色々なIF集   作:超人類DX

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過去一クラスにうまーくやってる感


外様同士の極秘会談

 

 

 

 そういう悪い意味での予感というものは当たってしまうものであるが、その悪い予感そのものが良い意味でもあったのは多分生まれて初めてなのかもしれない。

 

 それでも複雑なのは変わらない。

 

 中身も外見も全てが別物だったとしても、あのクソ野郎と同じであると思ってしまう己が。

 そして彼から聞かされた話によって、そのクソ野郎と同じになっているのかもしれないという事実が。

 

 

 

 

 

 望んでこうなったわけではない。

 望んでそうなっているわけではない。

 何度も避けようとした。

 

 何度も関わらないようにと思ってきた。

 

 だけど現実は、見えない誰かの作為のように転生者である少年は物語の歯車に組み込まれてしまう。

 

 それは恐怖だった。

 

 自分という異物によって世界を壊してしまうのでは、あるべき繋がりを壊してしまうのでは。

 

 生前は物語として見てきたこの世界を壊すのが自分ではないかという恐怖を常に抱えながら少年は誰にもこの秘密を打ち明けることができずに生きる他なかった。

 

 だからこそ少年にとって彼の存在は先の見えぬ『暗い道』に差した希望の光に見えた。

 自分と同じような転生者によって主人公としての全てを奪い取られ、そして世界から追い出された別世界の主人公の少年の存在が。

 

 

「なぁマコト、最近放課後になると一人でどこかに行ってるみたいだけど、どこに行ってるんだ?」

 

「え!? あ、う、うん……えーっとほら、オレは一夏と違って所詮はISをただ起動出来ただけで下手クソでしょう? それに専用機も無いし、それなら先にISの基礎の勉強から始めてみようかなーっと……」

 

「そうなのか? なら俺と一緒にやれば良いだろ。

俺も基礎の勉強したいし」

 

「へ? え、えーっと―――」

 

「何を言っている一夏! お前は専用機を持つのだから実践訓練で鍛えるべきだ!」

 

「そうですわ! その後に私が基礎についてをお教えすれば問題なしです!」

 

「それならマコトも一緒に…」

 

「お、オレは良いよ。

今のオレじゃあ皆の邪魔にしかならないし、少し自分でやってみたいんだ」

 

「………そうか」

 

 

 避けようとしていた主人公の親友になってしまった。

 避けようとしていた繋がりができてしまった。

 織斑一夏の友人という立ち位置に苦悩する神崎マコトは、怪しむようにして見てくる一夏や、その後ろで『なにか言いたげな顔』をする一夏の幼馴染みと最近一夏と仲良くなった女子と視線から逃げるように荷物を纏めて教室から出ていくのであった。

 

 

「最近マコトがそっけない……」

 

「お前はアイツと一々行動を同じにしようとするな」

 

「そうですわ! ……男子とはいえ見た目だけはアレだというのに」

 

 

 

 

 

 

 転生者・神崎マコトという少年が逃げるようにして教室を出て小走りで廊下を歩けば、その姿を見つけた他クラスや他学年の女子生徒達に男子の制服姿というのもあってジロジロと見られる。

 

 その視線の意味合いは一夏とは違った意味が孕んでおり、マコト本人はそういった視線が大嫌いだった。

 

 

『あ、あの子って二番目の子じゃない?』

 

『男子の制服だし間違いないわ。

けど、本当に男子とは思えないわよね……』

 

『性別を間違えたとしか思えないわ』

 

「…………」

 

 

 銀髪碧眼で白い肌のどこか儚げな雰囲気の――――美少女にしか見えないこの容姿のせいで碌な目にしかあわなかったマコトは自分の存在を含めて大嫌いだった。

 ロシア人の血が混ざったクォータだとしてもこんな見た目になることなんて無いのではないかと、女の子にしか見えない自分の姿を鏡で見て何度絶望したかわからない。

 

 確かに生前も背は低いは線も細かったがここまで見た目と性別が真逆な容姿ではなかったので余計コンプレックスにしかならない。

 もっとも、あの『先輩』は自分のこのチグハグな姿を前にしても驚くことなんてなかったわけだけど。

 

 そんな自己嫌悪に近いものを常に抱きながら歩き続けたマコトが向かった先は校舎の裏手だ。

 

 普段から人気も少ないこの場所は秘密の会合には持ってこいな場所であり、マコトが到着すれば既に会合相手の一年先輩の少年が分厚いISの教本に向かって難しい顔をしていた。

 

 

「すいません、遅くなりましたイッセー先輩」

 

 

 一夏と自分のすぐ後に発見された三番目の男性起動者。

 別世界の主人公であることを剥奪され、追い出された元主人公との秘密裏の会談が最近のマコトの日課であった。

 

 

「おー」

 

 

 先輩より後に来てしまった事を律儀に謝罪するマコトに対し、イッセーは教本を閉じながら軽く手を振る。

 本来の兵藤イッセーとはあまりにも違う人生を歩んだせいなのか、かなりシビアな性格に最初は驚かされたものの、今では慣れてしまったマコトは、そのイッセーから軽く投げ渡されたジュースの缶を危うく落としかけながらもキャッチする。

 

 

「取り敢えずそれ飲みながら一服しなよ」

 

「あ、は、はい……いただきます」

 

 

 当初はかなりイッセーから警戒されたマコトだが、イッセー自身が地獄に落ちた元凶たる転生者とはあまりにも考え方が違いすぎたせいなのか、それでも少しは警戒されながらもジュースなんかを奢って貰う程度の関係で落ち着くようになった。

 

 マコトとしても、自分が外様の存在であることを――そして外様としての自分になれる唯一の相手なのもあってか、無意識に頼りにしてしまう。

 

 

「勉強ですか?」

 

「まぁな。

刀奈は生徒会長だし、なんでもかんでもあの子に頼って教えて貰うわけにもいかないしね。

自分でできる範囲の事はしようと思っているんだけど、ISって真面目に難しいよな。

あんな簡単に飛び回ってる子達は常にこんなことを頭にいれながらやってるんだろ?」

 

「いや、理論と実践はまた違うと思います。

オレも何度か訓練機を乗ってみましたが、殆ど感覚で動かしましたから」

 

 

 分厚い教本を器用に頭の上に乗せて、落とさないようにバランスを取るイッセーにマコトは内心『生き方が違うとこんなにも違うんだ』と、どこか生真面目なイッセーの姿を見て思う。

 

 

「んで、ここん所毎日顔見せてくるけど、友達はどうしたんだよ?」

 

「………。オレが居たところで邪魔にしかなりませんから、一夏達には暫く自分で勉強すると言ってます」

 

「邪魔ねぇ……?」

 

「それに多分、一夏を好いてる女子達からしたらオレは完全に邪魔でしかありませんからね」

 

「なんだそりゃ? キミは確かに見た目は女子っぽいが男なんだろ? なんでその子達にとって邪魔になるんだよ?」

 

「この見た目のせいだからですよ。

変な誤解ばっかりされてきましたからね……今まで散々」

 

「あぁ……そういう」

 

「だからオレは自分の今の姿が大嫌いです……」

 

 

 自分が嫌いだと言い切るマコトに、イッセーはただただ複雑な気分だ。

 

 

「こういうのをまさに儘ならない人生っていうんだろうな……」

 

「ええ……」

 

 

 あまりにも自分が殺したくて仕方ない転生者とは違いすぎる目の前の転生者に対してどうして良いのかわからないというジレンマ。

 結局中途半端にしてしまった自分の意思の弱さへの嫌悪。

 

 互いに抱える複雑きわまりない感情が共通点として存在するせいか、転生者によって全てを失った少年と、神によって望まぬ転生をしてしまった転生者はチビチビと少し温くなってしまったオレンジジュースを飲みながら微妙な時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 なんだかんだ抱えている秘密をさらけ出せる相手との、一見無意味にしか見えない会合も、少なくともマコトにとっては今まで抱え込んでいたストレスを発散できる貴重な時間となっている訳で。

 イッセーもイッセーで転生者に対する偏見のようなものが少しだけ緩和されることで視野が広くなった。

 

 

 つまり意外にも互いにメリットのある会合だったりするこの時間も終わり、軽く別れの挨拶をしてから各々の生活に戻るのだが……。

 

 

 

「あ、しまった。

彼に借りてたボールペンをそのまま持ってきてしまった」

 

 

 

 先ほどのグダグダ会合の際、使ってたペンがダメになってしまったという理由でマコトに借りていたボールペンをそのまま返すのを忘れて持ってきてしまっていたことに寮の部屋に戻ってから気づいたイッセー

 

 

「悪い刀奈、ちょっと出てくるわ」

 

「明日返せば良いじゃない……。

最近みょーに仲が怪しいんですけどー?」

 

「色々あんだよ、俺達外様にはな」

 

「私は全く外様なんて思わないのに……」

 

 

 別に今刀奈が言った通り明日返せば良いのだけど、借りっぱなしも良くないだろという判断がこの時出てきたので、何故か部屋の中なのにおんぶをしていた刀奈に一旦降りて貰い、ボールペンを返そうと部屋を出るイッセーは、一昨日辺り彼から聞いた寮の部屋を訪ねることに。

 

 

「えーと、ここか?」

 

 

 人工島ひとつを学園にしているだけあって、寮自体も下手なホテルの部屋より豪華だったりする寮の廊下を、すれ違う女子生徒達にジロジロと見られながら、マコトから聞いた部屋の番号を探し当てたイッセーは、部屋の扉の横にあるチャイムのボタンを押す。

 すると出てきたのは―――黒髪の男前な少年だった。

 

 

「だ、誰だアンタ? なんで男がここに?」

 

 

 出てくるなりその少年はイッセーに対して警戒した顔で訊ねてくるが、特段イッセーは気分を害することもなく、この少年が例の織斑一夏なのだろうと判断すると、一応自分を知らなそうなので自己紹介がてら用件を言う。

 

 

「俺は二年の兵藤。

一応三番目の起動者なんだけど……」

 

「三番目……? あ!? そ、そういえば俺達の後に一人現れたって話が……」

 

「そう、それが俺。

まあ、学年も違うし今まで廊下とかでもすれ違わなかったからね」

 

「す、すいません。失礼しました!」

 

 

 即座に頭を下げる一夏にイッセーは大丈夫だからと返しつつ部屋を訪ねた理由を話す。

 

 

「それでなんだけど、神崎君ってこの部屋に居るんだろ? ちょっと呼んできて欲しいんだけど……」

 

「…………あ?」

 

「え?」

 

 

 学年が上の先輩への失礼を働いてしまったと腰が低くなっていた一夏に用件を言ったその瞬間、それが嘘のように再び怪訝そうな顔になる一夏にイッセーはちょっとビックリしてしまう。

 

 

 

「………………マコトになにか?」

 

 

 

 どこからどう見ても警戒心バリバリですと言わんばかりの態度であり、イッセーも微妙に困惑してしまう。

 

 

「あ、いや……さっき神崎くんに借りてたボールペンを間違えて持って帰っちゃったからさ。

それを返そうと思って……」

 

「は? あ? あ゛っ!? 借りた??? マコトの私物をアンタが!?」

 

「え、えぇ……?」

 

 怖っ!? と今度な目を血走らせ始める一夏に対してイッセーはドン引きしてしまう。

 

「失礼ですけど、何故アナタがマコトのボールペンを? 会ったことなんてないですよね? 俺がアナタと初対面ですし、そうに決まってますが」

 

「え……あー……」

 

 

 わからないが、妙な地雷を踏んでしまった感が否めないイッセーはそのままそっくりマコトとの微妙すぎる関係性についてを話すべきなのか非常に迷った。

 ここで試しに資料室で知り合ってからISの勉強をしてたなんて言ったら良くないことに繋がりそうだという意味合いで。

 

 

「答えてください。答えようによっては……」

「………」

 

 どうしようと悩むイッセーは適当に言ってこのボールペンを渡して貰うように言ってから逃げてしまおうかと考え始めていたら、部屋の奥から物音が聞こえる。

 なんだ? と思って振り向く一夏と一緒になって部屋の奥を見てみると、そこにはバスタオルで長い銀髪を拭きながら浴室から出てきたマコトだった。

 

 

「一夏ー、上がったぞー……あれ?」

 

 引くほど見た目が女の子過ぎるマコトのその姿にイッセーはここでやっとマコトが自分の姿を嫌悪している理由をなんとなく理解した。

 

 

(骨格がほとんど女の子だろありゃあ……)

 

『突然変異で性別だけが男になってしまったとしか思えんなあれは……』

 

 

 なるほどあの容姿ではあらゆる意味で苦労したのだろう……と、生まれて初めて転生者に同情することを覚えたイッセーは、自分と目が合い、そして驚くマコトに『よっ』と軽く手を振っていると――

 

 

「ぶばっ!?」

「なっ!?」

 

 

 カタカタと震えていた一夏が明らかにヤバイ量の血を鼻から放出させながら卒倒してしまい、さしものイッセーとドライグもギョッとする。

 

 

「な、なんだ? ど、どうした……? 顔面血塗れで倒れたんだけど……」

『しかし顔が恍惚に満ちている……』

 

「………………………。オレが自分の姿を嫌ってる理由のひとつですよ」

 

 

 反対にマコトは慣れてしまったのか、諦観の様子で倒れた一夏を体格に見合わず軽々と抱えてベッドに運ぶ。

 

 

「………。見た限りなんだが、もしかして織斑くんってその……性癖がちょっとヤバイ方向に飛んでしまったとかそんな感じでは……?」

 

「……………………オレなんてさっさと死ねばよかったんだ」

 

「い、いやいや……! 性癖をねじ曲げたのは本人なんだし……」

 

『この小僧の周りに居る小娘共に毛嫌いされているというのはそいうことか……。

なんというか、難儀な奴だな貴様は』

 

 

 痙攣しながら幸せそうに意識をすっ飛ばしている一夏と、そんな一夏にしてしまったのは自分のせいだと自己嫌悪を更に深めるマコトを見て、さすがにイッセーもそこに関しては関係ないだろと下手クソなフォローをするし、ドライグも流石に同情の方が勝ったらしい。

 

 

「疎遠になろうとしてもできなかったという言葉の意味合いが変わってしまったなこれで……」

 

「本音ちゃんの言ってた通りだったのね。

織斑君の性癖をねじ曲げてしまったと……」

 

「確かに本人からしたら死にたくもなるわな……」

 

 

 ボールペンを返し、部屋に戻ったイッセーはその時のことを刀奈に話しつつ今日は子犬のように甘えてくる彼女を不器用に抱きよせながらよしよしと頭を撫でるのだった。

 

 

「イッセー君はそうじゃないでしょうね?」

 

「ないに決まってんだろ」

 

 

 寮生活のせいか、実家の時よりナチュラルに距離感が更に近くなりながら。




補足

転生者まさかのギャー君タイプでした。

見た目のモデルは……神崎ひでりとかそこら辺?


その2
これにより一夏くんの性癖が壊れてました。

そのせいで余計転生者本人の自己嫌悪率がすさまじいことに……。

しかも加えて一夏ヒロインズ達から軒並み嫌われているという。


その3
転生者に対してとなると、悪い意味で精々シリーズの一夏に近づき、更に言えば某おもえもんのような重さが……。



 以上の理由により、イッセーは一夏君から敵意を持たれるようになってしまいましたとさ。


その4
実家の時よりやり取りの距離感が近いのですが、周りはずーっと生暖かい目な模様

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