色々なIF集   作:超人類DX

934 / 1034
続き。





粘着質でショタコン

 

 

 生まれた時からそれが当たり前だった。

 

 だからそうではない人達の事が、実の親を含めて理解ができなかった。

 

 だから俺は子供ながらに、そんな人達から俺自身を否定された時に悟った。

 

 ああ……俺は普通ではないだなって。

 

 

 俺は確かに人間だ。

 人の限界を越えたとしても人間であることに変わりはない。

 

 だけど人でありつつも人でなしであることもまた事実なんだ。

 

 人でなしになったからこそ、畜生共に目をつけられ。奴隷のように扱われたんだろう。

 

 それが良いか悪いかなんて今でも俺にはわからない。

 

 おおよそ普通の人間が経験しないことを経験し続け、別人に生まれ変わり、命乞いをしたところで散々殺しまくってきた畜生共と呼ぶ連中と妙な関係性を築いている今でもわかりゃしない。

 

 だけどひとつだけ、ろくでもない死に方しかないであろう俺にはひとつだけ生きる糧が残っている。

 

 俺を否定せず受け止めてくれたイリナとゼノヴィアを失っても尚残るたったひとつの意義。

 

 

 誰よりも自由に、誰よりも狂って――そして誰よりも長く生きてやる。

 

 その邪魔をする奴等は皆ぶちのめしてやる。

 

 

 誰であろうが、どんな手を使おうがな………。

 

 

 それが、燃えカスのように消えている俺の異常が完全に消えない理由なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に学園の寮で寝起きする月音だが、今日の目覚めは学園体育館の倉庫だった。

 

 

「……………うっそだろオイ」

 

 

 何故そんな所で寝泊まりしているのかについては、目覚めと共に持っていた手鏡で自分の姿を確認し、絶望している姿にある訳で……。

 

 

『結構旨いとか言ってバリバリと大量に食べるからだろうな……』

 

 

 先日、紫が忘れて置いていったすくすくドロップを、そうとは知らずに大量に食べ散らかしてしまった青野月音が成長――ではなく幼児体型にまで退化してしまっているからであり、そればかりかその容姿が月音としての前世――つまり兵藤一誠の幼少期の姿だからである。

 

 

『どうするつもりだ? そんなナリではまず学校には行けんぞ?』

 

「どうするもなにも……くっ、事前に書き置きして『暫く休む』とは伝えてはあるが」

 

 

 以前も単なるキャンディと勘違いして食べた際は一晩で元の姿に戻れたのだが、今回は量が量なのと、紫があれから改良を重ねたせいか効力がかなり強いらしく、一晩では元に戻れなくなってしまっている。

 

 当然この姿では学校には通えないし、ましてや姿が姿ななので、見知らぬ幼児が学園内を徘徊しているとしか思われない。

 

 

『今回ばかりは食い意地の悪さが裏目に出たな』

 

「ぐ……だって普通に美味かったからな、あのキャンディ」

 

 

 結果、月音(ショタなイッセー)は効力が完全に切れるまで雲隠れをする羽目になるのであった。

 

 

「せっかくだ、戻るまで鍛え直しておこう」

 

『今のお前をあの白音が知ったら完全に『飼われる』だろうな……』

 

「やめてくれドライグ……真面目にゾッとしない」

 

 

 

 

 

 

 

『事情があって実家に暫く戻る。

近づいてきたらマジで殺す』

 

 

 ………そんな書き置きを残して忽然と姿を消した月音は今日も戻ってこなかった。

 基本的に学業に対しては意外な程真面目に取り組む月音としてはかなり珍しい事なのだが、実家でなにかがあったとなれば――ましてや様子を見に行ったら問答無用でぶちのめすと書かれていれば、イケイケ女子筆頭である裏萌香やみぞれ達も大人しくせざるを得ない。

 

 

「月音さんのご実家は普通の人間の家庭らしいですけど、一度も遊びに行ったことはないんですよねー……」

「来たら縁を完全に切る――と言われているしな」

 

「実家で何かあったのかなぁ……」

 

「ちょっと心配よね」

 

 

 ぽつんと本人の居ない月音の席を見ながら、表萌香、紫、みぞれ、胡夢が話をしている。

 皮肉にも、常に殺気だった月音の姿しか知らないクラスメート……牽いては学園生徒達は歴代の中でも間違いなく凶悪かつ凶暴な公安委員長が居ないせいか、時には涙まで流している者も居る中を、新聞部の面々だけは心配している。

 

 

「けど月音ってやっぱり存在そのものが抑止力だったみたいね。

居ないとわかった途端殆どの生徒達がはしゃいでるし……」

 

「本人は『手を煩わせさえしなけりゃあ勝手にしてろ』って思っているんですけどねー」

 

 

 わいわいと雑談やら時にはふざけあっている生徒達を眺めつつ、如何に月音の存在が生徒達にとっての恐怖の象徴だったのかがよくわかるし、その証拠に既に一学年ですら入学後から僅か一週間で青野月音という存在に楯突くとどうなるかを強制的に理解させられていたせいか、月音の前では訓練されたドーベルマンよりも大人しかった。

 

 

「まさかとは思うけど、イリナさんの所に行ってるとかないよね?」

 

「一応瑠妃さんに確認して貰いましたけど、来てないみたいです。

だから本当にご実家の事なのかもと……」

 

「うーん、一度で良いから許嫁として月音の両親に挨拶したいが、行ったらそれこそ詰みになるし……」

 

「許嫁て……相手にすらされてないのよよくまぁ自称できるわねぇ?」

 

「ふん、その無駄乳のおかげで良いとこ取り気味なお前にはわからないよ」

 

「む、無駄乳言うな! ……ま、まあ月音って結構大きい子がタイプっぽいから得と言えば得なんでしょうけど」

 

 

 

 なんやかんやで月音との関わりによって形成された繋がりである女子達は初めて月音の居ない日常の退屈さを知る事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、一年生の教室では『公安委員の狂気』と呼ばれている月音の不在により、すっかりはしゃぎ散らかす生徒達とは正反対に、確かに月音の不在に対しては歓迎していても、それはそれとして気になる少年の事を考えるあまり、少々ぼんやりしている少女――というか朱染心愛がそこに居る。

 

 

「……」

 

 

 見た目だけなら確かに美少女然としている心愛のそのたそがれた表情は目を引くのだが、本人はそんな視線に気づく事なく、先日再会し、そして去ってしまった茶髪の少年の事で頭が一杯であった。

 

 

「はぁ………」

 

 

 

 裏萌香以外の存在なぞ眼中ゼロなシスコンさを持つ心愛にしてみれば初めて気になる存在だった……好意的な意味で。

 

 子供にしてはどこか子供らしさを感じない――けどやっぱり子供っぽいイッセーという名の少年。

 

 初めて会った時に、助けてくれて以降ずっと記憶の片隅に残り続けていた彼が月音の従兄弟だと言った時はあらゆる意味でショックだったけど、同時にあの幼さには不釣り合いの強さには納得してしまった。

 

 恐らく月音が容赦せずに鍛えたからこそであり、鍛えたからこそどこか感情を抑え込んだ子供なのだろうと。

 

 

「どこに住んでるのかって聞いても教えてくれなかったし……ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたかしら……」

 

 

 が、そんな事よりも心愛はもっとイッセーを知りたかったのだが、先日の思わぬ再会でついテンションがあがって距離感を縮め過ぎたのは頂けなかったと反省する。

 

 お陰でイッセーが月音の従兄弟という以外はなにもわからなかったし、どこに住んでいるのかも聞けずじまいだった。

 

 まあ恐らく月音の従兄弟なのだから人間界に住んでいるのだろうが……。

 

 

「はぁ……イッセーくん」

 

 

 自分でも驚く程にイッセーのことが気になって仕方ない。

 というのもあの凶悪男こと月音と違って暴言は吐かないし、すぐ暴力に訴えようともしない。

 

 ほっぺはぷにぷにしてるし、良い匂いもするし、お姉さんらしく振る舞うと恥ずかしいのか俯く姿なんて、まあ可愛らしい。

 

 

 ……実は恥ずかしがっている訳ではなく、気味悪がられているだけなのだが心愛にはそう見えるらしい。

 

 そんな訳で現在絶賛気になる男の子の事で頭が一杯な心愛は、どうにかして会えないかと考えつつ、それを達成するには暴力男と毛嫌いする月音におべっかを使わなければならないのだと、憂鬱な気分にもなるのであった。

 

 

『……………』

 

 

 そんな心愛を殺意のこもった視線で睨む某空手部員が居るとは気付かずに。

 

 

 

 そんなモヤモヤを抱えたまま部活の時間となった訳だが、一応新聞部には正式に入っていない心愛は萌香達に顔を見せる気分ではないのもあって、今日はこのまま寮に戻ろうと考えながら寮へと続く道を歩く。

 

 

「今頃何をしてるのかなぁ……」

 

 

 結局寝ても覚めてもイッセーの事で頭が一杯であった心愛は、先日の思わぬ再会のせいか余計そうなってしまっている。

 

 

「今度会えた時はもう少し年上っぽく振る舞って―――」

 

 

 そんな状況故に、今の心愛はとても隙だらけであり、何時もならそんな不覚も取らなかった。

 

 

「がっ!?」

 

 

 後頭部に強烈な衝撃と痛みと共に意識を刈り取られるだなどという不覚を…………。

 

 

 

 

 

 新入生の部活勧誘期間であった騒動以降、空手部の名は地に堕ちたも同然であった。

 それは部員の中の複数人がそこそこにゲスな思考回路を持っていたのもあったのもそうだが、一番は部員の大半が子供一人に完膚なきまでに叩きのめされたから―――であった。

 

 結果、子供一人より弱い空手部という不名誉にも程がある呼ばれ方をされてしまって以降の空手部はとても肩身が狭い思いをさせられるし、部員も入らない。

 

 それもこれも朱染心愛……そしてどこからともなく現れた幼児のせいだと、色々と事情を知った後にボコボコにされた空手部員達は見事なまでの逆恨みをするようになり、密かに復讐の機会をうかがっていた。

 

 そして史上最悪の公安委員長が学園を留守にしているという情報を得た事で燻らせていた復讐心に火がついた空手部員数人は、まずはとばかりに隙だらけであった心愛を背後から襲撃することに成功。

 

 気絶した心愛を拉致し、縛り上げて今に至る訳なのだが……。

 

 

「キィッ!!」

 

「ぎゃっ!?」

 

「シャラッ!!」

 

「ぐぇ!?」

 

 

 空手部員数人は現在絶賛八つ裂きにされていた。

 ……再び姿を現した幼児一人によって、前回よりもより悲惨なまでに。

 

 

 

「ディィィヤ!!」

 

「ギャアッ!?」

 

 

 取り敢えず縛り上げられて喚く心愛の自尊心をズタズタにする為に、まあまあにゲスいお察しな方法でもしてやろうと手を伸ばし掛けた空手部員の前に再び現れし目付き最悪な少年。

 

 何故かその手にドスと呼ばれる短刀を持っている目付き最悪で可愛げゼロの少年は、囲い込む部員達を次々とトリッキーな動きで切り裂いた。

 

 そして短刀の柄を蹴って部員の一人の肩を貫けば、膝を付く空手部員を煽るように顔を近づかせ……。

 

 

「弱いなァ?」

 

「ぎひっ!?」

 

 

 ニタニタと笑いながら部員肩を貫いた短刀を乱暴に引き抜き、血を大量に流しながら地に伏せる部員を見下すのだ。

 

 こうして部員達の復讐はまたしても謎の少年によって破壊され、後日公安委員長が直々に乗り込んで『解体』されることになるのだが、この時はまだ誰も知らない。

 

 

「ふー………」

 

 

 何故か心愛に追い込みをかけていた空手部員達を『偶々目撃してしまったので仕方なく殲滅』させた謎の少年――つまりイッセー状態の月音は、一応死にはしていない部員達を見回しながら、ドスの刃に着いた血を振り払ってから鞘に納めると、何故かそわそわしている心愛を一瞥しつつ口を開く。

 

 

「前も同じ事なかった? あの時は確か今のアンタより大分ちびだった気がするけど……」

 

 

 一応今の姿と月音が=であることを悟らせないつもりでの質問だったりするイッセーは、心愛の身体を縛る縄をドスで切る。

 

 

「あ、や……前の時の仕返しのつもりだったみたい。

イッセー君がまたやっつけちゃったけど」

 

「そうじゃなくて、今のアンタならこんな奴等簡単に返り討ちにできるんじゃないの?」

 

 

 少なくとも心愛単体のスペックならこの程度の連中くらい苦もなく殺れると思っているイッセーからしたら、むざむざと捕まっている事が信じられないという意味の質問なのだが、心愛は困ったような顔で笑っている。

 

 

「そうだけど……イッセーくんが助けてくれたから良いでしょ?」

 

「……………」

 

 

 何が良いのかわからねーよ……と、内心月音として毒づく。

 どっちにしろ、無力化した時点でこの場所に用は無くなったので、そのまま去ろうと立とうとしない心愛に背を向けたのだが。

 

 

「ま、待った待った! 折角また会えたのに――というか何処に行くの? そもそも何でここに……?」

 

「……。月音に言われて来たんだ。

暫く学校を休むから、時間があったら様子を見に行って欲しいって……」

 

 

 当然の質問に対してイッセーは事前に考えていたそれらしい理由を話すと、心愛はどこか不満そうな顔だ。

 

 

「あの野蛮人、子供のイッセーくんになんて命令してんのよ……」

 

「………」

 

 

 どうやらイッセーは命令されていると思っているらしく、まるで自分のことのように怒っていた。

 その意図がまったくわからないイッセーは『別にオメーには関係ないだろ』と内心思いつつも黙っていると、唐突に心愛がハンカチを片手に膝を付きながらイッセーの顔を拭こうとする。

 

 

「な、なんだよ……?」

 

「じっとして。

顔に血がついてるから……」

 

「別に怪我してるわけじゃないし……」

 

「いいから!」

 

 

 嫌そうに顔を動かすイッセーの顔を割りと優しく拭く心愛。

 何故かこの姿の時だと馴れ馴れしいその姿にイッセーは疑問に思うも、喧しくないだけマシかとある程度は割りきることにする。

 

 

『どうやらイッセーとしてのお前には態度が軟化するようだ。

多分今回と前回にお前に助けられたからだろうな』

 

(なるほどな……)

 

 

 ドライグの言う通り、月音=イッセーであることを心愛は知らないし、借りもあることを考えればこの態度には納得も行くと……さっきから妙に身体を触ってくる心愛の鼻息が荒いのをスルーしつつ思う。

 

 

「はぁ、はぁ……! やっぱりいい匂いがするわ……ぷにぷにだし

……うへへ!」

 

「……………………」

 

『端から見ずとも危ない奴にしか思えんぞこの小娘』

 

 

 挙げ句の果てには頼んでもないのに抱き寄せてくる心愛に、ドライグもある意味で危険だと呟く。

 

 

「あの、離してくれない?」

 

「も、もう少し! もう少しだけ……!

というかこのまま一人で帰るのは危ないから今日は私のお部屋に泊まっていけばいいわ! ね、そうましょう!?」

 

「えぇ……?」

 

 

 そう言いながら離そうとしない心愛にイッセーは『やっぱうぜぇ』と毒づく。

 

 

「こいつらの血の匂いが酷いからお風呂入りましょう! 私が洗ってあげるから! ねっ!? ねねっ!!?」

 

「……………」

 

 

 だが、何時もの口調で罵倒してもなんとなくみぞれのように流されそうな気がしてならなかったという。

 

 

 

そして……。

 

 

 

「ちょっと野蛮人! イッセー君はどこよ!?」

 

「…………………。家に帰したに決まってんだろうが」

 

「なんで帰すのよ! 呼びなさいよ!」

 

「……………」

 

 

 翌日になってやっと元に戻れた月音に対して、開き直ったかのように心愛が詰め寄るようになるのだった。

 

 

「うるせぇんだよこのガキァ! 居ねーもんは居ねーんだよ! 消えろボケっ!!」

 

「消えないわよ! そういう言葉遣がイッセーきゅんの教育に悪いんだからやめなさい!」

 

「そもそもアイツなオメーなんぞに興味ねーわ!」

 

「そこはまだ子供だから仕方ないわ。

だからこそ今のうちに……ふ、ふふふ……」

 

 

終わり

 




簡易人物紹介その2


仙道紫

飛び級で月音達と同学年の魔女少女。

魔女という立場なのと子供ということで月音からの当たりはキツくないどころか寧ろ甘い。

しかし子供扱いされるので本人はやや複雑。


 朱染心愛

粘着質MAXな萌香の妹。

二番目の姉こと刈愛以上の危険性と狂犬さを持つ月音のことはおても嫌いなのだが、すくすくドロップで退化したショタ状態のイッセーのことは本人だとは知らない上にかなりの好意を持つ。

おかげで粘着質の上にショタコンという二重苦状態。


 黒乃胡夢

 サキュバス少女。

 当初はチャームも効かなければ一切自分になびこうともしない狂犬な月音を嫌悪していたのだが、恐れずに話せば割りと普通の返しをされることや、何度か助けられたこと――案外ストレートな展開に弱いと知ってからは割りと好きになっている。

そして月音も月音で見た目とは裏腹にかなり感性が普通である胡夢の事は嫌いではなくなりつつあるし、何度かそのメロンに顔面ダイブかましてこともあって―――――なにより彼女に対する腕の借りの件もあり、かなり態度が軟化している。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。