ハードじゃないよ、ソフトなハードモードだよ
本来の人生がこうではなかったとか。
自分から本来の人生を奪って成り代わるつもりだったとか。
自分の欲の為に何もしちゃいない他を貶めたとか。
そのようなもろもろの話を後になって聞かされた所で最早意味のないものへと変わってしまっているのだ。
何故なら俺はその本来の人生とやらを奪われても尚、今をこうして生きることが出来ているのだから。
結構前向きに。
何故なら俺には『希望』となる人たちと会えたのだから。
自分が変だという自覚が最初は無かった。
けれど周りから見たら私はおかしい側だったらしい。
何がどうおかしいのかはわからないし、直そうにもわからないのだから直しようもない。
仕方ないので私はなるべく良い子になるようにした。
おかしくても良い子なら言われなくて済むだろうと。
その目論見は当たりではあった……けど、自分を押さえ込むというのは存外ストレスになりやすい。
そもそも本当の自分を否定されるというのは結構悲しいものがあるわけで……。
でもどうせ本当の私のことなんて、側から見ていても『理不尽な程に家族たちから見下されている親友』以外は受け入れてすらくれないと思っていた。
だから親友の前以外では人形のように大人しくし続けた。
親友の双子の姉――私からすれば『吐き気を覚えるゲス』なあの女は私の本質を知らずに何故か友人面をしてくる。
周囲には慈愛じみたものを振り撒いて向けられる愛情を占領しようとしているのが目に見えている親友の双子の姉との『友達ごっこ』を演じないとならないのは耐えがたい苦痛だったけど、そうでもしなければ私の本当の親友がより傷つけられてしまう。
だから私は自分を殺してでもそうし続け、そろそろ自分は一体なんの為に生まれてきたのかすら訳がわからなくなってきた頃、私と私の本当の親友は出会った。
周りからどう思われても『自分』を制御せずに居る彼を。
間違いなく、私達の同類である人と。
そして私達は………彼に恋をした。
私は出涸らしと呼ばれ続けた。
私は無能と言われ続けた。
私には何の才能も無いと言われ続けた。
私には存在する価値すらもないと言われ続けた。
何の為に生まれたのかなんてわからない。
自分の先に『希望』があるとも思えない。
だから私は自分を『この世のカス』と思うようになった。
抗うだけの力も才能も無い私は人形のように生きるしか選択肢がなかった。
私の幼馴染みであり、親友であるあの子が居なければ私はとっくに死んでいた。
でも私――いいえ、私達は出会った。
絶望の底に堕ちても尚、暗闇の荒野をさ迷いながら希望という名の光への道を切り開きながら抗い続ける者。
『俺はあんな奴らよりキミ達とつるんでいたほうが楽しいからね』
私達に彼がそう言ってくれたからこそ、私は今を生きることを諦めずに居られる。
これは正道から外された者と、大切な者の為に正道から自ら外れた者と、正道に抗おうとする者の話。
「朗報よリアス。
アリスが今度の休みに冥界に帰省するらしいわ」
「え、そうなの?」
「本人から聞いたから間違いないわ。
けど、どうやらこの反応からしてアナタには一切話が来ていないようね? どうしてもアナタだけがのけ者にされて私も腹が立つけど、逆を返せばその帰省の期間はある程度堂々と自由にしていられるわ」
「ということはこそこそせずにここに来れるのね?」
とある休日、人間界のとある古めかしいアパートの一室にて、眼鏡を掛けた黒髪の少女が赤い髪の少女に携帯に入ったメールにて手に入れた情報を嬉々としながら教える場面から話は始まった。
本来この二人の少女の自宅はここではないし、家主は別に居るのだが、ご覧の通り周囲にこの事実を隠しながら頻繁に訪れていてはこうして過ごしている。
「ソーナは実家に帰らないの?」
「私が? 帰るわけないじゃない。
どうせ帰っても良い子ぶらなきゃいけないし」
「でもアリスは――」
「適当にそれらしい理由をでっち上げて既に帰らないと言ってあるから問題ないわ。
そもそも私だけ帰ったら二人きりになっちゃうじゃない? そんなの寂しくて嫌よ」
一々周囲には悟られないようにしなければならないのには理由があるのだが、それは今は置いておきつつ、リアスと呼ばれし赤髪の少女はソーナと呼ばれた黒髪の少女と共に炬燵で暖を取りながら剥いた蜜柑を食べており、冥界にある実家には帰らないと理由を交えて宣言すると同時にもう一人炬燵で暖を取りながら『アルバイト情報雑誌』とにらめっこをしていた焦げ茶色の髪をした少年に話しかける。
「ね、ね、イッセーも私だけ実家に帰るのは嫌でしょ?」
「うん」
「ほら。だから私は帰らないわ」
ぶつぶつ言いながら『今週は短期募集の仕事が少ないな……』ぼやきながらアルバイト情報雑誌の頁をめくるイッセーと呼ばれし少年の返答にソーナは満足そうな笑みを浮かべ、同時に聞いていたリアスは苦笑いだ。
「あー、ダメだな」
やがてアルバイト雑誌を閉じてそこら辺に放ったイッセーはため息を吐く。
「良い募集が無い」
「アルバイトなんてしなくても、私とリアスのお小遣いというか、ほぼ実家から勝手に持ってきた値打ちの品を売った資金だけで充分生活できるじゃない?」
「そうよ。
そもそも、勝手に転がり込んでいるのは私達なんだし……」
「それだとヒモ同然だからなぁ。
それに勝手にだなんて思っちゃないし」
どうやら本人は真面目に今後の生活費の為に仕事を探していたらしい。
残念そうな顔をしながら少し冷めてしまった緑茶をチビチビと飲むイッセーにソーナとリアスはそこまで無理に働かなくても今はもう大丈夫だと言うが、本人的にはよくないと思っているようだ。
「それにこういう経験を積むのも案外『乗り越える』為に必要だったりするしな」
「「……」」
お察しの通り、ソーナ、リアス……そしてイッセーは『はみ出しもの同士』という事もあってか仲が良かった。
それはひとつ歳が下であるイッセーがソーナとリアスの二人に対して気安い話し方をしている事からも伺える。
「そんな生真面目な事を考えなくても良いのにねリアス?」
「そうよ。寧ろこっちがアナタに頼りすぎて迷惑かけてるのに…」
そう話す二人に対してイッセーは軽く笑う。
「こうして二人に来て貰えてる時点で迷惑だなんて思ったことなんて無いさ」
道を外された者、大切だと思う者の為に道を自ら外れた者、外されたからこそ新たな道を切り開く者。
「俺はソーナちゃんとリアスちゃんが大好きだからな」
違うようで目指す場所が同じであるが故にこの三名の仲は―――とても良いのだ。
「うーん、やっぱりこの前誘われた怪しい組織の構成員になってみるべきか……?
結構良い給料だったし……」
「本当にその怪しい組織というのに入るつもりなら私とリアスも連れていってよね?」
「それはまずいだろ。
ええと、なんだっけ、三大勢力だっけ? そこら辺と敵対しているっぽい組織だし、悪魔であるソーナちゃんとリアスちゃんが付いてきちゃったら裏切り者になっちゃうぜ?」
「全然構わないわよ。
良い子ぶり続けなきゃいけない所なんていつまでも居たくないし」
「私はそもそも裏切り者になったところで向こうは嬉々として私を殺しに来るでしょうし……」
それが秘密の繋がり。
「寧ろ俺の存在を知られたら、二人に変な事をしたとかで全力で殺しに来そうだね……」
同じ『ナニか』を持つ同類。
私、ソーナ・シトリーと親友であるリアス・グレモリーは殆どの悪魔達が侍らせているような眷属は居ないし、持つ気もない。
お陰でお互いの実家から喧しく言われたりすることもあるけれど、全部無視するかそれらしい台詞を適当に吐いて煙に巻く。
というかそもそもの話、よくも知らない他人をよくまあ配下にしようとか考えられるなと私は他の悪魔達を見て思うし、あのレーティングゲームとか何が面白いのかもわからない。
ましてや私は、私自身が悪魔だけど、悪魔が嫌いなのだから。
「チッ、実家からまた小言の手紙だわ……」
「来るだけマシよ。
私なんて人間界で生活する前からその手の事なんて言われた試しも無ければ、なんなら実家に居た時も『居ない子』扱いされてたもの」
「アナタの肉親を悪く言うようで悪いけど、何時聞いても胸くその悪い話ね」
「まぁ……私はアリスの出涸らしだから」
理由はいくつもあるけど、一番は親友の肉親達によるリアスへの態度ね。
リアスには魔王である兄の他に双子となる妹が居るのだけど、その双子の妹が連中にとっては『才の溢れる悪魔』らしく、逆にリアスには才が無い無能……と揶揄する。
小さい頃からそんな扱いを受け続け、それでも尚耐えて居たリアスを知っているからこそ、そしてそれをよしとする周りに心底幻滅したからこそ私は悪魔が大嫌いだ。
結局今も昔も悪魔としての『根』なんてこんなものなんだと。
わざわざクーデター起こしてまで政権を奪取し、魔王の一人となった私の姉やらリアスの兄の時代となってもこんなものなのだと。
もっとも、私が一番嫌いな悪魔はそのアリスなのだけどね。
顔こそ双子なだけあってリアスにそっくりだけど、中身があまりにも違うのよ。
根性がねじまがってるというか、周りに見えない所でリアスを詰ったりする辺りとかホント嫌いだわ。
「? 読まないの?」
「どうせ同じような事しか書いてないに決まってるわ。
眷属をそろそろ持てだのなんだのって……」
「ああ……」
「よくも知らない他人――それも本当の意味で理解し合えない者を眷属になんて嫌よ私は」
実家から送られた手紙を適当に放り投げながら足を伸ばす私をリアスは苦笑いで見つめてくる。
「実際のアナタはそういうサッパリした性格だってご実家の方々は知らないのだから、ソーナは凄いわ。
そこまで徹底的に仮面を付けられるだなんて……」
「今すぐにでも外してしまっても良いけどねー。
もう少し実家や周りを利用してからの方が良いでしょう?」
リアスの言うとおり、私はリアスとイッセーの前以外では徹底的に仮面を付けている。
両親や姉にとってすれば自慢の良い子ちゃんな仮面をね。
そして外した本当の私はこれである。
自分が大好きだと思う者以外なんて死のうが知ったことじゃない……なんて思ってたりね。
「それにしてもイッセーは大丈夫かしら……?」
そんな私の理想はまさに今この瞬間である。
親友であるリアスが周りの顔色を伺うことの無い場所で、私が良い子ちゃんの仮面を付ける必要の無い場所で、一緒に好きになった彼を共有しながらのんびり過ごすこの時間が私にとっての理想であり、守らなければいけない居場所。
「流石にちょっとおねだりし過ぎちゃったわね……」
「そ、そうね。
でもその……」
「わかる、わかるわよリアス。
二人で一緒に全力で甘えてもイッセーは受け止めてくれちゃうからつい熱がね……」
この場所を守るためならなんでもする。
それが私の今の覚悟なのだけど……その覚悟の一人であるイッセーはお昼の時間になった今でも寝室から出てこない。
その理由は――まー、私とリアスが甘えすぎて無茶をさせてしまったからであり……。
「…………ごめん、大分寝過ごした」
ちょっとツヤツヤ気味の私とリアスとは正反対に、若干頬をこけさせながら寝室から重そうな足取りで出てきたイッセーがそれでも受け止めてくれちゃう訳で……。
「大丈夫? 私たちのせいで……」
「え? ああ、二人のせいじゃないよ。
寧ろ俺みたいなのがリアスちゃんとソーナちゃんに……て思うくらいだし」
「お詫びに今日はそういう意味じゃなく私とリアスで癒してあげるわ」
「え、ホント? いやぁ、人生の絶頂期に居るとしか思えないぞ」
我ながら重い性格だなと思っていても、イッセーは笑いながら、そんな私とリアスを受け入れてくれる。
ホント……大好きだわ。
以上、若干ハードモード
補足
なんか色々とでしゃばって目立つ誰かさんが居るので、それに色々なものを押し付けつつ親友達とのイチャイチャを守るソーたんのお話。
リーアたんとは色々な意味で互いを知り尽くした親友だし、色々な意味での姉妹みたいなものらしい。
イッセーは普段ヘラヘラ気味だけど、二人に何かあろうものなら 人外絶対殺すマンシリーズのイッセー並に凶暴化するタイプ。
続きは……考えてない