実は内心もろに束さん化しまくっている彼の周りへの認識
相も変わらず肝心なところでヘタレとなる二人だが、普段の仲自体は至って良好だし、男子経験が薄い女子生徒達からしたらブラックなコーヒーでも一気飲みしたくなるくらいだ。
軽薄そうな言動や態度とは裏腹に、授業自体は生真面目に受けるし、刀奈を含めた女子に対して粗相を働くこともしない。
それはかつての世界で転生者に群がる女性陣のイカれっぷりをみてしまったせいで無自覚ながら女性への対応に潔癖さが出てしまっているからなのもあるし、そんな光景を目の当たりにして軽いトラウマになってしまっているせいか、軽薄さと軽さは差程変わらないが、本来の道筋から蹴落とされた兵藤イッセーはハーレム王の願望が皆無どころか嫌悪感すら抱いてしまっている。
それ故に、知識でのみ兵藤一誠を知っていた神崎マコトは自分が出会った兵藤イッセーの考え方に驚かされたのだ。
「シャルル・デュノアさんって実は普通に女子だったりするんです……」
「それはえらいまた唐突だな……」
それはそれとして、男で三番目にISを起動したサード起動者としてそれなりに、学生を楽しんでいるイッセーは、先日の白龍皇の襲撃に敗北以降、更なる壁を乗り越える為のトレーニングを隠れながらも行うようになり、かつての頃ではあり得なかった、転生者からの協力すら受けていた。
「あの金髪の子だろ? なんでまた男だなんて偽ってるんだ?」
「実家からの命令……だとは思います。
記憶通りだったらですけど」
「へぇ、なんとなくだけど複雑な事情でもありそうだな。
キミと織斑君と同室なんだろ?」
「ええ、今のところ一夏にはバレてはいませんが、それも時間の問題だと」
「………? キミは織斑くんにバレて欲しいのか? 言い方がそう聞こえるけど」
「まあ……。でも先輩が言っていた通り、オレたちの存在でその通りの未来にならない可能性もあるってちゃんと思ってはいます。
現に白龍皇の事もありましたからね」
それはひとえにこの転生者……つまり神崎マコトの人格と精神があまりにも『まとも』であったからに他ならなず、転生者として持つ力はイッセーにとっても壁を乗り越える為の良い刺激となっていた。
「でも可能ならその通りにしたいんです。
一夏に正体がバレても、一夏の言葉で彼女は救われますから……」
「……。でもそれって、キミや俺が存在しない織斑君の場合だろ? ……大丈夫か?」
「さ、流石に大丈夫だとは思いたいです……」
秘密の特訓後はこうやって反省会という名のただの雑談をするイッセーとマコトは、つい最近転校してきた男子生徒――ではなく男子に変装して転校してきた女子について話し合う。
未来は不確定であることがこの前の白龍皇の襲撃で確定した今、果たしてマコトの言う通り男装がバレたシャルル・デュノアに対して一夏が救いの言葉を送ってくれるかどうかは果てしなく微妙なラインだとイッセーは、何度かの会話の中身的に思う。
そして案の定、こんな話をしていればマコトの携帯に着信が入り……。
「………一夏から連絡がありました」
「なんて?」
「ちょっとマズイ事を知ってしまったから、マコトにも話さないといけない、だから部屋に戻ってきてくれ――と、妙に喜んだ感じの声色で……」
「流石に俺がどうこう出きる話じゃないなそれは……」
「わかっています。なんとかやってみますよ……」
妙にテンションが高い一夏に部屋に戻って欲しいという連絡を受けたマコトは、ハイライトが消えたどんよりとした目をしながらイッセーに別れを告げて部屋へと戻る。
「世の中も人生も儘ならないってか」
『難儀な小僧だな……』
織斑一夏のテンションは最高潮だった。
例えるなら幼馴染みで一番の親友であるマコトがISを動かせて同じ学校に入学できるのを確定させた時ぐらいテンションが上がっていた。
「シャルルが女子だったんだよ。
複雑な事情があって、男装しなくてはいけなかったらしいんだ!」
「そ、そう……なんだ?」
「…………」
寮部屋もマコトと同じで、寝る時も起きる時も常に一緒というこの環境はまさに一夏にとっての天国であり、その天国空間を壊す者は誰であろうと許さない。
という事を至極真面目に考えていたが故に、最近転校しきたシャルル・デュノアが同室になった時は、仕方ない事とはいえ不満があった。
一夏としてはシャルルが二年の男子であるイッセーと同室になればそれで解決だと思っていたのだけど、何やら元からイッセーと同室の二年の女子が余計な事を言ったせいで、マコトと離れ離れになるという最悪の展開こそ回避したものの、シャルルとも同室になってしまったのは、何度も言うが『仕方のない事』とはいえ不満だった。
しかしその不満もシャルルが男装をしていただけで普通に女子であった事が発覚した時点で全て消し飛んだ。
(くくく……! マコト専用のシャンプーとボディソープは使わないで欲しいと説明する為に浴室にいたシャルルの所に言って正解だった……!)
(せ、先輩の言う通りだったのかもしれない。
なんでよ一夏……)
(深刻そうな顔なのに、口許がニヤけてる……)
実に残念だが、シャルルが女子である以上、速やかに部屋を変えて貰う必要がある。
非常に、切実に残念だが、それが一般的な常識である以上は従わなければならないのだ……と、深刻な顔と見せかけて口辺りがニヤけまくっている一夏に、マコトは軽く絶望し、シャルルもシャルルで別の意味で絶望する。
「俺の勝手な持論としてはだなシャルル。
親の命令だからって性別を偽ってスパイ紛いな真似を強要する親なんて親じゃないと思うべきだし、この学園に在籍している間は各国の政府からの圧力や干渉もされない。
つまり、卒業するまでに親と争えるだけの材料と力を身に付けられるという訳だ。
特記事項第21にそう記載されてるしな」
「は、はあ……よく覚えられたね? 特記事項って55もあるのに……」
「使えるモノはなんでも使う主義なんだよ俺は。(マコトとの将来の為に)」
「………」
とはいえ、一夏の意見は確かに今の生活から抜け出せる良い方法ではあるのは事実だったので、シャルルはちょっとだけ安心感と妙な頼もしさを一夏に抱く。
そんなシャルルを横から伺っていたマコトは、どこか違和感こそ覚えるが概ね大丈夫なのかもしれないと密かにホッとしようとしたのだが……。
「だから先生に今すぐにでも事情を説明し、女子生徒として転校し直すべきだな。
そして部屋も女子と同じ部屋に移動した方が良い。うん、間違いない。よし、今すぐ千冬姉の所に行こうじゃないかシャルル? 俺も横から説明するぞ? なっ?」
「……………」
「ね、ねぇ一夏? ちょっと色々と早いんじゃないか? デュノア君――じゃなくてデュノアさんだって色々話して疲れてるだろうし……」
「だけどシャルルだってこれ以上男と同室になるのは辛いだろ?
男女七歳にして席を同じうせずという言葉がある通り――
『おい一夏! 居るんだろう!? 少し話が―――
『その前に私とお話を―――
『先にアタシと―――
「じゃあかしぃわ箒にセシリアに鈴!!! 今忙しいから明日にしろ!! じゃないと絶交だッッ!!!」
『『『』』』
「」
「い、今の声って篠ノ之さんとオルコットさんと二組の凰さんだよね? だ、大丈夫なの? というか一夏の目が血走ってて怖い……」
タイミング悪く部屋の扉をノックして来た三人娘に対して大声を出して蹴散らす一夏に、マコトはドン引きしてしまい、シャルルも目がイッた狂犬のような形相を初めて見たせいか若干怯えてしまう。
「チッ、確かにマコトの言う通り、焦る必要はないか。
悪かったなシャルル」
「う、うん。
でも僕の本当の名前はシャルロットなんだ。だからシャルって呼んで貰えたら良いなぁみたいな……」
「機会があったらそう呼ぶよ。
そして話は変わるというか、マコトに聞きたいんだけどさ……」
「え、な、なに……」
「………………また兵藤先輩の所に行っただろ?」
「え゛? だ、ダメなの? 一夏の訓練の邪魔になると思うから独自でやろうと思って……」
「別にダメとは思わないけど、どうもあの先輩のマコトを見る目が変態チックというか――」
「そんな訳あるかっ!! あの人のことをなんだと思っているんだ!!」
「け、けどさぁ……マコトは可愛いし……。
あの先輩に変な所を触られたりとか――」
「オレは男だっ!!」
絶望的に周囲への関心が薄くなってしまっている一夏。
とことん皮肉な事に、あの篠ノ之束に酷似してしまっている訳で……。
「なんか腑に落ちない気分……」
こうしてシャルル・デュノアはついでというよりは一夏に利用された形とはいえ一応救われたのだった。
そしてその夜。
「アナタがくれた情報通り、シャルルは女子でしたよ――束さん?」
消灯時間もとっくに過ぎた深夜、一人部屋を抜け出して外へと出た一夏は揺れる海面を眺めながら、実は密かに連絡をし合っていた者と電話をしていた。
『そっか、いっくんのお役に立てて束さんも嬉しいぜっ☆』
一夏が姉である千冬や友人――そしてマコトにすら話していない密かな繋がり。
それはISの開発者であり、箒の姉である篠ノ之束との個人的な繋がりであり、ISを起動してしまった時―――いや、それ以前からの付き合いがあった。
『できたらその情熱を箒ちゃんにも少しで良いから向けてくれたらお姉さん的には嬉しいんだけどなー?』
「箒は友人ですよ。
束さんだってわかっているでしょう? 俺にとってはそれ以上でもそれ以下でもない」
『そっかぁ……。まあ、束さんにとってのちーちゃんみたいなものだし、気持ちがわかっちゃうからなー まこっちゃんの事は』
妹に対する一夏の感情に少し残念そうな声色になる束だが、気持ちがわかっているだけにこれ以上は押せない。
「俺にとって大切なのはマコトなんです。
アイツはどんな時でも俺の味方だった。
どんな時だって一緒だった……」
『………』
「理解されない事でしょうけど、俺はマコトと一緒ならこの世界がぶっ壊れてしまおうがどうでも良いんです」
『なんでちーちゃんじゃなくて
「ははは、でも友達も大切だとはちゃんと思っていますよ? ただマコトと比べたら比べるまでもないというだけの事です。
だから箒たちも『大切なトモダチ』です」
『それ、本人に言っちゃダメな台詞だから言わないでよ?』
あまりにも自分に近い考え方である親友の弟に束は実に複雑そうな声だ。
(でもそんないっくんだから気に入ってるってのもあるんだけどねー……)
しかしだからこそ一夏に密かな――それでいて全面的な協力をしようと思えるのだと束は一夏との通話の最中密かに思う。
『ところで、例の赤いのと白いのについてなんだけど……』
「なにかわかりましたか?」
『ごめん、あれからどちらも衛星だなんだ使って探してるんだけど、影も形もないんだ。
ハッキリ言えることは、あの二つのナニかはISじゃなくて別の何かだって事だけ』
「……………」
『気を付けよいっくん? 私が見てもあの二つのナニかは怪物だよ。
腹は立つけどね』
「わかっています。
もしまた出会したとしても、勝てる確信が持てるまでは下手な刺激はしないですよ。
………奴らが俺のテリトリーを奪わなければですがね」
『その時は全力で手伝うよ。
私も引っ掻き回すのは好きだけど、引きっかき回されるのは気にくわないからね』
「はは、やっぱり頼もしいっすよ束さんは」
『ふふん、束さんは天才だからねっ☆』
束自身も危険と判断する二つの謎の存在への備えを互いに約束し、密かなる会話はそろそろ終わりを迎えようとする。
『いっくんは明日も早いだろうし、そろそろ切るよ?』
「ええ。
あぁ、最後にひとつ言って良いですか?」
『? なぁに?』
「俺にとって不動の最上位はマコトです」
『……そんなの知ってるけど?』
「その最上位よりかなり下ですけど、その次――最近は千冬姉よりちょっとだけ上に束さんかなって俺は思ってます」
『………は?』
切ろうとした時に突然言われた束は電話の向こうで一瞬固まってしまい、電話を落としかける。
『……なにそれ?』
「初めて束さんを見た時は色々と面倒そうな人だと思ってましたが、こうして話してみるとマコトの次に話しやすいんですよ。
それに、なんだかんだ優しいですしね」
『だって協力しろっていっくんが言ったからだし……』
「普段の束さんだったら、まずしないでしょう? まあ、何が言いたいのかと言うと、危なくなったら貴女の事は全力で助けますよ。
………その為に強くもなりますから」
『…………』
そう言ってから電話を切った一夏は、暫く潮風に当たり、決意を固めるように自分の頬を叩く。
「マコトは隠しているつもりなんだろうけど、俺は知ってるんだからな? だから待っててくれ。
きっと俺と束さんもマコトと同じ場所にたどり着いてみせるから……」
どんな手を使ってでもたどり着かんとする漆黒の意思の炎を瞳に宿す織斑一夏の決意の言葉はさざ波と共に溶けていくのだった。
「はは、けど束さんって話してみるとホントに話が合うんだよなぁ。
なんでもっと早く気づかなかったんだろ?」
そして――
「…………なんだよそれ。
私を利用するだけじゃなかったわけ?」
不意打ちをくらった天才は……。
「やっば……。
困った……本気で困った……。
どうしよう……」
移動式のラボの机に突っ伏しながら堅牢な壁を破壊され、そしてつつかれた胸の内に宿った気持ちに戸惑うのだった。
終わり
補足
束さんとの違いは外面を繕えるところです……マコト関連だとボロ出まくりですけど。
そして異常に向上心が強いです。
その2
ついで感覚で一応現状打破はできたシャルさんは泣いても良いと思う。
その3
腰据えて話してみたらべらぼうに気が合ったせいで、実は相当繋がってる束さんと一夏。
しかも一夏的に大切度は友人認識されてる方よりもかなり上であり、千冬さんよりちょっと上の模様。
不動の最上位はマコトなんですがね……。