……。参った。
冗談では無く本気で参った。
あの日、一誠とオーフィスが何も言わずにふざけた書き置きを残して世界から消えた訳だが、無論そんな書き置きで納得できる訳が無かった俺、曹操――そしてソーナ・シトリーは共通の目的である一誠を目指し、只力任せに次元をこじ開け、世界を飛び越えようとした。
「っ!? グ、グレートレッドの通り道に当たってしまうとは運の悪い……」
「その右目は幼少期の一誠に潰されたままか……」
「アナタには用は無いわグレートレッド……と言いたいところだけど、アナタはどうやらタダでは通してくれない様ね?」
次元を渡る際、一誠とオーフィス――いや、一誠に対して並々ならぬ執着を持つ真なる赤龍神帝と出くわして危うい事にもなったりもした。
「一誠に右目を壊されたのが憎いのかグレートレッド? だが、聞けばアンタから喧嘩を吹っ掛けたみたいだし、寧ろ右目で済んでるアンタは流石としか言い様が無いよ」
曹操のバカが無自覚に煽ったせいで、グレートレッドと戦う羽目にもなったりした。
「ば、バカ野郎! どうしてお前はそうやって的確に相手の怒りを助長させるんだ!」
「い、いや……そんなつもりは無かったんだけど」
「アナタには無くてもグレートレッドは激怒しましたよ。まったく、これから更に次元の壁を突き破るというのに、余計な体力を使わせないでちょうだい」
一誠とオーフィスに負け越し続けても尚最強の一角を担うグレートレッドとの死闘は、思えば世界を飛び越える前の最後の死闘だったかもしれない。
だがその死闘のせいで俺達はバラバラに次元を飛び越える事になってしまった。
無論心配したりもしたし、探しに行こうとも思った。
次元を飛び越え、全く異なる世界に辿り着いた俺の肌に感じる『追い掛ける男』の気配をヒリヒリと感じて歓喜したりもしたが、一誠と同じく戦友ともいうべき二人の友人の無事もまた俺には重要だったから。
だけど――
「IS学園だと?」
「うむ、上層部からの通達でな。
何でも世界で最初の男性搭乗者の調査をしろとの事だ」
俺は何故か……こんなチビの子供と一緒に居る。
理由? それは俺が冗談で口にした契約が本当に実行されたのと、この娘が口にした願いのせいで、離れたいのに離れられんからだ。
独りにしないでくれという願いのせいでな。
お陰でこの娘と一定距離以上は離れられないし、離れても強制的に戻されてしまう。
だから俺は今人間の住まう世界……ドイツに居るのだが、一誠とオーフィスが住まう日本に行くこともできず、このチビ娘とチビ娘が率いる部隊に食わせて貰っている――という訳である。
「IS学園は日本にある。
ということは私がIS学園に出向すれば、嫁も日本に行けるという訳だ。
そうなれば嫁の会いたがる人物とも会えるかもしれない」
「……。ふむ、だがお前がその学校とやらに行くとしても俺は何処でどうすれば良いんだ?
お前とはあの冗談じみた契約のせいで、あまり離れることができないんだぞ」
「それについては何の心配も私はしない。
だってヴァーリは凄いからな!」
「…………」
よくは知らんが俺は随分とこの小娘……ラウラ・ボーデヴィッヒに信頼されている。
理由は色々あるとは思うが、多分この小娘と部隊が重宝してる人間作の兵器IS相手に、ちょっと興味が沸いてテンションのまま適当に捻ったから――だと思う。
アルビオンの力諸々が通用するか的な意味合いでやってみたのだが……コイツとコイツの部隊の連中から気付けば歓迎されていたというか……。
「それに嫁に寂しい思いはさせないぞ!」
「嫁って……俺の立ち位置の訳の分からなさはどうにかならないのか? お前の部下共からも『アナタのお陰で隊長が良い意味で変わったと』謂われもない感謝もされるし……」
この小娘には嫁呼ばわりされるし……変な世界だよホント。
まあ、一誠というド級の変人に慣れてしまってるせいでこの程度は軽く聞き流せてしまう辺り、俺も随分と毒されてしまった感は否めんが。
『……。兵藤一誠が今のお前を見たら、死ぬほど小バカにした顔をしそうだな』
(多分な。だが、これもまた為になる事なのかもしれないし、頭ごなしに否定はしないよアルビオン)
『ほう?』
(それに、この娘は親が居ないからな……)
『なるほど……』
相棒、
何時もは付けている眼帯はしておらず、眼帯に隠れている金色の瞳は、初めて会った時の頃と比べて輝きが増している。
アザゼルに拾われる前の、父親に黙って殴られていた頃の俺と同じ目をしていた時と比べたら、今の生きる意味を持っているラウラは強くなれる素養を十分に伸ばしている。
(強くなったら思う存分戦える……だろ?)
『この小娘が強くなろうとも、お前に刃を向けそうも無いと思うがな』
(それならそれで良いよアルビオン。
その時は更に強くして一誠とオーフィスのコンビに挑んでやるしな)
今も昔も俺の目的は一誠を越える事だ。
理不尽な成長速度、無限の進化、夢と現実を行き交いできる力。
それは最早宿敵である赤龍帝なんてどうでもよくなる程の壁であり、最高にワクワクする好敵手。
リゼヴィムとの決着の間際に覚醒した魔王化でも、人の身でありながら何もかもを超越し、人の身でありながら無限の龍神と常に共にある一誠には届いていない。
それほどまでにアイツは強く、俺達の世界では希望でもあり絶望の象徴だった。
そんな男を越える……これほどワクワクする事無いだろう? しかも、オーフィスとのコンビ状態をも越える目標も出来た……フフ、楽しいよ本当に。
「む、どうしたんだヴァーリ? 急に黙ったりして……」
「ふ、何でもない。
さぁ、明日も早くから訓練があるんだろう? 今日はもう寝るんだ」
「? うむ」
人間は決して侮れない……ふふ、悪魔も天使も堕天使も妖怪も神も地獄の使者も居ないこの世界の人間は、果たして何処まで行けるのかな?
「ちなみに日本には何時向かうんだ?」
「三日後だ。既に転入する手筈は整っている」
「なるほど……滞在する場所を探さないといけないな」
………。それにしてもソーナ・シトリーはともかくとして、曹操はどこにいるのだろうか? 俺と同じくわざと一誠を驚かせようと
まあ、あのアイツは空気は読めないが強いし、心配しても意味なんて無いか……。
というか――
「おい、寝ろといったのに何故全裸になる? というより何故自分の部屋に戻らないんだ」
「決まっている、夫婦は一緒に寝るものだと聞いているからだ。
そしてヴァーリは私の嫁なので、一緒に寝るのだ!」
「………………。いや、嫁も何もそんな関係じゃないだろ。
そもそも前提からして間違ってるぞお前」
「なに!? クラリッサはそう言ってたぞ! 夫婦は裸で抱き合いながらスヤスヤ眠るとな」
「………。あの女、また間違った事を吹き込んでくれたな」
「という訳で失礼する」
「……………………………。はぁ~」
…………。一誠がケタケタ笑う様が何となく目に浮かぶのは気のせいじゃないよな。
実年齢的な意味で。
原作と違う。
無人機にしても何故あれほどの戦闘力があったのか、俺には分からないし、切り札も破壊されてしまった状態で気絶をしてしまった為、あの化け物機体がどうなったか、医務室で集中治療状態の俺には分からない。
「本当にどうなったか覚えてないんだな?」
「え、えぇ……」
「私もお前が気絶した後の記憶が……」
「アタシも一夏のすぐ後にやられちゃったからね」
「………」
無人機襲撃から時は流れた今でも、俺の怪我は治らず、うんざりする程の事情聴取を俺、セシリア、箒、鈴は受けた。
無人機の行方、気絶する前の状況から何からしつこい程受けたのだが、セシリアと箒はどういう訳か俺が気絶した後の記憶が無かった。
いや、それだけじゃない……あの無数の無人機襲来に駆り出された教師のほぼ全てが、落とされて意識を失った後の記憶が曖昧で、誰も気が付いたら居なくなっていた無人機の行方は分からなかった。
それなら監視映像は……となったが、あの襲撃の際――多分束が色々と手回しをしたせいか、襲撃の時間からの映像が残されてなかったんだ。
「兵藤と、か――いや、更識さんは?」
「? あの二人がどうかされました?」
「奴等なら普通に避難してたんじゃないのか? 私は知らんが」
「そもそもよく知らないわよアタシは」
「…………」
知らないか……。
そう、これが一番怪しい。
無人機の事もあるが、あの絞りカスは何かあると思っていたのに避難をしただけ。
奴の背後にいる夫婦も気になるが――くそ、イライラする。
「それより転校生がウチのクラスに来ると聞いたぞ」
「あら、私も聞きましたわ」
「二人とか言ってたけど、今日じゃなかったっけ?」
「!?」
しまった! 箒とセシリアと鈴の会話から聞くまで頭から抜けていた。
そうだった……そろそろ来ると思ってたが、あの二人が転校してくるのは今日だったのか。
「? どうしたんだ一夏、まさか転校生が気になるのか?」
「ほぼ間違いなく女性ですが……ほぅ? 気になるのでしょうか?」
「良い度胸ね一夏?」
「い、いや違うから!」
くっ、揃ってにらむなよ。
そりゃ確かに気になってるし、そもそも片方は――クソ!
転校生が二人、私が受け持つクラスにやって来る。
片方はフランスで、もう片方はドイツの――私が教官を勤めた部隊に居た少女だ。
「お久しぶりです織斑教官」
「今の私は教官では無い、織斑先生と呼べボーデヴィッヒよ」
「はっ!」
少々精神的に危うい所があると思っていたが、再会したラウラは……何というか雰囲気が変わっていた。
こう、精神の危うさが無くなり、ハッキリわかる程に強くなっている。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。
趣味は鍛練と我が嫁との触れ合いだ」
『……………』
それに何か変だ。
生徒達の前で胸を張りながら自己紹介する際、よく分からない単語が出てきたし……。
刺々しい雰囲気は皆無で――嫁ってなんだ?
「あ、あのー……嫁ってどういう意味ですか?」
「む? 嫁は嫁だ。
私が惚れた男の事だ」
「は!?」
「ぬ、どうかしたんですか教……じゃなくて織斑先生?」
「い、いや何でもない……」
私と抱いた疑問に代行したかの様に質問した生徒に、何処か誇らしげに答えるラウラの言葉に私は思わず声が出てしまった。
いや……どこまでも人間味を削がれて心配していたラウラが嫁……というか男が出来たなんて。
い、一体何があったんだ……?
「写真を常に持ち歩いてるのだが、見るか?」
「!?」
しかも写真を持ち歩くだと? 何時からそんなアレになったんだラウラよ。
私なんて出会いも何も無いのに……。
「い、良いんですか? どれどれ――わっ!? す、凄い格好いい!」
「うそ!? 私にも見せてよ!」
『私も私も!』
ラウラの出した写真に群がる生徒達が口々に写真に写る男とやらを持て囃している。
思わず黙らせようとしたが、取り敢えず私も然り気無く覗いてみる。
…………。暗めの銀髪、碧眼、顔立ちは整っていて、女子の受けは確かに良さそうだ。
しかし一体何処で知り合ったのだろうか……写真にしてもラウラの部隊の連中と一緒に写ってるし……軍の関係者なのか?
「静まれ、今はHR中だ」
いや、今は考えても仕方ない。
今の私は教師でなのだ……騒がしい生徒達を静かにさせ、もう一人の転校生にも挨拶をさせないとならん。
「次、デュノア、自己紹介しろ」
「はい……!」
生徒達を黙らせ、ラウラに写真を返した後に然り気無く写真を覗いていた二人目の転校生にも自己紹介をさせる。
長めの金髪と紫色の瞳……フランスの代表候補生でもあるデュノアは緊張した様子も無く教室を見渡すと、フワリと笑みを浮かべて口を開く。
「シャルロット・デュノアです。
趣味料理、生き甲斐は大好きなお兄ちゃんです!」
フランス代表候補生の少女は、ラウラみたいに何故か兄とやの話を切り出しながらそう挨拶をするのだったが……。
「といっても血の繋がりは無かったりしますけどね……あはは」
「まさかの義兄妹パターン!? えっと、しゃ、写真とかは?」
「ありますよ? 見ますか?」
…………。ほら来た、ラウラが見せた写真を然り気無く覗いてから『よし! 負けてない』と独りでブツブツ言ってた時からおかしいと思ってたが……。
「お、おおっ!? 日本人に馴染みのあるイケメンさん……!」
やっぱりこうなったか……。
またしてもデュノアが出した写真に群がりだした。
……。黒髪に切れ長の目。どう見てもフランス人じゃないんだが……何か込み合った事情でもあるのだろうか。
「む……私の嫁の方が良い男だぞ」
「む……それはそうかもしれないけどお兄ちゃんだって負けてないさ」
挙げ句の果てにはラウラとデュノアで火花を散らしてるし……。
はぁ……一夏の方が良いに決まってるだろう。まったく。
「か、身体が痛いよぉ……」
「馴れれば痛くなくなるよ本音。
それにしても、虚さんと本音までお兄ちゃんとお姉ちゃんに鍛えて貰うなんて思いもしなかったよ」
「あ、あはははー……かんちゃんから逃げたくないから……」
「鍛える時の兄ちゃんってホント差別しねーかんなー。
鬼だぜ鬼」
お母さんが大好きだった。
お母さんがすべてだった。
お母さんと一緒なら他に望みなんて無かった。
でもそんな小さな願いすら簡単に壊される。
お母さんが居なくなってしまった時から私の人生は変わろうとした。
でも私は負けなかった――決して独りじゃないから。
だからかな……多分僕はあの人を兄と慕う以上に、依存にも近い感情を向けてる。
あの人は『一誠に大笑いされるからなー……』とのらりくらりだけどね。
でも構わないよ。
私は……いや、僕はお兄ちゃんしか見えないから。
服をちょっと借りたりもするし、我慢できずに一人で……って姿を見られた時も、恥ずかしかったけど僕は気にしないよ。だって好きなんだもん。
「この学園の上空からちゃんと見てくれているの……わかってるよお兄ちゃん」
僕のヒーローはお兄ちゃんだから。
「……………。やぁヴァーリ」
「……………。元気そうだな曹操」
「………。一誠とオーフィスには?」
「まだだ。
ちょっとやらなきゃならないことがあってな。お前は?」
「同じく俺もだよ。
ちょっと世話になった娘に返しをするのが先で会ってはない。
………。最近勝手に俺の服を持ち出したりしたりして、ちょっと身の危険は感じるが、基本将来性のある小娘だ」
「ほう?」
補足
次元を無理矢理こじ開けたせいでグレートレッドさんとバトル開始。
そのせいでバラバラになりました。
結果、ヴァーリきゅんは黒ウサたん
ソーナたんは束姉ちゃん
そして曹操きゅんは……私のやるシリーズじゃ相当不遇な彼女にそれぞれ出会いましたとさ。
ちなまに、彼女のレベルはほぼMAXに達してます。
何がとは言いませんが、少なくとも曹操さんの脱ぎたての衣服をサッと頂いて、サッと羽織って、サッとサッサッと! します。
+一誠との関わり故か、人に対して地味に優しくなっちゃたせいで彼女からMAXに依存されてます。
再会した場合の彼からの一言予想
「…………。あーうん、オーフィスはまだ俺より長く生きてるからセーフだとしても、お前等は一回り下じゃん? 特にヴァーリは……………このロリコンが! ギャハハハハ!」