そう言われたもんだから―――
『
『』
そう、とことこん見下しきった顔をしながら言ってのけたせいで、世の中のまな板女性の大半を敵に回しまくった訳だけども、本人はそんな事なんて意にすら返さない。
ここに来て自分が知る一誠としての側面を見る事になることは嬉しいような複雑なような……。
『お前は―――うん、中の下だな』
『』
何故なら私はイッセー的に中の下らしいので。
罵倒されても、見下されてもヘラヘラ笑ってられたアリシア・エンライトでも、流石に
その凹みっぷりは流石に級友達にも悟られてしまう程であり………。
「貴様か、アリシアに暴言を吐いたというユミエラ・ドルクネスの使用人は?」
「本当の意味でのただの庶民の分際でよくもアリシアを泣かせたな?」
「覚悟はしているのだろうね?」
「……」
イッセーは実に面倒な展開へと引きずり込まれていくのである。
……自業自得だけど。
「はぁ……ではどうぞお気の済むまで煮るなり焼くなりしてください」
「「「………」」」
されどイッセーは妙に殺気立つ、ユミエラ曰くの主人公の攻略対象達を前にしても無反応だ。
何故なら彼等は頑張って殺気立っていても、向けられるイッセーからすればダンゴムシのそれにしか思えない程度なのだから。
(ぬ……イケメンか。
クソ、やっぱ一発は殴り返してやりてぇかも。
でも人間だしなぁ……)
『さてどうする? このガキ共は一応人間だ。
殺して黙らせるのはお前の流儀に反するが……』
(イケメンだけど俺は我慢する。
相手は人間様だからね……イケメンだけど!)
『ははは、一々お前らしいなイッセーよ?』
メソメソ泣いていたらしいアリシアから何を聞いたのかは知らないが、この三人の怒り方を考えればなぁなぁで誤魔化すのは困難。
されど目の前の三人は一応この世界における『人間』なので、殺して返り討ちにするのは気が進まない。イケメンだけど。
これがドライグの言っていた通り、『人間ではない生物』ならばヒャッハースイッチが入って皆殺しにしてやっていたのかもしれないが、『人間』を相手にすると不思議な程に怒りの沸点が高くなる。
極端な話、石を投げつけられてもイッセーはヘラヘラするのだ。人間が相手ならば。
「ユミエラ嬢、貴様の使用人がしでかした責任をどう取るつもりだ?」
「……」
『おっと、矛先がユミエラに向いたぞ? どうする? もしこの三匹のガキがユミエラに攻撃をしたら?』
(まー……死なない程度に黙らせるくらいか? いちおー使用人って体だし、たまにはそれなりに働かんとね)
が、それも近くに優先順位度が高い者が巻き込まれていないフラットな状態の場合のこと。
当然ユミエラの使用人という体である以上、今回の件の責任追及はユミエラ自身にも向けられるわけで。
「多分Cはある筈、きっと……」
「「「……………」」」
友人になにかしらの暴言を吐いた使用人とその主にきっちりとケジメをつけさせようとシリアスな空気を放つ三人の青年エドウィン、ウィリアム、オズワルドはあらゆる意味で目の上のタンコブであったユミエラに対してここぞとばかりに攻め立てようとするのだけど、そのユミエラ本人はさっきからぶつぶつと下を――というより自分の胸元を見ながらかBだのCだのと言っていてまるで聞いちゃいなかった。
「さっきから何をブツブツと……?」
「それにこの使用人――ヘラヘラと笑っているだけで罪の意識がまるで……」
「嘗めているのか?」
なんなら元凶であるイッセーに至っては反省の色なぞ微塵も感じさせない――貴族や王族を前にしているとはとても思えぬふざけた態度だった。
「ちゃんと反省してますな態度しとけってんだオメーは。
それと、オメーはCじゃなくてC擬きのB-っての」
「はぁ!? Cはあるでしょう!? ほら!」
「C、ねぇ……?」
「ちょ……そ、そんなにまじまじと見られるとそれはそれで恥ずかしいわ」
「「「…………………」」」
つまりどっちもまともに聞いてないし、なんならこの舐めた使用人に至っては主である筈のユミエラに対して使用人らしからぬ態度だし、なんというか微妙に主と使用人の関係とは別のなにかを醸し出していすらいる。
「やっぱB-……下の上だな。
すまん、流石に中の下は盛り過ぎた」
「下がった!? しかも下の上!?」
「心配しなくてもあのピンク頭は下の下だから、そこは勝ってると誇れよ?」
「まったく嬉しくない褒め言葉をどうもありがとう!」
「心配せんでもそこら辺の需要はあんだろ? 俺には刺さらんがな!」
「慰めるフリしてトドメを刺さないでもらえる!?」
「意外とコンプレックスなんだな? ははは!」
「わ、笑うなー!」
「「「………………………」」」
ケタケタと笑う使用人と、初めて見たユミエラの感情的な声を出しながらポカポカと使用人の肩を叩くという、なんだか腹が立ってくるやり取りを前に最早完全においてけぼりになってしまう三人組なのだった。
戦闘力が足りないと言われてしまったアリシアは、何故か謝ってくる三人組の友人にはて? と首を傾げつつ、どうしたら戦闘力をアップさせられるかを真剣に考えた。
(胸を大きくさせる方法の本とかないかな?)
そしてこの王立学園には巨大で、学生なら自由に出入りして閲覧可能な書庫があるので、そこに行って戦闘力――というかおっぱいのサイズアップに関する書籍がないか探した。
(いっそ胸を成長させる魔法薬の作り方とかあれば尚良いけど……)
胸の成長に関してはレベルを上げてもどうにもならなかったからこそ、結構本気になって探していると……。
「「……あ」」
人体の構造的な書物が目に入り、手を伸ばしたその瞬間、横から手が何者かの手が伸びてきて軽く衝突する。
え? と真横へと視線を移せば、そこには互いに気にくわないのに『まったく同じ事を考えていた』のだろうユミエラと目が合う。
「ど、どうも……」
「え、ええ……こんにちは」
さっきまで教室に居たのに何故ここに居るのだと互いが互いに思いつつも『人体』の本を探すアリシアとユミエラは、イッセーに言われたせいもあるのか、まずは本よりも互いの戦闘力の確認ばっかり目が行ってしまう。
「………………ふっ」
「……………むかっ!」
結果、確かにイッセーが言っていた通り、ユミエラの方が戦闘力は高かったので、ついユミエラは表情の死んだ顔でドヤァとわざと胸を張ってやったら、アリシアがこれでもかとムッとする。
「き、着やせするだけだもん……」
「奇遇ね。私も着やせするけどアナタよりは出てるわ……ふっふっふっ」
コイツ等、本当は普通に仲良くなれるのではなかろうかと思う程に悲しいどんぐりの背比べ的な張り合いをするユミエラとアリシア。
下の下と下の中でも優劣はつけたいらしい―――イッセーに言われてしまったものだから。
(くっ、それにしても流石にバストアップの秘訣的な本はここにはないのかしら? 考えてみたらここって王立学園だし……)
(胸の大きくなる方法が載っている本……! ユミエラさんよりも先に必ず……!)
折互いに肩で押し合いながらバストアップ本を探すユミエラとアリシアは皮肉なことに一人の青年の口にした言葉のおかげで互いへの警戒心がある意味で薄れ、互いの胸のサイズの張り合いになるのだった。
そして王立学園にそんな俗めいた本なぞ置いてあるわけも無く、結局収穫もゼロだった。
「………………はぁ」
「………………はぁ」
割りと真剣に困り果てる二人は、驚く程息ぴったりにがっくりと肩を落としながら暫く並んで座る――フリをしながら互いの胸の戦闘力を何度も確認する。
(い、意外と背丈に反してあるわね……)
(た、確かに私より少し大きいかも……)
互いが互いの戦闘力(イッセー目線じゃどんぐりの背比べ)に胸囲ならぬ脅威を感じるユミエラとアリシア。
このままではまず間違いなくイッセーは興味すら持たないだろう………そう思ったが故にまずはアリシアが口を開いた。
「………。協力しませんか?」
「は?」
考えてみたら一番警戒している主人公――つまりアリシアと何をしているのだろうかと思いかけていたユミエラは、ちょっと真剣な眼差しのアリシアの言葉に思わず目が丸くなる。
「協力?」
「はい。
私はまだイッセーさんの名前を知ったばかりでイッセーさんのことは何も知りません。
でもユミエラさんはイッセーさんとは古いのでしょう?」
「え、ま、まあ……一応私が5才の時からの付き合いね」
「う、思っていたよりも長い……! や、で、ですからね? その、イッセーさん好みの……お、おっぱいになるために協力しませんか、と……」
「……………」
おっぱいという単語を恥ずかしそうに口に出しながら休戦協定を提示してきたアリシアにユミエラは全力で驚きつつも戦慄する。
(ほ、本当に乙女ゲー世界からギャルゲー世界になったの……?)
イッセーという自分以上のイレギュラーによるものなのか、最早そう思わざるを得ない程になんでかイッセーに拘るアリシアに、ユミエラは恐る恐る訊ねた。
「その、エンライトさんはどうしてイッセーを? 普段イッセーって他の生徒の前に姿を出さないようにしてた筈だけど……」
「それが私、見ちゃったんです。
イッセーさんが手から魔法じゃないなにかを出して星を一個吹き飛ばしているところを……」
「……………」
何故かもじもじしながら知った理由を話すアリシアにユミエラはガンと机に頭をぶつけた。
(わ、私のせいじゃない!? それって確か私がイッセーにドラゴン波が見たいって言ったから……!)
完全に自分がやらかしたせいだったので。
「あの時のイッセーさんは赤くてキラキラしてました。
それとその……少しだけ子供っぽくも見えて……」
「それな」
「え?」
「あ、いえ、なんでもないわ……」
うっそだろとユミエラは内心頭を抱えた。
よりにもよって主人公と好みのタイプが完全に丸かぶりしていることに。
そう、確かにそうだ。
普段はチンピラ然としているが、時折見せる子供っぽさや、妙な包容力はまさに一誠なのだ。
「でもアナタ、ウィリアムさんやエドウィン王子とかオズワルドさんとは……」
「??? 皆さん親切な方々ですよ? ただ、やっぱり立場が違いますし、お友達と思うのすら烏滸がましくて……」
「あー……」
おかしいな、前向き主人公な筈なのに結構ネガティブな思考なんだけど……。
と、ここに来て初めてまともに主人公としてではないアリシア・エンライトを知った気がしたユミエラ。
「それに、私が光属性の魔法を扱えなかったら、見向きすらされませんし……。
皆さんにとっての私の価値は
「………………」
闇属性の魔法、そして黒髪という理由で魔王の生まれ変わりではなかろうかと勝手に恐れられてきた自分とは違う、アリシアの密かな苦悩の一端を知ったユミエラは、ちょっとだけ同情してしまう。
「多分そんな事はないと思うし、私なんて闇属性の魔法しか使えないし、この髪だから魔王の生まれ変わり呼ばわりされてるわよ? あ、そういえばアナタにも一度聞かれたわね……」
「あ、あの時は! ご、ごめんなさい……」
「いーわよいーわよ、言われなれてるし。
イッセーだけは鼻で笑って『くだらねぇ』って言って全く接し方を変えなかったから」
「そうなんですか? やっぱりイッセーさんって……」
「あ、しまった。
敵に塩を送り込んでしまった……」
気付けばイッセーの話題で割りと盛り上がり、そしてユミエラ自身もまさかあれだけ警戒していた主人公相手に警戒なトークをする日が来るとは思わなかったとちょっとした感動を覚える。
「ふふ、ユミエラさんって結構面白い人ですね? 思っていたよりしゃべり方も庶民みたいですし……」
「……」
まーその庶民からの転生者だし、イッセーの影響も半分入ってるし……。
クスクスと笑うアリシアにユミエラは少し気まずい気持ちになる。
「それで話を戻しますけど、協力しませんか?」
「………」
イッセーというイレギュラーがこの結果になったのかはわからない。
しかしそれは確実にそうなっているのかもしれない。
「俺がイケメン共にうざ絡みされてたってたのに、オメーはなにしてたんだよ?」
「D以上になる為の協定」
「イッセーさんが寧ろごめんなさいする程の戦闘力を身に付けてやろうとユミエラさんと修行することになりました!」
「……………………」
この日より、イレギュラーは本格化する。
「ただの迷信だと思いつつも言うけど、実は好きな異性に触れられると大きくなるらしいわ」
「え!? それなら試しにイッセーさんに……!」
「ええ、という訳で……」
「わざわざこのピンクを部屋に入れてなんつー事言ってんだ? バカだろ……」
「じゅ、10って言うからですよ! 私の、お、お、おっぱいの事を!」
「ええ、10は酷いわ30はあるわよ私もこの子も……」
「………………」
『コイツら、お前のお陰で寧ろ仲良くなってやしないか?』
悪役令嬢は主人公と戦闘力UPの為に組む。
簡易人物紹介
ユミエラ・ドルクネス
憑依転生者にて裏ボス候補。
強さだけなら凄いのだが、その上から凸ピンだけで捻り潰してくる理不尽チンピラ赤龍帝が居るせいでイマイチ自信がない。
中の下から下の中まで戦闘力を格下げされたせいで完全にコンプレックスになりかけてしまい、アップを画策しようとしたら同じ事を考えていた戦闘力10ちゃんと遭遇。
そしてまさかのナイチチ同盟成立。
イッセー
D×Sほぼバッドエンドルート世界を生きた男。
他種族にはヒャッハースイッチがすぐ入るが、人間相手だと石を投げられても唾吐かれてもヘラヘラ笑って許すという、ある意味の異常な精神性の持ち主―――ただし、イケメン相手だと若干ながらスイッチが入りやすくなる。
この度のナイチチ同盟結成の元凶
アリシア・エンライト
この乙女ゲー世界の主人公。
しかしチンピラ赤龍帝を目撃した時からそのレールから無意識に外れ始めている。
ユミエラには知識から前向き過ぎて思い込みが激しいタイプだと遠巻きにされていたが、話してみるとそれが半分は強がりだったと発覚し、ナイチチ同盟のこともあってか急速にユミエラと仲良くなっていく。
そして好みの種類がユミエラと丸かぶりであり、チンピラ言動、スイッチ入った際の残虐性含めてユミエラと同等レベルにイッセーに嵌まる割りと悲劇な子。