色々なIF集   作:超人類DX

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大分続けちまったなぁ……


悪役令嬢と主人公は母性を限界突破させる

 

 

 

 下品で狂暴。

 そして庶民でありながら貴族である自分達への敬意なんて欠片も見せない。

 なんなら暴力を行使すらしてくる。

 

 そんな男が何故上級国民の子息達だけが通うことを許可されるこの学園に居るのかなんて誰も知らない。

 

 知っている事と言えばあのユミエラ・ドルクネスの使用人だからという事と、嘘か真かその庶民の下品男が陛下と個人的な友好関係を結んだからだとか。

 

 まあ、そんな事はどうでも良い。

 

 重要なのは……。

 

 

「俺は人間が大好きだ。

というか、この世は人間だけが存在してりゃあ良いし、その他の生物なんぞ絶滅しちまえと思う。

だからこれでも俺は結構キミ達に気を使っているんだぜ? 何せ君たちは『人間』だからな」

 

 

 この男は―――

 

 

「だからこそこの際言ってやるよ小僧共。

無駄なんだよ無駄、俺をぶちのめそうってのはな」

 

 

 殿下であるエドウィンを……お慕いもうしているエドウィンを傷つける最低の男なのだということなのである。

 

 

「こ、この野蛮人! エドウィン様にまたしても――」

 

「ギャーギャーうるせーんだよバカ金髪。

この小僧が喧嘩売ってきたんだから自業自得なんだよ」

 

「ばっ!? しょ、庶民以下の分際でこの私になんて!! キーッ!」

 

 

 男は誰に対しても不遜だ。

 そして誰よりも傲慢だ。

 

 

「ちょっとユミエラさん!? 仮にも貴女の使用人なのでしょう!? 一体どういう教育を――」

 

「私は傍にさえ居てくれたらなんでも良いので基本放任主義ですの」

 

「放任がすぎますわよ!?」

 

 

 魔王と噂されるユミエラを影から操る黒幕の大魔王。

 それがイッセー・ヒョウドウと名乗る男に対するこの学園の生徒達からの評価なのである。

 

 

「さ、騒ぐなエレノーラ! これは男の戦いだ、お前が口を挟むな!」

 

「う……」

 

「ま、まだだ……まだだヒョウドウ! 俺はまだ――ひでぶっ!!?」

 

「エドウィン様ー!?!?」

 

「…………今程心底アホらしい時間を過ごしてるとは思わないぞ」

 

 

 憎らしいほど強すぎる――怪物。

 

 

 

 

 

 デュランダルとジョワユーズ。

 イッセーがかつて先代の継承者から今際の際に預かっていた二つの剣を、世界を越えて手にすることになったのはユミエラとアリシアだ。

 

 ユミエラがデュランダル。

 アリシアがジョワユーズ。

 

 イッセーの世界においては紛れもない聖剣のひとつと称されていたその二振りの剣を渡された二人だが、まだ正式な継承者ではない。

 

 何故なら二人は確かにこの世界では最強格の力へと上り詰めたが、デュランダルとジョワユーズを継承するにはまだ足りないのだ。

 

 

「ぐっ!? 持っているだけで勝手に周りを斬り刻んで……!?」

 

「きゃっ!?」

 

「ゼノヴィアもイリナも継承した当初はそうだったと言ってた。

まあ、最初はそんなもんだろよ」

 

 

 持つだけで周囲を無差別に切り刻むデュランダルとジョワユーズの制御に四苦八苦するユミエラとアリシアを見つめるイッセー。

 

 

「正式な使い手じゃないイッセーはこんな風に剣が暴走しなかったけど……」

 

「長いことその使い手と一緒に居たし、まあエロい事とかしてたからそのせいじゃねーの? よく知らんけどな」

 

「え!? それなら私とユミエラにもそのエッチな事をイッセー君がすれば……」

 

「アホ、そうなる前の時点でイリナもゼノヴィアも完全に制御してたんだよ」

 

 

 イッセーの話を聞いた途端、勝手に周囲を破壊しまくる剣圧を放ちまくるジョワユーズを両手でなんとか持つアリシアと、同じく暴走するデュランダルの制御に全力を注ぐユミエラがキラッキラとした面持ちでイッセーを見るが、にべもなく切り捨てられてしまう。

 

 

「好き好んで俺の近くに居ようとする物好きなんてお前らくらいしか居ないし、一応此方側に踏み込み始めているのを見込んで二人から預かってたもんをお前らに渡そうと思ったんだ」

 

「わかってるわ……絶対に制御してみせるから!」

 

「私だって負けないもん……!」

 

 

 

 以前のイッセーならまず考えなかった。

 だが、どれだけ暴虐な態度を示していてもユミエラもアリシアも自分から逃げようとはしなかった。

 その根性を見込んだことと、二人が少しずつながらこちら側の領域に進み始めているのを感じたから、イリナとゼノヴィアの力を託してみようと考えたのだ。

 

 

(普通ならまず『持つことすら出来ずに』剣に拒絶される。

が、コイツ等は暴走こそさせるが剣に拒絶はされていない……)

 

 

 その目論見は半分は無理だと思っていたイッセーの予想を良い意味で裏切った。

 本来なら剣に認められなければ柄に触れることすら不可能であるデュランダルとジョワユーズに触ることが出来ている。

 

 イッセーですら最初は触れようとしただけで手の皮膚が爛れる程に拒絶されたというのに……

 

 

『期待以上になりそうな二人だなイッセーよ?』

 

(どうかな……。が、もし完全に扱えたら認めても良いかもな)

 

 

 ユミエラとアリシアが必死になって駆け上がってきた様をイッセーと共に見ていたドライグの言葉に素っ気ない言葉を返すが、本音を言えば確かに期待はしてしまう。

 

 

(ホント、バカな女共だよ……ふふ)

 

 

 自分の命を脅かしてくれる領域まで進んでくれそうな二人を……。

 

 

 

 

 

 

 秋頃に開催された武術大会の武術部門で一応優勝したエドウィンだが、その栄光は素直に喜べないものだ。

 何故ならその大会にユミエラも……そしてアリシアも出ておらず、観客席から見ていたのだ。

 

 

『どう? 今日の為にクッキー焼いてみたの』

 

『あら美味しい』

 

『普通にうめーなこれ』

 

『ホントっ!? えへへ~♪』

 

 

 

 こう、ユミエラとイッセーの二人と軽くイチャつきながら。

 自分達の事なんて興味ないとばかりに、見世物小屋でも見ているような空気で。

 事実ユミエラもイッセーも―――特にイッセーは気に食わないが強い。

 仮にイッセーが生徒として参加すれば瞬く間に優勝するだろう。

 

 魔法に関してはよくわからないが、その腕っぷしの強さだけで栄光を簡単につかめてしまうだろう。

 

 その事実だけが余計に己のプライドを傷つけ、父である王ですらあの男との対話には気を使う。

 

 

 地位なんて持たない男がその腕っぷしだけで全てをひれ伏せさせるその事実が、『お前等にはそれが限界だと』不遜に言い放つその言葉がエドウィンのプライドを悉く傷つけるのだ。

 

 

「あの剣はなんだ……? 見たことも聞いたこともない」

 

「聞いてどうするんだ? てか、聞いたってお前らになんの関係もないだろ?」

 

 

 そんなプライドを傷つけられて久しいエドウィンの最近は、同じく尊厳とプライドを粉々に打ち砕かれた友人のオズワルドとウィリアム――そしてよりもよってユミエラに何故かセクハラ働いた結果、半殺しにされたパトリックと共に学園内を徘徊しては寝ているかどこぞから狩ってきた獣やら魚をマナーという概念に中指でも立てる勢いで食べ散らかしているイッセーを探しだしては絡み、アリシアを一週間でユミエラに食らいつける領域まで強くさせたその秘密を知ろうとしている。

 

 

「な、なあヒョウドウ? 確かに俺達の方も大分キミに対して失礼な事を言ってきたかもしれない。

だけど何時までもこうしてお互いにいがみ合うのは――」

 

「喋んなカス。

テメーの声聞いてるだけでグチャグチャにしたくなる」

 

「」

 

(((パトリックェ…)))

 

 

 常に互いにツンケンしたやり取りに対して、パトリックが可能な限り下手に出ようとしたが、イッセーからの好感度がマイナスを常にカンストしているが故に暴言混じりに切り捨てられてしまう。

 これにはエドウィンもウィリアムもオズワルドもパトリックに同情を禁じ得ない。

 

 

「お、俺が一体キミに何をした!? お、俺にだけ何故こんなに風当たりが――」

 

「身に覚えがないと? へー? そっかー……じゃあ今度はそのむかつくドタマかち割って、皺の少なそうな脳みそを引きずり出してテメーの口に突っ込んでやりゃあ思い出すかな? あ?」

 

(((何故そう簡単に地雷を踏めるんだパトリック……)))

 

 

 あんまりな言い方につい言ってしまうパトリックの発言が地雷ど真ん中であり、それを最後まで聞く前にニヤニヤと嗤い始めたイッセーが殺意を放つ。

 その見事すぎる地雷の踏み抜きっぷりに三人もちょっと呆れてしまう。

 

 

 

「やめてくれ、パトリック自体に悪気はないんだ」

 

「まあ確かにユミエラにセクハラしたのは引くけどな」

 

「その事に対する折檻自体はもう済ませたのだろう? 今日の所は流して欲しい……」

 

「ま、待て! 俺は決してユミエラにセクハラなんて―――ぐべばっ!?!?」

 

 

 一応エドウィン達もフォローしようとするのだが、やはり地雷を踏んでしまうせいで無駄となり、セクハラを否定しようと声を荒げたその瞬間、パトリックは鼻から噴水のような血を噴き出しつつ何本かの歯を宙に舞わせながら盛大に殴り抜かれるのだった。

 

 

「人間の大腸がどこまで伸びるのか試してみてぇなァ?」

 

「よ、よせ! い、今の一撃で充分だろ!?」

 

「う、うわ……パトリックの鼻の形がえげつない方向に曲がってるぞ……」

 

「しかも前歯がまたスカスカに……」

 

 

 ピクピクと顔面を血まみれにしながら白目を剥いて気絶するパトリックにトドメを刺さんと、鬼のような形相で近寄ろうとするイッセーを三人して必死こいて止めようとする。

 

 端から見たら実はお前ら仲いいんじゃないのか? と言われなくもないやり取り。

 それが今現在の男共の関係だった。

 

 

「クズがぁ……」

 

「不用意な発言は控えるように今度こそキツく言い聞かせるから……」

 

「だ、だがよ、そこまで目くじらたてなくても良くないか?

見ている限りじゃユミエラ自身はパトリックになんの興味も無いみたいだし……」

 

「授業中にストーカーみてーに絡まれると本人から聞いてりゃあ殺したくもなるだろうが」

 

「「「あぁ……」」」

 

 

 

 こうして一撃で残念な顔面へと変えられてしまったパトリックをエドウィンとオズワルドとウィリアムがポーションやら回復系統の魔法を使って回復させる様をとことん見下した目で見ている……的なやり取りを遠くから覗く人影が複数あった。

 

 

「あ、あの野蛮人がまたしてもパトリックさんを……」

 

「ユミエラちゃんの事もあってイッセーくんは特にパトリックさんに対する当たりがキツいですからねぇ……」

 

「何故かイッセーが居ない授業中はしょっちゅう絡んで来る――と言っているせいなのもありますがね」

 

「……。ユミエラさん、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうですわね?」

 

「実際嬉しいですから?」

 

「良いなぁユミエラちゃん……」

 

「……あんな地位もない野蛮男のどこが良いのかしら?」

 

 

 エドウィン大好き女子生徒ことエレノーラ。

 そのエレノーラのミーハー的なノリにどこか親近感が沸くので実は結構な頻度でお茶会に参加してたりするユミエラとアリシア。

 そしてエレノーラの取り巻き女子数人。

 

 以上の女子達が、回復と共に起き上がるパトリックに向かって見下しの極致ともいえる目を向けるイッセーの粗暴さを覗き見ている。

 その理由はお茶会の度に互いの推し……つまりエレノーラ達はエドウィンで、ユミエラとアリシアはイッセーについて軽く口論になるレベルで語り合うものだから、いっその事互いの推しを遠くから見てみようとなり、こうして物陰からこっそりと男達のヤンチャっぷりを見ているのだ。

 

 

「あれだけ妙にパトリックさんにだけ攻撃的なのは、やはり以前噂にもなって彼からユミエラさんに対するセクハラが理由なのですか?」

 

「セクハラというか事故というか……。

まあ、ほぼ間違いなく理由のひとつですね」

 

「ユミエラちゃんのお尻にパトリックさんが顔を埋めたらしいんです」

 

「そ、それはまた大胆というか命知らずというか……」

 

 

 アリシアの一言のせいで普通に女子達からの評価がただ下がりしまくる事を知らないパトリックは泣いても許されるだろう。

 

 

「ちなみにユミエラさんはパトリックさんをどうお思いで?」

 

「妙に絡んでくるただのクラスメートですかね」

 

 

 キッパリと言われてしまっているパトリックに対する印象にエレノーラ達もまたパトリックの粗相は別にして微妙な同情を覚える。

 

 

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!

 

 ヤッダーバァアァァァァッ!!!?

 

 ヨ,ヨセヒョウドウ!!?

 

 セッカクカイフクサセタノニ!?

 

 パトリックガマタヨケイナヒトコトヲイウカラダ!!

 

 

 

 

 

 

「………純粋に疑問なのですが、あのような野蛮人のどこが……?」

 

「そのワルイドさが良いんです」

 

「時折かわいいところもあります」

 

(((なんという無駄にキリッとした顔……)))

 

 

 何かしらの一言が原因で凄まじいハンドスピードによる拳のラッシュを叩き込まれているパトリックが吹き飛ばされいる光景を眺めながら、無駄にキリッとした顔でイッセーの良さを話すユミエラとアリシアに心の底からエレノーラ達は理解が出来なかったのだという。

 

 

 

 

 

 貴族の娘っ子なんかには理解できるわけなんて無い。

 というか私だって当初は『原作』とは駆け離れすぎているイッセーの粗暴さに戸惑ったくらいだ。

 

 けど蓋を開けてみれば粗暴で、容赦なんてゼロだけどどこか原作やアニメで見たイッセーを感じさせる事もあるし、何よりイッセーは意外と寂しがり屋さんなのよ。

 

 でもその事実を知るのは私とアリシアだけで良い。

 

 

「急にどうしたのよ?」

 

「なんとなく……」

 

 

 ドライグが前に言っていたけど、イッセーは一度でもその者を受け入れた途端、結構弱味を見せたり甘えようとしてくるようになるって。

 

 聞いた当初は軽く疑っていたけど、なるほどね……これは確かにその通りだと、私は自室のベッドでアリシアと一緒に豊胸トレーニングをしていた時に、部屋に戻ってきたイッセーに突然揃って押し倒され、そして交互に抱き枕にされることで納得した。

 

 

「えへへ、今日のイッセーくんは子供みたいだね? でも良いよ? よしよし……ふふふ♪」

 

「……………」

 

 

 アリシアはそんなイッセーを完全に受け止めているし、勿論私も受け止める。

 というよりさっきから皆無だと自分で思っていた母性本能が急激に覚醒している感覚が止まらないわ。

 

 

「……相変わらずどっちも胸ちっせーな」

 

「悪かったわね……」

 

「どーせ、ゼノヴィアさんやイリナさんより小さいですよーだ」

 

 

 小さいと言われても今なら全然許せてしまう。

 だってそんな事を言いながらもイッセーは優しく抱いてくれるから。

 

 

「悪い、このまま寝かせてくれ……」

 

 

 他の誰にも見せないし、見せたくない。

 

 月日を経ても募り続けるこの気持ちに嘘なんてない。

 

 

「「おやすみイッセー……」」

 

 

 普通に生きる……ではなく、永遠にこの時間を続けることこそが私の今の生きる意味なんだと、普段は小さいだのなんだのと小馬鹿にしてくる私の胸の中で眠るイッセーをアリシアと包むように抱きながら私は思うのだ。




補足

簡易登場人物(五馬鹿男バージョン)

エドウィン

一応王子にて原作世界では主人公の攻略対象。

が、バグキャラ二人(ユミエラとイッセー)の存在によってアリシアが完全にバグキャラ化したせいでお騒がせ四人組の一人になってしまった。

 人格はともかく強さがけた違いなイッセーに絡んではぞんざいな対応をされてるものの、実はその絡みのお陰で密かにレベルアップしていたりはする。


ウィリアム

脳筋タイプの攻略対象だったその2
ユミエラに負け、イッセーに蹴り飛ばされ、アリシアにも剣術で最近負けたせいで空回りキャラ化してる気がしないでもない?

イッセーのあまりの暴君さに突っ込みキャラになりかけてる。


オズワルド

攻略対象だったその3
魔法に長けた才能があるが、手から属性不明のビームを出したりするイッセーやら、光魔法と闇魔法を使うアリシアとユミエラのせいで影が薄い。


パトリック
原作モブなのだが、まだボッチだったころのユミエラが気になってからは半ストーカーキャラに昇格した。

が、ユミエラを少しずつ受け入れ始めていたイッセーの存在により転落。

人間なのに一番イッセーから敵意を持たれているという快挙と共に何度も半殺しにされる悲劇の男。

しかしそれでもユミエラが気になってストーカーする辺り、もしかしたら根性はスゴいのかもしれない。

 だがその度にイッセーの殺意度が上がる。


イッセー
基本的に人間には寛大過ぎて引くレベルなのだが、この四人組に対しては妙に辛辣。

その理由はイケメンだから。

そしてパトリックに対しては最早人間外に対するそれと変わらず、ここ最近パトリックに地獄の九所封じとラストワン・神威の断頭台をぶちかまそうとして危うく殺しそうになった(ユミエラやアリシア、それと三人組が死ぬ覚悟で止めたのでギリギリ死なずに済んだ)


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