色々なIF集   作:超人類DX

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続き。


例のネタが再臨


未来は不確定

 

 

 

 

 普段は学年が違うし、昼休みも食堂には来ないので中々イッセーと話す機会が無い転生者の神崎マコトは一夏が別に何もしちゃいないイッセーに対して過剰な警戒心を持つせいなのか、一人で接触する機会を握りつぶされていた。

 

 マコトとしてはイッセーに対してこれから起こりうるだろう出来事を覚えている限り伝えて傾向と対策などを話し合いたいのだが、そんな事情等知る筈もない一夏的には、親友がどこの馬の骨ともわからない男となにやら密会しているとしか見えてないらしく、早い話が一夏はイッセーに対して嫉妬をしている。

 

 イッセーからしたらそんな感情を向けられる謂れは皆無なのだが、初めて直接一夏と話をした際の様子から色々と察しているのか自分から接触等はしないというスタンスでいるわけで。

 

 

(あの人が送り込んでくる無人機は一夏達でなんとかできるとは思うけど万が一って事もあり得るだろうから、なんとかこの話を先輩に伝えないと……)

 

 

 何度か話をする内に、自分の記憶する兵藤一誠とは考え方から性格に至るまで大分差異があるせいか、イッセーが基本的に他人の為には動かないのはわかっていた。

 わかっては居るが、ずっと自分一人で抱え込み続けて誰にも打ち明けられなかった秘密を話せる相手の存在はマコトが自分で思っている以上に劇的で、少々依存してしまうらしい。

 

 

「なぁ、聞いてるかマコト?」

 

「! あ、な、なんだっけ?」

 

「だからそろそろマコトも訓練機とか借りて一緒に訓練しようって話だよ。

この前箒が束さんの妹だと名乗ったら順番待ち無しで直ぐに借りられたって聞いた時に思い付いたんだけどさ、二番目の起動者のマコトも同じ事をすれば簡単に借りられるんじゃないか?」

 

「何をバカな事を言うんだよ一夏は……。

そういう順番はきちんと守るべきだし、ちゃんと予約待ちをしていた人達に悪いだろう? それに一夏はクラス代表戦が控えているし、初心者と訓練する時間なんてないだろう?」

 

「そうか……まあ確かにそうだよな。

悪い、流石に俺も変な事を言ってしまった。

でも正直言うとよ、セシリアも箒も訓練に付き合ってくれるのは良いけどあまり身になってない気がしてならないというか、質問とかしても答えがわかりにくかったりするし……。

その点マコトに聞けばわかりやすく教えてくれるから……」

 

「オレは専用機持ちじゃないし、ISに関しては一夏よりも更に素人だから教えられないって……」

 

 

 IS開発者の篠ノ之束の妹であることを利用して予約待ちの訓練機を優先に貸し出して貰った箒の事を言ったつもりではないのだが、自分はそうまでして借りる気はないと返したマコトに一夏が納得するのを後ろから見ていた箒が若干罰の悪そうな顔で、マコトを睨んでいる。

 

 

「とにかく頑張りなよ。

凰さんと喧嘩までしちゃったんだし……」

 

「だってアレは鈴が悪いだろ。

マコトの事を腫れ物扱いしたんだぞ?」

 

「実際オレは腫れ物みたいなものだから仕方ないんだよ」

 

「なんだよそれ……。

俺はマコトにそんな態度する奴等なんか友達でもなんでもないと思ってるのに……」

 

 

 そんな視線に気づいていないマコトは、割りと『他人』に対しては攻撃的な性格になってしまいがちな一夏に対して言い様のない複雑な気分を蓄積させるのであった。

 

 

(あ、そういえば布仏さんはイッセー先輩と仲が良いと聞いた事があったな。

少し彼女に先輩の事で話をしてみるのも良いのかもしれない)

 

(くっ、マコトがまた別の事を考えている。

誰かの事を考えているのか? ひょっとしてあの二年の兵藤とかいう人のことなのか? ぐぐ……俺がセシリアと箒と訓練している間に何度か会ってたみたいだが……)

 

(何かにつけてマコトがどうだのと一夏の奴は……!)

 

(神崎さんのことをどうにかして忘れさせるなにかが必要ですわね……)

 

 

 

 これが現状……そこそこ拗れた相関図である。

 

 

 

 

 

 

 そんなそこそこ拗れた相関図に進展が無いまま放課後となる。

 マコトは早速あまり話した事はないクラスメートの布仏本音にイッセーへのメッセージを頼もうとしたのだが、その前に一夏が『訓練を見ててくれ!』と、確実に嫌がる顔のセシリアと箒をガン無視してマコトを連れ出してしまった為、結局話もできなかった。

 

 

「だからそこはシュッとしてバンッとやるんだ!」

 

「擬音の説明じゃわからないんだよ!?」

 

「…………」

 

 

 女子の好意に気づかない一夏とヒロイン達のやり取りをただの見ているマコトは一人どうしようと考えていると……。

 

 

「ねぇ、アッチの方で二年生の人達が訓練しているのを見たんだけど、その二年生って男子だったのよ」

 

「あ、それ私も見た。

確か生徒会長さんと訓練してたけど、あの人訓練機だけど凄い動き方で専用機に乗ってた生徒会長さんと試合みたいなことしてた」

 

 

 偶々近くで別の訓練をしていた女子生徒の会話が耳に入るマコトは反射的に話をしていた生徒に話しかけていた。

 

 

「あの、すいません……」

 

「へ? な、なぁに?」

 

「あ、もしかして神崎さん? うわぁ……本当に女の子みたい」

 

(『さん』はやめて欲しいけどこの際それはどうでも良い……!)

 

 

 マコトに話しかけられた生徒二人がマコトの出で立ちに驚くが、最早同じようなリアクションしかされなさすぎてうんざりを通り越していたマコトは敢えて触れずに、その二人がどこで訓練をしているのかを尋ねる。

 

 

「その二人なら第4訓練場にいるわよ?」

 

「多分今から行けばまだ二人で模擬戦していると思うけど……」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

 ここだ、ここしかない。

 今その場所に行けばイッセーと話ができると思ったマコトは、早速その訓練場に行ってみようと思ったのだが……。

 

 

「何故訓練を中止にしてまで他所の訓練を見る必要がある!」

「そうですわ! それも試合相手ではない二学年の訓練を!」

 

「仕方ないだろ!? マコトが見に行こうとするんだから!」

「だったらコイツ一人で行かせれば良い話だ! 寧ろその方が都合も良い!」

 

「まったくですわ!」

 

「駄目だ駄目だ! マコトをあの得体の知れない人の所に一人で行かせるのは危険だ! 俺の勘が言ってる、あの先輩はあまりにもマコトが可愛いからきっと変な事をするに――」

 

「…………それ以上、あの人のことを言うならついてこないで」

 

「マコト!? で、でもあの人はマコトの風呂上がりを見たんだぞ!? 絶対変な事をかんがえてるに――」

 

「一夏じゃないんだからそれは無い」

 

 

 目敏く訓練場を出ていこうとするマコトの後をわざわざ追ってきてしまった一夏達にマコトは頭が痛くなっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表ではないイッセーは訓練機を借りれた場合にのみISに乗ることが出来る。

 その際コーチをするのは刀奈である。

 基礎の起動訓練から始まり、当初は機体の性能とイッセー自身の性能差が開きすぎてちぐはぐな操縦だったが、刀奈の指導のお陰で『慣れる』事に成功。

 

 

「流石の適応力と言いたいけど、まだまだ本来のイッセー君らしい動きには程遠いわ……!」

 

「わーってらぁ!」

 

 

 結果、加減されているとはいえ刀奈とISのみの試合が可能になる程度にまでに至っていた。

 

 

「チッ!」

 

「遅い!」

 

「ぐっ!? んにゃろ!」

 

 

 とはいえISのみの戦いとなればまだまだ遥かに刀奈の方にアドバンテージがあり、刀奈自身がイッセーとの訓練によって『閃いた』とされる戦闘スタイルこと『静水』のカウンターに翻弄されてしまう。

 

 

「くっ、そのスタイルは地味に俺の天敵だぜ……」

 

「そりゃあ対イッセー君用に閃いた技ですもの? イッセー君はなにからなにまで超攻撃型だから、そのパワーを受け流せなければあっという間に制圧されちゃうしね。

ただその分攻撃力が足りなくなるんだけど」

 

 

 霧纒の淑女という専用機に搭乗する刀奈は構えもとらず、一見すると無防備にしか見えない。

 しかしイッセーの攻撃を全て紙一重で避け、時には生じた隙を突く形でダメージを少しずつ与えていくのは、一撃で敵を粉砕するパワーを持つイッセーへのカウンターを目的としている。

 

 

「さてと、今度は私が攻める番よ?」

 

 加えて刀奈の場合は自身の戦闘技術とISの搭乗技術に組み込むのが抜群に上手い。

 それ故に昇華した刀奈のISとしての実力は、現役を引退して久しいとはいえ、去年の段階でブリュンヒルデと呼ばれし一夏の姉かつこの学園の教師である織斑千冬を降す領域へと到達させているのだ。

 

 

「イッセー君と『遊ぶ』時は生身の方が楽しいんだけど……ねっ!」

 

 

 無防備な姿をやめ、構え始めた刀奈の中で戦闘スタイルのスイッチが切り替わると、素早く訓練機に乗るイッセーに肉薄し、水月→喉→人中の順で一挙動で拳を打ち込む。

 

 

「ぐほぁっ!?」

 

「本当にタフよねぇ。でも四段目はやめておくわ。

だって種無しになられたら色々困るもの?」

 

「さらっと笑顔で怖いこと言うな――ぶほ!?」

 

 

 正中線三段突きを叩き込み、一気に機体に対するダメージを蓄積させ、軽口を叩きつつ踵落としでトドメを差す。

 あらゆる攻撃を受け流し、カウンターを叩き込むスタイルが第2のスタイルだとするなら、暗部として幼き頃から教育され、イッセーの示した可能性により広がった視野により閃いたこのスタイルはさながら刀奈のベースであり第一のスタイルであろう。

 

 

「ちくしょう、エネルギー残量が0になっまった……」

 

「ん、つまり私の勝ちね?」

 

「あててて……。

やっぱり短時間程度の訓練じゃ全然駄目だな。一々動くだけでも難しすぎる」

 

「うーん、イッセー君の場合はちょっと違うと思うのよねぇ?」

 

「? どういう事だ?」

 

 

 お互いに機体を待機状態に戻し、刀奈の言葉に首を傾げるイッセー。

 武装展開すらまだ怪しいものの、直接的な戦闘に関しては学生同士の試合でなんとか食らいつける程度にはなっている。

 

 しかし生身のイッセーを直で知る刀奈から見れば今のイッセーの動きはあまりにも固い。

 それはまるで乗るのではなく、乗られているかのような……。

 

 

(ISと私の異常性を組み込めたように、イッセー君もISと異常性――もしくは神器の力を組み込めたら一気に生身と謙遜ない所まで行ける筈。

それにはまず訓練機ではなくてイッセー君の反応速度に100%対応出来る強固なインターフェースを搭載したISが必要になってくるわけだけど……)

 

「何が足りないんだろうか……」

 

(ホント反則よねぇ。

無限に進化する異常性って……)

 

 

 本当の意味でイッセーがISに搭乗できるようになれば、それはつまり怪物の誕生を意味する事を刀奈だけが、どこか楽しみに感じながら思うのだ。

 

 

(そんな反則みたいなスキルを持つイッセー君とドライグちゃんの二人ですら勝てなかった世界や転生者が居たって考えると、私なんて豆粒程度なんでしょうね)

 

 

 そんなポテンシャルを秘めているイッセーですらどうにもならずに生き残る事が精一杯だった世界と転生者はとんだ反則だったのだろうと……そして知ってしまったからこそ、刀奈は壁を越えなければならないという決意を固めるのだった。

 

 

(それにしても……)

 

 

 そんな決意を秘めつつふと刀奈は周囲を見渡してみれば、自分とイッセーの訓練が余程目立っていたのか、学園の生徒達のギャラリーがざわめきながら自分とイッセー――比率的に男子であるイッセーを見ている事に今更になって気づく。

 何時もの生身の訓練ではなくIS同士の訓練とはいえ、少々楽しくなってしまって周囲が見えていなかったらしい。

 

 

「…………」

 

「あの方が三番目の起動者ですの?」

 

「どこからどう見ても男だから間違いはないだろう」

 

 

 例の最初の起動者である織斑一夏とその友人らしき者達や例の二番目の起動者の見た目はともかくちゃんとした男子の転生者。

 それと何時から見てたのか、織斑千冬が生徒達の輪から一歩離れた箇所から腕なんて組みながら見ている。

 

 

「少し遊びすぎてしまったようだし、今日はここまでにしてお部屋に戻りましょう?」

 

「ん? ああ、そうだな。そろそろ機体も返さないといけない時間だし」

 

 

 別に見られて困るような訓練ではないので気にはしないのだが、見られて喜べるような気分でもないので、訓練を切り上げて部屋に戻ろうとイッセーに話し、イッセーもイッセーで借りていた訓練機の返却時間が近づいていたので、『インターセプター』と呟きながら機体の武装展開の練習の手を止め、そのまま一緒に訓練場を出ようとするのだが……。

 

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

 

 『晩飯食ったら皆でトランプやらないか?』というイッセーの誘いに乗ろうと返事をしようとしたその刹那、背後から話しかけてくる一人の生徒にイッセーと刀奈が足を止めて振り向いてみれば、本当に男なのかと一見すればまず疑いたくなる銀髪碧眼の小柄な男子こと神崎マコトと――何故か接点なんて殆どない筈なのに警戒心マックスな態度でマコトの後ろに付く織斑一夏。

 

 そしてなんとなく付いてきたのだろうと見て分かるセシリア・オルコットと篠ノ之箒が居た。

 

 

「あ、よう神崎君」

 

「ど、どうも……」

 

「………」

 

 

 ここ数日会わなかったマコトは、やっとこさイッセーに接触できたと内心ホッとしつつ軽い挨拶をする。

 

 

「その、訓練していると聞いたもので……」

 

「? わざわざ見にきたのか?」

 

「ま、まあ……ちょっと先輩と話がしたくて……」

 

「………」

 

 

 そう言うマコトは話し方と仕種のせいで完全に女子にしか見えず、目撃している女子生徒達の何人かがヤバイ扉を開けてしまう訳だが、されている本人であるイッセーはといえばマコト―――の背後で親の仇のような形相である一夏と目が合ってしまったので軽く引いてしまう。

 

「あ、おう……俺は別に良いけど、ここで話せることなのか?」

 

「できれば二人だけで話がしたいですが、あの……更識先輩は……」

 

「ある程度把握はしてはいるわ。あまり深入りはしないようにはしたいものだけど」

 

「夕食の時間が終わったら少しお部屋をお借りできますか? そこで話をしておきたいので……」

 

「あー………」

 

 

 と、余程言わなければならないことがあるらしいマコトだが、そのすぐ後ろから鬼の形相となる一夏に思いきりメンチを切られてるのもあってか、断った方が色々と穏便に済みそうな気しかしないイッセーはどう返答すべきか非常に困った。

 

 

「?」

 

 

 そのイッセーの視線に気づいたのか、不思議に思ったマコトが後ろに居る一夏の方へと振り向いてみるが、その瞬間だけの一夏は無駄に爽やかな男前少年に顔つきが戻っている。

 

 

「……?」

 

 

 首を傾げながらイッセーの方へと視線を戻せば、再び鬼の形相となってイッセーにメンチをキリ飛ばし、口パクで『こ・と・わ・れ』と言ってくる始末。

 

 

(め、めんどくせぇ……)

 

『ホンネに聞いた限りでは、あの小僧の後ろにいる小娘共の気が強すぎて振り回されているようだ。

で、この転生者の小僧の対応が下手な女より女やってるせいで、余計性癖がおかしくなってしまい、執着をしているようだぞ』

 

(え、聞いてたのと違うぞ。

あの織斑君って子は天然でモテるって……)

 

『だからなんだろう。本人はその好意とやらに気付いとらんらしい。

もっとも? ホンネが見た限りではあの小娘共の好意の向け方に問題があるようだから気付けないみたいだがな……』

 

(負の連鎖じゃねーかそれ……)

 

 

 一夏達と同クラスの本音からもたらされた情報を、微妙に仲の良いドライグから聞いたイッセーは苦い表情を浮かべる。

 

 

「神崎くん」

 

 

 話がしたい=何かしらの情報と把握しているイッセー的には聞いておくべきなのかもしれないが、このまま頷いたらなにか妙な厄介ごとに巻き込まれる気もしたので、どうすべきか迷っていると、イッセーを見ていて色々察した刀奈が『生徒会長の更識楯無』としてマコトに話しかける。

 

 

「あ、は、はい……!」

 

 

 実のところ、一夏がイッセーに要らぬ警戒心を剥き出しにさているように、剥き出しにはしていないものの刀奈も刀奈でイッセーの中で固定されていた転生者像とはかけ離れていたが故に、最近二人でコソコソとしているマコトに対して警戒の念がありつつ、単純にイッセーと微妙に仲良くやっているのに理解はすれど納得はしていなかった。

 

 故に刀奈はマコト―――そして不必要極まりない敵意剥き出しな一夏と、さっきから不審者でも見ているような視線のセシリアと箒に向かって、どこから取り出したのかわからないグラサンを掛けながら―――

 

 

 

 

 

 

 

「今なぁ、私とイッセーくんええ感じやねん」

 

 

 

 急に関西弁になり、ちょっとガラガラな声を作りながらマコト達にそう言い出した。

 

 

「は?」

 

『え?』

 

「お、おぉ? 刀奈? なんだそのグラサン? どっから出したんだよ?」

 

 

 あまりにも突然過ぎる刀奈の変身にイッセーも含めて驚く面々。

 それはイッセーにメンチを切っていた一夏も同じく、初対面の女子生徒の謎行動に困惑するし、なんなら事の成り行きを見ていた女子生徒達やらさりげなくいる千冬すらも驚かせる。

 

 

「こっちはええ感じで気合い入れてISの訓練終わっとんのや」

 

『…………』

 

「それをお前、なんの話か知らんが水を刺してや? その後ろでメンチきっていきっとる奴もおるし、そっちはうちのイッセーを不審者みたいな目で見とるしで、どういうことやねん?」

 

「み、水を刺したつもりでは……え、メンチって……」

 

「う、い、いや俺は……」

 

「な、何故急に関西弁なんだ……」

 

「それにあのサングラスの意味がさっぱりわかりませんわ……」

 

 

 何故かは知らないが妙な迫力を放つ刀奈に対し、気づけば全員直立不動となる。

 

 

「なぁ、別に敬えとは言わんが、これでも私達はお前らな先輩なんや。

あ? 何でお前等みたいなゆるい考えの、ゆるキャラがおる?」

 

『…………』

 

「ハッキリ言って邪魔! 害悪!!

 

『』

 

「邪魔せんといてくれや」

 

 

 この時、本人達にもわからなかったが、脳内で大量の『だる』という文字がマシンガンのように襲いかかってくるような感覚に見舞われたという。

 そして何故かグラサンをかけて関西弁で捲し立ててきた刀奈はトドメとばかりにこう言った。

 

 

 

「もうええ……出ろ!!

 

『…………』

 

 

 その言葉と同時にマコトや一夏達のみならず、何故か千冬までもが直立不動でお辞儀をしてから他の生徒達と共に訓練場から退出し、それを見届けた刀奈は掛けていたグラサンを外す。

 

 

「あー………んっ! んんっ! ふー……声を作るのって疲れるわ」

 

「いや、なんだったんだよ今の?」

 

「え? あのままだと埒があかないと思ったから少し追い払ってみたのよ。

最近あの彼がイッセーくんに色々と吹き込んでくるしー?」

 

 

 グラサンを外した瞬間何時もの刀奈に戻ったので内心ホッとするイッセーだが、わざわざ追い払う事は無いのではとも内心思う。

 

 

「だってあのまま部屋に来られたらイッセー君にぎゅって出来ないでしょ?」

 

「けどもしかしたら割りと重要な情報だったかもしれないだろ?」

 

「私が思うに彼はどうも『本来訪れるだろう未来』に囚われガチに見えるのよ。

それを把握しているからイッセーくんにも教えておこうと思っているのでしょうけど、考えてご覧なさい。

彼とイッセーくんが居る時点でそんな未来の事なんて宛になんてならないでしょう? もしかしたら違う未来になっている……そうは思わない?」

 

「………」

 

『確かにその通りだな』

 

「未来を知って防ぐよりも、どんな未来になろうと打ち破る事ができるように日々精進する事の方が大切――違う?」

 

 

 未来とは不確定だからこそ未来であり、本来訪れるだろう未来というのはマコトとイッセーがこの世界に生きている時点であって無いようなもの。

 故になにが起こるかわからない未知の未来の為に備えるべきであると話す刀奈にイッセーはここ最近彼から得た情報に確かに振り回されていたと気づく。

 

 

「悪い、少し固定観念ってのに縛られていた」

 

「彼も悪意があるわけじゃないのは分かるけど、少し拘り過ぎな所があるのよ」

 

「………そうだな。

今度話す機会があったら彼にも話してみるよ。サンキューな刀奈」

 

「ふふん、イッセーくんの『足りない部分を補い合えるパートナー』になろうと思っている身ですもの!」

 

 

 言われて少し自分が受け身になりすぎていたと反省するイッセーに、ISスーツ姿の刀奈は自分だけの権利だとばかりにイッセーの腕に凭れるように組むと、いたずらっ子のように舌を出す。

 

 

「まぁ、私の未来は決まっているんですけどねっ?」

 

「う……ちょ、そんな格好でひっつくなよ。

普通にドキッとするだろ……」

 

「させる為にやったから当たり前でしょう? ……実は私もかなり勇気出したけどさ?」

 

 

 こうして少し先の未来を知らされるまま、暗闇の荒野に進むべき未知を切り開く事を思い出すイッセーと、それを思い出させた刀奈は、また一歩『未来』への道を踏むのだった。

 

終わり




補足

まとも過ぎてこれから訪れるだろう『未来』通りにすることに拘り過ぎる転生者とそれに傾いていたイッセー。

だが、既にこの二人の存在がある時点で不確定になっているものだと指摘するたっちゃん。


……まあ、一番はイッセーとの時間の邪魔をされてるから言ってやっただけだったりもしますけどね。

―――どこぞの野球部監督になって。


その2
本家ベリーハードイッセーと比較すると、現在のこちらのイッセーはかなり劣ります。

というのも14歳頃に挑んで返り討ちにされ、たっちゃんの目の前に落下してから三年間は進化が止まっているのと、ベリーハード本家と比べてその三年間の修羅場の経験が無いからです。

本家の領域にまで到達するには、完全なる覚悟が必要というか……。

根城にしてた洞窟で暮らすとか、そこで初夜迎えたとか――同じことしたらそうなるわけではないのですけど。

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