何故自分だけが生き残ったのかはまだわからない。
何故自分だけが別世界の人間として生まれ変わってしまったのかもわからない。
好きだった子には会えない。
家族のように過ごした仲間たちも居ない。
居てくれたのは相棒のドラゴンだけ。
そんな世界で今更『普通の人』として生きた所で無意味だとしか思えない。
何よりこの身体の本来の持ち主から奪い取ったような気がして嫌悪しか感じられない。
つまり俺は腑抜けの抜け殻だった。
………宇宙人を名乗る者と出会したあの日まで。
宇宙人に負けたあの日まで。
リベンジを誓うその瞬間まで。
「やっとだ……。やっと取り戻した。
これで漸く――そのムカつくツラを殴り飛ばせるってもんだ……!」
『融合するぞイッセー――否、リト』
「はは、その言葉をどれだけ待ってたか。
最高だぜ……ドライグ!」
抜け殻であったオレが少しだけ『燃える』事が出来たその瞬間から、イッセーではなく結城リトとしての何かがやっと始められた気がした。
「『オレは結城リトでもドライグでも―――そしてイッセーでもない。
オレは、貴様を超える者だ……!!』」
ちょっといい奴だなと思える宇宙人達との交流によって……。
特殊も特殊な地球人との出会いが私の『無』であった心を変えた切っ掛けだった。
ちょっと意地悪で、 理不尽な程に強くて、誰にも懐かない――されど見えない折に囚われた犬のような地球人が私を良くも悪くも変えた。
「一応聞いておくけど、庭の地面にララさんとモモさんが全裸で頭から突き刺さっているのはなんで?」
「100は言ったのに、未だに人の部屋に勝手に入ってきたから追い出しただけだ。
なに、殺してはいないさ」
「それはまた――本当に懲りないね二人とも……」
好き嫌いが極端で、態度も極端で、おおよそまともな人格ではない地球人こと結城リトはとてつもなくやることも極端だ。
紛いなりにも宇宙の覇者であるデビルーク王の娘だろうが無関係に気にくわなければ簡単に叩きのめす。
もっとも、彼の妹である結城美柑に説明した通り、このデビルーク星の長女と三女の自業自得な面も否めないわけだけど。
「ふわぁ……ぁ」
「あ、ナナさん。おはよ」
「おはよー……って、姉上とモモはなにしてんだ?」
「何時もの懲りぬ真似をした結果ああなったようです」
「また? ……言っちゃなんだけどやり方を完全に間違えてるとしか思えないんだけど……」
けれど例外的に次女であり、今起きてきたプリンセス・ナナに対しては結城リトは真逆の対応をする。
いや、寧ろ彼女に対しての結城リトは――なんというか懐いた犬のような気がしないでもありませんね。
「……………おい、なんか今失礼な事考えてないかイヴ?」
「いいえ?」
そんな事を考えていたら結城リトが私の本当の名を呼びながら半目で睨んできたので誤魔化しておく。
余計な事を言って拗ねられても困りますからね……正直この男の精神年齢は妹のミカンよりも低い傾向があります。
「あの二人はどうするの?」
「放っておけ、その内起きる。
それより飯にしようぜ、腹減った」
「よろしいのですかプリンセス・ナナ? 彼はああ言いますが……」
「まー……少し反省させるべきかな」
これが良くも悪くも空っぽの兵器だった私の価値観を変えた……異常なる地球人との今。
「結城リト、後でドライグとのトレーニングをたのみたいのですが……」
「あ? ああ……今ドライグ寝てるけど言っとくよ」
「ありがとうございます。
この前の『融合』でしたっけ? あの姿と領域を見たせいで少し燃えてる自分が居ます」
「そりゃあなによりだ。
が、オレに勝つにはまだまだだぜ?」
龍に少しだけ認めて貰えた私の今。
誰にでも吠える狂犬のような奴。
それがアタシが初めて見た時の印象。
気にくわないことがあるとすぐに手が出て、気にくわない相手を徹底的に叩き潰す。
そんな奴が力の大半を失ったとはいえそれでも最強だった父上と殴り合って引き分けたと聞き、色々あって妹のモモと家出同然に地球に来た事でアイツ――リトと会ったわけだけど、アタシの第一印象はズバリ『嫌い』だった。
今にして思えばモモと姉上に多少の問題があったとはいえ、暴言は吐くし平然と張り倒すような奴をいい奴だなんて思えるわけもない。
「しかしあの変態校長でよかったな。
あれだろ? どうせ『かわいいからOK』とでも言われて簡単に入れたんだろ?」
「はは、正解……。
まあ、ラッキーだったわけだけどさ」
「ついでとばかりに私も通うことになってしまいました」
『あの学校もずいぶんと宇宙人が増えたものだ……。いや、気づいてなかっただけで最初から居たのかもしれんが』
だからアタシは寧ろ大嫌いだったし、モモや姉上がやられる度に何度も突っかかってたりした。
だけど今はこうして普通に話ながら学校に通うようになっている。
アイツが完全に力を取り戻した父上に負けたのを見た時から? いや、負けたことを一人で隠れて怯えていた姿を見た時から。
リトが他人に対して攻撃的な理由を知ってしまった時から。
色々と理由はあるけど、多分一番はリトが本当はリトじゃないんだって知ったその瞬間だったのかもしれない。
守ろうとした人を失って自棄になっていた。
負けて失うことを恐れていた。
『で、葬式のようなテンションで後ろをついてくる小娘二匹はあのままで良いのか?』
「知るか。オレは悪くねぇ」
「何故ああも結城リトの地雷を踏めるのかが逆に不思議なのですが……」
「他の人たちからしたらアタシ等の方が不思議なんじゃねーか?」
色々と知った時から、アタシはアタシなりに少しだけ歩み寄ってみたりもした。
その頃からだったかな……少しだけ仲良くなれたのは。
放ってはおけないというか、独りにしてはダメな奴なんだってわかってからは怖くなんてなくなった。
いや、寧ろヤミと違ってなんの力もないアタシにもリトは普通に話したりしてくれた。
そしてあの時……ちょっとしたトラブルでアタシが他の宇宙人に拐われた時、リトが助けに来てくれたあの時の姿が。
『ウォォラァァァアァッ!!!』
『ひっ!? こ、コイツ……! ほ、本当に一人で……!?』
『チマチマ増えやがってゴミ共ォ……! そんなもんじゃオレは止まらねぇぞオラァァァッ!!!』
『うっ!? こ、この地球人、狂ってるぞ……!?』
『テメー等雑魚の首なんぞ数にもならねぇんだよ……。
とっとと退きやがれ、このクソ野郎共がァァァッ!!!』
見えない檻を壊して飛び出した狂犬のように暴れ倒しながら助けてくれた時からアタシはきっとそうなった。
「流石にリアス・グレモリーの名前を口にするだけで過剰な反応をしなくはなったみたいですが……」
「え? ああ……まあ……」
「逆に複雑なんだよなー……」
「……おう」
リトであろうと、イッセーであろうと……アタシは変わらないと決めたんだ。
………まあ、そのリトがイッセーの頃からずっと大好きなままであるリアス・グレモリーが強すぎるのが問題なんだけど……。
生まれ変わっても尚、ただ一人の悪魔を愛し続けるのがベリーハードな世界を生きた兵藤イッセーから結城リトに生まれ変わった彼だ。
あまりにも過去に縛られてきた彼が『敗北』をすることで、そしてその敗北によって掴んだ繋がりによって漸く前を向くようになっても尚、彼の中でのリアスは途方もなく大きい。
そしてその極端さは変わらない。
「なんでリトって古手川に目をつけられてんだ?」
「知らん」
「ゆ、結城くんってあまり騒いだりしない筈なのに不思議だよね?」
「どっちにしろ、雑音だと思って無視するつもりだしどうでもいいな」
「相変わらず極端な奴だなぁ……」
『それ』か『それ以外』。
そして『それ以外』に対してはとことん無関心。
それがベリーハードな世界を生きたイッセーでありリトであり、そんな理由でリトは極端なまでに友人は少なく、そんなリトに対して果敢に絡みに行く唯一の存在が中学時代からの腐れ縁である吐く猿山ケンイチと、そのケンイチに続く形でおずおずと話し掛けてくる西蓮寺春菜だ。
「それにしても、リトん家って今ララちゃんやらモモちゃんやらナナちゃんも居候してるんだろ? なんつー羨ましい状況なんだっての」
「ア? だったオメーん家にララと虫けらを住まわせてやれよ?」
「虫けらて……それってモモちゃんの事だよな? 前々から思ってたけどなんでそこまで毛嫌いすんだ?」
「一々人の神経逆撫でしてくる奴なんぞ虫けら以外の何者でもねーだろ」
「そ、そうなんだ……大変だね?」
席替えの際、席が近くなってからはそれまで遠巻きに見ていた春菜もケンイチのアシストが込みとはいえ話をするようになったのだが、そこまでに至る間にリトの周囲に女子が増えてしまっていたわけで。
(は、話せるようにはなれたけど、全然仲良くなれてる気がしない……)
春菜の悩みはまだまだ続きそうであった。
そんな西蓮寺春菜の気持ちなんて欠片も知らないリトは、例の如く何故か目をつけてきた古手川唯からの小言をガン無視しながらの学校生活を普通に続けているつもりなのだが、この学校は気付けば宇宙人が増えていて、その宇宙人も軒並み癖が強すぎる面子ばかりなのだ。
終わり
オマケ……子連れ同士の―――
イッセーの頃から父のように見守り、共に世界に抗う戦いをしてきた赤い龍ことドライグはこれまでもこれからもリトを見守るつもりだ。
そういう意味では遺伝学上ではヤミと深い関係のあるドジな女性の気持ちはよくわかる。
その女性は色々な意味で苦手にせよだ。
「…………」
「え、本当にドライグ君……?」
「………チッ」
そんなドライグは現在、メモルゼ星人であるルン&レンを参考に、ちょっとした出来心から成功してしまった分離実体化した状態で、ヤミの生みの親とも言える女性と何故か向かい合わされていた。
主に、リトとヤミの悪戯心によって。
「う、うわぁ、凄い。
本当に人と変わらない……」
「おい、ベタベタ触るな」
「あ、ご、ごめんなさい。
まさか本当にそういった事まで出来るとは思わなくて……」
思えばドライグはこのティアーユなる女性とは奇妙な縁があった。
それは同じ『親心』というものを持つ者同士のシンパシーのようなものなのかもしれない。
が、ティアーユはともかく、ドライグは彼女がとても苦手だった。
決して嫌いな訳ではないが苦手だった。
「あ、あの……改めてお礼を言わせてください。
あの子の事を……」
「別に善意でやった訳ではない。
単にイヴの素質が気に入っただけに過ぎん」
「それでもです。
色々と最初は誤解もしてしまいましたし……」
「アイツとお前の過去を考えれば仕方ないだろう。
だから気にする必要もないし、それ以上俺に近寄るなよ……」
「な、なんで……?」
「何故だと? お前はアホなのか? お前に近寄られる度に訳のわからん事故が起こるからだろうが!」
実体化し、多少年を重ねたイッセーにそっくりな容姿をしているドライグは、ナチュラルに距離を詰めてきたティアーユから逃げるように後退りをする。
そう、何故かドライグはこのティアーユと絡む度に別の意味で絡まるのだ。
「で、でもわざとではない――きゃっ!?」
「なっ!?」
物理的な意味で。
「ひゃっ!? ど、ドライグ君……そ、そんな……!」
「そんなもへったくれもあるかっ!? 離れろ! その無駄にでかい乳房のせいで呼吸ができんぞ!?」
「む、無駄って酷い!!」
そんなドライグとティアーユのよくわからないやり取りを物陰から見ているのがヤミとリトであり……。
「なんだろ、親同士の逢い引きでも見ちまった気まずさを感じる……」
「た、確かに。
し、しかし……どうしてティアとドライグはああもえっちぃことに……」
「ある意味で運命同士の相手だってりしてな……」
連れ子同士がそれぞれの親の逢い引き現場を見てしまった気まずさを感じるのだったとか。
「く、クソ! お前と居ると俺の威厳がなくなってしまうぞ……!」
「そ、そんなこと言われても……」
ある意味子供たちより青い春やってる大人……なのかもしれない。
補足
ストッパーが誰も居ないので色々と極端。
その2
そしてドジだけと大人な宇宙人とパパなドラゴンの方がTo loveるやっとるという。