色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

最早アンチェイン化してるのはご愛敬


悪役令嬢と主人公は『母』になる

 

 

 

 最近、夢を見る。

 

 

『せ、赤龍帝だぁぁっ!!!』

 

『バ、バカな!? な、何故この場所が……!?』

 

 

 禍々しい殺意を放ちながら、されどその表情はどこまでも冷たいイッセーの――きっと昔の夢を。

 

 

『本当に、殺しても殺してもわらわらと沸く連中だ』

 

『戦おうとする気概のある連中は居らん様だが……』

 

『だから見逃せってか? ははは………無い無い。奴等を生かす理由なんて俺の中からとっくの昔に消えてるんだよドライグ。

今まで散々徒党を組んでまで俺を殺そうとしてきた畜生共なんだぞ?』

 

 

 ただ一人の人間を前に逃げ惑う人ならざる者達を嘲笑うイッセーは、私達が良く知る今のイッセーとは違い、どこまでもギラギラとしている。

 その言動も、その殺意にまみれた瞳も……。

 

 

『だから、人間じゃない畜生は皆殺しだ』

 

 

 残酷なショーの開演。

 

 

 

『こ、降伏する! だから――』

 

『どいつもこいつも二言目には命乞いか? とことん見下げた畜生共が……』

 

『ひっ!?』

 

『心配するなよ畜生? お仲間もろとも全員殺してやるからよォ!』

 

 

 狂気に染まり、血にまみれながら逃げ惑う人ではない者達を殴り殺し、蹴り殺し、叩き殺し、圧殺し、斬り殺す。

 命乞いをしても聞く耳など持たず、ただただ嗤ってその言葉を切り捨てたイッセーが左腕を空へと掲げれば、掌から太陽を思わせる巨大なエネルギーの球体を生成。

 

 

『その場所ごと……っ! 消えてなくなれぇぇぇーっ!!!』

 

 

 

 そして振り下ろされた左腕に呼応して放たれた巨大なエネルギーが全てを無へと誘い……。

 

 

「……!?」

 

 

 私の意識はそこで覚醒する。

 

 

 

 

 

 

 元から地位という概念に対して中指でも立てているかのような言動や行動しかしていなかったので、ある程度の地位を得た所でその行動や言動の変化は無い。

 

 つまるところ、何時もの彼のままであり、何時もの通りの大魔王呼ばわりなのである。

 

 

「ぐ……お、お前等、案外レベル高い授業を受けてたんだな」

 

「一応王立の学校だし」

 

「イッセー君は今までお勉強とかしてこなかったのだし、仕方ないと思うよ?」

 

「ぐぬぬ……ガキの頃ユミエラと一緒になって文字の読み書きだけは覚えていたから良かったが……」

 

 

 元の世界含めて、学歴社会という概念にすら中指を立てまくっていたツケを今更になって後悔しながらも、イッセーという人外絶対殺すマンは何時もの通りなのである。

 

 

(お勉強は苦手か……そこはまあまあ同じなのよねぇ)

 

 

 

 ある意味で学歴社会の生み出した裏モンスターであるイッセーは悪魔の下僕を強要されていた一時期以外の全てを『進化』に費やして来た。

 つまりお勉強がかなり苦手であり、この度どこぞのラノベ主人公宜しくに成り上がる事で王立の学校の生徒になった事で久々どころではないお勉強をしてみたのだが、そもそもイッセーはユミエラのように異世界の人間であり、この世界――というよりこの国の学習カリキュラムなど知るわけもない。

 

 ある程度の常識は幼少期のユミエラと共に学習していたとはいえ、逆を言えばその程度の事しか頭に入っていない。

 

 故に初めての授業は―――ちんぷんかんぷん過ぎたのだ。

 

 もっとも、実技に関する授業はユミエラとアリシア共々文句無し――いや異常とも言える結果なのだが。

 

 

「わーい! ドラゴンの卵が孵ったー!」

 

「な、なんて可愛らしい生き物なのかしら……!」

 

 

 そんなお馬鹿なイッセーに対して面と向かって馬鹿にする者は残念ながら極少数だ。

 何故なら馬鹿にしようものならイッセー――というよりはユミエラとアリシアが一般人からしたら卒倒してトラウマになるレベルの威圧を剥き出しにするのだから。

 

 イッセーを成り上がりの暴力魔と真正面から言い放つエレノーラですら言うのを憚れる程度に。

 

 

「おー真っ黒な竜と真っ白な竜かぁ……」

 

『ふむ……』

 

「ドライグもこうやって生まれたのか??」

 

『さてな、忘れたな』

 

 

 そんな怪物トリオは部屋がナチュラルに同じだった。

 同性であるユミエラとアリシアはまだ良いとしても、紛いなりにも異性となるイッセーが同じ部屋というのはどうなのかという声も前々から多かったのだが、ユミエラとアリシアが『そうして貰わないと頭がおかしくなってここら辺を破壊し尽くすかもしれない』と真顔で言うものだから、教師達も学園長もそこには一切触れないようになった。

 

 そんな三人の部屋の中では、つい最近手に入れた二つのドラゴンの卵が孵化し、実に可愛らしい黒と白の竜が産声をあげ、その様子を三人で眺めている。

 

 そして孵化させる為に魔力を注ぎ続けていたユミエラとアリシアをそれぞれ一目見た黒と白の幼竜は其々二人を『親』と見なしたのだが……。

 

 

「成長早くね?」

 

「私達の魔力の栄養が良いのかしら?」

 

「このままだとこのお部屋より大きくなっちゃうかも」

 

 

 孵ったその日は確かに子犬サイズだった二匹の子供ドラゴンが、明くる日には部屋の天井をぶち抜く勢いまで急成長を遂げてしまい、部屋に置いておくことは困難となってしまう。

 

 

「お手」

 

「きゅるる……♪」

 

「きゅーん♪」

 

「お、おぉ……て、天才だ。天才ドラゴンだぞ……!」

 

 

 しかも何故か其々の親であるユミエラとアリシア以外である筈のイッセーにも二匹のドラゴンは懐いており、お手と言えば犬の様にそれぞれの手をイッセーの掌に乗せている。

 

 

「おかしいわね、イッセーにも懐くなんて……」

 

「確か親と見なした者以外には気むずかしい性格な筈なんだよね?」

 

 

 『よーし、おすわり!』と妙にテンションの高いイッセーの命令に対して妙に嬉しそうにその場におすわりまでするドラゴン二匹を見て首を傾げるユミエラとアリシアに、イッセーの左腕に現れたドライグが『恐らく……』と自分の考えを語り出す。

 

 

『魔力を与えたその者を親と認識するのだろう? ということは今までイッセーによって鍛えられてきたお前達と同じ波動をイッセーから感じ取っているのかもしれんな』

 

「なるほど……」

 

「ドライグ君もこんな感じに生まれたの?」

 

『俺をこんな低級ドラゴンと一緒くたにするんじゃない。

俺は俺が認めた者を相棒とするだけに過ぎん―――っておい!? このガキ共!! 俺を籠手越しに舐めるんじゃあない!!』

 

「「きゅー♪」」

 

「おお、ドライグの事を感知してるんだな」

 

 ベロベロと赤龍帝の籠手を舐めまくる二匹の子供ドラゴンに怒鳴るドライグの先程の推察を聞いたユミエラとアリシアには確かに心当たりがある。

 

 ましてやイッセーはその身の一部を他者に取り込めさせれれば化を促す事も可能なのだから。

 

 

「つまり私達があの子のお母さんで……」

 

「イッセーくんがお父さん……」

 

 

 そしてさしずめドライグはお祖父ちゃん……と当てはめると実にしっくり来る。

 何せ嫌がりまくる籠手状態のドライグにこれでもかと頬擦りしている二匹の我が子(ドラゴン)を見ていれば余計に。

 

 

「あの時酔っぱらったイッセーからあんなことやこんなことをされておいて良かったわ」

 

「出きれば毎日して欲しいんだけどね……ふふふ♪」

 

 

『がぁぁぁっ! イッセー! オレを引っ込めろ!?』

 

『えー良いじゃん、ドライグを認識してこんなに慕ってるんだから……俺は嬉しいよ?』

 

『こんなガキの竜に慕われても嬉しくもないわ!!』

 

 

 そんなやり取りを見守るユミエラとアリシアは無意識に妙な母性を醸し出していたのだという。

 

 

 

 

 

 

 

 竜とはいえ、擬似的な家族が形成し始めてほっこりしている頃、結局狂犬じみた暴力男のせいでユミエラに近寄ることすら不可能となり、本来起こり得たフラグの欠片すら立たなくなってしまった悲劇過ぎる青年・パトリックは、最早立場ですら敵わなくなってしまった危険人物に勝たんと、狂ったように鍛えていた。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 

 人の皮を被った怪物。

 地位という概念を力で捩じ伏せるイレギュラー。

 

 99であるユミエラとアリシアが二人がかりで戦っても手玉に取る圧倒的な強者。

 

 憎らしい程に強すぎる男の存在が、パトリックの精神をある意味でへし折り、そこから抜け出す為にひたすら力を付けんとする。

 皮肉な事に二度程イッセーによって殺されかけた経験がパトリックのレベルを飛躍的に上げているのだが、それでもあの男には届かない。

 故にパトリックは狂ったように剣を振る。

 

 

 あの男を越え、ユミエラの向いている意識を変えさせる為に。

 

 

「くっ……」

 

 

 自分でも何故ユミエラが気になるのかわからなかった。

 魔王と同じ黒髪であり、しかも99というレベル故に孤立している女子だという認識しかなかった。

 だが彼女が織り成す人間離れした結果と反した意外と見せる人間らしい側面にどこか惹かれるものを感じてしまった。

 

 そして感じてしまったからこそ気付かされた。

 そのユミエラはあの男が居たからこそ今のユミエラなのだと。

 

 それが憎かった。妬ましかった。

 

 ユミエラの意識の全てを占領するあの男が。

 

 アリシアという女子にすら唾を付けているにも関わらず想われているあの男が。

 

 だからパトリックは勝ちたいと願う。

 

 あの男を越えればきっとユミエラの意識も変わるのだと信じて。

 だがそんなパトリックの努力をあの男――イッセーは平然と踏み潰すのだ。

 

 

「あ、あの……イッセー君? 可能な限り手加減してくれよ?」

 

「わかってますよ。

けどそれなら俺に試合させなければ良いんじゃないですか?」

 

「私もそう思ったのだけど、パトリック君が是が非でもキミと試合をしたいと言って聞かないのだ……」

 

「パトリック? あぁ……」

 

「……………」

 

 

 

 暇さえあれば可能な限りの鍛練を積み、実は何気にそのレベルをこの王国一の剣士と同等のレベルまで引き上げていたパトリックは、実戦授業を利用してイッセーに挑んだ。

 

 既に陛下から爵位を与えられ、この学園の生徒の一人になるまで成り上がっていたイッセーは、地位ですら負けているパトリックにはこの手しかなかったのだ。

 

 

「パトリックの奴、この前より強くなっていないか……?」

 

「ああ、それはオレにも感じられる」

 

「だが相手が相手なんだよなぁ……」

 

 

 ある意味同志であるエドウィン、オズワルド、ウィリアムがパトリックを見てそう評価する。

 しかしその模擬戦の相手は、編入の際に行われた鑑定により水晶玉を粉々に砕いたレベル測定不明の怪物だ。

 

 既に周囲から見ている他の生徒達からの下馬評からしてイッセーには勝てないと言われているが、パトリックはそんな声すら耳に入らない程の集中――つまりゾーンに入っていた。

 

 

「手加減してあげてよ? せっかく復帰したのにまた医務室送りは流石に可哀想だわ」

 

「………あ? オメー、やけにアレの肩を持つんだな?」

 

「持ってるんじゃないのよ。

一々突っかかってくる連中をその都度消してたらキリなんて無いでしょう?」

 

「……」

 

 

 ズレた制服のネクタイをユミエラに直してもらうという、パトリックからしたら見せつけ以外の何物でもない光景を前にムカムカしていてもパトリックは集中を途切れさせない。

 やがて何度かの言葉を交わし終えたイッセーが自分の前に立つと、教師の号令を今か今かと待ちながら、何故か模擬剣を持たずにぬぼーっとした顔をしているイッセーを見据える。

 

 

 

「何故剣を持たない……」

 

「極限まで手加減しろって言われてるのに棒でぶっ叩いたりしたら間違って殺ってしまうかもしれないだろう?」

 

「…………」

 

 つまり武器なんてお前ごときに必要無いと言われたパトリックから殺気が放たれる。

 

 

「その浮わついた態度が前から気にくわなかったんだ……!」

 

「あぁ、奇遇だな? 俺もも何故か人間である筈のお前が妙に気に食わないんだよなぁ」

 

 

 パトリックにしてはかなり珍しい明確な敵意を前にしてもヘラヘラと笑うイッセーが一蹴するような言葉を返すと、両手を胸元でクロスさせ、不規則なステップを踏み始める。

 

 

「……?」

 

『……?』

 

「あ……」

 

「今日はその戦闘スタイルなのね……」

 

 

 一見するとダンスでも踏んでいるような奇妙な動きに戸惑いの表情となるパトリックやギャラリー達を余所に、天にでも祈るような顔をしながら『は、始め!』と教師が号令をかける。

 

 

「疾っ!!!」

 

 

 その瞬間、パトリックはユミエラとアリシア以外と周囲が驚く脚力で不規則なステップを踏むイッセーに肉薄し、突きを放つ。

 

 

「速いっ……!」

 

「パトリックめ……やはり強くなっているな」

 

 

 エドウィンとウィリアムが舌を巻く中、突き放たれた剣先は音を置き去りにする程の速度でまっすぐイッセーの喉元を貫かんとするが、その切っ先は空しくも大袈裟にも思える回避により虚を斬る。

 

 

「っ!?」

 

「………」

 

 

 すかさず身体を入れ換えながら真横へと立っているイッセーを薙ぎ払うような一撃を入れるも、上体を反らすことで軽々と避けられる。

 

 

「こ……のっ!!」

 

 

 カッとなったパトリックはその後も怒涛の追撃をするも、おちょくられているかのような動作で――何より戦うというよりは踊るような動作で悉くを避けきるイッセーに、ギャラリー達も何時しかイッセーの奇怪な動きに目を見張るようになる。

 

 

「妙な動きだけど全部避けてる……」

 

「ちょ、ちょっと凄いかも……」

 

 

 戦うというよりはただ踊っている。

 それも見たことのないステップであるが故に注目を集めていたイッセーは暫く殺気と苛立ちに支配されているパトリックの攻撃を避け続け――やがて反撃に転ずる。

 

 

「ぶっ!?」

 

 

 パトリックの一撃に合わせるように肘鉄を顔面に叩き込む。

 

 思わず視界が強制的に空へと向けさせられてしまうパトリック。

 

 

「ヒャッホゥ!!!」

 

「ぶばばばっ!?」

 

 

 そして両手を地に付け、開脚しながら高速で回転したイッセーにより胴体をこれでもかと蹴られてしまう。

 

 

「ぐっ……くそっ!」

 

「よっ……」

 

 

 咄嗟に飛び退いたパトリックに合わせるように再び立ち上がったイッセーは先程よりも更に大袈裟なステップを踏む。

 

 

「あれがブレイク・ダンスよアリシア」

 

「ほぇー……激しいダンスなんだね?」

 

 

 しかも心なしかその顔もニヤニヤとしたものになっており、余計苛立ちを増幅させたパトリックは猪のように突っ込み、剣を思いきり振り下ろしたのだが……。

 

 

『は?』

 

「な……」

 

「ふがふが」

 

 

 その一撃は無情にも止められてしまう。

 模擬剣の刃を歯で噛んでキャッチしたイッセーによって。

 

 

『いやいやいやいや!?』

 

「は、歯で止めたぞあの大魔王……」

 

「と、とことんふざけてる……」

 

 

 やっていることの何もかもにエンターテイメント性が高すぎて逆に引いてしまう他の生徒達や教師を他所に、歯で止められたパトリックは押しても引いても自分の剣がびくともしない状況に焦り始める暇も無く、脇腹を蹴られて剣を手放してしまう。

 

 

「せーのっ!!」

 

「うぎゃあ!?」

 

 

 

 そして体勢を崩したパトリック目掛けて放してしまった剣をイッセーが押し込むように掌で叩けば超高速で飛来し、腹部をぶち抜きながらパトリックは盛大に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「………………」

 

「そ、そこまで……」

 

 

 結局その一撃のみでピクピクと痙攣し、泡を吹きながら意識を手放した事で試合は終わる。

 

 

「たまに器用な事するのよねイッセーって……て言うか基本手先は妙に器用なのだけど」

 

「この前だって粘土で私とユミエラちゃんのお人形を作ってたもんね」

 

『…………』

 

 

 こうしてパトリックはまたしても負けるのだった。

 

 

「あー、終わった終わった。

誰かが言ってたけど蟻を殺さずに踏むってマジで難しくてさぁ」

 

「わ、わかったからこんな人目の多いところで揉まないでよ……」

 

「あぁ、つい……」

 

「ついでおっぱい揉むイッセー君ってやっぱりエッチだよ……」

 

『』

 

 

 さも当たり前のようにイチャつかれるというオマケ付きで。




補足

家族構成(仮)

パパ……イッセー

ママ……ユミエラとアリシア

おじいちゃん……パパイグ。

子供……この度生まれた赤ちゃんドラゴン二匹。

新興貴族の血筋は基本ドラゴン系?

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