色々なIF集   作:超人類DX

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二つのお話。


共通するのは――最早逃げられない


二つの外史のその後

 

 

 

 どこの誰とも知らぬ存在に個を奪い取られ、肉親から捨てられたことで己の弱さに対する途方もなき絶望と怒りを抱いた少年は、死に物狂いで力を求め続けた。

 誰よりも強くなり、何者も寄せ付けぬ絶対の領域に到達すれば誰かに奪われる事も無くなる筈だからと。

 

 それが道を外れた少年の心の拠り所であり、希望でもあった。

 

 故に誰よりも鍛えた。

 人間である自分の面倒を見る悪魔達の誰よりも力を求めてきた。

 

 それだけが唯一残る己の欲だったから。

 

 そこには本来の彼の性格とは対極だったのかもしれない。

 いっそ不健康にすら思える程の力への渇望が彼の原動力。

 

 そこに甘さも妥協も一切無い。

 

 そこには誰であろうと踏み込む事を許さない。

 

 

 最強を超越した先へと到達するために。

 

 

 そんな青年が外史などという場所へと飛ばされた事で、永遠に凍てついて止まり続けていた青年の『運命』が動き始めた。

 ふざけた理由で無理矢理飛ばされた青年が出会った、青年の性格上、間違いなく正反対に存在する甘い女性。

 

 劉備という、過去の英雄と同じ名前を持つその女性の理想は青年には不必要で嫌悪すら催す程に甘く、そして人間という種族が存在する限りは永遠に叶わぬ夢物語な理想。

 

 自分の生きた時代と比べたら、人一人の命がまだ圧倒的に軽いこの時代で抱くにはあまりにも甘ったれたその理想を抱く女性に当初は嫌悪すら抱いていた。

 けれど他に宛も無く、なし崩し的に行動を共にしなければ元の時代にすら帰れない。

 だから利用するつもりで行動を共にした。

 

 当然その過程で何度と無く女性の抱く夢の否定をしたし、その理想とは正反対の現実を見せつけてやりもした。

 

 

『女、この際だから言っておく。

ご立派な夢を語り散らすのは結構だ。

だがお前はただそれをそこかしこでくっちゃべっているだけで、テメー一人じゃ何も出来やしねぇ。

そんな雑魚の戯言に誰が耳を貸す? 誰が共感する? 所詮お前は耳障りの言い台詞を撒き散らしているだけの雑魚でしかないんだよ―――反吐が出るぜ』

 

 

 力があるから殺し合いは起こり続けていく現実を。

 

 力がなければ全てを失うという現実を。

 

 

『誰しもが安心して笑って暮らせる世界にしたい……だったか? くくく、なら聞くが、今俺がオメーの目の前でぶち殺したこの死体共は笑ってるように見えるのか? そんな連中を残らず消せば確かにオメーの望む世界とやらにはなるだろうが、一体これからどれだけの――オメーの夢とは相容れない人間共をぶち殺せば良いんだろうなぁ?』

 

 

 全てを一度は失ったからこそ、女性の抱く理想の世界は永劫あり得ぬと考える青年が叩きつける矛盾という名の現実に一度は心が折れかけたこともあった。

 

 けれどその女性はそれでも自身の夢を諦めようとはしなかった。

 誰もが笑って暮らせる世界にしたいと宣うその夢には青年すらも含まれているとすら言って、自分なりに出きることをやろうとしてみせた。

 

 非力で、か弱い――されど頑固な女。

 

『馬鹿な女が……。チッ、こんな女に貸しを作るなんて俺もヤキが回ったもんだよ』

 

 とことん馬鹿な女だとも思った。

 しかしそんな馬鹿な女に借りをいくつも作ってきた青年は、決してその理想に共感は出来なかったが、彼女個人に対する借りを返す為に、少しずつ互いに歩み寄っていく。

 

 

 

『体調が悪いから負けたなんて言い訳はしないし聞かない。

お前のような甘い女でも少しは分かるだろう? 殺し合いの掟ってやつを。

何があろうと、どんな手を使おうとも、最後の最後そこに立っていた奴が―――――強ェんだよ……!』

 

 

 

 そして彼女の理想に賛同するように集まっていく仲間達。

 その仲間達の中には一般人ながらも自分と同じく未来から迷い込んだ青年が居た。

 その青年の肩書きと劉備という女性の持つ独特のカリスマ性により、夢物語を現実に近づけさせるだけの説得力を持たせられるようになってきた中、執事の青年は他人とまともに会話することもできない性格もあってか独特な立ち位置となっていく。

 

 そんな彼を不気味に思う者は少なくはなかったが、劉備だけは彼の側となって仲を取り持とうとしてくれた事で、その内青年は劉備とだけはまともに話をするようになり、彼女の身の回りだけは守るようになった。

 それが青年にできる借りのお返しだったので。

 

 そして、劉備という甘い女性にだけは少しだけ心を開くようになった青年はある日の事故を境に、彼女に対して『死んでもチャラにはできない借り』を作ってしまった。

 

 

 責任という大きな借りを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言ってしまえば、異世界の女を孕ませたというある意味な快挙を達成してしまった悪魔の執事こと日之影一誠の発覚して以降の働きっぷりは、周囲が心配するほどにハードなものであった。

 

 設備の清掃に始まり、食事の用意、執務の手伝い、更には勢力同士の小競り合いでは最前線に立って敵を残らず殲滅する。

 そのどれもを顔色ひとつ変える事無く淡々とやり通す様は、周囲の士気を上げつつも心配にもなるのだ。

 

 

 

「一誠くんなら大丈夫だよ。

ちゃんと休む時は休んでいるし」

 

「それなら良いんだけど。

日之影って見かける度に常に何かしてるもんだから、他の皆もちょっと心配してて……」

 

「確かに言わないと碌に寝ないで鍛練やお仕事をし続けるもんね。

でもさっきも言ったけど大丈夫。ちゃんと休ませてあげているから……」

 

 

 一夜の過ちにより一撃でご懐妊した劉備こと桃香は、現状唯一一誠とまともにコミュニケーションが可能な存在故に、一刀達に一誠なら心配は要らないと話す。

 

 

「桃香も無理をしているように見えるけど、身体は大丈夫なのか?」

 

「うん。

ちゃんと出来る範囲のお仕事をしていくつもりだよ」

 

「本当に無理はするなよ? もし無理をさせてしまったらきっと俺達は日之影に殺される……」

 

「あはは! 流石に一誠くんもご主人様達にそこまで――――やっちゃうかも……。

そ、そうならない様に気を付けるか心配ご無用だよ、あははー」

 

『…………』

 

 

 普段は石像のように無口で無表情の一誠が、一旦プッツンした時の暴れっぷりは最早災害の領域であることを知っている一刀は、とにかく桃香の身心配する。

 

 

「下手したら敵味方関係なく皆殺しなんて事になるかもしれないと思うとな……」

 

『………』

 

「そ、そこまではしないよ……きっと」

 

 

 牙を向けられたら一瞬でこの国は終わる――それ程までに日之影一誠の戦力は個の範疇を越えた領域なのだから。

 

 

「まあ、そこは気を付けるとして、その日之影とはあれからどうなんだ?」

 

「ふふ、ご主人様達と同じかな?」

 

「……………。正直日之影殿を見ていると、とてもそうには思えませぬ」

 

「そんなことないよー。

基本的に厳しいけど、優しくしてくれるし」

 

「前に恋と翠と紫苑を壁に叩きつけながら引きずり回してたし、とても優しいとは思えないのだ……」

 

「だ、妥協はしない主義なだけだよ一誠くんは……」

 

 

 そんな一誠をコントロールできるかどうかは桃香にかかっているといっても過言ではない。

 正直、桃香に子供ができた時は首を括って自殺しようとしたのでどうなることかと思っていたが、彼なりに覚悟と責任を持っているようだ。

 

 

「あ、そろそろ一誠くんがお家に帰る頃合いだし、私も帰るね?」

 

「おう、お疲れ様」

 

「ご自宅まで護衛致しますか?」

 

「大丈夫だよ愛紗ちゃん。

一誠くんが迎えに来るだろうし……」

 

「なるほど……それなら確かに安全ですね」

 

「危険だけど最強の護衛なのだ」

 

 

 逆を言えば、ほんの少しでも桃香の身になにかが起こった時の方が怖いのだから。

 

 

「日之影が敵だったらと思うとゾッとしないよな……」

 

 

 桃香の言っていた通り、執務の部屋を出れば燕尾服を着た青年こと日之影一誠が無言で待っていたので、そのまま一緒に最近新しく建設した蜀の城を出て帰宅する。

 

 

「ご主人様や皆が一誠君の事を心配してたよ? 働きすぎじゃないかって」

 

「逆にここの連中が働かなすぎなだけだろ」

 

「こ、心にゆとりがあるからだよ……多分」

 

 

 一誠の両断するような一言に桃香は苦笑いを浮かべる。

 確かに言われてみればサボり気味な人達は居るが、そうでない者と比較しても一誠は働き過ぎに見えてしまうのだ。

 

 

「別にそれで組織の体制が維持できるのならそれで良いと思うし、俺は単になにかしてないと落ち着かないだけだ」

 

「根なし草で放浪していた時は本当に寝ないでいたもんね……」

 

「あれは単にお前に対する借りを返すつもりだったからな……」

 

 

 

 そう当時を回想しながら苦い顔を浮かべる一誠。

 今も完全ではないにせよ、当時は更に笑えないくらいまでに弱くなって必死だったのもあったし、なにより反吐が出る程甘ったれた考えを持つ桃香からはどうであれ借りを作っていたので、それを返すのに躍起になっていたのもある。

 

 

「私はもう慣れちゃったけど、一誠くんってやっぱりやることが極端だよ」

 

「自分が人としてのタガがイカれてる異常者である自覚はしてる。

だけど、そうならなければ今までもこれからも生きていくことはできない。

周りの奴らにとって異常だと思っていることが俺にとっての正常なんだよ―――――多分な」

 

「そっか……。

うん、それが一誠くんだもんね」

 

 

 結局の所、返しきる処か永遠に返せない借りを作ってしまって今に至るのだが、今はもうあの時とは違って寝る時間もちゃんとあるわけで。

 極端な性格ではあるが、同時に潔癖なまでに律儀な男でもある――それが日之影一誠という兵藤一誠であることを奪われ、そして兵藤一誠であることを捨て去った道を進んだ男。

 

 

「きっとこれから生まれてくるこの子も一誠くんのように強い子になれるよね?」

 

「……………さぁな、逆にお前みたいに甘ったれた考えのガキになる可能性もある」

 

「ふふ、そうかも」

 

 

 もう二度と奪われない為に、もがき続ける龍の帝王ですらなくなった男の生き方。

 決して楽ではなく、終わりの見えぬ道を走り続けるしかないのだ。

 

 

「………」

 

「おい」

 

「あ、ごめんね? ちょっとだけ甘えてみたくて……だめ?」

 

「…………チッ、勝手にしろよ」

 

「ふふ、ありがとう。

じゃあお家に帰ったら今度は私が一誠くんを甘えさせてあげるかるね?」

 

「要らねーよ! ガキじゃあるまいし」

 

「え~? でも昨日の晩はちゅーって……」

 

「知るか! 俺は知らん!!」

 

 

 

 どんなものに阻まれようとも……。

 

 

 

「へ、この世界の人間にしてはやけに俺達側に近いものを感じたのはそういう事だったのか……。

あの変態野郎、ふざけた真似をしやがって」

 

「知ってるのか日之影!? そ、曹操達がまるで日之影のように強い理由を……!?」

 

「…………。大体は。

多分、俺がここに飛ばされたせいだ……。

くく、ある意味でリアルなシミュレーター……って所か」

 

 

 

 何があっても。

 

 

 

「俺の異常の一部を更に兵隊共に分け与えてこれか。

本元の俺だったら考えられないやり方だが、こう思うと俺を叩きのめせるサーゼクスはつくづく化け物だな……」

 

「刃を交えている最中も奴等がどんどん強くなっていったのはそういう事なのか?」

 

「上手くは説明できないが、簡単にいえばそうなる」

 

 

 どんな苦境の道であろうとも。

 

 

「あのクソ変態に無理矢理俺の異常の一部を埋め込まれたという点においてだけは憐れに思ってやって良いとは思ったが、やはりやめた。

不愉快だぜお前等……?」

 

 

 比類なき無限を越えた先へと到達するまで止まらない。

 

 

「俺には思い付かない使い方をしたのだけは褒めてやる。

だが所詮それは他人の精神を埋め込まれただけの皮でしかないし、決して異常は万能でもない。…………返してもらうぞ」

 

 

 そして――

 

 

「あ、今お腹を蹴った」

 

「そうか……」

 

「ふふ、絶対に元気な子だね……?」

 

「……」

 

「むー、背中向けてないでこっち向いてよ一誠くん?」

 

「む、向いてどうするんだよ? 第一なんで一々ひっついて寝なきゃならないんだ……」

 

「だって夫婦ってそういうものでしょう?」

 

「ふ、夫婦だと!? …………い、いや、そうなるのかもう」

 

「この子の名前もそろそろ考えないとね?」

 

「あ、あぁ……そうだな。

しかし、マジで俺が父親になるのかよ……」

 

「今だから言えるけど、酔っぱらった一誠くんに何度も出されちゃってたからね……あははは」

 

「死んだ方が世のためになる程のクソ野郎だな俺は……」

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 別の外史。

 

 

 

 食い物ひとつで大喧嘩をし、その激しすぎる喧嘩の余波に引き寄せられる形で現れた赤い龍神を三人でボッコボコにした結果、奇想天外な世界にぶち落とされた三人寄れば文殊の知恵ならぬ、三人寄れば文殊の大災害な三人の少年。

 

 食い物ひとつで喧嘩をし、真なる赤龍神帝を八つ当たり気味にボコボコにぶん殴りまくった結果、本来の数パーセントにまで力を制限された状態で未知なる世界に迷い込んだその三馬鹿達は、偶々出くわした女性に拾われる形でその女性がリーダーを勤める勢力で元の時代へと戻る方法を探しつつアルバイトをすることになった。

 

 その直後にその女性達が自分達の時代では歴史の偉人として名を残す三国志に登場する武将やら軍師やらと同じ名前を持つ者だったことを知って驚いたりしつつも中々帰る手立てを見つけられない状態が続いていく。

 その内にお世話になっている人達と仲良くなってしまい、帰るまでの間の関係だと割りきろうとしていた三馬鹿の其々が微妙に困り始めたり、既に帰すどころか完全に身内に引きずり込んでやるつもりの女性達だったりと……。

 

 情を持たないと一応は誓い合っていた三馬鹿達はますます困ることになっていく――そんな話である。

 

 

 

 最早朝の日課と化している三馬鹿の最年長であり、曹操(外史であるこの世界の曹操に非ず)の子孫である神牙のどこぞのラッキースケベの神レベルのそれを、お世話になっている孫呉の現リーダーである孫策こと雪蓮にかましたり、なにからなにまで天然過ぎて、そこにツボったお姉さん方にあれこれ可愛がられている白龍皇のヴァーリが、最早最初の誓いなんて無駄なのではと思う他無くなりつつある中、女性に対しては実にちゃらんぽらんな一誠は、当初はそのちゃらんぽらんな性格を嫌っていた者達と普通に――いや、普通以上に距離が近くなってしまっていた。

 

 

「ヴァーリと神牙は今日も楽しそうだな」

 

「「「………」」」

 

「お、おう、楽しそうだなと思ってただけだからね? そんな顔しないでくれよ……」

 

 

 一誠的にはストライクであるお姉さん方と今日も其々楽しそうなことをしている神牙とヴァーリを見てぼそりと呟けば、孫家の次女である孫権こと蓮華やら甘寧こと思春やら孫尚香こと小蓮から無言の圧力が向けられる。

 

 その無言の圧力も三人其々違っており、例えば思春は圧力という言葉がそのまま当てはまるような非難めいな圧力なのだけど、小蓮は頬を膨らませると言った単純なる嫉妬なのだけど、蓮華の場合はこの手の話になると罪悪感しかなくなる泣きそうな顔になるのだ。

 

 

「本当にただのお茶目な軽い冗談だってば……」

 

「言って良い冗談と悪い冗談の区別もわからんからお前はアホなんだ。

またしても蓮華様を泣かせる気か? あ?」

 

「大丈夫よ思春。

私って雪蓮姉さん達に比べたら子供っぽいのは事実だし……」

 

「イッセーの浮気者……」

 

「ぐっ……わ、悪かったよ」

 

 

 そもそも小蓮はともかく蓮華の場合はむしろ初めは嫌われていた。

 どう見てもいい加減という言葉が服を着てそこら辺を適当に闊歩してるような性格をしている一誠とは正反対であるので当然な話でもあった。

 

 それが気づけば、刺々しい話し方がなくなって柔らかい女性口調に変わり、焦った一誠が嫌われようとセクハラ言動をかましたら寧ろ好きにしても良いとまで言い出して……。

 

 いい加減な言動やら行動……。そして女性にだらしない態度に見えて実のところ根っこには過去に悪魔なる女性達に裏切られたトラウマを抱えている故に本当の意味では心を許す相手は神牙とヴァーリだけであると知ったのと、ちゃらんぽらんだけど自分達の燻っていた才を引き上げてくれた妙な親身さに触れた事でこうなったのだとは一誠は気づいていない。

 

 

「何をしようとしても裏目に出ないなんてよ……。

セクハラして嫌われてやろうにも失敗しちゃったし……。

てかセクハラ越えちゃった真似してんのか俺は……」

 

「お前は口だけで実際には手も出せん根性無しなのは知っている」

 

「シャオは何時でも良いからね? 寧ろイッセーとの赤ちゃん欲しいもん!」

 

「あ、あの……私も良いのよ?」

 

「………………。ヴァーリと神牙も今俺と同じこと思ってんだろうな」

 

 

 なんでこうなるんだ……。

 虎さんが本気出した後の対応が後手に回りすぎた結果なことに三馬鹿が気づいた頃には後の祭りなのである。

 

 

「まさか本当にこうなってしまうとは……」

 

 

 とにかくこのままでは帰りづらくて仕方ないと考える一誠は、先日の独立戦争に勝利したことで呉という国が成立した現状よりも、世話になりっぱなしで特に関わりの大きい蓮華達にどうやって嫌われてしまおうかとこの期に及んで企みながら、一人先の戦における働きによって得た特別報酬の証となる家屋の縁側で真剣に考えていた。

 

 

「別世界に来てからのモテ期だと喜ぶべきなのか微妙だぞ、」

 

 

 なにをしても好感度が上がるバグのギャルゲーでもやってる気分にしかなれないせいか微妙に疑ってしまう。

 一夜の過ちと言えば簡単に聞こえるし、間違えて飲んでしまった酒のせいで記憶がすっ飛んでしまったとはいえやらかしている度合いに違いはないのだし、一応一度はそんな確『覚悟』も決めたつもりでもある。

 

 しかし時間が経つにつれて自信が亡くなっていくし不安も出てくる。

 

 しょうもない過去を経てそこら辺のチンピラみたいな生き方をしてきた自分に果たしてそんな甲斐性があるのかとか。

 世話になりっぱなしな彼女達には当然恩義もあるのだけど、果たして本当にこれが正解なのかがわからない。

 

 

「ヴァーリと神牙は馬鹿だけどそこら辺は上手いことやれそうではあるけどよ……」

 

 

 時間が経つにつれて悶々とした気分が膨れていく一誠は今一歩振り切れられないでいた。

 

 

「あの日の夜は『一度そうなったら死んでも離さないし、逃げても地獄の果てまで追い回してやる』と大口を叩いておきながら、まだ悩んでいるなんて根性無め……。ヴァーリと神牙が言っていた通り、一誠は根の部分で『ヘタレ』というやつです」

「でも過去に色々とあったみたいだし……」

 

「一誠の力だけを利用するために色仕掛けしたって女のことでしょう? むー……別にシャオはイッセーが蟻より弱くても良いのに……」

 

 

 そんな一誠の姿を離れた箇所から伺う蓮華、思春、小蓮の三人は、ウジウジとし始めている一誠に対して其々の思う事を口にする。

 

 

「酒の力を借りずに、あの根性無しにわからせるしかありませぬ」

 

「わからせる?」

 

「ええ……」

 

 

 そして最近は寧ろその手の話を提案する思春によってとある作戦が厳かに結構されるとかされないとか。

 

「遅いぞ」

 

「ぶっ!? な、ななな、なにしてんの三人して!?」

 

「え、えーっと……今日から皆で一緒に眠りましょう法案が私達の中で可決されたのよ」

 

「ほーら、イッセーも服を脱ごー!」

 

 

 具体的には一誠が使用している寝室に全裸出迎えをして、入ってきた瞬間を補食する勢いで捕獲したり。

 

 

 

「ぐっ! 俺は用事を思い出し――もぷっ!?」

 

「逃がすか。お前は口だけのヘタレ男だからな。

待っていてもあの日以降、何もしてこないので此方から仕掛けることにした訳だ。 精々感謝して喜べ」

 

「ぷは!? た、確かに天国じみた光景だけども!? ちょ、ちょっと待て! 冷静に考えろ! 確かに俺は酒でキミ達にやらしたクソ野郎でそのままぶち殺されても文句なんて何一つ言えんけど、よく見ろ! 俺だぞ!? 人妻大好きのチンピラ野郎だぞ!?」

 

「うん、皆知っているし、勿論それは承知の上よ」

 

 

「もー、何度も言わせないでよねイッセー? そんなの関係ないよ」

 

「ぬわー!!? 大中小ー!?」

 

 

 進化の壁を乗り越えた時点で三人がかりでなら押さえ込められるようになったことで逃げられなくなり……。

 

 

「……」

 

「お、おいどうした一誠?」

 

「最近お前は祭等を前にしても悟りを開いた顔でなにもしなくなっているが……」

 

「…………。多分、人生で最初で最後のモテ期に入った」

 

「モテ期? ………ああ」

 

「ここの人達の変わり種さは突き抜けているからな……」

 

 

 ズルズルズルズルと……。

 

 

 

「おい、そんな所で何をサボっている一誠。

蓮華様の執務も終えたし、そろそろ戻るぞ」

 

「お、おう…今行くよ。

……て訳だからオメー等も気を付けろよ?」

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

「…………気を付けろよと言われたもののだな」

 

「……………。そうだな、多分色々と俺達も手遅れだ」

 

 

 

 吹っ切れさせるまで何度も補食行為を続けるという本気を出され続け……。

 

 

 

「蓮華達から話しは聞いているわよ? 最近ますます仲良くなれてるみたいで……」

 

「な、仲良くというかなんというか……。

ま、まあ確かに最近は年上のお姉さん見てても何も思わなくはなりましたが――てかならないと泣かれるか怒られるか傷つかれるからなりようないし……」

 

「そう。

ならちょうど良いわね。一誠に頼みたいことがあるのよ」

 

「?」

 

「私はもう神牙とはそういうつもりなのだけど……」

 

「…………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんから呼び出されたようだけど、何を言われたの?」

 

「あ、いや……えーっと」

 

「なんだ、ハッキリと言え」

 

「何か困った事でも言われたの?」

「そうじゃなくて……いいなづけってどんな漬け物なんだ? それになれって言われたんだけど」

 

「「「……………」」」

 

 

 周辺からも埋められるように逃げ道を塞がれ。

 

 

「……………だっ!? こ、婚約するって意味だと!?」

 

「お前、本当に意味を知らなかったのか? とことんバカだな」

 

「それで、誰と許嫁になれって姉さんは言ってたの?」

 

「シャオだよね!? そうだよね!?」

 

「や……誰ととは言ってなかったかな」

 

 

 慌ただしくも、面白おかしい日常は過ぎていく。

 

 

「思春さん、頼むからキミはそのままでいてくれ……」

 

「何だ今度は?」

 

「だ、だって小蓮は最初からあんな感じだったけど、蓮華ちゃまってむしろ俺を嫌ってたろ? 最早最近はそれが無いし……」

 

「良いことじゃないか。

お前のようないい加減で女にだらしなくて、ヘタレでバカには勿体ないお方だ」

 

「それは俺も重々承知しとるわい……」

 

 

 

 

「確かに一誠は以前のように他所の女に鼻の下を伸ばすことはなくなりました。

ですが、アイツはそれでも元の時代に戻ることが必要な事だと思っていて吹っ切れてはおりません」

 

「そればかりは仕方ないわよ」

 

「そうだよ、それに帰るつもりならシャオ達も付いていけが良いし」

 

「それは私も思っております。

正直、蓮華様がアイツに対して素直に接している事がそうとうに効いているようですしね」

 

「え、そ、そうなの?」

「むー蓮華姉様だけずるいなー」

 

 

 

 

 そして……。

 

 

「え、同盟? ああ、例の北郷くんって天の御使いやってる彼の所と?」

 

「大きくなりすぎた曹操に対抗するには、なによりこの場所を守るにはそうするしかないって。

それに向こうも一誠とヴァーリと神牙が居る我々孫呉との同盟は願ったり叶ったりみたいだったし」

 

「てことは……つまりちゃんと元の世界に帰れる方法と聞ける可能性が高い――」

 

「「「…………」」」

 

「い、いやほら、一応聞いておいた方が良いだろ? な? だ、だからそんな目で俺を見るな―――だーっ!? ぬ、脱ぐな! 脱がせるなぁ!?!?」

 

 

 少しの隙も与えずに逃がさぬとばかりに食べられまくり……。

 

 

「陽人の戦い以来だな……って、ど、どうしたんだ? 三人して窶れてるが…」

 

「……………まあ、あれから色々あってね」

 

「…………ここの女達は強いと思い知ったのさ」

 

「…………キミもわかってるんじゃないのか?」

 

 

 再び再会する帰る為の手がかりとなる青年にその窶れ方を心配され……。

 

 

「見事にご懐妊確定だな」

 

「小さな生命反応が三人の中から感じる」

 

「……お、俺は悪くないぞ。

あ、あんなんされたら逃げようがないだろが」

 

 

 ウジウジさせる暇すら与えぬ所まで追い詰めることに成功するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、嫁? だ、誰が……」

 

「だから三人です、この三人。子供います。

なのでアナタ達の眷属には戻りませんし、戻りたいとも思いません」

 

「「「」」」

 

「おとーさん、あのオバサン達の顔が怖い……」

 

「おとーさんの事いじめてるの?」

 

「お、おばさん……」

 

「ぷっ……い、いやこの子等からしたら俺達はおっさんオバハンでしょうから……くくく」

 

「そういう事だから何時までも人様の旦那の周りをうろちょろするな。迷惑だしウチの子達が怖がる」

 

「そーそー、勝手に捨てておきながら今更すがった所で遅いよ」

 

「それでもやめる気がないのなら、我等が相手になる……」

 

 

 

 

 

 

終わり

 




補足

執事も三馬鹿一誠も、共通しているのは失うことを極端に恐れているので、敵への攻撃性が強いということ。

あと、ゴールさせた場合は一気にその人への愛情が重くなるということ。


つまり、執事で虎さん√でこうなったら執事を挟んで虎さん達VS悪魔っ娘の戦争に……。



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