そしてラストの予定
何とも皮肉な話なのかもしれないが、全ての他種族――それこそ神をも殺し尽くした人生を歩んだこのイッセーには、数多のもしものような『転生者』への嫌悪感が無い。
何故なら彼は別に転生者に何かを奪われた訳でもなく、なんなら今までの人生で転生者という存在とは会うことも無かった。
もしかすれば数多の他種族を葬り去っていった中で、他種族として転生した存在が居たのかもしれないけれど、何もかもを破壊し尽くしてしまったイッセーに今更それを確認する術もありはしない。
つまるところ、これが違うもしものイッセーであったなら、己の今の状況も含めて転生という形で別人として今を生きているユミエラと結託なんて恐らくしなかった………という意味ではユミエラはきっと運が良かったのかもしれない。
「罰ゲェェェム…! ハバネロのタバスコ割ドリンク一気飲み~!」
敵と断定した者への追い込み方が恐ろしく鬼畜ではあるものの……。
結局予想した通りのボッチな学校生活となったユミエラだが、本人は特に思うことはないし、なんなら気楽ですらあった。
一応イッセーがもし存在しなければそんな彼女と関わりを持つ者が現れたりとか、なんなら恋人なんて出来たりとかといった展開が待っていたのかもしれないが、本人の意識がそもそも今頃部屋で寝ているか、厨房に忍び込んで材料を失敬して食べているかをしているであろうイッセーの事しか常に頭に無いので、そんな僅かなフラグすら気づかずに壊している訳で……。
「はぁ? 舞踏会……だっけ? それに出ないだぁ?」
「あーいやー……ボッチ過ぎて出たところで踊る相手なんて居ないし、そもそもそういうのは苦手でもあるし……」
「じゃあこの成金ドレスどうすんだよ? あるっつーからオメーの実家に連絡して送らせたっつーのに、無駄骨じゃねーか」
『そもそも成績優秀者であるお前が欠席できるものなのか?』
「体調不良とか適当に言ってみたら案外すんなりと……」
ユミエラにとって今一番大事なのは、欠席すると聞いてブツブツと文句を言いながら実家から送られたドレスを片付ける別世界の主人公である筈だった青年との今後なのだ。
「この学校に通う理由のひとつに確か男を見つけるも含まれてるんじゃねーのかよ?」
表ではユミエラの専属の使用人として黙認ながら忠実に遣えている体だけど、こうして周りに誰も居ない時の力関係は完全に逆転し、ドレスを適当に片付けたイッセーがユミエラの使うベッドに腰掛けて、反対にユミエラは腰に悪そうな木の椅子に座る。
「そんなつもりは私には無いから……」
「無いじゃ困るんだが、マジで居ねーかよ? 簡単に捕まりそうな金持ちのボンボンの一人や二人は?」
「居たとしても私の力に怯えて逃げる人しか居ないわね」
「かー、根性のねぇ奴等だなオイ?」
チンピラ丸出しな言動をしながら無作法に寝っ転がるイッセーを見ながら、ユミエラは『そりゃあ見つける気なんて欠片も無いし……』と呟く。
「喪女にでもなりてーってか? てかよ、お前まさか前世含めて未開通なのか?」
「…………」
「え、マジで? あーらら……」
「うっさい、イッセーだって前世含めて童貞の癖に」
「は? いや、俺は前の世界でそこら辺の経験は済んでるぞ」
「………………え?」
「え? ってなんだよ? 」
「いや、え? どうして? だってイッセーは……」
「寧ろ無いと思われてた事に驚きなんだけど、俺にだって好きになった女の子の一人や二人は居るわ」
「だ、誰!?」
「イリナとゼノヴィア―――って、オメーの前世の記憶とやらにその二人は居るのか?」
「………………………」
「? おーい、聞こえてんのかー?」
『………気絶したぞコイツ』
「はぁ? ……よくわかんねーの」
だが話の流れでしれっとカミングアウトされた爆弾発言に、ユミエラはショックのあまりその場で意識を消し飛ばすのであった。
「ハッ!? 私は一体何を……。
そうだわ、イッセーが急に非童貞だと言われる夢を……」
「夢じゃねーよ、アホかお前は……」
「」
『また気絶したぞ、今度は魂が口から抜け出るように……』
な、なんてこと……。
記憶にある原作とはなにもかもが違っていたからこそ、そうだと思い込んでいたのに、イッセーは既に前の世界で――
「……………………」
『……ユミエラ嬢の様子がおかしい』
『何時も以上に目が死んでいる……』
イリナとゼノヴィア……その名前にはとても覚えがある。
イリナは兵藤一誠としての幼馴染み。
そしてゼノヴィアは後に一誠と同じ転生悪魔となる女。
どちらも原作でも一誠とは関わりの深い女だけど、まさかその二人とだなんて……。
『間抜けにもトレーニングでオーバーワークやらかして死にかけた隙にカス悪魔の雌に使役させられた時期があってな。
使役させられた時点で俺は奴等に逆らえないレベルにまで力が落ちたせいで、まぁ散々好き勝手やられててよ。
そんな時にイリナとゼノヴィアが俺を解放する手伝いをしてくれてね。
解放と同時にゴミ共を皆殺しにしてからはずっと一緒に居て、一緒に戦ってくれた』
『』
しかもその語り口は見たこともない程に優しくて、どこか寂しそうで。
『
でもあの二人はそんな俺を否定もせず普通に受け入れてくれたんだよ……』
とても……儚げで。
『だから好きになっだし、そんな生活を三人で送ってればそうなったって訳よ』
何をどうやっても私ではそんな
「何かあったのだろうか?」
「…………」
あぁ、でも納得してしまうわ。
あまりにも原作とは程遠い性格をしていたのは、そういう環境だったからなのもあったけど、一番はそういう相手とちゃんと出会えていたからこそなんだって。
そりゃあ他の女になんか興味――
(いや待てよ? イッセーって暇になるとナンパしようとする傾向があったわ。
何故か年がそこそこ行ってる女のみだけど……)
まるで無い訳ではない……。
けどどっちにしても今の私では――
「はぁ……」
『た、ため息吐いたぞ……』
『あのユミエラ・ドルクネスがため息を……』
なんで、なんでイッセーはこの世界に来ちゃったのよ。
ある意味でハードよ……。
イッセーの過去のひとつを知ってしまい、割りと大きめなショックをユミエラが受けている頃、一応この世界における本当の主人公ことアリシア・エンライトは、闇魔法を扱い、友人となった男子を模擬剣で完膚なきまで叩きのめしたユミエラをとても警戒している――――
「むむ……」
――というのは全部建前であり、アリシアが今現在もっとも気にするのは、この学園の生徒ではない、ユミエラの使用人の男性だった。
アリシアと同じくこの国に多く存在する所謂庶民と思われる、年の頃が自分達と近い茶髪の青年。
「アリシア? どうしかした?」
「え? あ、いえ……なんでもありません……」
魔法ではない、何かを手から放つ妙な使用人。
偶然その現場を見てしまったあの時見たあの横顔。
庶民でありながら光魔法を扱えるという理由で特例の学園入学を果たしたアリシアにとってすれば、同じ庶民であろう彼が放ったあの光線に対して何かしらの同類意識を感じてしまった。
そして何より――
(今日こそは探してお話を……!)
なんとも皮肉なことに、ユミエラが恐れていた流れになってしまっていたのだ。
何故なのかはわからない。
だけどアリシアはユミエラの使用人と思われる青年がとても気になるのだ。
(光魔法を扱えたから皆さんは親切にしてくれた。
けど、私がもし使えなかったらこの人達はきっとただの庶民だと言って鼻にもかけてはくれない……)
それはアリシア自身の抱える密かなコンプレックスがあるからこそなのかもしれない。
たまたま扱えたから特別扱いされた。
たまたま光魔法が使えたから。
それが無ければただの小娘でしかない。
そんなコンプレックスを密かに、そして隠しながら今までを生きたからこそ、光でも闇でも――はたまた他の属性とも違うなにかを扱うあの青年が気になる。
(午後の授業が終わったら探してみよう……)
気になるからこそ、アリシアは探し求めるのだ。
自分以外の――いやもしかしたら自分以上である『例外』を。
「へーっきし!」
『間抜けなくしゃみだな』
「ずず……間抜けで悪かったなドライグ。
にしても流石王立ってだけあって無駄に良い材料を揃えてやがる。
お陰で失敬する価値はおおありだぜ。ふふふ、今日は肉類でもかっぱらって焼き肉パーチーでもすっか?」
その青年は現在、学園内の厨房に忍び込んで食材の失敬に勤しんでいる事をアリシアは知らない。
基本的にユミエラが授業を終えて戻って来るまでの間は自由時間だと勝手に思っているイッセーは、他の生徒や教師等々に見つからないように学園内を徘徊しては、腹が減れば厨房に忍び込んで食材を頂き、調理をして食べたり飲んだりをするか、誰も来なさそうな場所をリサーチしては身体を鍛えていたりと……少なくとも前の世界よりはそれなりに充実している生活を送っていたりする。
「んー、食った食った」
『次は何をする?』
「当然、食った後は軽い運動だべ」
ユミエラはまだ知らない事だが、ユミエラの記憶には存在しないイッセーの特性である永遠に進化する異常性は未だに現役でイッセーを自己進化させ続けている。
それにより最早人としてはまともに死ねない所まで行ってしまったのだが、本人は進化を辞めるつもりも、ましてや引き返す気だってない。
「あー、どっかの神名乗るバカでも殺しにでもこねーかな? 久々にぶっ殺してやりてぇわ」
『見事に小物のチンピラになってしまったなイッセーも……』
「元から根がそうだったんだからしょうがねーだろ? それにドライグだってそろそろ『壁』を越えたいだろ?」
『否定はできんが、この世界に果たしてそれだけの存在が居るかどうかだな。
魔法の概念が存在する世界とはいえ、ユミエラの今のレベルで怪物扱いだからな』
「いっその事アイツをこっちに引きずり込むか? そうすりゃあ俺を殺せるだけの領域に到達できるだろうし……」
不満があるとするなら、元の世界と違って生物的なレベルがこの世界はドライグとイッセー基準では相当に低いということ。
壁を乗り越えて新たな領域へと進化し続ける異常による性を持つイッセーにとってこの世界はあまりにも緩いのだ。
『お前はそのつもりで、わざわざ今までユミエラの面倒を見たのだろう?』
「センス無かったらアイツの限界を確認した後さっさとおさらばしてやってたんだが、まあそこそこはあるからなアイツ。
……イリナとゼノヴィアより遥かに劣るけど」
『あの二人と比べるのは酷だろう。
そもそもあの二人は出会った時点で既に持っていたしな』
ユミエラを完全にこちら側の領域に引き込めば、少しは退屈しなくなりそうだと考えるものの、来るか来ないかは本人の意思が重要であるし、今はまだ時期ではない。
「いい線行ってはいるんだけどなぁ。
アイツって自我がちょいと薄いんだよ」
『確かにな、ユミエラとしての人生にある程度引っ張られている感はある』
「そこに対する折り合いを完全に決められたら、一皮くれーはひんむけるんだけど……」
人差し指一本で倒立しながら筋トレをしつつドライグと話続けているイッセーは本人が聞いていないのもあるのか、割りとユミエラ――というよりはユミエラに転生した元女子大生のことを高めに評価していると……。
「………………」
『気の緩みがあるとはいえ、お前も気づいたかイッセー?』
(ああ……チッ)
物陰から小さな気配を感じ、咄嗟にドライグとの会話を意識の中だけに切り替える。
(まただ)
『ああ、まただな』
(うざってぇな、場所変えるか?)
ここ数日間定期的に誰かが遠くから自分を見ている事には気づいていた。
だが別になにをされる訳でもなく、ただ見ているだけだったので、ユミエラの手前もあるので手出しはしなかった。
「……………」
後でユミエラでもパシらせて、絶対誰も入り込めない闇魔法空間でも作らせてやろう。
そんな事を考えながらトレーニングを一旦中断し、近くの木に掛けていたドルクネス家の使用人服の上着に袖を通し直し、そのまま気づかないフリを決めながらそそくさと退散しようとする。
何時もはこれで大体撒ける――というより別に見ているだけで追いかけては来ないのだが。
「ま、待ってください!」
「!」
何故かこんな時に限って物陰から慌てて姿を現した者が呼び止めたのだ。
「…………………チッ」
『おい、聞こえるぞ』
思わず本気の舌打ちをしてしまったイッセーは、ユミエラの使用人という体の手前もあってガン無視はマズイと思い、ユミエラが見たら『うわぁ……』と引きそうな『張り付けた顔』をしながら振り返る。
「はい、なにか?」
無駄に爽やかな笑顔を張り付けているイッセーに、イッセーの中から見ていたドライグも『うわぁ……』とドン引きする声を放つ中、それを知らないピンク髪の少女――アリシア・エンライトが緊張した面持ちで、そしてペコペコと頭なんて下げ始める。
「あ、あの! わ、私! ユミエラさんのクラスメートのアリシア・エンライトと言います!」
「……………………」
『実は知っている……とは言えんわな』
主人公だとユミエラから聞いているし、なんなら接触はしないで欲しいとまで言われていたりする事など当然知らないアリシアはペコペコペコペコと頭を下げながら自己紹介をするので、こんな所を誰かに――それこそユミエラ曰く『主人公の攻略対象の連中』なんぞに見られたら変な誤解によるウザ絡みでもされかねないと、イッセーはどこまでも張り付けた笑顔のままアリシアに向かって言う。
「お止めください。
一介の使用人風情にそのような真似をされてはなりませんよ?」
『………………』
素だったら「うぜぇんだよボケ」と言うだろう所を我慢しながらイッセーはお優しいお言葉をかける。
すると何故かは知らないが、顔を上げたアリシアの表情はこれでもかとキラキラとしたそれだった。
「う……」
『やはりお前の苦手なタイプだなこの小娘……』
その表情に向かって思いきり張り手を噛ましてしまいそうになるイッセーは必死にその衝動を押さえ込みながら、笑顔をキープする。
「アリシア・エンライト様……お話はユミエラお嬢様から伺っております。
庶民の出でありながら希少な光魔法を扱えるお方だと……」
「い、いえそんな! 私はただ扱えた魔法がたまたま光属性であっただけで、魔法自体は全然……」
無駄に身振りと手振りが大袈裟なアリシアは表情もころころと変わる。
表情から感情が判別するのがイッセー以外では困難であるユミエラとはあらゆる意味で正反対だ。
「それでアリシア様は私に何のご用件で?」
「さ、様はつけなくて良いです。
その、年も同じくらいですよね?」
「17になりました」
「そ、それなら寧ろ私より年上ですし……」
「そういう訳には参りません。
私はしがない庶民の使用人風情ですから……」
『クソガキ』と呼んで良いならかまわねーがな……とやはり思考がチンピラ然としているイッセーが内心そう吐き捨てる。
その返しに対してアリシアは残念そうに眉を下げるも、気を取り直すように背丈の関係で見上げる形でイッセーの張り付けマシマシの笑顔フェイスに視線を向け……。
「あう……」
ボンッ! と一瞬で沸騰でもするかのように顔を赤くしてしまい、咄嗟に下を向いてしまった。
(………………マジでなんだコイツ?)
『……………』
意味がさっぱりわからないと、アリシアが下を向いた隙に張り付けた顔を一旦辞めたイッセーが首を傾げる。
(な、なんでだろ。
他の貴族の人達とか王子様よりもかっこいい……)
そんなイッセーのナマモノでも見るような目に気づかないアリシアは、比較したら少しはレベルの下がるイッセーの容姿に胸の中の何かを貫かれたようだ。
早い話、どうやらアリシア的にイッセーの顔は――ドストライクであった。
「あう、あぅぅ……」
「………………アリシア様?」
「にゃ、にゃんでもないですぅ……」
こうしてアリシアに時間を奪われたイッセーは暫くどうすれば良いのかわからず張り付けた顔を継続しなければならなかったとさ。
「イッセー……」
「あ? ……………………あ、あぁ?」
聞きなれた声が背後から聞こえたかと思って振り向けば、無表情だけど殺意マシマシなオーラを迸らせているユミエラが立っていて、普段とは違うその様子に思わず二度見をすることになるまで……。
やってくれたな主人公!!
いつまで経ってもイッセーが部屋に戻ってこないので不審に思い、犬のようにイッセーの匂いを頼りに探してみれば、最近妙に自分をキッと睨んでくるアリシア・エンライトと共に居るではないか。
イッセーはアリシアに対して寧ろ苦手意識すら持っているので、この状況はイッセーが生み出した訳ではないのはユミエラもわかる。
だとするなら……そう、アリシア自らがイッセーに接触をしやがったわけで。
「イッセー、これはなに?」
「なにって、そんなの見たままの通り―――」
寧ろウザいからどうにかしろとつい素になりかけたイッセーは、アリシアが居ることを思い出し、咄嗟に取り繕う。
「申し訳ございませんお嬢様」
「…………………………」
いっそ大袈裟にユミエラの足元に膝までついて頭を下げるイッセーに、アリシアに絡まれたことで軽く頭に血が昇っていたユミエラは『う、後でお仕置きされるかも……』と一気に冷静になってしまうものの、これに関してはどうしても見過ごせなかった。
「……。エンライトさん、ウチのイッセーがなにか?」
「…………………………」
取り敢えずイッセーをそのままに、アリシアに無表情――されど無意識に威圧を放ちながら訊ねる。
この軽い威圧だけでも受けた相手は完全に戦意を失う程の強烈なものなのだが、どういう訳かアリシアはそんな威圧に怯えつつもキッとユミエラをまっすぐ強く見据える。
「イッセーさんというお名前なんですね?」
「………………」
しまった、墓穴掘ったと内心テンパるユミエラ。
これで完全にアリシアにイッセーの名前を含めた存在を知られてしまったのだから。
「何時までもイッセーさんにそういう格好をさせるのはよくないと思います」
「………」
そんなアリシアは膝をついて頭を垂れっぱなしなイッセーを指しながら言う。
対してユミエラは『寧ろこの後が怖いのだけど……』と、イッセーの素を知らないからこそ言えるアリシアになんとも言えない気分になる。
「アナタには関係なんてありません。
イッセーはウチの使用人ですから、部外者が口を挟むことではありません」
「いいえ挟みます! イッセーさんは奴隷ではありません!」
「はぁ?」
奴隷って……え、奴隷みたいに扱ってるとか思われてるの私?
話が何段階か飛躍している気がしていてならないユミエラもこれにはビックリ。
「い、いえあの……そんな奴隷だなんて思っては――」
「だったら何でイッセーさんはこんな格好のままなんですか!? ほら! まるで怯えているように!」
「え、えぇ……?」
何でそう見えるのだろうか小一時間くらい問い詰めたくなるユミエラ。
どうにもアリシアにはユミエラがイッセーを奴隷のように扱っているように見えたらしい。
恐らく99パワーのせいなのかもしれないが……。
「だから! だからっ!! イッセーさんを―――」
しかしその時だった。
それまで黙って膝をついて頭を垂れていたイッセーがなにかを言いかけたアリシアに挟み込む形で口を開いたのは。
「……………ウゼェ」
「「え?」」
低く、それまでの張り付け爽やかボイスが嘘のようなチンピラボイスに思わずユミエラとアリシアは同時にイッセーを見れば……。
「マジでいい加減にしろよクソガキが」
完全に素になっているイッセーが、これでもかというくらいのチンピラフェイスとなって居るではないか。
そして膝についた土を払いながら立ち上がると、動揺するユミエラに向かってかったるそうな声を出す。
「もう良いだろ? めんどくせーわ」
「あ、え………?」
ゴキリと首の関節を鳴らしながらそう言うイッセー
「さっきから聞いてりゃあガタガタガタガタと的外れな事ばかり抜かしやがって。
こんなのにいちいち取り繕うのもバカらしいわ」
「…………あー」
「え? えっ??」
嘘みたいにチンピラ化しているイッセーと変わり様にただただ混乱するアリシアをコレ呼ばわりしながらユミエラに言うと、そのまま混乱するアリシアに向かって『養豚場の豚』でも見るような、例えるなら完全に見下しきった目をしながらこう言った。
「おいガキ。
オメーがコイツをどう見てるのかなんぞどうでも良いがな、テメー一人で勝手に舞い上がってんじゃねーぞコラ? あ?」
「あ、え……?」
「あちゃー……」
ショックを受けたまま言葉が出ないアリシアをこれでもかと罵倒するイッセーにユミエラは片手で顔を覆いながら天を仰ぐ。
「この事をペラペラと喋りてぇなら勝手にしろよ。
だがな―――――そうなったらテメーのダチからその親兄弟、地元ごと叩き潰すぞゴラ?」
「…………………」
そう言いながら空に向かって光弾を放ち大爆発させる。
その大爆発に学園内は大騒ぎとなるのだが、そんなものなど知ったことじゃないとばかりにオロオロしていたユミエラの腕を掴む。
「帰るぞ」
「わ、わかった……」
「それとオメー、部屋に戻ったらお仕置きしてやる」
「や、やっぱり……!? う、うぅ……手加減して欲しい」
こうしてアリシア・エンライトは魔王の生まれ変わりと思っていたユミエラの背後に怪物が居た事を知ってしまうのだった。
「む、虫でも見るような目だった。
そ、そうだったんだ……あの姿がイッセーさんの本当の姿で、別にユミエラさんに脅されてなんてなかったんだ……」
「あ、あはは……! バカだなぁ私って。
でも―――」
「―――――ど、ドキドキする。
あ、あの人を人と思ってない目で見下されながら罵倒されたらどうなるんだろう……なんて」
どこかの白い猫みたいな感情を意図せず植え付けて。
「かわいいものしりとり~ コアラ」
『ラッコ』
「こ、ここ、こぶた!!」
『……………』
「…………………全然かわいくない」
「な、何でよ!? 可愛いじゃない!?」
「はい罰ゲェェム! ハバネロ100%3杯一気飲み~!」
「みぎゃー!?!?」
そしてユミエラは――地獄の真っ最中だった。
「げほ! おえっ!? ひゃひ!?」
『良いのか? 一応あの小娘が主人公とやらなのだろう?』
「知るか。
ああいうテメーで勝手に妄想広げてそれを他人に押し付けてくる奴を見てると八つ裂きにしたくなるんだ。
つーかオメー的にも良いだろユミエラ? ああしときゃあ二度と近寄らなくなるはずだしな」
「あう………ま、まだ口の中が痛いわ……。
そ、それにしてもどうしてあのタイミングであんな事を?」
「さてな。
オメーが言い返さないで居たのにムカついただけだ」
終わり
補足
登場人物
ユミエラ・ドルクネス
前世女子大生転生者で裏ボス回避人生の真っ只中。
イッセー式トレーニングのせいで99どころか内部ステータスがバグり始めたのは密に。
しかしそれでもイッセーとのタイマンではボコボコにされるし、最近はグリグリとわざとらしく踏まれるせいで変な性癖に絶賛目覚めまくる。
そして時折優しくもされるので嫌えないという、DV夫と別れられないダメ女街道爆進中。
イッセー
基本言動が小物ドチンピラなD×S世界線のイッセー
大人の階段は実は上がっており、その相手はあの二人。
ユミエラとしての人生に軽く引っ張られてる姿を見て思う所があるのか、時折めっちゃくちゃにしてしまう。
自分は良いが、他人がユミエラの悪口を言うのを聞くと最近イラッとしてしまう模様。
アリシア・エンライト
主人公。主人公ったら主人公
思い込みが強いせいで、ユミエラを魔王の生まれ変わりと疑うわ、一目惚れしたイッセーを嫉妬こみで奴隷みたいに扱っているとか思い込む。
しかし、本人に否定された挙げ句、ユミエラ命名の『デデーン弾』を顔面スレスレにぶちかまされたり、思いきり罵倒されてしまった。
…………しかしそこは主人公の無駄に高いバイタリティー
その罵倒に見事にド嵌まりしてしまった模様。
きっとユミエラが普段からイッセーから受ける『お仕置きコース』を見たらハンカチでも噛むかもしれない。
その他
ユミエラさんが怖いわ、謎の大爆発が最近頻繁に起こるわで戦々恐々