緩くなんとなくラブコメしとる
親を目の前で殺されて、自分自身も殺されかけた男の人生はどうしようもないものだった。
生き残ってしまったからこそ選んだ道は『復讐』であり、その為にはなんでもした。
相棒となる龍に導かれる形で強さを求め、夢に出てきた妙な女に導かれる形で自分自身を理解して……。
そうやって十数年もの間、復讐を果たす為の力を蓄えてきたわけだけど、結局俺は勝つことも仇も取れずに無様に敗走した。
あのクソ野郎が努力もなにもせずともふざけた力を神とやらから与えられた事もあったにせよ、俺は敗けたんだ。
自分のこれまでの全てを嘲笑うかのように敗けた俺はそこで今度こそ死んでしまうのだと思っていた。
けれど俺とドライグは生き延びている。
本当に、どうしてなのかはわからないけど奴等が存在しない世界に転移するという形でな。
そんな世界に逃げ延びた俺は、クソ野郎――それとクソ野郎に傾倒しているバカ共(ほぼ女)からリンチ同然に受けた傷が深すぎて、そのままで死ぬところだった。
けれど運が良いのか悪いのか、俺は今もこうして生きている。
死にかけた俺を発見して介抱してくれた人達のお陰で……。
当然目覚めた時は訳がわからなかったし、俺を助けてくれた人達からは何があったのかと説明を求められた。
しかし考えてみれば俺がやって来た事って普通の人達からしたらただの妄言にしか聞こえないし、言ったところで信じてはくれないと思っていた。
けどドライグの存在と、ドライグ自身が見てきたものを皆に見せた事である程度信じて貰えたのと、どうやら俺を助けてくれた人達は普通とは少し違う特殊な家系のようで……。
『こんな話、普通なら信じるわけがないのになんで……』
『じゃあ今の話は嘘だったの?』
『いや……』
『なら信じるわよ。
アナタがどこでどうやって生きてきたのかも含めてね』
なんというか、不幸中の幸いだったのかもしれないねと今なら思えるよ。
『どこかに行く宛はあるの?』
『…………』
『無いって顔ね。
まあ、流石の私達でもアナタの世界とやらに戻る方法なんて調べようがないし、かといってこのままアナタを野放しもできない。
その傷が癒えるまでウチに居なさいな? 見ての通り、お金には困ってないしねウチは』
そうでなければ、戸籍すら存在しない怪しいガキ一人の面倒なんて見るわけもないんだからさ。
最終学歴が幼稚園中退。
この世界に至っては戸籍すら存在しない少年は、世話になっている家の長女の計らいというか、ずる賢い方法を駆使することで、なんと学校に通うことになった。
その学校に通う条件は厳しかったものの、少年の持つ異常性を逆手に取った方法により見事パスし、この度正式に転校生という形で入学が決まったのである。
「これってやっぱり超絶なズルじゃん」
「世界で『三番目』にISを起動した男性というだけで最優先に入学させるのが政府の方針だし、事実ズルでもなんでもなくちゃんと起動させたのだから堂々としてれば良いのよ」
「そうは言うけどその学校って女子しかいないんだろ? ……果てしなく不安なんだけど」
「最初と二番目に起動した男子は一学年で同じクラスだけど、アナタは年齢的には二学年だから、まあ女子しかいないわね……」
「やっぱり不安だ……」
今まで学校とは無縁の生活だった事もあるし、何よりも普通に両親の下で育った『兵藤一誠』ではない。
故に女体への興味よりも生存本能と進化欲求の方が強く、復讐を糧にしてきたせいか女性の胸よりも如何にして進化するかという考えが強い。
本来の一誠ならばほぼ女子高に入学する話に狂喜乱舞しそうなものだが、イッセーにはそれがない。
「大丈夫よ、私と同じクラスに転校するようにしてあるから」
「おう……」
復讐だけを望んで生き続けてきた少年にとって、転生者との戦いよりも不安なのだった。
こうして刀奈の妹とその従者である布仏本音が入学するのと同時に、世界で最初と二番目の男性起動者が一学年として入学したことで、そちらの方に意識が向けられるどさくさに紛れて三番目に起動してしまったという理由で普通科の高校から転校してきたという体でイッセーは二学年としてIS学園へと編入することになったのだが、案の定一番だろうが二番だろうが三番だろうが男子が入るというだけでも話題性が抜群だったせいか、一瞬で注目されてしまう羽目に。
(ま、マジで女の子しかいねぇ……)
『しっかりしろ、この程度で滅入ってどうする?』
(そうは言ってもだぞドライグ。
ある意味あのクソ野郎共に不意討ち仕掛けようとしたら、乱交パーティやってましたな現場を見ちまった時よりも精神的に来るものがあるぞこりゃあ……)
『流石にあの時よりはマシだろ……』
(そうなんだけど……。
うげ、思い出したら気持ち悪くなってきた)
どこを見渡しても女子しかおらず、しかもその同年代の女子達全員からガン見されるなんて未経験だったイッセーは、思っていた以上の気まずさにまともな自己紹介も行えず、唯一クラスで知り合いである刀奈に助け船を出される形となる。
「ねぇ兵藤君、質問というか取材したいんだけど良いかしら?」
「は? しゅ、取材?」
「うん、私の名前は黛薫子。新聞部の副部長をやらせて貰ってるわけなんだけど、同学年に現れた男性起動者の取材を是非したいのよね。
一年生に二人男子が居るけど、そっちの二人はニュースなんかにも大々的に報じられてたのに、アナタはそんな事もなかったでしょ?」
「そりゃあ三番煎じだし、単にビジュアル的な問題もあって飽きられたからじゃないのかと思うけど……」
「いやいや、世界的に見てもまだまだアナタのような存在は貴重だし? そもそも見てた限り妙にたっちゃんと仲が良いじゃない? そこら辺の事も気になるから是非ね?」
「たっちゃん?」
マスコミ気質のクラスメートに押し込み取材をされたり。
その取材の際、刀奈の関係性をそのまま言ったらキャーキャーと何故か騒がれたりと色々ありつつもなんやかんや上手いことクラスに溶け込めたイッセーなのだった。
「おかえりなさーい。晩御飯にする? 私にする? それともやっぱりわ・た・し・?」
「……………………」
「………………………。な、何か言ってよ?」
「あー……うん、恥ずかしいなら普通に出迎えれば良いと思うし、あんま無理すんなよ?」
「うん……」
ちなみに、お約束というか完全にそう仕向けられたのだが、寮の部屋は案の定刀奈と同室にさせられていた。
一応政府の方から一番目と二番目の男性起動者の動向には目を配っておけ的な指示は出ているものの、正味私個人としてはどちらにも興味がないのでそこら辺の事は彼等と同学年の本音ちゃんや簪ちゃんに丸投げしていたりする。
「一般教養を刀奈の父ちゃんと母ちゃんに叩き込まれておいて良かったと心底思ったぜ……」
「流石にIS関連はこっちで私が引き続き教えないといけないけれどね」
「おう、頼むわ。
てか早く飯食おうぜ飯!」
「はいはい、ホント子供なんだから……」
もっとも、あの二人もその男子二人に対しては興味なさそうだし、簪ちゃんに至ってはクラスも違うから接触のしようが無いわけで。
『………』
『…………』
「…………。おぉう、流石にまだすっげー見られるというか、アウェイの空気満載だな」
「その内慣れる慣れる~」
「だと良いがな……」
まあ、その事は一旦置いておいて、私が今やらなければならないのはあれこれ手段を講じて私と同じ学校に通わせられたイッセー君のことよ。
本人は女子しか居ない学校に通わされることに不安を感じていようだけど、元々イッセー君って決してコミュ障ではないので慣れてさえくれたら案外順応できたりするという私の予想通り、早い段階でクラスに溶け込めていたわ。
ただ、他のクラスの誰かが言ってるのを偶々聞いちゃったのだけど、イッセー君はどうやら一年生の男子二人と比べたらフツメンって扱いにされているらしいわね。
『彼って三番目の人でしょ?』
『一年生の織斑君と神崎君を見てきたせいか、なんか普通に見えちゃうわね……』
私にはよくわからないというか、私から見たらその男子二人の方がフツメンにしか見えないので、これは最早好みの差としか思えないわ。
「なんだこの人だかりは?」
「多分例の一年生の男子君達が食堂で食べてるからでしょうね」
「ああ、そういう……」
「仕方ないわね、生徒会室で食べましょう」
中身も普通だった以上、なにも思うことはない。
私はただ、イッセー君とこうして普通の学生生活を楽しめたらそれで良いし邪魔なんてさせない。
その為に黛ちゃんを使って私とイッセー君がどんなご関係なのかを広めまくって貰っているしね? ……イッセー君はそれに気づいてないけど。
「なぁなぁ、やっぱり俺も刀奈の事をたっちゃんって呼ぶべきか?」
「えー? 良いけどイッセー君には真名で呼んでほしいかも」
「あ、そう。
でもここでは楯無名義なんだろ? 本名呼びしたら疑問に思われないか?」
「思われたら普通に答えれば良いだけよ。
どっちにしろ、イッセー君以外に呼ばせる気ないし」
一年生男子二人のせいで入れそうもない食堂から引き返し、私が会長をやっている生徒会室でご飯を食べる為に移動しながら、とても他愛のない話をする。
端から見たら本当に普通の事だけど、私は何年も前からの目標だったわ。
戸籍も存在しなければ、学歴すら皆無なイッセーくんと学生同士の他愛のないやり取りがね。
「ちらっと前に聞いてたけど、本当に生徒会長やってんだなぁ」
「いちおーISに関してのみこの学園で最強クラスなものですから?」
「そのISも……えーと専用機だっけ? それも自分で組み上げたんだろ? ホント器用だよな刀奈って」
「ふふーん、もっと褒めてくれても良いわよ~?」
とても楽しいわ。
学生服を着て、一緒にご飯を食べながら学校についてお話をする。
こういうこと自体はイッセー君が私の実家に住んでいても出来なくはないけど、一番はやっぱりイッセー君と同じ学校に居るというリアリティーが余計楽しくさせてくれる。
私が用意したご飯も美味しそうに食べてくれるし……。
小さな幸せってこういう事なのかしらねえ……。
「この前からクラスメートの人達から生暖かい目をされるんだけど、ありゃ何でだ?」
「さぁ? ふふふ……♪」
勿論その幸せに甘んじるつもりは私にはない。
私には更に大きな目標――いや、野望がある。
「んめーんめー」
『ちゃんと噛めよ……』
「わーってるわーってる……んめーんめー」
渋い声で呆れたように注意する、食べているイッセー君の左腕にある赤い籠手のようなもの。
その籠手に宿る本物の龍が私に言った言葉。
『イッセーは人でありながら人でなしに到達してしまった。
恐らく並の人間より遥かに永い寿命となり、老化する時間も並の人間よりも遅い。
つまりイッセーに釣り合いたくば、その領域まで到達しなければ話にもならん』
イッセー君が復讐の為に力を求め、その結果普通に老いて死ぬのが難しくなってしまっているという事実。
私はある時からその領域へ到達することを目的にしている。
理由はひとつ。
「ふへー、くったくったー。
ごっそさんー」
『だから行儀が悪いというに』
「まあまあドライグ君。
こうも良い食べっぷりを見せて貰えた身としては嬉しいわ」
イッセー君を決して独りにはしない為。
イッセー君は今までドライグ君以外の全てに否定されて生きてきた。
でも私は違う。
恐らく多くの普通の者達はイッセー君の生き方に否定的なイメージしか持たないと思う。
だから絶対にもうイッセー君を独りにはしない。
それこそ人としての禁忌を犯してでも必ず到達してみせる。
「ん、まだ30分は時間が余ってるわね」
「虚先輩と簪と本音呼んでトランプでもすっか? 俺持ってるぞ?」
「うーん、それも良いけど……今はこうしてみたい気分?」
「へ?」
強いけど、不安定で放っておけないイッセー君と同じ時間を生きたいから……。
それが例え悪と断ぜられても……。
「はいどうぞ?」
「どうぞって……」
「私のお膝で眠りなさいって意味よ? ほら」
「え、いや……」
「ここで断られた方がダメージが大きいし、これでも結構テンパってるのよ私だって……」
自分の生き方を自分で決め続けたイッセー君のように……。
「えと……どう?」
「どう……って、言われても。
刀奈の匂いがするとしか……」
「あ、あらそう……」
「でもアレだ。俺は好きだけどな、お前の匂い……てっ!?」
「あ!? ご、ごめんなさい! いきなりのど真ん中ストレート発言につい……」
「い、いや大丈夫。
俺も今言った言葉が変態じみてることに気づいて軽く後悔してるし……」
私も一緒に歩いてみたい。
「俺がもし親も殺されずに生きていたら、普通に生きていたのかな……」
「それだと私達とは出会えなかったじゃない」
「そりゃあそうだろうよ。
未だになんで俺とドライグはこの世界に来ちゃったのかもわからないけど、こうやって生きてきたからこその出会いって奴なんだろうぜ……」
「………」
「そんな顔すんなよ。
俺はどうであれ良かったとは思ってるよ。
頭のおかしいガキの戯言を信じてくれたばかりか、面倒まで見て貰ってさ。
だから、何があってもこの借りだけは必ず返すさ……」
「借りだなんて思わなくて良いのに……」
「俺なりのケジメって奴さ。なぁドライグ?」
『ああ……。
だが気を付けろよイッセー? 俺もそこまでとは思ってはおらんが、あの例の一年だかの学年に居る男二人のどちかかが……という可能性もありえなくはない』
「…………。ああ」
普段はヘラヘラとした顔だけど、覚悟をしている時の――気高さを感じる黒い炎を瞳に宿すその顔に私は惹かれてしまったのだから。
「すぴー……」
「あ、寝ちゃった―――ぁ」
『……。お前も学ばん奴だな。
こいつの寝相の悪さはわかっていただろうに』
「わ、わかっててやってるんだから良いんですよーだ。
それに、イッセー君はずっとドライグ君以外の誰かに甘えることもできなかったのでしょう?」
『……俺がもし実体化できれば少しは違っていたのだろうがな』
「そればかりは仕方ないじゃない。
それなら私がしてあげれば良いしね? た、ただちょっと激しいかなぁとは思うけ――ひゃ!?」
「んー……」
「ぁ、ちょ……ま、待ってイッセー君! そ、そんな所に顔を埋められたら恥ずかしい――ひゃんっ!?」
『…………俺は引っ込ませて貰うぞ』
「うー……! 嬉しいけど恥ずかしいわ……」
終わり
原作主人公と+αがドタバタしている裏では、頗る影の薄くなった三番目男子が意外な程真面目に学生をする。
そんな中、遂に対面してしまう三人の男子。
「ほ、本当に居たんですね……三番目の起動者」
「…………」
「まあ、学年も違うしあんまりかかわり合うことも多くはないだろうけどよろしくな?」
驚く織斑一夏と、別の意味で驚くもう一人の男子。
「アナタは一体誰なんですか……?」
「その言い方、まるで『俺なんて存在しない筈』と分かってるような聞き方だな?」
「そ、それは……」
ある日、その二番目の起動者とサシで話すことになったイッセーは、この瞬間目の前の男子が『そう』だと確信する。
「俺はな、キミのような存在によって自分が生きた世界を追い出された負け犬だ。
死にかけてた所を今世話になっている子達に助けて貰った訳」
「……! じゃ、じゃあオレの事を殺すつもりなんですか? オレは……その、アナタが誰なのかを知ってます。
正確にはアナタが居たであろう世界のことも……」
「へぇ? あのゲス野郎も似たような事をほざいていたっけか。
で、どうする? 神とやらから貰った超パワーで俺を殺すか?」
「お、オレはそんなことなんてしない! オレだってわからないんだ! いきなり神にお前は死んだけど、ミスして死なせたから別世界に転生させてやるなんて言われて!! オレは好きで転生したわけでも、力を得た訳でもないんだ!!」
「………………」
『このガキ……どうやらあのカスとは少し経緯が違うらしいぞ』
「そう」だと確信した少年が、自分を地獄に突き落とした存在とは精神構造やら経緯が違うと知り。
「こ、こんなの……あ、あの兵藤一誠がこんな……」
「なんだ? 俺ってそんな有名人なのか?」
「ま、まあその、アニメ化もされたラノベの主人公ですから……」
「えぇ……? なんか微妙にショックな事実だなドライグ?」
『だからやたらあのカスは俺達も知り得ない事を知っていたのか……』
「で、でもこの記憶の通りの人生だったとしたら最早アナタは兵藤一誠という主人公じゃなくて、別人に……」
「そりゃあ奴がそう仕向けたんだからそうなんだろうけど、なんだろ、その話聞いてたらそれで良かった気もしないでもないかな…」
自分が創作物のキャラクターと言われて軽くショックを受けつつも、何故あの転生者自分を殺そうとしていたのかについて合点したり。
「てことはつまり、この世界で生きている時点で俺は奴と同じ立場ということに……?」
『………………』
「オレもですけどね……」
「う、お……ま、マジかよ……。
え、どうする? 今すぐ死んだ方が良いのか?」
「な、なるべく一夏の邪魔にならないように生きたら大丈夫ではないかなとは……」
微妙にこの世界の転生者と話し合う関係になったり。
「よ、よぉ刀奈! 突然で悪いけど織斑君って良い男じゃね!?」
「はぁ? 本当に突然ね……。
まあ普通じゃない?」
「いやいや良く見ろ! なんかこう、惚れる気分に―――ぶべ!?」
「……………そこの彼と何を話したのかは聞かないわ。
けど、今の発言は私の意思を無視しているように聞こえて不愉快よ」
「う……」
彼から聞いた情報のせいで一人で突っ走り始めて空回りしてしまったり。
「ぐ……ぐぐ! こ、こんな辛いことってあるかよ!!?」
『なら言わなければ良いだろうが……』
「あのー……イッセー先輩は更識先輩のことをどう思っているんですか?」
「どうだと!? そんなもん! ――――す、好きだよ……」
「……………」
『…………』
「だ、だってしょうがないだろ!? 本来の刀奈の事なんて知らなかったし、あの子は俺に近い場所まで自力で到達しかけてるし……! わ、笑うと可愛いし……」
『報復心の塊だったお前がそこまで言うとはな……』
「あの……先輩の言っていた相手の意思を無視した洗脳ではないですし、そこまで過敏にならなくても良いと個人的には思いますけど。
そもそも一夏も更識先輩以前に他の女子に囲まれててそれどころではないですし……」
「だ、だけどそんな事をしたらそれこそあのゲス野郎と同じに……」
知ってしまったからこその苦悩をしたり。
「い、イッセー君……その……」
「っ!? え、あ……ど、どこから聞いてたの?」
「好きだってところとか、笑うと可愛いと言ってたところから……」
「ほぼ全部じゃねーか! ちょ、えっと……」
「あ、あのね? わたしも子供っぽく笑うイッセーくんが好きよ?」
「うぐっ!? も、もじもじするなよ……ちくしょう、的確に可愛いんだよ……!」
「…………やっぱりオレの知ってる兵藤一誠とは違うかも。
というか、最早どうにもならない空気というか」
『ああ、それには同意だな』
「だ、ダメだ……俺にはできない」
「あんな仕草されたら無理なのはオレでもわかりますよ……。
というか、オレが記憶する更識楯無ともちょっと違いますし、やっぱり先輩との出会いで変わってますね」
「くっ、というか君の方こそ居ないのかよ……? す、好きになってしまった子……」
「………」
『その顔、図星か小僧?』
「オレは相手にもされてなければ、きっと視界にすら入ってませんから……」
「く、クソ、キミみたいなまともな転生者なんて他に居ない気しかしないぞ……」
同じ穴の狢同士としての苦悩を知り、互いに悩んだり。
「でもオレ、先輩の事を知って決めました。
オレはまだ弱いけど、せめてこの世界を――一夏達が生きるこの世界を先輩を苦しめたような奴らから守りたいです」
「…………報われなくてもか?」
「それがオレが転生した理由だと思っていますから……」
別世界の物語の主人公の末路を知った転生者が覚悟をしたり。
「………なんで、俺の世界に来たのがキミのような奴じゃなかったんだろうな」
「多分、ソイツがあまりにも例外過ぎだと思いますけど」
こうして密かなる裏物語は続くのだ。
「なぁ、最近付き合い悪いぞ?」
「あ、ごめん。
今日もイッセー先輩に勉強教えて貰うから、一夏は皆とISを頑張ってよ。じゃ、じゃあ……!」
「…………………………………」
親友を取られた気しかしない主人公からのまさかの嫉妬をイッセーがされているという……悲しき悪循環のまま。
「最近、織斑君に敵意を向けられるんだけど……」
「え、なんでですか?」
「それは俺の方が聞きたい――」
「調査によると、最近神崎君が自分ではなくイッセー君とばかりなにかをしている事に対して嫉妬していると本音ちゃんが言ってたわ」
「なっ!? ば、馬鹿な、一夏がそんなこと……」
「人生って儘ならないな……」
ハイスピード空回りラブコメ………始まらない。
補足
はい抱き枕モード入りましたー。
こんなんしとるからだよね
その2
超絶まともだった転生者。
だがそれゆえに自分が同じ穴の狢と自覚させられて苦悩することに。
結果テンパって空回りしまくるという……。
その3
話を聞いたところでたっちゃんは変わりません。
というか、転生者に聞かれた質問に答えたイッセーの言葉のせいで余計そうなりました。
前提としてリアスちゃんとは出会えなかったので、そのままスライドする形でイッセーにとっては初めて仲良くなった女の子がたっちゃんですからねぇ……。