見ちゃったからよ」

 

 

 昔からライザーは家族の間で『慈愛のグレモリーより慈愛に溢れてる』なんて、本人からすればそんな自覚もない事を言われ続けてきた筋金入りのお人好しだ。

 

 容姿で下僕にしたと勝手に噂されてる自身の眷属にしても、ライザーからしたら其々暗い過去を経て打ちのめされた姿を知ったからこそ、自立出来るようにサポートしようと考えて、保護のつもりで眷属にしただけだと思ってる。

 まあ、実際は自立しようとも眷属達はライザーから離れるつもりは誰一人として存在しない訳だが。

 

 

「で、さ……あの教会って前に見た時も、今日案内した時も堕天使の気配がしたんだがよ……あれ、本当にちゃんと教会として機能してるのか?」

 

 

 そんなお人好しだからこそ、それを知る者達からは絶対なる信頼を寄せられる『地を統べる不死鳥』ことライザーは、見習いシスターの案内をし、例の寂れまくりな教会の近くまで赴いた際に感じた気配について、自分より人間界の暮らしが長い妹夫婦に問い掛けつつ紅茶に口をつける。

 自分は案内しただけと考えたものの、やはり気になるものは気になるらしい。

 

 

「どうかな、俺も興味ねーし良くは知らないな。

が、隠れ蓑としては最適に思える場所ではあるかもね」

 

「例えば、何かを目的にした集団の潜伏場所……みたいな」

 

「……。堕天使が人間に友好的なのはあんなり聞いた事は無いとなれば、そうなるのか。

でも此処はグレモリー家の管轄だろ? だったらいくら堕天使でも下手な真似は出来ないと思うが」

 

「どうかね……俺達と歳も変わらないのが任されてる事に地味な不安を感じるけどな。

はぐれ悪魔も最近多くなったらしいし」

 

 

 リアス・グレモリーが管理を任されてるこの街は、彼女が管理を命じられた年から緩やかに治安が悪くなっている現実はある。

 とはいえ、あの若さで任されたのと、緩やかにながらある程度は治安維持が出来てるので決してダメだという事は無いと、碌に関わることが無い一誠も、駒王学園に入学する際に義理通しで挨拶をした事のあるレイヴェルも、婚約者って事になってしまったライザーもリアス・グレモリーの抱える責任の大きさ、そしてそれに応え続けてる手腕を素直に凄いと認めている。

 

 恐らく堕天使にしても、いくら管理を任されたとしても『何もしてないのに仕掛けたら外交問題に発展』してしまうが故に、敢えて見て見ぬフリをするしか出来なかったと解釈した方が自然だろう。

 

 

「ま、責任を問われるのは誰だって嫌だしな」

 

「ええ、最近どうやら新しく眷属に加えた方の教育に忙しいみたいですし」

 

「ほー? 新しく転生させたのか」

 

 

 故に三人はリアス・グレモリーに何を思うことも無かった。

 いや実際は『どうとも思ってない』と云った方が正しいというべきか、薄情だというべきか……。

 

 

「あー……何か学園のエロコンビがどうとか言ってたね」

 

「ええ………あ」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 

 とにかくお人好しライザーのお人好し行動後に残る妙なしこりを抱えたまま、話は最近リアス・グレモリーが転生させた二人の転生悪魔の話になった。

 その際、ふとレイヴェルが思い出したかの様な顔で一言が……。

 

 

「いえ、今思い出した事が一つ。

そのコンビさんについて、クラスメートにてグレモリー先輩の眷属である塔城小猫さんから聞いたのですが――

 

 

 

確かお二人には神器(セイクリッドギア)が宿っており、その神器を邪魔に思った堕天使の女に一度殺されて転生した……というのを聞いたのを思い出しました」

 

「おいおい、堕天使アウトじゃん。

その堕天使がもしライザー兄貴が道案内した教会に潜んでたりしたらやばくね?」

 

「………。確かにヤバイな、チッ……必要以上に干渉しないようにと探らなかったが、あの子は神器持ちだったのか?」

 

 

 ライザーのお人好し指数を図らずとも上昇させる切っ掛けになるとは知らず。

 

 

 

 

 

 

 それから日は流れ、ある日の夜。

 リアス・グレモリー達は唖然とした。

 自分達の管轄内で探りを入れていた堕天使達がようやく、一人の神器持ちの人間を相手に尻尾を出し、やっとこさ討伐に向かう為に、最近加入させた元浜と松田という二人の兵士を加えた眷属達と共に教会へと乗り込んだ時に見せられた……その光景に。

 

 

不死鳥の憤怒(フェニックス・イーラー)

 

重力の鉄槌(トゥール・グラヴィティ)

 

 

「な、何よ……これ……!」

 

 

 額と両の手に橙色と赤色の炎を灯し、襲い掛かるはぐれ悪魔祓いを次々と加減気味に焼き散らして行く二つの影……。

 そして……。

 

 

「起きろドライグ」

 

『Boost!』

 

龍帝の幻影(ドラゴン・ファントム)

 

 

 その腕に神滅具の力を宿しながら敵を蹴散らす……龍帝の姿に、リアス達はただただ絶句した。

 

 

「お、おい……兵藤とレイヴェルたんだよな……?」

 

「な、何でレイナーレと戦ってんだよ…」

 

 

 唯一新参の二人の転生悪魔は、三人の内の二人の姿に見覚えがあり、リアス達と同じく呆然としながら、只のムカつくバカップルだと思っていただけにショックを隠せなかった。

 

 

「くっ……! 余計な事を……!」

 

 

 次々となぎ倒される敵に、唖然としたリアスはやがてその顔を怒りの形相へと歪める。

 確かにフェニックス家は悪魔で、末っ子のレイヴェルが学園に通いたいと申したから通う事だけは許可した。

 だが、街の治安維持に対して首を突っ込む事に許可した覚えは無く、自分の任された領土に茶々を入れられた気分にさせられたリアスは、息はあるものの完全に叩き潰された堕天使・レイナーレとその一味をふん縛った所に大股で近付き、声を荒げた。

 

 

「何を、してるのよアナタ達は!」

 

 

 呻き声をあげながら縛られてるレイナーレ一味を見下ろしてる所に突撃すると、三人は揃いも揃って同じような目をしながらリアスへと振り向く。

 

 

「えっと、リアス嬢。なんていうか……すまん」

 

「タイミング悪いなこりゃ」

 

「申し訳ございません、リアス・グレモリー様。

出過ぎた真似をした自覚はありますが、何分此方もそれ相応の理由があり、重ねて時間が無くこの様な行動に移させて頂きました」

 

「っ……!」

 

 

 奇人・変人・異常

 元・ソロモン72柱の悪魔達の中でもおかしい人格をしている一家は、冥界貴族の間でも有名だった。

 故に突拍子の無い行動もある程度監視していたつもりだったのに、蓋を開けたら勝手な事をしでかした。

 

 この地の管理を任されたリアスとしてはプライドを著しく傷付けられたのもそうだったが、何より初対面から気に食わない処か、勝手に親同士で決められた婚約相手の男の、何とも言えない顔して見てくるのが益々気に入らない。

 

 

「此方を見ないでくれるかしらライザー? というより何故貴方が此所にいるのかしら?」

 

 

 故に刺々しい。

 新参兵士二人の少年も驚くほどの敵意に溢れた表情と声は容赦なくライザーを責めるが、本人はあんまり気にしてないのか、若干苦笑いをしていた。

 

 

「いや……本当は近々そっちの話で来る予定があったんだけど、ちょっとね」

 

「………っ!」

 

 

 よく通る低い声で小さく笑うライザーが益々気に入らず、嫌悪を丸出しに睨んでありったけの文句を言ってやろうと口を開き掛けたリアスだったが、それに割って入る様に赤龍帝と判明したレイヴェルバカこと一誠が、その手に輝く塊を手にライザーに話しかける。

 

 

「おいライザー兄貴、やっぱりこの堕天使が引っこ抜いたみたいだ。

今レイヴェルに調べさせたら持ってた」

 

「何? チッ、てことはあの子はもう……」

 

「ええ、趣味の悪いことに祭壇に居ますが……息はしていません」

 

 

 一誠の掌の上に浮かぶソレを受け取ったライザーは、忌々しそうに舌打ちをしながら半壊した教会の奥へと走る。

 

 

「ちょっと待ちなさい! 勝手な事は許さないわよ!」

 

 

 慌てて追い掛けるリアス達だが、三人はまるで聞いておらず、教会奥の祭壇の上に横たわり、眠るような表情の少女をライザーは抱き起こし、その胸元に一誠から受け取った……彼女が奪われた神器を入れ込む。

 

「やはり駄目か……」

 

 

 本来の持ち主のもとへと帰った少女の神器だが、肝心の少女の命は失われたまま。

 

 

「その子の事は調査の上で把握してるわ。

神器を抜かれた人間は死ぬ……けど、方法はまだあるわよ」

 

 

 少女とライザーに何の関係が? と一瞬首を傾げたリアスだったが、命を吹き返す方法はあると手に悪魔の駒を生成しつつ、眉尻を下げてるライザーに少女の身を渡しなさいと命じようとした。

 

 が……。

 

 

「おい、不粋な真似は笑えないなグレモリー先輩よ」

 

「っ!?」

 

 

 それに待ったを掛けたのは、此度にて赤龍帝と発覚し、普段はレイヴェル・フェニックスに犬の如く付きまとう変人人間……兵藤一誠が左腕に赤龍帝の籠手を携えながら、道を阻んだ。

 

 

「不粋ですって? 私は奪われた彼女の命を取り戻すつもりなのよ?」

 

「悪魔に転生させてだろ? で、下僕にでもするのかい?

おいおい、それじゃあシスターである彼女からすれば生き地獄じゃねーか」

 

「それでも何も知らずに殺されたよりはマシでしょう?

退きなさい、それ以上邪魔をするなら――

 

 

 

 

禁手化(バランスブレイク)

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 邪魔をするなら……そう口に出そうとした瞬間、リアスの心臓は鷲掴みにされたかの様な恐怖を即座に植え付けられた。

 元々この少年もまあ変人で、異常な側面があった。

 まさか赤龍帝だとは思わなかったが、この度のイザコザでそれが発覚した。

 

 神滅具の一つ、赤龍帝の籠手(ブースデッドギア)

 使用者の力を時間と共に倍加させる力は強大であり、そして今自分の目の前で更なる姿を見せ付けてきた。

 炎の様に真っ赤に燃え上がる鎧が一誠の全身を覆い、その覇気は全てを平伏させる。

 

 

「な、何よ……!

私に何をするつもりなの……!?」

 

「別に何も……? 黙って見てれば何もしないつもりだ」

 

 

 それはリアス眷属達対しても告げた最終通告。

 勝手に事をやらしか自覚はある……だが、最早ここまでやらかしたのであるなら、最後まで勝手にしてやる。

 

 赤き龍帝の鎧を纏った一誠の圧力に、新参の兵士の少年は泡を吹きながら気絶し、残りのリアスを含めた全員も上から押さえ付けられる様な重苦しい殺意に、全身から大量の汗を流しながら膝を付く。

 

 

「そら黙らせたぜ兄貴、さっさと入れ替えちまえや」

 

「……。後で超どやさせるな俺達――まあ、いいや」

 

「元から覚悟はしてますから……はぁ、この歳になってお母様にお尻を叩かれてしまうとは……」

 

 

 動けないリアス達を他所に、小さくため息を吐いたライザーは、息の無い少女の眼前に手を翳した。

 勿論リアス達からしたら意味の分からない行動だが……全てはフェニックス家のみぞ知る。

 

 

対義互(リバース・リバース・リバース)……この子の失った命と、俺の命を……『入れ替える』」

 

 

 傷付いた者の傷を代わりに受け止める……お人好し男の真意を。

 

 

「っ……不死鳥故の使い方だ……ぜ……」

 

 

 命を入れ替えると告げた瞬間、ライザーの顔色が死人の様に蒼白となり、そのままフラリとその場に崩れ落ちようとするのを一誠とレイヴェルが支える。

 対義互(リバース・リバース・リバース)全ての事象を入れ替える人外の分身の一人であるライザー・フェニックスのお人好し故に覚醒した能力(スキル)は、他人の失った命を自分の命とを入れ替えて蘇らせる事すら可能だった。

 

 代償は勿論、入れ替える事で自分の命が無くなる事だが……憤怒の女帝と業火の不死鳥の血を持つ男は不死身だった。

 

 

「っは!?」

 

「あ、帰って来たな」

 

「お帰りなさいお兄様」

 

「お、おう……安心院さんにまた笑われちまったよ」

 

 

 失った命は不死鳥の如く、再びライザーをこの世に降臨させた……何故か罰の悪そうな顔で。

 そして……

 

「ぅ………あ……?」

 

「なっ!?」

 

 

 失った筈の少女の命もまた……ライザーの命を獲てこの世に復活する。

 

 

「こ、ここは……? あ、あれ……私は確か……」

 

「そ、そんなバカなことが!?

フェニックスは確かに不死鳥の一族だけど、他人を蘇生させるなんて……!」

 

 

 キョトンとした顔で身体を起こす少女の姿に狼狽えるリアスの声が木霊する。

 しかしそのカラクリを知る三人は決して語らず、暫く辺りを見渡していた少女は、左右から肩を貸されながら立っていた……悪魔だと知って逃げてしまった筈なのに目の前でヘラヘラ笑ってる青年と目が合い……。

 

 

「ラ、ライザーさん……?」

 

「おうお嬢さん、目覚めはどうだい?」

 

 

 再び再会を果たす。

 

 

 

 それから数日が経った。

 案の定ライザー、一誠、レイヴェルの三人は思う存分叱られてしまい、リアス・グレモリーにも土下座の勢いで謝罪をしまくりと、お人好しの青年が起こした行動の代償を思う存分払っていた。

 

 

「で、その例の子は保護することにしたのか?」

 

「まぁ、な……。

結局派遣ってのも堕天使の嘯きだったらしいし、何よりあの子は教会から魔女と言われて厄介者扱いされてたらしいからな」

 

「悪魔を治療できる神器故に、ですか……」

 

「そうだ……。

しかもその悪魔にも狙われている様だし、現状出来るのか眷属達と一緒に自立できるまで面倒を見ることだ」

 

 

 ヒリヒリと痛むお尻を仲良く三人で擦りながら、川の土手で缶ジュースパーティーをする三兄妹。

 怒られて怒られて怒られて、密かに両親から褒められつつもやっぱり怒られて。

 リアス・グレモリーからは更に敵意を向けられてと、代償の大きな騒動は漸く落ち着きへと向かっており、エシルから仲良くお尻ペンペンされた三兄妹の表情は実にまったりとしていた。

 

 

「まさか眷属にすんのか?」

 

「それこそまさかだろ、あの子は追われたとはいえ……そして神が死んだと知ったとはいえ、それでもシスターなんだぜ? 寧ろ転生なんて邪魔にしかならんだろ?」

 

「それはそうでしょうが――」

 

 

 真実を告げられた少女の絶望すら、このお人好し男は不器用ながらも根気強く励ましまくった。

 悪魔が神の信望者を励ますとは奇妙な話だが、やはりそこはフェニックス家。

 

 基本的に種族の違いなんてどうでも良いと真面目に言っちゃう一族故に、ライザーは少女を励まし続けた。

 その結果――

 

 

「ライザーさま~!!」

 

「む……終わったのかアーシア」

 

「はい! これでイッセーさんとレイヴェルさんと一緒に学校に通えます!」

 

「そうか。

ま、普段はレイヴェルと一誠が付いてるから大丈夫だけど……頑張れよ?」

 

「はい! えへへ……」

 

 

 

 

「おい、マジで刺されないかと弟としては果てしなく心配になるんだけど」

 

「……。お兄様が保護した眷属の皆さんと同じ表情ですものね……アーシアさん」

 

 

 少女……アーシアはすっかりライザーに懐いてしまったとさ。

 

 

 アーシア・アルジェント

 

 所属・元教会見習いシスター

    現フェニックス家預かりの人間

 

 能力・聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)

 潜在能力・晴と森の波動

 

 備考・お人好し男に救われた優しき少女。

 

 




補足

ライザーさんのスキルは入れ替えてしまう能力です。

系統としては過負荷(マイナス)よりのスキルで、ライザーさんの種族としての力がある故に120%発揮できてます。


その2
独断でやった事には変わり無いので、三人は仲良く叱られました。

その3
基本一誠は番犬気質なので、フェニックス家に属する者以外は、某自称右腕の嵐男みたいに噛みつきます。

その4
炎の元ネタは例の家庭教師ヒットマンです。

レイヴェルたんは大空7属性
ライザーくんは大地の7属性

 覚醒した場合は境地に達して光速化。


その5
アーシアたんはライザーくんに懐きまして、眷属さん達とも仲良く意外にもやってます。
ただ、眷属じゃないので微妙にコンプレックスを抱き始めて……。

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