色々なIF集   作:超人類DX

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です。




その後の閑話休題

 

 

 

 世界を越えた先の世界で邂逅した白龍皇に敗けた赤龍帝は、何れまた始まるだろう戦いのリベンジを果たす為、自分自身の中の壁を再び乗り越え続ける覚悟をする。

 

 とはいえ、この世界はあくまで人間のみが存在し、悪魔だの天使だの堕天使だのその他が蔓延る世界ではない。

 つまり鍛練をする相手がかなり限定されるのだが、イッセーはまず原点へと立ち返る事にした。

 

 原点――つまり暑苦しいまでの負荷トレーニングを。

 

 

 

 

 

 

 IS学園は孤島に学校を構えているので、基本的な設備はある程度整っている。

 その中には生徒達の体力向上や運動部の為のトレーニングジム等も当然ある。

 

 そんな学園のトレーニングジムは現在そこそこの女子生徒達によって騒然となっている。

 

 

「聞いても良いかしら?」

 

「ふっ! シッ!! ……打ちながらで良いなら良いけど、どうした?」

 

「兵藤君って、ボクシングの経験者なの?」

 

「フンッ!! ……いや、全くの素人だけどなんでだ?」

 

「いえ……私も素人なんだけど、なんとなく兵藤君の動きが素人には見えないものでね……」

 

「皮だけ真似てるだけだよ。

それにこれはただ汗を流す為にやってることだから……よっ!!」

 

 

 トレーニングジムに吊るしてあるサンドバッグを超高速のハンドスピードで叩きまくるイッセーは、同じクラスでジャーナリストを目指す女子生徒こと黛薫子からの取材を受けながら、吊るしたサンドバッグがひしゃげる一撃を叩き込んでフィニッシュを決めると、ふーと滝のように流れた汗を拭う。

 

 

「ちっちゃい頃から一日に8リットルの汗をかくって決めてるからな」

 

「あ、そう……」

 

 

 黒いランニングシャツを着ているイッセーが、無駄に爽やかな笑みを浮かべるが、腕から肩にかけて見える戦地帰りの兵士を思わせる様々な傷跡のインパクトが強く、一体どこであんな傷をと薫子は無駄に爽やかにグローブをはずしているイッセーを見つめつつ、いつの間にか集まっていた他クラスや他学年の女子の反応を耳にする。

 

 

「あれ、どうしたのかしら……。

織斑君や神崎君のインパクトが大きくてあまり印象が残っていなかった兵藤君がちょっと良いかもって思ってしまうわ……」

 

「私も、なんだろ……二人にはない暑苦しさってやつのせい?」

 

「よく見たら身体もスゴい絞り込まれててガッチリしてるし……」

 

 

 普段はほぼ影が薄いというか、一年の男子達の方があらゆる面で目立っているせいか、イッセーは基本的に侮られがちな立ち位置であるのは、薫子もなんとなく察している。

 それがあの二人には無いワイルドな面を見たせいか、微妙だった印象を変え始めているようだが、恐らく本人には自覚もなければ言われた所で反応は鈍いだろう。

 

 

「はーいお疲れさまイッセー君」

 

「おー、サンキューな」

 

(まーた、イチャイチャしちゃってこの二人は……)

 

 

 このイッセーという男、付き合いこそ短いが明らかに今ここぞとばかりに黄色い声と視線を寄越す他の生徒達に見せつけるかのように声をかけつつタオルを渡す楯無以外への眼中がゼロなのだ。

 

 

「始まる前に終わらせる、ね。

たっちゃんもそこそこ人が悪いわ」

 

「はて? 何の事かしら?」

 

 

 まあ、一年の織斑一夏のように、女子への好意にまるで気付かずに、結果その好意のある女子達の関係性を拗れさせまくるよりはマシなのかもしれないが……と、ニコニコしながらすっとぼける友人にはぁとため息を吐きながらネタ帳にペンを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 自分達が存在している時点で記憶にある未来はあって無いようなものだと、白龍皇の出現によって思い知ったマコトは密かに決めた。

 

 

(ずっと使わないと決めていた力を使う時がきたのかもしれない。

でもオレは所詮ただの力を持つだけの一般人。

相手を殺したこともないし、経験も少ない)

 

 

 自分とイッセー――そして恐らくはヴァーリ・ルシファーというイレギュラーが存在する以上、知識通りの未来が訪れてもどこかが違う可能性は今後もありえる。

 そうなれば一夏達だけでは対応ができなくなる。

 

 ならばその時は自分が一夏達を守らなければならない――一夏達が迎えるだろう未来の為に。

 

 そう考えたマコトはずっと封じてきた己の力を再び解放する決意を固めつつ、更にその先へと進む為にはイッセーに協力して貰う必要があると考えた。

 

 当然一夏達には力の事をバレる訳にはいかない。

 なぜなら自分が与えられたこの力は人の力ではないのだから。

 

 

「キミには心底驚かされるな……」

 

「え、なんでですか?」

 

「いやだって、そういう力を持つ奴に俺は排除されてしまったからな。

キミのように守ろうと考える奴が本当に居たのかと……」

 

「一夏は友達ですから……」

 

「……キミのような奴だったら俺は普通に生きていたのかもな」

 

 

 どこか遠い目をするイッセー。

 

 

「オーケーわかった。

正直俺もあの白龍皇にリベンジをする為には更に壁を越えなきゃならないし、トレーニング相手が増えるのは悪いことではないからな」

 

「ありがとうございます……!」

 

「それじゃあまずは軽く……って、キミ喧嘩の経験とかあるの?」

 

「人を相手に本気で戦った事はありませんが、ある程度は……」

 

「なるほどね……。

まぁとにかく今はキミが今どれ程なのか見てみたいし――来な?」

 

「………はい!」

 

 

 こうして神崎マコトは与えられた――否押し付けられた己の力と初めて向き合うようになっていく。

 

 

「先輩の言う神器とは違いますが、オレにも神器があるんです……」

 

「は?」

 

「今からそれを見せます……! 一ツ星神器―――(クロガネ)!!」

 

「!?」

 

『小僧の腕が大砲のようなものに変化した?』

 

 

 10の神器を宿し、そしてその神器の力とは違う『変える力』を。

 

 

 

「二ツ星神器・威風堂々(フード)!!」

 

「ぬ!?」

 

『こちらの攻撃を防ぐ――あれは腕か?』

 

「三ツ星神器・快刀乱麻(ランマ)!!」

 

「あぶなっ!?」

 

『今度は腕を巨大な刀剣に……』

 

 

 

 こうして神崎マコトは力を受け入れた上で先へと到達しようとする道を歩み始めていく。

 

 

 

「先輩は神器の他になにか別のものを持っているのでしょう? ……オレにも似たようなものがあります。

敢えて言うなら――理想を現実に変える力です」

 

「は!? そ、そんなの反則だろ!」

 

「生物には効力を発揮しませんが、それでも確かにオレでも反則だと思ってますよ……」

 

 

 

 神崎マコト

 

 理想を現実に変える能力(生物には無効)

 十ツ星神器保持者。

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ地に叩き落とされても、必ず這い戻り、そして勝つ。

 

 かつての師達に教えられ、今もその精神を心に宿す半人半魔の少年は、かつての世界では出会うこと叶わなかった宿敵と邂逅を果たし、そしてその宿敵を宿す者が己と同等の進化をしていたことに歓喜した。

 

 そして同時にもっと早く出会えていたらとも思った。

 

 

「今度その赤龍帝とやらと戦う時は必ず私も連れていくこと! 良いな!」

 

「わかったわかった。

それよりラーメンの出前をとって欲しいのだが……」

 

 

 しかし悔やんだ所で過去は変わらない。

 だからこそハーフ悪魔のヴァーリは必ず這い戻る為に今を生きるのだ。

 偶然出会った『過去が無い少女』とともに。

 

 

「言われなくても次は必ずお前を連れていく。

あの場所にはお前にとってもそこそこ因縁のある者が居ると聞いているからな」

 

「因縁? ……ああ、あの二人のことならもうどうでも良い」

 

「は? 散々あの二人というか……えーと、誰だったか?」

 

「織斑一夏と織斑千冬」

 

「そうそう、特に男の方に凄まじい憎しみを持っていたじゃないか」

 

「憎んで殺した所で何が変わる訳ではないし、今はお前と今を生きている方が楽しいんだ」

 

 

 とある組織に生活費目的でバイト加入中の二人は、その組織から宛がわれたマンションで、仕事以外は悠々自適生活を送っている。

 その組織は二年程前にとある赤龍帝のせいで大幅に規模を縮小し、当時のトップ達も軒並み野良犬の餌になってしまっているので、適当にやっているヴァーリとマドカ的には実にやりやすい職場だったりする。

 

 

「その二人よりも、私はヴァーリの師匠の人達に会ってみたい」

 

「コカビエルとアザゼルとガブリエルのことか?」

 

「そう。特にガブリエルという天使には色々の聞きたいんだ」

 

「? 何を?」

 

「戦闘大好きな鈍い男をどうやって振り向かせたのかとかだな」

 

 

 ブリュンヒルデと呼ばれた織斑千冬に酷似した少女の過去は空っぽだった。

 その空っぽを満たすのは果てしない憎悪だった。

 

 

「? そんな相手でもみつけたのか?」

 

「…………」

 

「は? 何故無言で枕を投げてくる?」

 

 

 だが、白き光翼を背に広げた龍の皇との出会いと、その龍の皇の自由さと能天気さ――いや、天然さに振り回されていく内に、空っぽの過去よりも今とこの先の未来へと目を向けるようになったことで彼女は壁を越えた。

 

 

「王王軒でーす、出前のラーメンセットをお持ちしましたー!」

 

「!? 来たな!」

 

 

 ラーメンばっか食べる、そして無自覚に人を惹き付けるカリスマのようなものを持つ銀髪の少年の傍が何よりも安心すると知ったマドカの目標は別のものへと変わっている。

 

 

「このコクのあるスープ! そして絶妙に絡みつく麺! まさに芸術だ……! まさにパーフェクトハーモニー……!」

 

「わかったから静かに食え……。子供かお前は」

 

「ふっ、マドカもまだまだだな。

ラーメンこそ至高! 無敵の食べ物なのだよ!」

 

「だからといって毎日食うものではないと思う………確かに美味いけど」

 

 

 誰よりも自由に――彼とバカな真似してケタケタ笑いながら生きていく。

 それがマドカという少女の生きる意味なのだ。

 

 

(元からそうなのかもしれないけど、絶対にヴァーリは師の一人であるコカビエルという人のせいで極限なまでに鈍いというか、戦闘欲に全部振り切れてしまっている。

やっぱりガブリエルという人にどうしたら良いのか聞いてみたい……)

 

「うーむ叉焼もしっかりした下味だ……!」

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏にとって、神崎マコトは見た目の意味も含めてまさに天使だった。

 何故か他の友人達は妙に苛烈だし、怒るとすぐに手が飛んでうる中、マコトからは一度もそんなことがなかったし、なんなら優しくしてくれた。

 

 だから一夏はマコトを一番の親友だと思うし、正直マコトが女だったどれだけ良かったと思う事も多々あるし、最近は最早男でも関係ない気がしてきた。

 

 だからこそ――

 

 

「絶対に嫌だ!!」

 

「そ、そんな事言わずにどうか……」

 

「一夏、先生も困ってるし……」

 

「知ったことか!! なんで俺とマコトが別々の部屋になるんだ!!」

 

「そ、それはデュノア君が転校したので、男子の部屋割りの再考を……」

 

「だったらデュノアが兵藤先輩と同じ部屋になって、俺とマコトがこのままで良いでしょうが!!」

 

 

 自分からマコトを奪う者は総じて敵と思うようになっていくのだ。

 

 

「あの、俺はどうしたら?」

 

「す、すいません。織斑君を説得しますのでもう少し待っててくれますか?」

 

「それは構いませんが……」

 

「すいません先輩……」

 

「や、まさか四人目の男子が出てくるとは俺もビックリというか……キミがその四人目なんだろ?」

 

「あ、は、はい。シャルル・デュノアです」

 

 

 ギャーギャーと喚き散らす一夏と、オロオロする一夏達のクラスの副担任を見ながら、一年生の教室に呼び出されたイッセーは、マコトや本日転校してきた四人目の男子のシャルル・デュノアと挨拶を交わす。

 

 

「別に俺は誰でも良いし、デュノア君と同室になって、君達はそのままで良いんじゃないの?」

 

「いや、それが先輩……できるなら」

 

「へ? ………あ、訳ありなのね」

 

「?」

 

 

 とうとう床に転げ回りながら、玩具を買って貰えなくて駄々をこねる子供みたいなことをし始める一夏に困り果てる副担任。

 すると席を外していた一夏のクラスの担任である織斑千冬が現れ、駄々をこねていた一夏をひっぱたいて黙らせてしまう。

 

 

「まだ決まってないというか、このバカが騒いでいたのはわかっているから私が今から決める。

織斑と神崎の部屋にそのままデュノアを加えて、兵藤、お前は引き続き今までの部屋で良い」

 

「は? ……え、なんで?」

 

「………」

 

 

 イッセーの疑問に対して千冬は気まずそうに目を逸らすだけで理由を語ろうとはしない。

 まさか一年前の勝負の際、負けたら一度だけ勝った方の言うことを聞くというか取り決めを今更になって発令されたとは千冬的にも言いにくいのだ。

 

 

「それならそれで俺は構いませんけど……。それじゃあ俺は帰っても?」

 

「ああ、わざわざすまなかったな……」

 

 

 こうして部屋は結局変わらないというオチとなり、一夏も三人部屋とはいえマコトと離れ離れにならずに済むと聞いて御機嫌になった。

 

 

「ふー、去年織斑先生に勝った時の取り決めを保留にしておいて正解だったわ」

 

「だから気まずそうな顔してたのねあの先生……」

 

 

 結局イッセー達の環境は変わらないのだ。

 

 

「という訳で最近『夢』で見た睡眠方法を実践してみたいのだけど……」

 

「?? なにそれ?」

 

「えっとね、ひとつの毛布にくるまって、だ、抱き合いながら眠るの……」

 

「…………………。む、無茶言うなよ、そんなことしたら色々と消し飛ぶだろ、俺の理性……」

 

「別に消し飛んでも良いわよ私は……。

夢で見た感じだと消し飛んでもイッセーくん優しかったし……」

 

「な、なんつー夢見てんだよ……」

 

「い、イッセーくんだって私のこといえないじゃない。

私のことをしょちゅう寝ぼけて抱き枕にするし、この前なんてあんな恥ずかしいところをくんくんするし……」

 

「う……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、だからそこでお互いにヘタレるなっての……! ヤれ! もうそこまで来たら行くっきゃない! 襲えイッセー! 野獣になれ!」

 

「かんちゃんって」

 

「奥さまにそっくりね……」

 

 

終わり




補足

転生者の力の元ネタはまんまうえきの法則のロベルトのそれ。


その2
ラーメン大好き戦闘マニアお尻マイスター……それがヴァーリ。


その3
そんな自由人のせいで色々と吹っ切りまくりなマドカさんは、どうしてもヴァーリの師匠――特にガブリーさんに会って相談したいとか。


その4
部屋が変わると思いきやそんなことはなく、中学生カップルのようなやり取りは引き続き続行されるのだった。

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