色々なIF集   作:超人類DX

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表さんより大分ぽんこつなのはご愛敬


がんばれ、ぽんこつ裏萌香さん

 

 

 身内への情が本気を出すことを阻んだ。

 

 身内への情により本来なら受けなくても良かった痛みを受けてしまった。

 

 身内への情が……巻き込まなくても良かった者達を巻き込んでしまった。

 

 

『来るわ……!』

 

 

 月音はそんな私を蔑む事はしなかった。

 『仮に俺がお前の立場だったら同じ目にあっていた』と、珍しく私を貶したり叱咤したりはしなかった。

 

 けれどその言葉が逆に私を不安にさせた。

 

 私の代わりに姉を捻り潰したあの背中がどこか遠退くように見えてしまった。

 

 だからこのままではダメだと。

 身内への情が祟って本来の力が発揮できないのなら、手加減しても無力化できるまでの力を持てば良い。

 

 

「……来いっ!」

 

 

 人も魔も超えた先をまだ歩き続けるアイツに追い付くにはそれくらいの力を持つことすら通過点でしかないのだから。

 

 

 条件が有利に働いたとはいえ、一度は月音に土をつけられた裏萌香は、己の成長に満足しつつも不満を持っていた。

 

 主に月音との関係に。

 

 

「確かに、去年一度だけお前にしてやられた事は認める。

だが素面の状態で負けるほど弱体化しちゃいない」

 

「ぐ……」

 

 

 同年代でありながら明確に自分の先を行く存在。

 全力でぶつかっても壊れない。

 

 『挑戦する』楽しさを教えてくれた存在。

 

 裏萌香にとって月音とはそんな男であるのだが、それ以外に関しての関係性はといえば最近ぞんざいに扱われているような気がしてとても不満だ。

 

 

「今日はここまでだな」

 

「ま、待て! 修行は終わりで良い! だ、だがちょっとだけ待ってくれ!」

 

「は?」

 

 

 最初は自分と表の自分としか関わらなかった月音が、月日を経るごとに様々な者と関わるようになった。

 それは別に良いとしても、その関わる者達が軒並み女ばかりだし、関係性が広がる度に自分に対する態度が適当になっていく。

 

 それが裏萌香はとても不満なのだけど、基本的にぽんこつ気味でありつつ素直でもない性格故に空回りばかり。

 

 そんな裏の自分を見兼ねて表の萌香がこそっと裏の萌香に色々とアドバイスをする訳で……。

 

 

「10分……いや5分で良いから待ってろ! 良いな!」

 

「あぁ?」

 

 

 修行を終えた途端さっさと帰ろうとする月音を全力で呼び止めた裏萌香は、『五分待て』とだけ言って全力で寮部屋に戻ると、本気でおめかしをする。

 

 

「こ、これで大丈夫か?」

 

『うん、バッチリ!』

 

「し、しかしこれではまるで月音に媚びるような……」

 

『じゃあ他の女の子に取られても良いの?』

 

「そ、それは嫌だ……!」

 

『だったら攻めないと』

 

「う、うむ……」

 

 

 等というやり取りをしてから、律儀に待っていた月音のもとへと戻る裏萌香。

 常人ならその姿に見とれること間違いないのだが、相手はあの月音であり、寧ろ不審者でも見ているような顔だ。

 

 

「なんのつもりだよ?」

 

「あ、う、うむ……。

ちょっと、もののけ番外地に行くのに付き合わせてやらんこともないというか……」

 

 

 要するにデートの誘いなのだが、裏萌香の素直ではない態度に若干イラッとなった月音は冷めた顔だ。

 

 

「待ってろとほざいた理由がそんなくだらん理由なのか? なめてんのかよ?」

 

「え、い、いやその――」

 

「俺はオメーと違って暇じゃねーんだよ、そんなもん一人で行ってろ」

 

「……………」

 

『『あーあ……』』

 

 

 道端に落ちている塵でも見るような顔をする月音の言葉に、其々の中に居る表萌香とドライグの声が重なり、一撃で粉砕された裏萌香はといえば―――ちょっと涙目だ。

 

 

「わ、私が誘ってやってるのになんだその態度は!? 泣いて喜ぶべきだろうが!?」

 

「泣いてんのはオメーだろうが。てか、自意識過剰なんだっつーの」

 

「な、泣いてない! 良いから付き合え!! つ、付き合え……よぉ……!」

 

 

 あまりにも平淡過ぎる月音に、表の萌香と共に三日掛けて選んだ私服のスカートの裾を両手で握りながらプルプル震えてポロポロ泣き出す裏萌香を見ていられなくなったドライグと表萌香が月音を説得する事で、嫌々ながらうなずかせる事に成功するのだった。

 

 

「………」

 

「…………はぁ」

 

 

 ドライグと表の萌香に説得されて漸く頷いた月音は、引く程ニコニコと前を歩く裏萌香の後ろをため息を吐きつつのろのろと、もののけ番外地と呼ばれるショッピング街を歩いている。

 

 

「お、おぉ……見ろ月音、カップルだらけだ」

 

「だな」

 

「あわわ! あそこのカップルは手を繋いでるぞ!」

 

「だね」

 

「む、向こうのカップルは腕を組んでいるぞ!」

 

「一々指を指すなバカ」

 

 

 五歳児みたいたテンションの裏萌香に引っ張られる月音はとてもげんなりとしている。

 

 

「お、おほん! ま、まあこういう場所なのだし、お前がどうしてもと言うのなら手を繋いでやらんこともないが? もしくは腕を―――」

 

「……………………………………ガチ泣きさせられてーのかコイツ」

 

 

 

 

『ど、どうしてそういう言い方しちゃうかなぁ……』

 

『らしいといえばらしいがな』

 

 

 こうしてドライグと表萌香に見守られながらのそこそこに歪なデートが幕を開けることになる。

 

 

「あ、このワンピース可愛いぞ? どうだ?」

 

「…………」

 

『なんとか言ってやれよ?』

 

『ちょーっと褒めてあげるだけで良いから…』

 

「……………。そっちよりこっちの色のが良いんじゃないか?」

 

「!? そ、それもそうだな!」

 

 

 

 この時だけは色々な事を忘れて……。

 

 

『ふふ、この調子なら後で少しだけ入れ替わって貰えそうね……。

ドライグ君もその時は月音と入れ替わってくれるでしょう?』

 

『……。お前、まさかそれが目的で裏のモカを焚き付けたのか?』

 

『あはは、否定はしないよ? でもこの子の背中を押したかったというのは本当よ? 素直じゃないから……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、ウキウキドヤ顔の裏萌香が、わざわざ自慢気に胡夢といった者達に月音と遊んだと言ったせいで、少々面倒なことになってしまった後の事。

 理事長に呼ばれ、立場的には唯一の役員であり副委員長である瑠妃と共に理事長室に来ていたのだが……。

 

 

「あっちにある金の犬の置物とか高そうだから持ってくぞ。

あー、それとそこで偉そうに座ってる理事長の椅子もな」

 

「は、はい……」

 

「………。来る度に私の部屋の物を没収するのはやめてくれないか?」

 

 

 

 入るなり月音は瑠妃に指示を出し、来る度に奪い取っては補充される理事長室の備品をさも当たり前のように徴収している。

 

 

「金なら腐る程あるんだろうが、おら財布出せやコラ?」

 

「………………………」

 

 

 挙げ句の果てには理事長の財布を奪い取る暴君っぷりは最早生徒という立場が消し飛んでいるとかしか思わず、理事長も理事長で黙って財布を差し出してしまう訳で。

 

 

「あ? 理事長の分際でこれしか持ってねーのか? シケてんなぁ?」

 

「高頻度でキミにカツアゲされているのだから仕方なかろう……」

 

「その分アンタの理になる程度の仕事はしてやってんだろうが、寧ろこの程度で済ませてやってるだけありがたいと思うんだな。

おら、ボサッとしてねーでとっとと俺と瑠妃に茶のひとつも入れろや?」

 

「……………はい」

 

(り、理事長に対しては私が出会った当初の鬼畜モードな月音さんなんだよなぁ……。

少しで良いからその鬼畜モードをこっちに向けて欲しいのに……)

 

 

 当たり前のようにソファにふんぞり返り、理事長を顎でこき使う鬼畜さに理事長は中間管理職の地位に着くくたびれたリーマンのような哀愁漂う背中でとぼとぼとお茶を入れに行き、そんなやり取りを理事長に置いてある備品を失敬しつつ見ていた瑠妃は、その鬼畜さをちょっとはこっちに向けて欲しいと仄かに思うのだった。

 

 

 

「また買い直さないとな……」

 

「あ、あの……ごめんなさい?」

「いや良いんだ。

彼の言う通り、私個人の仕事をやって貰っていて寧ろこの程度で済んでいると思えばな……」

 

「そういう事だ。

そもそもこの前のよくわからん集団を返り討ちにしやった報酬も無しだったんだ」

 

 

 あまりにも理事長が可哀想になってきた瑠妃が謝るも、白ローブを頭から被った風体の理事長は気にしなくて良いと言いつつ『苦ぇ……いい加減上達しろよなコイツ』とお茶の味に文句を平然と言う月音と向かい合うように座る。

 

 

「白雪みぞれの故郷である里に出没した例の組織についてだが……。

組織名は知っているのかね?」

 

「知らね、興味もない」

 

「うむ、なら一応教えておこう。

名を御伽の国(フェアリーテイル)だ」

 

「また御大層な組織のお名前だな。

油虫共(コックローチ)で良いだろ」

 

「「…………」」

 

 

 一応人間界に仇なす危険な組織という触れ込みだというのに、ゴキブリ呼ばわりする月音の傲慢っぷりに理事長は閉口してしまいそうになる。

 

 

「で、そのゴキブリ共の巣窟の場所はわかったのかい?」

 

「已然難航中だ。

もっとも、突き止めた所で攻め入るのは難しいかもしれないがね」

 

「………というと?」

 

「組織の本当の目的が仮に……我が師である白音をこの世に呼び戻すのだとするなら、今の月音君一人では壊滅は難しくなる」

 

「え、まさか……」

 

「キミ達にしてみれば信じられぬのかもしれん。

しかし今の月音君では我が師の領域には届かぬのだ……」

 

「………………」

 

 

 

 イッセーとしての苦い記憶となる白音の行方はこの世でもあの世でもない場所に眠っているとされる。

 その白音を呼び覚まし、再びこの世界に再臨させることはあまりにも危険であると、遠い昔に弟子であった理事長の語りにそれまで傲慢にお茶を飲んでいた月音は静かにカップをテーブルの上に置く。

 

 

 

「そもそも何故あの組織が白音をこの世に呼び戻そうとしているのかはわからんが……あの師がその気になれば人間界も妖怪の世界も―――いや、この星そのものがあの人の餌に成り下がる」

 

「…………」

 

 

 星を越えた存在。

 月音の更に先を行く存在。

 

 まさにお伽噺のような存在だと語る理事長の言葉を月音はひとつも否定せず、鋭い目付きで理事長を見据えているその姿が瑠妃に信憑性を抱かせ――そして去年垣間見た月音の過去の記憶に鎮座するあの白い猫の姿を思い出す。

 

 

「だから月音君――キミには取り戻して貰わないとならない。

一誠の時の領域――――否、更にその先に。

もし師が眠りから目覚め、今のキミを―――いや、今のキミの持つ繋がりを知れば、師は間違いなくその繋がりを喰らい尽くすだろう」

 

「な、何故そうだって……」

 

「キミだって彼の過去の一部を見ただろう? 師はどうしようもなく歪んだ情を彼に抱いている。

彼の憎悪も、殺意も、嫌悪も含めて彼女は愛しいとすら思っているのだ。

その情が自分一人に向かなくなってたと知れば、彼女は間違いなくその根を壊しにかかる。

壊せば確実に彼の憎しみが自分一人に向けられると思ってな……」

 

「………」

 

 

 理事長の言葉に対して月音が無意識に握りこぶしを強く握る姿を目にしながら瑠妃は確かにと納得をする。

 あの白音という、見た目だけなら可愛らしい美少女の抱える月音への――否、一誠への感情はあまりにも歪みきっている。

 

 

「キミとてそれは困るだろう? 裏萌香君とデートまでして―――」

 

「デートじゃねー、我儘に振り回されただけだ」

 

「師がもしも知ったら真っ先に殺されるぞ……?」

 

「…………」

 

 

 あの歪みっぷりからして、月音の殺意といった感情を一人占めする為なら周囲を無差別に壊すことすら躊躇わないだろう……。

 

 

「流石に私も師にこの世界を喰らい尽くされては困る。

過去の領域に囚われずに新たな領域を模索し始めたキミには停滞されても困るのだよ」

 

「……………」

 

「そう睨まんでくれ。

ただキミに師について押し付けるつもりは更々無いし、協力もする。

まずはそのひとつとして、キミがある程度本気で修行に没頭できる場所を提供しようではないか」

 

「なんだと……?」

 

 

 意味深に笑う理事長の言葉にぴくりと反応をする月音に入れられたお茶は既に冷めていたが、続けるように語るその理事長の言葉に月音の精神は少しだけ火を灯す事になるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「修行?」」」」

 

 

 

 月音と瑠妃が理事長室にて話をしていたその頃、新聞部の部室(公安委員室)では部活動もそこそこに表の萌香の提案に部員達は声を揃えていた。

 

 

「そう。

カルア姉さんが今居る謎の組織の事もあるし、何かある度になにより月音ともう一人の私だけに負担をかけるのはよくないなおと思って、この際皆で修行とかしてみない? と思って」

 

 

 御伽の国なる組織がみぞれの故郷の里から撤退したのは月音のお陰であるとはいえ、今までもそうやってなんだかんだで月音の存在が大きすぎたと話す表の萌香に胡夢やみぞれや紫は『確かに』と思う。

 

 そしてなにげに居る心愛も内心同意しつつ聞き耳を立てる。

 

 

「考えてみれば裏萌香だけが現状一番月音の強さに近づいてるというのは気にくわないわね」

 

「でしょ?」

 

『そればかりか二人きりで遊ぶ仲でもあるがな!』

 

「……。しかし修行は良いとしてもどこでするのだ? 流石に学園の敷地でやるとなるとその度に壊してしまうだろうし……」

 

『その時月音は服も選んでくれて――』

 

「月音さんに言えば『んなもん気にするなよ。直すのどうせあの理事長なんだし』なんて言いそうですけどねー」

 

『ソフトクリームを一緒に食べたぞ!』

 

 

 現状、月音に近づけているのが裏萌香のみだし、今後の事を考えたら鍛えておくべきだという考えで纏まる女子達だが、問題は修行に使えそうな場所の確保であり、何かある度に月音とのデートの自慢話を始める裏萌香のロザリオ越しから聞こえる声をスルーしつつどこにしようかと全員で考えていると……。

 

 

 

「ふ、すっかり私の部屋より公安委員室(このへや)の方が理事長室っぽくなってしまったなぁ」

 

 

 白いローブを頭から被った見た目不審者こと理事長が、ため息交じりに理事長室とこの部屋のランクが逆転している状況を口にしながら入室してきたので、萌香達は驚きの声を出す。

 

 

「「「「「理事長!?」」」」

 

「ああ、皆御存知の理事長だ。

………もっとも、君たちが噂する月音君からパシり同然に扱われているがね」

 

「「「「…………」」」」

 

 

 妙にネガティブ発言が目立つ理事長に対して微妙にツッコミの言葉が見つからない萌香達だが、それよりもまずは理事長が来た理由を問う。

 

 

「どうしてここに?」

 

「あー、うむ、キミ達が噂している月音君に関して話しておこうと思ってね。

あ……この椅子、元々は私の部屋の椅子だったんだよなぁ」

 

 

 月音に関する話と聞いてちょっと真剣になる萌香達なのだが、微妙に悲しげな声で月音の席に座って椅子を回転させているせいでシュールさの方が目立ってしまう。

 

 

「ああとすまない、月音君の話だったな?

えーと、今月音君は瑠妃君と共に私が提供した場所で修行をしているのだよ」

 

「え……」

 

「ある場所?」

 

「うむ、その場所ならば月音君もある程度本気で修行に没頭できると思ってね。

彼にはどうしても『全盛期以上』の領域に到達して貰わないとならないのだよ」

 

「全盛期以上って……」

 

 

 『この机も元々私のなんだよなー……』と文字通りお高い机を手で撫でながら月音の現状を話す理事長に萌香達はその場所が気になって仕方ないし、何気に瑠妃と二人というのが気にくわないので、どうしてもその場所が知りたかった。

 

 

「ああ、心配せんでもキミ達もそこに連れて行くつもりだ。

対御伽の国の戦力は多いことに越したことはないからね」

 

 

 そんな女子達の考えを察したのか、理事長はそう言うと『ついて来たまえ』と萌香達を学園の地下へと案内する。

 

 

「モンスターの楽園って……?」

 

「獰猛過ぎたり絶滅寸前の妖獣を隔離保護する空間だ。

ある程度頑丈だし、修行の場としてはうってつけだろう?」

 

「確かにそういう空間なら月音さんも気兼ねなく集中はできそうですけど……」

 

「瑠妃さんは大丈夫なのかしら?」

 

 

 別空間へと繋がる扉を開けながら説明をする理事長の言葉を聞いて色々と納得と理解をする萌香だが、そんな空間に月音はともかく瑠妃が居て大丈夫なのかと少し心配しつつそのまま入る。

 

 そして萌香達が目撃したのは――

 

 

「ウォラァァァッ!!!」

 

「ふんっ!!」

 

「ぎょえー!?」

 

 

 

『………………』

 

 

 狂犬のような形相をした月音が、襲い掛かってくるモンスター達を逆に狩りまくるという――予想通りといえばそれまでな光景だった。

 

 

「遠慮しないで死ねやァ!!」

 

「あひぃん!?」

 

 

 そして何故かそんなモンスターと一緒になってぶっ飛ばされている――恍惚に満ち足りた顔の瑠妃のオマケ付きで。

 




補足

意志疎通が可能なのと、月音が鬼畜に強いせいか基本的に喜怒哀楽が強いぼんこつ娘な裏萌香さん。

なのでデート中は常にテンションが高かったとか

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