積極的に荷担していなかろうと、南雲ハジメが元の世界における『厄介な立場』である事を知るが故に見てみぬフリをしてきた。
だこらこそ、姿や雰囲気が大分変わってしまったとはいえど、常に虐められているひ弱な少年というイメージがどうにも拭えないクラスメート達でも、この光景を目にしてしまった以上、その認識を改めなければならないと思った。
―――電磁加速式ガトリング砲・メツェライ―――
今の南雲ハジメは、もう虐められるような男ではないのだと。
「なるほど……! 確かに今試したら錬成の力そのものが底上げされている……!」
「私も全身から力が漲ってきます……!」
「どれだけ倍加を掛けられるかは当人次第だ。
それと限界まで倍加させた後は『インターバル』があることを今は覚えるんだ」
そんなハジメですら敬服に近い接し方をするあの男もまた……。
「わかった……! じゃあ行くぞシア! イッセー!!」
「はい!」
「リアスちゃんとドライグ以外の誰かと一緒に戦う日が来るなんてな……。
生きてりゃあこういうこともあるって事だな……!」
その気になればある程度のパワーを込めたドラゴン波等で大群を塵にすることは出来なくもない。
だが、それをしてしまうと下手をすれば町の周辺全土、もしくはこの星すらも破壊しかねないので、イッセーとしては珍しく各個撃破のスタンスで戦っていた。
そしてどうせならと、ハジメ達がドライグから分け与えられた力の基本的な使い方のレクチャー等をしつつ、魔物の群の数を削っていく。
「凄い、一度の倍加だけで自分でも信じられないくらいに魔力が強くなってる……!」
「これで本元のドライグの欠片でしかないというのだから凄まじいの」
後方ではユエとティオが、倍加させた魔力を駆使して支援をしている。
「取り敢えず地面を消し飛ばして橋の様な一本道にした。
これで魔物達がこっちに来る為には三人を倒さないといけない」
「うむ、そして空を飛ぶ魔物は妾達が撃ち落とす」
既に前線に居るハジメ、シア、イッセーによって半数以上の魔物達が倒されていて、今尚三人が其々のやり方で魔物達を倒している姿を確認しながらユエは唯一ドライグの力以外のモノを貰っているティオに問う。
「それで、イッセーから渡されたリアス・グレモリーの力ってどんな力なの?」
ティオのみ渡されたリアス・グレモリーがかつて持っていた力のことが気になるユエの質問に、ティオは困った顔をする。
「それがまだわからないのじゃ。
時間が無くてまだイッセーに教えて貰えてもなくて……」
「イッセーが言ってた『消滅』の魔法じゃないの……?」
「そうではないらしい。
曰く、『種族としての壁を取り払うモノ』――らしい」
「?」
消滅の魔力とは違うナニかであるのは間違いないが、時間がなくてまだその全貌を教えられていないので使えないと返すティオにユエはなるほどと納得する。
今尚愛しているとイッセーが言う存在の力を渡している以上、少なくとも自分達よりもティオに対して心を開いているのだけは間違いないので、何にせよ安心ではあるとユエは『むむむ』と自分の胸に手を置きながら、預けられた力を探ろうとしているティオを見て薄く微笑む。
「少しずつ、ティオの気持ちがイッセーに伝わってきていると思う」
「そ、そうかな? そう言われるととても嬉しいのじゃ。
出会った当初は素っ気ないを通り越して、妾に関心すら持ってくれなかったからの……」
「イッセーみたいな人は、鬱陶しいくらいに押さないといけない」
「うむ、妾もそう思って、殺されても構わないと覚悟して押しに押しまくってやったのじゃ。
どうやっても妾ではリアス・グレモリーには勝てないしの……」
「………」
「しかし、それで良いのじゃ。
この先永遠にイッセーがリアス・グレモリーだけを愛し続けていても、その傍に居ることができればそれで……」
空を跳ぶイッセーの周辺に消滅の魔力の球体が衛星のように展開し、イッセーの周辺を旋回する消滅の魔力が意思に応じるように魔物達の肉体を消滅していく光景を見つめながら、ティオは英雄以前に、独りとなってしまった男への想いを語る。
「他の者にとっては災害のような存在なのかもしれない。
他の者からすれば異常な存在なのかもしれない。
この世界にとっての『猛毒』なのかもしれない。
しかしそれでも、妾はイッセーの傍で生きてみたいのじゃ……」
異界の龍帝等と一族の間で伝えられてきた男のその実は、愛する者を失って独りぼっちだった。
愛する者達を失った事で生きる気力を失った只の人であった。
「それが、この世界に寝ていたイッセーを無理矢理叩き起こして呼び寄せた妾の掴んだ生きる意味なのじゃ」
消滅の魔力を駆使して次々と魔物達を消し飛ばしているイッセーを見つめながらティオは『生きる理由』を語る。
「きっと、リアス・グレモリーも妾と同じ事を想っていたのじゃと、今ならわかる気がするのじゃよ……」
「………。ホントにイッセーが大好きなんだね。
でも意外とイッセーって受け入れた相手への独占欲とか凄そうだけど……」
「寧ろ妾からしたら望む所じゃ。
なんなら誰も知らない牢獄のような場所に閉じ込められて、死ぬまでイッセーに飼われるような生活とか……」
「ごめん、訂正する。ティオも大概……」
シアとハジメもイッセーに負けじと魔物達を殲滅していく姿を見守りつつ、空を跳ぶ魔物を魔法で撃ち落とすユエがなんとも言えない顔をする。
「そういえば前に聞いた事があったの、『昔、俺を脅威に感じたか、それとも取り込みたかったのか、くだらねぇハニートラップを仕掛けてきたのが居たが、そのクソ雌が目の前でリアスちゃんを無能だなんだと言いやがったから、二秒でひき肉にしてやった』と……」
「あー……イッセーらしいかも」
「そうじゃろう? 妾にもそれくらいの『熱』を向けてくれないかとは思ってはいるのじゃが……」
徹底的な区別主義者として生きてきたのが垣間見えるエピソードにユエも思わず苦笑いと共に納得する。
ハジメの教師だと名乗っていた畑山愛子とは間違いなく相容れないなと。
「極端な話、他人に石とか投げつけられても平然としているイッセーが珍しく罵倒し始めた時はびっくりはしたけど納得もした」
「……。そういう生き方しか出来なかったイッセーにしてみれば、自分の生き様を否定されたようなものじゃったからな。
それでも何時ものイッセーならば、そこまで腹も立てなかった筈じゃが、やはりドライグとの件があってか機嫌も悪かったのじゃろうな……」
目が複数ある狼のような魔物をシアと共に殴り飛ばしていたイッセーが、その左腕に赤龍帝としての証でもある籠手を纏い、群れに向かって拳を突き出しながら、『龍拳・爆撃!』という掛け声と共に巨大な赤い龍の形をしたエネルギーが放出し、一気に数万の軍勢を喰らい尽くす。
「『俺の生き方は俺が決めてきた。誰かの決めた正しさなんぞに興味はない』………か」
「だからこそイッセーは何時も言うのじゃよ。『俺は英雄なんかじゃない。これまでも、これからも』とな」
言い方を変えれば誰よりも自由でありたくて、誰よりも身勝手で、誰よりも狂った生き方をしてきたからこそ、畑山愛子の考え方には同調もできなかったのだ。
龍の一撃により、大地を極力破壊せずに魔物の群れを全滅させることに成功し、イッセー、シア、ハジメが拳を付き合わせて勝利を軽く祝っている姿をティオとユエは見るのだった。
聞いていない。
いや、あり得ない。
開始から僅か15分足らずで15万という魔物の大群を全滅させられたというその現実が信じられなかった。
とりわけふざけているのは、あの見た目が完全に厨二化している南雲らしき男と――――――茶髪の男だ。
特にあの茶髪の男はなんなんだ。
あれはまるで自分が元の世界で妄想した力をそのまま体現したかのような――――――――
「よぉ……」
「楽しそうじゃねーか小僧?」
「っ!?」
だからこそ少年はその場から逃げることを忘れてしまった。
踊るように魔物の群れを次々と葬り、なんか凄い必殺技で全滅までさせた彼等に目を奪われてしまったから。
だからこそ異世界ファンタジーの主人公に夢見た清水幸利は――
「ごぇあっ!?」
「南雲くんの知り合いみたいだから殺しはしねーよ。
だがな……ちょいと聞きたいことがあるんでな」
異界にて主人公であることを知らずに奪い取られ、そこから主人公であることを否定しながら神をも葬り去った龍の帝王の逆鱗に触れてしまっていることは知らないまま、内臓を破壊する程の一撃をボディに叩き込まれ、血反吐を吐きながら意識を失うのだった。
大群を殲滅させ、ついでに行方不明になっていたクラスメートを発見したハジメだが、限りなくこの清水という奴が今回の騒動を引き起こした犯人であろうと考えていた。
「ちょっと待て、加減が出来てねーぞイッセー。
このままだとコイツ内臓破裂で死ぬぞ」
「チッ……やらかした。
取り敢えず応急手当くらいはしとくか、色々と吐かせなきゃならないしな」
「ど、どす黒い血が口から泡のように出てきてますけど……」
その上での問題は、果たしてこの清水がドライグを操ったさていたのかだ。
これでもしもドライグまでも操ってたのならば――もはやイッセーは止まらないだろうし、何の躊躇いもなく清水を殺すだろう。
「ど、どうして清水君が……!?」
「心配しなくても死にはしない。
取り敢えず処置は済ませたから後は意識が戻るのを待つだけだ」
「……………」
イッセーのボディブロー一発で絶命寸前になった――という事実は伏せつつ、清水を発見したと報告したハジメは、パニックになる愛子やクラスメート達に今回の件の黒幕が清水であったことを話す。
イッセーはそんな清水や愛子達を『そこら辺に落ちていたボールペンのキャップでも見るような目』をしながら見ている。
「あ、あの……」
「………………あ?」
見るからに不機嫌であることは、イッセーを知らない者でもわかるのだが、さすがに今回の騒動に対して何も言わないという訳にはいかなかった愛子が凄まじく怯えながら声を掛ける。
「な、南雲君達と一緒に戦ってくれて……ありがとうございます」
筋だけは通したかった愛子が頭を下げるが、イッセーの返答は『無』であり、普通に傷ついた顔をする愛子を見たウィリアムが声をあらげた。
「貴様! 愛子を無視する等と―――――」
そのまま剣でも抜きかねない勢いで詰め寄ってきたウィリアムだが、イッセーの間合いに入ったその瞬間、ウィリアムの視界は強制的に空へと向けさせられていた。
「頼むから、今は話しかけたりしないでくれないか? 間違ってぶっ殺してしまいそうだからさ」
「ぐ……ぇ……ぇぇ……!!?」
「ひっ!? や、やめてください!」
片手でウィリアムを締め上げながら殺意を滲ませ始めるイッセーに、ハジメ達ですら寒気と恐怖を感じる。
「ふん」
とはいえ、一応分別はあるらしく、それだけを言ってからイッセーは呆気なく締め上げる手を緩めてウィリアムを解放し、泡を吹いて気絶したウィリアムを足元にジーっと意識のない清水を見下ろす。
「…………」
この時点で雰囲気が完全にお通夜状態となる中、一撃であの世に行く寸前であった清水が目を覚ますのだった。
どこまでもこの方は私とは違う人種なのだ。
生き方も、考え方も、他者への感情の向け方のなにもかもが。
その証拠に、目を覚ました清水君が錯乱したかのように私を盾にその場から逃げ去ろうとした時……。
私は初めて、あの人の目を見た。
「おい、そのつまんねー話は明日まで掛かりそうなのかよ?」
「な、なんだと……!?」
「ぅ……」
何も無い。
自分の大切な者以外の全てが平等に同じとしか見ていない冷たい目。
「勇者になりたいから魔人族と契約したとかそんな話はどうでも良いんだわ。
んなことより、小僧、お前が赤い竜を操ったかどうかなんだよ? そのチビ女殺したからったら勝手に殺せ。だからどうなのか答えな」
「あ、アンタ!?」
「いくらなんでも酷すぎるだろ!?」
「愛ちゃん先生にそこまで……」
「しょうがないだろ? だって―――――
――――――――――――――――俺にとってそいつらなんて生きてようが死んでようが関係ないんだし」
年齢がいくつなのかもわからない。
どこから来たのかもわからない。
だけどこの一言と、その目で私は悟った。
ああ……この人は普通じゃなくて、私が想像もできない生き方をしてきた人なんだと。
「だから殺したかったら殺せよ?」
「こ、このっ!」
「おいイッセー、あまり今の清水を刺激するのは……」
「いや、どっちにしろこの小僧に聞くまでも無くなったからな」
「……? どういうことだ?」
「要するにこの小僧の背景には悪魔――じゃなくて魔人族とやらが居るんだろ? んでそいつの支援であれだけの兵隊をけしかけてこれたとなれば―――その魔人族を半殺しにして吐かせた方がより正確だろ?」
他を殺めなければいけなかったのか。
それとも他を殺めなければいけない性なのか。
どちらにしてもこの人にとって私達の命なんて本当の意味で無関心。
そして私が南雲君に言った言葉に反応したのは、私の言葉そのものが彼のこれまでの人生の全てを否定してしまったのと同じだったから。
「まあ、そういう訳で―――――――――向こうの方からこっちを覗き見してるボケを今から八つ裂きにしてくるから、南雲君に後任すわ」
「……。ああ、わかったよ。
ったく、嫌すぎる空気にするだけしておいて丸投げとはヒデー奴だなお前は?」
「今度飯奢るから勘弁してくれよ?」
細胞レベルで興味が無い……か。
本当にその言葉の通りなんだなぁ……あははは。
「ティオ、ちょっと付き合ってくれ。
お前にはリアスちゃんの
「む……本当に妾で良いのか?」
「は? なにが……」
「愛する女の……その、形見のようなものじゃろう? それなのに妾に預けて本当に良いのか?」
「この世界で一番『俺』を知っているのはティオだ。
……知った上で離れもしない妙なメンタルを持ってるからこそ、その資格はある。
だから預けたし、お前じゃなきゃダメなんだよ」
その証拠に、南雲君やあの竜人族の女性といった人達には穏和な表情を見せているのだから―――彼にとって私の存在なんてそこら辺の塵でしかないのだと嫌でも理解させられてしまう……。
とても寂しい人……。
補足
平等ではありません、自分にとって『あり』か『なし』かで区別しているだけの人外です。
なので愛ちゃん先生が人質にされてようが、本人はドライグの件にしか頭にないのでこうなりますし、そのまま殺された所で『へー?』程度にしか思わないでしょう。
ちなみに、イッセーにとっての『あり』のリスト
永久不滅
リアス
ドライグ
肉親
越えられない壁を挟むもののアリといえばアリ
ティオ
ちょい壁
ハジメ シア ユエ
それ以外は無し