色々なIF集   作:超人類DX

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なーんか、前にやったようなネタだったよーな……


元執事と元ママン
ちょっと歪な親子関係


 

 

 

 その男が何者なのか、誰も解らない。

 その男の目的も誰も知らない。

 

 ただ解る事は、無口で無表情で無愛想で―――それでいて一度スイッチが入れば誰にも止められぬ狂犬のような激情を確かに持つ………そんな男だった。

 

 

 

 

 

 とある世界を生きる悪魔という種族は、先の戦争により政権が変わり、四大魔王と呼ばれし若き悪魔達が頂点となった訳だが、過去の戦争時から現在に至るまで新旧の派閥とは距離を置くスタンスでいる悪魔――通称番外の悪魔(エキストラ・デーモン)と呼ばれる悪魔達が居る。

 

 しかし、他にも新旧の派閥や番外の悪魔の派閥のどれにも属さない悪魔が存在する。

 

 それが通称異常なる悪魔(アブノーマル・デーモン)と呼ばれる種族としても、スタンスとしても――その強さの全てが例外中の例外なる悪魔だ。

 過去、後の四大魔王となる若き悪魔達と先代魔王達との戦争中に突如として現れ、『煩くて寝れない』という理由だけで両陣営に甚大なる損害を与えた災厄のような悪魔。

 

 その名は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男は言うなれば徹底的なまでの『力』に対する『心棒者』だ。

 どれだけ力を付けても満足なぞせず、更なる領域へと到達しようとする進化中毒者。

 

 石のように冷たく。

 一切の躊躇い無く敵を叩き潰し。

 誰にも懐かない野良犬のような男。

 

 故に現悪魔政権は番外の悪魔よりも更に――もっといえば誰とも組まずにその日を生きる一匹狼であるその悪魔への干渉を極力控えるようになった。

 

 ……というのが、冥界で生きる一般悪魔達に知られる都市伝説だ。

 

 

 そんな都市伝説が囁かれている現代の冥界悪魔事情はさておき、四大魔王の一人であり、ルシファーの名を継承している青年悪魔ことサーゼクス・グレモリーは、冥界の悪魔領土でも屈指の『危険エリア』とされる土地へ妻であり、女王でもあるグレイフィアと共に訪れていた。

 

 

「当時より色々とエキゾチックな状態だねこれは……」

 

「やはり他の眷属達を連れてこなくて正解でしたね」

 

 

 冥界の中で最も危険にて、最も未開のエリアとされるこの場所は、サーゼクス達が治める地域と比べるまでもない程に荒れており、さしものサーゼクスもこのエリアの奥へと足を踏み入れるのを躊躇ってしまう。

 

 だが、ここまで来てしまった以上、手ぶらで帰るわけにはいかない。

 ここ最近立て続けに起きる騒動のせいで旧派と呼ばれる派閥の声が大きくなりつつある今、かつては引き込めなかった『彼』をこちら側に引きこもる事が出来れば、最強の抑止力となる。

 

 故にサーゼクスは妻と共に『彼』の根城がある危険エリアへとやって来たのだ。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 その様な思いを胸に妻と共に些か緊張の面持ちで奥へと進むこと数時間。

 

 

「あった……」

 

 

 途中から『あれ、もしかして引っ越しとかしちゃってないかな?』と内心不安になっていたサーゼクスを安心させるかのように巨大な怪鳥やら獣の鳴き声があちらこちらから聞こえる毒々しい山道を登った先に佇む古ぼけた小城。

 

 

「彼かどうかはわかりかねますが、確かに中から何者かの気配を感じます」

 

「みたいだね……」

 

 

 念のため外から可能な限り調べた結果、中に人が住んでいる気配を感じ取れたサーゼクスとグレイフィアは、襟を正しつつ小城の門を叩いてみる。

 

 すると古めかしいその門がゆっくりと開かれると、思わずサーゼクスとグレイフィアが目を見開く程に、二人にとってみれば見慣れた――されどこの場に居る筈の無い容姿をした女性がひょっこりと顔を出す。

 

 

「あら……? 珍しいお客様ですね」

 

 

 その女性も女性で、サーゼクスとグレイフィアの顔を見るなり目を丸くした様子で少々驚いている。

 

 

「お久しぶりです、叔母上」

 

 

 サーゼクスとグレイフィアが思わずといった反応をした理由――それは目の前の女性があまりにもサーゼクスにとっての母であり、またグレイフィアにとっての義母であるヴェネラナ・グレモリーにあまりにも顔立ちが似ていたからだ。

 しかしそれもその筈、何を隠そう目の前の女性はそのヴェネラナとは姉妹なのだ。

 

 故にサーゼクスは母に瓜二つの女性にお辞儀をして挨拶をするし、グレイフィアもまた同じようにお辞儀をする。

 

 

「アリス様、お久し振りでございます」

 

「こちらこそお久し振りですね、サーゼクス君にグレイフィアさん。

ええと、最後に会ったのは二人の婚姻の式の時以来でしたか……」

 

「ええあれから僕達の間に息子が一人生まれました」

 

「息子……そう……」

 

 

 一応母方の親戚筋であるアリスという名の女性に近況を報告するサーゼクスとグレイフィアだが、息子が生まれたという報告の際に、アリスの表情がほんの少し変化していたことには気づかず、サーゼクスはここに来た理由を話す。

 

 

「今日来たのは彼に話があっての事なのですが……彼は?」

 

「イッ―――あの人なら今仮眠中ですよ」

 

「仮眠、ですか?」

 

「ええ、半年はまともに寝ずにトレーニングし続けてましてね」

 

「は、半年ですか……」

 

 

 彼――つまりこの小城の主を訪ねてきたと話すサーゼクスとグレイフィアを中へと通そうとしながらその所在と何をしていたのかを話すアリスだが、内容があまりにも脳筋じみていたのでサーゼクスとグレイフィアは軽く引いてしまう。

 

 

「そんなリアクションになっても仕方ないですよ。

あの子ったら、お友達もまともに出来ないし、ずっとコミュニケーション能力が壊滅的ですし……」

 

「「………」」

 

 

 はぁ……とため息を吐くアリスの主への口ぶりは、まるで手のかかる子供を語るそれであったという。

 

 

 

 

 

 

 

 『今起こしてきますね?』とアリスが席を外す間に客室へと通されたサーゼクスとグレイフィアが、アリスに出されたお茶を飲みながら待っていると、城の主にて番外の悪魔の更に外とされる異常なる悪魔がどういう訳か『燕尾服』の格好でやって来た。

 

 

「……………」

 

「ほら、しゃんとしなさい」

 

「…………………」

 

 

 何故使用人のような格好をしているのかはさておき、最後に会った時と一切変わらぬ容姿である茶髪の青年は、寝起きのせいか軽く不機嫌そうな顔をしながらサーゼクスとグレイフィアの座るソファの対面側のソファにどっかりと座る。

 

 

「…………………………」

 

「や、やあ久しぶりだね?」

 

「……………………………………」

 

「お久し振りでございます」

 

「…………………………………………………」

 

 

 取り敢えず挨拶してみるサーゼクスとグレイフィアだが、返ってくるのは完全な沈黙のみで一言も声を発さない。

 

 

「挨拶くらいちゃんと返しなさい。

遠路遙々『魔王様』が訪ねられたのだから……!」

 

 

 そんな目付きも愛想も最悪な主を見かねたのか、まるで母親とように叱りつけるアリスのお陰もあってか、青年は目の前の夫妻に向かって小さく頭を下げる。

 

 

「………………ッス」

 

「「………………」」

 

 

 現代風に現すならコミュ障もいいとこな挨拶に、サーゼクスとグレイフィアも微妙に困った顔になる。

 なんというか、今の彼からはかつての頃の覇気をまるで感じられないのだ。

 

 

「お、お休みの所申し訳なかったね。

キミに折り入って話があって今日は訪ねさせて貰ったのだけど……」

 

「…………ッス」

 

「此方は手土産でございます」

 

「……………………ッス」

 

「お、叔母上とは相変わらずなのかい?」

 

「………………ッス」

 

 

 

 こちらがどれだけ愛想良くしようとしても、返ってくるのは『………ッス』だけで、愛想笑いを浮かべていたサーゼクスの顔も段々とひきつってくる。

 そう――彼は極度のコミュ障だ。

 

 ヤル気ならぬ殺る気スイッチが入れば嘘みたいに饒舌になるくせに、そうでない時は間にアリスが入らないと会話が成り立たなくなるくらいに酷い。

 

 その異質な力もさることながら、彼が番外中の番外――異常と呼ばれる所以はこの極度のコミュ障が原因なのだ。

 

 

「申し訳ございませんね……この子、昔よりもっと人と話すが苦手になってしまいまして……」

 

「い、いえいえ……」

 

「………」

 

 

 ヴェネラナにそっくりなアリスが横から寝癖をつけている彼の髪をせっせと甲斐甲斐しくセットしようとするのを嫌そうな顔をしているという変な攻防を繰り広げるせいで笑うべきなのかわからなくなるサーゼクスとグレイフィアなのだった。

 

 

「ほら、動かないで。

寝癖をつけたままなんてみっともないでしょう?」

 

「だぁぁっ!! ガキじゃねーんだよババァ!!」

 

「そう思われたくないのなら普段からきちんとしなさいと言ってるでしょう!?」

 

「ぐむっ!? や、やめろババァ……い、息できねっ……!?」

 

「やっと大人しくなった……。

はぁ……本当に仕方ない子ねぇ……」

 

(普段はここまで感情も表情も死んでいる彼が叔母上をバアル家の本家を破壊しながら略奪同然で連れ出したのだから、世の中わからないよ……)

 

(魔狂・アルゴサクスと呼ばれた男をここまで抑え込めるとは……やりますねアリス様は)

 

 

 

 そんな敵に回したその瞬間、狂犬のように暴れまくる最強ならぬ最狂の悪魔を親のように抑え込む叔母のじゃれ合いをサーゼクスは若干複雑そうに、グレイフィアは今後の参考にするように暫く見るのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話すだけ話をしてサーゼクスとグレイフィアが帰った後、アルゴサクスという姓を持つ青年は疲れたようにソファに背を預けながら天井を見上げ、ため息を溢す。

 

 

「このまま死ぬまで干渉してこないと思ってたのに……」

 

 

 自分の思っていた状況にならない事に対するという意味も籠った大きなため息に唯一この城に住む同居人であるアリスは『ちょっと暴れすぎたわね』と微笑みながら白湯の入ったカップを差し出す。

 

 

「それだけ今の政権に纏まりがないのだと思うわ。

………私たちの知るサーゼクスとあのサーゼクス君とは強さに大分差があるし」

 

 

 手渡したカップの白湯をガブガブと行儀悪く飲む青年を特に注意せず自分の考えを話すアリスに、青年は苦々しい顔をする。

 

 

 

「確かに、俺が知る化け物サーゼクスとあのサーゼクスとはまるで別物だ。

正直、さっきまでそこに居た時も隙だらけで千は殺せたぞ」

 

「まぁ、別に戦いに来た訳じゃないし警戒してたわけでもなさそうだったというのもあるでしょうけど……」

 

「はぁ………」

 

「それで? サーゼクス君の要望を聞いてあげるの?」

 

「……………」

 

 

 またしてもため息を吐く青年にアリスは問う。

 

 

「…………。俺達は干渉すべきじゃないだろ」

 

「そうね、確かに私達は間違いなく『存在しない筈の存在』だし、下手に手助けしてしまったら色々と変質してしまう可能性も高い」

 

「昔の俺がそうなったようにな……」

 

 

 悪魔の未来の為に力を貸してほしいと懇願してきたサーゼクスに対して、あまり気が進まない様子の青年とアリスの会話は意味深なものが多い。

 

 

「この世界のアナタ――イッセーはきっと普通に育つのよね」

 

「ああ……。

カス野郎によって弾き出された結果が、俺だからな……」

 

 

 何故ならこの二人は色々と複雑であり……。

 

 

「でもまさかイッセーが純血悪魔として生まれ変わったと知った時は流石に驚いたわ。

拉致同然で私を拐うし……」

 

「アンタがヴェネラナじゃなくてヴェネラナの姉として生まれ変わってたってのも俺からしたら驚いたわ」

 

 

 かつては血の繋がらない母子のような関係だったのだから。

 

 

「ま、速攻でババァだとわかったから色々と手間も省けたけどな……」

 

「多分、バアルの本家から相当恨まれてるわよ……?」

 

「そんなもん知るか。

ババァは俺のババァなんだよ……誰にもババァは渡さねぇ……」

 

「清々しいまでの自分本意ねぇ……? でもそう言われると嬉し―――あら?」

 

「………………………」

 

「イッセー、寝るならちゃんと寝室で―――もう、仕方ないわね……」

 

 

 そして今現在はちょっと歪な関係なのだから。

 

 

「………」

 

「ほんと、寝てる時は素直なんだから。ふふふ♪」

 

 

 

 

 




簡易人物紹介


ギルファ・アルゴサクス

 本来存在しない筈の純悪魔。

 
それもその筈、何故ならその正体は輪廻転生したコミュ障執事。

 執事の時代に密かに羨望していた悪魔に生まれ変わってしまったは良いが、知っている人が誰一人居ないし、見つけても中身がまるで違うと知って絶望した結果、自分の存在が異形であることへの自覚も踏まえて、『独りぼっち』で朽ち果てる道を選択した。

 しかし、同じく存在しない筈のヴェネラナの姉妹の存在を知り、なんとなく確認したら『ババァ』であると確信。
そのまま『感動的な再会』をする暇も無く、バアル家を襲撃して拐うという暴挙に出る。

 その理由は彼女のバアル家における立ち位置と仕打ちによるものらしいのだが……。

ちなみに年齢的ににはサーゼクスさん達より少し下。


 アリス・アルゴサクス

 なんの因果か……過去の世界へと生まれ変わったママン。

 感動の再会もへったくれも無く、狂犬のように襲撃してきた『息子』に拉致られてしまった悲劇のママン。

 この世界の自分自身――つまりヴェネラナとは姉妹だったのでバアルではあるのだが、バアルでの立ち位置が相当複雑で中々に追いやられ気味な立場なのもあってか、拉致られたと同時に強引に悪魔として生まれ変わった息子の姓を押し付けられてしまっているママン。

 余程独りぼっちが辛かったのか、ババァ言いながらも懐いてくる息子をつい過保護が加速中なママン。

 ちょっと関係性が歪んでても気にしないママン。



―――続けるかは知らん

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