その後の始まり。
生まれた時から決して弱くはなかった。
そういう種族に生まれたので弱くはなかった。
そして他を抹殺する術を教育され続けた事で狩る側に立っていた。
それが当たり前であったし、これからもきっと自分は『狩る側』なのだろうと思っていた。
それが例え妹達と相対しても変わらないし、寧ろ愛する妹達を狩らなければならない事は大変に心が痛くて悲しい。
でも狩らなければいけないのなら狩るしかない。
悲しくて泣きながらも狩らなければならない。
だけど……。
『どぉ~もぉ~
そこいらの『チンケ』な風紀委員でぇ~す』
ニタニタと薄笑いを浮かべながら現れた男により、狩る側しか知らなかった女は生まれて初めて―――狩られる側の恐怖を知ることになる。
『いやね、ここ数日めんどくさい事ばっかりに巻き込まれて、頗る機嫌が悪くてね―――――
――――――――つまり、運が悪かったんだよ……テメー等は』
力の大妖と呼ばれた自分をも押し並べて平等に捻り潰す――龍を宿す帝王によって。
兵藤一誠から青野月音へと生まれかわりし少年は、一誠の時代の時では考えられぬ、人ならざる存在達との繋がりを持つようになることで精神的な変化が現れていた。
そんな月音がクラスメートの雪女少女によって嫌々なが故郷に招待された事で巻き込まれる形で始まってしまった今回の騒動。
簡単に言ってしまえばクラスメートである白雪みぞれの故郷である雪の里にて、みぞれが雪の巫女なる存在にある件のどさくさ紛れに拉致されてしまい、それを取り戻す為にガチャガチャとやっていたら妙な集団が背後に居て、その集団の中にはバンパイアである赤夜萌香と朱染心愛の姉が居てビックリ――という訳なのだが、どうやらその集団に属するその姉こと朱染刈愛が割りと話が通じないタイプなせいでバトルが勃発した。
朱染最強の殺し屋として育てられた刈愛を前に、身内故に本気が出せずに苦戦する萌香だったが、そこに現れたのは謎の集団の雑兵を殲滅し終えた月音だった。
身内への情が祟って傷ついている萌香や友人達を見て色々と察した月音は、まだ戦えると強がる萌香に対して拳骨で黙らせると、『邪魔をしに来た』と泣きながら殺意をむき出しにする刈愛と相対し……。
「ごふっ!」
「…………」
「ぎゃっ!?」
「………………」
「あぎぃっ!?」
どっちが悪役なのか最早わからなくなる殺戮劇を開始し、そして今に至る。
「おえっ……! ごほっ!?」
「………畜生にしては効いたフリが上手いなぁ……えぇ?」
「ひっ!?」
朱染刈愛は決して弱くはない。
寧ろ並の妖怪達を前に単独で皆殺しにしてしまえるだけの圧倒的なスペックを持ち、その強さは月音との喧嘩にて覚醒をする前の萌香をして『戦うのを避ける』という選択を選ばせていた程だ。
しかしそこそこ不機嫌である月音はそんな刈愛をぼろ雑巾のように痛め付けていた。
「カ、カルア姉さんがあんな……」
「む……私だって本気出せばあれくらい――」
『月音が言ってた通り、カルア姉さんを前に本気が出せなかった時点で言う資格はないわよ?』
「う……」
そのあまりの差に、月音の暴君っぷりを嫌う心愛は絶句する中、膝をついたカルアの顔面に容赦のない前蹴りで鼻をへし折っている月音の『通常運転さ』に慣れている萌香達はカルアから受けた傷の手当てをしながら見つめている。
「怯えている……カルア姉さんが明らかに……」
カルアの『殺し屋』としての性質に幼い頃から怯えていた心愛からしたら、初めて見るであろう姉の見せる『恐怖』。
泣きながら敵を殺していた姉が、泣きながら血みどろの惨劇を演出していた姉が、種族もそもそも不明な――華奢な男一人を前に明確な恐怖心を抱いた涙を流している。
「や、やめ――ぎゃあっ!?」
「どうやらキレた線ってのは繋がったみたいだな?」
刈愛の変質した半身を紙屑のように引きちぎり、適当に放り投げた月音は、尻餅をついて恐怖に涙を流して震える刈愛の前髪を掴む。
「さっき俺を見て殺すとほざいてたろ? こんなヤロー殺しちまえって事はよ? 自分が殺されても文句言えないって事だろう?」
「ぅ……」
相手を殺すまでは決して倒れないという自負があった刈愛にとってすれば恐らくは初めてとなるだろう『どうやっても殺せない、傷すらつけられない』存在に完全に怯えている中、刈愛の前髪を無造作に掴んで居た月音はどす黒い瞳で見据えながら言葉を続ける。
「俺がまだガキの頃、どうしても腹が減って我慢できずに虫を捻り殺して食った事があったが―――――今そんな気分だよ?」
「ひぃっ!?」
この男にとって自分はそこら辺の虫でしかないと言われた刈愛の恐怖は頂点に達し、なんとか目の前の男から離れようともがこうとするが、その悉くが通じないばかりか……。
「おっと、うっかり脚を消し飛ばしてしまった……いやー、すまんすまん」
「わ、私の足が……ぁ……!?」
この男は本当に虫を叩き殺すような感覚で簡単に自分を少しずつ壊してくる。
バンパイアとして――否、自分が培ってきたこれまでの全てを鼻で笑って踏み潰すかのように簡単に。
「さてと、『試運転』も済んだし、そろそろ死んで貰おうか?」
「や、やめ――」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔となった刈愛が、左腕に赤い籠手のようなものを纏い、全身から龍をイメージする殺意のオーラを放出する月音にイヤイヤと首を横に振るも、月音は止めない。
「さっきぶち殺してやってお仲間が先に待ってるんだ。
とっとと追い付いてやるんだね」
「」
そう鼻で笑いながら一蹴した月音は、絶望する刈愛目掛けて赤い閃光を放つのだった。
こうして宣言通りに『公安委員』を執行した月音は、どうであれ里を救った存在として里の人達にこれでもかとお礼を言われるようになってしまう。
「うるせー!! 誰がテメー等みてーな田舎妖怪共の為にやるかぁ!!」
人外にお礼を言われる筋合いもなければ、元々そんなつもりでもなかった月音は居心地の悪さもあってついチンピラのような返しをするのだが、妙なフィルターでも入ったのか、里の人々はそんな月音の態度を『謙虚』とおかしな解釈をしてしまい、ますます彼を英雄視する。
「ひ、人の話をまるで聞かないお前の性格はこの里のせいだな」
「そんなに誉めないでくれ、照れてしまうぞ」
「誉めるかボケ!!」
すっかり里の人気者となってしまって月音は、救出したみぞれの妙なポジティブさの理由がこの故郷の里になるのだとげんなりしてしまう。
「あ、どこに行くんだ月音? これからお祝いの……」
「ちょっと一人になるんだよ!」
人間ならそう言った好意に対してドヤ顔でもするが、よりにもよって人ではない存在からそんな目をされるとは思わなかった月音は、むず痒くて仕方なく、とりあえず一人になろうとみぞれ達の呼び止めを無視して里の外へと逃げるように出ると、ちょうど先日の晩に泣きながらキレていた裏萌香に襲撃された山道まで行くと、はぁとため息を吐いた。
『少しだけ変わったな』
「は? なにが……」
複雑な気分をフラットに戻したい月音が暫く白景色をぼんやり眺めていると、相棒であるドライグが不意に話しかけてくる。
『少し前までのお前なら、あのモカ達の姉とやらを制止も聞かずにあのまま殺していただろう?』
「え? あぁ……アレは別に。
あんな雑魚畜生なんて今の俺でもいつでもぶち殺せるからな。
それに、見逃せと抜かした以上、次沸いて出てきたらアイツに処理させるつもりだし」
『なるほどな……』
数時間前にあった出来事についてそう返す月音は、刈愛を殺さなかった。
それは萌香達に寸前で止められたからであり、今度敵対することが起きれば自分がなんとかしてみせると萌香が宣言したので渋々見逃すことになったのだ。
「まあ、これでもしまた同じような体たらくだったら―――」
ドライグだけが察知する僅かな変化に本人はどうやら気付いておらず、次また身内の情で萌香が追い込まれるようなら萌香ごとぶちのめしてやると宣言しようとした月音の背後から、その萌香――裏萌香が近づいてくる。
「ここに居たのか……」
「あ? ああ……なんだよ?」
銀髪に赤目。
バンパイア特有の美しい少女を前に月音は寧ろめんどくさそうな顔をしながら彼女を見る。
「その……た、たまにはお礼を言おうと思ってだな?」
「は?」
まだ一人――厳密にはドライグと二人で話したかった月音は、珍しくしおらしいことを言ってきた裏萌香に少しだけ目を丸くする。
「カルア姉さんを見逃してくれて……」
どうやら止めなければ本気で殺そうとしていた刈愛を見逃してくれた事への礼だったらしいのだが、なにやら首元のロザリオからもう一人の人格こと表萌香の『ちゃんと顔を見て言うの!』という声が聞こえているせいで微妙に締らない。
「その事なら別に良いわ。
どうせあの程度の虫けらなんぞ1000匹群れた所で皆殺しにできるし。てか、今のお前でもそれくらいは可能だろ?」
「………」
「身内への情が祟ってしまったってのはわからんでもないし、そこを一々責めるつもりもねーよ」
「あ、ああ……!」
月音のひ弱そうな容姿とは思えないチンピラ言葉の言葉から察したのか、珍しく弱気顔だった裏萌香の表情が明るくなっていく。
「ココアの奴も礼をと言ってたぞ」
「あ? ……………………………………………。あ、キミの妹の事が、そういやそんな名前だったね」
「覚えてなかったのか……割りと酷いぞ」
ココアなる名前らしき存在が誰なのかを思い出すのに10秒もかかっていた月音の相変わらずな塩対応さに苦笑いをする裏萌香。
こうして今回の騒動は幕を下ろし、学園へと帰還するのであった。
終了
オマケ……イッセー少年の小さな冒険
先代の公安委員を全滅させた形で現公安委員長をしている月音は陽海学園の数多の生徒達にとっては恐怖そのものである。
それは先日姉を本気で殺そうとする様を見せつけられた心愛も同じであり、例の一件によって寧ろ姉である萌香が月音の近くに居ることへの危機感を持つようになった。
「と、とはいえ言えば私もカルア姉さんみたいな目に……」
朱染一の殺し屋として育てられた姉を害虫駆除感覚で簡単に捻り潰した月音の強さに関しては疑わなくなったココアだが、反対にその異質な強さが今後姉達への危機へと変わるのではと懸念するようになった。
しかし普段の月音は短気で口は悪いし、簡単に手はでてくるものの、カルアを殺そうとした時の殺意は感じられなかったし、なんなら萌香やみぞれや紫や胡夢といった新聞部の者達に対してはあまりにも普通の対応だった。
「月音、月音。
母から手紙だ」
「………………………おい、この婿殿とは誰の事だ?」
「それは当然月音の事だろう? 他に誰が居る?」
「やっぱり一回はぶちのめしておくべきだったか」
「ちなみに私は学生出産の準備は万端だ!」
「オメーなんぞで勃つかボケ」
「ふふ……そのストレート過ぎる拒絶も良いぞ月音?」
みぞれがどれだけ際どい事を言ってきても殴らないし。
「あー……ねぇ月音? 今度の休みって時間ある?」
「? あるけどなに?」
「いやー……私は嫌がるから無理だって言ったのだけど、うちのお母さんが月音を家に連れてきて欲しいって……」
「は? キミのお母さんってーと……学園祭の時の」
「そうそう……やっぱり無理よね? 普通にご飯食べながら月音と話がしたいって……」
「………」
「……………え、な、なに?」
「キミもそうだけど、なんであの見た目でそんな普通なんだ?」
「普通というか、みぞれのお母さんの失敗を知ってるからこそだと思うけど……」
なんなら結構普通に会話してるし。
「ダメだ! その日の休みは私と遊ぶ予定がある! つまりお前の実家に行く暇なぞ月音にはない!」
「………そうなの?」
「ぽんこつが勝手に言ってるだけだし、休みの日までぽんこつのツラなんてみたくねーよ俺は」
「なんだと!? 私はぽんこつじゃないぞ!」
微妙に姉の扱いが雑なものの我が儘言っても殺そうとはしない。
そんなやり取りを遠巻きで観察している心愛も一応『地雷』さえ踏まなければ大丈夫と頭では理解するもののやはり不安だった。
故にここ最近の心愛は暇さえあれば月音を遠くから観察していた。
「そんなに不安なんですか? 月音さんは言葉遣いは悪いですけど優しくしてくれますよ?」
「それは紫ちゃんだからよ……! 私なんて未だに目すら合わせないし……」
「まー……所謂ファーストコンタクトを完全にミスしてしまってますからねぇココアさんは」
「だからこそ不安なのよ。
カルア姉さんの時みたいなアイツにならないかって……」
何時も通り、遠くから他の生徒達に怯えられている月音を観察するココアは、一人で廊下を歩き、公安委員室へと入る姿をひたすら見つめる。
そんなココアを当初は紫も一緒になって見ていたのだが、やがて部活の時間となったので一足早く部室へと行ってしまい、残されたココアはその後もずっと公安委員室の前に居座り……。
「……………よく聞こえないわ」
気付けば周りの生徒達が引いている事に気付かず公安委員室の扉に耳を当てて中の音を盗み聞きしようとしていた。
「……ま、間違えたって言えば誤魔化せる筈よ」
やがて直接見てないと気になって仕方なくなっていたココアは意を決して中を覗いてみようとそっと扉を開けてみる。
「そう、間違えただけ……間違えただけだし」
そう誰に対してなのかわからない言い訳をぶつぶつ呟きながら、ゆっくりと扉を開けて中を確認したココアの目に飛び込んできたのは……。
「あ、あれ? 居ない?」
無人の公安委員室であった。
妙な肩透かしを喰らったココアはそのまま普通に開けて中に入るも、やはりあの男の姿は見えない。
「もしかして私の強い気配を察知して姿を隠したとか?」
本人が居ないと解った途端、急に独り言も強気になるココアは、もしかしたら学園長室よりも質の高いソファに飛び込んでから委員長席の椅子に座って、くるくると椅子を回していると……。
「……………………」
「…………………はぇ?」
まるで自分の部屋のようにくつろいでいたココアの視界に飛び込んでくる人影に氷付けにされたように固まってしまう。
それは月音だったから――ではなく。
「き、キミは……!?」
以前、紫の発明して『すくすくドロップ』の副作用で子供化した際、報復にやって来た空手部の部員の魔の手から自分を助けてくれたあの茶髪の男の子が。
あの日以降常に記憶の片隅に残っていた男の子が、恐らく今の自分と同じような驚きの顔をしながらこっちを見ているのだから。
「…………」
「え、や……! あ、あの! キミってあの時の子よね!?」
その瞬間、ココアは自分でも驚く程に素早く二歩ほど後退しようとしていた謎の少年の目の前まで素早く移動すると、自分の腰くらいの背丈である少年と目を合わせるように屈み、自分を覚えているかと問う。
「ほら! 私よ私! 前にキミが助けてくれた……! えと、あの時はキミと見た目が変わらない子供の姿だったけど、本当の姿はこっちなの!」
「………………………………」
そう言って何故か少年の両手を取ってこれでもかと笑顔を見せるココアに、少年は不気味なものでも見るような顔をするのだが、ココア的には困惑しているのだろうと解釈し、ぐいぐいと押すように自己紹介やらなにやらをベラベラと喋る。
「私、心愛って言うの。あなたのお名前は?」
「………」
正直何故かこの少年の事が忘れられなかった心愛は、何故この少年が――どう見ても高校生ではない年齢の少年がこの公安委員室に居るのかといった諸々の疑問を横に投げ捨てる形で茶髪の少年にあれこれと質問をする。
(な、なんだこのぽんこつ2号……?)
『どうやらお前(月音)とは気付いてないようだが……。
何時までも無言のままでは怪しまれるし、一応名乗っておいた方が良いじゃないか?』
そんなココアに対して、実はテーブルの上にあった飴(紫が置き忘れたすくすくドロップ)をのど飴と勘違いして何個も食べてしまったが為に今の姿になってしまった月音は、何時もは敵意剥き出しの態度であるココアの態度に困惑しつつ、ドライグに言われた通り、思わずといった調子で名乗ってしまう。
「い、イッセー……」
「イッセーくん、そっか、イッセーくんかぁ……イッセーくん……」
し、しまった! 普通に偽名にしておくべきだった! と名乗ったと同時に後悔するも時既に遅く、イッセーと名乗った途端、怖いくらいに顔をキラキラさせるココアが何度もその名前を復唱している。
「イッセーくんはどうしてここに? このお部屋はとても怖い男が居るお部屋だから早く出ないと……」
「ぅ、つ、つくねはお、おれの従兄弟で……」
「え!? そ、そうなの!? 従兄弟!? イッセーくんとアイツが!?」
「う、うん……」
や、やばい、また余計な事を……! と余計な設定を作ってしまって内心頭を抱える月音(幼少期イッセーの姿)に対して、普通に信じてしまっているココアは驚きつつもどこか納得した様子。
「そっか、だからあの時もここに居たのね。
確かに従兄弟ならこのお部屋に居てもアイツに怒られないだろうし……」
「あ、あの……」
「でもこんな小さな子を放置してアイツはどこ行ってんのよ?」
「あ、や……が、がくえんちょうに呼ばれて……」
「む、そうなの? それでここでお留守番しているのね?」
「う、うん……」
「そっかー……偉いわ」
とにかくすくすくドロップの効力が切れる前にココアには消えて欲しくて仕方ない月音(以下イッセー)は、あれこれと出任せを並べて撒こうとするのだが、先ほどからずっとココアに両手を握られていて、しかも離れる気配がないばかりか、妙に優しげな顔で微笑まれたせいで、背中に氷柱を入れられたような寒気しかない。
「……」
「? どうしたの?」
「いや……(な、なんだこいつ? き、気色わるいんだが……)」
いっそぶん殴って気絶でもさせようかと考え始めるイッセーとは逆に、思わぬ再会によって妙にテンションが高いココアはここでやっとイッセーから手を離すと、後ろを向きながらぶつぶつと独り言を呟いている。
「アイツに見つかったらヤバそうだけど、だからといってイッセーきゅん――じゃなくてイッセーくんを一人にするのは可哀想だし………」
「……………………」
ぶつぶつ言っているココアにしめたと思ったイッセーは後頭部を叩こうと、跳躍の体勢を取る。
「偶々見つけたからとでも言えば流石にアイツも―――」
(死ねぃ!)
そしてそのまま勢いよく跳んだイッセーが拳を叩き込もうとしたその瞬間。
「よし決めた! イッセーくん、アイツが戻ってくるまで私と―――」
なにかを決意したココアが振り返った。
それにより元々縮んだことで腕のリーチ等に誤差が生じていた事に気付かなかったイッセーは、振り向いてきたココアに面を気喰らう。
「し、しまっ……!? 距離が………!?」
「え……?」
振り向いたら目の前にイッセーの顔があることに驚くココア。
突き出した拳が空振りしてしまい、そのまま重力に従う形でココアに突っ込んでしまったイッセー。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
そのままソファに雪崩れ込む形でひっくり返る二人は……というかココアは。
「い、イッセーくん……ど、どうしたの?」
「い、いや……ご、ごめん……む、虫が飛んでたから……」
「そ、そうなの?」
イッセーに押し倒されたと思うのだった。
「えと、すいません……」
「い、良いの! 良いの! イッセーくんは悪くないから!」
「…………」
(い、イッセーくんに胸触られちゃったわ……。
で、でも何故か嫌じゃないと思っているわ……)
こうしてココアは不思議な少年との繋がりを持つようになるのだった。
「………………」
「お、おいココア? その子供はどこから拐ってきたんだ?」
「拐ってなんてしないわよモカお姉ちゃん。
この子はあの暴力魔の従兄弟くんで、あの野蛮男なんかと比べるまでもなく良い子なの」
「……………………………」
「あ、ほら恥ずかしがらないで良いのよ? ふふん、ココアお姉ちゃんの膝に座ろうね~?」
「………………………」
「なんだか、どこかで見たことある気がする子ね……」
「月音さんの従兄弟と言ってますけど……」
「わぁ、ほっぺたもぷにぷにしてる~ 手も私より小さいし……」
「………」
「ふふふ……ふへへへ……イッセーきゅん♪」
『この小娘……ヤバイ気がするんだが』
終了
簡易人物紹介
青野月音(D×Sシリーズイッセー)
ネオな白音たんとの因縁を終わらせられぬまま生まれ変わった赤龍帝。
第一目的が白音たんとの決着なのだけど、今の時点では全盛期よりも大幅にパワーを失っているばかりか、スキルまで弱くなっている。
だが変わり種過ぎる妖怪少女達との交流により一部ながらかつての人外への殺意が薄れており、その精神の変化が今後どうなるかはまだ不明。
現状・タイマン最強クラス
赤夜萌香(表)
力の大妖ことバンパイアとしての力を封じられた側の人格らしい少女だが……?
当初は妖怪に対しての残虐度が高すぎる月音に恐怖していたが、その月音のパワーを間近で浴びた事でバンパイアとしての人格との意志疎通と入れ替わりがコンタクト感覚で可能となり、交流を経るごとに恐怖を克服する。
そして自分に近い立場であるドライグとの交流により、ドライグを前にすると妙な人妻オーラを醸し出したり、不倫現場のような雰囲気となる。
赤夜萌香(裏)
バンパイアとしての力を解放した側の人格。
強くて美人で最強……! が本来の彼女なのだが、それ以上に理不尽な月音に毎度叩きのめされているせいなのと、妙に精神が大人になっている表人格との意志疎通のせいでぽんこつ気味になっている。
それでも月音の領域へと到達せんとする努力は本物であり、遂にはその領域に踏み込み、暴走した月音とのタイマンで土をつけることに成功する。
基本的に表の自分とドライグと不倫現場を見せられると、あわあわする程度には実の所恋愛経験は低い。
あと月音が他の異性と仲良くしていると、子供みたいに拗ねる。
続くかどうかは不明。