今の自分が史上最強の悪魔にて最高峰の人外であるサーゼクスと喧嘩をしたらどれだけ食らい付けるのか。
並行世界にヴェネラナと共に飛ばされて以降、久しく戦う喧嘩が売れなくなっていたイッセーは、飛ばされる前よりは多少強くなれた自覚はあるものの、実のところ勝てる自信はあまりなかったりする。
何せあの男は嫁も娘も居るリア充の分際で自分の遥か先に未だに君臨する正真正銘の怪物。
別にリア充等というものには何の興味も無いのだが、最初の喧嘩から今に至るまで一度も土を付けられないという現実は赤龍帝・兵藤イッセーからあくまで悪魔の執事として生きる道を歩むことになった日之影イッセーとしての越えられぬ巨大な壁なのだ。
「そういえばララさん達のお父さんと何度か喧嘩をしていると聞いたけど、それは本当なの?」
「……。一応は本当」
「本当なのね? まったく……」
「? ガミガミ言わないのか?」
「言いたいことは山程あるけど、その点に関して言っても日之影君の事だから聞いてはくれないでしょう?」
「まあ……」
「だから言わないわ。
だけど他所様の迷惑になることだけはしないこと! それと日之影君は病人だという自覚を少しは持ちなさい」
「いやだから病人ではなくてだな……」
どちらとも戦った経験のあるイッセーから見れば、デビルークの王であるギドよりも更に上の次元に立つ……それがサーゼクス・グレモリーという最強の魔王なのだ。
待てど暮らせどヴェネラナが帰ってこないせいで、普通に二人して宿題を終わらせてしまったので微妙に暇になってしまったせいでちょっと気まずい―――と言うことは無かった。
何故なら燕尾服を着ているイッセーは使用人として素人目である唯から見ても無駄が一切無い動きでテキパキと仕事をしているのだから。
「よし、仕込みは終わった。
これでババァと御門が何時帰って来ても即座に出せる」
「凄いわね……日之影君が分身しているように見えたわ」
「ちょっと速く動いてただけだよ。別に分身なんてしちゃいない」
「そういう技術って日之影君のお母様――ヴェネラナさんに教わったの?」
「まぁな。
ただ、俺にこの技術を徹底的に叩き込んだ大半はグレイフィアっていうグレモリー家の使用人長でババァの実の息子の嫁だ」
「筋金入りの技術なのね……天条院先輩が褒めるのも頷けるわ」
一通りの仕事を終え、一服するイッセーの余り見ない側面にちょっとしたギャップを感じる唯。
そんな唯の視線に気づいているのか居ないのか、最近御門からプレゼントされた懐中時計を懐から取り出したイッセーは、その時計の針がそろそろ年頃の娘さんなら自宅に帰るべき時間を差している事に気づく。
「ババァと会うとは後日にして、そろそろ帰った方が良いんじゃないか? 親御さんが心配する時間になってるぞ」
「あ、そ、そう、ね……」
地味にそういった事を配慮できる辺り、服装も相まって紳士に見えた唯は、確かにそろそろ家に帰らないといけないかもしれないと思いつつも名残惜しくて席から立とうとしない。
考えてみればここまで他愛のない会話を彼とだきたのは初めてだし、話せば話すほど自分が知らない彼の面を知ることができたし、なんならもう少しこうしてどうでも良いような内容でも良いので話がしたいと思うわけで。
しかし高校生が親に無断でクラスメートの男子が住んでいる家に入り浸るのは破廉恥な気がしてきたので、ちょっと残念だが帰るべきだと理性で判断した唯はそのまま帰ろうと席を立つ。
「ヴェネラナさんにはまた今度ご挨拶に伺う事にして今日の所は――」
「帰るわ」と告げようとしたその瞬間、怪しいとしか思えぬタイミングで玄関から『ただいまー』という女性の声が聞こえ、思わず唯は固まってしまう。
「御門が先に帰ってきたのか」
マズイといった顔色の唯に気づかないイッセーが、本来の家主の帰宅を出迎える為に玄関へと向かうのを見送るしかできない唯はこの状況をあの保健医に見られたらなにを言われるかわかったものではないと焦るが、そういう時に限って上手い言い訳が全く思い付かない。
(ど、どうしましょう。御門先生は変に勘が良いから変な事とか言われてしまいそうだわ。
い、いえでも別に悪いことなんてしてないし……)
『あら、ヴェネラナさんはまだなの? それに誰か来ているの?』
『ババァに勉強教えて貰う約束をしてたらしいが、そのババァが帰ってこないんだよ。まぁ気配は感じられるし問題はなさそうなんだが……』
『ふーん?』
そんな二人の会話がどんど近づいてくる中、完全にテンパってしまった唯が結局そのまま突っ立っていると……。
「あら、古手川さんじゃない……」
「あ、う……」
古手川唯的には現状一番イッセー関連で警戒している存在――御門涼子と対面するのだった。
そして声が上手く出せずにアタフタとする唯を数秒程見つめていた涼子が何やら察した上でなのか、面白そうにニヤニヤとした笑みを浮かべると涼子が着ていたとされる上着をハンガーに掛けていたイッセーを肘で軽くつつく。
「私の家でというのは少し頂けないけど、お家デートなんてついにイッセーも異性を意識するようになったのかしら?」
「あ? んな訳あるか。
さっきも言ったろ、彼女はヴェネラナのババァに勉強を――」
「そんなの建前に決まってるでしょう? 古手川さんの本音は――」
「ちがっ、違いますから! べ、べべ、別に日之影君とはそんなんじゃありませんからっ!」
「ほらな。
第一アンタだって古手川の人となりはわかるだろ? 堅物クソ真面目な彼女がそんな鬱陶しい事を考えるわけ――」
「鬱陶しいってどういうことよ!? 日之影君は私が鬱陶しいというの!?」
「え? あ、あれ? 何で怒るんだ?」
端から見るリト並に一切全くその手に関する察しが悪いイッセーの悪気の無い一言につい激怒してしまう唯が色々と忘れて詰め寄り、それにイッセーが驚いて圧されてしまう光景を暫しニヤニヤしながら見ていた涼子だが、段々自分を忘れて完璧に嫁の尻に敷かれてる旦那みたいなやり取りが面白くなくなってきたので、少々大人気ないものの割り込んでやることにした。
「取り敢えずお腹減ったからご飯にして欲しいのだけど……」
「あ、お、おう……。えっとその前にすぐ戻るから古手川を家まで送って――」
「私も食べるわ! 今両親に連絡するから待っててちょうだい!」
「は!? お、おいおい何で――」
「……何よ? 鬱陶しいとでも言いたいの?」
「い、いや……は、はい……わかりました」
何故か勢いづいた唯が居座りを続行してしまうアクシデントに見舞われたが、その理由に気づかないのはイッセーだけだった。
古手川唯が類を見ないレベルの自己主張を爆発させる頃、実はとっくに家に帰ってきていたりするヴェネラナは、難しい顔をしながら家の前を見張っていた女の子二人と一緒になって、とても孫までいる年齢の悪魔とは思えないはしゃぎかたをしていた。
「さぁてと、舞台は整ったといった所ですかね?」
「あ、あの……ヴェネラナさんは良いのですか?」
「? 何が?」
「いえその……お二人の元の世界にはイッセーさんに好意を持つ方々が居て、その中にはご自身の娘さんも居るのに他人の私達の背中を押すというか、塩でも送るというか……」
イッセーが見てたら『テメーの年考えろババァ』とでも言われそうなワクワクっぷりのヴェネラナに、モモと美柑は言いにくそうに質問する。
そんな年若い娘さんの若い質問に対してヴェネラナははて?と首を傾げる。
「お酒のせいとはいえ、息子同然のあの子がお二人にしでかした事はどう考えても責任案件でしょう? それにあの子の場合今更好意を持つ方が10人程増えようが問題ないと思ってますから」
「じゅ、じゅう……!?」
「は、発想のスケールで負けた……」
そもそも美柑と同世代にて孫娘のミリキャスですらあのイッセー以外には眼中ゼロまで好いているし、娘や親友の娘姉妹。果てには息子と同等の人外であるフェニックスの娘等々と本人はサーゼクスを越える事しか見えてないものの、その気になれば引く手あまたなのだ。
そんな状況から今更何人か増えた所でヴェネラナ的には何の問題もないらしい。
ましてやこの娘さん二人に関してはイッセーの方からやらかしたのだから。
「あの、怖くて聞けなかったのですが、元の世界の悪魔さん達は何人程イッセーさんに……?」
「…………」
「娘のリアス、孫娘のミリキャス、私の親友の娘姉妹であるソーナちゃんとセラフォルーちゃんでまず四人は確定してるわね。
後は何人かリアスの眷属の子達に兆候があったけど……」
「「…………」」
思っていた以上の競争率の高さに、これまで敢えて気づかないフリをしていたモモと美柑は軽く心が折れかけた。
あんな美人達からそう思われてる時点で、勝ち目をまるで感じないのだ。
「この話を聞いて諦めますか?」
「「………」」
だけどヴェネラナのその言葉に二人は折れかけた心を持ち直した。
そう、だからといって諦めるかと言われたら話は別だ。
確かに彼女達は幼少の頃からイッセーを知る人達なのかもしれない。
けれどここで過ごしたイッセーの事は自分達が知っている。
ヴェネラナ曰く、自分達との交流ですこしずつ変わっていったイッセーを。
「何があっても折れない精神。
あの子が一番好ましく思う条件は既に持っているようね? ふふ……ならどうします? このまま指をくわえて見ているだけ?」
「「………」」
モモと美柑は無言でお互いを見てから頷き合うとその場から立ち上がった。
そうだ、勝ち目が無いと決めているのは自分達の方であって負けるとは決まっていない。
ならばとことん食らいついてやる。
「ふっ、さぁリアス、ミリキャス、ソーナちゃん……そしてセラフォルーちゃん? 並行世界の人間はどうやら『強い』みたいよ?」
その覚悟の目はイッセーがする目に似ているからこそ背中を押したヴェネラナは、ラスボスの魔王の城に乗り込む勇者のような面持ちで御門宅へと踏み入れる二人の少女を見つめながら、四人の悪魔娘達に呟くのだった。
「ただいま帰りましたよ。
実はすぐ近くでお二人とばったり会ったので夕飯に招待しようと思ってね?」
「「お邪魔します」」
「あら……」
「う……な、なにこの妙な迫力は?」
「………。なんだってんだ」
終わり
オマケ・どうにかしたいネメちん
退かない、媚びない、省みない。
多くの地球人とは真逆の精神を持つイッセーをどうにかして懐に収めたいネメちんことネメシスは考えた結果、自分がそこら辺の小娘じゃないと証明することから始める事を思い付き……イッセーと戦う事にしてみた。
「私がただ下僕の調教が上手いだけの存在だと思わんことだな。それにギドと引き分けるお前とは一度やりあってみたいとも思っていた」
「………」
そう言ってらしくもなく闘志を剥き出しにするネメシスはある日イッセーに決闘を申し込む。
場所は夜更けの彩南高校の校庭。
夜風の冷たい風に逆らうかのようにネメシスの全身の細胞が武器へと変質する様を見たイッセーは、ネメシスが初めて見る程に……。
「お前は他の雑魚とは少し違うようだ。
くくく、良いぜ、あの王様オヤジとはそう頻繁にやり合えなくて不満だったんだ……」
「…………」
兵器として生み出された自分達には理解できぬ闘争心を珍しく剥き出しに構えるイッセーの瞳はシトリー姉妹のようなアメジスト色に輝き、その頭髪はグレモリー家の悪魔を思わせる程に赤く染まる。
(まったく、私らしくもない。
しかし、何故かはわからないが悪くない気分だ)
その子供のような笑みを前にネメシスもまた無意識に口を緩ませると……。
「くっくっくっ、なら望み通り……始めようかァ!」
実に納得できてない顔をするメアとヤミ……そしてのほほんとお茶を飲むヴェネラナと涼子をギャラリーに異世界人との本気バトルを開始するのだった。
そして――
「おいチビ」
「チビって言うな。で、なんだ?」
「放課後ちょっとヤるぞ。新しいのを閃いたから試したい」
「またか? 今朝付き合ってやったばかりだろう? これじゃあまるで私はお前の捌け口に使われているみたいじゃないか」
「対価はちゃんと払う。
良いな、すっぽかすなよ? まあすっぽかそうとしても探して無理矢理ヤるけどな」
「わかったわかった……まったく、重ねれば重ねるほどお前はガキだな」
「ちょ!? ちょっとイッセーさん!?」
「え、なに?」
「い、い、いい、今ね、ネメシスと一体なんの会話を!?」
「? ああ、放課後アイツと一戦交えようと……(トレーニング相手として)」
「い、一戦!?(そっちの意味と誤解) ね、ネメシスとナニをしたことが!?」
「??? おう、この前アイツから誘われてな。(決闘した的な意味)
ふふ、まさかアイツのヤり合った事で新たな扉を開けるとは思わなかったよ……(進化の壁を越えた意味合い)」
「あ、新たな扉ァ!?(そういうプレイと誤解) そ、そんな! 酷いですよイッセーさん!? よりにもよってネメシスなんかと――」
「うるさいぞ、少し静かに――ん?」
「ネメシスゥゥッ!!」
「なんだ騒々しい……」
「そ、騒々しいですって!? 私達を出し抜いてイッセーさんと……!!」
「は? ………………あぁ。
別に良いだろ? こういうのは順番もなにもないのだからな。
しかし困ったものだよ、コイツは一度求め始めると止まらないし、激しくてなァ?」
「は、激し……!」
「????」
終わり
補足
まさに悪魔的思考っ……!
その2
本気出したら結構なトレーニング相手になれると知った途端、寧ろ自分から割りと強引に誘い出すせいで、変な勘違いされまくるし、ネメちんはわかってて煽り倒す。