ちょいとおかしな三馬鹿
生きる者は全て、目を閉じて生まれる。
そして大半はそのまま生涯を終える。
指導者にやみくもに従って、自分の夢の為ならば喜んで我が身を犠牲にする。
俺にとって、それは『悪魔』だった。
高校2年になったばかりのある日、ある切っ掛けを経て俺は悪魔の存在を知り、兵士として転生した。
夢の為に悪魔の下僕として働く日々自体に悪い気はしなかった。
しかし何故か子供の頃から感じる違和感と物足りなさは悪魔に転生しても満たされなかった。
具体的にはわからないが、何か大切なことを忘れているような違和感……。
そんな違和感を誰にも話す事もなく抱きながら生きていく俺は、悪魔の下僕として様々な出来事を知り、体験していった。
そしてある事件を切っ掛けに……俺は閉じていたその目を開く事になるんだ。
自身が管理を任されている人間界の町に訪れた騒動の鎮圧に動くリアス・グレモリーは様々な幸運に恵まれた事で、今回の騒動を引き起こした黒幕とされる堕天使・コカビエル並びに聖剣を巡っての事件を起こしたはぐれの神父たちの撃退に成功したのかもしれない。
撃退というよりは、コカビエル達との決戦の場となる学園に現れた、自身の兵士である少年の宿す神器の力と対を成す神器を宿した者の乱入によって……だが。
それでも一応町を守る事は出来た訳だし、仲間達も無事であるのだからリアスとしても一安心すべき事だろう。
しかしその乱入者のせいで――――
「え、お前……まさか『あの』ヴァーリなのか?」
「……………! 思い出したか!?」
都合よく『消えていた』兵士の少年の『記憶』を呼び起こしてしまうことになってしまうのだから。
誰よりも自由に、誰よりも楽しく、そして誰よりも狂った生き方をしようと誓い合った親友が居た。
だけどいつの頃からか――いやあることが切っ掛けで一人の少年の記憶が消え去り、そして引き裂かれた。
少年の親友は必ず元の少年に戻してみせると誓った。
その為ならばなんでもした。
どんな屈辱にも堪え忍んだ。
引き裂かれ、世界を追われても決して諦めはしなかった。
記憶を喪った少年につけこむ悪魔達への殺意を『機が来る』その瞬間まで押さえ込んだ。
そして今……時にはバカみたい笑ったり、喧嘩したり、思う存分食べたりし合った親友であり、ライバルでもある少年は帰還した。
本当の意味で……。
「ちょっと待て……お前がヴァーリだとしてもだ。
お前……なんで……?」
「色々あったとしか言えないんだよ。
言っておくが変装でもなんでもない、オレは確かにお前の知っているヴァーリだ」
「それはわかるけど、お前女になってるじゃねーか!?」
世界を越えた再会。
これは引き裂かれた『三馬鹿』の再会とちょっとしたあべこべのお話。
「オレだって最初は戸惑ったさ。
けれど今となっては慣れたものだ」
「中身がお前な以上、外見なんてどうでも良いけど。
てか神牙はどこだよ?」
「わからない。
オレも散々探したが……」
ヴァリ子ちゃん(仮名)として生まれ変わった少女により、かつての記憶を呼び戻せた少年。
「神牙は取り敢えず後にして………ちょっと待とうかグレモリーさん達よー?」
「う……」
「記憶がすっ飛んでる間に随分とおたくらには『お世話』になったみたいだが……。
それだけではなさそうなのはどうしてなんでしょうねー?」
何故かコソコソと逃げようとする主と仲間達を問い詰めんとするイッセーだったり。
「わ、わたしは別にやましいことなんてしていないわよ!? あの時だってレイナーレに殺されかけたアナタをただ転生させただけだもの!」
「…………。イッセーの力を初めから知っていたようだが?」
「し、調べただけよ……! だ、大体どうであれ今のイッセーは私の兵士だし、アナタこそ堕天使側の者でしょう!?」
「立場的にはね。
だがそれ以上にオレはイッセーの友達だ」
ヴァリ子ちゃんとリアスが喧嘩になったり。
「そんな訳でお前の家に厄介になるからな? ここでは普通に両親と暮らしているのだろう?」
「そこの人たちが勝手に魔改造した家でね」
「ちょ、ちょっと!? アナタは白龍皇でしょう!? しかも堕天使サイドのアナタが赤龍帝であるイッセーと一緒に住むなんて――」
「それの何が悪いんだ? 二天龍の宿命の事を言っているのならお門違いだぞリアス・グレモリー? なぁ?」
「本当にウチに来るつもりなのか?」
「ああ、その為にわざわざこの時代の『単なる堕天使』のアザゼルの実験動物に甘んじてたのだからな」
基本的に親友同士なので図々しいヴァリ子ちゃんだったり。
「てな訳で暫くウチに置いておくことにした。
部屋は――」
「お世話になります。ご両親にはご迷惑をおかけしないようにイッセーの部屋を使わせて頂きます」
『…………』
「お前なー……? 部屋なら腐るほど空いてるんだからわざわざんなことせんでも……」
「うるさい。
何年もお前にほったらかしにされたし、話すことは山ほどあるんだ」
図々しさが倍増ししてたり。
なんか息子が見知らぬ銀髪碧眼少女を連れ込んできたことに困惑する両親だったり。
「そもそもお前がさっさと記憶を取り戻してさえいたら、あんな小物悪魔の下僕になんてならなくて済んだというのに……」
「随分と口が悪くなってないか……?」
「ライバルでもあり、親友だと認めた奴が弱い奴の言いなりになっているだなんて嫌だったからだよ。
……正直お前が構わないのなら今すぐにでも奴等を皆殺しにしてやりたいくらいだ」
「お、おいおい。
ラーメンの事しか頭にないお前はどこに行ったよ? 俺も思い出した今はグレモリーさん達の下僕になり続けるつもりは無いけど……」
ある種自分より重くなってる天然白龍皇にちょっと圧されたり……。
「そにしても、ホントに女なんだな」
「あんまりジロジロ―――いや、お前なら良いか。
言っておくが女になったからと言って弱くはなってないぞ?」
「みたいだな……。
てかそろそろ寝ろよ? なんだよこの修学旅行みたいなノリは……」
全てを思い出した少年はそれでも進むのだ。
制御不能の三災厄と呼ばれたのは今は昔の別世界。
この世界は過去であって過去とは違う世界だというのは、再会した親友の性別が違っている時点で理解する他ないし、何よりその事を思い出すまでに時間が掛かりすぎたせいで、自分は悪魔の眷属になってしまっていた。
「別におたくらに恨みだって感情はないんですがね。
どうせ下僕になるならお色気ムンムンの人妻か未亡人悪魔のお姉さんの下僕になりたかったなぁと思うと些か残念と言いますか……」
『……』
「いえね? 記憶がすっ飛んでた間の俺がおたくらに借りが出来たっていうのは重々承知でございますよ? けどその借りにしたってこの前の……あー? 誰だっけ? フェニックスだったかの悪魔との婚約話を無かった事にしたのに力貸した辺りで返してる気がしないでもないと言うかー……」
「もっとハッキリと言ってやれイッセー
そうでないとこの手の奴等は聞きもしないぞ」
別に自分が悪魔の眷属になったことに関してに不満があるわけではない。
そもそもその当時は記憶もなかったのだし、どうであれ死にかけていた所を悪魔に転生するという形で助けられたのは事実だ。
「一応聞きますけど、駒ってのを使って転生した場合、元に戻せたりは……」
「できないわ。
一度転生させた駒はアナタ自身の命として宿るし、主従関係は転生悪魔として死ぬまで変わらない」
「……………なーるほど」
そこにどんな『思惑』があるにせよ、そして自分を悪魔として転生させたこのリアスが記憶を失って生まれ変わる前の自分を『知っている』様な様子であろうが、別に恨みはない。
その横で話を聞いていたヴァーリ(女)が、実に不満げな顔をしていようとだ。
「ならばコイツらを殺せば晴れてイッセーは自由というわけだな?」
親友の一人であり、女として生まれ変わっていた白龍皇はその蒼い瞳を鋭くさせながらリアス達に殺気を向け、それを察知したリアスとその眷属達が身構えようとするが、そんなヴァーリの頭をイッセーは余計小さくなって掴みやすくなったと思いながら掴んで止める。
「よせヴァーリ。
ここで彼女達をぶち殺したら色々と面倒なことになる」
「別に構わんだろう? この女共を殺したとしても出てくるのは精々魔王クラスだしな」
「前提として俺は転生悪魔になってるせいでパワーが落ちているんだぞ。
それに悪魔と敵対しちまったらひんぬーさんで遊べなくなるだろが」
そう言いながら無遠慮に美少女化したヴァーリの頭を痛くない程度にぺしぺしと叩くイッセーにより、ヴァーリは渋々と殺気を引っ込める。
「甘い奴だな相変わらず……」
「甘いとは違うと思うぞ? 今消すと困る事になると思ってるだけだしな」
「それでもだ……」
「拗ねんなよ? 後でラーメン奢ってやるから機嫌直せっての」
記憶を取り戻す前の――言うなれば本来の一誠とは違ってどこかシビアな態度になっていることに、リアス以外の眷属達は困惑している様子であり、また話し掛ける事もできない。
「てなわけで拗ねたダチにラーメン食わせなきゃならないので、今日の所は帰らせて貰いますよ? ああそれと、おたくが勝手に魔改造して無駄にデカくしてくれちゃったあの家に入り浸るのは勝手ですけど、あの両親に余計な事は吹き込まないで貰いたいですね。
アンタ等が余計な事をしてくれたお陰で、あの親父は働くのを辞めてしまいましたし」
『…』
そんな一誠はヴァーリを連れて部室を出る。
結局の所、一誠の望みは何者にも縛られない自由なのだ。
ちょっとおかしな三馬鹿――始まらない。
簡易人物紹介
イッセー
記憶を失う以外は特に変わりもなかった『赤き狂龍』とかつて呼ばれし青年。
記憶を失っていたことで皮肉にも本来のイッセーとしての人生を歩むのだが、記憶を取り戻した事で……。
現状、リアスの兵士であり、パワーも相応に落ちている。
リアス・グレモリーと愉快なお仲間達。
前世の記憶を持つ者であり『狂龍時代』の彼を知っていた為に記憶を失っていたイッセーを下僕化させることに成功。
力こそ殆どなかったものの、それでも彼の潜在している危険なパワーの魅力に勝てずに、あの手この手を使って依存させようとしたのだが……その途中で記憶が蘇ってしまう。
エレーナ・ルシファー(ヴァーリ)
白龍皇にてイッセーの親友の一人……そして『白き破壊龍』と呼ばれていた者。
生まれ変わった際に女になっており、色々とそのせいでエグい過去が量産されたらしいが、本人は親友達との再会を糧に頑張っていた。
そのせいか前世の頃より親友二人への甘えっぷりが悪化しているもよう。
ちなみに今の彼――否、彼女の容姿のイメージは某魔女の旅々の主人公。