色々なIF集   作:超人類DX

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徹底的な自分本位――それが三馬鹿イッセー


赤き狂龍

 

 

 

 女として生まれ変わった事で何かと不便を強いられていたヴァーリことエレーナにとって一番女として生きる上での煩わしさは、その見た目故に嘗められる事が多くなってしまった事だ。

 

 一見すれば華奢で、造形の整った人形のような美少女というこの見た目のせいで主に男からゲスな目で見られることも少なくなかった。

 

 だが何よりもショックだったのは、アザゼルに拾われたその瞬間に蘇った事で突きつけられた『自分達の知るアザゼル』と『この世界を生きるアザゼル』の違いだった。

 

 中途半端な強さ。

 神器研究に夢中で全てを適当にする姿勢。

 

 なによりも、自分や親友達が慕っていたアザゼルと比べるまでも無く熱さが足りなかった。

 

 

 だが、自分がそうであったように、きっと今のアザゼルはただ単に『忘れている』だけなのだとエレーナは健気にもこの世界のアザゼルが思い出すと信じて神器研究の為の素材になってきた。

 

 けれどアザゼルは思い出すこともなく、エレーナを神器研究の素材として利用するばかりか、よくわからない服ばかりを用意しては無理矢理着せてくるし、何よりもこのアザゼルには自分達の慕うアザゼルとは違って、あまりにも『普通』であり、異常さが欠片も感じ取れなかった。

 

 故にエレーナは悟ったと同時に絶望した。

 このアザゼルはどうやっても自分の慕っていたアザゼルにはなり得ないし思い出すこともないのだと。

 

 同じようにコカビエルも、ガブリエルも……。

 

 

 そう結論付けてしまったエレーナにすがれるものは最早二人の親友の安否だけであった。

 もしもアザゼル達のように違っていたらという恐怖はあったけど、それを無理矢理頭の片隅に追いやってでもエレーナには二人しかすがれなかった。

 

 だからこそその片割れであるイッセーが自分を――否、自分と神器を見たその瞬間に思い出してくれた事は、不安から安堵へと変わるし、もう二度と失ってはならないと離れなくもなる。

 

 何が正しくて、何が違うのか分からないその世界で誰よりも楽しく、誰よりも狂った生き方を再びする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーとして生きて来た中でも、数少ない『信用できて頼れる大人』の一人がアザゼルだった。

 偽悪的な物言いをするくせに、その根はバカがつく程にお人好しで、何の損得もないのに自分達のの為に平気で命を張るような熱さを持った堕天使の男というのが、イッセー達の知る『ただの堕天使のアザゼル』だった。

 

 故に当初エレーナとして生まれ変わっていた親友の言っていたこの世界のアザゼル像を信じたくはなかった。

 しつこい程にエレーナの身柄を返せと通達してくるのも、思えばちょいと過保護な所が彼にはあったと思えば違和感もなかったし、きっと普通に心配しているのだと思いたかった。

 

 だけど、三大勢力のトップ同士の会談とやらがこの駒王学園で行われるので、その警備をしろと命じられた際、満を持してやって来たアザゼルは自分と共に居たエレーナを見るなり無理矢理拐おうとしたのだ。

 

 お前が居ないから研究が進まないだのなんだのと、妙にベタベタとエレーナの身体に触れながら。

 

 その手付きに、かつてのアザゼルを知るイッセーからしたら『優しさ』を一切感じさせないゲスなものだった。

 

 だからイッセーは、そんなアザゼルを……。

 

 

 

「アンタさぁ、ひどいよ……?

何でヴァーリ――いや、エレーナにそんな事言っちゃうのさ? 悲しいじゃん?」

 

「て、めぇ……!?」

 

 

 全盛期には程遠く、本来のパワーではやれなかったが、エレーナに意識が向いていて油断していた所を突いた形でイッセーはアザゼルを殴り倒した。

 

 

「なんのつも……ごふぉっ!?」

 

 

 

 膝を付くアザゼルが反撃せんとその手に光の槍を生成しようとするが、その槍を真横に薙ぎ払うように蹴り飛ばして無効化し、即座に顔面を殴り抜くイッセーの腕には赤龍帝の籠手が纏われている。

 

 

「イッセー!? な、なにをしているの!?」

 

 

 顔面や鼻から血を流しながら、睨むアザゼルとそれを見据えているイッセーの起こした騒ぎを聞き付けたリアスが慌てて呼び掛けるも、振り向いたイッセーの目を見て息を飲んだ。

 

 

「……………」

 

「うっ!?」

 

 

 その両目はあまりにも今の状況には不釣り合いな程に、恐怖を抱く程に清んだ目だった。

 思わず止めることすら躊躇してしまったリアスを一瞥し、再び顔面を破壊されたアザゼルを見下ろすように見据えるイッセーは、複雑な顔をするエレーナを庇うように前に立ちながら口を開く。

 

 

「なぁ、アザゼルさんよ、俺にこんな事させないでくれよ?」

 

「ぐ……!」

 

「アンタは知らないだろうけど、俺はアンタの事尊敬してたんだぞ? それなのに、どうしてそこまで違うんだよ?」

 

(ち、違うだと? 何を言ってやがるんだこのサイコパス野郎は……!?)

 

 

 アザゼルからすれば初対面でいきなり殴られた上に訳の分からない事を言ってくるヤバイ奴でしかないイッセーの言葉の意味がわからずに困惑する。

 

 

「例え違ってでも、エレーナを大事にしてくれてるならって俺は思ってたんだぞ? なのにエレーナの言う通り、本当にアンタはそうだったんだ」

 

 

 そんな困惑を無視するように喋り続けていたイッセーは1拍置きながら俯き――

 

 

「――――――だとしたらもう、アンタの事を殺すしかなくなっちゃったよ」

 

 

 尋常ではない殺意を剥き出しに宣言するのだ。

 

 

(こ、コイツ、目がイッてやがる……! そして嘘じゃねぇ……! 本気で今俺をここで……!!?)

 

 

 エレーナが常々拘っていた赤龍帝の事は、多少なりともアザゼルだって興味を持っていた。

 だがそのエレーナが赤龍帝と殺し合う事無く、どういう訳か傍に居ると聞いてからは危険視するようになった。

 

 だがアザゼルの予想以上にこの赤龍帝は危険であり、狂っている。

 

 だというのにエレーナはそんな赤龍帝を信頼するかのように傍から離れようとしない。

 

 

 

「10倍・ドラゴン―――」

 

 

 お気に入りの玩具を取られたような嫉妬心を密かに抱いていたアザゼルを見下すような目をしたイッセーが本気のパワーを解放したその時。

 

 

 

「そこまでだイッセー君」

 

「!?」

 

 

 赤髪の魔王とその妻が割って入る形でイッセーを止めに入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶を取り戻したイッセーのイカれ具合は、前世の記憶を持つリアスも把握していたつもりだった。

 

 

「アザゼルの冗談を真に受けたのかい? 止めに入らなかったら本気でアザゼルを殺そうとしていたようだけど……」

 

「……………ごく個人的な事です」

 

「個人的な理由でアザゼルを殺そうとしたその理由が知りたいのだがね……。

キミが妹の兵士である以上、個人的な理由で堕天使のトップを殺させる訳にはいかないし、何か理由があるなら私達が力になれるかもしれないだろう?」

 

「……………………」

 

 

 三大勢力の会談前に起こったアザゼル殺害未遂という大問題を引き起こしてしまったイッセーは、普段は生徒指導室として使われる部屋へと連行され、両手を拘束された状態で魔王にてリアスの兄であるサーゼクスに尋問されていた。

 そのすぐ隣には同じく魔王の一人であり、ソーナの姉であるセラフォルーが相変わらずの珍妙格好でじーっと此方を見ているし、その真後ろには不穏な動きをすれば即座に動かんと警戒しているサーゼクスの妻であるグレイフィアも居る。

 

 そんな状況のど真ん中に座らされているイッセーはといえば……。

 

 

(……今の俺の全力ではこの三人をまとめて黙らせるのも難しいか……?)

 

『切り札を使えばなんとかはなるが、恐らく切り札の状態になれる時間はかなり短い』

 

 

 エレーナと同じくアザゼルを見限った事で、首に繋がれていた鎖のひとつが壊れ、以前よりも更にソーナ以外の悪魔への関心を消していた。

 

 しかし今のイッセーではこの状況下で暴れても一人か二人を殺れるのが精一杯であり、ましてや今暴れてはぐれ悪魔となって自由となってもエレーナやソーナの足を引っ張るだけだ。

 

 故にイッセーは今はまだ大人しくしておこうと、サーゼクスの質問に渋々答えんと口を開く。

 

 

「親友があんな真似や言われ方をされて、それを黙って見ていられる程俺はまだ大人じゃありませんから」

 

「親友……というとあの白龍皇の娘のことかい?」

 

 

 淡々と答えたイッセーにサーゼクス達は、二天龍の関係を把握しているのもあってか少々驚いていた。

 

 

「キミと彼女が知り合ったのはコカビエルの件の時だと思っていたのだが……」

 

「……」

 

「えーと、つまりアザゼルの保護下に措かれている白龍皇へのアザゼルの扱い方が気に入らなかったのかな?」

 

「………………………………」

 

 

 アザゼルを殺そうとした時とは違い、どこまでも目が据わっているイッセーはそれ以降一切答える事はなく、結局イッセーは会談が終わるまで拘束される形となるのだった。

 

 

「会談が終わるまでキミを拘束させて貰う」

 

「一応会談が終わったらちゃんと解放するからね……?」

 

「………………………」

 

(……。以前行われたレーティングゲームの時の彼とは別人のようだ……。

見ていた限り、そこまでの力は無かった筈だが……)

 

 

 

 

 

 

 

 本気でアザゼルをその場で殺そうとした―――と、複雑な表情と共にエレーナから聞いたソーナ。

 

 

「うーん、やっぱりそういう狂犬っぷりこそイッセー君だけど、ちょっとタイミングが悪かったわね」

 

「ああ、オレが止めるべきだった。

オレのミスだ」

 

「仕方ないわ、私達の中で一番アザゼルと過ごしてきた時間が長いのはアナタなのだし、昔のアザゼルを知っているだけに躊躇ってしまうのも無理もないわ。

恐らくそれを察してイッセー君が殺ろうとしたのでしょうし」

 

「…………」

 

 

 

 ソーナの下にやって来た白龍皇という事で眷属達は警戒するが、そんな眷属達の警戒をスルーするようにソーナはエレーナとお茶を飲みながら呑気に話をする。

 

 

「会長、俺はやはり認めませんからね。

あんな裏切り野郎のことなんて」

 

 

 そんなソーナに、イッセーが堕天使のトップを殺しかけた事を聞き付けていた匙が苦々しい顔をしながら否定すると、ソーナは不思議そうな顔をする。

 

 

「この前もそんな事を言っていたけど、裏切りとはなんの事なの?」

 

「確かにな、アイツが何時キミを裏切ったのか……というより、裏切るだけの関心をアイツがキミなんぞに持つとは思えないのだが?」

 

 ソーナに続いて、然り気無く皮肉を吐くエレーナに匙は流石にここで自分の夢について言えるわけもないので口ごもる。

 

 

「そ、それは……その……」

 

 

 まさか前に『ソーナと将来できちゃった結婚をする』とイッセーに語り、それを応援してくれたのにそれを裏切った――とは言えるわけもない匙。

 

 

「と、とにかくあの野郎は俺を裏切ったんです! 俺の気持ちを知ってるのにあの野郎は会長に……!」

 

「?? 私にって、なによ?」

 

(なるほど、記憶を取り戻す前のイッセーならソーナとは面識が薄かったなそういえば)

 

 

 天然マイペース白龍皇にしては珍しく色々と察したエレーナは、敵意を剥き出しにしている匙なる少年を微妙な眼差しで見る。

 

 

「余計なお世話かもしれないが、その夢とやらは所詮キミの願望なのだろう?」

 

 

 前世でもそういえばイッセーに逆恨みしていた男が居たなと思い出しつつ、エレーナは匙に言う。

 

 

「な、なんだよ? だとしたらなんだってんだ?」

 

「願望――というよりは単なるキミの妄言でしかない話に裏切るもなにもないんじゃあないか? いくら夢だなんだのを抱いたところで肝心なのはソーナの気持ちだしな」

 

「……? 珍しくロマンチックな事を言うのね? ラーメンと戦うことしか頭にない子にしては……?」

 

 

 イッセーや神牙や自分と殴り合う事か、ラーメンを食べることが生き甲斐みたいな所しかなかったエレーナとは思えない言葉に少し驚くソーナを横目に、エレーナは図星気味で言葉に詰まる匙が前世と同じく将来独立させてもソーナの『ストーカー』にならないように敢えて釘を刺す。

 

 だが、見た目は美少女で内心可愛いとか思っていたりするエレーナに図星を突かれたせいか匙は余計に逆上してしまう。

 

 

「う、うるせぇ! お前には関係ないだろうが!」

 

 

 そもそもこの少女からあんなにひっつかれてるのに、ソーナにまで手を出そうとしているイッセーの方が悪いに決まっているのだと思う匙の言い分もわからなくもないのかもしれない。

 

 

 

『匙? ああ、記憶が飛んでた時期に話した事はあるな。

何でもひんぬー会長と―――――あ……!』

 

 

 

 

『や、やっべー……。

そういや匙って奴、ひんぬー会長の事好きだってのを普通に忘れてたわ』

 

 

 

『でも嫌だな。

あの人も俺にとって大好きな人だし、あの人がどうでも良い野郎に口説かれてるの見たら、多分俺、そいつぶち殺してしまいそうだぞ……』

 

 

 

 当の本人が記憶を取り戻した後もこんな調子でなんの罪悪感も持たないのだから、匙が逆上しても仕方ないと思わされるものは確かにある。

 

 

(前世の時、何故結婚しなかったのかアザゼル達も不思議がってた程だからな、イッセーとソーナは……)

 

 

 

 アザゼルですら不思議がり、ガブリエルは、鈍い男を振り向かせようとする立場という意味でそんなソーナにシンパシーを抱いたせいかかなり仲良くなっていたと思う程の仲だったなぁと過去を思い返しながら、喚く匙を他の眷属達が慌てて宥めようとするのを微妙な目で見るエレーナ。

 

 

「そろそろイッセー君の様子でも見に行こうかしら……」

 

「そうしてやれ――――と、 言いたいところだが、自分の眷属達ともう少し話し合ってみたらどうだ?」

 

「え? ………あー、イッセー君の件って意味で?」

 

「ああ……今の眷属達がもしお前とイッセーがやってることを目の当たりにしたら暴動でも起こりかねんだろうしな」

 

「……。そう、みたいね。

でもどうしてこんなに怒るのかしらね? イッセー君にはちょっと抱き枕にされたり、ちょっと胸を揉まれたり、ちょっと耳たぶを噛まれたり、ちょっと押し倒されたり、どこがとは言わないけどちょっとちゅーちゅーされたり、どこがとは言わないけど、くんくんされたりするだけで大騒ぎされる謂れもない気がするのだけど……」

 

「イッセーに対してだけ貞操観念が緩すぎるんだよソーナは……」

 

 

 ソーナもソーナでイッセーに対してだけは、なんでもかんでも許す時点で最初から匙に勝ち目もなにもないのだから。

 

 

 




補足

アザゼルを危うく殺しかけた所でストップがかかり、現在勾留中な模様。
尚、本気出したら抜け出すこと自体は可能だが一応大人しくしている模様。


その2
そら、応援するぜ! 言われておきながらベタベタしとんだから裏切られた思うわね……。


その3
イッセー相手だと基本なんでも許すのがソーたん。
でも流石に人前でひんぬー言われて揉まれるのは許さない。


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