全部混ぜたらむっちゃ最強のショタ少年が誕生する! ……筈だった!
だけどどこかの誰かさんは余計なものを混ぜてしまった! それは―――
ゼ ウ ス !
こうしてすくすくと成長したベルきゅんはなんと―――おっぱいドラゴンならぬおっぱい兎になったのだった!
誰よりも自由に、それで居て誰よりもつまらなそうに生きている人。
それが幼き頃に会った謎の青年を見たベル・クラネルの印象だった。
物心からついた時点で故郷の村に住んでいて、祖父達と何故か『対等』に話す不思議な青年を祖父達はこう呼ぶのだ。
『赤龍帝』
当時その意味を知らなかったベルだったけど、朝早くから夜遅くまで病的なまでなトレーニングをし続ける姿や、時折村に襲いかかる魔物を一撃で殴り飛ばすその強さを目の当たりにしてきたことで少しずつ理解し、そしてその記憶に刻み付けていく。
「『しつこい黒蜥蜴だな。
折角見逃してやったのにまだ俺に挑むつもりか? 理解できるかは知らんが、敢えて言うぞ? 無駄なんだよ無駄。
…………オメーなんか指一本で十分だ』」
これまた時折村に飛んで来る巨大な黒い竜を、大騒ぎする祖父や村の人達とは違って文字通り指一本で叩きのめしてみせるその強さを。
「乗り心地は――まあまあだな。おら、しっかり飛ばんかい黒蜥蜴。
おう、どうだ坊主? 少しは空を飛んでる気分に浸れるだろ?」
どこからどう見ても強そうな黒い竜をパシりのように扱い、その背中に乗って空の旅に連れていってくれた時の事を。
決して愛想が良いわけではないが、祖父達から絶大な信頼をされているのだけは子供ながらにわかっていたベルもまた、彼の存在は偉大なものへとかわり、やがてそれは憧れへと変わっていく。
彼のように強くなりたい。
そして彼のように誰よりも自由に生きてみたい。
更に言えば可愛い女の子と仲良くもなりたい。
そんな……ちょっとだけ邪混じりな憧れを抱いたベルは青年のような強さを持とうと青年の真似事のようにトレーニングを積んでいく。
やがて別れの言葉も交わさずに青年が去っていっても、何時かの再会を夢見てトレーニングを積み、14歳になった頃、ベルは祖父の遺言に記されていた情報を頼りにオラリオへとやって来た。
オラリオに彼が居る。
そしてオラリオには可愛い子ちゃんがめちゃんこ居る。
成長したことで祖父のようなオープンさを持つようになってしまっていたベルはワクワクドキドキの気持ちを抱きながらオラリオへと訪れ――そして祖父の遺言の通り可愛い子ちゃんや美人なお姉さんがたくさん居るオラリオにテンションが爆上がりしまくり、結果童顔巨乳な神の眷属へとなった。
そして……。
「イッセー! イッセーだよね!?」
「あ、おう…ベル――だよな?」
あの頃と変わらぬ青年との再会により、ベル・クラネルの英雄へと到達する道は幕を開けるのだった。
何かの冗談かと思ったら本当に知り合いだった。
ひょんな事からだらしのない顔で胸をガン見しながらナンパをしてきた子供を、半年程前に会った彼の言葉を思い出したかのように眷属にしたヘスティアは、ナンパ少年がオラリオへと来た理由のひとつである探し人が本当に彼だったことにただただ驚いてしまう。
「本当にベル君の知り合いだったんだ……」
「まあ、この子の住んでた村に暫く住んでた事があってね」
「あー、信じてなかったんですかカミサマ!? 酷いなぁもう」
「いやだって、僕が知ってるイッセー君って山奥で世捨て人同然に生きてるって聞いてたし……」
初の眷属にしてはかなりの癖があるベルが、ファンであるイッセーを連れて帰還した時は、一瞬気絶しかけたヘスティア。
けれど話を聞けば聞くほど本当にベルとイッセーは知り合いだったと知る事になり、ヘスティアはベルを眷属にしておいて良かったと内心思っていたり。
「イッセーもカミサマと知り合いだったんだね? 良いでしょカミサマ? 可愛いしおっぱいもドカーンだし!」
「わかったから本人に聞こえないように言えよ……。あのジジイじゃあるまいし」
「それなりに慣れてるよ。
最初の出会いが普通にナンパだったからね……」
知り合い枠ということで今度は更に自然とホームに招き入れられたヘスティアは、自分の胸を見ながらニタニタするベルの頭をパシンと叩くイッセーを前に内心テンションを上げまくる?
俗な考えかもしれないが、ベルと知り合いということかこの先はもっと高頻度でこうやって会える可能性が高くなったのだから。
「まあ、元気にやれそうならそれで良い」
「? どこに行くの?」
「どこって、帰るんだよ」
「へ? なんで?」
「俺の家はオラリオじゃないし、用も無いのに長居するつもりもないからな。お前ならこの先上手いことやれるだろう」
と、思いきやイッセーはベルの様子を一目見て満足したのか、外へと帰ろうと席を立とうとするではないか。
これには折角希望の未来を抱いていたヘスティアも慌てて止めようとするのだが、その前にベルが不思議そうに首を傾げる。
「え、ここに居れば良いのに。
カミサマの眷属って僕一人だし、寝るお部屋なら一杯あるよ?」
「!」
道行く女性という女性にナンパしまくってはヘスティアの手をあらゆる意味で煩わせるベルとは思えぬナイスな発言に、表面上は冷静さを保つヘスティアは、内心『ナイス発言だよベル君! 後でおこづかいをあげようじゃないか!』と褒め称えつつ、微妙な顔をしているイッセーに提案する。
「ベル君の話だと、イッセー君に会うつもりでオラリオまで来たみたいだし、何もずっととは言わないけど暫くベル君を見てあげたらどうだい? わざわざ移動するのも面倒だろうし、部屋なら余ってるよ?」
「そうそう、ギルドの受付のエイナさんにもイッセーと知り合だって事が嘘じゃないって会わせて証明したいし。
もし証明できたらおっぱい触らせてくれるって――ぐへへへ!」
「お前……ガキの頃のあの純粋さはどこに行ったんだ? というより俺は別にヘスティアの眷属でもなんでもないぞ」
「あ、それなら大丈夫。
イッセー君なら普通に入れるようにするから」
悲しい程に育ての祖父みたいになってしまっているベルに呆れてしまうものの、何故か『他人事』とは思えない気がしてならないイッセーだが、この先は確かにやることも無いし、暇をもて余してはいるので、暫くはヘスティアの提案に乗ってみることにした。
「よーし! そうと決まれば早速ギルドに行こうよイッセー!
エイナさんのおっぱいに会いに――いたっ!?」
「そこは嘘でもそのエイナって子に会いに行くと言えよなお前。
欲望丸出しか……まったく」
「ほ、ほほ、本当にイッセー君が僕のホームに……!
おほほっ!? お部屋はどこにしようかな? い、いっそ僕と同じに?!」
「あれ……? カミサマが突然バグってるけど、なにかしたの?」
「いやしてない」
エイナ・チュールはオラリオのギルドに勤めて5年目であり、最近は新人の冒険者のベル・クラネルの専属アドバイザーにもなっている真面目な受付嬢である。
そんなエイナは最近よく絡むようになった少年ことベルの口にするある名前がとてもではないけど信じられなかった。
それはギルドの職員達の間で『伝説』であり、あらゆる意味で原初の冒険者と呼ばれる存在と知り合いであり、探しているという荒唐無稽にも程がある話だからだ。
だからエイナな口約束とはいえ言ってしまったのだ。
『もしも本当に『彼』を連れてきて見せたら、ひとつだけなんでも言うことを聞いてあげる』
勿論連れてこられるわけがないと思っているからこその約束だったので、その言葉を発した瞬間、余計露骨に――しかも鼻息まで荒くしながら、エイナの胸にあれこれさせてくれと言ってきたベルに呆れながらも首を縦に振ってしまった。
だからこそエイナは驚かされてしまった。
「大分前にウラノスのジジイに渡されたカードなんだけど、これってまだ有効なの?」
ドヤ顔でやって来たベルが、茶髪の――見た目だけなら自分とそう年の変わらない青年を連れてきたばかりか、資料でしか見た事がない『ウラノスが直に渡したとされる世界にふたつとない原初の冒険者の証である古いギルドカード』を出してきた時は、気絶しかける程の衝撃だった。
「こ、このカードは!? ウ、ウラノス様の直筆のサインのあるギルドカードはまさに資料の通り!
ま、まさかアナタが――い、いえアナタ様が伝説の赤龍帝――もがっ!?」
「キミ等の間でそこそこ知られてるのは光栄なんだが、別に俺は伝説になったつもりなんて無いし畏まられる謂れもないぞ。
確かに大分昔にウラノスのジジイにそれを渡されはしたが、それだけの事だ」
口を塞がれ、畏まるなと言われてしまったエイナはコクコクと何度も頷くことで解放されるも、本物の赤龍帝を目の前に通常業務をこなすにはまだエイナは若かった。
「ちょ、ベル君!? ほ、本当に知り合いだったの?」
「ウチの神様にも同じ事を聞かれたけど、そんなに嘘ついてる顔なんですか僕は?」
「そ、そうは言わないけど、まさか本当に連れて来るなんて思わなかったのよ。
確かにこの方はごく稀にオラリオにやって来るという情報はあったけど、ギルドには近寄らなかったし……」
「なるほど。
けどこれでわかりましたよね? 僕が嘘を言ってないって?」
「え、ええ……まあ……」
「………………」
ドヤぁっとしたベルを前にエイナはギルド内部を見渡しながらボケーっとしている青年に恐る恐る訊ねる。
「あ、あのー……。
本当に本物のあのお方だとしたら、左腕にその証を纏うと聞いたのですが……」
「んあ?」
よくよく冷静に考えたら、こんなに若いわけがない気がしてきたエイナは、一応機嫌を損ねないような言い方でイッセーに他に証明できるものはないのかと聞いてみる。
するとボケーっとしていたイッセーが『左腕? ああ……』とだけ言うと、小声で言う。
「起きろよドライグ」
「っ!?」
その言葉を発した次の瞬間、イッセーの左腕全体に異質な力の波動を感じる鮮血のような赤い装甲が纏われる。
それはまさしく歴史資料に記されていた赤き龍帝の証であり、この瞬間エイナは目の前の青年が本物であり伝説であり、英雄であると確信する。
「あ、りがとうございましゅ……」
「噛んでるぞ」
「しゅ、しゅみましぇん……」
ベル君やべぇ……と思いつつ緊張して言葉を噛みまくるエイナにイッセーはちょっと笑っている。
「キミには少し悪いことをしたよ」
「へ?」
「だって約束してたんだろ? 俺を連れてきたら……みたいな」
「あー…………あっ!?」
急に気の毒そうなものでも見てくる顔をするイッセーに言われて思い出してしまうエイナは、ハッとしながらベルを見て――
「約束は約束だからねエイナさん? ひへへへへ! エイナさんのおっぱいゲッツ!!」
「…………………」
「まあ……女は大切にしろって教育はある程度されてるっぽいから鬼畜な事はされないとは思うよ」
悪ガキどころかスケベ親父丸出しなだらしない顔でニヤニヤするベルに、エイナは軽はずみな約束なんてするのではなかったと、ポンと同情するような顔で肩をイッセーに叩かれながら思うのだった。
「ふふふ、エイナさんのおっぱい♪」
「わかったから……。
あの子も可哀想に……」
『どうかな。小僧の前にイッセーに先に揉まれたいから待てとか言い出した時点であまり同情できない気がしたぞ』
「気が動転しててワケわからなくなってたんだろうよ……」
既にエイナの胸の事しか頭に無いベルと共に、イッセーにとっては久しぶりでは効かないレベルの久しぶりなるダンジョンへと入っていく。
一応ベル自身がどれだけやれるのかを見定めてやるつもりなので、適当に50階層まで降りてみる事に。
「ここまで降りてみたら今のお前でも手ごたえはあるだろ」
50階層の時点で一般冒険者達にはハードルの高い階層だったりするのだが、基準がまったくわかっていないイッセーは、既にナイフを片手に殺気立つ人型の魔物の群れ相手にやる気満々になっているベルの実力を見ようと壁に背を預け、腕を組ながら立つ。
「実はまだ5階層までしか降りた事ないんだけど、確かにここまて降りてみると魔物達も逃げずにヤル気満々って感じだ。
ふふふ……見ててよイッセー?」
凶悪な魔物達の殺意を前に不敵に笑うベルは、ナイフを手に徐々にその面構えを豹変させ――
「ヒーッヒヒヒ!!」
奇声を発しながら魔物の群へと突っ込んでいくのだった。
見慣れない子供と一緒にダンジョンへと入っていくイッセーを偶々見ていた者が一人居た。
その者はこれまで一度もダンジョンに入るのを見た事がないイッセーが見知らぬ子供と共に入っていくのを見てしまったからこそ、気になって仕方なくなって後をこっそり追い―――――お散歩感覚で呆気なく50階層まで降りていくのを追いかけた。
そして何故か現れた魔物を白髪の子供一人に倒させるという光景を見て―――絶句する。
「ヒャアッ!!!」
戦いと同時に荒れ狂う殺意を剥き出しに、イカれた目をしながらナイフ片手に魔物の群を蹂躙する子供。
「イヤッホー!!!」
圧倒的な速度で魔物達を翻弄する変な子供。
「ィィィリャア!!」
『ぎょへ!?』
「セリャアッ!!」
『ぎぇっ!?』
「ひひっ! シャラッ!!!」
『グベッ!?』
「弱いなぁ?」
『ごえっ………』
流れるようなアクロバットで縦横無尽に切り刻み、煽りまくる変すぎる子供と、そんな子供を黙ってみているイッセー。
結局現れる魔物達をたった一人で全滅させた子供は、血塗れとなったナイフを振りながら、先ほどまでの狂気が嘘のように無垢な笑顔となってイッセーに振り返る。
「どうイッセー? 少しは強くなったでしょ?」
「……………」
少しはというには余りにも悲惨な空間なのだが、本人は腕を組んで見ていたイッセーに褒めて貰いたいが為にぴょんぴょんと落ち着きがないように跳ねていると、まだ生きていた魔物のひとつが油断していた少年を背後から襲いかかろうとする。
それを見た瞬間、こっそり尾行していた者―――というかアイズは条件反射的に助けようとしたのだが……。
「50点減点」
「う……」
手を前へと翳したイッセーが放つ赤い光弾がベルの背後にいた魔物を一撃で消し飛ばした。
その動作があまりにも作業的であり、そしてこの階層の魔物ではイッセーの敵にすらなれないということが嫌でもわかってさまう程に呆気なくて……。
「そのスタイル、悪くはないが隙と油断が多すぎる。
完全に息の根を止めるまでは油断しないようにしろ」
「……うん」
「が、あれから一人てここまでやれるようになったのは凄いことだ。なぁドライグ?」
『ああ、一応及第点はくれてやれるな』
「ホント!?」
「あの子、イッセーと……そしてドライグに褒めて貰えてる」
少年のその強さ。
そしてその強さを認められてる少年に尾行者……というかアイズはきっと生まれて初めて嫉妬した。
そう……ベルに。
「久しぶりにイッセーのドラゴン波が見たいなぁ。
実は僕もちょっとだけ出せるようになったんだけど、まだ威力が弱くて……」
「ここでは無理だ。
ダンジョンとやらの強度がどれくらいによっては二度と入れなくなっちまう」
『少なくともビッグバンクラスは無理だろ。
下手すればダンジョンどころか星ごと消滅させかねん』
「スケールが違いすぎる……」
「今となっては無意味になってしまったけどな………」
イッセーとドライグに直接指導されている謎の少年が羨ましい。
アイズはひたすらにジーっと穴でも空くのではなかろうかという強い視線でベルを見据えていた。
「!? そういえばさイッセー? ギルドからずっと着いてきてるあのパツキンのナイスな女の子とは知り合いなの? 敢えて気付かないフリをしろって言うから声を掛けるのを我慢してるけど……。
出きることならお近づきになりたいんだけどなぁ……」
「節操なしかお前は……。
一応顔見知りだが、どっちかと言えばドライグの方が仲は良いぞ。なぁ?」
『良くはない。
単に絡んでくる小娘だ』
「えー? なんでそんなドライなのさ二人して? 僕ならそのまま煌びやかな宿までデートを申し込むのに……」
「………………」
当たり前のように気付かれていてもじーっと。
結局アイズを完全にスルーしつつ地上へと戻ったイッセーとベル。
「い、一気に50階層まで降りたのですか!?」
「?? え、なにかマズイのか?」
「あ、い、いえ、アナタ様の場合は概ね問題ありませんが、ベル君はここ最近まで5階層まで降りた事がないので……」
「危険だからってエイナさんに言われてたんだよ。
確かに50階層の魔物はちょっと強かったし」
「ちょ、ちょっと?」
散歩感覚で降りたと言われて仰天するエイナだったが、ベルまでもが無傷で戻ってきているばかりかちょっと魔物が強かったとコメントするものだから余計に驚いてしまう。
「それよりエイナさん、デートの日取りを決めましょうよ?」
「へ? そ、そうね……」
「…………」
しかしベルにとってはエイナとの約束であるデートの方が重要な為、半分圧される形でデートの日を決める話し合いになってしまう。
そんな二人の様子をイッセーはぬぼーっと……どことなく理解できなさそうな目で見つめるのだった。
そして尾行をし続けたアイズはといえば、悔しい気持ちを胸にイッセー達に絡む事はせず自身のホームに戻ると、嘘みたいな必死さで剣を振りまくるという奇行に走る。
「……………」
「ちょお………どうしたんアイズ? 何時もと様子がちゃうやん」
「帰ってくるなりいきなり剣を振り始めて……」
こっそり他の受付から聞けば、あのベルとか呼ばれていた少年はここ最近ギルドに登録された新人冒険者であり、レベルも1という。
だがアイズの目測では少なくとも今の自分に匹敵する程の強さを持つように見えたし、何よりレベルという概念は宛にすらならないのは自分自身がよく知っていた。
それに加えてどれ程の頻度かはまだ不明だが、少なくともイッセーとドライグに直接指導されている立場なのは間違いない。
故にアイズはまだ無名も無名なベルに対して熱烈なライバル心を抱いたのだ。
「あのベルという子には負けない……!」
「はぁ? 誰やねんそれ?」
「イッセーとドライグと一緒にお散歩感覚で50階層に潜ってた。
多分、あの様子だともっと下の階層まで余裕で潜れる」
「へー、イッセーとドライグにー……………――な、なんやてー!?!!?」
最初はアイズの奇行を心配して声を掛けてきたロキも、その二つの名前を聞いた瞬間顔色を変えた。
「ちょお待ってアイズ! そのジングルベルだか鈴だかって名前の子とイッセー君がダンジョンに入ったのを見たんか!? たった一度きりしか――しかも大昔に入っただけのイッセー君がか?」
「うん」
「う、嘘やろ……。
ま、まさかどこかの雌に横取りされたわけじゃ……」
「そのベルって子はヘスティア・ファミリアに所属しているって聞いた――」
「総員抗争の準備じゃぁぁぁっ!! あのおとぼけヘスティアを殲滅するぅぅぅっ!!!!」
『…………』
遂にやりやがったあのボケとばかりに、ベルなる人物があのヘスティアの眷属だと聞いた途端、マジの抗争指示を出し始めた自分達の主神に、眷属達は誰一人頷くこともせず、寧ろアホでも見るような顔だった。
「落ち着きなよロキ。
そのベルって人物がヘスティア・ファミリアなだけで、彼がそうだとは決まってない」
「アイズ的にはどう見えたんだ?」
「多分イッセーとドライグは違う。
ただ、ベルって子と知り合いって感じ」
「ほら」
「ぐっ、せ、せやけどそのベルってのと知り合いなら、その流れでヘスティアのボケが得をする可能性は大いにありうるやろ!?」
ギャーギャー煩い主があーでもないこーでもないと駄々をこねる。
確かにあのイッセーが特定の神の眷属になれば、どれ程の弱小ファミリアだろうと戦力だけでいえばオラリオの頂点に君臨できる――という意味では確かに脅威ではある。
しかしあのイッセーが。
フラりと現れては飯だけ食っていつの間にか居なくなるだけの、どの神々からの勧誘も鼻で笑って突っぱね続けているあのイッセーがそんな簡単に眷属になるかと考えたら首を傾げざるをえない。
「そんなに心配なら直接会って聞けばいいだろ。
話が本当ならもしかしたら暫くオラリオから出ないかもしれねーだろ」
「えっ!?」
そんなロキを見かねた眷属の一人がなん抜きなしにそう提案すると、ピタリとロキの動きが止まる。
そして何故か突然照れるようにもじもじとし始めた。
「そ、そんなん……心の準備もせんと会うなんて恥ずかしいやん」
『……………………』
照れ照れとする主に生温い視線が四方八方から突き刺さる。
「現れる度にオレ等使って包囲網敷こうとする奴が何を言ってんだ?」
「あ、アレはテンションに任せられてるからやれるだけやもん!」
「だもんて……」
急にヘタレになるロキに慣れているとはいえ凄まじく複雑な気分にさせられる眷属達。
「そ、それに服とかちゃんと選ばんとアカンし……」
「何着ても向こうは無反応の極みだろ……」
「哀しいまでにね……」
「い、言うなや!? わかっとるわ!!」
ロキ・ファミリアは今日も平和だった。
「っしぃ!!」
「は? ど、どうかされましたか?」
「へ? あ、いえ……ふふ、少し良い方向に向かったのでついね……」
「良い方向……? まさか例の赤龍帝絡みのことではありませんよね?」
「それ以外に私が興味を持つものなんてあると思う?」
「……………………………」
「そろそろこのお部屋の壁に張り付けてある彼のポスターだの、フィギアじゃあ満足できないのよ……ふふふ」
(取り繕ってるけど、もし本人が見たらドン引きどころじゃないだろこの部屋……)
壁全面に茶髪の青年がドラゴン波撃とうとしている写真を拡大させたポスターだの、彼を模して作成されたフィギアだの、ベッドにはデフォルメされたぬいぐるみだのだの……誰が見てもドン引きする部屋にてニタニタと笑っている美の女神とそれに引いてる眷属達も多分きっと平和だった。
「おかえりー! ……って、ベル君は?」
「ギルドの受付の子とデートだかなんだかの話してるから先に戻ってきた」
「あぁ……ホント元気だねあの子」
「ああ、それは俺も思う」
終わり。
ハーレム王を目指すベル君のハーレム道は幕を開けたばかりだ。
「良いね、お姉さん……いやアイズさん!」
「ぐっ……本当に強い……!」
その為の強さへの研鑽も怠らない。
「ナイフを武器に戦うだけだと思ったら、大間違いですよ?」
「っ!?」
全ては女の子にモテモテになる為……そして遥か彼方に君臨し続ける男の領域へと到達する為。
「ちょ、待った!」
「な、なにを……!?」
「キミ! 名前はなんだい?」
「り、リリルカですけど……」
「良い名前だ……。そして僕にはわかる! キミは――――――ナイスおっぱい!!」
「んがっ!? せ、セクハラですっ!!」
「セクハラではない! これぞ僕のスキル! その名もおっぱいスカウター!」
爆進していくのである。
「ま、待つんだベル君! ほ、本当に一人でソーマ・ファミリアを潰しに行くつもりかい!? 無茶が過ぎる!」
「手ぇ離してくださいよ神様。
僕はもう誰の命令も聞きません」
「ベル君……キミは……」
「神々の不文律なんてどうでも良い。
これ以上リリを――トモダチを苦しませるというのなら、神であろうが殺しますよ僕は……!」
「本当に殺るつもりなんだね、たった一人で……」
「……………」
「はぁ……そういう所、あの時のイッセー君にそっくりだよ。
僕は直接見ることはできなかったけど、今のベル君はあの時のイッセー君と同じ目をしてるよ……」
「……………」
「そうか、それがベル君なりの信念だというのならもう止めない。
まったく、女の子一人の為に狂うなんて―――狂犬ならぬ狂兎だよキミは」
「本当の意味で檻から飛び出した、か……。帰る場所、ちゃんと守らないとね僕も」
「な、なんだ貴様……!?」
「リリルカ・アーデのトモダチで、お節介な鉄砲玉だぁぁぁっ!!!」
異世界の英雄とは違う――されど似ている道を。
「よーっし! このゲームに勝ったらリリとエイナさんは裸エプロンで僕にご奉仕をするんだぞ!? 絶対に!!」
「助けに来た時はかっこよかったのに……」
「まあ、ベル君だし……」
「うははは! ―――ぬっ!? そこのお姉さん! 僕と今から忘れられない一夜を――あいただだだ!?」
「「ふんっ!」」
「おい、ベルの奴、マジで将来背中とか刺されやしないか心配なんだが……」
「や、それを言ったらイッセー君の方があらゆる意味で酷いし、まだ平気だと思う」
ベル・クラネル New skill
【スタイル・スイッチ】
状況に応じて四つのバトルスタイルに切り替えるスキル。
切り替わったバトルスタイルに応じて上昇するスタイルも変わる。
スタイル.1【拳打】
基本ベースとなるスタイル。
このスタイルでは俊敏・力・耐性のステイタスが上昇する。
その2.【武装】
落ちてる物をなんでもかんでも武器にして戦うスタイル。
このスタイルでは器用・魔力ステイタスが上昇する。
その3.【蹴刀】
足技を主体としたスタイル。
力・俊敏のステイタスが上昇
伝説・【狂兎】
全ステイタスが急上昇。
終わり
補足
多分、実に原作イッセーに近いモテ方をするベルきゅん。
というか既にエイナさん辺りは……うん。
その2
一目惚れはされないけど、変わりに別の意味でベルきゅんを意識しまくるアイズちゃま。
その3
このままだとまず普通にナンパされる確率が高すぎるリリルカちゃま。
というか、仲良くなって内情まで知られたら暴走兎化すること間違いなし。
それこそ、一人で堂島組の事務所を壊滅させた狂犬が如く……。