色々なIF集   作:超人類DX

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続き。
なんかグダグダやってんなぁ……


悪役令嬢は最高に『ハイ』になる

 

 

 

 先の先へ進み、そして追い付こうという決意をした時からだったか。

 それとも夜更けにこっそりアリシアと一緒になってワイルドに寝ているイッセーにひっついて寝るようになった時からだったか……。

 

 私は夢を見ることがある。

 

 

 それはきっと、イッセーが原作の兵藤一誠とは違った道を歩んできた夢。

 

 

 本当なら共に先を歩む筈だった悪魔の少女達への果てしなき憎悪を滾らせた夢。

 

 本来なら持つ筈のないその異常なる性質を持ったが故に他種族から恐れられ続けた夢。

 

 そしてそんな者達を……。

 

 

『こんな人間殺しちまえって事は、自分も殺されても構わないって事だ。

え、そうなんだろ? そう思っているから俺を殺しに来たんだろ?』

 

 

 あの世界の神ですら返り討ちにしてしまえる途方も無き力により、誰であろうと打ちのめす過去のイッセーは、屑切れのようになってしまったそれに嗤う。

 

 

『俺がまだもう少しガキだった頃、腹が減りすぎて虫を何匹か捻り殺してから喰ってやったが。ははは………………今そんな気分だよ』

 

 

 私が出会った時よりももっとギラギラとしていたイッセーの夢。

 

 

『確かに俺はテメーの妹ごときに使役された事への報復として殺してやった。

が、それも所詮はただの理由だったよ。

何故なら、今テメー等悪魔を見てるとよぉォ……そんな理由も関係なく皆殺しにしてやりてぇと心の底から思うぜ……!』

 

 

 他を殺し、そして無尽蔵に強くなっていく―――

 

 

『決めた。やっぱりお前等全員纏めて殺してやる。

なぁに、オメーだけではなくオメーの身内からなにから全部ぶっ壊してやるさ。だから安心して死ね』

 

 

 

 もう二度と誰かに自由を奪わせない為に強くなり……そして強くなりすぎてしまったが為に世界そのものに拒絶されていくそんな夢を私は時折観るのだ。

 

 そしてイッセーは前に一度だけ私にこう言った事がある。

 

 

「確かにお前の目的とやらに協力してれば飯の種には暫く困らないと思って居るからこそこうしている。

が、それ以上にお前のその俺に近いものを感じる『身勝手さ』にちょっとした共感を覚えたからなのもある」

 

 

 

「俺もそうだった。

最初は確かに俺も俺の尊厳を踏みにじった糞共に対する怒りやら報復の気分しかなかった。

だが蓋を開けてみれば俺は結局報復だとかではなくそいつ等が『気にくわなかった』からだった」

 

 

 

 

「まあお前の目的とやらと俺のやって来た事は確かにまるで違うかもしれないけど、根は似たようなものだ。

結局の所お前は死にたくないから、殺されたくないからと、その為に他を殺してでも生き残ろうとしているだろう? それはある意味じゃ俺に近い考え方だ」

 

 

 他を殺して糧にすることこそが『進化』なのだと……。

 

 

 

 

 

 そんなイッセーは、私とアリシアを相手に――そして山を含めた広大な森を一撃で更地に変えたせいか、ある疑惑を生徒達に抱かれた。

 

 そう……私がこの黒髪故に言われていたあの存在。

 

 

 『魔王』

 

 

 勿論、イッセーが魔王な訳がない。

 いや、確かにイッセーの元の世界では四大魔王どころか神すら葬ったらしいので、それを越えているという意味では合ってはいるし、なんならその話を聞いた時のイッセーは――

 

 

「魔王ねー……? はっはっはっ、傑作だな。

この俺が魔王だとよドライグ? あっはっはっはっ!」

 

『皮肉だな』

 

 

 可笑しくて仕方ないと嗤っていた。

 その噂をする連中が哀れで仕方ないと……。

 

 

「まったく、どこの世界も変わりゃしない。

どいつもこいつも、自分の許容を越えたもんを目の当たりにするとすぐに怯えるか腫れ物扱いだ。

くくく、つい最近じゃあユミエラを魔王の生まれ変わりだとか抜かしてたってのに、やっぱり人間様って最高だわ」

 

 

 それでもイッセーは人間達に対する憎悪も嫌悪も見せなかった。

 

 

「当たり前だろ? 俺は人間じゃねぇ畜生共は死ねば良いとは思うし、人間様こそが支配者になるべきだと思ってる」

 

 

 そう、イッセーは人間以外の種族へは息をするように殺すくせに、人間の場合はそれがどんなゲスでも殺すことは事はしない。

 自分がどうであれ人間という種族として生を受けたからなのかは私にはわからない。

 

 

 

「そりゃあ確かに人間の中には畜生共も引く程の鬼畜を持っているのかもしれないし、俺は何度もそんな人間を見てきた。

だがそれで良いんだよ。そういう一部の人間が他を排除したからこそ、人間という種族はどこの世界でもここまでの規模に発展した」

 

 

 でもイッセーは私の話を聞いてから暫く笑った後、決して誰も触れない私の髪に触れる。

 

 

「けどなぁ、この世界の魔王ってのは黒い髪だったんだろ? 俺の髪はこんな黒くはないんだがなぁ」

 

 

 そう呟きながら私の髪を触れるその手はちょっとだけ優しく感じた……。

 

 

「良いの?」

 

「あ? なにが?」

 

「だからイッセーが魔王だって言われてるの……」

 

「はっ、そんなのは勝手に言わせてれば良いだろ」

 

「でもイッセーが魔王だからこそ光属性の魔法を扱うアリシアを懐柔したのではないかと言われてるわ……」

 

「仮にそれが事実だったとしても奴等に何が出来ると思う? 俺を殺してくれるのか?」

 

「…………確かに」

 

「だろ? 本当に殺してくれるのならそれはそれで良い。

けど自惚れた台詞に聞こえるが、俺はもうそう簡単にはくたばれないんだよ―――てのはユミエラ、お前だったらわかるだろ?」

 

「……ええ」

 

「まあそんな話はさておき、彼等が誤解したままだとどうなるのかな? 国から追い出されるのか、それとも殺しに来るのか。

あの呑気だがどこか強かな王様がそんな短絡的な真似をするとは思えないけど……」

 

 

 

 

 

 あの授業以降、イッセーくんこそが魔王だと誰かが言い出したせいで、ユミエラちゃん以上にイッセーくんがそういう目で見られている事に私は怒りを覚えた。

 ……確かに私だって最初はユミエラちゃんを魔王の生まれ変わりかもしれないと、その気配から感じてたけどそれは間違いだったと今なら確信できるし、イッセーくんだって勿論違う。

 

 何故ならイッセーくんは魔王なんかじゃなくて龍の戦士だもん。

 決して騙されてなんかいないし、ユミエラちゃんと一緒にイッセーくんの立つ場所に追い付きたいというこの気持ちは正真正銘私の気持ちなんだもん。

 

 その私の気持ちを否定された気になってしまうのはとても悲しいし、周りの人達が私に『あの化け物に騙されてる』なんて言ってくるのも嫌。

 

 私は私の歩きたい道を歩きたい。

 

 その道が、どんなに険しくても、進んでは行けない道

であったとしても……。

 

 

 

「聞いてしまったら死にたくなるので今まで聞いて来なかったけど、イッセーくんの昔の――その、恋人さんのことは今も好きなの?」

 

「まぁな」

 

「ふ、ふーん……?」

 

 

 私が選んだ道はここなんだ……。

 私を私として見てくれる二人と進むこの道が……。

 

 

「俺が人間として色々と踏み留まれたのはあの二人のおかげだった。

……失った後は完全にタガが外れちまったけど」

 

 

 その道へと進むには大きな壁を何度も乗り越えなければならない。

 そのひとつが、ユミエラちゃんにも教えて貰った、イッセーくんの過去の事。

 

 イッセーくんの昔の恋人さん達だ。

 

 

 お察しの通り、私はイッセーくんの『過去』をある程度教えて貰っている。

 正直、始めに聞いた時はなにかの冗談かと思ったけど、イッセーくんの内に宿すドラゴン――赤い龍と名乗る渋い声のドラゴンさんの存在や、そのドラゴンさんの記憶を介して過去のイッセーくんの姿を見せて貰ったともなれば信じる他がなかったわけだし、何よりあんな過去があったからこその強さなんだなぁと納得してしまう。

 

 そんなイッセーくんの過去には恋人――というべきかどうかはわからないけど、それに近い女の人が二人居た。

 

 どちらも綺麗な人で、おっぱいも……まあその、私とユミエラちゃんより『ちょっとだけ』大きな人で……。

 それでいて、イッセーくんと肩を並べて戦えると心の底から信頼する人。

 

 簡単に言ってしまえば、なにもかもが私とユミエラちゃんより上の人達のことをイッセーくんは『別れた後』でも好きだと言っている。

 

 

「気は済んだか、お坊っちゃま?」

 

「ぐっ……クソォッ!!!」

 

 

 イッセーくんが『人としての感情』を持ち続ける事が出来たと懐かしそうに語るその二人の女の人こそが、私とユミエラちゃんにとっての最大の壁。

 この二人を越えなければ永遠にイッセーくんの傍には辿り着けない。

 

 

「何故だ! 何故貴様のような奴にアリシアが!!」

 

「知らん。

気づいたらユミエラと仲良くなってたからな。

俺はただ、強くなりたいという根性を見せたアリシアの意を汲んでやっただけだ」

 

「なら、何故俺達を……!」

 

「単純にお前等にはそこに至れる精神がまるで足りてないだけだ。

俺に一々突っかかる暇があるなら、少しでもレベルとやらを上げるんだな」

 

 

 今日も懲りずにイッセーくんを人間に化けた魔王呼ばわりして挑みかかる王子様達に冷たくそう言いはなつイッセーくんにとっての大切な人は、あの二人――イリナさんとゼノヴィアさん。

 

 

「何故、俺達を殺さない! 何故手を抜く!!?」

 

「誰かが言ってた事だが、砂利と本気で喧嘩する大人が居るのか?」

 

「!」

 

「おいアリシア、コイツらを治療してやれ」

 

「良いけどイッセーくんは……」

 

「そこのボンボン共曰く、俺は二年後に復活する筈なのにここに居る魔王らしいからな。

だったら魔王らしく美味い飯食って堂々と昼寝でもしてやるさ……」

 

 

 確かにイッセーくんは間違いなく『いい人』とは言い難いかもしれない。

 それこそ前までの私だったら怖がってしまっていたのかもしれない。

 

 でもそれでも私は――

 

 

「あ、アリシア……どうしてキミのような子が――」

 

「その『キミのような子』というのは止めてください。

私は光の魔法を操る聖女の生まれ変わりでもなければ、お優しいアリシアなんかじゃない。

私は、私の思った通りの生き方をしたいだけですから……」

 

 

 

 戦って、強くなることでしか自分を表現できない不器用なイッセーくんがそれでも大好きだから。

 

 

 

 

 

 

 魔王の生まれ変わりから、魔王の操り人形へと格下げされてしまったユミエラは、先日の課外授業にて知り合ったパトリック・アッシュバトンという同クラスの生徒に呼び出されていた。

 

 

「ここ数日、キミの使用人の行動やキミへの言動を見て思ったが、彼は正式なキミの使用人ではないだろう?」

 

「…………」

 

 

 このパトリックという青年は原作ゲームでは所謂モブキャラの一人である。

 故にユミエラは何故そんなモブに呼び出されてしまったのだろうかと困惑するのだが、どうやら彼が聞きたいのは一応使用人として居るイッセーについてらしい。

 

 

「キミが魔王の生まれ変わりではないのは俺も思う。

だが彼の場合は――」

 

「イッセーは魔王ではありませんよ」

 

 

 どうやらイッセーのパワーを目の当たりにしたことで広まった噂をある程度疑っているようだが、この手の噂には自分の事を含めてうんざりとしていたユミエラは冷たく否定する。

 

 

(寧ろその魔王を皆殺しにしたのがイッセーなんだから……)

 

 

 どちらも知らぬ事だが、もしイッセーが存在しない物語であった場合、ユミエラはこのパトリックという青年との仲を深めていくことになるのだが、この世界の物語では――

 

 

「話はそれだけですか?」

 

「い、いやまだだ。

キミが言う通り、仮に彼が魔王でなかったとするなら寧ろそちらの方が問題だ。

あの彼の力ははっきり言って異常だ」

 

「………それが?」

 

「わからないのか? このまま彼がああいう行動をしていれば王国に目をつけられたしまう。

いや、ひょっとしたら既に付けられているのだろう。だから彼はこの前の授業に講師役として現れたのだろう?」

 

「………………」

 

 

 ユミエラの中身が思いの外ミーハーであった事もあり、そうはならないのかもしれない。

 寧ろ何故かしつこく聞いてくるパトリックに対して段々鬱陶しさを覚えるくらいだ。

 

 

「このままではキミの家の名に傷がつくぞ」

 

「だとしたら貴方に何の関係があるのでしょうか?」

 

「無い。

だが何故か俺はキミが放っておけないんだ……!」

 

「………………」

 

 

 これ以上イッセーの近くに居るのは危険だと言い始めるパトリックに、ユミエラは内心『何を今さら』と他人に言われるまでもないと思っていた。

 

 

「そうですか。

ご忠告をわざわざして頂いてありがとうございます。

ですが、私はイッセーを手放すつもりも、ましてやその傍を離れるつもりもございませんから」

 

 

 この十数年でイッセーが危険生物であることは嫌というほどに理解している。

 短気だし、平気で死ぬレベルの鍛練をさせては目の前で菓子をボリボリ食ってせせら嗤うくらいに鬼畜だし、平然と権力者を見下す。

 

 しかしそれでもユミエラは理解しているのだ。

 

 

(チンピラだけど、女への好みが原作通りに思えて大分片寄ってるけど……)

 

 

 死にたくないという思いを叶えてくれたのは間違いなくイッセーだったと。

 他の誰もが自分の姿を恐れていても、イッセーだけは最初から今までまるで変わっていない。

 

 

「私はそんなイッセーが大好きですから……」

 

「なっ……!? そ、そうなの……か……? だが彼は――」

 

「ええ、でもいざと言う時は名を捨ててでも彼と行きますよ。

イッセーと……ふふ、アリシアと一緒なら何も怖いことなんてありませんから」

 

 

 ちょっとだけ強くなった自分を、魔物の群れとの戦いで傷だらけになっても生き残った自分に笑いながら手を差し伸べてくれたのは親でも誰でもない―――――イッセーだけだった。

 

 だからユミエラはミーハーな気持ちを越え、他を殺してでも立ち止まれなくなっている彼の傍に居たいと思うのだ。

 

 それはユミエラとしてだけでなく、前世の自分の抱いたたったひとつの想い。

 

 

「理解して頂かなくても良いですよ。

貴方達には一生涯わかりませんもの」

 

「っ!? やめろ! その目を―――」

 

 

 そんな想いを、何故この目の前の親しくもない男に打ち明けたのかは自分でもわからなかったユミエラは、そのままお辞儀をしてから去ろうとする。

 

 すると何かに焦ったパトリックが呼び止めんとユミエラの腕を掴んだ。

 

 

「………なんのつもりですか?」

 

 

 ほんの少し驚いたユミエラだが、振り払う事なんて造作もないので冷静にパトリックを見据える。

 

 

「ユミエラ、お前は間違っている……! あの男にそんな感情を抱いたところであの男は――」

 

「まぁ、今は無理でしょうね。

ですけど私達は諦めません」

 

「っ! だが王国の一部ではあの男を排除しろという話が……」

 

「ではその時は私が守りますよ……」

 

 

 何をそんなに拘っているのかがわからないも、その精神をブレさせる事をしないユミエラに、パトリックは腕を掴んだまま何かを言おうと口を開きかけたその時だった。

 

 

「うっ!?」

 

「? なにか――って、この気配と匂いは―――…

 

 

 パトリックが自分の背後にある何かを見てギョッとした顔をするのだ。

 それと同時にユミエラもその気配と匂いを察知して振り向くのだが―――――

 

 

 

「……………………………」

 

「え、なんで?」

 

 

 それは茶髪の青年……イッセーで間違いなかった。

 間違いないのだが、その目は龍の瞳孔を思わせる金色のそれに輝いており、放たれる雰囲気は殺意そのものだった。

 

 

(なにか機嫌が悪くなることでもあったのかしら?)

 

 

 そんな状態のイッセーが無言で近寄ってくることに対してユミエラは呑気に考えるが、反対にパトリックはこれまで一切感じなかったイッセーの放つ蟻と龍程の差の殺意を前に震え始めた。

 

 そんなパトリックを前に……というよりはパトリックとユミエラの状況を前にイッセーは低い声で言い放った。

 

 

「明日の朝刊載ったぞテメー……?」

 

「ひっ!?」

 

 

 言葉の意味の半分は理解できなかったが、少なくとも放たれる殺意からして間違いなく殺されると判断したパトリックは恐怖故の防護反応により、とっさにユミエラに抱きついた。

 

 

「なっ!? な、なにを!?」

 

 

 これにはユミエラもびっくりしてしまって固まってしまう。

 そしてイッセーはといえば……。

 

 

「人間様にはお慈悲をモットーに生きてたつもりだが、今だけ取り消す。

テメーは今から極限まで生かしつつ殺す……!!」

 

 

 

 その姿を見た瞬間、左腕に赤龍帝の籠手まで纏いながら、全身から真っ赤なオーラを解放する。

 

 

「ちょっ!? な、なにしてるの!?」

 

「どけユミエラ、なんか知らねぇが今のオメーの状況を見てるでけでムカついてしょうがねぇ……!」

 

「い、いやいや! だからって殺すのはまずいわよ!?」

 

「うるせぇっ!! そもそもテメー! 野郎にそんな真似されてるのに何で振り払わねぇ!! あ? ビッチかゴラ!?」

 

「び!? ち、違うわよ!? 突然過ぎて驚いてる――って、ちょっと離れて貰えませんかね!?」

 

「あ、あ……あぁ……!」

 

「だ、ダメだわ、パトリックがまるでボージャ○クにやられた時の悟飯のような声しか出せていないわ……」

 

 

 そもそも何故そんなにキレているのかがわからないユミエラとて、流石に目の前で同学年の男子が生かされながら解体されていく様を見たいわけではないので、先ほどから必死に自分の腰にしがみついて離れないパトリックを庇うようにイッセーを止めようとする。

 

 

「キィッ!!」

「おぼべばらっ!?」

 

 

 

 しかしパトリックがユミエラの腰に腕を回すようにしがみついた辺りで完全にスイッチがオンとなったイッセーが奇声と共にパトリックだけを器用に蹴り飛ばして引き剥がすと、そのまま腕を掴んで無理矢理立たせ……。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!?!?」

 

「ヒャハハハハァ!!」

 

『Boost!!』

 

 

 学園の校舎の壁に向かって何度もパトリックの頭を笑いながら叩きつけまくるのだ。

 

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「なぁにを効いたフリかましてんだボケがっ!!」

 

「おげぇっ!?」

 

 

 壁に血糊がべっとりと付き、そのまま崩れ落ちようとするパトリックの後頭部を蹴りつけ、更に壁に叩き込むイッセーとチンピラそのものな喧嘩殺法には身を以て慣れているユミエラが後ろから全力で羽交い締めにする形でイッセーを止めんとする。

 

 

「な、なんでそんな急に怒っているのよ!?」

 

「うるせぇ! ムカつくもんはムカつくんだ!」

 

「だからそれを聞きたいのよ!?」

 

 

 さっさと治療しないと死ぬのではないかと思うほど、羽交い締めにされても容赦なく泡を吹いて気絶するパトリックの顔面を踏みつけまくるイッセー

 

 

「が……がふ……」

 

「死ね! ウルトラビッグバン――――」

 

「MAX! ダークバインド!!!」

 

 

 挙げ句の果てにはこの世界ではまともに使った事すらない――下手をすれば世界どころか星そのものを破壊しかねない程のパワーを込めたドラゴン波を本気で放とうするので、ユミエラは全力の拘束系統の闇魔法を使って両手にパワーを溜め込んでいたイッセーを拘束せんとする。

 

 

「良いから落ち着きなさい!」

 

「なんだお前……! コイツを庇うのか? 何故か知らねぇがますますムカつくぞ!!」

 

「庇うんじゃないわ! 状況的にここで彼を殺したらイッセーが国外に飛ばされてしまうし、そうなったら私とアリシアが困るの!」

 

「………!」

 

 

 普通にMAXパワーのダークバインドを引きちぎり始めたイッセーを必死になって説得するユミエラの言葉が少しは届いたのか、両手に集束させていたパワーを霧散させると、力を抜くように脱力する。

 

 それを見てホッとしたユミエラは後少しで完全に引きちぎられていたダークバインドを外すと、イッセーはドラゴン波の代わりとばかりに横たわるパトリックを蹴り飛ばす。

 

 

「クソが!!」

 

「おげぇえっっ!?」

 

「な、なんとか生きてるわね。

急いで回復魔法を――」

 

「っ!? コイツに手を出すな!!! 俺がやる!!」

 

 

 そそくさとギリギリ生きているパトリックを回復させようとするユミエラを抱えて離したイッセーが、呻き声しか出さないパトリックの口に無理矢理回復のポーションをねじこむ。

 

 

「がぼがぼ!?」

 

「ちょ、ちょっとイッセー……?」

 

「黙れ、オメーがわざわざコイツに触れる必要はねぇ……」

 

「え、ええ……?」

 

 

 そう血走った目で言いながら、溺死寸前の声を出すパトリックにポーションを無理矢理飲ませるイッセーにただただ困惑するユミエラ。

 

 

「えと、聞こえるかしらドライグ? なんでイッセーはこんなに怒っているの?」

 

 

 イッセーにいくら理由を求めても答えが返って来ないと思ったユミエラは、今現在もイッセーの左腕に纏われている赤い籠手――に宿る意思に話しかけると、軽く点滅するように輝く籠手からドライグの声が聞こえる。

 

 

『さてな、オレにもよくはわからん。

ただ、お前がそこの小僧に触れられてる姿を見た瞬間、イッセーが急激に殺意を剥き出しにしたのは間違いない』

 

「え、そうなの……?」

 

 

 ドライグの言葉を聞いたユミエラが確認するように、血走った目のままで8本目のポーションを無理矢理パトリックに飲ませるイッセーに問い掛けると、イッセーは『がぼがぼぼぼ!?』と苦しそうに暴れるパトリックから視線を変えないまま「チッ」とひとつ舌打ちをする。

 

 

「何でか知らねーが、お前がこのガキに絡まれてるのを見てたら急激にムカついたんだよ。

つーかオメー、こんな野郎になにをベタベタ触られてるんだ? あー? トレーニングメニューを五倍に増やさねぇとならねーだろうが」

 

「ご、五倍!? 五倍はちょっと……。

でも私が彼に触られたから腹が立ったって……」

 

『コイツはそういう所があるんだよ。

イリナとゼノヴィアの時もそうだったな。

どこぞのバカが二人に触れた瞬間、そいつは――まあ、残念な事になってしまったなぁ』

 

「…………」

 

 

 ドライグが懐かしそうに呟く言葉に、ユミエラはポーション三本分を一気に飲まされて鼻からポーションを放出しているパトリックにぶつくさ『やっぱコイツは人間とか関係なくぶち殺してぇ』とぶつくさ言い続けているイッセーを見ながら考える。

 

 イリナとゼノヴィアと同じように? つまり私の場合はこのパトリックという異性に触れられたからイッセーがぷっつんした。

 

 それはつまり……。

 

 

「え、う、嘘? ホントに? そうなの? え??」

 

「……あ? なにが?」

 

「な、なな、なんでもないっ!」

 

 

 

 ひとつの結論に到達した瞬間、ユミエラの脳内は色々な意味でパニックとなった。

 つまり、だって『そういうことだから』。

 

 

 

「う、うぐぐ……」

 

「よし、これだけ飲ませれば死にはしねーだろ。

おいクソガキ……二度とコイツに絡むなよ? じゃなければ次は本気で殺してやる」

 

「………」

 

「聞こえてんのかゴラァ!!」

 

「ぴいっ!?」

 

 

 

 

 

「あ、あうあう……」

 

 

 やばい、どうしよう。嬉しすぎて死にそうなんですけど……とユミエラの精神は『ハイ』となっていた。

 そんな状態となるユミエラに気づいていないイッセーは、ボッコボコな顔で泣きじゃくるパトリックを虫けらのような目で見下すという、チンピラムーブを全開にすると、トドメとばかりに唾を吐き捨てる。

 

 

「ぺっ! クズがぁ……! おら、行くぞユミエラ」

 

「は、はい……」

 

「あ? どうした……?」

 

「にゃ、にゃんでもないわ! あ、あの……その……」

 

「は? ……おい大丈夫か?」

 

「はうっ!? だ、大丈夫よ! む、寧ろ前世含めた人生で一番ハッピーな気分だわ!」

 

「……あ、そう」

 

 

 ちょっとした言葉だけで嬉しくて昇天しかけそうになっているユミエラ。

 こうして本来なら立つ筈だったフラグもこのイッセーのせいでぶち壊されることになったのだが、本人達にその自覚は無いし、なんならユミエラは幸せ過ぎる展開なので後で聞いた所で意味のないものなのかもしれない。

 

 

「ね、ねぇイッセー? さっきの彼に突然『抱きつかれた』のがショックで上手く歩けないのよ……」

 

「は? ………あのガキ、やっぱ殺――」

 

「あうっ!? そ、それは良いのよ! だ、だからそのお部屋まで抱えてくれたらいいなーって……」

 

「それは別に良いけど……」

 

「え、良いの!?」

 

「あ、あぁ? あぁ……それよりもやっぱりさっきの小僧をぶち殺した方が……」

 

「大丈夫! 今度は絶対にイッセー以外には触れさせもしないから!」

 

「………………」

 

「本当よ? だからそんな顔しないでよ。

な、なんというか私に存在なんてしないと思っていた母性本能がこれでもかと擽られてしまってたまらないのよ……」

 

 寧ろこの状況を利用しているくらいなのだから。

 

 そして……。

 

 

「ただいま~」

 

「おかえり……って!? どうしたのユミエラちゃん!?」

 

「ふっふ~ん、イッセーにお姫様抱っこをして貰ったのよ」

 

「えー!? い、良いなぁ……。

ねぇイッセーくん、私も――きゃっ!?」

 

「これで良いのか? はぁ……なんだか妙に疲れたわ」

 

「お、おっふ……私は夢を見てるのかな?」

 

 

 この日から、イッセーはちょっと優しくなったのだった。

 

 

「えー!? そんな事が……。

でも私にはそんな事無かったな……。

エドウィン王子達の治療とかさせられてたし……」

 

「そこに関しては過ごしてきた年数の差ね。

でも多分その内アリシアも……」

 

「そうかな? そうかなっ!?」

 

「ええ、だから今後も胸のサイズアップをしましょう」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

「すぴーすぴー……」

 

「よ、よし……最初と違って蹴り飛ばされなくなってきたわよ」

 

「今日はどうする? 直接で挟んでみる?」

 

「当然よ……。

寝ぼけて揉んでくれるでしょうし……ふっふっふっ」

 

「だよね……! えへへ~」

 

『………………変な小娘共だ』

 

 

終わり




簡易人物紹介。


 ユミエラ・ドルクネス

悪役冷静ってなんだっけ? 系な少女。

悪役令嬢キャラ以上に鬼畜な赤龍帝の存在のおかげで相対的にマシな存在認識されている。

この度原作ではフラグが立つ筈だったモブキャラ青年との邂逅を果たしはしたのだが、それを見たイッセーが何故かガチギレして青年を八つ裂きにしたせいで見事に壊された。

 が、それ以上にイッセーからの無意識な『独占欲』を肌で感じてハイになれたので最早どうでも良い。


イッセー
 存在自体が最早害レベルな鬼畜赤龍帝。

 ユミエラがよくも知らん男にベタベタ触られてる光景を見た瞬間、一気にプッツンしてしまったが、その理由への自覚はまだしていない。

が、その後は妙にユミエラの頬をムニムニしたり、誰も彼もが怖がる黒髪を触りまくったり、時折パイタッチしたするようになったとかならんとか。


アリシア・エンライト


主人公なんて要らん系主人公。

ユミエラの話を聞いた時は悔しかったけど、それでも決してあきらめない辺りは主人公気質は残っているし、寝ぼけたイッセーに抱き枕にされる日もあるので特に問題もない。

将来の夢は魔王なんて速攻ぶちのめし、ユミエラとイッセーの幸せ家族生活。

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