色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

身内とその他に対する線引きが極端であるのがイッセーくん。


無意識

 

 

 

 

 予期せぬ再会を果たしてしまったハジメは、元の世界においては担任では無いが教師ではある畑山愛子と、他クラスメート数名と共に、湖畔の町ことウルに――半分は連行同然で来ている。

 

 ハジメからすれば最早過去にも等しい者達とは現状の事情というものもあって関わりたくはないのだが、実は少し前にブルックの街のギルドの受付のおばさんに一通の手紙と共に受けた『仕事』の事もあり、その仕事先である北の山脈地帯に程近いこの町に来ること自体は必要性を感じてはいた。

 

 故に大人しく畑山愛子に連行される形でウルの町の食事処で共に食事をしながら話をすることになったのだが……。

 

 

「お、ちょっと懐かしい味」

 

「その反応的にやっぱイッセーの所の食事もオレ達と似たものだったんだな」

 

「そうみたいだ。

うーんこのニルシッシルってカレーっぽい料理とかマジ懐かしいわぁ」

 

『………』

 

 

 正直その外見だ性格だもそうなのだが、あの南雲ハジメが和気藹々と年の頃の近そうな見た目をした男女と楽しげに雑談をしている様は、元の世界の虐められっ子ですらあった彼を知るクラスメートからすればあらゆる意味でショックだった。

 

 

「ほれティオ、このニルシッシル食うならこの福神漬けっぽい漬け物も一緒に食ってみな。パリパリでうめーぞ?」

 

「どれどれ……ふむふむ、少し甘いの」

 

 

 何より一番気になるのは、この茶髪の男。

 王宮内において第一級犯罪者扱いされているこの謎の男が何故ハジメと行動を共にしているのか。

 先程ハジメ本人から、寧ろこの男が居たからお前達は死なずに済んだのだと説明をされたとはいえ、ベヒモスを一撃でこの世から消し飛ばしたあの光景を見たものからすれば、恐怖でしかない。

 

 

「大体の事情はわかりました。

本当に生きていてくれて良かったです……。

それと南雲くんを守ってくれてありがとうございます」

 

 

 とはいえ、ハジメとのやり取りの気安さを見れば第一級の犯罪者とはどうにも思えない。

 故に愛子はハジメがここまで生きてこれたのは彼や彼女達のお陰でもあると飲み込みつつお礼を言う。

 

 

「んぇ? あー、良いよ良いよ別に。

つーか、寧ろ逆に世話になってんのこっちだし」

 

 

 そんな愛子にイッセーはまるで自分の方が年上みたいなタメ口口調で軽く返す。

 悪く言えば無関心とも言えなくもない返答に、若干ムッとなる愛子だが、先程のハジメからの話によればどうやらこの青年は自分より年上らしい。

 

 

「で、何で先生達はここに居るんだよ?」

 

 

 それを見ていたハジメは、イッセーの複雑すぎる事情をこれ以上知られたくないということもあって話題を一気に変えんと、何故愛子達がここにいるのかを問う。

 

 

「食いながらで良いよな?」

 

「あ、はい。実は――」

 

 

 その目論みは成功したらしく、愛子が口を開こうとするのだが、それまで黙ってこちらを睨んでいた愛子の同行者と名乗る男が口を挟んでくる。

 

 

「おい、真面目に聞け」

 

「あ?」

 

 

 当然だがこの謎の男は元の世界の人間ではないことはハジメもわかっている。

 いるのだが、その視線が妙に気に入らない部類の視線だった。

 

 取り敢えず誰なのかを愛子に聞いてみれば、護衛隊長のデビットなる名前らしいのだが、ハジメはその時点で興味を失うし、このデビットという男がしたり顔で困り顔な愛子を口説くせいで全然話も進まない。

 

 

「わかったから黙ってろ。話の邪魔だ」

 

「なっ……!?」

 

 

 取り敢えず黙らせたハジメが改めて話を聞くと、愛子とクラスメート数人は作農師としてこの町の農地改革をするためにやって来たとの事。

 

 しかしその護衛として同行していた清水なる――ハジメにとってもあまり記憶のない生徒が行方不明になったらしい。

 

 

「ふーん」

 

 

 一通りの話を聞いたハジメだったが、やはりどうでも良かったらしく、関心の無い声だ。

 

 

「ハジメ、イッセーがこのフクジンヅケってものと食べると美味しいって」

 

「流石に話のわかる奴だよイッセーは」

 

 

 結果、ユエに話しかけられてそれに返答しているほうが余程有意義だったらしく、なんとも言えない愛子達を他所にムシャムシャと食べ始める始末。

 

 

「貴様等! 愛子の話を聞いているのか!?」

 

 

 そんな態度に我慢ならなくなったデビットが椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がって憤慨する。

 

 

 

「ちゃんと聞いてるよ、こっちは食事中なんだよ。

行儀良くしてろよオッサン」

 

 

 ほら、しゃしゃってきた……と内心面倒に思いながら返すハジメにデビットはフンと鼻をならす。

 

 

「ガキが、何が行儀だ! その言葉をそっくりそのまま返してやる!

薄汚い亜人を人間と同じ席に着かせるお前達の方が礼儀がなっておらんではないか!」

 

「……っ!」

 

「……………」

 

「………」

 

「んめーんめー」

 

 

 デビットの言葉にシアはびくりと震え、ハジメとユエとティオの目付きが途端に冷たくなるという、その場の温度が10℃は下がった状況だが、イッセーだけはマイペースに食べていた。

 

 

「デビットさん! な、なんてことを……!」

 

「んめーんめー」

 

「愛子も教会から教わっただろう? 魔法とは神より授かりし力――」

 

「おお、この唐揚げっぽい食い物もいけるぞ」

 

「それを扱えぬ亜人共は神に見放された――」

 

「ちくしょう、これでサイダー的な炭酸飲料あったら無敵だったのによー でもうめーうめー」

 

「わ、私達と同じ姿じゃないですか! どうしてそこまで――」

 

「なら、その醜い耳を切り落としてやろう。

そうすれば少しは――」

 

「へーい、店員のおねーちゃん! おかわりー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空気読めや!!!?

 

 

 亜人であるシアをこれでもかと詰るデビットと、それを咎めようとする愛子ではあるのが、そのシリアスな空気をぶち壊す勢いでマイペースにムシャムシャ食べ続け、挙げ句の果てにおかわりまで要求し始めているイッセーにデビットのみならずハラハラしながら見ていたクラスメート達ですら一斉に突っ込んだ。

 

 

「え、なに?」

 

「き、貴様! この状況でよく食っていられるな!?」

 

「……? だって美味いし」

 

 

 これは何でキレてんの? と言わんばかりなお惚け顔をするイッセーに、ちょっと凹んでいたシアを含めたハジメ達はぷっと吹き出してしまう。

 

 

「こ、この罪人風情が!」

 

「はいはい、わかったわかった。

後でいくらでも聞いてあげるからちょっと黙ってろって? な?」

 

 

 イッセーからすればただ勝手にわめいている人間としか思ってないらしく、その極端過ぎる態度を見ていたシアの気分も少しだけ晴れたとか。

 

 

「のうイッセー、こやつはシアを差別しとるのじゃが……」

 

「あー亜人風情だっけ? なんかずっと一人で舞い上がってイキってるみたいだけど、気にすんなよシアさん。

キミはそこら辺に落ちてる蟻の声なんて聞こえんだろ?」

 

「あ、蟻……ですか?」

 

「そーそー、蟻とキミとじゃ満場一致でキミのが強いし。

それを考えたらなんがごちゃごちゃ言うだけしかできねー蟻なんて許してやれば良いだろ? 寛 大 な! 心でな」

 

『…………』

 

 

 と、ナチュラルなる見下し発言をするイッセーに、実は怒りかけていたユエやハジメの怒りが静かに収まる。

 しかし逆にデビットはといえば、蟻呼ばわりされた事もあって怒りのボルテージが最高潮に達した。

 

 

「き、さ、まぁぁぁっ!! 神殿騎士を侮辱する異教徒めっ!!」

 

 

 結果、その場で剣を抜こうとするデビット。

 

 

「罪人である貴様はそこの獣風情共々地獄へ――――

 

 

 だが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄へ―――なんだよ?」

 

 

 その瞬間、この中で一番付き合いの長いティオですら見たこともない殺意と圧力がこの部屋……いや、町―――――否、世界の隅々まで展開される。

 

 

『ひぃぃっ!!?』

 

「「「っ!?」」」

 

「い、イッセー……!」

 

 

 その人とは思えぬ殺意と威圧を前に、デビットの怒りは無へと返り、間近で浴びせられた愛子や生徒達をも恐怖に飲み込む。

 

 

「あ……あ……ぁ……っ……!」

 

「地獄へなんだよ? あんまりにもうるせーしちゃんと聞いてやるから早く言いな?」

 

「ひ……ぃ……ぎ……!?」

 

「え? なんだって? ちゃんと言えってんだよ? さっきまでの威勢はどうしたんだよ? ほら」

 

『おえぇぇぇっっっ!?』

 

 

 口調こそ軽いままだが放たれる殺意と威圧はまさに対極であり、それがよりデビット達の恐怖を煽る。

 ついにはデビットを含めた生徒何人かがその場で吐く始末。

 

 

(す、すげぇ! こ、これがイッセーの【ヤル気】か……!)

 

「す、すごい……」

 

「え? えっ!? こ、殺さないですよね!?」

 

「多分大丈夫じゃろ? ふ、ふふふ……♪」

 

「な、なんかティオさん嬉しそうなんだけど!?」

 

 

 神に中指を立てて殺しに掛かる狂人であり、英雄を改めて見たハジメは戦慄と共に武者震いをし、シアは寧ろデビット達が残念な事になりはしないかと心配してしまう。

 

 

「? なんだこいつ、言わずに泡吹いて失神してら……。

それに南雲くんの先生とクラスメートまで……」

 

 

 結局、食事の邪魔をされた事と、一応気軽に話せる仲間の一人が侮辱されたという二つの理由で無意識にヤル気のスイッチを切り替えたイッセーにより、デビット達の意識は完全に刈られるのであった。

 

 

「げ、きったね!? コイツ等ゲロ吐いてるし! やっべー……どうしよ南雲くん?」

 

「あー……放置で良いだろ。

そもそも喧嘩売ってきたのそっちだし」

 

「シアを差別した報い」

 

「あ、あのっ……! ありがとうございますイッセーさん! 私の為に……」

 

「へ?? 単に横で煩かったってだけで、別にキミの為って訳でも――あいて!?」

 

「気にするなシア! イッセーは知っての通り、ちょっぴりだけシャイなのじゃ!」

 

 

 そんなイッセーのヤル気殺意に耐えられるハジメ達もまた色々と先の領域への道に足を突っ込んでいるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 恐怖により意識を失った愛子達を放置し、自分達の食べた分だけのお会計をして去るという、中々に酷いムーブを噛ましたハジメ一行は、商業都市・フューレンにて請け負った『仕事』を明日に控え、宿で休む事になった。

 

 その夜、その後の愛子達が流石に少しは気になったハジメがこっそりとその様子を見に別の宿屋に泊まっていた愛子を発見し、一応自分と同じ世界からやって来たという事で、この世界についてのある程度の情報を提示し、戻る道中の事だった。

 

 

(あれはイッセー……か?)

 

 

 自分達が泊まる宿屋へと戻る道中に見える巨大な湖の桟橋に佇む人陰に気づいたハジメが足を止めて目を凝らしていると、そその人陰はイッセーであり、何やら桟橋の先端に佇みながらぼんやりと夜空を眺めている。

 

 

「……………」

 

 

 普段寝ろと言っても寝ようとしないイッセーの事を考えれば、今日は寝ずに起きているつもりなのかと思いつつ暫く見ていると……。

 

 

「あれはティオか……?」

 

 

 微動だにせず空を眺めていたイッセーに近寄る新たな人陰視界に入る。

 その人陰はティオであり、じーっと空を見ているイッセーに後ろから話しかけてからその隣に立っている。

 

 

「………………ま、覗きは良くねーよな」

 

 

 イッセーはともかく、ティオがイッセーをどう思っているのかはまだ短い付き合いながらも知っているつもりのハジメは、何となくお察しした気分にりつつ、出歯亀はよくないと思って宿屋に戻る。

 食事中に煩いと嘯きはしていたが、亜人に対する差別をした奴を黙らせてくれた事に対してはシア本人と同じく、自分やユエもまた嬉しいと思っているのだから。

 

 

「ふ、もっと早く――それこそもし元の世界で会えてたらオレも違っていたのかもな」

 

 

 密かに憧れる男であり、仲間として。

 

 

 

 

 

 地味にハジメ達から無敵ヒーロー認識されていたりする事を知らないそんなイッセーはといえば、最近の自分の行動がイマイチわからなかったりする。

 

 異世界で目を覚ました自分の傍にはリアスとドライグは居ないし、生きる意味も気力も無かった。

 

 それが自分を起こしたティオにより外へと連れ出され、色々とファンシーな世界を見て回り、事情が複雑な少年とそんな少年の力になりたいと願う少女達に出会い、行動を共にしている。

 

 生きる目的が無く、ハジメに誘われたので何となく旅に同行していただけで、特に情なんて持ってもなかった。

 

 親代わりだったドライグと大好きだったリアスが傍に居ない世界なんて生きる意味もないし、ドライグとリアス以外の繋がりなんて不要とすら考えてきたのに……。

 

 

「飯の邪魔だから……だった筈だよな?」

 

 

 それが先程の夕飯の際、口汚くハジメの仲間の少女が罵倒された時、どういう訳か自分は必要以上に殺気立って黙らせていた。

 当然その理由は飯時にギャーギャー横で騒がれてイラッとなったからな筈だ。

 

 それなのに何故か嬉しそうな顔でお礼を言ってきたシア。

 同じく嬉しそうに微笑むユエやハジメにイッセーは困惑した。

 

 何よりティオに指摘された事で余計困惑してしまった。

 

 

「ドライグとリアスちゃん以外の事で俺が……?」

 

 

 括りで言えば一応共に旅をする仲間という体ではあるが、所詮は他人でしかない者の為に動いた自分が信じられなかった。

 

 

「いやいやいや、そんな訳ないだろ。

ドライグとリアスちゃん以外の生物がくたばろうがどうでも良いと本気で思ってた俺が……」

 

 

 何かの間違いで、勘違いである筈だと否定したい。

 だがシアが嬉しそうにお礼を言う姿や、同じように笑うハジメやユエやティオの顔を思い出すとこうも思ってしまうのだ。

 

 『悪くない気分だ』と。

 

 

「俺がドライグとリアスちゃん以外に情を持ったのか……?」

 

 

 行動理由の全てが復讐から始まり、やがてドライグとリアスとの未来(サキ)へと変わったイッセーからすれば自分で自分が信じられない。

 

 

 

「分からないぞ……。

なぁ教えてくれよドライグ―――――って、もう居ないんだよな……」

 

 

 この気持ちがなんなのかわからない。

 そして分からないことがあったら何でもかんでもかつて自分の身に宿っていた相棒であり、親でもあったドライグに聞いてばかりだった。

 

 

「大体俺は何時まで死に損なえば良いんだ? マジでわかんねー……」

 

 

 進化に進化を重ね、人としての限界を越え、最盛期には神すら越えた男のその精神は子供のそれ。

 だからこそこの世界の竜族達に英雄だと祭り上げられていることが解せないし、そんな器な訳がないと思っていた。

 

 何故なら自分はリアスとドライグとの未来の為だけに世界をひとつ壊しただけなのだから。

 

 

「わかんねーよ……」

 

「なにを一人でブツブツ言っておるのじゃ?」

 

 

 

 この気持ちに対する答えが見つからず、夜も吹けた更けた湖の桟橋にずっと突っ立っていたイッセーの耳に入る、今尚愛し続ける赤髪の悪魔の少女と酷似した声。

 

 

「ユエとシアはもう寝たのじゃが、ハジメはどこかに行ってしまうし、イッセーも宿屋に着いてからずっと戻って来ないから探したぞ」

 

 

 黒い和服に近い衣装を着崩した黒髪の少女――永遠に眠り続けていたイッセーを呼び起こした竜族、ティオ・クラルス。

 

 

「あんま他人の近くで寝たくないんだよ俺は。

……またやらかしそうだし」

 

「抱き枕にし、だらしのない顔でリアス・グレモリーの名前を連呼びつつ肥えたと寝言を言うことがか?」

 

「わ、悪かったって……」

 

 

 中々戻って来ないので探しに来たらしいティオに、人前で寝るとやらかすという旨の話をするとジトっとした目をされてしまい、思わず謝る。

 

 

「シアに礼を言われた辺りから様子がおかしいと思っていたが、その事ではないのか?」

 

 

 そんなイッセーに謝られたティオは、はぁとため息を溢しながらイッセーの隣に腰かける。

 どうやら自分の様子がおかしいことをある程度見抜いていたらしい。

 

 

「まー……似たようなものかな。

正直あんな礼とか言われたことねーし俺」

 

「戸惑ったのか。

案外初なんじゃのぅ?」

 

「かもな。

そもそも別に俺はあの子が差別されてるから黙らせたつもりじゃなかった――筈」

 

「それで一々悩んでおったのか? ……生真面目というか潔癖じゃなイッセーは? そんなの悩むまでもなかろう? イッセーにその気はなくとも少なくともあの不愉快な空気からシアを救ったのはイッセーなのじゃ。

難しく考えんでも『気にするな(キリッ)』で良いのじゃよ」

 

 

 一々バカ真面目に考えていたイッセーにそう告げるティオは冗談っぽく笑う。

 

 

「もっとも、そういう行動を初めて向ける相手は妾が良かったのじゃがのぅ……」

 

「あー……すまん?」

 

「はは、冗談じゃ。

思い返してみれば結構イッセーに身体を張って守って貰ったこともあるしの?」

 

 

 そう微笑むティオの顔を見たイッセーは、不思議と先程までなやんでいたのが馬鹿馬鹿しいというか、言われた通り、難しく考えすぎだったのかもしれないと気が楽になった。

 

 

「見ろイッセー、この場所から眺める星は綺麗じゃ」

 

「ん? あぁ……」

 

 

 急に全身の力が抜けてきたイッセーは、そこままティオの横に腰かけながら夜空を見上げ―――それから改めて空を眺めていたティオの横顔をじーっと見る。

 

 

「……………」

 

「む……ど、どうしたのじゃイッセー?」

 

 

 その視線に気づいたティオがはずしそうにもじもじするのだが、一切気にすること無くイッセーはティオの姿を改めて上から下までジーっと眺め……………。

 

 

「そういやティオの格好って改めて見ると、あの裏切り猫の姉だったかを思い出すな……」

 

「………は?」

 

 

 その格好から過去の事を口にする。

 これにはもじもじしていたティオも思わず真顔になる。

 

 

 

「う、裏切り猫の姉とは誰のことじゃ?」

 

 

 この呼び方からしてイッセーに思いきり敵視されているのは間違いないのだが、そんな誰ともしらない女らしき者と同一視されるのは遺憾でしかない。

 

 

「リアスちゃんに命助けられて眷属になって猫ガキに姉が居たんだ。

確か名前はー……あー………んー……?」

 

「………………」

 

「うん、思い出せねぇな。

まぁ良いか、とにかくリアスちゃんを裏切った猫の姉の格好がちょうど今のお前の格好に似てんだよ。

格好も髪の色も」

 

「………………………………」

 

 

 元リアスの戦車の姉にて、リアスと自分を地の底へと陥れた男の『相手』に姉妹共々成り下がったということもあってか、それなりに記憶があるイッセーは、名前こそ思い出せなかったものの、ティオの姿がなんとなく似ていたことを今更思い出した。

 

 

「ほ、ほーぅ……?」

 

 

 その時点でティオの機嫌が急転直下したのは云うまでもないのだが、イッセーはそれに気付かずにペラペラと当時の事を話し始めてしまう。

 

 

「まー、そいつもわかりやすい程にのカスでね。

クソ野郎に抱かれたいからって裏切りおにぎりのカス妹猫と一緒になってリアスちゃんを殺そうとしやがってよ」

 

「………………」

 

「当然俺はそいつらを原型判別不能になるまでぶちのめした後、クール宅急便でカス野郎に送り返してやった訳で―――ぶべ!?」

 

 

 

 当然我慢の限界だったティオは中々の威力のコークスクリューパンチをイッセーの顔面に叩きつけた。

 

 

「わ、妾を……! 妾を!! 直接は知らんが、そんな女と同一視するつもりかっ!!?!?」

 

「う、お……!? い、良いパンチというか、おいおい鼻血出たぞ。

起きてからの初出血だわ」

 

 

 イッセーに鍛えられてきたせいか、実は単純なパワーが凄まじい事になっていたティオのパンチが、初めてイッセーを出血させたという快挙を人知れず成し遂げたのだが、ティオからしたら、聞けば聞くほど訳のわからん女と同一視されていることへの怒りが勝ってそれどころではない。

 

 

「妾はそんなに安い女ではないのじゃ!」

 

「わ、わかってるっつーの! た、ただ思い出しただけだよ!」

 

「言われた身としては心外極まりないのじゃ!!」

 

「ご、ごめんって! そんなつもりじゃなかったって!」

 

 

 泣きながらポカスカとイッセーの身体を叩くティオに、またやらかしちまったと、急いで謝るイッセー

 

 

「ふん、許さんぞ。

罰として今夜は殴り飛ばされたってイッセーから離れずにひっついてやるのじゃ……!」

 その結果、イッセーはティオと密着したまま夜を過ごす羽目になるのだった。

 

 

「許さんからイッセーの頭を撫でるのじゃ。

許さんからイッセーを抱き締めるのじゃ」

 

「………言うんじゃなかった」

 

「当たり前じゃ! 今日の妾は何を言われても許さんからな! 許さんったら許さぬのじゃ!」

 

「……………」

「まったく……! 言うに事欠いて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど……それでも妾は愛してるのじゃイッセー」

 

「……………今言うのかよ? やっぱわかんねーし、全然違ったわ」

 

 

 明くる日、たまたま夜道をお散歩していた町の住人さん達に目撃されてしまっていたらしく、その話が牛の交尾よりも早く広まってしまった為、イッセーとティオは『ちょっとした有名人』となってしまうのだった……。

 

 逢い引きしてた的な意味で。




簡易人物紹介

イッセー

身内が貶されると大体ヒャッハーしやすいタイプであり、その対象は主にリアスだった。
 しかし今回の件で自覚せずヒャッハーしたので、それなりに戸惑う。

 今更ながらティオを見て、過去ぶちのめした黒猫の事を思い出し、それを喋ったら当然のようにキレられた。

キレられたティオにむっちゃ引っ付かれたあげく割りと近所迷惑な声量で好きだのなんだと言われまくったせいで、町の人々(女性)からキャーキャー言われてげんなりする。


ティオ・クラルス

リアスではなく、格好が過去イッセーが破壊した黒猫女に似てると言われてマジギレした竜娘。

 キレすぎて思わずイッセーにでかい声で愛してます発言しまくったとしても多分ティオは悪くない。




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